アブドゥッラフマーン・アッカド

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アブドゥッラフマーン・アッカド
Abdulrahman Akkad
عبدالرحمن عقاد
ケルンでのゲイ・プライドにて(2019年)
生誕 (1998-05-17) 1998年5月17日(25歳)
シリア アレッポ県アレッポ
国籍 シリアの旗 シリア
職業 ブロガー人権擁護者講演家
政治活動家YouTuber
活動期間 2017年-
著名な実績 LGBT及び人権に関する活動
宗教 イスラム教徒
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アブドゥッラフマーン・アッカドアラビア語: عبدالرحمن عقاد‎、Abdulrahman Akkad、1998年5月17日- )は、シリアアレッポ出身のゲイブロガー[1]人権擁護者[2][3]。現在はドイツベルリン在住[4]

略歴[編集]

誕生から少年期まで[編集]

1998年にシリア北部のアレッポ市でユダヤ系の出自を持つイスラム教徒の両親のもとに生まれた。家族は1492年カスティーリャ王国から追放されたユダヤ人であるセファルディムの子孫であるが、後にシリアに移ってイスラム教に改宗している[5]。彼には4人の兄弟姉妹がいる[6]

シリア内戦の激化に伴い、一家は2013年7月にシリアを離れることを余儀なくされた[7]。中学校は卒業したものの、2013年にシリアを去った後は進学することができなかった[8]

トルコでの生活[編集]

アッカド一家は2013年7月にトルコに入国し、イスタンブールで暮らし始めた。アッカドはコールセンターで通訳として働き、トルコ語を流暢に話すようになった。

トルコに住んでいる際、自身がゲイであると感じるようになった。自己嫌悪に陥り、何度も自殺を図ったが、心理カウンセラーからカウンセリングを受け、自分を受け入れることができた。イスタンブールのスイス領事館から人道的ビザを取得しようとしたが拒否されたため、トルコに残ることを決めた。

アッカドは家族に自分の性的指向を話した。アッカド本人は自分のことを受け入れてくれると考えていたが、家族は病気で治療が必要だと非難し、病院に連れて行かれた。そこでは肛門の検査をされ、セクハラを受け、テストステロンを処方された。テストステロンを何度か服用したが、うつ病と緊張を引き起こしたため、それ以上の服用をやめた。兄からは殴られ、2ヶ月間日光が当たらない部屋に閉じ込められ、兄や姉の夫、いとこからも虐待や脅迫を受けた。その後、自分はもうゲイではないと家族に説明し、パスポートと200ドルを持って家を出て友人の家に逃げ込んだ。

亡命[編集]

アッカドの友人は、同性愛がイスラム教で禁じられており、家族や政府も味方にならないトルコの状況は彼にとって危険であり、ヨーロッパに逃れるべきだと提案した。2015年11月末、アッカドは友人からの旅費の負担を受けてギリシャへ海路で不法に渡航した[9]。その後マケドニアセルビアクロアチアスロベニアオーストリアを経て、2015年12月5日にドイツに到着し、自身の性的指向に基づく亡命を申請した[10]。しかし、当時未成年だったために手続きが遅れ、2016年になってからようやく亡命を許可された。

カミングアウト[編集]

アッカドがカミングアウトをする前の2017年、彼は家族からの圧力を受けて女性と婚約することに同意した。彼の母親は、彼が結婚すれば性的指向が変わるだろうと言った。結婚式はイスタンブールで行われる予定であった。アッカドは結婚式をキャンセルして延期しようとしたが、失敗した[11]

2017年7月24日、アッカドは意を決して、Facebookのライブ動画でカミングアウトを行った[12][12][11]。これは、シリア人のゲイの男性が実名と顔を出して自分の性的指向を公に表現した初めての出来事であった。動画は家族だけに向けたものであったが、インターネット上で拡散され、1週間以内に数十万回閲覧された[5] [13]。彼はドイツのアラブ人やイスラム教徒から非難・侮辱・脅迫を受けた[14]

2020年7月24日、自分と両親が共に写った写真を投稿し、家族が自分の性的指向を受け入れて無条件に愛していることを公式に発表し、習慣、伝統、社会に対する勝利を宣言した[15] [16] [17] [18] [19]。この写真もまた、アラブ圏の家族が同性愛者の息子の性的指向を受け入れていることを公に示した初めてのものであると考えられている[20] [21] [22] [23] [24] [25]

アッカドと彼の両親(2020年)

ドイツでの活動[編集]

経験と政治的意見について、主にドイツとアラビアのメディアからインタビューを受けている。ドイツの新聞のビルトから中東におけるLGBTの権利の状況について最初にインタビューを受けた際には、ドイツで非難・侮辱・脅迫を受けたため、ドイツに留まりたくないと語った[25]

