エクソシスト

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エクソシストExorcist)は、カトリック教会で悪魔(悪霊)追い出し(エクソシズム)を行う聖職者のことである。日本語では祓魔師(ふつまし)と訳される。

悪魔払い(エクソシズム)という言葉は、"誓い"を意味するギリシア語からきたものである。

対象となる者が悪霊から守られるように祈るだけの場合もあるが、ときには対象となる者に取り付いている悪霊が、取り付いている人の体を操って暴言を吐いたり、暴れたりするために、激しい儀式となる場合がある。

司教だけがエクソシストを任命できるとされている。しかし、悪霊追い出しは司教という役職が存在する前から行われているばかりか、司教の監督下にないプロテスタント教会でも悪霊追い出しは行われており、カトリック教会の神父以上の聖職者やプロテスタント教会の牧師であれば、本人がやる気さえあれば悪霊追い出しをする(エクソシズムを行う)ことは可能である。 一般信徒でも信仰心の篤い者ならば不可能ではないが、家族の者に取り付いている悪霊を追い出すような場合以外は、エクソシストの助手を務める程度にするのが無難であろう。

プロテスタントでは『エクソシズム』『エクソシスト』というカトリック用語を使うことは稀であり、プロテスタント的な言い方をすると『悪霊追い出し』『悪霊追い出しをする人』となる。


エクソシストの大まかな歴史

新約聖書の福音書、及び、使徒言行録には悪霊追い出しのことが記されている。 イエスは行く先々で悪霊追い出しをしていた。イエスの弟子たちも悪霊追い出しをしていた。 ルカによる福音書10章 17節には、悪霊を追い出すことのできた弟子が、それをイエスに報告したことが記されている。イエスも弟子たちも悪霊追い出しをしていた(エクソシストだった)のだ。

初期の教会では悪霊追い出しは当たり前のことであった。

しかし、中世にはそれも廃れてしまった。 中世ヨーロッパにも悪霊に取り付かれた人はいたはずである。しかし、中世では、悪霊追い出しは殆ど行われず、悪霊に取り付かれた人は魔女裁判に掛けられ処刑されていたようである。

では初期の頃のプロテスタントはどうだったのだろうか? ルターがインクのつぼを投げつけて悪魔を追い払ったという言い伝えはあるが、真偽は不明である。 他に、初期のプロテスタント教会における悪霊追い出しの記録はない。邪悪なことなので意図的に記録を残さなかった可能性もあるが、新大陸でさえ魔女裁判が行われていたことを考えると、悪霊追い出しは殆ど行われず、カトリックから受け継いだ伝統に従って、悪霊に取り付かれた者は魔女裁判に掛けて処刑していた可能性が高い。

その後、医学の進歩にともない、悪霊の存在も、悪霊追い出しも否定されるようになった。

初代教会のような悪霊追い出しが再び行われるようになったのは、カトリックでもプロテスタントでも近年になってからである。

映画エクソシストは1949年に起こった事件が元になっており、悪霊追い出しは細々とは行われていたようである。

エクソシストが多いことで知られるイタリアでは『カンディド・アマンティーニ神父』『ガブリエーレ・アモルス神父』などの代表的なエクソシストは引退し、今では、彼らが育てた弟子たちが活躍する時代を迎えている。


 エクソシストの、その他の歴史 

1973年に公開された映画『エクソシスト』によって、当時の人々の間に「悪魔憑き」や「悪魔祓い」に対する再認識が起こった。そのためか、以降世界各地で悪魔祓いを求める声が起こるようになった。これに対応するため、ある教区において司教が特別に悪魔祓いの職務を行う司祭を任命することも行われた。このような職務を受けた司祭を「エクソシスト」と呼ぶことがある(教会法の規定により司教は裁治権下の特に秀でた霊性と知性を持つ司祭に対し、祓魔式を命じることができる)。

