アルキメデスの大戦

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アルキメデスの大戦
ジャンル 軍事歴史
漫画
作者 三田紀房
出版社 講談社
掲載誌 ヤングマガジン
レーベル ヤングマガジンKC
発表号 2015年52号 -
発表期間 2015年11月21日 -
巻数 既刊8巻(2017年11月6日現在)
テンプレート - ノート

アルキメデスの大戦』(アルキメデスのたいせん:The great war of Archimedes)は、三田紀房による日本漫画。『ヤングマガジン』(講談社)にて、2015年52号から連載されている。

概要[編集]

日本海軍の造船を初めとする当時の技術戦略をテーマにした作品。「これからの戦争は航空機が主体になり、巨大戦艦は不要になるであろう」と考えている山本五十六海軍少将が、平山忠道造船中将が計画している無駄に大きい巨大戦艦の建造計画案ではなく、対航空機戦闘を考えた藤岡喜男の案に賛成する。一方、平山は不当に安い見積もりで、自らの巨大戦艦の建造案「大和」を新型戦艦造船会議で通したいと考えていた。平山の計画を阻止するために、山本により抜擢された、元帝大生の櫂直を海軍主計少佐に任命する。櫂少佐とその部下田中少尉は、特別会計監査課の課長として、平山案の見積もり金額の嘘をあばくために奔走する。

単行本3巻の帯には、映画監督アニメーター庵野秀明が、6巻の帯には、漫画家かわぐちかいじが、8巻の帯には秋本治がそれぞれ推薦コメントを寄せている。

三田によれば、『ドラゴン桜』執筆以前に本作の構想を練っていたが諸事情でこれを断念し、代案で提案したのが『ドラゴン桜』だったとのこと。その後『砂の栄冠』終了後の次作の構想を練っている中で国立霞ヶ丘陸上競技場改修関連のニュースを聞き、「(改修費用の話題が出た時に)戦艦大和の建造時もこんな風だったのだろう」という思いと共に本作の構想を思い出し、そこからゴーサインが出たという[1]

あらすじ[編集]

1929年(昭和4年)の世界恐慌が日本をも直撃して、日本の国力は疲弊する。日本は国力の回復をもくろんで中国大陸への進出を挑む。1932年(昭和7年)に大日本帝国陸軍の関東軍満州を占領し、満州国樹立を宣言する。その結果、同じく中国大陸進出を狙う欧米列強と対立を深める。そのため、海軍の軍事力の強化が図られた。帝国海軍を象徴する、純国産型最新大型戦艦の建造を目指す機運が高まる。

そして、1933年(昭和8年)に海軍省で新型戦艦建造計画会議が行われた。海戦のために大きな主砲を持つ戦艦を重要とする海軍造船中将平山忠道たち(大艦巨砲主義派)と、海戦の優劣は航空機による制空権掌握で決まるとしている藤岡喜男造船少将ら(航空主兵主義派)の案の、両者のどちらの案を採用するかが話し合われることになった。

海軍の主力兵器を航空分野へ切り替えようともくろむ山本五十六はある若者をその席へ招聘しようとする。それは日本の軍事史に一大転換をもたらす若き英雄譚の始まりでもあった。

登場人物[編集]

海軍[編集]

