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'''肥満'''(ひまん、{{lang-en |
'''肥満'''(ひまん、{{lang-en|'''obesity''', '''corpulence'''}})とは、一般的に、正常な状態に比べて[[体重]]が多い状況、あるいは[[体脂肪]]が過剰に蓄積した状況を言う。体重や体脂肪の増加に伴った症状の有無は問わない。体質性のものと[[症候]]性のものに分類できるが、後者を特に'''肥満症'''と呼ぶこともある。対義語は、[[るいそう|羸痩]](るいそう)である。主に[[ヒト]]を含めた[[哺乳類]]で使われることが多い。以下ではヒトにおける肥満について論じる。ヒト以外の肥満については、{{仮リンク|ペットの肥満|en|Obesity in pets}}などを参照のこと。'''中年太り'''(ちゅうねんぶとり)は肥満の1種である。 |
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== 肥満の診断 == |
== 肥満の診断 == |
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乳幼児では BMI は[[カウプ指数]]と呼ばれ、18.0 以上が肥満傾向とされる。学童では、[[ローレル指数]] (= 10 × kg/m<sup>3</sup>) が 160 |
乳幼児では BMI は[[カウプ指数]]と呼ばれ、18.0 以上が肥満傾向とされる。学童では、[[ローレル指数]] (= 10 × kg/m<sup>3</sup>) が 160以上で「肥満」と見なされる。これらは身長と体重から単純に計算された値であるから(成人の正常体重では BMI = 22)、大体の目安にはなるが、これだけでは筋肉質なのか脂肪過多なのか、皮下脂肪型肥満なのか内臓型肥満なのか、一切分からないという批判を受ける。BMIは標準体型の人には当てはまるが、骨太の人、足長な人、骨細の人、[[筋肉]]の多い人等には間違った判定が出る欠点がある。このため、肥満と診断する際は下のような定義と併用することがある。 |
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=== 体脂肪率による肥満の診断 === |
=== 体脂肪率による肥満の診断 === |
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適正な[[体脂肪率]]は、[[男性]]では |
適正な[[体脂肪率]]は、[[男性]]では 15~19%、[[女性]]では 20~25%とされ、これを上回ると「肥満」と見なされる。正確な測定には困難を伴うため、その値の扱いをめぐって一定の見解は得られていない。筋肉質なのか脂肪過多なのかどうかを判断するには精密な機械を用いる必要があり、その際には[[コンピュータ断層撮影|CT]]や[[核磁気共鳴画像法|MRI]]で体脂肪面積を測定し、体脂肪率を推定するのが最も正確と言われる。 |
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=== その他の肥満 === |
=== その他の肥満 === |
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==== 腹部肥満(中心性肥満) ==== |
==== 腹部肥満(中心性肥満) ==== |
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腹囲によって診断するが、その診断基準は統一されてはいない。[[2007年]]6月、アメリカ糖尿病学会、アメリカ栄養学会、北米肥満学会は共同声明を発表し、「現時点では、腹囲の基準値はすべて、科学的根拠が不十分であり、今後確立される科学的基準値は人種別、性別、年齢別、肥満度別の非常に複雑なものになるであろう」と指摘した。後述する症候性肥満の中には、中心性肥満などの特異な肥満像を呈するものがある。通常は内科医師が発見・診断する。 |
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== 脂肪細胞との関わり == |
== 脂肪細胞との関わり == |
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白色脂肪細胞はヒトにおいて250-300億個あり、直径は成熟脂肪細胞において70-90μmであり、肥大化脂肪細胞は130-140μmまで大きくなる<ref name = hoshi/>。 |
白色脂肪細胞はヒトにおいて250-300億個あり、直径は成熟脂肪細胞において70-90μmであり、肥大化脂肪細胞は130-140μmまで大きくなる<ref name = hoshi/>。 |
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脂肪細胞が存在する動物は、無限大に太っていく。ヒトもまた例外ではない。 |
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=== 肥大化脂肪細胞の分泌 === |
=== 肥大化脂肪細胞の分泌 === |
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脂肪細胞が肥大化すると、[[インスリン抵抗性]]を惹起する種々の物質([[TNFα]]、[[脂肪酸]]、[[レジスチン]])、肥満中枢を刺激して食欲を抑制する[[レプチン]]、インスリン受容体の感受性を良くする[[アディポネクチン]]の分泌低下、血液凝固を促進する物質([[:en:plasminogen activator]] を阻害して血液凝固の溶解を阻害する物質)、[[単球]]や[[リンパ球]]の遊走を引き起こす単球走化性タンパク質(monocyte chemoattractant protein)、昇圧作用を持つ生理活性物質[[アンジオテンシン]]IIの原料となるアンジオテンシノーゲンなどが分泌される<ref name = hoshi>[http://polaris.hoshi.ac.jp/openresearch/kamata%20(adipocyte)--2.html 脂肪細胞とインスリン抵抗性]</ref>。 |
