アダルトチルドレン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Jump to navigation Jump to search

アダルトチルドレン(英:Adult Children)とは、

  1. 親がアルコール依存症の家庭で育って成人した人[1][2]。Adult Children of Alcoholics(ACOA、ACA)とも。こちらが元々の意味である。アメリカでアルコール依存症治療との関わりの中で生まれた言葉である[1]
  2. 親による虐待や家族の不仲、感情抑圧などの見られる機能不全家族で育ち、トラウマ(外傷体験)を持つ人。Adult Children of Dysfunctional family(ACOD)[3]。「機能不全家庭で育ったことにより、成人してもなおトラウマを持つ」という考え方、現象、または人のこと。頭文字を取り、単にACともいう[4][5]

共に医療における診断用語ではない。大人になっても子供の状態から抜け出せない人、親から自立しない人を指すこともあるが、誤用である[6]。なお、英語圏で単に「アダルトチルドレン」という場合、成人した(続柄上の)子供を指す。

1から2の意味が派生しているため、本記事では両方に触れることとする。区別が必要な場合、1をACOA、2をACODと表記する。

概要[編集]

ウィリアム・ホガースによるアルコール中毒の人々の絵、1751年

語の発祥は「Adult Children of Alcoholics(アルコール依存症の親の元で育ち、成人した人々)」で、1970年代アメリカで使われるようになった。近年の日本では、一般的には「からの虐待」「アルコール依存症の親がいる家庭」「家庭問題を持つ家族の下」で育ち、その体験が成人になっても心理的外傷(トラウマ)として残っている人をいう[7][要ページ番号]

信田さよ子によれば、ACは自己認知の問題であり、診断的に与えられる言葉ではない[5]。生きづらさという問題を解決するための自覚用語である[8]

歴史[編集]

アダルトチルドレンの概念は、カナダのR. Margaret Corkの『The Forgotten Children: A Study of Children with Alcoholic Parents(忘れられた子供:アルコール依存症の両親の子供に関する調査)』(1969年)に始まった。ただし、この本の時点では、アダルトチルドレンという言葉は使われていない[3]

Adult Children of Alcoholics という言葉は、1970年代アメリカの社会福祉援助などケースワークの現場の人たちが、自分達の経験から作り出したものであり、学術的な言葉ではなかった。1774年にアメリカで、「アルコール依存症とアルコール乱用国立研究所」がアルコール問題家族で育った子供達の研究を始め、1979年には同研究所が国内会議を主催し、関心が広まっていった[3]

1981年にはクラウディア・ブラックがセルフヘルプ本『It Will Never Happen to Me! Children of Alcoholics: As Youngsters - Adolescents - Adults(邦訳:私は親のようにならない―アルコホリックの子供たち)』、1982年にはジャネット・G. ウォイティッツがセルフヘルプ本『Adult Children of Alcoholics(邦訳:アダルト・チルドレン―アルコール問題家族で育った子供たち)』を出版しベストセラーになり、続いて1985年にW.クリッツバーグが『The Adult Children of Alcoholics Syndrome(邦訳:アダルトチルドレン・シンドローム―自己発見と回復のためのステップ)』を刊行した[3]。こうした本の流行で注目が高まり、「アダルトチルドレン」という用語が定着し、1980年代にアダルトチルドレンが一大ブームとなっていった[3]

1980年代後半には、アルコール問題家族だけでなく、薬物・ギャンブルなどの依存症、過食、暴力、拒食、閉じこもりなどの嗜癖という視点が加わり、様々な問題を抱え子供が安心して生活できない機能不全家族(dysfunctional family)で育った人も、アルコール問題家族で育った人と同じような問題を抱えていると考えられるようになった[3]。そこで、このふたつの概念を区別するために、ACOA(Adult Children of Alcoholics、アルコール問題家族で育った人)・ACOD(Adult Children of Dysfunctional family、機能不全家族で育った人)などの用語が用いられるようになった[3]。1980年代には、アダルトチルドレンの治療グループや自助グループが多く作られた[3]

日本[編集]

日本では1989年に東京で行われた「アルコール依存症と家族」という国際シンポジウムで、米国在住の心理学博士カウンセラー西尾和美が連れてきた[要出典]クラウディア・ブラックがアダルトチルドレンという言葉を紹介し、同年アルコール依存症治療で実績のある斎藤学がブラックの1981年の著作を『私は親のようにならない―アルコホリックの子供たち』のタイトルで邦訳し注目を集めた[3]

1994年に看護学者の安田美弥子『アル中家庭と子供たち:Adult children』、1995年にマーガレット・ラインホルド『わが子を愛するレッスン―「傷ついた子ども」だった両親へ』(1990年の著作の翻訳)[9]、同年西山明『アダルト・チルドレン』[10]1996年に斎藤学『アダルト・チルドレンと家族 心のなかの子どもを癒す』[7][注釈 1]、同年に原宿カウンセリングセンターの信田さよ子『「アダルト・チルドレン」完全理解』 [11]、1997年に西尾和美[12]長谷川博一などの著作[13]が刊行され、アダルトチルドレンという言葉が広く知られるようになった。

