うつ病の治療

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うつ病の治療は、この記事では大うつ病性障害として知られる精神障害の治療法について述べる。患者は、通常外来患者として評価・管理し、患者が自分自身や他人に危険をもたらすと考えられる場合のみ精神福祉部門に入院させる。

うつ病は数ヶ月以内の自然回復率が50%を越える[1][2]。もっともうつ病で共通する治療は、休養・心理療法・薬物療法[3]・電気ショック療法(重度の場合)である。

自然治癒[編集]

アメリカ国立精神衛生研究所英語版(NIMH)は抗うつ薬の普及前、うつ病は自然回復し再発は滅多にないと公式に述べていた[4]。また、NIMHの研究者らは、抗うつ薬が回復期間の短縮に役立つ可能性はあっても、長期回復率の上昇には役立たないと考えている[4][1][2]。1964年、NIMHのジョナサン・コール(Jonathan Cole)は「うつ病は、全体的に、治療の有無にかかわらず、最終的には回復する予後が最良な精神状態の一つです。ほとんどのうつ病は治療しなくても長期的には回復します[注 1]」と述べている[4][1][5]。1974年、NIMHのうつ病部門長であるディーン・シュイラー(Dean Schuyler)は、ほとんどのうつ病は「特別な治療をしなくても事実上完治するという経過をたどります[注 2]」と説明している[4][1][2]。数ヶ月以内の自然回復率が50%を越えるため、各種治療法の有効性の判断は難しい[1][2]

日本での研究では、6か月程度の治療で回復する症例が、50パーセント程度であるとされ[6]、多くの症例が、比較的短い治療期間で回復する。しかし、一方では20パーセント程度の症例では、1年以上うつ状態が続くとも言われ、必ずしもすべての症例で、簡単に治療が成功するわけではない。また、一旦回復した後にも、再発しない症例がある一方、うつ病を繰り返す症例もある。

休養[編集]

うつ病は脳のエネルギー欠乏によるものなので、使いすぎてしまった脳をしっかり休ませるということが治療の基本といえる[7]

心理療法[編集]

認知行動療法[編集]

読書療法[編集]

リラクゼーション[編集]

2008年のコクランレビューによるメタアナリシスでは、リラクゼーションのテクニックは無治療または最小限の治療よりも自己評価による抑うつ度を改善していた[8]

薬物療法[編集]

抗うつ薬[編集]

1999年のガイドラインでは、最も効果のある薬物治療を見つけるため、薬の種類と量は頻繁に調整すべきであり、違った抗うつ薬の組み合わせ、別種の薬物を試すことが求められ、最初の薬物への反応率は50%程度と低い、とされる。[9]

抗うつ薬は統計的にプラセボよりも優れているが、しかし全体的な効果は低から中程度である。多くの場合、国立健康臨床研究所による臨床有意基準を満たせない。 とりわけ、中程度のうつには効用は非常に小さいが、非常に深刻なうつの場合臨床的有意性は上がっている。[10][11]

他の薬[編集]

非定型抗精神病薬[編集]

うつ薬に非定型抗精神病薬を組み合わせて使う「増強療法」は、抗うつ薬の効果を高めることが知られており、抗うつ薬による適切な治療を行っても十分な効果が認められない場合、効果が期待できる治療法である[12]

アセチルシステイン[編集]

臨床試験にてアミノ酸であるアセチルシステイン(NアセチルLシステイン、別称:NAC)の摂取により、著しい効果がある事が証明された。Lシステインの前駆体、安定体である。メカニズムとしては非常に強い体内抗酸化物質のグルタチオン生成に必要なNACが存在する事でグルタチオン量の増加、安定>結果的に脳内ドーパミン量の増加、安定につながり>精神の安定へとつながる。グルタチオンは人体内でストレスや毒素に対しての対抗物質であり、一種のバッファー、バランサーの役割を果たしている。そのため体内グルタチオン量の管理は健康全般にとって非常に重要である。