櫂 直(かい ただし)主計少佐
本作の主人公。元東京帝国大学数学科の生徒。22歳。英語やドイツ語を含む複数の語学にも堪能な上、数学的な発想に優れた天才として周囲の期待を集めていた若者。
尾崎財閥の令嬢の家庭教師をしていたが、令嬢とのスキャンダルを疑われて退学に追い込まれる。日本に嫌気が差し、アメリカに留学する予定であったが、平山中将の巨大戦艦建造計画を阻止するために、山本五十六から海軍に誘われる。最初は拒否したが渡米する直前に考えを変えて海軍に入省。山本より、主計少佐に任命され、海軍省経理局特別会計監査課の課長として働く。
数学が得意分野だが、実はその特性を生かせるあらゆる分野で卓越した実力を発揮しうる英才であり、政治的な洞察にも長け、優れた人心掌握能力で陸海のみならずあらゆる分野の俊才達を惹き付ける人間的魅力を持つ。
海軍戦略の主軸として、戦艦に代わる距離攻撃手段としての航空機と無資源国日本にとって脅威となる通商破壊用兵器としての潜水艦の存在に目を向けるなど、当時としては破格な戦略眼の持ち主。
彼の活躍でこの物語の日本は史実よりも合理的な国防戦略を整えていく様相を見せていく。
戦闘機の開発と配備政策面の陸海統合を目論み、海軍の新型戦闘機競争試作に参入すべく海軍航空廠の有志と共に艦上戦闘機を開発。その試作一号機(史実の三菱九試単座戦闘機試作二号機に近い機体)が試験飛行で失われると、試作二号機の再設計に当たり、主翼接合部の剛性向上と軽量化を図るため、通し桁を用いて左右翼を一体製造する先進的な設計(史実の97式戦闘機で採用された構造)を考案し、さらなる改良を求めて速度性向上策の一環としてプロペラ機構を恒速三翅式へ変更させるなど、より先進的な技術を盛り込んで、史実に数年先んじた技術的特性を持つ機体(ゼロ戦九六式艦上戦闘機の中間的機体)へと完成させ、三菱製新型戦闘機との模擬空戦に挑む。
一旦は、勝利を収めるものの審査会議における源田大尉の誣告で失格させられたが、残された空母への着艦試験を成功させ、起死回生の逆転を果たす。
ドイツ側との技術情報交換の席上でドイツが研究中のガスタービンエンジン軸流式ジェットエンジン)の技術導入交渉を成功させ、世界最先端の技術に挑める機会を得たことで会心の笑みを浮かべる(正式な技術資料を用いた形での和製ジェットエンジンの開発を史実より7年以上早めることとなった)。
ジェットエンジンの恐るべき可能性を考察し、苦労を重ねて採用にこぎつけた空技廠製戦闘機すら旧式機へと化しつつある現状と、航空先進国の戦闘機開発がすでに新たな次元へ踏み出しつつあることを直視すると、ジェットの戦力化による軍事戦略体系の激変を確信し、もはや旧時代の兵器にも等しい巨大戦艦の建造計画を今度こそ叩き潰そうと決意を固める。(しかし、艦載機のジェット化が巨大空母を必要とするところにまでは気付いていない様子である。)
呉の船渠拡大工事の情報で巨大戦艦建造計画の復活を察知すると、呉へ赴いて状況を視察するがスパイ嫌疑で呉警備隊に拘束されてしまう。
そこで現場の最高責任者である平山忠道中将と対決し、その言い分を聞いた上で、兵器開発は感情で進めてはならないと一蹴して平山達の設計した大和の設計を駄作と切捨て、平山中将や小石川大尉に問われるままに航空戦が主流となる時代に必要な設計として、船体を300m以上に延伸し、(ドイツから技術導入の決定した)ガスタービンエンジンを装備して速力の向上と艦内スペースの効率化を図ると同時に船体の大部分を覆う多層式水中防御と強化した注排水能力で航空機の攻撃をもしのぐ性能を実現する「世界最大最強の戦艦・大和」の具体案を示す。
帰途に嶋田ら戦艦派の策謀に備え、長門の設計図を大和の設計図のように所持しておくことで高任中尉の策謀を回避し、山本に新型戦艦の図面を引き渡すことで戦艦派の動きを封じる策を万全なものにすると、自分の役目は果たしたとばかりに海軍省からの離職を申し出て、佳つ世と温泉旅行に出るが、そこで永田鉄山暗殺の知らせを受け、彼の死に乗じて愚昧な軍人達が台頭していく情勢の行く手に熾烈で絶望的な日米戦争の未来を予感し、永田の遺志を受け継いで軍人として救国の人生を選択する。
丹原康介と今後の展望について話し合い、このままでは亡国の対米戦争が現実のものになることを知り、世界最大の工業国家であり、工業用原材料の主な輸入元でもあるアメリカとの関係冷却化を選びかねない状況に一層危機感を深める。
永田の死によって陸海戦闘共同開発計画が頓挫した為、より画期的な航空戦用兵器の開発を検討しなければならなくなった時、逆に効果的な軍備体系に拘りすぎて、戦争防止というよりも開戦の為の準備をしていた状況に気付き、これでは(米国側に開戦の意思があった場合等に)容易に戦争へ突入してしまうと考え、逆に米国側の軍備計画をコスト過大なものへ誘導し、際限なき対立構造へと誘導する罠として世界最大級の巨艦・大和の建造計画を利用しようとするが、まだ実用化にいたっていないガスタービンの採用問題で意見がこじれてしまい、平山と対立してしまう。
