ファビピラビル

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アビガンから転送)
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ファビピラビル
識別情報
CAS登録番号 259793-96-9
PubChem 492405
特性
化学式 C5H4FN3O2
モル質量 157.1 g mol−1
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ファビピラビル: Favipiravir: 法匹拉韦、法匹拉韋)は、富山大学医学部教授の白木公康富士フイルムホールディングス傘下の富山化学工業(現:富士フイルム富山化学)が共同研究で開発した核酸アナログRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤[1]である。開発コードのT-705、あるいは商品名であるアビガン錠 (Avigan Tablet) の名前でも呼ばれる。

中華人民共和国では、浙江海正薬業股份有限公司がライセンスを取得して生産していた。ただし、2019年に、中国における富士フイルムのファビピラビルの物質特許は失効しており、それ以降はライセンスによらずに、後発医薬品(商品名「法维拉韦」)として製造している[2] [3]

概要[編集]

ファビピラビルは富山化学の江川裕之らが合成し、古田要介らが抗インフルエンザ活性を見出した。富山大学医学部の白木公康らがインフルエンザ感染マウスでの有効性を確認し、タミフルより強い治療効果を有していること、薬剤耐性を生じないことを見出した。

ファビピラビルはプロドラッグであり、投与後に細胞内のin vivo(生体内)環境で、三リン酸化されて、ファビピラビル・リボフラノシル-5'-三リン酸 (favipiravir-RTP) となり、これがRNAウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP、RNA複製酵素)にプリンヌクレオシドアデノシンおよびグアノシン)と競合して取り込まれ、取り込まれた部位以降のRNA鎖の伸長を阻害するchain terminator(伸長阻止薬)として作用する (Furuta, Shiraki et al., 2013 [4])。

in vitro(試験管内)環境では、ファビピラビルは十分な三リン酸化を受けることができないため、50%効果濃度(EC50値)などを基準とした効果評価においては、他の薬物より効果が劣ると判定される場合がある(エボラ出血熱ウイルス2019新型コロナウイルス)。

インフルエンザウイルス薬としては細胞内におけるウイルスRNAの複製を妨げることで増殖を防ぐ仕組みで、タミフルなどの既存薬とは作用機序が異なる。そのためインフルエンザウイルスの種類を問わず抗ウイルス作用が期待できる[5](たとえばタミフルはB型インフルエンザウイルスに対しては効果が劣り、C型インフルエンザウイルスには効果がない)。

またインフルエンザウイルスのみならず、エボラ出血熱ウイルス(後述)やノロウイルスSFTSウイルス後述)などへの適用性に関する試験・研究も行われており、ケンブリッジ大学教授のイアン・グッドフェローらの研究チームは2014年10月21日、マウスを使った実験でノロウイルスの減少・消失を確認したとの発表を行った[6][7][8]。さらにウエストナイル熱ウイルス、黄熱ウイルスなどのRNAウイルスにも効果があると考えられており、同研究チームは「治療だけでなく感染予防にも効果的である可能性がある」とコメントしている[9]。2020年2月22日、厚生労働大臣は、新型コロナウイルス感染症後述)の治療の一環として、投与する考えを示した[10]

条件付きの製造販売承認[編集]

2014年(平成26年)3月に、富山化学工業が日本での製造販売承認を取得した[1]。ただしすぐに製造・販売が開始される訳ではなく、新型インフルエンザが流行し、他の薬剤が効かないと日本国政府が判断した場合に、厚生労働大臣の要請を受けて製造を開始するという特殊な承認となっている[5]

富山化学工業は当初、アビガンがタミフルに代わる新しいインフルエンザ薬として普及し、会社の収益源となることを期待していたが、動物実験で胎児に対する催奇形性の可能性が指摘されたため、厚生労働省による製造販売承認は大幅に遅れたうえに、緊急の場合のみ製造可能という条件がついてしまい、経営に貢献するという期待は外れる結果になった[11]