NアセチルLシステインは基本的なアミノ酸であり、不足時に摂取すると、全臓器、人体機能の向上全体が認められる。特にストレスによっても発症する肝機能障害とうつ病の関連性は過去から指摘されており、それを証明した形となる。NACの摂取によって、近年の臨床試験により、症状が改善または完治する病気は非常に幅広い事が判ってきたため、現在も様々な臨床試験が行われており、シンプルかつ明快、基本的な作用メカニズムから、非常に良い結果が期待されている。ピロリ菌の不活性化をする物質という事も分かっている。そのため胃がんにも効果的という事が証明されている。

また、過大な処方をしない限り、重度の副作用はほぼ無いのも特徴である。(人体換算20000mg/日にてアレルギー症状を発生した例はマウスのテストではあるが、通常はその7分の1程度が最大の処方量であり、問題は無いと考えられる) 通常量で発生する一番頻度の高い副作用は、空腹時に摂取した際に多少の腹部の不快感である。 [13]



セントジョーンズワート[編集]

日本ではサプリメントとして市販されている。副作用があり、日本での治療エビデンスは希薄である。[14] セント・ジョーンズ・ワートにおいてもセロトニン症候群の可能性があるので、注意が必要である[15]

SAMe[編集]

S-アデノシルメチオニン(SAMe)は、アメリカとカナダではサプリメントとして販売されており、イタリアおよびドイツでは処方薬として認可されている。うつ病、関節炎、肝臓疾患への有効性が知られている。大うつ病の治療に標準的な抗うつ薬と同等であることが示唆されている[16][17]選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に無反応の大うつ病性障害の患者に、投与し偽薬に比較して有意差が得られた[18]

漢方薬[編集]

漢方薬では、柴胡加竜骨牡蛎湯半夏厚朴湯加味帰脾湯(焦燥感の強い場合は悪化の恐れあり注意)・加味逍遙散が主に用いられる[19]

治療有効例では約2週間ほどで効果を示すことが多いが、効果のない場合でも4-6週間の経過を見た方がよい場合もある[19]。西洋薬から漢方薬への切り替えは困難なことが多く、少なくとも急激な断薬はしてはならない[19]

エビデンスレベルは高くない。[14]

トリプトファン[編集]

アミノ酸であるトリプトファンは、セロトニンメラトニンといったモノアミン神経伝達物質などの前駆体として重要である。

コクラン共同計画メタアナリシスではトリプトファンについての108の臨床試験のうち2つの試験しか十分な精度を有していないことを明らかにした。その結果、トリプトファンの十分な効果の証拠が認められないのでうつ病治療に推奨できないと結論付けた[20]

米国ではトリプトファンを含むサプリメントは販売禁止である。


フェニルアラニン[編集]

ドイツのウルツバーク大学のヘルマット・ベックマン教授の研究によれば、二重盲検でフェニルアラニンの、イミプラミンに対する非劣性が示されたと主張される。


運動療法[編集]

1999年にデューク大学のジェームス・ブルメンタールが行った研究(Standars Medical Intervention and Long term Excercise/標準的な医学的介入と長期運動)によると運動療法には抗うつ薬であるジェイゾロフトと同等の効果があるとされた。

英国国立医療技術評価機構診療ガイドラインでは、軽中度のうつ病患者に対しては、認知行動療法と並んで運動療法を選択肢の一つとして推奨している[21]。患者が運動療法を選択した場合は、訓練を受けたコーチの下でグループ単位で行わなければならない、また1回あたり45分-1時間、週3回を10-14週間程度としなければならないとしている[21]

2012年、日本うつ病学会のガイドラインは「本来軽症に限った治療法ではない」と断った上で、軽症のうつ病への適用について、「運動を行うことが可能な患者の場合、うつ病の運動療法に精通した担当者のもとで、実施マニュアルに基づいた運動療法が用いられることがある。一方で運動の効果については否定的な報告もあり、まだ確立された治療法とは言えない」と述べている[22]

