インフェルノ (小説)

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ロバート・ラングドンシリーズ > インフェルノ (小説)

インフェルノ』(The INFERNO)は、2013年、アメリカ合衆国において出版された、ダン・ブラウン著作の長編推理小説である。『ロスト・シンボル』に次ぐ、「ロバート・ラングドン」シリーズの第4作。

あらすじ[編集]

ハーバード大学教授のロバート・ラングドンは悪夢にうなされていた。死者が沈み行く血に染まった河。黒いヴェールの女性。銀髪で首には「蛇のお守り」が掛けられている。時が尽きていきます、探して、見つけなさい。なにかを語りかける女性と正に地獄の一場面を想起させる光景。そして黒死病をイメージさせる長鼻の仮面。ラングドンは病院の一室で目を覚ました。彼の最後の記憶はハーバード大のキャンパスを歩いている時のものであったが、それは二日前の出来事だった。直ぐに自分が今はフィレンツェにいることに気づく。担当医のシエナ・ブルックスエンリコ・マルコーニは頭部に銃創を負ったことで逆行性健忘(軽度の記憶喪失)に陥っているのだと告げる。そこに突然武装したヴァエンサが現れ、ラングドンの病室めがけて発砲。マルコーニ医師は兇弾に斃れる。シエナはラングドンの逃亡を手助けし、二人は彼女のアパートへ逃げ込む。シエナはラングドンが担ぎ込まれた際に「ヴェーリー・ソーリー」(とても、すまない)という英単語を譫言のように繰り返していたことを伝える。更にシエナが気にしていたのはラングドンの上着ポケットにバイオハザードの記号が印された円筒形の容器が入っていたことだった。ラングドンは保護を求めるためアメリカ領事館へ連絡を取る。すると領事館の方でも彼を探しているところであり、保護に向かう為に居場所を教えるよう言われる。シエナの助言に従い、彼は通りを挟んでアパートとは反対側にあるホテルの住所を教える。間もなくすると領事館に伝えた場所に銃を持ったヴァエンサが現れる。これを見たロバートとシエナは合衆国政府がラングドンの命を狙っていると思い込む。ラングドンは円筒形の容器の中に、古い骨でできた円筒形の小型プロジェクターを見つける。そのプロジェクターからはダンテ神曲に描かれた「インフェルノ」をモチーフとしたボッティチェリ「地獄の見取り図」の映像が映し出されるが、そこには一部修正が加えられていた。また、その映像の下には「真実は死者の目を通してのみ見える」と書かれていた。更にロバートはシエナがIQ208の天才児かつ名子役だったことを切り抜きの新聞記事で知る。その時、武装した部隊がシエナのアパートのビルに突入してきた。
シエナの機転を利かせた演技で危機を脱し、ラングドンとシエナはプロジェクターの映像とダンテとの関係を探るために旧市街に向かう。だが、そこは地元警察と国家警察が橋を封鎖してロバートたちを探していた。ボーボリ庭園近くの建設現場でロバートは再度プロジェクターの映像を確認し、そこで "C-A-T-R-O-V-A-C-E-R" の10個の文字が「地獄の見取り図」の10層の各階層に1文字ずつ隠されていることに気付く。しかもこの階層順序は原本とは異なっており、これを正しく並べる事でこの10個の文字が "CERCA TROVA(探せよ、さらば見つかる)" というメッセージを成す事を発見する。ラングドンはヴェッキオ宮殿にある、ヴァザーリが描いた絵画「マルチャーノの戦い」の中に同じ言葉が描かれている事を思い出す。ラングドンとシエナは何とか追っ手を逃れ、ヴァサーリの回廊を使って旧市街に入る。