田中 正二郎(たなか しょうじろう)海軍少尉
海軍省経理局の特別会計監査課所属。櫂の直属の部下。25歳。櫂より年上だが、上官である櫂に付き従っており、櫂とともに奔走する。様々な分野の問題で発揮される櫂の優れた才幹に接し、強い敬意の念を覚え、櫂こそが海軍改革の旗手足りうる人物と見なすも、その離職の意志を知り、櫂にはこのまま海軍の中で出世して欲しいと願っていたが、永田暗殺後に櫂から離職撤回の決意を知らされて喜ぶ。
山本五十六(やまもと いそろく)海軍少将
第一航空戦隊司令官。兵器運用の中心が戦艦よりも航空機に移りつつある時代の流れを感じ取っており、平山の巨大戦艦建造計画を阻止し、藤岡の設計した航空母艦の建造計画を進めるために、櫂直を海軍に招き入れる。海軍軍重鎮の中では比較的先進的な発想を持つ切れ者とは言えるが、その思考は海軍軍人としての枠を出るほどとは言えず、迫りつつある世界大戦の嵐を切り抜けるにはまだ不十分なところがある。
軍縮条約破棄により、このまま本格的な建艦競争になれば巨大戦艦建造に国費と資源を浪費することになると危惧し、次期主力戦闘機競争試作期間の大幅短縮を宣言するが、技術的な競作試験に関わる以上、知るべき最低限の技術情報を学ぶことなく審査会議に望んだため、源田実大尉の強引な意見の欠陥を見抜けないまま、模擬空戦で敗れた三菱製の機体を空戦の実質的勝利者だとして、その採用を認めてしまい、後にその経緯を知った櫂から、海軍の改革者であるかのように振舞う山本自身に海軍組織(の問題点)への認識や必要な知識が不足していることを懸念される。
源田の主張を入れて採用を決定した新型戦闘機の着艦試験でドイツ視察団の眼前で大事故を起こしてしまい、面目をつぶされるが、櫂の手配で飛来した航空廠試作機による着艦試験に賭け、その成功と共に正式採用を決定した。
どれほど不利な状況でもあきらめずに勝利の算段を立て続け、冷静沈着な采配で味方を奇跡的な勝利へと導く櫂の力量を評価し、真に頼れる優秀な部下として強い好意と信頼を寄せるようになる。
櫂が入手した新型戦艦の設計図を検分したことで、嶋田の策謀の証拠を手に入れるも櫂の離職願いを受けて、「これほど優秀な男を手放すわけには行かない」と策をめぐらそうとするが、永田暗殺の知らせを受けて、この事件に呼応する軍内部の極右勢力暴走に備えて戦艦へ転居するが、その隙を嶋田に突かれてしまい、巨大戦艦建造計画の中絶を手配しそこなったばかりか、東條と嶋田による陸海急進派の提携まで許してしまう。
藤岡 喜男(ふじおか よしお)造船少将
海軍艦政本部第四部基本設計主任。対航空機戦闘のための航空母艦の直掩用の戦艦を設計する。山本五十六と仲が良く、山本に櫂直を抜擢してもらい、巨大戦艦建造を計画していた平山中将と争うが、櫂の飛びぬけた才幹に畏怖の念も抱く。
櫂の活躍により、新型戦艦建造計画は藤岡案が採用されるも、翌年1934年3月12日に藤岡が設計した水雷艇「峰鶴」が転覆事故を起こし[2]、犠牲者100名という大惨事となる。後日の査問委員会では藤岡の設計不良が指摘され、櫂は一概に藤岡の設計不良だけが原因とは言えないと上申を提案するも、藤岡は全責任をとる意向を伝え、直後に自決した。生前に櫂宛の遺書を残しており、自身が設計した艦艇設計図の複写を基に櫂に今後の兵員の安全のため、船体改修案を考案するよう託す。
モデルとなった人物は藤本喜久雄[要出典]
永野修身(ながの おさみ)海軍大将
横須賀鎮守府司令長官。新型戦艦建造計画会議のメンバーで嶋田は政敵であるため、藤岡案を支持する。山本の推薦により、大角大将に櫂の入省を要請する。
周囲の言動に振り回されやすく、浅慮なところもあり、櫂から信用の置ける人間ではないと見なされている。
平山 忠道(ひらやま ただみち)造船中将
海軍技術研究所所長。新型戦艦建造計画会議のメンバーで、巨大戦艦「大和」を設計して建造する計画を立てている。優秀だが設計思想が保守的な傾向がある。尾崎財閥とは癒着関係にあり、自分の建造案を通すために会議で不当に安い見積もりを出した。会議にてそのカラクリを櫂に暴かれて糾弾されるも、機密保持を理由に居直るが、櫂に安全想定基準の見積もりの甘さを指摘されると自身の計画の欠陥を認め、計画案を取り下げる潔さを見せた。その後、小石川経由で提供された櫂の船体改修案を上層部に提起、政敵であった藤岡の死去もあり、海軍内での権威をより高めており、技術畑ではあるが、戦艦派の高級将校としてその影響力は大きな人物。
櫂を自分の障害となる人物として認識はしているが、同時にわずか一週間でプロの軍艦設計者並みの実力を見せたその才能を評価もしており、後に櫂のもたらした艦艇改修案を検分した時は「天晴れ」と絶賛し、(皮肉交じりではあるが)謝意を表すまでに至っている。
