イギリス気象庁

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英国気象庁
Met Office
組織の概要
設立年月日 1854年(163年前) (1854
管轄 イギリスの旗 イギリス
本部所在地 デヴォン州エクセター
行政官
上位組織 ビジネス・エネルギー・産業戦略省
ウェブサイト MetOffice.gov.uk

イギリス気象庁(イギリスきしょうちょう、: Met Office[注 1]、略称: UKMO[注 2])は、イギリスの国立気象機関で、ビジネス・エネルギー・産業戦略省執行エージェンシー及びトレーディング・ファンド英語版の一つ。天気予報から気候変動まで、すべての時間スケールにわたって気象予測を行う。本部はデヴォン州エクセターに所在する。英国気象庁英国気象局とも訳される。

歴史[編集]

英国気象庁は、1854年にロバート・フィッツロイ海軍中将の下、船乗り向けのサービスとして、商務院 (Board of Trade内に小さな部局が設立されたことに始まる。1859年10月にアングルシー島沿岸沖で、激しい嵐の中を航行していた客船「ロイヤル・チャーター号英語版」が難破し、459名の乗員の命が失われたことが、暴風警報サービスを提供開始する契機となった。フィッツロイは、国内の沿岸15ヶ所に観測所を設置してネットワークを構築し、そこから海上の船舶に対して目視による暴風警報を提供できるようにした。

当時の新技術である電信によって、警報を迅速に普及させることが可能になり、それはまた観測網を発展させ、総観解析[注 3]を提供するためにも使用することができた。1861年には、新聞に対して天気予報の提供を開始した。フィッツロイは、この仕事の助けとするため、他の気象パラメータを絶え間なく測定する気象測器のみならず、キュー天文台英語版の写真式自記気圧計(フランシス・ロナルズ英語版の発明品)を用いて観測した記録の毎日の敷き写しを要請し、それらの情報は後に観測網中の観測所に提供された[3][4]。予報の発表はフィッツロイの死後、1866年5月に一時途絶えたが、1879年4月に再開された。

国防省との関係[編集]

第一次世界大戦後、1919年に英国気象庁は空軍省の一部となり、気象観測業務はアダストラル・ハウス英語版(空軍省の拠点)の屋上で行われるようになった。この頃に、"The weather on the Air Ministry roof" (「空軍省屋上の天気」) のフレーズが生まれた。航空のための気象情報の必要性が高まると、各地にある空軍基地英語版内に気象観測および気象データ収集拠点を多数設置した。今日においても天気予報の中で空軍の飛行場に言及されることが多いのはそのためである。1936年には、一部の業務が海軍に分割され、本庁とは別に、独自に予報業務を行うようになった。

1990年4月、英国気象庁が国防省執行エージェンシーとなったことにより、準政府機関の役割として、商業的な活動も要求されるようになった。

所有権の変更[編集]

政治機構英語版の再編を受けて、2011年7月18日に英国気象庁はビジネス・イノベーション・技能省 (BIS) の一部となり[5]、続いてBISとエネルギー・気候変動省の統合により、2016年7月14日にビジネス・エネルギー・産業戦略省の一部となった[6]

今日ではもはや国防省の一部ではないにもかかわらず、英国気象庁は、国内と海外の双方にある空軍と陸軍の基地に置かれた第一線の部署を通じて、軍との強いつながりを維持しているほか、海軍と共に気象学と海洋学に関する統合運用センター (Joint Operations Meteorology and Oceanography Centre, JOMOC) に関与している。紛争時に前線部隊に随行して、戦闘地域で優勢に軍隊を展開するための助言を軍(特に空軍)に与える気象部隊である Mobile Met Unit (MMU) は、空軍の予備役兵でもある英国気象庁の職員から成る。

所在地[編集]

エクセターにある英国気象庁の建物

2003年9月に、8000万ポンドの建設費をかけてデヴォン州エクセターエクセター国際空港英語版A30道路 (A30 roadの付近に建てられた、気象業務専用の庁舎に本部が移転し、(あと数週間で創設150周年を迎える頃の)2004年6月21日に正式に開庁した。旧本部庁舎はバークシャーブラックネル英語版にあった。さらにアバディーンに予報センター、ジブラルタルフォークランド諸島に事務所を置いており、世界中に存在感を示している。そのほか、出先機関として、バークシャーのレディング大学内にメソスケール気象学のための合同センター (Joint Centre for Mesoscale Meteorology, JCMM) を、オックスフォードシャーウォーリングフォード英語版水文気象学英語版の研究のための合同センター (Joint Centre for Hydro-Meteorological Research, JCHMR) を設置している。ハドレー気候予測研究センター英語版も英国気象庁本部内にある。また、英国内外に所在する英国陸軍および英国空軍の基地内(紛争地帯の前線部隊も含む)にも英国気象庁職員が駐在する[7]。なお、英国海軍の気象予報業務は一般に海軍職員により独自に行われ、英国気象庁職員は関与しない。

予報[編集]

