インターネットエクスチェンジ

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インターネットエクスチェンジ(Internet Exchange point)とは、インターネットの中核を成す施設であり、プロバイダ(ISP)、インターネットデータセンター(IDC)や、国家間の通信を交換するための相互接続ポイントである。略称 IXまたはIXPインターネット相互接続点とも呼ばれる。

安全保障上の理由から、その所在地等の詳細はあまり公になっていないが、日本国内では十か所前後、全世界では数百か所の大規模なIXが存在する[1]

概略[編集]

インターネットに接続するためには、インターネットに参加している他の全てのネットワークと接続するための回線が必要である。しかし、世界中のISPを直接相互接続することは不可能である[2]。そこでISPは、複数の接続回線を1つにまとめる、低コストで多数のISPと隣接関係を持つ、などの目的でIXに接続することにより、インターネットを構築している。技術的には、LAN接続と同様にレイヤ2スイッチを用いて、各ISPのボーダールーターを相互に接続してトラフィック交換を行う形態がほとんどである。

レイヤ3スイッチルーターを用いて構築されたレイヤ3IX(L3IX)と呼ばれるネットワークも存在するが、こちらはIXというより実態は部分トランジットであり、一般にはIXには分類されない。L3IXでない、ということを強調するために、一般のIXをL2IXと呼ぶこともある。

加盟、接続には一定の条件を課されることが多い。ほとんどの場合ルーティングにはBGPが要求される。

地域IX[編集]

日本国内のインターネットトラフィックは東京に一極集中しており大半の大手IXは東京に存在しているが、障害時のリスク分散や地域内の効率的なトラフィック交換が十分なされていない。地域IXは東京のIXのリスク分散、及び効率的かつ経済的なトラフィックの中継のために設けられる。しかし地域IXの効用を充分享受するためには多くのISPが大容量バックボーン回線にて複数の地域IXに接続することが必要となる。

単に地域IXに物理的に接続するだけでなく、BGPなどによりAS間の経路を設定しピアリングIPトランジットを行う必要がある。しかし現実的には契約上の問題、ポリシーの問題、企業の資本関係などの理由でIX接続を果たしてもピアリングができない場合も存在する。 このため、異なるプロバイダ同士でデータをやりとりする場合、物理的な距離が近くても、IPパケットははるばる東京まで往復して戻ってくることが多いといった無駄が発生している。

また、大手プロバイダーは自前で全国網を構築している所が多いこと、インターネットコンテンツWebサーバなど)が東京に集中していること、地域内折り返しのトラフィックが現状では少ないことなど、あえて地域IXに接続しルートを設定するコストに対するメリットも見いだしがたく、中々地域IXでの交換が進展しないのも現状である。

国際回線も海底ケーブルの陸揚げ局が関東地方の北茨城(茨城県)と南房総(千葉県)、近畿地方の志摩(三重県)に集中している[3]

このような理由により、地域IXは本来の目的であるトラフィックの地域内折り返し用途にはあまり効果を発揮できない状況であり、現実には地方から東京への高額な通信回線の共同購入目的に使われることが多い。結果的に障害時のリスク分散ができている状態にあるとは言い難い状況である。

また、2010年代以降、ISPの寡占化とバックボーン伝送技術の鈍化により大手ISP同士のトラフィック交換が東名阪札仙広福といった拠点でのプライベートピアリング・トランジットに移行しており、IXを通じたトラヒックは全体の一部に過ぎなくなっている。

IXの技術[編集]

IXにおける遅延[編集]

現在のIXは、ほとんどがレイヤ2スイッチを用いて構成されており、装置内での遅延はほとんど発生しない。しかし、回線試験において、IXで遅延やパケットロスがあるように見受けられる場合には以下のような原因が考えられる。

  • ISPがIXに接続している契約帯域が不足している場合。実際の通信にロスが発生している。帯域の増強またはトラフィックの迂回が必要。
  • IXに接続しているISPルータがICMP time exceededの返答を低優先度にて行う仕様である場合。IXを通過する通信には影響はなく障害ではない。この場合tracerouteの結果のうち特定のルータからのRTTだけが遅いので区別がつく。

また、一般的に用いられるtracerouteコマンドではレイヤ2IXは表示されないためIX内での遅延は直接測定できない。

その他のIX技術[編集]

レイヤ2スイッチを用いる以外に、MPLSを使った光IXやMPLS IX、ATM IXなどがある。いずれもIX側にてISP-ISP間のパスを設定する必要がある。

IXの一覧[編集]

日本国外のIX[編集]