その一方で、自分の後ろ盾でもある嶋田繁太郎の冷酷かつ身勝手な言動に辟易したものを感じており、立場はともかく心情としては櫂に近い所があり、強い気迫と理路整然とした態度で自分の前に立ちはだかる一方、自分ですら思いも寄らない高度な技術的発想を開示してくる櫂に対し、密かな好意すら抱いている。
航空派の油断を誘うべく、建艦計画の排水量を半分に公表しつつ、巨大戦艦建造に向けて呉の船渠拡大工事を推し進めていくが、そこへ押しかけた櫂の並々ならない気迫を受け止めるとスパイ容疑からかばった上、その知略と意志の強さを試すかのように対峙する。
櫂の判断基準があまりにも兵器の性能評価に偏っていると見て取ると、櫂を造船船渠の改修現場へと招き入れ、巨大戦艦の建造が莫大な雇用を創出し、景気浮揚の一助となっていることを説明し、さらに巨大戦艦の存在が駆逐艦のような脆弱な艦に乗る兵たちの心のよりどころになっていることを説くが、櫂から感情論で兵器開発を語っていると指摘され、一挙に追い詰められてしまう。
そこで、櫂が見ても納得のいく新時代の戦艦の技術的条件を聞き出すことを思いつき、あえて(自分達が設計したほうの)大和の建造計画の破棄を決断して見せることで櫂を油断させた上で「世界最大・最強の戦艦・大和」の具体案を聞き出すことに成功し、櫂の卓越した天分にさらに惚れ込むと同時に、櫂をも納得させるほどの画期的な設計案をその櫂自身から聞き出したことでついに建造すべき大和の具体案を知り、ほくそ笑む。
櫂によって巨大戦艦建造計画の中止が決定的なものとなり、嶋田に切り捨てられかけるが、櫂から大和建造への協力を打診され、一旦は歓喜するものの、技術的に未開発なガスタービンを主機とする櫂の意向に難色を示し、それがきっかけで袂を分かつ羽目となる。
モデルとなった人物は平賀譲[要出典]
小石川達郎(こいしかわ たつろう)造船大尉
海軍技術研究所の平山忠道の部下。東京帝国大学工科大学造船学科の卒業生で巨大戦艦の建造に夢をかける戦艦オタク。既に巨大戦艦の模型を作成している。櫂とは対立する立場にあるが、その人格と才能を高く評価もしている。
性格が率直なためか、櫂からも平山に比べれば好感を抱かれており、藤岡の遺志により作り上げた船体改修案を小石川に託している。
自分と平山が心血を注いだ「(史実に近い構造の)大和」の建造が中止されたことで一旦落胆するものの、その櫂から「新時代にふさわしい新たなる大和」の設計案を聞いたことで、その建造への意欲を燃やし、櫂の提示した設計図に魅せられる。
大西瀧治郎(おおにし たきじろう)海軍大佐
横須賀海軍航空隊副長。次期主力戦闘機採用試験を控えた櫂の前に源田実淵田美津雄らを引き連れて対面した。海軍戦術の主力を航空分野へ切り替えようとする航空派の有力士官で、山本五十六との繋がりも深い。知恵と実行力にあふれた櫂の活躍を頼もしく感じており、航空派の同志として接する。
源田実(げんだ みのる)海軍大尉
横須賀海軍航空隊分隊長。櫂とは次期主力戦闘機採用試験の性能評価試験のための搭乗員として淵田美津雄と共に対面した。海軍戦術の主力を航空分野へ切り替えようとする航空派閥の士官だが、生え抜きの海軍軍人でもない櫂に対して特に好意も感じていない。戦闘機の正式採用を検討するに当たって製造コストに目を配るあたり、基本的に優秀な人物ではあることは確かだが、自信過剰なあまり自分の視点や経験に拘り過ぎる視野の狭いところがある上、周囲を自分の望む方向へ引っ張ろうとする程に我の強い面もある。
飛行機乗りとしては鈍足高機動の複葉機時代から抜け出しておらず、速度性や高空での飛行性能よりも二次元的な水平方向での機動性を重視する一方、上下方向への機動戦闘を危険かつ困難であるという理由(実戦でそんな考えは通用しないという事実を模擬空戦の結果から感じ取れないほど鈍いと言える)で忌み嫌う傾向もあり、防弾性能に対する重要性をかけらも感じていないためか、模擬空戦の初撃で(防弾装置を設けたはずの)航空廠製の戦闘機側の敗北が決定的であるかのように主張し、三菱製戦闘機の採用へと審査会議を誘導した。だが、その事実を知った櫂や坂巻から、自分の都合で道理を捻じ曲げ、組織を振り回す身勝手極まりない人物と見なされる。
空母への着艦試験で三菱製新型戦闘機の操縦を担当することになるが、かねてから櫂が懸念した通り、着艦試験に失敗。九死に一生を得たものの山本を初めとする審査会議の面目をつぶす結果となり、強引に会議を誘導してまで採用させた機体が事故機となった事実を譴責され、その信頼を失ってしまう。
嶋田繁太郎(しまだ しげたろう)海軍少将
海軍軍令部第一部長。新型戦艦建造計画会議のメンバーで懇意にしている平山案を支持する。尾崎留吉とも関わりがある。出世欲が強く、国家の未来よりも自分の権勢確立に忙しい人物で、時折見せる利己的な言動でトラブルの種を作る。平山中将よりも階級は下だが、軍令部という部署の政治的影響力をてこに実質的に戦艦派グループの指導的存在になっている。自派閥の有力士官である平山中将の櫂への肩入れぶりに閉口する。
