や行え
五十音 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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この項目では、五十音図のや行え段 (やぎょうえだん、ye) について述べる。
- 万葉仮名では「延」などの文字でこの発音が表された。
- 現代の日本では、この発音を表す仮名文字は無い(もしくは定まっていない)。ただし外来語に対して「イェ」などの表記が見られる。
発音[編集]
日本語では、古くは「e」と「ye」とは異なる発音と認識し区別があった。
古代の発音[編集]
「ye」と発音された語の例[編集]
古代に「ye」と発音された音節を含む語には、次のようなものがある(「e (あ行え[3])とは区別された)。
- 兄(え)
- 江(え)
- 枝(え)
- 枝(えだ)
- 楚(すはえ)
- 机(つくえ)
ヤ行下二段活用[編集]
動詞「越ゆ」の例では、未然形・連用形・命令形内の「え」は、「ye」と発音された。他例は、「覚ゆ」、「聞こゆ」、「見ゆ」、「絶ゆ」、「消ゆ」など。
- 未然形:越え
- 連用形:越え
- 終止形:越ゆ
- 連体形:越ゆる
- 已然形:越ゆれ
- 命令形:越えよ
文字[編集]
奈良時代 - 平安時代[編集]
万葉仮名の時代には、文字でも「e」と「ye」を区別した。
万葉仮名では以下のように使い分けた[4]。
- e
- 愛、哀、埃、衣、依、榎、荏、得
- 可愛(2字1音)
- ye
- 延、曳、睿、叡、盈、要、縁、裔、兄、柄、枝、吉、江
平仮名・片仮名[編集]
平仮名・片仮名の誕生初期も区別した。
平仮名では以下のように使い分けた[5]。
片仮名では以下のように使い分けた[6]。
10世紀後半以降[編集]
10世紀後半、発音上の区別がなくなった(双方とも ye の発音へ変化した)。上記の平仮名・片仮名は異体字の扱いとなった。
江戸時代 - 明治時代[編集]
江戸時代から明治時代の間に、あ行え段 (e) とや行え段 (ye) の仮名をふたたび区別しようとする者が現れた[7]。字の形は文献によってまちまちである。「」と「
」はその内の二つに過ぎない。
- e
- ye
- 古くからある仮名
- 新しく作られた仮名
このような使い分けは、音義派の学説に基づいて考え出された。音義派は、あ行い段とや行い段、あ行え段とや行え段、あ行う段とわ行う段は、本来違う音であると主張していた。そこで、それぞれに違う仮名を当て嵌めようとしたのである[26]。
しかし、日本語の研究が進み、それぞれに区別はないとする学説が出た。これらの奇字が実際に用いられることはなかった[26]。
天地の詞などでの「ye」[編集]
天地の詞[編集]
「天地の詞」に「え」が2回出てくるのは、成立時期が「e」と「ye」を区別していた九世紀にさかのぼるためと考えられている。「えのえを」を「榎の枝を」と解釈する[2]。万葉仮名で榎はア行のエ、枝はヤ行のエである[27]。
大為爾の歌[編集]
天地の詞よりも後に作られた「大為爾の歌」には「え」は1回しか出てこないが、本来「e」と「ye」の二つが含まれていた可能性が指摘されている[28]。なお、「e」と「ye」を区別した場合、この歌の「え」衣は万葉仮名で、ア行のエである[29]。
いろは歌[編集]
大為爾の歌よりも後に作られた「いろは歌」にも「え」は1回しか出てこないが、こちらも本来「e」と「ye」の二つが含まれていた可能性が指摘されている[30]。
なお、「e」と「ye」を区別した場合、この歌の「え」は「けふこえて(今日越えて)」で、「越えて」は「越ゆ・越ゆる・越え」と活用していたことから、ヤ行のエである[31]。
符号位置[編集]
2010年10月11日、Unicode 6.0 に「𛀀 ()」(U+1B000, KATAKANA LETTER ARCHAIC E) と「𛀁 (
)」(U+1B001, HIRAGANA LETTER ARCHAIC YE) が採用された[32]。
2017年6月20日、Unicode 10.0 に「𛀁 ()」が採用された。「𛀁 (
)」は「𛀁 (
)」と統合され、「HENTAIGANA LETTER E-1」という別名が与えられた。
2021年9月14日、Unicode 14.0 に「」(U+1B121, KATAKANA LETTER ARCHAIC YE) が採用された[33]。
記号 | Unicode | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
𛀁 | U+1B001 |
- |
𛀁 𛀁 |
Hiragana Letter Archaic Ye |
𛀀 | U+1B000 |
- |
𛀀 𛀀 |
Katakana Letter Archaic E |
𛄡 | U+1B121 |
- |
𛄡 𛄡 |
KATAKANA LETTER ARCHAIC YE |
脚注[編集]
- ^ 上代特殊仮名遣の消失から間もなく(イ・エとヰ・ヱより早かった)。
- ^ a b 小松英雄『いろはうた』(中公新書、1979年)p107。
- ^ 例:衣(え)
- ^ 『世界の文字の図典普及版』2009年, 世界の文字研究会, 吉川弘文館
- ^ 平仮名(大辞林特別ページ)
- ^ 片仮名(大辞林特別ページ)
- ^ 馬渕和夫『五十音図の話』大修館書店、1994年(原著1993年)、17-24,93頁。ISBN 4469220930。
- ^ a b c d 綴字篇
- ^ a b c d e f g h i j k l 古言衣延辨證補
- ^ 雅語綴字例
- ^ a b 音韻啓蒙 : 2巻. 上巻
- ^ a b 小学日本文典入門. 巻之1
- ^ 語学捷径. 上
- ^ 訓蒙明声初途. 初編
- ^ 日本文典大綱
- ^ 語学捷径. 上
- ^ 西字五十音図 : 一名・羅馬字五十音
- ^ 仮名遣の栞
- ^ 日本新文典
- ^ 日本文法問答. 初編
- ^ a b 新式漢文捷径初歩
- ^ 実用日本語法 : 日清対訳
- ^ 小学教師心得・小学入門
- ^ 英和単語図解. 前篇
- ^ a b 辞礎
- ^ a b 唐澤るり子 五十音図の不思議な文字
- ^ 万葉仮名|国史大辞典・日本国語大辞典・日本大百科全書・世界大百科事典|ジャパンナレッジ (japanknowledge.com) 2022年5月24日閲覧。
- ^ 小松英雄『いろはうた』(中公新書、1979年)p131 - 134。
- ^ 万葉仮名|国史大辞典・日本国語大辞典・日本大百科全書・世界大百科事典|ジャパンナレッジ (japanknowledge.com) 2022年5月24日閲覧。
- ^ 小松英雄『いろはうた』(中公新書、1979年)p134 - 136。
- ^ / 古文 by 走るメロス |マナペディア| (manapedia.jp) 2022年5月24日閲覧。
- ^ Kana Supplement, Unicode, Inc.
- ^ Kana Extended-A, The Unicode Standard, Draft Version 14.0