アーロンチェア
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アーロンチェアとは、1994年にDon Chadwick、Bill Stumpfらによってデザインされた、ハーマンミラー社の高機能デスクチェアである。
アーロンチェアは人間工学に基づいて設計されており、その多機能さやデザインセンスの良さから、高価格の高機能チェアの中でもアーロンチェアは、日本において最も知名度の高いデスクチェアの一つである。
1990年代後期から2000年代初頭におけるインターネット・バブルの象徴であり、ビジネスの成功者や名士のオフィスに、さりげなくアーロンチェアが部屋に置かれたグラビアなどが多数みられた。
雑誌「ニューヨーク」の2006年の記事では、アーロンチェアを「ドットコムの玉座」と呼称した。その一方で、アメリカのITバブル崩壊後、アーロンチェアを使用していた企業の倒産や業務縮小などに伴い、中古家具市場などにアーロンチェアが山のように放出され、「IT企業の墓場を連想させる」との感想も書かれた。
2016年現在、ハーマンミラーは累計700万台近くのチェアを販売しており、毎年100万台以上のチェアが生産されている。
概要[編集]
機能面[編集]
アーロンチェアは人間工学に基づいた椅子であり、多数の人々から非常に快適と評価されている。その理由として、ユーザーの体型・使用環境に応じて細かく調整できるカスタマイズ機能が挙げられる。これにより、一般的な体格である99%の成人であれば男女を問わず快適なデスクワーク環境を実現することができる。
実際にアーロンチェアに座ると、トランポリンのような弾力のある座面に加え、一般の低価格チェアにはないフワリとした不思議な感覚のリクライニング機能を体感できる。それと同時にしっかりと骨盤を受け止める構造となっており、長時間座っても疲れにくくなっている。前傾対応モデルでは、前傾しても背骨がまっすぐに維持されたまま机に向かえるため、肩こり・腰への負担が少なく疲れにくい。
さらにメッシュ素材の座面を採用したことにより、夏場でも蒸れることなく快適に座ることができる。また、回転時やリクライニング時においてもガタつきのないしっかりした構造となっている。
アーロンチェアは「高機能オフィスチェア」であり、あくまで利用者個人の体型にフィットした製品を利用することを前提としており、また前傾時のワークスタイルを支援するのが狙いとされている。
評価[編集]
現在では、画期的なデザインのためニューヨーク近代美術館において、「永久コレクション」としての地位を獲得している。この椅子のための市場開拓に際しての障害について、Malcolm GladwellのBlinkに記載されている。
日本にて、通商産業省による1996年度グッドデザイン賞のグッドデザイン金賞のオフィス・店舗用品部門を受賞している[1]。さらに2011年には、グッドデザイン賞の特別賞、ロングライフデザイン賞をも受賞した。
保証[編集]
ハーマンミラーおよびハーマンミラーの正規販売代理店から直接購入後には、「12年間の保証期間」が設けられており、劣化・消耗部品の多くが無償修理・交換の対象となっている(オークションなどの個人売買は保証対象外)[2]。
特徴[編集]
バージョン[編集]
- アーロンチェア (フル装備)
- ポスチャーフィット(もしくはランバーサポート)、前傾チルト、可動する肘掛け……などすべての機能を含んだもの。
- アーロンチェア ライト
- フル装備のバージョンとは異なり、「肘掛けを固定にしたもの」「肘掛けのないもの」から選択できるようになっており、「前傾チルト機能」が省かれている。フル装備のおよそ半額の公式ショップ価格12万6500円と低価格化を図っている。
素材[編集]
一般的な椅子に見られるような、布と綿を用いたクッションは用いられていない。その代わりに、ペリクルと呼ばれる網目状で柔軟性のあるメッシュが座席部分と背もたれに使用されている。このため通気性が非常によく、長時間にわたって作業をしていても蒸れたりすることがない。欠点としては冬場に寒く感じることがある点であるが、座布団を敷くなどの対策をしているユーザーもいる。