自分の肝いりだった巨大戦艦建造計画を白紙撤回に追い込んだ櫂の行動が山本五十六ら航空派の意向を汲んでのことであることから山本ら航空派にも強い敵意を抱いており、海軍の軍備計画(マル3計画)において徹底的な根回しの下に大和型巨大戦艦の建造計画を復活させると同時に、そこに山本少将を失墜させる企みを仕掛けるも、結局、櫂に出し抜かれて山本少将に決定的な弱みを握られると、保身のために全責任を平山ら海軍技術者達に着せようとする。
永田暗殺の混乱後、対外強硬派の中で頭角を現していく東條英機陸軍少将から海軍側の協力者として選ばれ、陸軍の中国侵攻作戦に対する支援を要請され、快諾する。
軍政家としては有能な事務屋程度の能力しかなく、軍略家としては第一次大戦の戦訓もろくに吟味も出来ていない上に、国力の違いが軍事戦略に与える影響をまるで理解しておらず、国家戦略に対する構想力も無ければ発想も退嬰的で技術の進歩が戦術に与える影響の大きさすら意識していない有様で国家的危機感の薄い楽観主義者。(史実で山本から「おめでたい」と評された気質は当作品でも健在である。)
高任久仁彦(たかとう くにひこ)海軍中尉
軍令部所属。嶋田少将の腹心として、櫂たちの計画を阻止するために身辺調査を行う。身分は海軍軍人ではあっても実質的にその立場は嶋田少将の私的工作員とも言うべき人物で、嶋田繁太郎の命を受けて尾崎家の女中セツを懐柔して得たスキャンダルを元に尾崎財閥を巻き込む形で徹底的に櫂を貶めたり、同郷の黒川大尉を動かして櫂の行動に掣肘を加えようとする。
軍人でありながら、天下国家よりも目先のことしか考えておらず、その本質はチンピラ同然の小人。
嶋田同様、平山の櫂への肩入れ振りに苦慮するが、その平山が決して巨大戦艦建造への意欲を捨てていないことに気付く。
嶋田からの厳命で櫂の手にした新型戦艦設計図の奪取と破棄の機会を伺い、旅館の女性を脅迫して櫂の所持した戦艦の設計図を奪い、焼き捨てたと安心するが、逆に図られたことを思い知らされる。
嶋田の裏の雑用係にも等しい立場のため、大した功績を築くこともできず、出世の見込みがないわが身に対し、敵対した櫂が次々と出世の機会を掴んでいく状況に内心、忸怩たる想いを抱えている。
黒川俊満(くろかわ としみつ)海軍大尉
呉警備隊隊長。嶋田少将に連なる戦艦派の士官であり、高任中尉からの依頼で櫂たちにスパイ嫌疑をかけてその行動を徹底的に妨害しようとする。性格的には陰険かつ粘着質な小人で、苦労を重ねてようやく大尉の身分を得たわが身と引き比べ、大学生のような若さで少佐の階級章を得た櫂に対する妬みから強い悪意を抱く。
大角岑生(おおすみ みねお)海軍大将
海軍大臣、新型戦艦建造計画会議のメンバーで、中立的な立場であるが、永野長官よりの要請を受けて、伊藤少将に櫂たちの入省を認めるように特命を出す。面倒を嫌うあまり大局をおろそかにする傾向がある。
助川正治(すけがわ まさはる)主計大佐
海軍省経理局次長。軍人というよりも官僚的な人物であり、外部から抜擢の形で入り込んだ櫂を“部外者”と見なして、あからさまに冷淡な態度を取る。
伊藤養三(いとう ようぞう)海軍少将
海軍人事局人事局長。大角海軍大臣からの特命で櫂の入省を受理する。その件で嶋田少将に叱責される。
宇野積蔵(うの せきぞう)海軍大佐
戦艦長門第15代艦長。櫂たちの戦艦長門の乗艦時に対応する。
坂巻(さかまき)機関大尉
海軍航空廠所属。山本からの評価も高いが、一癖ある人物と知られており、航空廠が成果も挙げられず海軍内での評価も低いため、部下達とともに昼間から酒と博打にうつつを抜かしている。櫂から航空廠での次期新型戦闘機開発を打診されるも、以前出会った佳つ世に惚れ込んでいるため、佳つ世と交際中の櫂を敵視していたが、その櫂の書上げた新型戦闘機の図面を一瞥するや一目で惚れ込み、意気投合する仲となる。
テストパイロットの八神中尉の無茶な操縦により試作一号機を喪失した時は激昂したものの、後の飛行機乗りのために命をかけることを辞さないその気骨を評価もしており、試作二号機の飛行試験から「生きて帰れ」と命令する。
佳つ世への恋慕の情は捨てていないが、それに負けないほど櫂を気遣うようにもなっており、佳つ世との繋がりが櫂の出世を妨げ、佳つ世を苦しめる結果になることを懸念している。
後の新型戦闘機競作試験で、源田大尉が試験の結果も試作機の性能も無視した暴論で審査会議を誘導し、採用が決まりかけていた自分達の試験機を落選させていた事実を知らされて、激しい怒りを燃やし、空母への着艦試験へ全力投入を決意。櫂の采配の下に成功させて採用を勝ち取り、航空廠の能力の高さを証明する。
常本(つねもと)機関中尉、岩田(いわた)機関少尉、斉藤(さいとう)機関少尉
海軍航空廠所属。坂巻の部下。試作二号機の改良にあたり、プロペラを飛行速度に合わせてピッチ角を変更していく定速プロペラに変えていくことを櫂に進言した(史実より1、2年早い採用となった)。

