くしゃみ

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くしゃみ(嚔) (: sneeze, snort) は、鼻腔など上気道に付着したウイルスや埃といった異物を激しい呼気とともに体外に排出しようとして起こる呼吸器における反射的な反応である。風邪花粉症などのアレルギー性鼻炎における一般的かつ必発な症状である。下気道における同様な反射はとなる。

概要[編集]

一回ないし数回の単発で痙攣的な吸気をし、その後強い呼気を発する。原因としては物理的な刺激(鼻粘膜毛髪などで刺激する、冷気を吸うなど)や刺激物質の吸引、アレルギー反応などがある。他に視界が突然明るくなった時などにも発生することがある。

くしゃみ反射の詳細なメカニズムは完全には明らかになっていないが、例えばアレルギー性鼻炎の場合は、アレルゲンの吸入により肥満細胞からヒスタミンなどが分泌され、それが鼻粘膜における知覚神経である三叉神経終末にあるヒスタミン受容体(H1受容体)と結合する。そこから求心性インパルスが延髄のくしゃみ中枢へ伝わり、刺激を受けたくしゃみ中枢から遠心性インパルスが各種神経を通って呼吸筋(横隔筋、肋間筋など)、喉頭筋、顔面筋へと伝わりくしゃみが起こる。

くしゃみはほぼ上半身全体の筋肉を激しく運動させ、重度のアレルギーなどで連続して発生すると通常の呼吸が苦しくなるせいもあり、体力を著しく消耗する。口腔内の唾液を吸い込んでしまい、続けて咳をする事もある。肋骨を損傷するおそれもあるため、多発する場合は抗ヒスタミン剤等が使用される。

アレルギーによらずにや冷気を急に吸い込むなどした物理的な刺激によるものも、ほぼ同様にして反射が起こる。通常は連続することは少ないが、自律神経の異常や精神的ストレスなどが原因で、アレルギーではないにもかかわらず過剰に反応することがある(血管運動性鼻炎)。風邪の場合は、炎症により鼻の粘膜が過敏になっているために発生する。

胡椒の粉末を吸い込んだ場合などは、異物が付着したという物理的刺激のほか、胡椒自体の刺激性物質による化学的刺激もあるためくしゃみが発生しやすい。実際にこうした化学的刺激によりくしゃみ等を誘発する毒ガス・催涙ガスがある。くしゃみ反応は不随意運動であり「自力で抑制する」ことができないため、これを誘発することで行動力を奪い、自衛や攻撃に利用するというもの。

なお抑制することはできないが、演技でくしゃみ反応と同様の運動を意図的に行うことは可能であり、コントやコメディ(喜劇)などでも使われる。例えば日本では加藤茶の持ちネタの一つである。

注意点[編集]

くしゃみによる唾液の飛散

通年性アレルギー性鼻炎における調査では、1回のくしゃみ発作回数が多いほど、1日の発作回数が多いという相関がみられている。

一般にくしゃみ発作の際には目をつぶる。また、体の他の部位のコントロールがきかないだけでなく、腕などの筋肉の収縮あるいは硬直を伴うため、自動車の運転や機械操作の際には危険な状態となる。熱い飲み物が入ったコップを持っている時なども同様に危険である。

瞬間的かつ急激におこる激しい運動であるため、肋骨の損傷・骨折や、いわゆるぎっくり腰の原因ともなる。とくに腰に心配があることがあらかじめわかっている人は、くしゃみの前兆を感じたら座り込んでしまうか、近くにある壁などに手をついて体を固定するように心がけるとよい。

くしゃみにより排出される呼気およびそれに含まれるつばきの飛沫は、数m先まで飛ぶ事がある(アメリカの疾病予防センターによれば約1mとされている)。また、その飛沫は1回のくしゃみで10万個発生するといわれる。埃によるものなど一般的で単発のくしゃみであれば、飛沫が近くの物品や人にかからないように横や下を向いたり手などで口を覆えばよいが、風邪など病気の場合にはこの呼気とともに病原体が飛散し、飛沫感染のもととなる。よってマスクをするなどしてその拡散を防ぐことが重要であり、特に日本では一般にマナーとなっている(これは咳でも同じである)。鼻腔内に鼻水がある場合は、くしゃみとともにそれも出てしまうため、マスクはそれを他人の目に触れさせないためにも有効である。

アレルギー性鼻炎や風邪などの際には、抗ヒスタミン剤を服用または点鼻することにより抑える事ができる。ただしこれはくしゃみの発生原因の除去ではなく対症療法である。

くしゃみはごく一般的な症状のため、単体では疾病の種類が特定しづらい。長引く場合は医療機関を受診するべきである。

その他[編集]