本体カラーと素材は、オニキス、ミネラル、カーボン、グラファイトの4種類のカラーが用意されている。
サイズ[編集]
サイズ別で大中小の3種類が販売されていることが挙げられる。サイズは背もたれ上部の取っ手の下にある、小さい点の数(1,2,3)で確認できる。異なるサイズがあることでより自分にフィットしたチェアを選択することができるため、疲労を感じる事なく作業をすることができる。
日本人の場合にはA/Bサイズが1:3くらいの比率で販売されており、成人の場合には多くの場合「Bサイズ」が標準といえる。この3種類のサイズにより、ほぼ99%の成人をカバーできるとされる(A~Bサイズでは、およそ95%ほどの成人をカバーするとされている)。日本ではA/Bサイズのみが常時販売されている。
ゆったりと座りたいという理由で、Cサイズを選択するユーザーもいる。Cサイズを購入する場合は「米国からの取り寄せ」となるため、納品まで3ヶ月前後かかる場合がある。
- Aサイズ(小) 145~165センチ(女性・子供) 体重55キロ未満
- Bサイズ(中) 160~185センチ(普通の男性) 体重50~80キロ前後
- Cサイズ(大) 180~200センチ(大柄な男性) 体重75キロ以上
機能[編集]
- ランバーサポート
- フル装備の際に選択可能な、骨盤支持システム。表裏を裏返すことで2種類の厚さを変更することができる。
- ポスチャーフィット
- ランバーサポートから進化した、骨盤サポート機能。
- 前傾チルト
- フル装備の際に選択できるオプション。前方に5度ほど傾斜させることで、正しい背骨の角度を保ったままデスク作業などが可能となり、疲れづらくなり腰への負担が少なくなる。また、絵などを描く際にもできるだけ真正面から見やすくなり、デッサンが崩れにくくなる。
- スツール
- その他、二段階の高さから選べるスツール(足置き)が、別売りオプションとして用意されている。
問題点[編集]
- 価格帯
- およそ12~30万円の市場価格であり、デスクチェアとしてはかなり高価な商品である。しかし、アーロンチェアには『12年の長期保証』があるため、日常的にデスク作業をして使用する者にとっては長期的なコストパフォーマンスは高く、144か月で月換算すると800~2100円ほどとなる。
- ヘッドレストが無い
- アーロンチェアは作業用の側面が大きいため、ヘッドレストが無く、リクライニングした場合には首に負荷が発生する。そのため、他社から「後付けヘッドレスト」が発売されており、これを利用するユーザーも少なくない。
- 背中・座面が寒い
- 背面・座面がメッシュであるため、冬場は寒く感じる事がある。その場合には、ブラケットなどの布を一枚掛ける事で解決できる。また、座面と肘掛けの調整も兼ねて、ザブトンを自作して使っているユーザーがいる他[3]、他社からアーロンチェア専用のクッションが販売されている。
- 姿勢を崩せない
- デスク作業用のチェアであるため、自動車のシートのように腰をしっかり保持するデザインになっており、趣味で遊んだりする際に姿勢を崩して座るような用途には向いていない。
アーロンチェアを使用している企業・著名人[編集]
高級感や満足感を求めている経営者だけでなく、長時間のデスクワーク作業を強いられるデザイナーや漫画家、慢性的な肩こりや腰痛などの持病をもつ患者など、多くのユーザーに支持されるに至っており、高い満足度は口コミ・ネット掲示板などで広がっている。
企業[編集]
- LINE - 本社オフィスの執務用チェアとして使用[4]。
- Facebook - CEOのマーク・ザッカーバーグが座っている写真が公開されている。
- ソニー - 会議室にて使用されている。
- バルミューダ - 開発室はすべてアーロンチェアで揃えている。
漫画家[編集]
- 尾田栄一郎 - 『ワンピース』
- 荒木飛呂彦 - 『ジョジョの奇妙な冒険』
- 冨樫義博 - 『HUNTER×HUNTER』
- 武井宏之 - 『シャーマンキング』
- 小畑健 - 『DEATH NOTE』
