イデアル類群

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数学では、代数体 K (あるいは、もっと一般的にデデキント整域)の整数環)に対し、分数イデアル全体を JK とし、主イデアル(principal ideal)を PK としたとき、商群 JK/PKイデアル類群(ideal class group)(あるいは類群)と言う。イデアル類群は、をなすことが知られていて、一意分解が失敗するような拡大は、イデアル類群により記述される。(数体の整数環の場合に)この群が有限群であれば、群の位数類数と呼ぶ。デデキント整域の乗法的理論は、密接にこのイデアル類群の構造と結ばれている。例えば、デデキント整域が自明であることと、整数環が一意分解整域であることとは同値である。

イデアル類群の歴史と起源[編集]

イデアル類群(もしくは、むしろイデアル類群と実質的には同じもの)は、イデアルの考え方が定式化されるよりも以前に、研究されたこともあった。これらの群は二次形式の理論に現れる。整数係数の同次二次形式の場合、ガウスにより最終的に形をとされたものに入れると、合成法則は同次二次形式のある同値類で定義される。当時、すでに認識されていたように、同値類は有限アーベル群である。

後日、エルンスト・クンマー(Ernst Kummer)は、円分体の理論の仕事をした。1のべき根を使って分解することによっただけでは、フェルマーの最終定理の一般の場合を完全に証明することはうまくいかない。おそらく何人かは、これがうまくいかないことに、非常に合理的な理由があることを実感したであろう。素因数分解の一意性が、単元の根により生成されたでは必ずしも成り立たないことが、最も大きな障害である。最初のクンマーの仕事は、素因数分解の障害の研究であった。このことは、現在、イデアル類群のことと認識されている。実際、クンマーは、任意の素数 p に対し、単元の p-べき根の作る体の中から p-捩れ(torsion)を取り出した。この理由は、フェルマーの問題へ挑戦する標準的な方法がうまくいかなかったからである。(正則素数を参照)

いくらか後に、リヒャルト・デデキントイデアルの概念を定式化した。これはクンマーの方法とは異なる方法であった。この時点で、それまでにあった例を統一することができた。代数的整数の環がいつも素数に一意分解されるとは限らない(何故ならば主イデアル整域ではないので)ことに対し、全ての固有なイデアルは素イデアルの積への一意分解が可能である(つまり、代数的整数の環はつねにデデキント環である)という性質を持つことを示した。イデアル類群の大きさは、環が主整域であることからどれだけ離れているかを測る”ものさし”と考えることができる。環が主整域であることと、自明なイデアル類群であることとは同値である。

定義[編集]

R を整域とし、関係 ~ を R の非ゼロな分数イデアル上で、非ゼロな元 a と b で (a)I = (b)J となるときは、いつも I ~ J と定義する。(ここで記号 (a) は全ての a の倍数からなる R の主イデアル(principal ideal)とする。)このことが同値関係であることは容易に示すことができる。この同値類は R のイデアル類と呼ばれる。イデアル類はかけ合わせることができる。[I] でイデアル I の同値類を表すとすると、積 [I][J] = [IJ] はwell-definedであり、可換である。主イデアルはこの積について単位元を保存するようなイデアル類 [R] を形成する。このようにして、類 [I] は逆元 [J] を持つことと、IJ が主イデアルであるようイデアル J が存在することは同値である。一般に、そのような J は存在しないかもしれず、結局は、R のイデアル類の集合はモノイドである。

しかしながら、R が代数体代数的整数(algebraic integers)の環であれば、あるいはもっと一般的に、デデキント環であれば、上記で定義した積は分数イデアルの集合をアーベル群である R のイデアル類群へ移す。逆元の存在という群の性質は、容易に、デデキント環では全ての非ゼロなイデアル(R を除外して)は素イデアルの積であるという事実から示される。

性質[編集]

イデアル類群が自明であることと(つまり、ひとつしか元を持たないこと)、R の全てのイデアルが主であることとは同値である。この意味で、イデアル類群はどのように R が主イデアル整域であることから離れているかを測る。従って、一意な素因数分解から離れているかを測る。(デデキント環では、一意分解整域であることと、主イデアル整域であることとは同値である。)

イデアル類の個数(R の類数)は、一般には無限個のこともある。事実、全てのアーベル群は、あるデデキント整域のイデアル類群に同型となる。[1] しかし、R が代数的整数の環であれば、類数は常に有限である。このことは古典的な代数的整数論の主要な結果のひとつである。

類群の計算は一般にはむずかしい。ミンコフスキー境界英語版(Minkowski's bound)を使い、小さな値の代数的数の判別式の生成する代数体の整数環を扱うことで計算することができる。この結果は、環に依存しない結果で、全てのイデアル類が境界の値よりも小さなイデアルノルム英語版(ideal norm)を持つものとなる。一般にこの境界は、大きな値の判別式を持つ体の計算を実行するには不十分であるが、計算機を使うことでうまく働く。

整数の環 R からこれに対応する類群への写像は、函手的(functorial)であり、類群は代数的K-理論の先頭、K0(R) に含まれる。K0(R) は R へイデアル類群を対応させる函手である。さらに詳しくは、C(R) 類群として

K_0(R) = \mathbb{Z}\times C(R)

である。高次 K-群は、整数の環との関連で数論的に解釈し、扱うことができる。

単数群との関係[編集]

