エネルギー地形
物理学、化学、生化学において、エネルギー地形 (エネルギーちけい、英: energy landscape)とは、ある分子実体について有り得る全ての配座、もしくは相互作用を及ぼしあう分子群の相対位置に対して、対応するエネルギーレベル、通常はギブズエネルギーを与える写像をいう。
この考え方は、タンパク質フォールディングについて調べる際に有用である。理論的には、タンパク質は無限に近い数の配座を取り得るが、実際にはエネルギー地形上の最低点に相当する二次構造および三次構造をとるように折り畳まれる(これを「緩和」するとも言う)。タンパク質フォールディングにおけるエネルギー地形法の重要な概念は、フォールディングファンネル仮説である。
触媒分野においては、新しい触媒の設計や既存の触媒の改良において、望ましい反応を停止させてしまうような低エネルギー中間体もしくは高エネルギー中間体の生成を避けるためエネルギー地形が調査される[1]。
ガラスモデルでは、エネルギー地形における極小値はある熱力学系の低温における準安定状態に対応する[2]。
形式的定義
[編集]数学的には、エネルギー地形は各物理状態をエネルギーに対応づける連続写像 である。ここで、 は位相空間である。
連続の場合、 となる。ここで、 は系の自由度である。連続エネルギー地形のグラフは、 上の超曲面となる。
エネルギー地形上の丘や谷は、それぞれ の極大値および極小値に対応する。
マクロスケールの例
[編集]ちゃんと油がさしてあり、摩擦によるエネルギー散逸のない開き戸の蝶番は、一次元のエネルギー地形 を持つ。蝶番が適切に取り付けられていなかった場合、固定しなければ開き戸は自然と閉まってしまったり、開いてしまったり、ある角度で半開きになったりするだろう。これらの角度が系のエネルギー極小状態、すなわちエネルギー地形の谷に相当する。
脚注
[編集]- ^ Chen, Shentan; Ho, Ming-Hsun; Bullock, R. Morris; DuBois, Daniel L.; Dupuis, Michel; Rousseau, Roger; Raugei, Simone (2014). “Computing Free Energy Landscapes: Application to Ni-based Electrocatalysts with Pendant Amines for H2Production and Oxidation”. ACS Catalysis 4 (1): 229–242. doi:10.1021/cs401104w. ISSN 2155-5435.
- ^ Wales, David J. (2003). Energy Landscapes. Cambridge University Press. p. 68. ISBN 0-521-81415-4