陸軍[編集]

永田鉄山(ながた てつざん)
陸軍省軍務局長。陸軍主流派閥(統制派)を率いる英才であり、軍人という枠にとどまらない広い視野と構想力を持つ陸軍きっての実力者。
東条英機の紹介で櫂と会見し、その視野が政戦両略に長けたものであることを見極めると日本の大戦略実現に欠かせない大逸材と見なし、中島発動機の獲得問題に協力する。
櫂の優れた才幹を主計少佐で埋もれさせるには惜しいと見なしており、海軍の戦略を左右するほどの地位へ出世して欲しいと願っており、櫂主導で開発された海軍航空廠の新型戦闘機が正式採用されると(詳細な模写は為されなかったが)櫂の推し進めた陸海戦闘機共同開発策を受け入れ、陸軍側の根回しを推し進めた。
陸軍指導部の統制強化のために皇道派を初めとする粛軍を推し進めるが、その最中に暗殺者の凶刃に斃れることとなる。
英邁な彼の死は日本の戦略遂行能力の低下を危惧する櫂に海軍からの離職を思いとどまらせることとなった。
東條英機(とうじょう ひでき)
丹原康介と懇意な関係にある陸軍少将。永田鉄山と親しく、几帳面かつ面倒見の良い反面、細かい部分で抜け間のなさを発揮する人物。丹原康介の紹介で櫂と会見し、その卓越した才気を認めると陸軍主導の政局実現のための有用な手駒になると見なし、永田鉄山との会見を手配する。その際、これを“貸し”として櫂に意識させることも忘れなかった。
永田の死によって日本の前途に危機感を抱くあまり、日本が列強と渡り合うために必要な資源と市場を有する満州国保全を名目に中華民国の実質的な属領化を目論み、海軍側の協力者として(主人公・櫂の敵とは知らないまま)嶋田を選んでしまう。
身内に対しては誠実だが視野が狭く、時代の流れを的確に読む感性も鈍い為、部下や側近に旧弊な人物を選ぶ傾向がある。
国家の戦略を検討する重大な会談で嶋田を相談相手に選んでしまい、嶋田から日本海軍の実力ならばアメリカはたやすい相手と聞かされて安心し、中国領への侵攻を決定。大陸の戦乱から日本を遠ざけようとする櫂と対立する道を選んでしまう。

