アルガンノキ

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アルガンノキ
Argan Tree near Tafraoute.jpg
アルガンノキ
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : キク類 Asterids
: ツツジ目 Ericales
: アカテツ科 Sapotaceae
: Sideroxylon
: アルガンノキ S. spinosum
学名
Sideroxylon spinosum L.[1]
シノニム
和名
アルガンノキ
英名
Argania

アルガンノキ[2](アルガンの木、アルガン; 学名: Sideroxylon spinosum)は、アカテツ科被子植物で、アフリカ大陸北西端部にのみ自生する。種子から取れる油がアルガンオイルとして古くから利用され、近年は化粧品用途に注目を受けている。

名前[編集]

標準和名はアルガンノキ、また一般的にはアルガンとも呼ばれ、英語における通称の Argan に由来する。ただし英名としては Argania が正式である。学名は Argania spinosa としている文献が複数存在するが、キュー植物園の World Checklist of Selected Plant Families(WCSP)では Sideroxylon spinosum が正式名称とされ始めている[3]

アルガンという語は、スース谷を含む地域で使用されているシルハ語ベルベル語派)の ⴰⵔⴳⴰⵏ / Argan に起源を持つ。シルハ語で Arganというとアルガンの木の樹木および種子から採れる油のことを指し、実に関しては語彙が豊かで、熟す過程や収穫方法、加工方法によって異なる名がある。中世のアラビア語の薬学書には argan に由来するharjānの名で記述がある。

特徴[編集]

常緑性で棘の多い中庸程度の大きさの樹木である[4]。樹皮はとても凹凸が多く、蛇の皮にたとえられる[5]。樹高は8-10mに達し、時に高さ21mで主幹が直径1mにも達する例がある。葉は集まってつき、被針形で小さくて硬く、暗緑色で裏面はやや色が薄い。花序は葉腋から出て、花は両性花で黄緑色をしている。花序は団集花序をなし、最大で15個ほどの5数性の花を含む[6]

果実は長さ2 - 4cm、直径は1.5 - 3cmで、外側から順に果皮、果肉、堅果、種子という構造になっており、一般的にアルガン油と呼ばれる油は種子から採れる。果皮は厚く、苦い。果肉は甘みのある不快な臭いを発し、柔らかい。堅果1つにつき種子1つから3個を含む。果実は熟すまでに1年を要し、翌年の6月から7月にかけて収穫時期を迎える。

分布と生育環境[編集]

本種はモロッコ南部に分布が見られ、北はサフィから南はサハラの縁までで、主な範囲はEssaouiraからSouss plainまでである。標高は高いところでは南斜面で1500mまで見られる。この地域はきわめて乾燥しており、またその気温は3 - 50℃となり、本種はそれらの環境に耐性がある。その根が広く深く伸びるのは年間数か月にも渡る乾燥期に水を得るためで、地下30mから水を得ることが出来るとされる[7]。本種は年間雨量100 - 200mmの地域でも生育が可能である。耐寒性はないが、乾燥耐性と温度耐性は大変優れている。半砂漠に適した種で、水浸しの地や砂地には適さない[8]

アカテツ科の植物は世界の熱帯域に分布するが、ほとんどは標高1000m以下の湿潤な熱帯多雨林に見られるものである[9]。モロッコには本科の植物は本種だけしかない[10]

生態[編集]

花期は5 - 6月である。乾燥への耐性が強く、干ばつの際には葉を落として休眠状態となり、干ばつが続いても数年間は耐えられる[11]。乾燥条件で栽培すると芽の成長や葉の数などは減少するが、根の伸びはむしろ深く広く伸びるようになる[12]

寿命は長く、150 - 200年生のものが珍しくなく、250年生の樹木も記録されている[13]

保護[編集]

モロッコにおけるアルガンノキの自生地域は約8,280平方キロメートルで、ここ100年で縮小傾向にある。製炭目的での伐採や放牧、急激な収穫量の増加が原因とされ、自生地域はユネスコの保全対象(エコパーク)[14]となっている。

近年はアルガン油の需要拡大で価格高騰や輸出増が見られ、保全が進むきっかけとなることが期待されているが、増収分はアルガンの保全ではなく、家畜のヤギを購入するのに充てられているという実態がある。ヤギは葉や熟す前の果実まで食べるため、頭数が増えることで生育を妨げる原因となっている[15]

遺伝子組み換えアルガンがイスラエルアラバネゲヴで栽培されている[16][17][18]

用途[編集]

アルガンノキに登るヤギ
葉、花、熟す前の果実
Argania spinosa(トゥールーズ博物館所蔵)

アルガンノキの自生地域ではベルベル人により油や飼料、木材、薪として利用されており、オリーブと置き換わる役どころとなっている。特にエッサウィラ近辺では、ヤギが木に登る光景がよく見られる[19]

果実[編集]

果実は6月頃に乾燥し黒く変色した状態で地面に落ちる。この状態になるまでは番人により自生地域へのヤギの立ち入りが制限される。収穫は法律や村落の「掟」によりその権限が定められており、落下した果実をそのまま採集するか[14]、ヤギによって補食され排泄された種子を採集する。

