アクリルアミド

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アクリルアミド
アクリルアミド
識別情報
CAS登録番号 79-06-1
PubChem 6579
UNII 20R035KLCI
J-GLOBAL ID 200907087148927667
EC番号 201-173-7
KEGG C01659
MeSH Acrylamide
ChEBI
RTECS番号 AS3325000
特性
化学式 C3H5NO
モル質量 71.08
外観 無臭結晶
密度 1.122 (30 ℃), 固体
融点

84.5

沸点

125 (/25 mmHg)

危険性
EU分類 有毒 T CLP00
経口摂取での危険性 経口・吸飲による有害性 発がん性
呼吸器への危険性 急性毒性(高毒性) 受胎能力の低下
への危険性 刺激性
皮膚への危険性 アレルギー反応の可能性
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

アクリルアミド (acrylamide) はアクリル酸を母体とするアミドの一種である。英語の発音からアクリルアマイドと呼ばれることもある。

示性式は CH2=CHCONH2分子量 71.08、CAS登録番号は [79-06-1]。発がん性があるとされる[1]

概要[編集]

アクリルアミドの粉末

融点は 84.5℃、常温では無臭白色結晶で、水、アルコール等に可溶である。熱や光に不安定であり、重合しやすいため、市販の試薬や工業薬品には安定剤(重合禁止剤)としてヒドロキノンBHTなどが添加される。

アクリルアミドは毒物及び劇物取締法上の劇物に指定されており、神経毒性・肝毒性を有し、皮膚からも吸収されるため、取扱いには注意を必要とする。変異原性(発がん性)が認められ、PRTR法の第一種指定物質となっている。毒性は強く、マウスなどの動物実験の結果、どんなに少量でも遺伝子を傷つける発がん性物質と判明した[1]

トンネル工事の水漏れ防止や土砂採取のための凝集剤として工業用に使われる化学物質として知られる。また、スウェーデン政府が、ジャガイモスナック菓子などの食品から高濃度で検出されたと公表し、世界に衝撃を与えた。

日本では農林水産省などの調査で、ポテトチップスフライドポテトなどジャガイモを使った菓子のほか、クラッカークッキー、いりごま、かりんとうコーヒーほうじ茶コロッケギョーザなど多くの食品に含まれていることが判明した。食品に含まれるアミノ酸の一種のアスパラギン果糖ブドウ糖などが120度以上の高温調理で化学反応を起こして生成される[1][2]労働安全衛生法によって特定第2類物質に指定されており、純品及び0.1%以上を含有する混合物には、含有量や危険性を表示し、MSDSなどに危険性や対応方法を告知することが義務づけられている。

製造[編集]

アクリルアミドは、アクリロニトリル (CH2=CHCN) の加水分解により工業的に合成されている。銅触媒、酸触媒を利用した製造法が実用化されている。

現在は、アクリロニトリルを微生物が出す酵素で水和する、バイオ法での製造が効率の点で優れるため、主流となっている。バイオ法による製造は、1973年フランスのガルズィー(P. Galzy)らがブレビバクテリウムBrevibacterium)が産生するニトリルヒドラーゼ(Nitrile hydratase)によって、アクリロニトリルを水和しアクリルアミドを生成することを発見したことに始まる。1985年には日本の日東化学工業株式会社(現三菱レイヨン株式会社)がロドコッカス属Rhodococcus)の細菌を用いて世界初の実用化装置を稼働させた。[3]現在、ロドコッカス属を使う方法が主流であるが、他にもシュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)を用いる方法なども使われたことがある。

用途[編集]

ポリアクリルアミドの製造原料、染料合成樹脂架橋剤の合成原料など。工業的には水分をほとんど含まない結晶粉末か、50%までの水溶液として流通している。

アクリルアミドポリマー(ポリアクリルアミド)[編集]

アクリルアミドは、熔融すると激しく重合反応を起こし、高分子化合物であるポリアクリルアミド (polyacrylamide) となる。 ポリアクリルアミドは水溶性合成樹脂の一種として、主に原油の三次回収助剤、廃水処理用の凝集剤、製紙用の乾燥紙力増強剤濾水剤として用いられる他、繊維助剤、洗濯糊接着剤(合成糊)、塗料などにも広く用いられる。 ゲル化させた素材が豊胸手術などの形成外科美容外科でも用いられる。 また、水溶液中で重合させたポリアクリルアミドゲル電気泳動 (PAGE) 等に用いられる。