エクソシストはトリエント公会議で定められた三つの下級聖職の一つで「守門」の次の位階である。「悪魔を祓う」という意味の祓魔師は名称として存在しても、実際の職務は洗礼時に行われる悪霊の追放の儀式を執り行うことに限定されていた。時代が下ると、その権能も拡大していったが、20世紀に入るころには「悪魔祓い」の儀式を行うことなどない名称だけの位階となっていた。祓魔師になるとスルプリ(コッタとも、スータンアルバの上に羽織る白い上衣)を身につけることができた。「悪魔祓い」(エクソシスム)は秘蹟ではないが、特別な権能が必要であると考えられた。その権能は司祭にも必要であるということで、司祭職の前に「祓魔師」という位階がおかれたのである。

形骸化していた祓魔師という位階は第2バチカン公会議後の教会制度の見直しにあたって廃止された。その後、もうけられた「教会奉仕者」という職務が「守門」や「祓魔師」といった下級叙階の機能を引き継いでいるという見方もあるが、現行の教会法では叙階および位階に関して「司教司祭助祭の位階がある」と述べているに過ぎない。

教皇ヨハネ・パウロ2世ベネディクト16世は悪魔祓いの持つ意味を評価しているといわれ、ローマ司教区には特別に任命されたエクソシストがいる。任命を受けたエクソシストたちのチーフを勤めるガブリエーレ・アモルス神父は国際エクソシスト協会の創設者でもある。2008年現在、慢性的な人材不足だが、ベネディクト16世は各教区にエクソシストを配置する意向を示しており、エクソシズムを学べる機関が設置されている。受講料を支払えば、一般人も受講することができる。


 悪魔と悪霊について 

キリスト教では『悪霊』とは民間信仰で言うように死者の霊や妖怪のことではない。神に反逆した悪い天使(堕天使)のことと考える。 『悪魔』とは、堕天使たちの中で、王として君臨している最も力の強い堕天使のことである。

悪魔と悪霊の使い分けに問題のある文献が少なくない。それらは『悪魔』を『悪霊』に入れかえて読む必要のある箇所がある。


 悪霊を追い出す方法 

「イエスの名によって出て行け」と命令して追い出す。

悪霊は大抵、一人の人に複数で取り付いているため、一つ一つ追い出していく。

『悪霊に打ち勝つ方法』の著者コンラッド・ミュレル師は、刑事が犯罪者を尋問するように、他にはどのような悪霊がどれだけ取り付いているのかということを悪霊に白状させ、取り付いている悪霊の数や名前、性質などを把握し、次々に追い出していくという。 悪霊は嘘を言うことがあるので、一つの悪霊からの情報を鵜呑みにせず、複数の悪霊から情報を集めて判断する必要がある。取り付いている悪霊の数が多い場合などにはメモを取る助手が必要という。 悪霊が取り付かれている人の体を使って暴れる場合にも助手が必要となる。

数十から数百もの悪霊が一人に取り付いていることも珍しくないという。それらを弱い者から順に追い出していき、最後に強い首領の悪霊を追い出す。

隠れていて出て行かなかった悪霊や、追い出しても戻ってきてしまう悪霊もいるので、後からそれらを追い出さなければならない場合もある。

霊媒師などもエクソシズムに似た儀式をする。しかし、霊媒師は自分、又は、被術者に取り付いている強い悪霊、あるいは外部の強い悪霊の力を借りて、特定の悪霊の活動を制限したり、追い出したりしているに過ぎない。 神の御子イエス・キリストの権威によって堕天使を(強い者も弱い者も残らず)追い出すのが本当のエクソシズムである。


 悪霊の強弱と性質 

悪霊には強い者と弱い者とがいる。そのことには「かつて階級の高い天使だった悪霊は強く、階級の低い天使だった悪霊は弱いのだ」と説明を付ける他ない。

一人の人に取り付いている複数の悪霊の中で、最も強い者が首領の地位につく。 後からもっと強い悪霊が取り付けば、前の首領は支配下に置かれるか追い出される。 必ずしも一つの首領が他の悪霊を支配しているとは限らず、階級が同程度の悪霊たちが主導権争いをしている場合もあるという。 これらは『悪霊に打ち勝つ方法』 コンラッド・ミュレル著に詳しく書かれている。