アルガン油[編集]

アルガンノキの種子から採取できる油脂であるアルガン油は、アルガンオイルとも呼ばれ、モロッコ南西部の女性が協同して生産している。油の抽出にあたって特に多数の人員を要する過程は、果肉を取り除いたのち石で堅果を割って種子を取り出すというもので、その後種子は丁寧に焙煎される。焙煎は香りなど油の品質に関わるため、種子の摘出とは別に行われる[20]

油を抽出する伝統的な手法は、焙煎された種子を少量の水とともに石臼で挽き、出来上がったペーストを手で搾って油を抽出するというものである。搾滓も油分を豊富に含むため、動物のエサとして再利用される。このようにして抽出されたアルガン油は3か月から半年ほど保存できるが、焙煎された種子は20年ほど保管することができ、家庭で必要に応じて油を抽出する。

商品として売り出すアルガン油は焙煎された種子を砕いて乾燥したものから機械を用いて抽出するのが一般的で、この方法だと抽出に手間がかからない上、これで製造されたアルガン油は1年から1年半ほど保存できる[21]

アルガン油はその8割を不飽和脂肪酸が占め、オリーブ油と比べて抗酸化作用が高い。食用としてはクスクスサラダなどに用いられる他、アルガン油にアーモンドピーナッツ(加えて砂糖蜂蜜で甘く味付けすることもある)を混ぜ込んだものは「アムルー」と呼ばれ、パンを浸すのに使われる。焙煎していない種子から抽出されたアルガン油は従来から皮膚病の薬として用いられており、2001年から2002年にかけてヨーロッパの複数の化粧品会社がその効用に注目したことで広く知られることとなる。

もともとアルガン油はモロッコ国内でも生産地以外では高級品で、モロッコ国外での入手は困難であったが、近年は前述の事情からヨーロッパや北米などへ輸出する目的での生産が増加し、世界的にも化粧品専門店だけでなくスーパーマーケットでも販売されるほどとなった。しかし、コスメ用途の植物油としては依然として高価で、アメリカ合衆国においては500mlあたり40ドル - 50ドルが相場となっている[22][23][24][25]

組成は以下の通り[26]

脚注[編集]

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  1. ^ a b World Checklist of Selected Plant Families: Royal Botanic Gardens, Kew. 2018年11月11日閲覧。
  2. ^ ノエル・キングズバリ 著、上原ゆうこ 訳『150の樹木百科図鑑』原書房、2016年、35頁。978-4-562-05319-3
  3. ^ Govaerts R. (ed). For a full list of reviewers see: http://apps.kew.org/wcsp/compilersReviewers.do (2018). WCSP: World Checklist of Selected Plant Families (version Aug 2017). In: Roskov Y., Ower G., Orrell T., Nicolson D., Bailly N., Kirk P.M., Bourgoin T., DeWalt R.E., Decock W., Nieukerken E. van, Zarucchi J., Penev L., eds. (2018). Species 2000 & ITIS Catalogue of Life, 30th October 2018. Digital resource at http://www.catalogueoflife.org/col. Species 2000: Naturalis, Leiden, the Netherlands. ISSN 2405-8858.
  4. ^ 以下、記載は主としてOrwa et al.(2009)
  5. ^ Stussi et al.(2005),36
  6. ^ Benlahabil & Bani-Aameur(2002),p.257
  7. ^ Stussi et al.(2005),p.35
  8. ^ Orwa et al.(2009)
  9. ^ ペニントン(1997),p.47
  10. ^ Zahbi et al.(2013),p.204
  11. ^ Orwa et al.(2009)
  12. ^ Zahbi et al.(2013)
  13. ^ Stussi et al.(2005),p.35
  14. ^ a b アルガンケア アルガンオイルの基礎知識 › アルガンオイルの生産
  15. ^ Tim Wall (2011年9月22日). “Tree-Going Goats Threaten Oil Supply_Discovery News”. Discovery News. http://news.discovery.com/animals/tree-going-goats-threaten-oil-supply-110921.htm 
  16. ^ Growing for Change, Ruhama Shattan, Jerusalem Post, Oct. 12, 2001
  17. ^ Growth and oil production of argan in the Negev Desert of Israel, A. Nerd,  E. Etesholaa, N. Borowyc and Y. Mizrahi, Industrial Crops and Products, Volume 2, Issue 2, February 1994, Pages 89-95
  18. ^ Phenology, breeding system and Fruit development of Argan [ Argania spinosa  , Sapotaceae] cultivated in Israel, Avinoam Nerd1, Vered Irijimovich2 and Yosef Mizrahi, Economic Botany, Volume 52, Number 2 / April, 1998, pl 161-167.
  19. ^ Infos at the-tree.org.uk Archived September 24, 2006, at the Wayback Machine.
  20. ^ Charrouf, Zoubida; Guillaume, Dominique (1999年). “Ethnoeconomical, ethnomedical, and phytochemical study of Argania spinosa (L.) Skeels”. Journal of Ethnopharmacology 67 (1): 7–14. doi:10.1016/S0378-8741(98)00228-1. PMID 10616955. 
  21. ^ Charrouf, Z; Guillaume, D (2007年). “Phenols and Polyphenols from Argania spinosa”. American Journal of Food Technology 2 (7): 679. doi:10.3923/ajft.2007.679.683. 
  22. ^ Khallouki, F; Younos, C; Soulimani, R; Oster, T; Charrouf, Z; Spiegelhalder, B; Bartsch, H; Owen, RW (2003年). “Consumption of argan oil (Morocco) with its unique profile of fatty acids, tocopherols, squalene, sterols and phenolic compounds should confer valuable cancer chemopreventive effects”. European Journal of Cancer Prevention 12 (1): 67–75. doi:10.1097/01.cej.0000051106.40692.d3. PMID 12548113. http://meta.wkhealth.com/pt/pt-core/template-journal/lwwgateway/media/landingpage.htm?issn=0959-8278&volume=12&issue=1&spage=67. 
  23. ^ Arganolie informative (NL)”. 2016年11月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年11月5日閲覧。
  24. ^ Charrouf, Zoubida; Guillaume, Dominique (2008年). “Argan oil: Occurrence, composition and impact on human health”. European Journal of Lipid Science and Technology 110 (7): 632. doi:10.1002/ejlt.200700220. 
  25. ^ Chimi, H; Cillard, J; Cillard, P (1994年). “Autoxydation de l'huile d'argan Argania spinosa L. du Maroc [Autoxidation of argan oil Argania spinoza L. from Morocco]” (French). Sciences des aliments 14 (1): 117–24. ISSN 0240-8813. http://cat.inist.fr/?aModele=afficheN&cpsidt=4124059. 
  26. ^ Charrouf, Zoubida; Guillaume, Dominique (2010年). “Should the Amazigh Diet (Regular and Moderate Argan-Oil Consumption) have a Beneficial Impact on Human Health?”. Critical Reviews in Food Science and Nutrition 50 (5): 473–7. doi:10.1080/10408390802544520. PMID 20373191. 