催奇形性の危険があるにもかかわらず承認されたのは、既存の抗インフルエンザウイルス薬は、ウイルスを細胞内に閉じ込めることで感染細胞を増やさない働きをするのに対し、アビガンはウイルスの遺伝子複製そのものを阻害するため、作用機序が全く異なり、既存薬に耐性を有するウイルスが蔓延した場合の備えになると期待されたためである[11]。ウイルスの遺伝子複製そのものを阻害する抗インフルエンザウイルス薬としては後にエンドヌクレアーゼ阻害薬ゾフルーザが上市されたが、こちらは高額な上に耐性ウイルスが生じやすい懸念があるため、採用を見送る医療機関も出ている[12]

新型インフルエンザの流行に備え備蓄[編集]

2017年3月9日、厚生労働省は、新型インフルエンザの流行に備えアビガン錠を備蓄することを決め、本年度3万人分を発注する随意契約を3月30日に結ぶ方針であることを発表した[13]。同月30日、日本国政府の新型インフルエンザ等対策有識者会議は、約200万人分を上限目標に備蓄することとし、厚生労働省は同日、約4万7000人分のアビガンを購入する契約を富山化学と結んだ[14]

日本国政府が備蓄しているアビガン錠の放出は、「国の指示に基づき指定された医療機関へ放出」「新型インフルエンザ発生後速やかに、安全性及び有効性の知見・情報を集積する体制(臨床試験等)を整備」とされている[15]。特定および第1種感染症指定医療機関または当該都道府県において知事が指定する医療機関が供給依頼し、厚生労働省が富山化学に出庫指示を出す[16]

H7N9鳥インフルエンザへの適用[編集]

投与例[編集]

2017年2月21日、中華民国衛生福利部疾病管制署中国語版(台湾CDC)は、輸入していたファビピラビルを、薬剤耐性H7N9亜型インフルエンザ感染患者のために放出したと発表した[17][18]。同月27日、この患者は多臓器不全で死亡した[19]

マダニ感染症への適用[編集]

2016年2月22日、厚生労働省研究班のチームがマダニが媒介するウイルス感染症「重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)」に、ファビピラビルが有効であることをマウスの実験で確かめたと、米微生物学会の専門誌に発表した[20]。感染直後に投与すれば高い確率で救命できることが示唆された[20]。2016年6月より愛媛大学長崎大学国立国際医療研究センター国立感染症研究所など日本国内30ヵ所の医療機関が臨床研究を開始した[21][22][23]

2017年11月9日、愛媛大学らの研究グループが、「一定の治療効果が認められた」と臨床研究の結果を発表した[24]。同グループは今後治療法の確立を目指すとしている[24]

2018年3月12日、富山化学がマダニによるSFTSに対する治験の最終段階である第III相試験(フェーズ III)の患者登録を開始したと発表[25][26]

エボラ出血熱への適用[編集]

ドイツにおける最初のマウス実験[編集]

2002年頃から、ファビピラビルが広範囲のRNAウイルスに対して抗ウイルス効果を持つことが認識されており、インフルエンザウイルス以外のウイルスに対する効果についての研究が散発的に行われていた。

これらの結果を受け、ドイツベルンハルト・ノホト熱帯医学研究所ハンブルク)のシュテファン・ギュンター所長を中心とする研究グループは、ファビピラビルがエボラ出血熱ウイルスに対して、どの程度の効果を持つかを検証するため、2013年に同研究所のバイオセーフティーレベル4研究施設において、マウスを用いた動物実験を実施した[27]

用いたエボラウイルスは、アメリカ疾病予防管理センターから提供を受けた野生型ザイール株(ただし、オリジナルのZaire Mayinga 1976年株とは、わずかに2塩基対が異なっていた)である。また、用いたマウスは、I型インターフェロンαおよびβ受容体を欠く2種類のノックアウトマウス、IFNAR-/- C57BL/6およびIFNAR-/- 129/Svであり、これらは野生型ザイール株に対する致死的な感受性を持つことが他の研究で判明していた。

IFNAR-/- C57BL/6ノックアウトマウスを用いた実験は、週齢をそろえた雌のマウスを次の3つの実験群に分けて行われた。各実験群当たりのマウスは5から10匹であった。感染はエアロゾルを鼻腔から吸入させる方法で行った。