Five Eyes
  • Telx (Telx Internet Exchange) (アメリカ)
  • Zayo (Zayo Group) (アメリカ)
  • LINX (London Internet Exchange) (イギリス)
  • XchangePoint (XchangePoint) (イギリス)
  • VIX (Vienna Internet Exchange) (オーストリア)
ゲルマン系諸国
  • CIXP (CERN Internet eXchange Point) (スイス)
  • DE-CIX (Deutscher Commercial Internet Exchange) (ドイツ)
  • NETNOD (Internet Exchange i Sverige) (スウェーデン)
ベネルクス三国
  • AMS-IX (Amsterdam Internet Exchange) (オランダ)
  • BNIX (Belgian National Internet Exchange) (ベルギー)
  • NDIX (Nederlands-Duitse Internet Exchange) (オランダ)
  • LIX (Luxembourg Internet Exchange) (ルクセンブルク)
ラテン系諸国
  • CATNIX (Catalunya Neutral Internet Exchange) (スペイン)
  • ESPANIX (Espana Internet Exchange) (スペイン)
  • GIGAPIX (GIGA Portugal Internet Exchange) (ポルトガル)
  • MIX (Milan Internet Exchange) (イタリア)
  • PARIX (Paris Internet Exchange) (フランス)
その他の欧州
  • AIX (Athens Internet Exchange) (ギリシャ)
  • MIX-Malta (Malta Internet Exchange) (マルタ)
中東
  • EMIX (Emirates Internet Exchange ) (アラブ首長国連邦)
  • IIX (Israeli Internet Exchange) (イスラエル)
  • TIX (Turkey Internet Exchange) (トルコ)
東アジア
  • KINX (Korean Internet Neutral Exchange) (韓国)
  • HKIX (Hong Kong Internet Exchange) (香港)
  • TWIX (Taiwan Internet Exchange) (台湾)

日本国内のIX[編集]

以下は2021年現在新規受付を停止しているIXである[7]

  • mpls ASSOCIO(日本テレコム→ソフトバンク)(全国) 2002年〜 - 下記のMPLS-IXを商業化した広域分散IX[8]

以下は過去のIXであり、現在は終了している:

以下は学術系のIXとなっている:

  • MPLS-IX(次世代IX研究会 (distix))(全国) 2001年[9]〜不明 - JGN情報通信研究機構研究開発テストベッド)上の広域分散IXであり[9]RIBB(地域間相互接続実験プロジェクト)などで使われていた。
  • T-LEX(WIDEプロジェクト)(東京) 2004年~2009年[10] - IEEAF太平洋横断リンクに繋がっており[11]、日本の学術系ネットワーク等とPacific Northwest Gigapop (PNWGP) を結んでいた[11]。名前は「Tokyo Lambda Exchange」より。

以下はIPv6用のIXとして開始されたが、IPv4用のIXがIPv4/IPv6デュアルスタックとなったことで終了した:

  • NSPIXP-6 (WIDEプロジェクト) (東京) 1999年2008年
  • JPNAP6(インターネットマルチフィード)(東京) 2002年~2010年

以下はIXとして言及されることがあるが、これらは前述の レイヤ3 IX (L3IX) に留まっている[12][13]:

以下は地域IXとなっている。

  • RIX (WingTecJapan、沖縄県)
  • OIX (オキット、沖縄県)1999年に琉球大学を中心とした共同実験開始、2013年に商用化
  • OKIX(岡山県デジタル推進課、岡山県)
  • Echigo-IX (ENOG、新潟県)
  • TOCHIGIX(栃木県)

以下は地域情報ハイウェイであり、地域情報ハイウェイ同士の相互接続を行うJGN2の地域間相互接続プロジェクトに参加して巨大な MPLS-IX の一部となっていた[15]

  • 岩見沢市敷設光ケーブル[15](北海道)
  • 岩手県情報ハイウェイ[15](岩手県)
  • 山形県基幹高速通信ネットワーク[15](山形県)
  • 山梨県情報ハイウェイ[15](山梨県)
  • 岐阜情報スーパーハイウェイ[15](岐阜県)
  • 三重M-IX[15](三重県)
  • とやまマルチネット[15](富山県)
  • 福井情報スーパーハイウェイ[15](福井県)
  • びわ湖情報ハイウェイ[15](滋賀県)
  • 京都デジタル疏水ネットワーク[15](京都府)
  • 兵庫情報ハイウェイ[15](兵庫県)
  • 大和路情報ハイウェイ[15](奈良県)
  • きのくにe-ねっと[15](和歌山県)
  • 鳥取情報ハイウェイ[15](鳥取県)
  • 岡山情報ハイウェイ[15](岡山県)
  • かがわ遠隔医療ネットワーク[15](香川県)
  • 高知県新情報ハイウェイ[15](高知県)
  • やまぐち情報スーパーネットワーク[15](YSN、山口県)
  • 北九州地域情報ネットワーク[15](福岡県北九州市)
  • 豊の国ハイパーネットワーク[15](大分県)
  • 熊本県情報ギガハイウェイ[15](熊本県)
  • 宮崎情報ハイウェイ21[15](宮崎県)