2012年のランダム化比較試験は、運動はうつ病の症状を改善させない、通常の治療と比較して抗うつ薬の使用を減少させない、身体活動を増加させることはうつ病からの回復の機会を増加させないとしている。多くの研究は身体活動のプラス効果を報告しているが、現在の証拠のほとんどは、医療現場で非実用的な介入をした、小さな非臨床サンプルに由来し[23]、多くの証拠を精査したガイドラインやシステマティックレビューではないことに注意が必要であると指摘される。

2013年、コクラン・ライブラリシステマティックレビューによれば、運動の効果は心理療法や薬物療法と同程度である[24]

その他[編集]

電気けいれん療法[編集]

反復経頭蓋磁気刺激[編集]

脳深部刺激[編集]

睡眠衛生[編集]

うつ病は一般的に睡眠不足(入眠困難、早朝覚醒、日中の一般的な倦怠感)に関連付けられている。 抑うつと睡眠不足の2つの相互作用により症状を悪化させる。 良い睡眠衛生によってこの悪循環を断ち切ることが重要な助けとなる。[25] それには標準就寝時間の確保、カフェイン等の覚醒物質を絶つ、睡眠時無呼吸のような外乱要素の治療などがある。皮肉にも、睡眠短縮(断眠療法など)はうつ病の一時的な治療である。[26] 断眠療法は効果が持続しにくく、その場合、薬物療法光療法を併用する。[27]

高照度光照射療法[編集]

光療法は時折抑うつ治療に用いられ、特に季節性情動障害に多い

全米精神科医協会による高照度光照射療法についてのメタアナリシス調査では、季節性情動障害非季節性情動障害の両方においてプラセボよりも効果が確認され、効果は標準の抗うつ薬治療と類似であった。 非季節性情動障害では、標準の抗うつ薬治療に追加で光療法を行うことは効果的でなかった(not effective.)[28]

代替医療[編集]

鍼治療[編集]

2004年のコクランレビューでは、低い品質のエビデンスベースだが、鍼治療がうつ病の治療に効果があるかどうかのエビデンスはinsufficientと結論付けている。[29]

臨床試験では、鍼灸の効果はアミトリプチリンと同等の効果が示されている。加えて、とりわけ電気鍼では更に効果があり、うつ病患者の 3-methyl-4-hydroxy-phenylglycol (中央神経伝達物質ノルアドレナリンの主な代謝物) の減少をもたらす。一方で、デキサメタゾン抑制試験では、アミトリプチリンはその抑制では更に効果があった。[30] 鍼は体内のエンドルフィン生産レベルを引き上げることが証明されている。[31]

冷水治療[編集]

Nikolai Shevchukによる研究では、冷たいシャワーを浴びることはうつの治療を助ける効果があると主張している。氏は冷たいシャワーは脳の主要なノルアドレナリン元である locus ceruleus や blue spot を刺激するという生物学的説を主張している。またβ-エンドルフィンのレベルに影響するとしている。[32]


低フルクトース食[編集]

食事療法の日本でのエビデンスは希薄である。[14]

オメガ3脂肪酸[編集]

日本ではサプリメントとして市販されている。日本での治療エビデンスは希薄である。[14]

その他[編集]

食事療法の日本でのエビデンスは希薄である。[14]

脚注[編集]