この言葉は、アメリカでは本来の「酒害家庭で育ち、いまは大人になった人々」という意味から、AC movement と呼ばれる市民運動にまで発展し、かなり広い意味を持つが、日本にはそうした過程を飛ばして導入されたため、様々な誤解が生じた[8]

アダルトチルドレンの類型[編集]

アルコール問題家族で育った人(ACOA)[編集]

アメリカのセラピスト、W.クリッツバーグは、1985年の著作『The Adult Children of Alcoholics Syndrome(アルコール問題家族で育ったアダルトチルドレン・シンドローム(邦訳:アダルトチルドレン・シンドローム―自己発見と回復のためのステップ)』で、「慢性ショック」や「見捨てられ体験」などをキーワードを使ってアルコール問題家族で成人した人々の生育を解説し、子供時代に機能不全家族のなかで、どのような役割を担わされていたかについて次のように述べた[14][15]。アダルトチルドレンがこの6パターンに分かれるということではなく、当時のアメリカでアダルトチルドレンと呼ばれた人々の子供時代の性格をとりあえずまとめたものである[14]

  • ヒーロー(hero / 英雄)
家族の内外で評価され、家族がさらなる活躍を期待することで、それに過剰に応え続けようとする。自分の活躍で冷えた両親の関係が一時的に良くなったりするため、がんばりすぎてしまう[14]
  • スケープゴート(scapegoat / いけにえ)
一家の負の部分を背負い込まされ、「この子さえいなければ、すべては丸く収まるのではないか」という幻想を他の家族が抱くことで、家族の崩壊を防ぐ役割となっている。非行に走っているように見えるが、実はこのタイプということもある。ヒーローの逆のタイプ[14]
  • ロスト・ワン(lost one / いない子)
目立たず静かにふるまい、普段はほとんど忘れられている。家族の人間関係から距離を取り、心を守るための行動である[14]
  • プラケーター(placater / 慰め役)
家族の中で暗い顔をしているものを慰め助け、カウンセラーのような役をする[14]
  • クラン(clown / 道化師)
プラケーターの亜種。道化師のような行動で家族間の緊張を和ませる潤滑油的存在で、表層的にはペットのようにかわいがられる[14]
  • イネイブラー(enabler / 支え役)
家族の他のメンバーに奉仕することで、自分の問題と向き合うことを避ける。家族の中で親のような役割をするため偽親とも呼ばれ、第一子がこうした役目になることが多く、第一子が別のタイプになった場合はその下の子供がイネイブラーとなることもよくある。ダメな母親の代わりをすることで、父親と情緒的近親相姦になることもある[14]

日本トラウマサバイバーズ・ユニオンは、上記をACOAではなくACODの類型として紹介しているが、全タイプに共通して、自分の都合ではなく、親の機嫌や家の中の雰囲気を優先して行動すると述べている[14]

関連する問題[編集]

家族機能不全[編集]

家族機能の状態は、こどもの抑うつ感、不安感、神経症的傾向と関連がある[5]。アダルトチルドレン研究は臨床研究は不十分である[5]諸井克英は2007年に「家族機能認知とアダルトチルドレン傾向」[16]を発表、そのなかで、次の点を指摘した[5]

  • 家族の凝集性が高い場合は、自己への肯定的評価が育まれ、AC傾向が抑制される。
  • コミュニケーションが乏しい家族は、親密な対人関係を構築できないリスクを持つ。
  • 柔軟性に乏しい家族は、状況に適応できず、成り行き任せになる。

誤解と課題[編集]

日本には、アメリカのような段階を得ずに導入されたため、生きづらさという問題を解決するための出発点であるものを、ゴールであると考え、「わたしはACなんだから、こういうことはできなくて当たり前」だという開き直りを招いたり、自分は被害者なのだと主張するために乱用するなど誤用が起こった[8]。こうした一種の宿命論は、毒親糾弾ブームでも繰り返されている[17]。また、自分自身への理解を深めるための自覚用語であったものが、他者のレッテル張りにも使われた[8]

Adult Children(成人した続け柄上の子供)という英語の熟語を正しく理解していない事が理由で、「子どもっぽい大人」「オトナ子ども」といった安直な意味でも用いられた[8]。医療関係者やマスコミ、知識人も批判を展開し、「何でも親のせいにするな」「流行だから名乗るのか」というようなAC概念をよく知らずにされたものから、機能不全家族の尺度をはかる指標がないなどのエビデンスベイスドに関するものまで批判は多岐にわたった[8]。精神科医の岩波明は、誤用されたAC概念はマスコミが煽って社会に蔓延したと述べている[18]

