エアリー関数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

物理科学におけるエアリー函数(エアリーかんすう、: Airy function)あるいは第一種エアリー函数 (Airy function of the first kind) Ai(x) は、イギリス天文学者ジョージ・ビドル・エアリー (1801–92) に因んで名づけられた特殊函数である。この函数 Ai(x) および第二種エアリー函数とも呼ばれる関連の函数(A を次の文字 B に変えて、故に冗談めかしてベアリー (Biry) 函数とも)Bi(x) は、エアリー方程式あるいはストークス方程式と呼ばれる微分方程式

の線型独立な解としても言及される。これは転回点(turning point: 方程式の解が振動型から指数型へ変わる特徴点)を持つ最も単純な二階線型微分方程式である。

エアリー函数は三角ポテンシャル井戸に留め置かれた粒子に対する、あるいは一次元定力場における粒子に対するシュレーディンガー方程式の解である。同じ理由により、ポテンシャルが位置の線型函数で局所近似されるときの、転回点の周りでのWKB近似として、エアリー函数は一様半古典近似を与えるのに利用できる。三角ポテンシャル井戸解は、多くの半導体デバイスを理解することに直接的に関係がある。

エアリー函数はまた、のような方向性集光英語版の周辺強度の形でも根底にある[訳語疑問点]。歴史的にはこれがエアリーがこの特殊函数を導入するに至った数学的問題であった。またエアリー函数は顕微鏡学英語版天文学においても重要である。つまり、エアリー函数は(顕微鏡望遠鏡の解像限界よりも小さな)点光源英語版によって与えられる回折干渉のパターンを記述する。

定義[編集]

Ai(x) を赤、Bi(x) を青でプロット

変数 x に対する第一種エアリー函数は広義リーマン積分

として定義することができる。これが収束することは、激しく振動するグラフの正の成分と負の成分とが互いに打ち消し合う英語版(これは部分積分で確認できる)ことによるものである。

函数 y = Ai(x) はエアリー方程式

を満足する。この方程式は二つの線型独立な解を持つ。スカラー倍の違いを除いてAi(x)x → ∞y → 0 なる条件を満たす唯一の解である。もう一つの解として第二種エアリー函数 Bi(x) を取るのが標準的である。第二種エアリー函数は第一種エアリー函数 Ai(x) と同じ振幅を持ち x → −∞ で位相が π/2 だけ異なる解

として定義することができる。

性質[編集]

Ai(x), Bi(x) およびそれらの導函数の x = 0 における値は

で与えられる。ここで Γガンマ函数である。これにより Ai(x) および Bi(x)ロンスキアン1/π となることが従う。

x が正のとき、Ai(x) は正値凸函数かつ指数函数的に零に減少し、Bi(x) は正値凸函数かつ零の周辺で限りなく小さい振幅を以って無限回振動する。x が負のとき、Ai(x), Bi(x) はともに零の周辺で限りなく小さくなる振幅を以って無限回振動する。これはエアリー函数に対する漸近公式(後述)によって保証される。

任意の変数に対するエアリー函数同士は、広義リーマン積分

が成り立つという意味において互いに直交する[1]

漸近公式[編集]

函数 Ai (青) とその正弦型/指数型漸近近似 (赤)
函数 Bi (青) とその正弦型/指数型漸近近似 (赤)

後述のように、エアリー函数は複素数平面上へ延長することができて整函数を与える。そのエアリー函数の偏角英語版 arg(z) が一定値を保ったまま |z|無限大へ飛ばすときの漸近挙動は arg(z) に依存して決まる(これをストークス現象英語版と言う)。|arg(z)| < π のとき、Ai(z) に対して以下の漸近公式

を得る[2]Bi(z) に対しても同様の漸近公式

存在するが |arg(z)| < π/3 でしか適用できない。

よりきつい Ai(z) に対する公式、および π/3 < |arg(z)| < π のときの Bi(z) に対する公式、あるいは同じことだが Ai(−z) および |arg(z)| < 2π/3 だが零でないときの Bi(−z) の漸近近似が