アクリルアミドポリマーによる公害[編集]

アクリルアミドポリマーは高分子凝集剤として用いられる。これが放置された結果、分解生成物であるアクリルアミドモノマー、すなわちアクリルアミドが河川などに流出し公害を引き起こしている[4]

食品に含まれるアクリルアミド[編集]

フライドポテト

発見の経緯[編集]

メイラード反応

2002年スウェーデン政府がイモ類を高温で焼いた、あるいは揚げた食品中にアクリルアミドが含有されていることを発表した。その後の研究で量の多少はあるが焼いたり揚げたりした食品にはアクリルアミドが含有されていることが明らかとなった。このアクリルアミドはアスパラギン類のメイラード反応(下図)によって生成していると推定されている。現在この食品中のアクリルアミドのリスク評価が国際的に進められている。

その他の研究[編集]

  • WHOの下部組織IARCはアクリルアミドをグループ2Aに分類し、動物への発癌性はあるが人間に対する発癌性物質であることはまだ疫学的に証明されていないとしている(IARC発がん性リスク一覧参照)
  • 2005年には、FAOとWHOからなる合同委員会が「食品中のアクリルアミドは健康に害を与える恐れがあり、含有量を減らすべき」という勧告を発した。
  • 2007年、オランダのマーストリヒト大学のジャネケ・ホゲルボルスト (Janneke G. Hogervorst) 氏らが「アクリルアミドの摂取は特に非喫煙者の女性において子宮内膜がんと卵巣がんの危険性を高める」という疫学調査結果を Cancer Epidemiology Biomarkers & Prevention 誌 11 月号に発表した。※マーストリヒト大学プレスリリース
  • 2008年、オランダのマーストリヒト大学の研究チームが「アクリルアミドの摂りすぎは腎臓がんのリスクを高める」という研究を American Journal of Clinical Nutrition 誌5月号に発表した
  • 2014年10月、日本内閣府食品安全委員会化学物質・汚染物質専門調査会は、アクリルアミドのリスク評価について、国内外の動物実験の結果から、「遺伝毒性をもつ発がん物質」とする評価案を示した[5]
  • 食品中にアクリルアミドができる主な原因は、原材料に含まれているある特定のアミノ酸(タンパク質)と糖類(炭水化物)が、揚げる、焼く、焙るなどの高温での加熱(120℃以上)により化学反応を起こすためと考えられている[2]
  • カルビーではアクリルアミドの生成を妨げる添加物の研究を行っている[2]
  • アメリカがん協会は、アクリルアミドが発がん性物質である可能性が高いことを実験室での研究が示しているとする一方、2019年現在、疫学研究によれば、食品中のアクリルアミドが一般的な種類の癌を発症するリスクを高める可能性は低いとしている。[6]
  • Cancer Research UK(w:Cancer_Research_UK 英国の独立系がん研究慈善団体。旧名:王立がん研究基金)は、そのウェブサイトで「がんに関する誤った通説」と題する項目を設けたうえで、食品に含まれる程度のアクリルアミドの摂取が発がん性を高めることはないとしている。[7]

アクリルアミドを含む可能性のあるもの[編集]

同じ製品でも使用原料や加工条件の違いなどにより、アクリルアミドの含有量には大きな個体差があり、含有量を的確に表現できないとされる。また以下の食品に含まれる油分などの過剰摂取の方が高リスクかつ発がんとの関係がはっきりしているうえ、伝統的に摂取され続けてきた食品も多く、どの程度人体への悪影響があるのかも不明な点が多い。

食品含有量の基準[編集]

食品中のアクリルアミド濃度の基準値は、EUから定められ始め、ほとんどの国は評価中とし、まだ「規制基準」を設定していない。

カルビーではカルビーポテトチップスを製造する際に、アスパラギン還元糖を減らす、120度以上になる時間を短くするなどの対策を自主的に行っている[2]

EU[編集]