上記で注意すべき点は、デデキント環の中のイデアルがどのくらい元として振る舞うかという疑問への答えを、イデアル類群がもたらすことであった。答えの別なもう一つの部分は、デデキント環の単元のなす乗法群がもたらす。理由は、主イデアルから主イデアルの生成元を見つけるとき、単元を使うことが要求されるからである(さらに、これが分数イデアルの概念を導入するもうひとつの理由でもある。)。

K× から写像を、K× のすべての元にその元の生成する R の全ての非ゼロな分数イデアルの集合と定義する写像とする。この写像は群準同型であり、写像のは R の単数群であり、余核は R のイデアル類群である。この群が自明でないことは、写像が同型とならないことを測る。すなわち、イデアルを、環の元や、いわば、数のようには作用させることができないことを意味する。

イデアル類群の例[編集]

  • 整数の環 Zアイゼンシュタイン整数 Z[ω]やガウス整数 Z[i] (ω は 1 の立方根、i は 4乗根、つまり −1 の平方根)は全て主イデアル整域(実際、全てユークリッド整域)であり、従って、それらの類数は 1 である。すなわち、それらのイデアル類群は自明である。
  • k が体であれば、多項式環 k[X1, X2, X3, ...] は整域である。多項式環はイデアル類は可算無限個の集合である。

二次体の類数[編集]

d を 1 を除く平方数でない整数(異なる素数の積)とすると、Q(√d) は Q の二次拡大である。d < 0 であれば、代数的整数環 R の類数が 1 である Q(√d) は、d が次の値の時であり、このときに限る。

 d = -1, -2, -3, -7, -11, -19, -43, -67, -163\ .

この結果は、ガウス(Gauss)により予想され、クルト・ヒーグナー英語版(Kurt Heegner)により証明された。しかしながら、ヒーグナーの証明は、ハロルド・スターク英語版(Harold Stark)が後日、1967年に証明するまで、信用されていなかった。(スターク・ヒーグナーの定理英語版(Stark-Heegner theorem)を参照)これは、類数問題の特別な場合である。

他方、d > 0 の場合は、類数が 1 である Q(√d) が無限個あるかどうかが知られていない。計算機での計算結果は、非常に多くのそのような体があることを示している。しかしながら、計算機結果でも、類数が 1 である Q(√d) が無限個あるかどうかが知られていない。[2][3]

d < 0 のときは、Q(√d) のイデアル類群が Q(√d) の判別式に等しい判別式を持つ整数係数同次二次形式英語版(binary quadratic form)のイデアル類群と同型である。d > 0 に対し、イデアル類群は、整数係数同次二次形式の類群は Q(√d) の精密化された類群英語版(narrow class group)に同型だであるので、半分の大きさとなる。[4]

非自明な類群の例[編集]

二次体の整数英語版(quadratic integer)環 R = \mathbb{Z} [\sqrt{-5}] は、\mathbb{Q}(\sqrt{-5}) の整数環である。この環は一意分解環ではない。実際、R の類群は位数が 2 の巡回群である。イデアルは、

J = (2, 1 + \sqrt{-5})

であり、次のように矛盾へ至ることで、主イデアルではないことが分かる。Rノルム函数 N(a + b \sqrt{-5}) =  a^2 + 5 b^2 を持っていて、ノルム函数が N(uv) = N(u)N(v) を満たし、N(u) = 1 であることと uR の単元であることとは同値である。何よりもまず、 J \ne R である。何故ならば、イデアル (1 + \sqrt{-5}) をmoduloとする R の商環は、Z / 6 Z 同型であるので、J をmoduloとする R商環は、Z / 2 Z と同型となるからである。J が R の元 x で生成されたとすると、x は 2 でも 1 + √−5 でも割り切れねばならない。従って、ノルム N(x)N(2) = 4 でも N(1 + \sqrt{5}) = 6 でも割り切らねばならなく、N(x) は 2 を割らねばならない。N(x) = 1 ならば x は単元であり、J = R となるので矛盾へ至った。しかし、N(x) は 2 ではありえない。R はノルムが 2 である元は持たず、ディオファントス方程式 b^2 + 5 c^2 = 2 は整数には解を持たなく、modulo 5でも解を持たない。

また、J2 = (2) も計算でき、主イデアルであることが分かるので、イデアル類群の中の J の類はオーダー 2 を持っている。さらに計算を進め、これ以外のイデアル類はもうないことを示すことができる。

この J が主イデアルでないという事実は、また、元である 6 が異なる 2つの既約分解を持つという事実と関係している。

6=2 \times 3 = (1 + \sqrt{-5}) \times (1 - \sqrt{-5})\ .

類体論との関係[編集]

類体論代数的整数論の一分野で、与えられた代数体の全てアーベル拡大の分類を探す分野である。このことは可換なガロア群を持つガロア拡大を意味する。特に美しい例は、数体のヒルベルト類体英語版(Hilbert class field)であり、ヒルベルト類体はそのような体の最大不分岐アーベル拡大と定義することができる。数体 K のヒルベルト類体 L は一意で次の性質を持つ。

  • K の整数環のすべてのイデアルは、L で主イデアルとなる。すなわち、I を K の整数イデアルとすると、I の像は L の主イデアルである。
  • L は、K のイデアル類群に同型なガロア群を持つ K のガロア拡大である。

どちらの性質も証明することが簡単ではない。

関連項目[編集]

脚注[編集]

参考文献[編集]