- 久保帯人 - 『BLEACH』
- 稲垣理一郎 - 『アイシールド21』
- 堀越耕平 - 『僕のヒーローアカデミア』
- 浅田弘幸 - 『テガミバチ』
- 田島昭宇 - 『多重人格探偵サイコ』
- 原秀則 - 『ジャストミート』
- 山本貴嗣 - 『最終教師』
- 黒丸 - 『クロサギ』
- かどたひろし - 『そば屋幻庵』
- CLAMP - 『カードキャプターさくら』
- 槇村さとる - 『おいしい関係』
- 安野モヨコ - 『働きマン』
- 西原理恵子 - 『毎日かあさん』
ミュージシャン[編集]
- 小山田圭吾 - (フリッパーズ・ギター)
- 中田ヤスタカ - (音楽プロデューサー)
- 富田勲 - (作編曲家)
クリエーター[編集]
- 庵野秀明 - (アニメ監督)
- さいとうなおき[5] - (イラストレーター)
- 原ゆたか - (絵本作家)
- 小山薫堂 - (放送作家)
- 高野孟 - (ジャーナリスト)
- 小山進 - (パティシエ)
- 水野学 - (デザイナー)
アーロンチェアが登場する作品[編集]
映画やテレビドラマなどにおいても「成功者の象徴」として、経営者役などの部屋にはアーロンチェアが置かれていることがある。海外ドラマ「Dr.HOUSE」のように、第1話からほぼ全編を通してアーロンチェアが登場する作品も存在する。
また、漫画やアニメなどの作品内においても、アーロンチェアが登場することも少なくない。
映画[編集]
- 2003年 ターミネーター3
- 2006年 NANA2
- 2006年 007 カジノ・ロワイヤル
- 2006年 ハードキャンディ
- 2010年 ソーシャル・ネットワーク
- 2012年 007 スカイフォール
- 2016年 シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ
- 2019年 キャプテン・マーベル
海外ドラマ[編集]
- 2004年 Dr.HOUSE - 主人公の名医ハウスの部屋の椅子として使われている。
- 2007年 ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則
テレビドラマ[編集]
- 2011年 TOKYO コントロール - 主幹管制官のチェアとして使用された。
- 2012年 悪夢ちゃん - 研究室において置かれていた。
- 2013年 安堂ロイド - 主人公の沫嶋の座っていた。
- 2014年 ヒガンバナ〜女たちの犯罪ファイル - 七課の刑事・来宮渚が座っていた。
- 2015年 銭の戦争
- 2016年 逃げるは恥だが役に立つ - 主人公の津崎平匡が書斎で使っている。
- 2017年 セシルのもくろみ - 編集長の椅子として登場。
- 2019年 新しい王様 - 登場する経営者たちの椅子として登場。
アニメ[編集]
漫画[編集]
- 2006年 咲-Saki- - 原村和の自室のチェアであり、全国大会編でも使われている。
- 2018年 異世界おじさん - 主人公のおじさんは、アーロンチェアらしき椅子に座っている。
- 2020年 推しの子 - 第45話で脚本家、第48話で漫画家、第69話では有馬かなが使用している[8]。
- 2021年 トリリオンゲーム - 主人公ハルが、相棒ガクのために贈った椅子として登場する。
関連項目[編集]
出典[編集]
- ^ グッドデザイン金賞 1996年 商品デザイン部門
- ^ ハーマンミラー:保証とサービス
- ^ 厚手のザブトンだと背骨のカーブと合わなくなり腰が痛くなる原因になるため、薄手にしたほうが良い。
- ^ https://www.shigotoba.net/line_1706_5_isukore.html
- ^ 2022年現在は、ハーマンミラー社の『エンボディーチェア』を使用している。
- ^ 2005年5月8日の放送回「Thank God, It's Doomsday」
- ^ 冒頭1分のシーン。高校時代には、もっと安っぽい椅子を使っている。
- ^ 【推しの子】コミックス第5巻、第7巻。