オープンイノベーション
オープンイノベーション(英: open innovation)とは、自社だけでなく他社や大学、地方自治体、社会起業家など異業種、異分野が持つ技術やアイデア、サービス、ノウハウ、データ、知識などを組み合わせ、革新的なビジネスモデル、研究成果、製品開発、サービス開発、組織改革、行政改革、地域活性化、ソーシャルイノベーション等につなげるイノベーションの方法論である。
目次
定義[編集]
オープンイノベーションはハーバード大学経営大学院の教授だったヘンリー・チェスブロウによって提唱された概念で、組織内部のイノベーションを促進するため、企業の内部と外部との技術やアイデアの流動性を高め、組織内で創出されたイノベーションをさらに組織外に展開するイノベーションモデルをいう[1]。
ヘンリー・チェスブロウはオープンイノベーションに対する概念として、1980年代から90年代にかけての自社の中だけで研究者を囲い込み研究開発を行う自前主義、垂直統合型のイノベーションモデルをクローズドイノベーションと名付けた[1]。このような研究開発は、競争環境の激化、イノベーションの不確実性、研究開発費の高騰、株主から求められる短期的成果等から困難になってきた背景がある。そのため、大学や他社の技術のライセンスを受けたり、外部から広くアイデアを募集するなど、社外との連携を積極活用するオープンイノベーションをとる企業が増えている。 一般的には秘密保持契約(NDA)を結んだ共同開発や情報交換から行うことが多い[2]。
クローズドイノベーションを、自社の研究開発だけでなく、既存の社外連携(既存の産学連携やサプライヤーとの協業など)も含めたものとして捉え、そこで不足する技術やアイデアをもつ新しい相手に協業先を拡げる活動をオープンイノベーションと定義することもある[3]。
オープンイノベーションで、定義されているイノベーションは社内システムから人事制度、CSRまで多岐にわたり技術分野には限定されない。
欧米におけるオープンイノベーション[編集]
1980年代から90年代にかけて米国の大手企業では世界最先端の研究開発拠点で数多くの画期的な研究開発が行いながらも閉鎖的な構造のために市場化 ・ 製品化されないままになってしまっていた企業がある一方、自社内に研究拠点を持たないにもかかわらず外部資源の積極的な活用によって新技術の開発や市場化を成し遂げる企業も出現するようになった[1]。ヘンリー・チェスブロウは従来のイノベーションモデルでの産学間の障壁やギャップに問題意識をもち、2003年に『Open Innovation』を発表してオープンイノベーションの概念を提唱した[1]。
ヨーロッパでは2013年のダブリン宣言で欧州委員会が新たな施策であるオープンイノベーション2.0を欧州全体で推進し世界に発信していくことが決議された[1]。以後、毎年「Open Innovation 2.0 Conference」と呼ばれる会合が開かれている[1]。
日本におけるオープンイノベーション[編集]
事例 [編集]
- 企業事例1
- 企業事例2
- 日本では、大阪ガス、東レ、日産自動車、味の素、デンソーなど多くの企業がオープンイノベーションへの取り組みを増やしている[3]。日産自動車では社外との連携だけではなく、日常的に事業部同士の連携や合同会議、さらには社内と社外でフューチャーセッションを行うことで革新的な製品開発につなげている[6][7]。
- 企業事例3
- 東レでは個別の技術情報を交換するオープンイノベーションサイト、NANOTECH SNeeedSを設けている[8]。
- 企業事例4
- その他の企業事例
- 国内、海外とのスタートアップとの連携、アクセラレータープログラム、コーポレートベンチャーキャピタル。
- 産学連携事例1
- そのほか、東京大学が創薬オープンイノベーションセンターを開設したり[13]、電気通信大学関係者が設けたオープンイノベーション推進ポータル、キャンパスクリエイト[14]など大学も同様のサイトを立ち上げるなどの活動を行っている。
- 産学連携事例2
- 新エネルギー・産業技術総合開発機構も類似の活動を行っており[15]、企業同士の連携開発のサポートと開発金の助成を行っている。
- その他事例1
- デザイン分野のオープンイノベーションとしては、京都大学デザインスクールがデザインイノベーションコンソーシアムを立ち上げているほか、アートイベント デザインフェスタでの企業と個人の連携など事例もある[16]。学生CGコンテストに取り組む、画像情報教育振興協会などでは、デザインと情報処理融合のコンピュータグラフィックスの促進に取り組んでいる。
- その他事例2
- 自治体などの支援により、農業や医療、漁業などへの拡がりを見せている。
- その他事例3
産学連携における事例[編集]