取り付いている悪霊の中で最も凶暴な悪霊が必ずしも最も強い悪霊とは限らない。

弱い悪霊はすぐに出て行くが、強い悪霊はなかなか出て行こうとしない。

悪霊は人に取り付いて罪を犯すようにそそのかしている。強弱の違い以外にも、麻薬に手を出すようにそそのかす悪霊、ギャンブルをさせる悪霊、ウソを吐かせる。姦淫をさせる、自殺をそそのかすなど、それぞれが違う性質と役割を持っている。

現在、誰かに取り付いている悪霊は、以前は別の人に取り付いていたと考えられる。外国人に取り付いていた悪霊もいるはずである。悪霊が、取り付いている人の口を使って外国語をペラペラ話し始める場合があるのはこのためと思われる。 ときには聖霊の働きによって外国語が語られる場合もあるので、どちらなのか慎重に判断しなければならない。 また、悪霊が聖霊に成り済まして外国語を語る場合もある。


 どのようなときに悪霊は取り付くのか 

占い、カルト宗教、偶像礼拝、その他の罪を犯したときである。

邪悪な音楽、麻薬なども取り付かれる原因となる。

呪いを掛けられて取り付かれる場合もあるという。

使徒言行録16章には、パウロが占いの霊を追い出したことが記されている。奥山師はそれに付いて著書『悪霊を追い出せ』の中で鋭い見解を述べている。

映画エクソシストでは、少女が悪霊に取り付かれた原因は『ウィジャ』(欧米式のコックリさん)であった。


 映画エクソシストについて 

誇張や、製作者のエクソシズムに関する認識不足はあるものの、悪霊に取り付かれた者が発する異常な声や周囲に与える恐怖などは実際のエクソシズムに近いものである。

治療の困難な重度の精神病に、医学的な方法以外にも治療手段があるのだということを世に示した優れた作品である。

試写会に参加したカンディド・アマンティーニ神父は、映画エクソシストを高く評価したという。


 その他 

バチカンや司教の中にはエクソシストの働きに懐疑的な者がおり、それらとエクソシストの間には対立があるという。

イタリアでは、患者への人権侵害。不正運営。患者の症状を悪化させているだけ。などの理由から精神病院は法律によって徐々に閉鎖されていることも、エクソシストの需要が高い理由とされている。

イタリアではエクソシストに頼る者が多く、エクソシストが不足しているという。『エクソシスト急募』島村奈津 著は、そのことに付いて書かれた本である。


 関連文書 

  • 『エクソシスト(The Exorcist)』ウィリアム・ピーター・ブラッティ著
  • 『アメリカの悪魔払い(American Exorcism)』マイケル・W・クネオ著
  • 『エクソシストは語る(An Exorcist Tells His Story)』ガブリエーレ・アモルス著
  • 『続・エクソシストは語る(An Exorcist:More Stories)』ガブリエーレ・アモルス著
  • 『バチカン・エクソシスト(The VATICAN'S EXORCISTS)』 トレイシー・ウイルキンソン著 矢口誠 訳
  • 『エクソシストとの対話』 島村奈津 著
  • 『エクソシスト急募』 島村奈津 著
  • 『悪霊に打ち勝つ方法』 コンラッド・ミュレル著 淳子・ブロックソム訳
  • 『悪霊を追い出せ』 奥山実 著


 現代のエクソシスト 

モンシニョーレ・アンドレア・ジェンマ(イタリア)

ガブリエーレ・アモルス(イタリア)

カンディド・アマンティーニ(イタリア)

ジャンカルロ・グラモラッツォ(イタリア)

ジャコベ・エリア(イタリア)

ガブリエーレ・ナンニ(イタリア)

コンラッド・ミュレル(アメリカ)

奥山実(日本)