「地獄の見取り図」の映像にあった「死者の目」の言葉と結び付く場所を示す手掛かりを見つけようと、ロバートは絵画「マルチャーノの戦い」の前に立っていた。それを見掛けた看守がヴェッキオ宮殿の管理人であるマルタ・アルヴァレスにロバートの存在を知らせる。マルタはその前夜、ドゥオーモ付属美術館の館長であるイニャツィオ・ブゾーニ、そしてラングドンと会っていた。彼女はラングドンとシエナを「マルチャーノの戦い」の掛かった場所の傍の階段に案内する。その時ラングドンは「マルチャーノの戦い」に描かれた "CERCA TROVA" という文字と階段の最上部が同じ高さにある事に気付く。マルタが言うところによればその前夜、彼女は「マルチャーノの戦い」が掛けられた場所から通じる廊下の先の部屋に展示されているダンテのデスマスクをラングドンとイニャツィオに観せていた。デスマスクの所有者は大富豪の遺伝学者ベルトラン・ゾブリストであり、彼の許可がなければマルタでさえ展示ケースを開けられない。ラングドンは自分が奇しくも自身の前夜の足取りを追っているという事に気付く。マルタはラングドンとシエナをデスマスクの展示場まで案内するが、その展示場からマスクは消えていた。防犯カメラの映像の映像を確認するとマルタがトイレに立った僅かな隙にラングドン自身とイニャツィオがマスクを持ち去ったことが判明。警備員達がラングドンとシエナを取り押さえ、マルタは事の次第を確かめるべくイニャツィオのオフィスに電話を掛ける。しかしそこでイニャツィオの秘書より、彼が心臓発作で亡くなり、その直前にロバートへの伝言を残していると伝えられる。そして秘書から伝えられたロバートへの伝言によれば、デスマスクが隠された場所は "パラダイス25" であるとなっていた。
一方、姿をくらませたラングドンとシエナを追う組織「大機構」はある種の混乱に陥っていた。彼らの依頼人が自ら命を絶ち、その前日、依頼人は遺言紛いに作戦指揮を担う総監に不可解なメッセージが添えられた「神曲」と動画入りの赤いUSBを託し、期日になったらネット上に公開するよう求めていた。しかるべき推薦人から紹介された依頼人の素性や目的を探ることは組織のタブーであったが、あまりにも腑に落ちない点が多すぎた。更に信頼する部下ローレンス・ノールトンから動画の内容を確認して欲しいという異例の要請があった。総監の心には「自分たちがとんでもない悪事の片棒を担がされているのではないか」という疑惑が芽生えていた・・・。
ラングドンとシエナは警備員達の手を逃れるがそこに武装兵達が到着し、二人は「コジモ・デ・メディチ1世の礼賛」の天井画の上の屋根裏を通って逃走。この時、命令に背いて追ってきたヴァエンサをシエナが屋根裏から突き落とし、ヴァエンサは息絶える。ロバートは "パラダイス25" が「神曲」の「天国編」第25章を意味していると考え、その部分の解読を試みるためサンタ・マルゲリータ・デイ・チェルキ教会に向かう途上でシエナは金髪がウィッグであり、スキンヘッドであることを明かし、追跡者の目を欺くため金髪のラングドン、スキンヘッドのシエラは変装で欺く。教会に着いたもののラングドンの期待外れで「神曲」を所持したダンテ信奉者は居らず、ただの観光客ばかりだった。ラングドンはiPhoneを使用している英国人老婦人から借りて電子版の「神曲」で記述を確認。デスマスクがサン・ジョヴァンニ洗礼堂に隠されている事を突き止める。数多の観光客を欺いて天国の門を潜って教会内に入った二人は洗礼盤に隠されたデスマスクを発見。裏面は巧妙に加工され、ゾブリストが残した謎のメッセージが刻まれていた。シエナの説明によれば、ゾブリストはWHOに対して彼らが現在の人口増加に対して有効な手段を講じていない現状を憂慮した上で人類の生殖の抑制を提唱しており、またその為の病原の開発に取り組んでいると噂されていた。二人は再び武装兵達に追い詰められるが、WHOの職員であると称するジョナサン・フェリスという男が二人の逃走を手助けする。この男は胸に大きな傷を隠し、顔は酷い発疹で覆われていた。三人はデスマスクに刻まれた謎を解くべくヴェネチアに向かうが、そこで突然フェリスが意識を失う。シエナの診立てではフェリスは大量の内出血を起こしており、ラングドンはフェリスがゾブリストが開発したウィルスに感染しているのではと疑う。ラングドンは黒服をまとった武装兵達に捕らえられ、その間にシエナは逃走するのだった・・・。
ダンテと彼に触発された美術家たちを巡るフィレンツェでの逃亡劇に始まり、ヴェネチアを経てイスタンブールへ。狂気の化学者ゾブリストが作り出した恐るべきウィルステロを防ぐため、記憶喪失のラングドンが三都を奔走する。自らの素性を隠すシエナ。ゾブリストを巡って対立するWHOと「大機構」。とんでもない大どんでん返しが待ち受ける結末や如何に・・・。