産学連携の分野では科学技術振興機構が積極的に産学連携に取り組んでいる[20]。その例として、科学技術振興機構では、大学、公的研究機関および科学技術振興機構の各種事業により生まれた、研究成果の実用化を促進するため、「新技術説明会」を開催を開催している[21]。これには革新性の高い産学連携に助成金を出すといった制度もある。また、科学技術振興機構ではイノベーション・ジャパンとよばれる展示会を毎年夏に開催している[22]。
自治体、行政、国立研究機関における事例[編集]
国立研究機関としては、物質・材料研究機構、[23]、産業技術総合研究所[24]、理化学研究所[25]、国立情報学研究所[26]の他、警察庁や気象庁管轄の研究機関まで多岐にわたり始めている。[27] 自治体としては、オープンデータの取り組みが積極的になされ、日本では東日本大震災がオープンデータの機運が高まる契機になった。 自治体では鯖江市が2012年1月に初めてオープンデータを提供した。現在では、政令指定都市や都道府県、中央官庁でもオープンデータが進行している。 また、イノベーションの支援策としては大阪市が、イノベーションの担当職員を設け[28]大阪イノベーションハブという場を設け、イノベーション推進に取り組んでいるほか、横浜市がオープンイノベーション・プロジェクトに取り組むなどの事例がある。[29] また、経済産業省はオープンイノベーションアリーナ構想を、日本再興戦略の一環として推進し、オープンイノベーションの国際化を推進している。[30]
IT企業、IT技術における事例[編集]
IT企業にはIT勉強会やハッカソンとよばれる、他社同士で勉強会を開く文化があるほか、現在では一般的となっているオープンソースや、地方自治体や官庁などに眠っているデータをビジネスに活用していく、オープンデータといった取り組みもあり、オープン化についてはIT分野が先行していた。
従来、このようなハッカソンはIT企業を中心としたものであったが、メイカーズムーブメントの流れを受け、アナログ回路、デジタル回路、PCB設計、組み込みソフトウェア、3Dプリンタなどの技術領域を用いたハードウェア分野のハッカソンが行われるようになってくるとともに[31]、製造業の大企業が行うハッカソンも増えてきている。[32]また、音楽やアート、化学、金融、食品といった分野でも行われるようになってきている。 [33][34][35][36]
オープンイノベーション拠点[編集]
オープンイノベーションを目的として、場を提供するものが増えている。 それぞれ、趣旨は異なるがフューチャーセンター、コワーキングスペース、イノベーションハブ、インキュベーション施設、ファブスペースなどがある[37][38][39]。
海外企業、大学、コンソーシアムとの協業[編集]
企業の国際化の観点から、海外企業、大学[40]とのオープンイノベーションも注目されている。 IT分野ではシリコンバレーが有名ではあるが、1970年代から起業を支援しているイスラエル[41]や、新興国の市場開拓の点から経済成長と起業が著しい中国の深セン市、インドのバンガロール[42][43]やASEAN[44]との協業例もある。 また、スマートエネルギー、農業であればオランダ[45][46]、食品であればフランス[47]、オランダ・フードバレーまた半導体分野ではIMECを置くベルギー[48]等、国や組織により得意分野があり、それを意識した連携が不可欠である。 なお、日本台湾間ではオープンデータやオープンイノベーションのプロジェクトが多数立ち上がっている。[49][50]
プラットホームとしてのSNS[編集]
オープンイノベーションでのプラットホームとしてのSNSが利用されている[51]。米国での事例としてネットワーキングの手段として、facebookやlinkedin、Twitterが活用され始めている。[52]。 日本においても、クラウドワークスやeight、wantedly、Wemake、slideshareなど[53][54][55][56]ビジネス向けのSNSは存在するが、SNSのビジネス活用は情報流出の懸念から日本の大企業ではあまり進んでいない[57]。
コミュニティ活動[編集]
産学連携学会[58]などの学会や、研究・イノベーション学会などの学会型や、オープンイノベーション促進協議会など企業を中心とした企業間コンソーシアム型、IoT推進コンソーシアムなどの個別の技術のテーマに絞ったオープンイノベーションのコンソーシアム活動がある。 One Japan、あしたのコミュニティーラボ[59][60]などの、オープンイノベーションを目的とした個人を中心としたコミュニティ活動も増えている。
雇用、働き方改革[編集]
