インスリンアナログ

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インスリンアナログとは、インスリンと同じ生理作用をもちながら薬物動態を改善した医薬品であり、インスリンの構造を人工的に変更したものである(アナログは「似せたもの」を意味する。アナログ参照)。

糖尿病の治療に通常使われる速効型インスリン(レギュラーインスリン)、中間型インスリン(NPHインスリン)は皮下注射後30分たたないと血中のインスリン濃度が上昇しない。このタイムラグの理由は、これらのヒトインスリン製剤が溶媒内で互いに結合し六量体を形成するため、単量体に解離し血中に入るまで時間がかかるからである。そして、この六量体形成の原因はインスリン分子の28-29番目のアミノ酸にある。 これは患者にとって大きな問題である。 自分がいつ食事をとるか予測して30分前に注射するのは社会生活上容易ではない上、インスリンを注射したら30分後に食事をとらなければ低血糖症に陥る危険性があるためである。注射直後に食べてよい超速効型インスリンは糖尿病患者のライフスタイルに柔軟性をもたらした。

また強化インスリン療法で就寝前に中間型インスリンを注射した場合など、2時間後に効果がピークとなるため、深夜に低血糖になったり、軽度の低血糖からの翌朝の高血糖(ソモジー効果)を引き起こすことがある。逆に就寝中にインスリン不足が起こると、拮抗ホルモンにより翌朝、高血糖となるケースもある(暁現象)。 これらを回避するためには、インスリンポンプで微量のインスリンを少量ずつ時刻ごとに用量をかえながら注射するCSII(continuous subcutaneous insulin infusion)があるが、高価であり皮下注射で代用したいと考えられてきた。そのため、ピークがなく24時間以上安定してゆっくり少しずつ効く持効型インスリンが求められていた。

超速効型インスリン[編集]

2014年5月現在、下記の3種類がある。

これらは皮下注射時単量体のままであるため血中に入るまでの時間が短く、食直前にインスリンを打つことを可能とする。 臨床的には、食事の時間を予測しなくてすむためコンプライアンス(治療が実施される確実さ)が上昇すると言われており、実際にレギュラーインスリンと比べて血糖コントロールが向上するという確かな研究結果(エビデンス)が報告されている。 インスリンリスプロとインスリンアスパルトについては他インスリンとの混合型製剤も上市されている。

持効型インスリン[編集]

  • インスリンデグルデク(degludec):ノボ ノルディスク社により開発された製剤で、2012年9月7日付で承認された。商品名はトレシーバ®。ヒトインスリンのB鎖30位のスレオニン残基を削除し、B鎖29位のリジン残基にγ-グルタミン酸を介してヘキサデカン二酸を結合させた構造を有している。本注射後速やかに可溶性マルチヘキサマーを形成し、そこから持続的に血中に吸収されるとされている。下記のグラルギンに比べ、夜間低血糖および重症低血糖の発現率が低いといわれている[1][2]。また、作用持続時間は42時間を超える[3]
    2015年8月時点で、持効型インスリンとして唯一小児の用法・用量が承認されている[4]
  • インスリングラルギン(Glargine : HOE 901):旧ヘキスト社(現サノフィ)が開発し、日本でも2003年に商品名ランタス®として薬価収載されている。インスリンA鎖21位のアスパラギングリシンに置換し、B鎖C末端に2個のアルギニンを追加してある(21A-Gly-30Ba-L-Arg-30Bb-L-Arg-human insulin: C267H404N72O78S6 , 分子量6063)。酸性pH4では水溶性であるが、注射後中性に近い体内では微結晶になり、ゆっくりと溶解して血中に移行していく。そのため5時間後から安定した血中濃度となり、以後24時間以上一定濃度を維持する。
    • 注入器(オプチペン®プロ1)の破損による過量投与の問題から、旧タイプ注入器の回収と新タイプ(オプチクリック®)への切り替えが行われた。2006年5月ランタス®の新規導入が厚生労働省通達により停止した。2008年現在は処方されている。またその後、使い捨て容器のランタス®ソロスター®も上市された。
  • インスリンデテミル(detemir):ノボ ノルディスク社製の製剤で日本では2007年10月19日で承認を厚生労働省より取得した。商品名レベミル®。B鎖30位のスレオニンを削除し、B鎖29位のリシン脂肪酸ミリスチン酸を付加している。作用持続時間はグラルギンより短く、18時間程度とする見方もある[5]

剤形[編集]

自己注射デバイスには、下記の剤形がある。

  • ペン型注入器:薬剤が充填されたディスポーザブル型(使い切り型)の製剤。製薬会社により「フレックスタッチ」、「ミリオペン」、「ソロスター」等と呼称される[6]。ペン型でない物も有る。
  • カート:カートリッジ交換式のペン型注入器に装填するカートリッジ製剤[7]
  • バイアル製剤[8]

製剤濃度[編集]

2003年にインスリン製剤の濃度が100IU/mLに統一されて以来[9]、インスリンアナログ製剤の濃度も100IU/mLであったが、2015年7月、サノフィは製剤特性の改善を理由として300IU/mLの製剤を承認取得した[10]

参考資料[編集]

  1. ^ どのインスリンアナログ製剤が優れているのか Diabetes Careオンライン版掲載の2論文から”. メディカルトリビューン. 2012年10月19日閲覧。
  2. ^ 高齢糖尿病患者で、インスリン デグルデクの夜間低血糖の発現リスクはインスリン グラルギンと比較して35%低下”. 日経メディカルオンライン. 2013年5月17日閲覧。
  3. ^ インスリン デグルデクの持続化発揮は皮下でのマルチヘキサマー形成がカギ”. 日経メディカルオンライン. 2012年12月3日閲覧。
  4. ^ トレシーバ®、小児に関する用法・用量の追加”. ノボ・ノルディスク (2015年8月26日). 2015年9月3日閲覧。
  5. ^ 持続型インスリン、デテミルとグラルギンの違いは?(前編)”. 日経メディカル. 2012年10月19日閲覧。
  6. ^ 剤形別一覧 プレフィルド/キット製剤”. 2014年10月25日閲覧。
  7. ^ 剤形別一覧 カートリッジ製剤”. 2014年10月25日閲覧。
  8. ^ 剤形別一覧 バイアル製剤”. 2014年10月25日閲覧。
  9. ^ インスリン製剤の基礎知識 3.インスリンの「単位」とは”. 日本薬剤師会 (2011年5月). 2015年9月3日閲覧。
  10. ^ 「ランタス®XR注ソロスター®」の製造販売承認取得について”. サノフィ (2015年7月3日). 2015年9月3日閲覧。