2020年のゲイ・プライドでは、ドイツのモスクの前でレインボーフラッグをかぶった動画を投稿した。これは、同性愛は違法であり死刑に処せられるイスラム世界の同性愛者との連帯を示している[26]

MENA地域出身で公に活動を行っている数少ない同性愛者の活動家である[27]。ドイツのメディアは、アッカドをアラブ世界で「憎まれた人物」と表現した[28]

思想[編集]

自身を世俗主義であると認識しており、政教分離の原則を支持している。無神論者難民救済組織の元メンバーとして、無神論者LGBTの中東難民を支援した[29]

アッカドのInstagramアカウントが、彼がゲイであり脅威にさらされていることを理由に停止された後、ドイツの哲学者のデビッド・バーガーは、2020年のドイツ連邦議会でこれに関して言及した[30] [31]

アッカドと彼の家族はまた、シリアのアサド政権に強く反対している。特に、2012年に彼の義理の妹が政府軍の狙撃兵に撃たれて殺された後、彼の兄弟は軍を非難したため、政権側から厳しい圧力をかけられ、家族全員が国外に逃げることを余儀なくされた[32]

私生活[編集]

トルコ人の男性ビジネスマンと交際していた。

反応[編集]

アラブ世界では、検閲ヘイトスピーチ、政府主導の迫害などを通じて、LGBTコミュニティに対する抑圧と差別歴史が長く続いている。アッカドのエピソードに対しては支持的な反応もあったが、ほとんどがメディアの報道や世論を通じた同性愛嫌悪の反応であった。アッカドはカミングアウト後、殺害予告を受け始めた。

出典[編集]