オープンイノベーションの観点から、他社の文化を導入し組織にイノベーションをもたらす観点から副業を解禁する企業がある[61]。また、あえて即戦力とはなりにくい異業種の人材を中途採用する[62]、異業種の他社に人材交流として武者修行に出す[63]、外へ出てぶらぶらと製品開発を考えるぶらぶら社員制度[64]などの取り組みもある。あえて、他薦で変人を採用するなどの取り組みもある[65]。また、エプソンの花岡元社長によれば、イノベーションには変な人、尖った人、でしゃばる人が必要なのだという[66]。このような、人材は異端児、未踏人材、とも呼ばれる[67][68]。夏野剛によれば、一人のオタクが100人のエリートサラリーマンに勝つ時代であり、twitterのフォロワ数で評価するなど、今までとは違う価値基準が必要であり、中途採用が極めて重要であるという[69][70][71]。これは、同質性の高い人材が多い組織は実行力が高い一方、イノベーションを生みやすい組織は多様性がある。というハーバードビジネスレビューの調査結果に基づいている[72]。このようなダイバーシティとイノベーションを意識した人材登用としては、米国ではロケットサイエンティストが金融世界に入り金融工学を作り上げた[73]、リーマンショック後の金融業界からシリコンバレーのIT企業に人が移りフィンテックを生み出したなどの例がある[74]。日本においても、ミクシィのゲーム開発はカプコンのからの転職者などの例がある[75]。イノベーションのためには、デザイン思考などの非生産的な活動が必要であり、生産性のジレンマの「生産性の高い工場ほど、新たな製品のアイデアは出にくく、反対に、生産性の低い工場は新たな製品のアイデアが出やすい」というトレードオフが存在する[76]。
オープンイノベーションへの取り組みと課題[編集]
オープンイノベーションは企業間のコンソーシアムや、産学連携、企業の共同開発を通じて、社会的なインパクトを生むことを指す。したがって、一つのイベントやハッカソン、交流会を開催することとは異なる。さまざまな企業や団体がこうしたイベントでアイデアを交換し、事業化することが期待されているものの、企業の自前主義に阻まれているのが現状である。オープンイノベーション協議会のオープンイノベーション白書によれば、2016年7月において、10年前と比べて、OIの取り組みが活発化している企業の方が、外部との連携割合が高いが、それでも自社単独での開発は6割弱であり、未だ自前主義の傾向が強い可能性がうかがえる。[77]
脚注[編集]
- ^ a b c d e f “オープンイノベーション白書第2版”. オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会. 2018年11月11日閲覧。
- ^ オープンイノベーションとはいうけれど、大手と組んで秘密は守れる? (1/3)
- ^ a b 「オープンイノベーションの教科書」(2015年2月、ダイヤモンド、星野達也) - Amazon.co.jp
- ^ [1]
- ^ [2]
- ^ オープンイノベーションを活用した東レの研究・開発活動の強化 (特集 イノベーションと産学官連携 : 多様な取り組み) 産学連携学 : 産学連携学会誌
- ^ クルマづくりで培った技術をライセンス提供。日産の新たな挑戦
- ^ NANOTECH SNeeedS
- ^ ナインシグマ・ジャパンの諏訪社長に聞く
- ^ 第1回 オープン・イノベーションの考え方と適用範囲(1/4)
- ^ NTTドコモ、宮城・東松島市の牡蠣・海苔養殖漁場でICTブイの実証実験を開始
- ^ 静岡県の農業版オープンイノベーション
- ^ 東京大学 創薬オープンイノベーションセンター
- ^ 株式会社キャンパスクリエイト
- ^ イノベーションへの協力:NEDOコンソーシアムのサーベイからの知見
- ^ デザインフェスタ
- ^ 【報告書】「日本型オープンイノベーションの研究」 - 21世紀政策研究所
- ^ IoTを活用、リブランディング... 生き残る「伝統工芸」の条件
- ^ ソーシャル・イノベーションのインパクト創出を実現するには?
- ^ 科学技術振興機構(JST)関係事業 - 文部科学省
- ^ 新技術説明会
- ^ イノベーション・ジャパン
- ^ NIMSについて
- ^ 産総研:オープンイノベーションラボラトリ - AIST: 産業技術総合研究所
- ^ 事業開発室 | 理化学研究所
- ^ NIIが提案する産官学連携活動
- ^ 研究開発税制のオープンイノベーション型活用に関するQ&
- ^ ここにしかない“場”を提供へ、イノベーションの創造拠点を目指す
- ^ [横浜市]オープンイノベーションの基盤づくりを推進
- ^ イノベーションを推進するための 取組について(案)
- ^ 『3Dプリンタ』でロフトワーク×ケイズデザインラボのメイカソンが紹介
- ^ ハッカソンの作り方 ビー・エヌ・エヌ新社 P22-29, P145-158
- ^ 音楽とテクノロジーのこれからを考える世界の音楽ハッカソン「Music Hack Day Tokyo」、日本に上陸
- ^ 【Music Hack Day Tokyo 2015】音楽とテクノロジーが混じり合った2日間
- ^ 日本初のアートに特化したハッカソン「3331α Art Hack Day」
- ^ 第1回量子化学ハッカソン開催報告(8月24日~25日)
- ^ コワーキングスペースはオープンイノベーションに不可欠か?