で与えられる[3]

|arg(z)| = 0 のとき、これらは良い近似であるが漸近的でない(Ai(−z) または Bi(−z) と上記の近似式との比は、現れる正弦および余弦の値が零となるところで無限大に発散することによる)。これらの極限に対する漸近展開も可能である。それらについては (Abramowitz & Stegun 1954) および (Olver 1974) にある。

複素エアリー函数[編集]

エアリー函数の定義を

と置くことにより複素数平面まで拡張することができる。ただし、積分路 C は偏角 π/2 の無限遠点 −∞i から偏角 π/2 の無限遠点 i までとる。あるいは、微分方程式 y′′ − xy = 0 によって Ai(x) および Bi(x) を複素数平面上の整函数に拡張することもできる。

Ai(x) に対する漸近公式は、x2/3 の主値をとり、x が負の実軸の近くを除いて有界ならば、複素数平面上でもやはり有効である。Bi(x) に対する漸近公式が有効なのは、x が適当な δ > 0 に対する扇形 {xC : |arg(x)| < π3 − δ} にあるときである。また、Ai(−x), Bi(−x) に対する公式は x が扇形 {xC : |arg(x)| < 2π3 − δ} にあるとき有効である。

エアリー函数の漸近的挙動から分かることは、Ai(x), Bi(x) ともに負の実軸上に無限個の零点を持つことである。函数 Ai(x) は複素数平面上に他の零点を持たないが、Bi(x) は扇形 {zC : π3 < |arg(z)| < π2} にも無限個の零点を持つ。

グラフ[編集]

AiryAi Real Surface.png AiryAi Imag Surface.png AiryAi Abs Surface.png AiryAi Arg Surface.png
AiryAi Real Contour.svg AiryAi Imag Contour.svg AiryAi Abs Contour.svg AiryAi Arg Contour.svg
AiryBi Real Surface.png AiryBi Imag Surface.png AiryBi Abs Surface.png AiryBi Arg Surface.png
AiryBi Real Contour.svg AiryBi Imag Contour.svg AiryBi Abs Contour.svg AiryBi Arg Contour.svg

他の特殊関数との関係[編集]

正の引数に対して、エアリー関数は変形ベッセル関数

なる関係を持つ。ここで I±1/3, K1/3x2y" + xy' − (x2 + 19)y = 0 の解である。エアリー函数の一階微分は

であり、函数 K1/3 および K2/3 は急速に収束する積分によって表すことができる[4]変形ベッセル函数の項も参照)。

負の引数に対して、エアリー関数はベッセル関数

なる関係を持つ。ここに J±1/3x2y" + xy' + (x219)y = 0 の解。

スコアラーの関数英語版y"xy = 1/π の解)もまたエアリー函数を用いて

と書くこともできる。

フーリエ変換[編集]

エアリー函数 Ai(x) の定義から直接に、そのフーリエ変換

で与えられることが示せる。

歴史[編集]

エアリー関数の名の由来は、イギリス人天文学者物理学者ジョージ・ビドル・エアリー (1801–1892) である。エアリーは光学の初期研究 (Airy 1838) においてこの函数に遭遇した。"Ai(x)" という表記はハロルド・ジェフリースによるものである。エアリーはイギリス王室天文官を1835年から1881年まで務めた人物である。

関連項目[編集]

[編集]

  1. ^ David E. Aspnes, Physical Review, 147, 554 (1966)
  2. ^ Abramowitz & Stegun 1970, p. 448, Eqns 10.4.59 and 10.4.63
  3. ^ Abramowitz & Stegun 1970, p. 448, Eqns 10.4.60 and 10.4.64
  4. ^ M.Kh.Khokonov. Cascade Processes of Energy Loss by Emission of Hard Photons // JETP, V.99, No.4, pp. 690-707 \ (2004).

参考文献[編集]

外部リンク[編集]