海上気象予報[編集]

英国気象庁発足当初からの伝統があるShipping Forecast(海上気象予報)は、英国気象庁が作成し、ブリテン諸島周辺の海域を航行する船舶に向けて、BBCラジオ4で一日に4回、放送されている[8]

天気予報と警報[編集]

荒天が予想される場合、英国気象庁は荒天警報を発する部局であるNational Severe Weather Warning Service (NSWWS) を通して、国内向けにSevere Weather Warning(荒天警報)と呼ばれる警報を発する。これらの気象警報は、交通インフラに影響を及ぼしたり、人命を脅かしたりするかもしれないことを人々に警戒するよう呼びかける。2008年3月には、警報システムが改善され、新たに"Advisory"(注意報)が導入された[9]

気象予測モデル[編集]

洪水予報センター[編集]

季節予報[編集]

放送事業者への予報の提供[編集]

特に、大手メディアのうちの2社、BBCITVは英国気象庁のデータを用いて予報を制作する。BBCウェザーセンターでは、コンピュ-タまたはFAX、電子メールなどにより寄せられた情報に基づいて、予報は連続的に更新される[10][11]BBCの新しいグラフィックス英語版は、BBCの全てのテレビジョン放送の気象情報で使用されているが、ITVウェザー英語版はアニメーション化された天気マークを使用している。BBCウェザーセンターの予報士は、BBCではなく、英国気象庁に雇用されている[12]。2015年8月23日、BBCは受信料支払者にとって、その金額に見合った価値の情報を提供するために、その法的債務の一部として、英国気象庁の代わりに、競合する民間気象サービス会社であるMeteoGroup英語版と契約することを発表した[13][14]。ただし、英国気象庁のデータを使用する海事沿岸警備庁を代表して発表するShipping Forecastと、英国気象庁によるNational Severe Weather Warning(荒天警報)の発表は継続される[15]

世界空域予報センター[編集]

英国気象庁は、世界にたった2箇所しかない世界空域予報中枢 (World Area Forecast Centre, WAFC) のうちの一つで、その立場においては、WAFC Londonの名で言及される。WAFC Washingtonとして知られる、もう一つのWAFCはアメリカ国立気象局 (NWS) が担っており、アメリカ合衆国カンザス州に置かれている。WAFCのデータは、(特に長距離輸送の)航空機の安全かつ経済的な航空路を定めるために日々使用される。そのデータは、風速と風向、気温、雲形と雲頂、その他の特徴の詳細情報を提供する。

航空路火山灰情報センター[編集]

航空気象予報業務の一環として、英国気象庁はロンドン航空路火山灰情報センター (London Volcanic Ash Advisory Centre, London VAAC) を運営している[16]。VAACは、航空産業に対して、航空機の飛行経路に侵入して航空の安全を脅かし得る火山灰雲の予報を提供するために、国際連合の専門機関の一つである国際民間航空機関 (ICAO) を中心に、世界気象機関 (WMO) と国際測地学・地球物理学連合 (IUGG) の協力の下に推進された、国際航空路火山灰監視計画 (International Airways Volcano Watch, IAVW) の一環として設立された[17][18]。世界の9箇所に設置されているVAACの一つであるロンドンVAACは、ブリテン諸島、北東大西洋及びアイスランドを責任領域としている。ロンドンVAACは、衛星画像に加えて、責任領域内の全ての活火山が位置するアイスランドから送られてくる、地震観測、レーダー観測、目視による観測のデータを利用する[19]。英国気象庁が開発したNAME拡散モデル英語版は、異なるフライトレベルで警戒情報の発表時刻から6時間先、12時間先、18時間先の火山灰雲の移流拡散を予報するために利用されている[18]

大気質[編集]

英国気象庁は、独自の中長距離大気拡散モデルであるNAME英語版を用いて作成された、大気質の予報を発表する。NAMEは元々、1986年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故を受けて、原子力事故モデルとして開発されたものであったが、以来、多目的拡散モデルへと進化し、幅広い種類の大気浮遊物質の輸送、変態、沈着を予測することが可能になった。NAMEは平時の大気質予報に用いられるだけでなく、緊急時対応モデルとしても使用される。エアロゾルの拡散はUKCAモデル (United Kingdom Chemistry and Aerosols modelを用いて計算される。

大気質の予報は、下表に示す様々な汚染物質とそれらが典型的に健康にもたらす影響のために作成される。

汚染物質 高レベルな健康への影響
二酸化窒素
オゾン
二酸化硫黄
これらの気体は肺の気管に炎症を起こし、肺の病気を患っている人の症状を増大させる。
微粒子 大気中の微粒子は肺の深くまで運ばれることがあり、炎症を起こして心臓病や肺疾患を悪化させるおそれがある。

IPCC[編集]

2001年まで英国気象庁は、ジョン・ホートン英語版を議長とする気候変動に関する政府間パネルの気候科学に関するワーキンググループを主催していた。2001年に、そのワーキンググループの場はアメリカ海洋大気庁に移された[20]