実験群1:コントロールグループ(対照群)であり、ファビピラビルを投与しない
実験群2:感染後6日目から13日目までファビピラビルを投与(1日当たり、体重1kg当たり300mg)
実験群3:感染後8日目からファビピラビルを投与(1日当たり、体重1kg当たり300mg)

結果は次の通りであった。

実験群1:感染から10日以内に全個体死亡
実験群2:投与後4日(感染後10日)以内に血液中のウイルス消滅。感染後3週間まで全個体生存、回復
実験群3:実験群1より若干死期を遅らせたが、感染後14日目までに全個体死亡

IFNAR-/- 129/Svノックアウトマウスを用いた実験では、予想に反してファビピラビルを投与しない対照群の生存率が80%に達したため、ファビピラビルを投与した実験群と生存率にほとんど差が出ないという結果に終わった。これは、他の研究で報告されていたのはIFNAR-/- 129/SvはザイールE718 1976年株に対して致死性を持つということであり、今回用いたZaire Mayinga 1976年株との違いによるものであろうと考えられた。

総論として、ファビピラビルはマウス実験のレベルにおいては、明らかにエボラ出血熱に対する治療効果を持つが、投薬開始が感染後6日目と8日目では生死が100%分かれるというほど、生存率は投薬開始時期に強く依存することが判明した[28]

2014年夏以降の動き[編集]

富山化学の親会社である富士フイルムホールディングス、ならびに同社の提携先である米国のメディベクター (Medivector) 社が、アメリカ合衆国で治験を行う意向を示したことから、エボラ出血熱ウイルスに対するファビピラビルの効果について、米国および世界の関心が集まり始めた[29][30][31][32][33]

2014年10月20日、富士フイルムは、エボラ出血熱患者への投与拡大に備え、海外におけるエボラ出血熱対策での使用を目的とした「アビガン錠」の追加生産を決定した[34]フランスは、2014年10月21日、アビガンの臨床試験を開始すると発表した[35]

韓国保健福祉部は、2014年10月30日、富士フイルムとアビガンの供給について合意したと発表した。韓国でエボラ出血熱が発生した場合は、アビガンが使用されることとなった[36]

2014年11月11日、富士フイルムホールディングスはアビガン(ファビピラビル)が2015年1月にもエボラ治療薬として国際承認される見通しを明らかにした[37][38][39]。承認されればエボラ治療薬第一号となる[37][38][39]

2015年2月5日、フランス国立保健医療研究所 (INSERM) は、西アフリカ・ギニアで2014年12月17日から患者約80人に対して実施しているエボラ出血熱治療薬アビガンの臨床試験について、フランス大統領府に「死亡症例が減り治癒が増えている」と評価報告を行った。大統領府は「今後さらに大規模試験で確認する必要はあるが、アビガン服用はエボラとの戦いに有望と思われる」との声明を発表した[40]

2015年2月24日、INSERMおよび国境なき医師団 (MSF) は、血中ウイルス量が少ない感染初期の患者の死亡率が30%から15%へと半減し有効であったが、ウイルス量の多い患者や小児では効果が得られなかったと発表した[41][42][43][44]

投与例[編集]

2014年9月26日、富士フイルムはフランスでアビガン200mg錠がエボラ出血熱ウイルスに感染したフランス人女性看護師に投与されたと発表した。これはフランス政府機関より依頼を受け、日本政府と協議の上緊急対応として提供されたものである[45][46]。この女性は10月4日、無事に回復して退院した[47]

2014年10月6日、ドイツフランクフルト大学病院に搬送されたウガンダ人のエボラ出血熱患者の治療のために、10月4日に「アビガン錠」が投与された[48]

2014年10月19日、スペインのエボラ対策当局は、マドリード市内の病院で患者を看護していて二次感染し、入院治療を受けていた看護助手に対してファビピラビルを投与したところ、体内からウイルスが消失したと発表した[49]

2019新型コロナウイルスへの適用[編集]