官僚[編集]

丹原康介(たんばら こうすけ)
外務省調査部第三課課長。希望的観測を交えず淡々と冷静な分析を進めて確度の高い未来予測を可能にする切れ者。
1934年正月に尾崎と会談し、その席で欧州情勢について今後はヒトラーが中心となることを予測する。
孤立化へ向かう祖国日本の将来を憂慮しており、櫂の描いた展望に日本の進むべき国家戦略を感じ取る。
岸信介という親友がいる。
求心力のある永田の死をきっかけに統制を失った陸軍の暴走が中国との対立を引き起こし、それが対米戦争への引き金になることを懸念する。

軍需企業関係者[編集]

尾崎留吉(おざき とめきち)
尾崎財閥総帥。56歳。金物商から立身出世して、第一次世界大戦大正バブルの時に財を成した鉄成金。造船、機械などの重工業を中心に120社で構成される企業体である尾崎財閥を築きあげる。近年は軍需産業に経営資源を集中させている。平山中将と関係が深い。かつて、娘・鏡子の家庭教師に東京帝国大学の学生であった櫂直を雇っていた。
抜け目が無いようだが浅慮な人物で、誤解や早とちりで対人関係を決する傾向が強い人物。鏡子の一方的な言い分を盾に櫂を帝大から追放させ、さらに後日、嶋田繁太郎の言い分を真に受けて、“尾崎財閥の敵”となった櫂の抹殺を決意する。
鶴辺清(つるべ きよし)
大阪鶴辺造船株式会社の社長。海軍省に新型空母の売り込みに来たときに櫂に出会う。櫂の要請を受けて、平山案による見積もりの不正をあばく計画に協力する。若い時には欧州に造船のために留学する。1915年8月14日ロンドンからスペインに商船を運んでいる途中、大西洋上でドイツ軍の魚雷攻撃を受けるが、九死に一生を得る。
斜め飛行甲板による着艦と発艦の同時作業が可能な新型空母の構想(本人は飛行甲板が効率的に使用できる分、艦体の小型化が可能なように思っているようだが、史実の斜め飛行甲板式の空母は全長300mを超える大型艦になっている)を持っており、さらに自らの経験から潜水艦による通商破壊戦の脅威を身にしみて感じてもいる。
中島知久平(なかじま ちくへい)
陸軍用軍用機製造企業最大手である中島飛行機の社長。永田鉄山より海軍航空廠の新型戦闘機開発への協力を要請され、その際に海軍の一主計少佐でありながら異能の天才として腕を振るいつつある櫂について知らされ、強い興味を示す。
堀越二郎(ほりこし じろう)
三菱重工業名古屋航空機製作所の航空機設計者。海軍の次期新型戦闘機開発計画に参与しており、「九試単座戦闘機」を設計する。自分の技術と構想に強いこだわりを持つ人物であり、同じく天才肌の櫂に対しても強い好意を抱き、その実行力にある種の期待感を抱く。
新型戦闘機の競作試験では、櫂のチームが開発した新型機の設計に自分のデザインが剽窃されても、それほどまでに自分の設計を評価してくれたのだと前向きに受け止めてみせる一方、それが数々の最新技術と新装備を盛り込んだ準次世代機でもある事実を知ると、短期間でそれを形にした櫂を「恐るべき人物」と評価する。
模擬空戦で敗退するものの、防弾装備を一顧だにしない源田実の強引な主張に助けられた形で勝ちを拾うが、櫂の提唱によって空母への発着試験の実施が決定されたことで事実上の「延長戦」に持ち込まれたことを察し、新たな闘志を燃やした。
空母への発着試験を控えた時の櫂の言動からその高い志を感じ、その堂々とした姿勢に惚れ込むが、かつての櫂の警告を甘く受け止めたことが決定的敗因になったことを悟り、櫂の忠告に応えられなかった過去の自分の迂闊さと、戦闘機の採用を取りこぼした失態に内心忸怩たる思いを味わったものの、勝者である櫂が航空廠試作機の基礎設計が自分の設計した三菱機そのものであることを明らかにしてくれた上、その技術的功績を理由に機体の製造を三菱に一任することが告げられたことで立場を失わずに済み、ますます櫂に心を開くようになる。
櫂の語る「戦闘機の陸海共用構想」に強い興味を示すが永田少将暗殺事件の影響でせっかく進められていたその事業の頓挫という苦衷を味わうものの、櫂の航空行政改革の同志として粘り強い活動を続け、後の零戦の開発も櫂の提案を反映した設計思想で推し進めていくことになる。
日本の軍用機開発最大のネックが発動機の開発・製造能力にあることを懸念し、繊細なまでに気を配った機体設計で性能向上を果たす路線を選んだことを櫂に語っている。
小山悌(こやま やすし)
中島飛行機の航空機設計者。海軍航空廠の技術士官達を率いて次期新型戦闘機開発に参入しようとする櫂の大胆な目論見と噂に聞く英才振りに好意を抱き、中島製発動機・寿の技術供与に協力すると同時に、軍首脳部が見逃している軍用機のあるべき条件に“搭乗者の防護”があることを訴える。
新型戦闘機の競作試験では、試験期間を極端に短縮されたところで発動機のトラブルに見舞われてしまい、無念の敗退となる。

