オーストロアジア語族

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オーストロアジア語族
アウストロアジア語族
話される地域東南アジア南アジア
言語系統世界の基本となる語族の一つ。
下位言語
ISO 639-5aav
Glottologaust1305  (Austroasiatic)
Lenguas austro-asiáticas.png
オーストロアジア語族の分布
  Pakanic

オーストロアジア語族(オーストロアジアごぞく、Austroasiatic languages)あるいはアウストロアジア語族は、東南アジアからインド東部・バングラデシュに散在する言語語族である。南アジア語族と訳されることもあるが、地域名の南アジアとは異なる。このうちベトナム語クメール語およびモン語は古くから記録があり現在でも多くの話者がいるが、その他は少数民族の言語である。ベトナム語(ベトナム)、クメール語(カンボジア)、サンタリ語インドジャールカンド州)は公用語として用いられている。

伝統的に東南アジアのモン・クメール語派とインドのムンダ語派に分類され、168 の言語(モン・クメール語派 147 とムンダ語派 21)が記録されている。しかしこの語派分類は確証のあるものではなく、モン・クメール語派はまとまりをもたないとする説もある。

上位分類[編集]

オーストロアジア語族全体に共通の特徴は少ない(共通基礎語彙に基づいてまとめられている)が、古くは接頭辞接中辞文法派生機能を果たしたらしい。この点で類似しているオーストロネシア語族とともに、オーストリック大語族 (Austric superfamily) にまとめる説もある。

アイヌ語(族)がオーストロアジア語族に、深層で接続するのではないかという仮説がある[1][2][3]Jäger (2015) は、古い時代の言葉を再構築する語源学的方法によらず、ジョーゼフ・グリーンバーグの提案した計算言語学的方法、すなわち大量の語彙同士を比較する統計的かつ自動的な方法論により、当該仮説に肯定的な結果を得た[3]。また Jäger (2015) によると、ユーラシア全体の言語を分類する目的で上記方法論を用いた場合、オーストロアジア語族とアイヌ語と日琉語族は同一のスーパークレードに分類される可能性がある[3]

下位分類[編集]

分類は諸説あり、語彙統計学的に確たる証拠が見出されていない[4]ポール・シドウェルPaul Sidwell)は自身の著作(Sidwell (2009))においてロジャー・ブレンチRoger Blench)による以下のような言葉を引用しつつ、語派レベルにモン・クメール諸語という括りを設けずにいきなりモン諸語Monic)なりクメール語なりVietic諸語なりをムンダ語派と並置するという姿勢を取っている[5]

オーストロアジア語族は議論中の全ての諸語の中でも最も研究が手薄なものである。多くが全く文字記録を持たないものであり、昨今中国で発見された諸言語は事実上分類が行われていない。オーストロアジア諸語の話し手たちの遺伝学はほぼ未研究である。オーストロアジア諸語は慣例としてモン・クメール語族(東南アジア)とムンダ語族(インド)いう2つの語族に分けられている。Diffloth (2005:79)[注 1] はオーストロアジア諸語がまず3つに枝分かれすることになると考えているが、これらの再編を裏付ける根拠は何も発表されていない。実のところオーストロアジア諸語の分類にはデータが出さずじまいにされていることがついて回っており、それで部外者により競合し合う仮説が評価されても空論的な行為となってしまうのである。 — ブレンチ (2008: 117–118)、[6]

Glottolog 4.2.1 における言語系統分類も Sidwell (2009) を踏襲したものとなっている。

歴史[編集]

長江流域が源郷と考えられており、稲作の拡散とともに東南アジア、インド東部に分布を広げたようである[7]。後に他の言語(シナ・チベット語族タイ・カダイ語族)が広がって分断されたと考えられているが、それら新しく広がった言語にも影響を残しており、例えばネパール東部のシナ・チベット系言語にはオーストロアジア語族に由来する単語があり、サンスクリットドラヴィダ語族にもムンダ語派が影響を与えているとされる。

オーストロアジア語族を話す人々の遺伝子はY染色体ハプログループO1b1と関連している[8]。O1b1はほとんどのオーストロアジア系民族で高頻度に見られ、ニコバル諸島では100%である。この遺伝子は、稲作の拡散とともに、東南アジア南アジアへは紀元前2500年以降に広まった[9]と考えられる。

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ Diffloth, Gérard (2005). “The contribution of linguistic palaeontology to the homeland of Austroasiatic”. In Laurent Sagart, Roger Blench and Alicia Sanchez-Mazas (eds.). The Peopling of East Asia: Putting Together Archaeology, Linguistics and Genetics. Routledge/Curzon 

出典[編集]

  1. ^ Vovin, A (1993). A Reconstruction of Proto-Ainu. Brill 
  2. ^ Sidwell, PJ (1996). “A reconstruction of Proto-Ainu. By Alexander Vovin”. Diachronica 13 (1): 179–186. 
  3. ^ a b c Jäger, Gerhard (2015-09-24). “Support for linguistic macrofamilies from weighted sequence alignment”. PNAS 112 (41): 12752–12757. doi:10.1073/pnas.1500331112. 
  4. ^ ポール・シドウェル。
  5. ^ Sidwell, Paul (2009). Classifying the Austroasiatic languages: History and state of the art. LINCOM Studies in Asian Linguistics, 76. Muenchen: LINCOM EUROPA. pp. 2–3. https://www.researchgate.net/publication/237046991_Classifying_Austro_Asiatic_languages_history_and_state_of_the_art 
  6. ^ Blench, Roger (2008). “Stratification in the peopling of China: how far does the linguistic evidence match genetics and archaeology?”. In Alicia Sanchez-Mazas, Roger Blench, Malcolm D. Ross英語版, Ilia Peirosロシア語版 and Marie Lin (eds.). Past Human Migrations in East Asia: Matching archaeology, linguistics and genetics. Routledge. pp. 105–132. https://books.google.co.jp/books?id=1gKF9iWqt0gC&pg=RA1-PT70&dq=Human+migrations+in+continental+East+Asia+and+Taiwan.+Matching+archaeology,+linguistics+and+genetics&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwj8pt_D8oDsAhWJd94KHTubBuIQ6AEwAHoECAUQAg#v=snippet&q=Diffloth%202005&f=false 
  7. ^ 崎谷満『DNAでたどる日本人10万年の旅』(昭和堂 2008年)
  8. ^ 崎谷満(2009)『DNA・考古・言語の学際研究が示す 新・日本列島史』勉誠出版
  9. ^ Fabio Silva , Chris J. Stevens, Alison Weisskopf, Cristina Castillo, Ling Qin, Andrew Bevan, Dorian Q. Fuller (2015) Modelling the Geographical Origin of Rice Cultivation in Asia Using the Rice Archaeological Database ; PLOS ONE, published: September 1, 2015 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0137024

外部リンク[編集]