脂肪細胞が肥大化すると、[[インスリン抵抗性]]( Insulin Resistance )を惹起する種々の物質([[TNFα]]、[[脂肪酸]]、[[レジスチン]])、肥満中枢を刺激して食欲を抑制する[[レプチン]]、インスリン受容体の感受性を良くする[[アディポネクチン]]の分泌低下、血液凝固を促進する物質([[:en:plasminogen activator]] を阻害して血液凝固の溶解を阻害する物質)、[[単球]]や[[リンパ球]]の遊走を引き起こす単球走化性タンパク質(monocyte chemoattractant protein)、昇圧作用を持つ生理活性物質[[アンジオテンシン]]IIの原料となるアンジオテンシノーゲンなどが分泌される<ref name = hoshi>[http://polaris.hoshi.ac.jp/openresearch/kamata%20(adipocyte)--2.html 脂肪細胞とインスリン抵抗性]</ref>。 |
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=== 高血糖と脂肪細胞 === |
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[[炭水化物]]を摂取することで[[血糖値]]が上昇すると、[[膵臓]]から[[ホルモン]]の一種である[[インスリン]]が分泌される。血中のブドウ糖濃度が高い(高血糖)状態は身体にとっては毒でしかないため、血中に溢れたブドウ糖をかき集めて[[筋肉]]や肝臓内の[[グリコーゲン]](ブドウ糖の貯蔵庫)に蓄える。その後、時間が経過するとともに、安静にしていても、運動する際のエネルギー源としてもグリコーゲンは消費されていく。グリコーゲンにも貯蔵しきれないぐらいに血中のブドウ糖濃度が上昇すると、インスリンはそれを全部[[中性脂肪]]に合成して[[脂肪細胞]]内部に閉じ込める。それに伴い、血糖値が低下するが、インスリンの分泌量が多すぎると、急に空腹を感じたり、急激な眠気が襲ってくる。インスリンは全身の脂肪細胞に強く作用し、摂取した炭水化物を中性脂肪に合成して脂肪細胞内に閉じ込め、脂肪細胞は肥大していく。脂肪細胞は、肥大するにつれて「[[サイトカイン]]」( cytokine, 「炎症性分子」)を放出するようになり、これは全身に有害な影響をもたらす。 |
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=== 高血圧との関係 === |
=== 高血圧との関係 === |
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脂肪細胞が肥大化すると、次のことが起こる。 |
脂肪細胞が肥大化すると、次のことが起こる。 |
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#[[交感神経]]活動の亢進 |
# [[交感神経]]活動の亢進 |
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#:過剰に分泌された[[レプチン]]が[[交感神経]]の活動を亢進させ、血管を収縮させること等により、血圧を上昇させる<ref name=ogawa>小川佳宏、阿部恵、中尾一和、[https://doi.org/10.2169/naika.90.705 レプチンと心血管病変] 『日本内科学会雑誌』 2001年 90巻 4号 p.705-710, {{doi|10.2169/naika.90.705}}</ref>。 |
# :過剰に分泌された[[レプチン]]が[[交感神経]]の活動を亢進させ、血管を収縮させること等により、血圧を上昇させる<ref name=ogawa>小川佳宏、阿部恵、中尾一和、[https://doi.org/10.2169/naika.90.705 レプチンと心血管病変] 『日本内科学会雑誌』 2001年 90巻 4号 p.705-710, {{doi|10.2169/naika.90.705}}</ref>。 |
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#[[レニン-アンジオテンシン系]]の活性化 |
# [[レニン-アンジオテンシン系]]の活性化 |
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#:アンジオテンシノーゲンは[[肝臓]]で産生されるが、肥大化脂肪細胞からも産生、分泌される。アンジオテンシノーゲンから生成された[[アンジオテンシン]]Ⅱは、[[副腎皮質]]球状帯に作用してナトリウムの再吸収を促進する[[アルドステロン]]の分泌を促進し体内に水分を貯留する<ref>[http://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/press_archives/20110418.html 塩分摂取による高血圧発症にエピジェネティクスが関与することを解明] 東京大学医学部附属病院 2011年04月18日</ref>。また、[[下垂体|脳下垂体]]に作用し利尿を抑えるホルモンである抗利尿ホルモンである[[バソプレッシン]](ADH)の分泌を促進し同じく体内に水分を貯留する<ref>[http://www.nips.ac.jp/contents/release/entry/2011/01/post-146.html 利尿を抑えるホルモン"バソプレシン"の脳の中の新たな作用を発見]</ref>。これらのことにより[[高血圧]]を招く。肥満患者において高血圧症が多いのはこのためである<ref name = hoshi/>。 |