  1. ^ 原文: “depression is, on the whole, one of the psychiatric conditions with the best prognosis for eventual recovery with or without treatment.[4] Most depressions are self-limited” [1][5]
  2. ^ 原文: “will run their course and teminate with virtually complete recovery without specific intervention.” [4][1][2]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g Robert Whitaker 2009, pp. 152-153 (翻訳書は ロバート・ウィタカー 2010, pp. 224-225)
  2. ^ a b c d e Dean Schuyler, The Depressive Spectrum, New York: Jason Aronson, 1974, p. 47. ISBN 978-0876681879.
  3. ^ うつ病の治療 厚生労働省
  4. ^ a b c d e f Robert Whitaker, "Antidepressants/Depression," Anatomy of an Epidemic Documents. Retrieved June 11 2013.
  5. ^ a b Jonathan Cole, "Therapeutic efficacy of antidepressant drugs," Journal of the American Medical Association, 1964, pp. 448-55, 190(5).
  6. ^ 疫学・保健医療統計学独協医科大学名誉教授 中江公裕
  7. ^ うつ病とは”. 厚生労働省. 2015年9月6日閲覧。
  8. ^ Jorm, Anthony F; Morgan, Amy J; Hetrick, Sarah E; Morgan, Amy J (2008). Relaxation for depression. doi:10.1002/14651858.CD007142.pub2. http://summaries.cochrane.org/CD007142/relaxation-for-depression. 
  9. ^ Depression Guideline Panel. Depression in primary care. Vol. 2. Treatment of major depression. Clinical practice guideline. No. 5. Rockville, MD: Agency for Health Care Policy and Research, 1999.
  10. ^ Kirsch I, Deacon BJ, Huedo-Medina TB, Scoboria A, Moore TJ, Johnson BT (February 2008). “Initial severity and antidepressant benefits: A meta-analysis of data submitted to the Food and Drug Administration”. PLoS Med. 5 (2): e45. doi:10.1371/journal.pmed.0050045. PMC 2253608. PMID 18303940. http://medicine.plosjournals.org/perlserv/?request=get-document&doi=10.1371/journal.pmed.0050045&ct=1. 
  11. ^ Turner EH, Matthews AM, Linardatos E, Tell RA, Rosenthal R (January 2008). “Selective publication of antidepressant trials and its influence on apparent efficacy”. N. Engl. J. Med. 358 (3): 252?60. doi:10.1056/NEJMsa065779. PMID 18199864. 
  12. ^ お薬について”. 2015年9月6日閲覧。
  13. ^ N-acetylcysteine in psychiatry: current therapeutic evidence and potential mechanisms of action, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3044191/ 
  14. ^ a b c d e 日本うつ病学会治療ガイドライン. Ⅱ.大うつ病性障害 2012 Ver.1. 平成24年7月26日
  15. ^ セロトニン症候群 平成22年3月 厚生労働省
  16. ^ Mischoulon D, Fava M (November 2002). “Role of S-adenosyl-L-methionine in the treatment of depression: a review of the evidence”. Am. J. Clin. Nutr. 76 (5): 1158S–61S. PMID 12420702. 
  17. ^ Nelson JC (August 2010). “S-adenosyl methionine (SAMe) augmentation in major depressive disorder”. Am J Psychiatry 167 (8): 889–91. doi:10.1176/appi.ajp.2010.10040627. PMID 20693465. http://ajp.psychiatryonline.org/article.aspx?articleid=102409&journalid=13 2012年8月31日閲覧。. 
  18. ^ Papakostas GI, Mischoulon D, Shyu I, Alpert JE, Fava M (August 2010). “S-adenosyl methionine (SAMe) augmentation of serotonin reuptake inhibitors for antidepressant nonresponders with major depressive disorder: a double-blind, randomized clinical trial”. Am J Psychiatry 167 (8): 942–8. doi:10.1176/appi.ajp.2009.09081198. PMID 20595412. 
  19. ^ a b c 日本医師会 『漢方治療のABC』 医学書院〈日本医師会生涯教育シリーズ〉、1992年、118,125-126頁。ISBN 4260175076 
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  27. ^ 2007 越前屋勝 うつ病の時間生物学的治療
  28. ^ Golden RN, Gaynes BN, Ekstrom RD, et al. (April 2005). “The efficacy of light therapy in the treatment of mood disorders: a review and meta-analysis of the evidence”. American Journal of Psychiatry 162 (4): 656–62. doi:10.1176/appi.ajp.162.4.656. PMID 15800134. 
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参考文献[編集]