登場人物[編集]

 ハーヴァード大学教授。美術史と象徴学が専門。本作では事情により相棒のミッキーマウスとは離ればなれ。服装も他作とは若干異なる。

  • シエナ・ブルックス

 金髪の女性医師。ただし金髪のポニーテールはウイッグでスキンヘッド。ラングドンの担当医。マルコーニ医師の計らいで偽の就業ビザで勤務医をしていた。かつてはIQ208を誇る天才児として持て囃された。32歳。

  • エンリーコ・マルコーニ

 あご髭と口ひげを生やした男性医師。ラングドンの担当医。ヴァエンサに射殺される。

  • 総監

 「大機構[1]」の最高責任者。依頼人から託された任務を遂行すべくメンダキウム船上から指揮を執る。

  • ヴァエンサ

 ラングドンを追う、「大機構」上級現地隊員。スパイクヘアの女性。度重なる失敗で焦っている。

  • ローレンス・ノールトン

「大機構」の上級調査員。依頼人から託された動画のアップロードを担当。動画の内容に違和感を感じ、通例を破って総監に相談する。

  • クリストフ・ブリューダー

 ラングドンを追う、監視対応支援(SRS)チーム隊長。

  • エリザベス・シンスキー

 世界保健機関(WHO)事務局長。銀髪の女性。不妊症。「大機構」側からは「銀髪の悪魔」と呼称される。61歳。「大機構」に身柄拘束されている。

  • ベルトラン・ゾブリスト

 生化学者。遺伝子工学の天才だったが「世界の存続を脅かす最も深刻な脅威」を取り除くため、暴論とも言える自説を唱えて学界から事実上追放された。いくつもの特許により巨万の富を築きあげた。妨害者から保護してくれるよう「大機構」に依頼する。46歳。「大機構」に予定を伝えた後、投身自殺により死亡。ダンテについてかなり深い造詣を持つ。

  • マルタ・アルヴァレス

 ヴェッキオ宮殿職員。妊婦。銃撃前のラングドンに会っている。ある事件の発覚でラングドンを疑うことになる。

  • イニャツィオ・ブゾーニ

 サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(ドゥオーモ)付属美術館館長。「イル・ドゥオミーノ」の愛称で知られるイタリア美術研究の大家。ある事件に関わった後、発作で死亡。

  • ジョナサン・フェリス

 WHO職員。全身吹き出物だらけでかき傷だらけ。大豆アレルギーだと説明するが・・・。

作品内に登場する観光名所[編集]

事実[編集]

世界的なヒットとなった『ダ・ヴィンチ・コード』は、冒頭に「この小説における芸術作品、建築物、文書、秘密儀式に関する記述は、すべて事実に基づいている」と記されていために、キリスト教関係者を筆頭に多くの分野から反発された[2]

本作品では、「この小説に登場する芸術作品、文学、科学、歴史に関する記述は、すべて現実のものである。」という文言とともに、「”大機構”は七つの国にオフィスを構える民間の組織である。安全とプライバシー保護の観点から、本作では名称を変更してある。」と冒頭に記されている。

脚注[編集]

  1. ^ 原語は「 the Consortium 」。翻訳者によるブログ記事によれば、この訳語に決めるまでには時間をかけて検討したという。
  2. ^ 批判内容については、『ダ・ヴィンチ・コード』の項を参照。

関連項目[編集]

ボッティチェルリ『地獄の見取り図』

外部リンク[編集]