# :アンジオテンシノーゲンは[[肝臓]]で産生されるが、肥大化脂肪細胞からも産生、分泌される。アンジオテンシノーゲンから生成された[[アンジオテンシン]]Ⅱは、[[副腎皮質]]球状帯に作用してナトリウムの再吸収を促進する[[アルドステロン]]の分泌を促進し体内に水分を貯留する<ref>[http://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/press_archives/20110418.html 塩分摂取による高血圧発症にエピジェネティクスが関与することを解明] 東京大学医学部附属病院 2011年04月18日</ref>。また、[[下垂体|脳下垂体]]に作用し利尿を抑えるホルモンである抗利尿ホルモンである[[バソプレッシン]](ADH)の分泌を促進し同じく体内に水分を貯留する<ref>[http://www.nips.ac.jp/contents/release/entry/2011/01/post-146.html 利尿を抑えるホルモン"バソプレシン"の脳の中の新たな作用を発見]</ref>。これらのことにより[[高血圧]]を招く。肥満患者において高血圧症が多いのはこのためである<ref name = hoshi/>。 |
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また、肥満細胞の肥大化(=肥満)によるインスリン抵抗性の発現は[[高インスリン血症]]の原因となる。高インスリン血症は、腎[[尿細管]]へ直接作用して[[ナトリウム]]貯留を引き起こす。水分の貯留により血圧が上昇する<ref>[http://polaris.hoshi.ac.jp/openresearch/kamata(pathophysiol).html#DM-BASE14 糖尿病の基礎知識]</ref><ref>猿田享男、[https://doi.org/10.2169/naika.85.285 インスリン抵抗性症候群] 『日本内科学会雑誌』 1996年 85巻 2号 p.285-291, {{doi|10.2169/naika.85.285}}</ref>。 |
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炭水化物の摂取を制限する食事を続けることで、血糖値と血中のインスリン濃度が低い状態が続くと、体内で変化が起こる。血糖値とインスリン濃度が高い状態になると、インスリンは腎臓に対して「[[ナトリウム]]を再吸収せよ」という信号を送り、[[腎臓]]はその指令のとおりに動く。インスリンは[[尿酸]]の分泌を阻害し、それに伴って身体は水分を保持しようとし、血圧は上昇する(→[[高血圧]])。時間の経過に伴い、血中のインスリンの濃度が低下すると、腎臓は貯蔵していたナトリウムを、体内に溜まった余計な水分と一緒に体外に排出する。これは人体にとって有益な現象であり、炭水化物の摂取を制限するだけで血圧は簡単に低下する。体重が200ポンド(約91kg)あり、炭水化物を常食している人がその摂取制限を開始すると、身体から減少する余計な水分量は、最大で6ポンド(約2.8kg)以上に達する可能性があるとされる<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
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また、肥満細胞の肥大化(=肥満)による[[インスリン抵抗性]]の発現は[[高インスリン血症]]をきたす。高インスリン血症は、腎[[尿細管]]へ直接作用して[[ナトリウム]]貯留を引き起こし、これが水分を貯留し結果として[[血糖値]]を下げる作用につながるが、水分の貯留により高血圧を発症させることとなる<ref>[http://polaris.hoshi.ac.jp/openresearch/kamata(pathophysiol).html#DM-BASE14 糖尿病の基礎知識]</ref><ref>猿田享男、[https://doi.org/10.2169/naika.85.285 インスリン抵抗性症候群] 『日本内科学会雑誌』 1996年 85巻 2号 p.285-291, {{doi|10.2169/naika.85.285}}</ref>。 |
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=== インスリン抵抗性との関係 === |
=== インスリン抵抗性との関係 === |
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さらに加えて、脂肪細胞から分泌される[[アディポネクチン]]は、TNFαや遊離脂肪酸と異なり、インスリン受容体の感受性を上げるが、脂肪細胞の肥大化によりアディポネクチンの分泌が低下し、結果としてインスリン抵抗性を示す<ref name=hoshi/>。 |
さらに加えて、脂肪細胞から分泌される[[アディポネクチン]]は、TNFαや遊離脂肪酸と異なり、インスリン受容体の感受性を上げるが、脂肪細胞の肥大化によりアディポネクチンの分泌が低下し、結果としてインスリン抵抗性を示す<ref name=hoshi/>。 |
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=== メタボリック症候群 === |
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== 健康への影響 == |
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炭水化物を食べ続けることで慢性的な高血糖が常態化すると、身体はさらにインスリンの分泌量を増やそうとする。インスリンの分泌量が異常に増える状態が続くことで[[高インスリン血症]]となり、身体にますます脂肪が蓄積して悪循環に陥る。炭水化物の摂取を増やせば増やすほど、血糖値の乱高下を惹き起こし、細胞は燃料不足に陥り、それに伴って空腹を感じて食欲が増し、とくに炭水化物を多く含む食べ物に対する渇望感が強まる。インスリンは体内で暴走し、炭水化物や砂糖が多いものを見境いなく欲しがる状態になる。血中のインスリン濃度が高い状態が続くことで、身体は[[インスリン抵抗性]]を発症し、[[糖尿病]]を患うリスクが急上昇する。インスリンの大量分泌が常態化し、膵臓が疲弊すると、インスリンの分泌が機能不全に陥り、血糖値の微調整も不可能になり、糖尿病を発症する。この状態でインスリンの注射を怠ると、命の危険に直結する。いわゆる[[メタボリック症候群]]は、このインスリン抵抗性がより重篤になった状態でもある。 |