ドイツ海軍[編集]

ハインリッヒ・シュヴァルツ
ドイツ海軍少佐。櫂とほぼ同年で優秀な人物。元々はカイザー・ウィルヘルム研究所で数学と物理を学んでいた俊才だったが、海軍の招聘を受け、技術将校として物理化学電磁気学統計力学の研究者として活動している。
駐在武官のヴェネッカー中佐に伴われて「赤城」を訪問中に新型戦闘機の空母発着試験を控えて来訪した櫂と出会い、そのただならぬ博識振りと数学者としての卓越したセンスに強い興味を示す。
櫂に勝るとも劣らぬ頭脳の持ち主であり、これからの国防に必要な電探や情報管制システムの開発に必要な分野のエキスパートでもあるが、出自がユダヤ系であるため、ヒトラー政権下のドイツ社会では政治的に不安な立場にある。
元々自由な政治的気風を愛する人物でもあったため、日に日に激化しつつある祖国の反ユダヤ運動が(挙国一致体制のさらなる強化を目論む)ヒトラーの扇動でさらに激越なモノへと変貌していく現状を憂慮しつつああり、危険な軍事的博打に打って出ようとする祖国ドイツの未来を憂慮し、祖国ドイツへの忠誠とユダヤ人としての自分の立場の間で揺れ動く自分の懊悩を櫂に吐露した。
櫂が改良設計を施した航空廠試作機を検分し、その優れた設計がドイツの技術から見ても最先端級の水準であることを感じ取ると同時に、一介の主計少佐であるはずの櫂の航空行政に対する入れ込みようにただならないものを感じとると、それがドイツにとっての国益にならないと理解しつつも、櫂が要求してきたドイツのジェットエンジン技術の供与要請を助ける形で口添えする。

民間人[編集]

尾崎鏡子(おざき きょうこ)
留吉の娘で尾崎家の令嬢。櫂直が家庭教師をしていた。少女らしい一途さを持つが考えや行動に軽はずみな面があり、櫂に想いを寄せる一方、とっさの狂言のために櫂の立場を決定的に悪化させてしまい、櫂が帝大を退学させられる原因を作ってしまう。追放された後も櫂への未練を抱いており、高任から櫂がセツや芸者(佳つ世)と深い仲だと聞かされた時は憤りを感じたものの、諦め切れない様子を見せる。
セツ
尾崎家の女中。櫂と令嬢のスキャンダルの秘密を海軍(高任)に洩らしたことが留吉の逆鱗に触れ、女中を辞めさせられる。後日、嶋田繁太郎から櫂と密通していたと虚偽の誣告を受ける。
佳つ世(かつよ)
櫂が宴席で知り合った芸者。そのまま一夜を共にし、同棲する仲となった。雨の日に邂逅した尾崎鏡子が櫂に惚れ抜いていることを察知し、櫂を奪われることを恐れている。
仕事が一段落したことで一旦は高級士官への道を捨ててくれた櫂に安堵するものの、永田の死をきっかけに救国の英雄となる道を選択した櫂の決意も尊重する。

書誌情報[編集]

出典[編集]

  1. ^ 「アルキメデスの大戦」特集 - コミックナタリー
  2. ^ 実際の歴史ではこの日、「峰鶴」のモデルとなった「友鶴」が転覆した友鶴事件が発生している。

参考文献[編集]

  • 前間孝則『戦艦大和誕生(上)』(西島技術大佐の大仕事)、講談社、1997年 ISBN 4-06-208844-4

外部リンク[編集]