2020年2月現在、2019新型コロナウイルス (SARS-CoV-2[50]) 感染症への効果が期待されている。

2020年2月4日にネイチャーの姉妹誌であるCell Researchに、中国科学院武漢ウイルス研究所などの研究グループが発表したレター(速報論文)によれば、in vitro(試験管内)の環境下で、アフリカミドリザル起源の標準細胞Vero E6細胞を用いて、ファビピラビルを含む7種類の物質の2019-nCoVに対する抗ウイルス効果を、50%効果濃度(EC50値)を基準として評価する試験を行ったところ、ファビピラビルのEC50値は61.88μM(マイクロモル/リットル)であった。これに対してエボラ出血熱治療薬として開発されたレムデシビルのEC50値は0.77μMであり、ファビピラビルより約80倍効果的であることが判明した。また、抗マラリア剤クロロキンのEC50値は1.13μMと、試された7つの物質のうちでは、レムデシビルに次ぐ効果を示している。しかし、エボラ出血熱ウイルスに対するファビピラビルのEC50値は67μMと、ほぼ同程度であるにもかかわらず、臨床試験・動物実験等in vivoの環境下では、エボラ出血熱ウイルスに対してはかなり良い抗ウイルス効果を示しているのに、レムデシビルは有意な効果は示していない。このため、研究グループは、ファビピラビルについてはin vivoでの試験が必要であると結論付けている[51]

2020年2月15日付けの科技日報(科技日报、発行:中華人民共和国科学技術部)によれば、上記のin vitro試験の結果に基づいて、ファビピラビル、レムデシビル、クロロキンについて、既に中国で臨床試験が開始されている。ファビピラビルについては、70名の患者(プラシーボを投与される対照群を含む)で実施されており、初期の段階では明らかな治療効果と十分低い副作用を示している。投与群については、投与から3から4日後には、ウイルス核酸の排除速度は対照群に対して有意に高かった(レムデシビル、クロロキンの結果については、この記事では触れられていない)[52][53]

また、2020年2月13日付けの科技日報は、次のようなやや具体的な臨床的効果に関する情報を載せている。「科学研究グループは深圳第三人民病院で臨床研究を実施し、26名の患者が登録された。このうち中程度の症例は25例であり、重篤な症例は1例であった。ファビピラビルは、明らかな副作用を発現せず、患者のコンプライアンスも良好であり、発熱患者に対する比較的良い解熱効果を有し、薬を服用してから2日以内に72%の発熱が緩和された。また、3日以内の肺の影像学的好転率は38%で、6日間以内の肺の影像学的好転率は70%であった。」[54]

このように、ファビピラビルがin vitro環境ではレムデシビル、クロロキンに対して大きく効果が劣るにもかかわらず、in vivoの臨床試験では著しい効果を発揮する理由について、2020年2月17日付けの科技日報は、2月4日にCell Researchに発表された論文の共同執筆者の一人である鍾武(钟武、Zhong Wu)の次のような説明を載せている「ファビピラビルはRNAポリメラーゼ阻害剤の一種ではあるが、特殊なのは、それ自体はプロドラッグであり、RNAポリメラーゼと相互作用する競合基質として作用するために、in vivoでの三リン酸化を必要とするということである。」つまり、Vero E6細胞を用いたin vitro試験では、十分な三リン酸化を受けられなかったため、本来の効果が発揮されなかったということである[55]

浙江海正薬業股份有限公司は国家食品薬品監督管理局(国家薬監局)の承認を得て、ファビピラビルを正式に販売できる状態となっており、2020年2月16日から正式に後発医薬品としての生産を開始した[56]

2020年2月22日、日本国政府は新型コロナウイルスの感染者を対象にアビガンの投与を推奨する方針を固め、近く製薬会社に増産を求めるとも報じられた[57]。同日、加藤勝信厚生労働大臣は患者への投与を開始したことを明らかにした[58][59][60]

