アダルトチルドレン

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アダルトチルドレン(Adult Children)とは、「機能不全家庭で育ったことにより、成人してもなおトラウマを持つ」という考え方、現象、または人のことを指す。頭文字を取り、単にACともいう[1][2]。元来は、Adult Children of Alcoholics(アルコール常用者の子供で成人した者)、ACOA、ACAと呼ばれ、親がアルコール依存症者の家庭で育った子供の問題を扱う用語だった。なお、英語圏で単に「アダルトチルドレン」という場合、成人した(続柄上の)子供を指す。

概要[編集]

ウィリアム・ホガースによるアルコール中毒の人々の絵、1751年

一般には、「からの虐待」「アルコール依存症の親がいる家庭」「家庭問題を持つ家族の下」で育ち、その体験が成人になっても心理的外傷(トラウマ)として残っている人をいう[3]。破滅的、完璧主義対人関係が不得意といった特徴があり、成人後も無意識裏に実生活や人間関係の構築に、深刻な影響を及ぼしている。信田さよ子によれば、ACは自己認知の問題であり、診断的に与えられる言葉ではない[2]。生きづらさという問題を解決するための自覚用語である[4]

語の発祥は「Adult Children of Alcoholicsアルコール依存症の親の元で育ち、成人した人々)」であった。この言葉は、1970年代アメリカの社会福祉援助などケースワークの現場の人たちが、自分達の経験から得た知識により作り出したものであり、学術的な言葉ではなかった。その後、アメリカのソーシャルワーカークラウディア・ブラックの研究により、単にアルコール依存症の親の元で育った子どもだけでなく、機能不全家庭で育つ子どもが特徴的な行動、思考、認知を持つと指摘された[要出典]

1990年、精神科医マーガレット・ラインホルドがHow to Survive in Spite of Your Parents:Coping with hurtful childhood legaciesを発表し、日本では1995年に翻訳書の『親から自分をとり戻すための本―「傷ついた子ども」だったあなたへ[5]が出版された。

日本における歴史[編集]

日本では1989年に東京で行われた「アルコール依存症と家族」という国際シンポジウムで、米国在住の心理学博士カウンセラー西尾和美が連れてきたクラウディア・ブラックが「アルコール依存症の治療」を発表した。クラウディアはシンポジウムの翌日、実践的な治療プロセスとして「アルコホリックと家族」というワークショップを西尾と共に行い、「アダルトチルドレン」という考え方を具体的に示した。

1995年、西山明の『アダルト・チルドレン』が刊行される[6]1996年アルコール依存症治療で実績のある斎藤が『アダルト・チルドレンと家族 心のなかの子どもを癒す』を刊行した[7][8]。アダルトチルドレンという言葉は、アメリカでは本来の「酒害家庭で育ち、いまは大人になった人々」という意味から、AC movement と呼ばれる市民運動にまで発展し、かなり広い意味を持つが、日本にはそうした過程を飛ばして導入されたため、様々な誤解が生じた[4]。マスコミなどで恣意的な逸脱した意味で流布されるようになったため、斎藤学はこの語を使うことをやめ、かわりに「アダルトサヴァイヴァー」を用いるようになった。同1996年、原宿カウンセリングセンターの信田さよ子も著作『「アダルト・チルドレン」完全理解』 [9]を刊行、1997年には西尾和美[10]長谷川博一などの著作[11]などで広く知られるようになった。1998年にはクラウディア・ブラックの翻訳も刊行された[12]

アダルトチルドレンの主なタイプ[編集]

マスコット(ピエロ、クラウン、道化師):おどけた仮面を被って不安を隠してきたタイプ[編集]

外面 - 過度にかわいく子どもっぽい、家族の笑いと関心の対象、か弱くて保護を必要とする
内面 - 自己評価が低い、恐れ、孤独、無力感
言動 - ふざけ、ユーモア
弱点 - ひょうきん、ストレス処理が下手、いつもヒステリー寸前
長所 - 人あたりがいい、良き友人となる、頭の回転が速い、ユーモアのセンスがある、有能
自分への言葉 - おどけた行動の背景には、恐れと不安の感情がありませんでしたか?
・怒りたいときは怒ってもいいのです。
・つらいときは、「つらい」と言ってもいいのです。
・周囲の緊張にいつも自分が責任をもつ必要はないのです。