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肥満は[[健康]]へ多大な影響を及ぼすことが多い。健康に害を及ぼすことに関しては現在も色々な見解があるが、最近では研究が進んだことで肥満が必ずしも「=不健康」ではないことが解明されつつあり、度合いによって健康に良い影響を与えることが判明してきてもいる。 |
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=== 死亡率 === |
=== 死亡率 === |
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{{Double image|right|MenBMIMort.png|200|WomenBMIMort.png|200|alt=(Left) A graph showing how the risk of death varies with BMI. The lowest risk is found at a BMI of 20 to 25 and increases in both directions. (Right) A graph showing how the risk of death varies with BMI. The lowest risk is found at a BMI of 20 to 25 and increases in both directions.|喫煙しない米国の白人男性(左)及び白人女性(右)のBMIごとの10年後の相対的死亡リスク<ref name=NEJM10>{{cite journal |author=Berrington de Gonzalez A |title=Body-Mass Index and Mortality among 1.46 Million White Adults |journal=N. Engl. J. Med. |volume=363 |issue=23 |pages=2211–9 |year=2010 |month=December |pmid=21121834 |doi=10.1056/NEJMoa1000367 |url= |pmc=3066051 |author-separator=, |display-authors=3}}</ref>、BMI20-22前後が最も死亡リスクが低い||}} |
{{Double image|right|MenBMIMort.png|200|WomenBMIMort.png|200|alt=(Left) A graph showing how the risk of death varies with BMI. The lowest risk is found at a BMI of 20 to 25 and increases in both directions. (Right) A graph showing how the risk of death varies with BMI. The lowest risk is found at a BMI of 20 to 25 and increases in both directions.|喫煙しない米国の白人男性(左)及び白人女性(右)のBMIごとの10年後の相対的死亡リスク<ref name=NEJM10>{{cite journal |author=Berrington de Gonzalez A |title=Body-Mass Index and Mortality among 1.46 Million White Adults |journal=N. Engl. J. Med. |volume=363 |issue=23 |pages=2211–9 |year=2010 |month=December |pmid=21121834 |doi=10.1056/NEJMoa1000367 |url= |pmc=3066051 |author-separator=, |display-authors=3}}</ref>、BMI20-22前後が最も死亡リスクが低い||}} |
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[[国立がん研究センター]]が男性16万人を平均11年間追跡した調査によれば、全死因でもっとも死亡率が少なかったのはBMI値が |
[[国立がん研究センター]]が男性16万人を平均11年間追跡した調査によれば、全死因でもっとも死亡率が少なかったのは、BMI値が25~26.9とされたグループであったという。このグループは「肥満」に該当する<ref>[https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/2830.html 肥満指数(BMI)と死亡リスク 現在までの成果 科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究] [[国立がん研究センター]] 社会と健康研究センター</ref>。 |
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[[アメリカ疾病管理予防センター |
[[アメリカ疾病管理予防センター]]が様々な人種の約288万人を対象に行った研究結果によれば、「BMI値が『18.5~25未満の標準体重グループ』と『25~30未満の過体重グループ』では、過体重グループの方が死亡リスクが6%も低い」という<ref>[https://nikkan-spa.jp/1564301 「デブ=不健康」は大まちがい。身長170cmの理想体重は意外と重い] 2019年04月26日 日刊SPA!</ref>。 |
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=== 罹患リスクの増大 === |