2020年3月6日付けの科技日報において、中国科技部・生物技術開発センター(Chinese National Center for Biological Development:CNCBD)所長で、中国国務院・共同予防および管理機構(the Joint Prevention and Control Mechanism of the State Council)・科学研究グループ・薬物研究チームのリーダーでもある張新民(张新民、チャン・シンミン、Zhang Xinmin)はインタビューに応じて、「深圳第三人民病院は、新冠状肺炎の治療におけるインターフェロンと組み合わせたファビピラビルの有効性と安全性に関する研究を実施し、80人の患者が登録された。その中で、投与群は35例、対照群は45例であった。」と述べている。上記の深圳第三人民病院における26例は、この投与群35例の一部であると思われる。また、張新民は、新規の情報として、「武漢大学中南病院は、新型コロナ肺炎の治療におけるファビピラビルの多施設臨床研究を実施し、88人の患者による7日間の臨床観察を完了した。内訳は、投与群、対照群とも各々44例である。中間結果として、治療7日後の投与群の臨床回復率は対照群よりも良好であり、治療3日目の体温正常復帰率は81.8%であり、これは対照群の29.5%より有意に高く、治療6日目の咳寛解率は93.2%に達し、これは対照群の68.2%よりもかなり良い。現在、試験はまだ進行中であり、臨床的観察と結果の分析を続行中である。」と明らかにした[61]。話中の「多施設臨床研究(多中心临床研究)」の意味がはっきりしないが、同日付け科技日報の別の記事で明らかにされている、武漢で実施中のファビピラビルの大規模臨床試験(推定1000人規模)を指している可能性がある[62]

2020年3月12日付けの中国・科普時報(科普时报)によれば、3月11日に中国・共同予防および管理機構・特別薬剤研究チームが「新しいコロナウイルス肺炎 (COVID-19) 患者の治療におけるファピラビルの安全性と有効性に関する臨床研究(登録番号:ChiCTR2000029600)」の結果を発表した。この研究は、薬物および技術の緊急予防と管理のための国立工学研究センター、および深圳第三人民病院の刘磊、刘映霞のチームによって実施されたものであり、ファビピラビルを投与する新型コロナウイルス肺炎の患者35人と、カレトラ(ロピナビル/リトナビル)を投与する患者45人について、投与開始からウイルスが体内から排除されるまでに要した日数を比較したものである。結果は、ウイルス除去までに要した期間の中央値は、ファビピラビル投与群で短く、中央値四分位範囲)は4日(2.5-9日)で、カレトラ投与群では11日(8-13日)であった。またカレトラ投与群に対してファビピラビル投与群の方が副作用は少なかった。この研究結果は中国工学院に提出された[63]

一方で効果や副作用の強さから使用を疑問視する見方もあった。2020年3月16日付けの韓国・中央日報によれば、韓国政府は新型コロナウイルス感染症の治療のために一度は輸入特例を検討していたアビガンを、臨床的根拠が十分でないという国内専門家らの意見に従い導入しない方針を決定したという。新型コロナ感染者の治療を担当した主治医らで構成された中央臨床委員会などは、アビガンを新型コロナ治療に使用するほどの根拠が十分でないとみている。国際学術誌『ネイチャー』などに掲載された論文を分析した結果、アビガンが新型コロナウイルス抑制効果がなく、副作用も深刻であり、新型コロナ治療薬として使用しにくいという結論を出した。[64]