ケア・テイカー(世話役):親や周囲の面倒を見てきたタイプ[編集]

外面 - 優しい子、思いやりのある子、聞き上手
内面 - 自信のなさ、責められてると感じやすい 、正当な欲求を押し殺す
言動 - 周囲の役に立つように頑張る、困っている人を放っておけない
弱点 - 自分がない、一線を引けない、依存されることを追い求める
長所 - 努力家、責任感、道徳感に秀でる、世話見がよい
自分への言葉 - 感受性が豊かで他人の痛みに共感しやすく、いつも自分の欲求を二の次にしてきませんでしたか?
・自分のことを真っ先に考えていいのです。自分のことを優先するのは自分勝手ではありません。
・自分自身に焦点を当ててみましょう。「私は何がしたい?」「今どう感じている?」と自分に聞いてみましょう。
・無邪気に遊ぶチャンスをつくりましょう 。

ヒーロー:家族の期待を一身に背負ったタイプ[編集]

外面 - 小さな親、小さな大人、生真面目、努力家
内面 - 心の傷、不適応感、罪悪感、過剰な自尊心
言動 - 他者に自分の評価を押し付け尊敬を得ようとする
弱点 - 仕事依存、依存的な人と結婚、人を支配し操作、完全主義
長所 - 自身の失敗を許容、自己に厳しく他者に寛大、管理職の適性
自分への言葉 - いつも完璧でいるために必死だった自分へ
・失敗しても大丈夫です。あらゆることを完璧にこなす必要はないのです。
・自分も人も能力や努力だけで評価しない。丸ごとの自分やその人に価値があるのです。
・ホッと息抜きできる時間を持ってもいいのです。

スケープ・ゴート(身代わり):家族の問題を行動化するタイプ[編集]

外面 - 反抗的、陰気、反感を買う行動、張り合わない
内面 - 心の傷、見捨てられ感、怒り、拒絶、不適応感、低い自己評価
言動 - 問題を起こし注目を集める、自虐自傷自罰行為、自暴自棄
弱点 - アルコール等依存傾向、問題児、年少妊娠や犯罪の傾向
長所 - 現実の直視、立ち直る勇気、人を助ける力
自分への言葉 - 親や家族が自分に十分注目してくれないことに傷ついてきた自分へ
・自分は愛される価値がある人です。
・自分はひとりぼっちではありません。
・自分は大切な存在です。

ロスト・ワン(ロスト・チャイルド、迷子、いなくなった子):存在しないふりをして生きのびたタイプ[編集]

外面 - 顔を見なくても誰も気にしない、無口で陰気
内面 - 孤独、傷つき、見捨てられ、恐れ、あきらめ、挫折感
言動 - 少なくとも手がかからない、心配させないという意味では良い子
弱点 - 優柔不断、孤独、「NO」と言えない、行き当たりばったり
長所 - 自立している、才能豊かで創造的、はっきりしていて決断力に富む
自分への言葉 - 「自分はどうでもよい存在だ」と感じ、目立たないことで自分に問題が降りかからないようにしてきた自分へ
・自分は大切な存在です。
・自分にはたくさんの潜在能力があります。
・自分の人生の主人公は自分です

[13] [14]

関連する問題[編集]

家族機能不全[編集]

家族機能の状態は、こどもの抑うつ感、不安感、神経症的傾向と関連がある[2]。アダルトチルドレン研究は臨床研究は不十分である[2]諸井克英は2007年に「家族機能認知とアダルトチルドレン傾向」[15]を発表、そのなかで、次の点を指摘した[2]

  • 家族の凝集性が高い場合は、自己への肯定的評価が育まれ、AC傾向が抑制される。
  • コミュニケーションが乏しい家族は、親密な対人関係を構築できないリスクを持つ。
  • 柔軟性に乏しい家族は、状況に適応できず、成り行き任せになる。