- ^ 大阪イノベーションハブの機能について - 横浜市
- ^ 新しい未来をつくる、新しい対話の場「フューチャーセンター」って知ってる? [マイプロSHOWCASE]
- ^ オープンイノベーションに係る 企業の意思決定プロセスと課題認識 について
- ^ 新事業の原石は「イスラエル」にあり 日本の基幹事業の革新
- ^ オープンイノベーションとコラボレーション東海大学
- ^ 日本企業のオープンイノベーションに関する新潮流RIETI
- ^ 国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム)「国際共同研究拠点」平成27年度新規課題の決定について
- ^ 報告書1 アムステルダム・スマートシティ・プロジェクト - 川崎市
- ^ 狭い国土なのに世界第2位の農業大国オランダ 日本が学べることはある?
- ^ 第6章 フランスにおける研究開発型フードクラスター - 農林水産省
- ^ ベルギーのIMECは,なぜ強い
- ^ オープンデータで日台協力へ 双方の関連組織が覚書締結/台湾
- ^ 日台オープン・イノベーションの夜明け~BBA視察団報告(前)
- ^ 図解&事例で学ぶイノベーションの教科書 SNSで顧客とつながるP180
- ^ Managing Open Innovation Technologies Jenny S. Z. Eriksson Lundström, Mikael Wiberg, Stefan Hrastinski-2014 P-27
- ^ Sansanがオープンイノベーションで挑む!名刺情報の自動入力への取り組みとは?
- ^ クラウドワークス初の海外アドバイザー:MIT メディアラボ所長の伊藤穰一氏と「クラウドソーシングの名付け親」 ジェフ・ハウ氏が就任
- ^ [ http://thebridge.jp/2013/12/wantedly-office-tour 「Wantedly」の新オフィスを訪ねて - THE BRIDGE]
- ^ 共創ものづくりプラットフォーム「Wemake」が富士ゼロックスとオープンイノベーションプロジェクトを始動
- ^ SNS禁止の企業が減少、だが対策は普及せず――Symantec調査
- ^ 産学連携学会 支部・研究会の紹介 オープンイノベーション研究会
- ^ <トヨタやNTTなど大企業の30代 “ゆるくつながる”新団体設立の意味とは
- ^ あしたのコミュニティーラボ
- ^ 常識破りの肌ラボ、異例ヒット生んだ「自由すぎる」ロート製薬の変人経営…社内序列排除
- ^ 転職コンサルタントの本音「「ミドルの異業種への転職」について」
- ^ 経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.037 アサヒビール株式会社(丸山高見氏)
- ^ 「イノベーション経営」への視点(1)
- ^ 【51】カヤックの4大変人社員(1/3ページ):nikkei BPnet 〈日経BPネット〉
- ^ 花岡社長は、今のエプソンには、「でしゃばる人間」とともに、「変人」が必要だという。
- ^ ダイバーシティでイノベーションを起こす:日経ビジネスオンライン
- ^ 【未踏会議】DeNA南場智子氏・LINE森川亮氏・夏野剛氏が語る「未踏人材をどう活かす?」
- ^ 夏野剛(上)「オタクが100人のエリートに勝つ」
- ^ 異端児マネージメントが会社を救う
- ^ 変化の激しい時代を生き抜くためのリーダーシップ論
- ^ 『システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」』p.26
- ^ ロケット科学者の転身先に注目
- ^ FinTechの歴史的経緯と成功要因 - Deloitte
- ^ ミクシィ朝倉社長が日経BPに抗議! インタビュー記事は「明らかな約束違反」「了解なく写真撮影」
- ^ 効率経営で新規事業は生み出せるか~ロッキード民間機撤退から学ぶ日本のものづくりの課題
- ^ オープンイノベーション白書初版(概要版)
参考書籍[編集]
- オープンイノベーション 組織を越えたネットワークが成長を加速する ISBN 4862760465
- OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて (Harvard business school press) ISBN 4382055431
- オープンイノベーションの教科書(ダイヤモンド社)ISBN 4478039224
- 一橋ビジネスレビュー 60巻2号(2012 AUT.―日本発の本格的経営誌 オープン・イノベーションの衝撃 ISBN 4492820558