2003年末から2007年初頭まで、欧州委員会は「加熱後の食品毒物分析」(The Heat-generated Food Toxicants Project, HEATOX)プロジェクト研究を実施し、「調理食品加工)方法を探して、これらの化合物の含有量を最小限に抑え、安全と栄養と高品質な食品を提供する」手助けをした。[8][9]。研究はアクリルアミドは人類に発がんの危険があるというデータを得られ、[10]「ヨーロッパの消費者にとって、多くの調理食品の発がん性に比べて、アクリルアミドに露出されるリスクが高いと推定される」と示した。[8]。このプロジェクトは消費者にアクリルアミドの摂取量を減らす方法についての参考アドバイスを提供しているだけだ。[8]

2013年11月、EUは「2013/647/EU」(食品にアクリルアミドを含む参考値)を発表した[11]

アメリカ[編集]

2002年以来、米国FDAは様々な食品製品のアクリルアミド含有量を何度も分析し、消費者の参考になるようにしている[12][13][14][15][16]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 食品の発がん性物質「アクリルアミド」摂取抑えるには”. Yahoo!ニュース(毎日新聞) (2020年8月30日). 2020年8月31日閲覧。
  2. ^ a b c d 食品中の【アクリルアミド】は、どのようにして減... | よくいただくご質問 | お客様相談室 | カルビー株式会社”. faq.calbee.co.jp. 2023年1月17日閲覧。
  3. ^ http://www.mrc.co.jp/rd/research/challenge.html 三菱レイヨン R&D|研究内容・実績|私たちの誇る革新技術 (2012年1月25日閲覧)
  4. ^ 富士川水系、泥と水の化学物質調査:朝日新聞デジタル
  5. ^ アーカイブされたコピー”. 2014年10月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年10月4日閲覧。 アクリルアミド:スナック含有物質に発がん性…食品安全委 (2014年10月4日閲覧)
  6. ^ Acrylamide and Cancer Risk”. 2023年4月2日閲覧。
  7. ^ Can eating burnt foods cause cancer?”. 2023年4月2日閲覧。
  8. ^ a b c heat-Generated Food Toxicants; Identification, Characterisation and Risk Minimisation. (PDF)”. Project no. 506820 HEATOX. EU. 2012年2月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年6月11日閲覧。
  9. ^ HEATOX, Heat-generated food toxicants: identification, characterisation and risk minimisation. (PDF)”. Project no. 506820. 2012年7月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年6月11日閲覧。
  10. ^ HEATOX project completed – brings new pieces to the Acrylamide Puzzle (PDF)”. HEATOX Project (2007年11月26日). 2012年5月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年6月11日閲覧。
  11. ^ EUR-Lex - 32013H0647”. Publications Office - EUR-Lex (2013年11月8日). 2016年10月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年2月20日閲覧。[1]アーカイブ 2013年12月16日 - ウェイバックマシン アーカイブ 2013年12月16日 - ウェイバックマシン アーカイブ 2013年12月16日 - ウェイバックマシン PDF(欧州連合加盟国の公式言語バージョンはそれぞれ一つずつ)
  12. ^ Survey Data on Acrylamide in Food: Individual Food Products” (英語). Fda.gov. (2006年7月). 2019年4月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年6月11日閲覧。 “December 2002; Updated March 2003, March 2004, June 2005 and July 2006”
  13. ^ "Acrylamide detected in prune juice and olives"”. 'Food Safety & Quality Control Newsletter'. William Reed Business Media SAS (2004年3月26日). 2011年8月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年2月20日閲覧。 citing "Survey Data on Acrylamide in Food: Total Diet Study Results"”. United States Food and Drug Administration (2006年10月). 2009年6月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。 Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。 “February 2004; later updated in June 2005, July 2006, and October 2006”
  14. ^ Acrylamide in dried Fruits アーカイブ 2016年1月7日 - ウェイバックマシン ETH Life (Swiss Federal Institute of Technology Zurich)
  15. ^ Mucci, LA; Sandin, S; Bälter, K; Adami, HO; Magnusson, C; Weiderpass, E (2005). “Acrylamide intake and breast cancer risk in Swedish women”. JAMA: the Journal of the American Medical Association 293 (11): 1326–7. doi:10.1001/jama.293.11.1326. PMID 15769965. 
  16. ^ Top Eight Foods by Acrylamide Per Portion アーカイブ 2016年3月2日 - ウェイバックマシン. p. 17. jifsan.umd.edu (2004). Retrieved on 2012-06-11.

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]