社会問題[編集]

現在の社会問題である、子どもの不登校引きこもり家庭内暴力、若者がキレる、凶悪犯罪、成人後のネグレクトなどの現象は、AC理論と密接に結びついているという見方が固まりつつある。これまでは、それぞれの現象は個別に研究されている傾向があったが、主としてメンタルケアを直接行っているカウンセラーなどのあいだで、児童期の養育環境・親子関係の問題として統合される過程にある。

しかしながら本人の特性により他の人が耐えられる環境に耐えられない発達障害の問題も存在するので、全ての不登校者がACとは限らない。

医学との関係[編集]

2008年現在、全般的に日本の精神医学界ではAC理論とは距離を取っている。心的苦しみが極度に進行し精神科治療が必要となった、虐待や喪失体験による心的障害だけが治療対象とされる場合が多い。AC理論を受け入れ、カウンセラーも兼任し治療を行っている医師もいる。アメリカ・イギリス・フランスなどでは、日本よりはるかに進んだ治療的取組みがなされており、その方法論も洗練されている。

ACは精神疾患名ではないが、ACと称し称される人々の中にはうつ病パニック障害社交不安障害全般性不安障害解離性障害複雑性PTSDなどの精神疾患を有している人たちがいる。また、境界性パーソナリティ障害演技性パーソナリティ障害反社会性パーソナリティ障害自己愛性パーソナリティ障害回避性パーソナリティ障害強迫性パーソナリティ障害依存性パーソナリティ障害等のパーソナリティ障害として診断されることもある。

誤解と課題[編集]

日本には、アメリカのような段階を得ずに導入されたため、生きづらさという問題を解決するための出発点であるものを、ゴールであると考え、「わたしはACなんだから、こういうことはできなくて当たり前」で、自分は被害者なのだと主張するために乱発するなど誤用が起こった[4]。こうした一種の宿命論は、毒親糾弾ブームでも繰り返されている[16]。また、自覚用語であったものが、他者のレッテル張りにも使われた[4]

Adult Children(成人した続け柄上の子供)という英語の熟語を正しく理解していない事が理由で「子どもっぽい大人」「オトナ子ども」といった安直な意味でも用いられた[4]。医療関係者やマスコミ、知識人も批判を展開し、「何でも親のせいにするな」「流行だから名乗るのか」というようなAC概念をよく知らずにされたものから、機能不全家族の尺度をはかる指標がないなどのエビデンスベイスドに関するものまで批判は多岐にわたった[4]。精神科医の岩波明は、誤用されたAC概念はマスコミが煽って社会に蔓延したと述べている[17]

「子どもっぽい大人」の誤用の例として、2001年、セガ(後のセガゲームス)は「大人げない性格」を表現する意図で「アダルトチルドレン」と命名されたキャラクターが登場するゲームソフト「セガガガ」を販売していたが、「日本アダルトチルドレン協会(JACA)」、「アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)」、「アディクション問題を考える会(AKK)」が誤用を指摘し、セガ側はキャラクター名の変更(→スパイおじさん)、通信販売サイトでの一時販売停止、一般店頭販売予定日の延期を行った[18]

このような「子どものような大人」、「大人になりきれていない未熟な人」といった誤解などから批判を受けがちである。代表的な例として「いい年をして自分の未熟な部分を親のせいにするな」がある。マスコミによる誤情報の流布の影響もあり、AC問題は日本の社会では正しい認知をされているとは言いがたい。また、親子間問題などの人生の諸問題は本人が単独で解決するべき、という風潮・文化が日本では根強く、第三者が介入して問題解決をするという考え方自体が希薄であり、欧米とは相当な距離感がある。第三者には理路整然とした問題解決の方法が示すことができるが、具体的解決策を発見して実行できるのは本人だけであり、時間のかかり方・取り組み方が当事者と第三者との間でギャップを感じさせ、第三者が批判的ポジションに移行してしまう傾向がある。こうした誤解・批判がAC問題に悩む人にとって解決・回復への大きな足かせとなっている。

脚注[編集]

