アルパイン・クライミング

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アルパイン・クライミングとは、直訳すると「ヨーロッパアルプス風の山登り」ということになるが、通常、山岳地域における岩壁登攀を意味する。

目的[編集]

フリークライミングと違い、主たる目的が頂上へ登ること、および壁自体をともかく登り切ることにあるので、フリークライミングの技術に加え、人工登攀エイドクライミング)の技術も用いて登る。近年ではアルパインクライミングの再定義が『岳人』誌上で活発に行われ、従来アルパインクライミングの範疇とされてきた夏の山岳地域における岩壁登攀はアルパインクライミングではないとする意見もある(実際、日本では夏の山岳地域における岩壁登攀は「本チャン」と呼ばれる事の方が多い)。

手段・方法[編集]

アルパインクライミングは単独で行われることもあるが、多くの場合は2人かそれ以上のパーティが組まれる。2人の場合、お互いにロープで結ばれた状態で、片方がリードしている間はもう片方がビレイ(確保)する隔時登攀(スタカット)が行われるが、簡単なところや、雪の斜面でビレイの意味がないような場合は、2人が同時に登る同時登攀(コンテニュアス、通称コンテ)が行われる。コンテ行動時も、リードが中間支点を設置し、ロープを通すことによって、ある程度の安全性は保たれる。

前進手段の限定度合いによって二つの選択肢がある。

フリークライミング[編集]

アルパインクライミングでも、主たる前進手段はフリークライミングである。積雪期は「アイゼン手袋」の状態で登られることが多い。

人工登攀[編集]

どうしても手足、あるいはクランポンやバイルでは突破できない場合、カムやナッツ、ピトンやフックといった物をセットして、それにあぶみ(縄ばしご)をかけて登る人工登攀で突破することになる。ボルトは打とうと思えば何処にでも打てるため、かつては直線的にボルトを連打したルートが量産されたが、現在そういったルートは否定される傾向にある。先鋭的なクライマーの間でも、ボルトを使うか使わないか、あるいは使うとしてどういった場合なら許容され得るのか、といった論争がある。ボルトは消し去るべきだという者もいれば、ルート中の一部ならOKではないか、といった意見もある。また、人工的手段を用いた場合、Aで表記されるグレードをつける。A0はピトンを足場にしたり、ヌンチャクをつかんで登った場合などに示される。あぶみを用いた本格的な人工登攀は、墜落予想距離によりA1からA5までの表記で示される。

登る壁の状態によって幾つかの分類がある。

アイスクライミング[編集]

積雪期に、頂上に至る合理的なルートとしてルンゼを選択した場合、もし氷が発達していれば、氷にアイスバイルとクランポンを突き刺して登るアイスクライミングが行われる。アイスクライミングは刺激的なクライミングでありそれ自体が興奮的で、かつスピーディに登攀でき、氷が厚ければアイススクリューによりインスタントかつ強固な支点が設置できるが、たいていの場合、地球温暖化の影響で氷が発達しておらず、薄く張った氷(ベルグラ)に肝を冷やしつつ登ることになる。

ミックスクライミング[編集]

アイスクライミングでルート上の氷が途切れ途切れに出てくるような場合はミックスクライミングと呼ばれる、岩にクランポンやバイルを引っかけて登り、時折出てくる氷に乗り移るという感じである。

近年、北海道や東北では、近郊の岩場の大ハングにあらかじめ設置されたボルトを支点として用いる類のミックスクライミングが行われているが、これはどちらかと言えばフリークライミングにおける「ゲレンデ」に近く、「スポートミックス」と称される場合もある。

本来、アルパインクライミングといえるものは、氷河より上の標高帯で行われるもので、スコットランドにおけるベン・ネビス山の各ガリーの登攀がアルパインと呼ばれないのもこの理由によるものである。日本でも、過去においてさまざまな議論がなされてきたのだが、現在最前線で登攀を行っているものの見解は、本来の意味に戻そうというものが主流だ。日本各地から現役クライマーが集まって行われているウインター・クライマーズ・ミーティングのネーミングが、アルパインクライマーズ・ミーティングではないのは、そのような事情によるものだ。

しかし、そのような若手の出現に影響を受けない世代が、クライミング人口の多数を占めるため、一般的には次のような認識である。

具体的なアルパインクライミングの例[編集]

以下に、アルパインクライミングとされているクライミングのケースを挙げる。

  • 夏期における、山岳地域の岩壁登攀(いわゆる本チャン)。
  • 国内積雪期における、夏に開拓されたルートの登攀。いわゆる冬壁。
  • 国内積雪期における、山岳地域の岩壁中に存在する氷結した滝やルンゼ、あるいは急峻な雪稜などを対象とした、積雪期にしか登れないルートや、積雪期であることでより楽しめるルートを登る冬季登攀。

などがある。林道などからほど近いエリアで行われるアイスクライミングやミックスクライミングをアルパインクライミングとするかどうかは議論の余地がある。

また、近年さかんに行われている、泳ぎや突破を多用するゴルジュを対象とした沢登りは、「本チャン」以上にアルパインクライミング的である場合が少なくないが、そうした沢登りをアルパインクライミングと称する場合は少ない。沢登りはアルパインクライミングの一分野というより、日本独自の登山形態といえ、フリークライミングやアルパインクライミングの技術が導入されたことにより新たな局面を迎えている状況である。

本チャンとマルチピッチ[編集]