=== 罹患リスクの増大 === |
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肥満は[[生活習慣病]]<ref>「[http://www1.mhlw.go.jp/houdou/0812/1217-4.html 生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について(意見具申)]」では肥満自体を生活習慣病の1つに含めている。</ref> をはじめとして、数多くの疾患の危険因子 (risk factor)となる。先進諸国では病気の主要原因が肥満によるものとなっている。 |
肥満は[[生活習慣病]]<ref>「[http://www1.mhlw.go.jp/houdou/0812/1217-4.html 生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について(意見具申)]」では肥満自体を生活習慣病の1つに含めている。</ref> をはじめとして、数多くの疾患の危険因子 (risk factor)となる。先進諸国では病気の主要原因が肥満によるものとなっている。 |
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肥満と糖尿病は密接に関係している。40-59歳の男性で、糖尿病が強く疑われる人の割合は、[[ボディマス指数|BMI]]18.5-22で5.9%、BMI22-25で7.7%、BMI25-30で14.5%、BMI30以上で28.6%であった。なお、加齢を重ねていない20-39歳の男性ではこのような大きな差は出ていなかった<ref name=mhlw>[http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/03/s0318-15.html 「平成14年度糖尿病実態調査報告」平成16年6月厚生労働省健康局]</ref>。1971年から1980年のデータで糖尿病患者と日本人一般の平均寿命を比べると男性で約10年、女性では約15年の寿命の短縮が認められた<ref name=sakamoto>坂本信夫、[https://doi.org/10.2169/naika.78.1540 糖尿病合併症の成因と対策] 『日本内科学会雑誌』 1989年 78巻 11号 p.1540-1543, {{doi|10.2169/naika.78.1540}}</ref><ref>Sakamoto N, et al : [https://doi.org/10.1620/tjem.141.Suppl_631 The features of causes of death in Japanese diabetics during the period 1971-1980]. The Tohoku Journal of Experimental Medicine., 1983年 141巻 Suppl号 p.631-638, {{doi|10.1620/tjem.141.Suppl_631}}</ref>。このメカニズムとして、高血糖が生体のタンパク質を非酵素的に糖化させ、タンパク質本来の機能を損うことによって障害が発生する。この糖化による影響は、[[血管]]の主要構成成分である[[コラーゲン]]や[[水晶体]]蛋白[[クリスタリン]]など寿命の長いタンパク質ほど大きな影響を受ける。[[白内障]]は[[老化]]によって引き起こされるが、高血糖状態が続くことでより高度に進行する<ref name=sakamoto/>。同様のメカニズムにより、[[動脈硬化]]や微小血管障害も進行する。また、糖化反応により生じた[[フリーラジカル]]等により[[酸化ストレス]]も増大させる<ref>川上正舒、[https://doi.org/10.11213/tonyobyo1958.46.913 特集 糖尿病と動脈硬化症 動脈硬化症の分子機構] 『糖尿病』 2003年 46巻 12号 p.913-915, {{doi|10.11213/tonyobyo1958.46.913}}</ref>。 |
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シンシナティ子供病院で行われた研究では、「肥満の女の子は[[思春期]]初来が早く、胸が大きくなり始める([[乳房]]の発達が始まる)のが早い」という。これは男の子でも同様であり、「肥満の男児は[[第二次性徴]]が早く発現する」<ref>守山正樹、柏崎浩、鈴木継美、[https://doi.org/10.3861/jshhe.46.22 日本における初潮年齢の推移] 『民族衛生』 1980年 46巻 1号 p.22-32, {{doi|10.3861/jshhe.46.22}}</ref>。 |
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脂肪沈着は、一般に、皮下脂肪から内臓脂肪へ、更に、脂肪以外の臓器(異所性脂肪)へと進行し、それに伴って以下の合併症の頻度は大きくなる。 |
脂肪沈着は、一般に、皮下脂肪から内臓脂肪へ、更に、脂肪以外の臓器(異所性脂肪)へと進行し、それに伴って以下の合併症の頻度は大きくなる。 |
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** [[脳卒中]] |
** [[脳卒中]] |
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** [[閉塞性動脈硬化症]] |
** [[閉塞性動脈硬化症]] |
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* [[糖尿病]] |
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* [[糖尿病]]…[[インスリン抵抗性]]の獲得によると考えられている。 |
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* 体重負担による、[[変形性関節症]] |