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  1. ^ 塚原貴子、新山悦子、笹野友寿 2005.
  2. ^ a b c d e 井村文音、松下姫歌ほか 2011.
  3. ^ 斎藤学『アダルトチルドレンと家族 心のなかの子どもを癒す』学陽書房1996年
  4. ^ a b c d e f アダルトチルドレンの日本での展開 日本トラウマサバイバーズ・ユニオン
  5. ^ マーガレット・ラインホルド『親から自分をとり戻すための本―「傷ついた子ども」だったあなたへ』朝日文庫
  6. ^ 西山明『アダルト・チルドレン―自信はないけど、生きていく』三五館 1995年 ISBN 4883200663
  7. ^ 斎藤学『アダルトチルドレンと家族 心のなかの子どもを癒す』学陽書房1996年
  8. ^ それ以前から『子供の愛し方がわからない親たち 児童虐待、何が起こっているか、どうすべきか』(講談社 1992)などでも関連する話題について著作がある。
  9. ^ 信田さよ子『「アダルト・チルドレン」完全理解』三五館、1996年7月。
  10. ^ 西尾和美『アダルトチルドレンと癒し』学陽書房,1997
  11. ^ 長谷川博一『たましいの誕生日-迷えるインナーチャイルドの生きなおしに寄り添う』日本評論社、1999年
  12. ^ クラウディア・ブラック『もちきれない荷物をかかえたあなたへ』アスク・ヒューマン・ケア
  13. ^ http://www.ask.or.jp/actype.html ACの5つのタイプ
  14. ^ https://www.just.or.jp/?terminology=000877 アダルトチルドレン6つの役割
  15. ^ 諸井克英「家族機能認知とアダルトチルドレン傾向」同志社女子大学、学術研究年報58、2007年
  16. ^ 親が「毒親」だからといってあなたが不幸になる必要はない 『「毒親」の子どもたちへ』著者・斎藤学氏インタビュー SYNODOS 2015年7月15日
  17. ^ 岩波明 著 『狂気の偽装 精神科医の臨床報告』新潮社、2006年
  18. ^ DC「セガガガ」製品内容の一部修正と発売延期を発表 Game Watch ニュース、2001年5月1日

参考文献[編集]

  • Harman, J.L.:"Trauma and Recovery", Basic Books, New York, 1992
  • Harvey, M.R.:"Memory Research and Clinical Practice - A Critique of three Paradigms and a Framework for Psychotherapy with Trauma Survivors", in 'Trauma and Memory', Thausand Oals;CL, Sage Publications, 1996
  • Trikett, P.K. & Putnam, F.W. "Developmental Consequences of Child Sexual Abuse", in 'Violence Against Children in the Family and Community', American Psychological Association, Washington D.C., 1998
  • 塚原貴子、新山悦子、笹野友寿「アダルト・チルドレン特性と対人関係でのストレスの自覚の程度との関係 : 看護学生と他学科学生との比較」 (pdf) 、『川崎医療福祉学会誌』第15巻第1号、2005年、 95-101頁、 NAID 110002981782
  • 井村文音、松下姫歌ほか「サブシステムに着目した家族機能とアダルトチルドレン傾向との関連について」 (pdf) 、『広島大学大学院心理臨床教育研究センター紀要』第10号、2011年、 21-34頁、 NAID 40019259528
  • 斎藤学『家族依存症』1989年(のち新潮文庫)
  • 斎藤学『「家族」はこわい』1997年、(のち新潮文庫)
  • 西尾和美『心の傷を癒すカウンセリング366日』講談社+α文庫
  • 西尾和美『機能不全家族』講談社+α文庫、2005年
  • 信田さよ子『アダルトチルドレンという物語』文春文庫
  • 信田さよ子『愛情という名の支配』海竜社
  • クラウディア・ブラック『子どもを生きればおとなになれる―「インナーアダルト」の育て方』アスク・ヒューマン・ケア,2003.
  • クラウディア・ブラック『私は親のようにならない』 斎藤学 訳、誠信書房、2004.
  • スーザン・フォワード『毒になる親』毎日新聞社,1999年(講談社+α文庫、2001年)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]