以下は過去ないし既に表での活動を行っていない地域IXとなっている(小規模に使われているものも含む)。

  • 東海地域ハブ (TKiX、中部アカデミックネットワーク←東海地域ハブ研究会、AS7520) 1997年に東海地域ハブ研究会が発足[16]、AS番号消失[17]
  • Y-NIX(山梨県)- 1997年運用開始[18]
  • 富山地域IX(富山地域IX研究会、富山県) - 1998年にインテックシステム研究所富山大学らによって富山地域IX研究会が発足[19]
  • GCIX (ジーシーアイエックス社、岐阜県) - 2002年にジーシーアイエックス社が設立[20]2006年3月に営業終了[21]
  • 秋田地域IX (秋田県企画振興部情報企画課、秋田県) - 2002年運用会社のデータコア発足[22]、2003年サービス開始[23]
  • 豊の国IX(ハイパーネットワーク社会研究所、大分県) - 2002年、ハイパーネットワーク社会研究所内に豊の国IX研究会が発足し[24]、2003年に設置された[25]
  • ToRino-IX(鳥取IX協議会、鳥取県)
  • Kyoto-One IX (京都情報基盤協議会、京都府) - 前身は1998年に設置されたKRP-IXであり、2002年よりKyoto-One構想の一部となった[26][27]

脚注[編集]

  1. ^ インターネットエクスチェンジとは - IT用語辞典” (日本語). IT用語辞典 e-Words. 2020年9月19日閲覧。
  2. ^ 仮に100社のISPが全て相互に接続したなら約5千本の回線が必要となる。
  3. ^ 政府、海底ケーブル拠点を分散 安保・災害リスク低減へ 産経新聞 2022年1月4日
  4. ^ 高度情報インフラストラクチャの構築に関する研究 ネットワーク相互接続の実証実験 平成24年研究報告書 WIDEプロジェクト
  5. ^ 年報 第16号 2014年度 p.142 東京大学情報基盤センター
  6. ^ 第16部 ネットワーク相互接続の実証実験 - Programmable Internet Exchange in EDO (PIX-IE) WIDEプロジェクト
  7. ^ 「mpls ASSOCIO」サービスの新規受付停止について ソフトバンク 2021年10月4日
  8. ^ 「MPLSを用いた広域分散IXの技術とインパクト」 p.5 インテック・ネットコア 2004年3月5日
  9. ^ a b IPSJ Magazine Vol.43 No.11 Nov. 2002 - 07 MPLS を用いた広域分散 IX の実証実験 p.1192, 1195 情報処理学会 2002年
  10. ^ アジア太平洋・オセアニア地域を接続するグローバルな研究・教育ネットワークの連携が実現 NICT 2021年6月17日
  11. ^ a b T-LEX (2015年時点のキャッシュ) WIDEプロジェクト
  12. ^ インターネットの新しいマーケット創造者となるか、MEX ITmedia 2002年7月9日
  13. ^ BBXがIPによるトラフィック交換サービス。コンテンツ交換サービスも順次提供 日経BP 2001年11月30日
  14. ^ BEX 事業譲渡に関するご連絡 ブロードバンドセキュリティ 2009年2月1日
  15. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w 【特集】オープンリサーチ型次世代ネットワーク技術への挑戦―National Project JGN2 4年間の Fact Sheetsー 相原玲二 2008年
  16. ^ 東海地域ハブ研究会 平成10年度報告書 東海地域ハブ研究会
  17. ^ JPNIC WHOIS Gateway JPNIC
  18. ^ 地域IX (Y-NIX) の運用とネットワーク特性 八代一浩ら 1999年5月21日
  19. ^ 地域IXによる安定した地域内通信環境の実現と評価 中川郁夫ら 2001年12月
  20. ^ 岐阜県、三重県らが共同で商用地域IXを設立 ~NTTコム、KDDIも参加 Impress 2002年4月18日
  21. ^ GCIX(2008年時点のキャッシュ) GCIX
  22. ^ 秋田県、地域IXを2003年3月までに稼働 ~構築・運用にあたる事業者を決定 Impress 2002年8月6日
  23. ^ 地域IXビジネスは果たして成り立つか?「秋田地域IX」が2月よりサービス開始 Impress 2003年1月24日
  24. ^ 豊の国IX研究会(2003年時点のキャッシュ) ハイパーネットワーク社会研究所
  25. ^ 豊の国IXの現状について ハイパーネットワーク社会研究所 2005年
  26. ^ 京都情報基盤協議会 平成10年度活動報告 京都情報基盤協議会
  27. ^ 京都ONE記者発表 京都情報基盤協議会 2002年1月16日

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

日本国内のIX[編集]

日本国内の地域IX[編集]