高性能コンピュータ[編集]

数値予報業務とUnified Model英語版の運用には大量の演算を要するため、英国気象庁は世界で最も強力なスーパーコンピュータのいくつかを所有してきた。1997年11月には、英国気象庁のスーパーコンピュータは世界第3位にランクインした[21]

導入年 コンピュータ 一秒あたりの演算回数 水平解像度(全球/局地) 鉛直層数
1959 Ferranti Mercury英語版 3 KFLOPS (N.A./320 km) 2層
1965 English Electric KDF9英語版 50 KFLOPS (N.A./300 km) 3層
1972 IBM System/360 195 4 MFLOPS (300 km/100 km) 10層
1982 CDC Cyber英語版 205 200 MFLOPS (150 km/75 km) 15層
1991 Cray Cray Y-MP C90英語版/16 10 GFLOPS (90 km/17 km) 19層
1997 Cray T3E 900/1200 430 GFLOPS (60 km/12 km) 38層
2004 NEC SX-6 2.0 TFLOPS (40 km/12 km) 50層
2006 NEC SX-8とSX-6 5.4 TFLOPS (40 km/4 km) 50層
2009 IBM POWER6 140 TFLOPS (17 km/1.5 km) 70層
2015 Cray XC40英語版 16 PFLOPS 1.5 km

測候所[編集]

観測所の機械化・自動化・無人化が進行しており、昼間(業務時間)や機器の故障時に有人観測を行うほかは、ほとんど無人である。多くの観測所では、天気を現在天気計や監視カメラで観測する手法が普及している。

気象研究ユニットとFAAM[編集]

歴代長官[編集]

関連項目[編集]

脚注[編集]

注釈
  1. ^ この名称は当初、旧来の正式名称であるMeteorological Officeの略称であったが、その後この略称が定着し、2000年11月に公的に正式名称として採用され[1]、使用されている。
  2. ^ United Kingdom Meteorological Officeの略。
  3. ^ 一定時間ごとの天気図を順に並べて概観し、動きと変化の激しい大気の状態を解析すること[2]
出典
  1. ^ Meteorological Office Archive”. 2013年12月5日閲覧。
  2. ^ スーパー大辞林
  3. ^ Ronalds, B.F. (2016). Sir Francis Ronalds: Father of the Electric Telegraph. London: Imperial College Press. ISBN 978-1-78326-917-4. 
  4. ^ Ronalds, B.F. (June 2016). “Sir Francis Ronalds and the Early Years of the Kew Observatory”. Weather 71: 131–134. doi:10.1002/wea.2739. 
  5. ^ UK Met Office switches departments in Whitehall shake-up”. Clickgreen.org.uk. 2011年7月18日閲覧。
  6. ^ Machinery of Government Changes:Written statement - HCWS94”. Hansard (2016年7月18日). 2016年7月22日閲覧。
  7. ^ Met Office defence: Supporting operations”. Webarchive.nationalarchives.gov.uk (2014年5月13日). 2014年6月30日閲覧。
  8. ^ Met Office Shipping Forecast key”. metoffice.gov.uk. 2009年7月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年11月18日閲覧。
  9. ^ Met Office warning colours”. Metoffice.gov.uk (2008年11月19日). 2010年5月15日閲覧。
  10. ^ Producing Weather Broadcasts”. BBC Weather. 2010年5月15日閲覧。
  11. ^ How the weather is forecast”. The Met Office (1954年1月11日). 2007年1月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年5月15日閲覧。
  12. ^ Met Office loses BBC weather forecasting contract”. 2015年8月23日閲覧。
  13. ^ “Met Office loses BBC weather forecasting contract”. bbc.com. (2015年8月23日). http://www.bbc.com/news/uk-34031785 2017年6月24日閲覧。 
  14. ^ BBC weather contract awarded to MeteoGroup”. MeteoGroup. 2017年6月24日閲覧。
  15. ^ Charters, Nigel (2015年8月24日). “BBC Weather: Why we run an open competition for the service”. BBC. 2017年6月24日閲覧。
  16. ^ London VAAC”. Metoffice.gov.uk (2008年11月19日). 2007年1月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年5月15日閲覧。
  17. ^ International Airways Volcano Watch”. Icao.int (2010年3月26日). 2010年5月15日閲覧。
  18. ^ a b 火山灰の輸送シミュレーションと航空路火山灰情報 (PDF)” (2010年12月9日). 2017年6月24日閲覧。
  19. ^ Overview of VAAC Activities presentation[リンク切れ]
  20. ^ Pearce, Fred, The Climate Files: The Battle for the Truth about Global Warming, (2010) Guardian Books, 978-0-85265-229-9, p. XVI.
  21. ^ Mark Twain, Kevin McCurley. “United Kingdom Meteorological Office | TOP500 Supercomputing Sites”. Top500.org. 2010年5月15日閲覧。
  22. ^ Reason and Light”. New Statesman. 2008年4月22日閲覧。

外部リンク[編集]