  1. ^ France 24(アラビア語)『...مـجـتمع الـميم/عين.. مــيــم تصرخ أنا مثلــكــم وعــي』九月 2, 2021https://www.youtube.com/watch?v=6DoZf2xDlzI2021年9月5日閲覧 
  2. ^ Mannschaft magazine (2020年12月28日). “Geflüchteter Youtuber betreibt LGBTIQ-Aufklärung auf Arabisch” (ドイツ語). mannschaft.com. 2021年6月30日閲覧。
  3. ^ France 24 (2021年9月3日). “في فلك الممنوع – مـجتـمع الـميم/عين.. مــيــم تصرخ أنا مثلــكــم وعــيــن تعـجـب من عنفكم!” (アラビア語). france24.com. 2021年9月5日閲覧。
  4. ^ David Berger (2019年11月21日). “Abdulrahman Akkad: Er floh aus Syrien, kritisierte den Islam und wird nun in Deutschland zensiert” (ドイツ語). philosophia-perennis.com. 六月 30, 2021閲覧。
  5. ^ a b U. N. O. Flüchtlingshilfe (2020年7月15日). “"Ich dachte, dass ich ein Mensch sei, der das Leben nicht verdient."” (ドイツ語). uno-fluechtlingshilfe.de. 2021年7月15日閲覧。
  6. ^ Podcast Deutsch-Arabisch بودكاست عربي-ألماني (November 29, 2020) (アラビア語), #34 أنا مثلي جنسي مع عبد الرحمن عقاد| المثلية الجنسية|نظرة المجتمع العربي للمثلية|, https://www.youtube.com/watch?v=CiiPbd8mHko 2021年10月16日閲覧。 
  7. ^ Christian Schneider (九月 26, 2019). “AVE #281: Abdulrahman Akkad” (ドイツ語). xsxm.de. 六月 30, 2021閲覧。
  8. ^ عبد الرحمن عقاد” (アラビア語). dakhiloutsider.com (2020年8月18日). 2021年8月3日閲覧。
  9. ^ Bayerischer Rundfunk (2021年6月9日). “Queer Refugees – wie geht es geflüchteten LGBTIQ* in Deutschland? – Willkommen im Club – der LGBTIQ*-Podcast von PULS” (ドイツ語). br.de. 2021年8月3日閲覧。
  10. ^ Deutsche Welle (2020年7月26日). “DW Arabic: An exclusive interview with a gay Syrian refugee and his story of suffering” (アラビア語). Deutsche Welle. 2021年10月17日閲覧。
  11. ^ a b Bayerischer Rundfunk (2021年9月24日). “How to Coming-Out – diese Tipps können euch beim Coming-Out helfen – Willkommen im Club – der LGBTIQ*-Podcast von PULS” (ドイツ語). br.de. 2021年5月24日閲覧。
  12. ^ a b (アラビア語) أنا #مثلي_جنسياً, (July 24, 2017), https://www.facebook.com/abodyakkad98/videos/256233848213467 2021年9月5日閲覧。 
  13. ^ Funk (service)(ドイツ語)『Schwul & geflüchtet: LGBTQ-Youtuber riskiert sein Leben | reporter』2020年12月16日https://www.youtube.com/watch?v=w-L6fm2Wanw2021年6月30日閲覧 
  14. ^ Bild (2020年2月1日). “Flüchtlinge: Angst vor anderen Flüchtlingen, weil sie sich für Frauen oder Schwule einsetzen” (ドイツ語). bild.de. 2021年6月30日閲覧。
  15. ^ Step News Agency (2020年7月25日). “شاهد| عبد الرحمن عقاد سوري مثلي جنسيًا يعلن انتصاره بتقبل أهله له.. تعرف عليه” (アラビア語). stepagency-sy.net. 2020年8月25日閲覧。
  16. ^ Raseef22 (2020年7月27日). “الحبّ انتصر!... شاب سوري مثليّ الجنس يُعلن تصالح والديه معه” (アラビア語). raseef22.com. 2020年8月25日閲覧。
  17. ^ 7al News (2020年7月25日). “"After a war, to be or not to be" .. a Syrian family accepts its son from the LGBT community.” (アラビア語). 7al.net. 2021年6月30日閲覧。
  18. ^ مفكر حر (2020年7月26日). “Dialogue with a gay Syrian refugee and his story of suffering.” (アラビア語). mufakerhur.org/. 2021年6月30日閲覧。
  19. ^ mufakerhur (2021年7月26日). “An Aleppo family in Germany accepts their gay son and showers him with unlimited love.” (アラビア語). mufakerhur.org. 2021年10月17日閲覧。
  20. ^ Awtan Post (2020年7月26日). “Abdulrahman Akkad, a Syrian "Gay", declares his victory over society by accepting him.. Get to know him (video)” (アラビア語). awtanpost.net. 2021年6月30日閲覧。
  21. ^ Trending SYR (2020年7月26日). “Syrian refugee Abdulrahman Akkad leads the trend in Germany.. What is his story?” (アラビア語). trendingsy.com. 2021年6月30日閲覧。
  22. ^ Alnatoor (2020年7月27日). “The Akkad family of Aleppo.. The first Syrian family to reconcile with the issue of their "homosexual" son | Syria news | Alnatoor” (アラビア語). alnatoor.com. 2021年6月30日閲覧。
  23. ^ Hibr press (2020年7月25日). “A gay Syrian young man raises controversy.. What is his family's position? | Hibrpress newspaper” (アラビア語). hibrpress.com. 2021年6月30日閲覧。
  24. ^ Orient News(アラビア語)『شاب سوري يعلن عن ميوله المثلية في المانيا ويثير ردود فعل غاضبة – FollowUp』2020年7月27日https://www.youtube.com/watch?v=Au-XYNPYwC02021年6月30日閲覧 
  25. ^ a b Deutsche Welle (2020年9月1日). “DW: a five year wait for acceptance after coming out.” (英語). Deutsche Welle. 2021年10月17日閲覧。
  26. ^ Turkey in Arabic (2020年7月27日). “Abdulrahman Akkad dancing in front of the mosque” (アラビア語). arab-turkey.com. 2021年10月17日閲覧。
  27. ^ عبد الرحمن | مواطن سوري” (アラビア語). Enab Baladi Podcast | عنب بلدي بودكاست (2022年1月3日). 2022年3月1日閲覧。
  28. ^ Funk (service) (2020年12月28日). “Flüchtling und Schwul” (ドイツ語). 2021年10月28日閲覧。
  29. ^ Atheist Refugee Relief (2019年4月4日). “Wohnsitzauflage gefährdet homosexuellen Geflüchteten – Atheist Refugee Relief” (ドイツ語). atheist-refugees.com. 2021年6月30日閲覧。
  30. ^ Bundestag (2021年5月5日). “Deutscher Bundestag – 14. Bericht der Bundesregierung über ihre Menschenrechtspolitik...” (ドイツ語). bundestag.de. 2021年6月30日閲覧。
  31. ^ David Berger (2020年7月1日). “Islamophob? Instagram löscht Profil von atheistischem, homosexuellen Islamkritiker” (ドイツ語). philosophia-perennis.com. 2021年6月30日閲覧。
  32. ^ Daraj Media (2020年7月31日). “Daraj News: Abdulrahman Akkad The Syrian revolution and the rejection of homosexuals.” (アラビア語). daraj.com. 2021年6月30日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

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