人為的には、花粉症などアレルギー性鼻炎の患者の鼻腔内にヒスタミンを噴霧することにより、ほぼ30秒以内にくしゃみを発生させることができる。また、こよりなどで鼻の奥を刺激するとくしゃみを発生させることができ、でかかったくしゃみが途中で止まった場合にわざと行われることがある。

原因は明らかになっていないが、直射日光などを見ることでくしゃみが出ることがある。(光くしゃみ反射

語源[編集]

くしゃみの語源は「(くさめ)」という言葉である。中世の日本ではくしゃみをすると鼻から魂が抜けると信じられており、そのためにくしゃみをすると寿命が縮まると信じられていた。そこで早死にを避けるため「くさめ」という呪文を唱えるようになり、いつしかそれが「くしゃみ」という名前となり、その行為そのものを指すようになった。

「くさめ」という呪文の語源ははっきりしておらず諸説あるが、陰陽道の「休息万命(くそくまんみょう)」や「休息万病(くそくまんびょう)」を早口に言ったものとする説[1]や、くしゃみの擬声語の名詞化とする説、「糞食め(くそはめ)」が変化したものであるという説などがある。

なお、ハクションなどの擬声語は日本独自のもので、その表現は国や地域によって多様である。(例:「アチュー」など)

呪文[編集]

上記のように、中世の日本ではくしゃみをした人、またはその近くにいた人が「くさめ」と言う習慣があった。1330年頃(鎌倉時代)に吉田兼好により書かれた『徒然草』の第47段には、

ある人清水へまゐりけるに、老いたる尼の行きつれたりけるが、道すがら、「嚔(くさめ)、嚔」といひもて行きたれば、「尼御前何事をかくは宣ふぞ」と問ひけれども、應へもせず、猶いひ止まざりけるを、度々とはれて、うち腹だちて、「やゝ、鼻ひたる時、かく呪はねば死ぬるなりと申せば、養ひ君の、比叡の山に兒にておはしますが、たゞ今もや鼻ひ給はんと思へば、かく申すぞかし」と言ひけり。あり難き志なりけんかし。

という記述がある。

類似の習慣は海外でも多く見られ、スペイン語圏ではくしゃみをした人に対し "¡Salud!" (健康)と声をかけることがある。この習慣はカトリック教会を中心として教皇グレゴリウス1世 (540年 - 604年) の時代に広まったものとされる。さらに、2 回くしゃみをすると "Salud y dinero" (健康とお金)、3 回くしゃみをすると"Salud, dinero y amor" (健康とお金と愛)と言う。

フランス語では "À tes [vos] souhaits !" (願いが叶うように)、さらに、2 回くしゃみをすると "À tes [vos] amours !" (恋愛が上手く行くように)と言う(どちらも冗談ぽい表現)。他には、"Dieu te [vous] bénisse !" ("Que dieu te [vous] bénisse !") (神の御加護がありますように)とか、"Dieu te [vous] assiste !"(同前)などと言う。いずれも、[ ]内の語句は目上の人などへの言い方で用いる。

英語では "(God) Bless you" (祝福あれ)と言うこともある。ドイツ語では "Gesundheit" (健康)と言う。 英語圏においてはくしゃみをすると魂まで抜け出るという迷信がかつてあり、魂が抜け出た後に悪魔がまがい物の魂などで悪さをしないように周りの人間が祝福を祈ることで悪魔を退けようとした。というのが始まりのようである(現在ではもはや「お大事に」程度の意味合いになっているが)。

言い伝え[編集]

くしゃみと「噂」[編集]

日本では、人に噂話をされている時にくしゃみが出る、という俗信がある。地域にもよるが、くしゃみが連続で出た回数に応じて、他人がどのような噂をしているかと言う解釈があり、「一そしり二笑い三惚れ四風邪」などのことわざもある。意味は、一回だったら批判される噂、2回だったら物笑いの種にされている、3 回だったら誰かに惚れられているが、4 回もくしゃみするようだったら風邪をひいている…と言うものであるが、それ以外に「一にほめられ二に憎まれ三に惚れられ四に風邪をひく」とするものもある[2]。他に「一に褒められ、二にふられ、三に惚れられ、四に風邪」ともいい、その解釈には様々な類型がある。

この言い伝えの起源や根拠は不明だが、「噂話の最中に対象の人物がくしゃみをする」という演出はコメディ作品でしばしば使用され、殊に映像作品や漫画等でよく描写される。

脚注[編集]

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  1. ^ 『広辞苑』第五版
  2. ^ 『実用 故事ことわざ辞典』P.31(発行:千曲秀版社)

関連項目[編集]