2020年3月17日付けの科技日報によれば、17日に、中国国務院・共同予防および管理機構(the Joint Prevention and Control Mechanism of the State Council)が記者会見を開き、科学技術部・生物技術開発センター所長の張新民(张新民)、工程院院士の王軍志 (王军志)らは、ファビピラビルが臨床研究を完了し、正式に有効性を確認したことを明らかにした。張新民によれば「安全性の観点からは新型コロナウイルス肺炎の臨床研究では、臨床的に重大な副作用は発見されていない。有効性の観点からは、深圳第三人民病院が実施した、インターフェロンと併用したファビピラビルの有効性と安全性の研究では、80人の患者が登録され、そのうち35人がファピラビル投与群、45人が対照群であった。 結果は、ウイルス核酸が陰性になるまでに要した時間の中央値は、投与群が対照群よりも有意に短く、それぞれ4日および11日であった。胸部X線画像の改善率に関しては、投与群と対照群でそれぞれ91.43%と62.22%であった。また、武漢大学中南病院で行われていた、多施設臨床試験(前述)は、最終的に120人の患者が登録され、臨床治療観察は完了した。臨床研究の結果は、ファビピラビル投与群が新型コロナウイルス肺炎の治療において対照群よりも有意に優れていることを示している。治療終了時の中程度患者の臨床的回復率は、投与群の方が対照群よりも有意に良く、それぞれ71.43%と55.86%であった。 解熱時間に関しても、投与群は対照群よりも有意に良好であり、平均解熱時間はそれぞれ2.5日と4.2日であった。 平均咳寛解時間は、投与群よりも対照群の方が有意に長く、それぞれ4.57日と5.98日であった。治療期間中の中程度患者の補助酸素療法または機械呼吸装置の使用率は、投与群の方が対照群よりも有意に低く、それぞれ 8.16%と17.12%であった。入手可能性の観点からは、今年2月、国内企業は国家薬監局から医薬品登録の承認を取得し、大量生産を達成し、臨床薬の供給が保証されている。」また、張新民は「ファビピラビルは医薬品の良好な安全性、明確な有効性、および入手可能性を考慮して、科学研究グループの専門家によって医療グループに正式に推奨された。できるだけ早く治療計画に組み込むよう提案する。」と述べた[65]

2020年3月19日に、日本感染症学会のホームページ上で発表された、「日本感染症学会 挿管管理を要した3例を含む新型コロナウイルス感染症15例の報告」(市立札幌病院)によれば、発症11日目の60代の患者(男性)1名に対してファビピラビルの投与(シクレソニドも併用)が行われた。ファビピラビルの適応外使用に関しては、院内臨時倫理委員会の承認を得て実施されている。投与は、発症13日目にECMO導入のため患者が他院へ転院となるまで続けられたが、この間で症状の改善はみとめられなかった[66]

2020年3月20日、イランのタスニム通信は、イラン新年初日(3月20日)に茂木敏充外務大臣とイランのザリフ外相が電話会談を行い、茂木大臣は日本政府はイランに対して無償でファビピラビルを供与する予定であると述べたと報道した [67]

2020年3月22日付けのイタリアの日刊紙 Il Fatto Quotidiano の報道などによれば、3月22日に、イタリア医薬品庁(アイファ、AIFA)は、同庁の科学技術委員会は、最も新型コロナウイルス感染症の拡大が激しい3つの地域、ロンバルディア、ベネト、エミリアロマーニャの病院におけるファビピラビルの試験的投与を承認したと発表した。ただし、イタリア医薬品庁は、公衆に対して、「(新型コロナウイルス感染症に関しては)この薬はヨーロッパでもアメリカでも認可されていない。 この薬物の効果について現在ある証拠は、まだ不十分で予備的なものである。」と釘を刺している [68] [69]

2020年3月23日、武漢大などの研究チームが新型コロナウイルスによる肺炎に対するファビピラビル投与で、軽症者に限ると投与後7日以内の回復率が7割を超え、有効性が確認できたと発表した[70][71]。軽症例に限ると多くの症例がファビピラビル投与で4日以内に症状が消えたと報告した[70][71]。同研究チームが2020年3月27日に、medRxiVプレプリントサーバ上に投稿した未査読論文 [72] によれば、この研究は、2020年2月20日から3月12日にかけてに、武漢市の3つの病院で実施された多施設臨床研究(多中心临床研究、登録番号:ChiCTR2000030254)であり、ファビピラビル投与群の治療効果をUmifenovir(商品名:アルビドール、Arbidol)投与群を対照群として比較評価するものであった。総数240人の患者を、ランダムに120人ずつのグループに分け、一方をファビピラビル投与群とし他方をアルビドール投与群とした。オープン・ラベル試験であり、医師および患者には、どちらの薬が投与されるのかは開示されていた。結果は、7日目の回復率はファビピラビル投与群(最終評価数は116人)が71.43%であるのに対しアルビドール投与群(最終評価数は120人)は55.86%であり、治療効果におけるファビピラビルのアルビドールに対する優位性は、統計的に有意であった(帰無仮説成立確率:P=0.0199)。