山岳地域における岩壁登攀を指す。似たような言葉で近年「マルチピッチ」という言葉が多用されるようになってきたが、相対的に見て、両者には以下のような違いがある。

  • 本チャンでは人工登攀が容認されるが、マルチピッチでは容認されない場合が多い。
  • 本チャンのルートにくらべ、マルチピッチと言われるルートの岩は比較的硬い。
  • 本チャンは山岳地域の核心部で行われ、マルチピッチは山岳地域の前衛峰的地域や近郊など、比較的アプローチの良いところを対象としていることが多い。

気象条件を考えれば、山岳地域でフリークライミングによる登攀を追求することは難しく、気象条件のやさしいエリアでフリークライミングによる岩壁登攀が追求されるのは道理に適っているが、スピードと体力、テクニックを兼ね備えた一部のクライマーは、山岳地域の核心部にある大岩壁を、一般的なマルチピッチの感覚で登っており、どこまでをマルチピッチと呼びどこまでを本チャンと呼ぶかは本人の資質による部分もある。壁自体が持つ雰囲気も多分に影響していると思われる。

アルパインクライミングの用具[編集]

無雪期の場合[編集]

カミングデバイス(カム)やナッツといったトラディショナルクライミングでも使う道具の他に、ピトンやフックといった道具を使う場合もある。ピトンはカムやナッツの使えない細いクラックにハンマーで叩き込む。打設状況によって支持力は大きく変り、ロストアローのような太めのピトンがばっちり決まれば相当な安心感がある。逆に、本チャンに行けばボロボロにさびた軟鋼ピトンが多く残置されており、これらのほとんどは墜落には耐え得ないし、人工登攀の前進用としても信頼できるものではない。フックは文字通り岩に引っかけて使うフックで、主に前進用である。

冬季登攀の場合[編集]

無雪期よりも厚い衣類を着込む。多くの場合、化繊の下着に毛や化繊の中間着、一番外にゴアテックスなどで加工されたアウターを着込むスリー・レイヤード・システムが採用されるが、近年、ソフトシェルの登場などにより見直しが進んでいる。ウェアはハイカーからクライマーまで需要が高いので、移り変わりが激しく、「はずれのない」ウェアは雑誌や用品店の店員に確かめるのが一番であるが、ベストなレイヤードを目指すのであれば、ロックアンドスノーの連載記事であるハードコア人体実験室で著者の実体験と理論に基づいたレイヤードが紹介されている。直接クライミングに関わる品としては、アイススクリューやアイスピトン、スノーバーやデッドマンなどのプロテクションが夏用装備に加わる。

また、足回りは、冬用の重登山靴ないしプラスチック・ブーツにクランポン(アイゼン)を装着する。雪が多い場合は、クランポンの代わりに輪かんじきスノーシューを装着する。

手にはアイスアックスを持つ。アイスアックスは、冬山縦走などに用いるクラシックデザインのものはピッケルと呼ばれ、アイスクライミングなどで使われるシャフトやピックがカーブしたものはバイルと呼ばれることが多い。カーブが大きいほど、傾斜が強い箇所で頼りになるが、傾斜の緩いところでは、あまりにも大きいカーブのバイルは使いづらくなる。吹雪の際にはゴーグルで目を保護する。

グレード[編集]

岩の難度を表す指標として、グレードの表記法が規定されているが、実際にはグレードを付ける者の主観に基づく為に常に議論の的となっている。自然の岩場でのグレード値はエリア内での相対的な難度を示す、一応の目安ぐらいの位置づけとなっている。

無雪期のグレード[編集]

無雪期は、RCC IIグレードが多く用いられる。RCC IIグレードはI級からはじまり、数字が増えるごとに難しくなっていく。大体VI級がフリークライミングで使われるヨセミテ・デジマルシステムにおける「5.9」に相当し、慣例的に、これ以上の難度の場合はデジマルシステムで表記することが多い。従って、現在のフリークライミングの水準から言えば、RCC IIグレード○級といったルートは容易に見え、実際のところムーブ自体は簡単なのであるが、プロテクションの悪さや高度感がプレッシャーとなる。こうしたことから、本チャンの主観的な手強さはフリークライミングのルートにおける4グレード前後上のものと同等に感じると言う者が多い(例えばVI級は5.10台後半に相当する)。

積雪期のグレード[編集]

ジェフ・ロウの提唱したグレードがアイスクライミングやミックスクライミングでは定着した感がある。ジェフ・ロウの定義によると、氷瀑のような純粋なアイスクライミングはWI(ウォーターアイス)、ミックスクライミングはM、雪稜のような柔らかい雪や奮闘的な雪はAI(アルパインアイス)とあらわし、これらの英字のあとに難度を表す数字を付ける。WI4、M4、AI4、は性質こそ違えどそれぞれ同程度の難度で、フリークライミングのヨセミテ・デジマルシステムになおすとだいたい5.8~5.9になるとされている。現在、スポーツミックスの世界ではM12程度(ジェフ・ロウによるとM8が5.13に相当)の課題が最先端となっている。アルパインクライミングでも、アラスカでは長大なルートにM7~8クラスの核心が登場するルートが拓かれている。

練習方法[編集]

基礎となるのはフリークライミングのスキルと体力、それに経験である。従って、平日は仕事帰りにクライミングジムなどでフリークライミングを行い、週末は山岳地域の岩壁に挑んだり、近郊の「本チャン向けの岩場」をスピードを意識して登る、あるいは本数をこなすなどして経験を積んだり、平日のジムでは鍛えられない部分を鍛えるのが一般的である。

著名なアルパインクライマー[編集]

日本[編集]

日本以外[編集]

関連項目[編集]