「子どもっぽい大人」の誤用の例として、2001年、セガ(後のセガゲームス)は「大人げない性格」を表現する意図で「アダルトチルドレン」と命名されたキャラクターが登場するゲームソフト「セガガガ」を販売していたが、「日本アダルトチルドレン協会(JACA)」、「アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)」、「アディクション問題を考える会(AKK)」が誤用を指摘し、セガ側はキャラクター名を「スパイおじさん」に変更し、通信販売サイトでの一時販売停止、一般店頭販売予定日の延期を行った[19]

注釈[編集]

  1. ^ それ以前から『子供の愛し方がわからない親たち 児童虐待、何が起こっているか、どうすべきか』(講談社 1992)などでも関連する話題について著作がある。[要出典]

出典[編集]

  1. ^ a b 柴田 1998.
  2. ^ アダルトチルドレン【adult children】 大辞林 第三版 コトバンク
  3. ^ a b c d e f g h i 井藤亮、岡千恵子、吉川晶子、高木彩余、田中伸子、西原清子、藤原芳枝 「新阿武山クリニックでの自助グループにおける発言頻度からみたACOAとACODの比較 序論」 同志社大学社会学部 立木茂雄研究室、1997年
  4. ^ 塚原貴子、新山悦子、笹野友寿 2005.
  5. ^ a b c d e 井村文音、松下姫歌ほか 2011.
  6. ^ アダルト‐チルドレン(adult children) デジタル大辞泉 コトバンク
  7. ^ a b 斎藤 1996.
  8. ^ a b c d e f アダルトチルドレンの日本での展開 日本トラウマサバイバーズ・ユニオン
  9. ^ ラインホルド 1995.
  10. ^ 西山明『アダルト・チルドレン―自信はないけど、生きていく』三五館 1995年 ISBN 4883200663
  11. ^ 信田さよ子『「アダルト・チルドレン」完全理解』三五館、1996年7月
  12. ^ 西尾 1997.
  13. ^ 長谷川博一『たましいの誕生日-迷えるインナーチャイルドの生きなおしに寄り添う』日本評論社、1999年
  14. ^ a b c d e f g h i アダルトチルドレン6つの役割 日本トラウマサバイバーズ・ユニオン
  15. ^ 製作責任者:立岩真也 『アダルトチルドレン・シンドローム――自己発見と回復のためのステップ』
  16. ^ 諸井克英「家族機能認知とアダルトチルドレン傾向」同志社女子大学、学術研究年報58、2007年
  17. ^ 親が「毒親」だからといってあなたが不幸になる必要はない 『「毒親」の子どもたちへ』著者・斎藤学氏インタビュー SYNODOS 2015年7月15日
  18. ^ 岩波明 著 『狂気の偽装 精神科医の臨床報告』新潮社、2006年
  19. ^ DC「セガガガ」製品内容の一部修正と発売延期を発表 Game Watch ニュース、2001年5月1日

参考文献[編集]

  • Black, Claudia (1982). It Will Never Happen to Me! Children of Alcoholics: As Youngsters - Adolescents - Adults. Medical Administration Co. 
    • クラウディア・ブラック 『私は親のようにならない―アルコホリックの子供たち』 斎藤学 訳、誠信書房、1989年
  • Reinhold, Margaret (1990). How to Survive in Spite of Your Parents:Coping with hurtful childhood legacies. 
  • 斎藤学『家族依存症』1989年(のち新潮文庫)
  • Harman, J.L.:"Trauma and Recovery", Basic Books, New York, 1992
  • Harvey, M.R.:"Memory Research and Clinical Practice - A Critique of three Paradigms and a Framework for Psychotherapy with Trauma Survivors", in 'Trauma and Memory', Thausand Oals;CL, Sage Publications, 1996
  • 斎藤学 『アダルトチルドレンと家族 心のなかの子どもを癒す』 学陽書房、1996年
  • 斎藤学 『「家族」はこわい―母性化時代の父の役割』 日本経済新聞社、1997年
  • 西尾和美 『アダルトチルドレンと癒し』 学陽書房、1997年
  • 信田さよ子『愛情という名の支配』海竜社、1998年
  • Trikett, P.K. & Putnam, F.W. "Developmental Consequences of Child Sexual Abuse", in 'Violence Against Children in the Family and Community',
  • 柴田啓文「<論説>アダルト・チルドレンをめぐる諸概念の検討」 (pdf) 、『四日市大学論集』第11巻第1号、四日市大学、1998年、 137-149頁、 NAID 110000480841
  • 信田さよ子『アダルトチルドレンという物語』文春文庫、文藝春秋、2001年
  • 塚原貴子、新山悦子、笹野友寿「アダルト・チルドレン特性と対人関係でのストレスの自覚の程度との関係 : 看護学生と他学科学生との比較」 (pdf) 、『川崎医療福祉学会誌』第15巻第1号、2005年、 95-101頁、 NAID 110002981782
  • 井村文音、松下姫歌ほか「サブシステムに着目した家族機能とアダルトチルドレン傾向との関連について」 (pdf) 、『広島大学大学院心理臨床教育研究センター紀要』第10号、2011年、 21-34頁、 NAID 40019259528

関連項目[編集]

外部リンク[編集]