2020年3月24日付けの、米国のアラブ系ニュースサイトAl-Monitorの報道によれば、3月23日にトルココジャ保健相が記者会見で、トルコでは中国から供与された特殊治療薬の新型コロナウイルス感染症患者への投与を既に実施していると発表した。トルコ国営・アナドル通信社によれば、この治療薬は国内の40の都市に空輸された。コジャ保健相は治療薬名は明らかにしなかったが、後で保健相のコロナウイルス対策特別委員会のメンバーが、ファビピラビルであると明らかにした[73]

2020年3月28日に、安倍晋三首相は記者会見で、ファビピラビルについて「新型コロナウイルスの治療薬として正式に承認するにあたって必要となるプロセスを開始する、「多くの国から関心が寄せられており、希望する国々と協力しながら臨床研究を拡大し、増産をスタートする」と発表した [74]

2020年3月31日、富士フイルムは日本国内で新型コロナウイルスに対する治験を開始したと発表した[75][76]

特許について[編集]

2020年3月18日付けの日経バイオテクによれば、2019年に中国における富士フイルムのファビピラビルの物質特許は失効している。ただし、製造特許は存続している[3]。日本における物質特許は、富士フイルムが5年間の延長手続きを行っており、2024年まで有効である[77]

中国・浙江海正薬業股份有限公司(Zhejiang Hisun Pharmaceutical)は、2016年6月、富士フイルムとファビピラビルの特許ライセンス契約を締結し、中国における製造、販売のライセンスを取得している。富士フイルムは、一時金やロイヤルティを受け取る契約であった。2019年の富士フイルムの物質特許の失効に伴って、このライセンス契約も終了し、その後は、浙江海正薬業は、富士フイルムの製造特許に触れない形で、後発医薬品としてファビピラビルを製造しており、これらについては、富士フイルムはロイヤルティを受け取ることはできない。中国で行われた2019新型コロナウイルスの国家主導臨床試験に提供された、浙江海正薬業が製造したファビピラビルも、この後発医薬品に該当する[3]

なお、富士フイルムの広報担当者は、「現在もZhejiang Hisun Pharmaceutical社とは協力関係にあるものの、製造特許は存続しているため、(それを回避する方法で製造されている同社の製品は)不純物の組成などが富士フイルムが製造するファビピラビルと若干異なる可能性は否定はできない」とコメントしている[3]

用法[編集]

通常、成人に1日目は1回1,600 mgを1日2回、2-5日目は1回600 mgを1日2回経口投与する。総投与期間は5日間まで[5]。アビガン錠は200 mgなので、一人当たりの投与量は (1600 × 2 + 600 × 2 × 4) mg / 200 mg = 40錠となる。研究では高用量投与(ハイドーズ)も行われている。

なお、動物実験で催奇形性が確認されているため、妊婦および妊娠の可能性のある女性への投与は禁忌である[1][78]。また男女を問わず、投与期間中および投与終了後7日間においては、なるべく性交を行わず、行う場合は必ず避妊するよう指示されている[1][78]

2019新型コロナウイルス臨床試験での用法例[編集]

  • 成人に対して、経口投与により、1日目は3200mg、2日目から14日目は1日あたり1200mg。投与期間は、ウイルスがなくなるまで、または最長14日間(中国・深圳第三人民病院での実施例)[63]
  • 初日は、1回1,800mg 12時間ごと2回投与、その後1回800mg 12時間ごと投与 (発症11日目の60代の患者(男性)1名に対して、市立札幌病院での実施例)[66]

出典[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ a b c d “エボラ出血熱で世界が注目する日本発のある薬剤”. 日経メディカル. (2014年8月11日). http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/eye/201408/537890.html 2014年8月18日閲覧。 
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外部リンク[編集]