出典[編集]

  • T.J. Lybbert (2007年). “Patent Disclosure Requirements and Benefit Sharing: A counterfactual case of Morocco’s argan oil”. Ecological Economics 64 (1): 12–18. doi:10.1016/j.ecolecon.2007.06.017. 
  • T.J. Lybbert; C.B. Barrett (2004年). “Does Resource Commercialization Induce Local Conservation? A Cautionary Tale from Southwestern Morocco”. Society & Natural Resources 17 (5): 413–430. doi:10.1080/08941920490430205. 
  • T.J. Lybbert; C.B. Barrett; H. Najisse (2002年). “Market-Based Conservation and Local Benefits: The Case of Argan Oil in Morocco”. Ecological Economics 41 (1): 125–144. doi:10.1016/S0921-8009(02)00020-4. 
  • O. M'Hirit; M. Bensyane; F.Benchekroun; S.M. El Yousfi; M. Bendaanoun (1998). L'arganier: une espèce fruitière-forestière à usages multiples. Pierre Mardaga. ISBN 2-87009-684-4. 
  • J.F. Morton; G.L. Voss (1987年). “The argan tree (Argania sideroxylon, Sapotataceae), a desert source of edible oil”. Economic Botany 41 (2): 221–233. doi:10.1007/BF02858970. 
  • Rachida Nouaim (2005). L'arganier au Maroc: entre mythes et réalités. Une civilisation née d'un arbreune espèce fruitière-forestière à usages multiples. Paris: L'Harmattan. ISBN 2-7475-8453-4. 
  • H.D.V. Prendergast; C.C. Walker (1992年). “The argan: multipurpose tree of Morocco”. Kew Magazine 9 (2): 76–85. 
  • Elaine M. Solowey (2006). Supping at God's table. Thistle Syndicate. pp. 75–76. ISBN 0-9785565-1-8. 
  • Luigi Cristiano e Gianni De Martino (2000), "Marocco atlantico. In terra di Argania", Erboristeria domani, 233, pp. 78–85.

参考文献[編集]

  • テレンス・ペニントン、「アカテツ科」:『朝日百科 植物の世界 6』、(1997)、朝日新聞社:p.47
  • Orwa et al. 2009, Agroforestry Database 4.0
  • I. Stussi et al. 2005. Argania spinosa - How Ecological Farming, Fair Trade and Sustainability Can Drive the Reasearch for New Cosmetic Active Ingredients. SOeFW - Jourbal 131 10-2005: p.35-46
  • Zahidi A. et al. 2013, Grouth variability in Argania spinosa seedlings subjected to different levels of drought stress. J. Hortic. For. Vol.5(11): p.204-217
  • Suad Benlahbil & Fouzia Bani-Ameur, 2002. At What Phenological Phase is the Stigma of Argan (Argania spinosa (L.) Skeels) Flower Receptive to Pollen Adhesion and Germination? Forest Genetics p(4) :p.257-262.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]