* 体重負担による、[[変形性関節症]] |
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** 体重が1kg増加するごとに膝関節への負荷 |
** 体重が1kg増加するごとに、膝関節への負荷は3kgほど増加するとされる<ref>{{Cite journal|last=Messier|first=Stephen P.|last2=Gutekunst|first2=David J.|last3=Davis|first3=Cralen|last4=DeVita|first4=Paul|date=2005-7|title=Weight loss reduces knee-joint loads in overweight and obese older adults with knee osteoarthritis|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15986358|journal=Arthritis and Rheumatism|volume=52|issue=7|pages=2026–2032|doi=10.1002/art.21139|issn=0004-3591|pmid=15986358}}</ref>。肥満は[[変形性膝関節症]]や[[変形性股関節症]]といった[[関節症]]のリスクも助長する。体重が5kg増えるごとに、変形性膝関節症のリスクは36%上昇するという<ref>{{Cite journal|last=Lementowski|first=Peter W.|last2=Zelicof|first2=Stephen B.|date=2008-3|title=Obesity and osteoarthritis|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18438470|journal=American Journal of Orthopedics (Belle Mead, N.J.)|volume=37|issue=3|pages=148–151|issn=1934-3418|pmid=18438470}}</ref>。 |
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* 肥満による[[睡眠時無呼吸症候群]] |
* 肥満による[[睡眠時無呼吸症候群]] |
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* 運動が億劫になることによる[[運動不足]]。運動不足はあらゆる病気を引き起こす。 |
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* 内臓器能力低下による体臭の悪化。 |
* 内臓器能力低下による体臭の悪化。 |
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* 性腺機能障害による[[インポテンツ]](女性の場合は[[無月経]])や[[陰毛]]がわずかにしか生えなくなったり、あるいは全く生えなくなる[[無毛症]]になりやすい。 |
* 性腺機能障害による[[インポテンツ]](女性の場合は[[無月経]])や[[陰毛]]がわずかにしか生えなくなったり、あるいは全く生えなくなる[[無毛症]]になりやすい。 |
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[[Image:Charles Mellin zugeschr - Porträt eines Herrn - Gemäldegalerie Berlin.jpg|thumb|200px|肥満体のトースカーナの将軍<br />アレッサンドロ・デルボロ作(17世紀)]] |
[[Image:Charles Mellin zugeschr - Porträt eines Herrn - Gemäldegalerie Berlin.jpg|thumb|200px|肥満体のトースカーナの将軍<br />アレッサンドロ・デルボロ作(17世紀)]] |
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[[File:Yamai no Soshi - Obesity.JPG|thumb|200px|right|肥満の女([[病草紙]]から)]] |
[[File:Yamai no Soshi - Obesity.JPG|thumb|200px|right|肥満の女([[病草紙]]から)]] |
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'''単純性肥満'''は、エネルギーの摂取過剰や消費不足 |
'''単純性肥満'''は、エネルギーの摂取過剰や消費不足が原因であるという。小児では両親の一方、もしくは両方供に肥満であることが多く、身長が暦年齢相当で、精神運動発達は正常、奇形は見られず、食生活が影響する。 |
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=== 病的肥満 === |
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病的肥満とは、呼吸や歩行などに困難を来たすほどに高度となった肥満のことであり、しばしば手術の適応となる。 |
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=== 症候性肥満 === |
=== 症候性肥満 === |
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また、皮下脂肪が付きすぎると胸を圧迫して[[呼吸器]]の障害を起こしたり、または、[[循環器]]障害や[[消化器]]障害や[[女性器]]障害などの内臓に影響を及ぼしたりする。さらに皮下脂肪が付きすぎて[[膀胱]]を圧迫すると[[排尿障害]]などを起こしたり、または、夜間頻尿が原因となって、2型糖尿病による神経因性膀胱や膀胱癌や気腫性膀胱炎や気腫性腎盂腎炎や慢性腎臓病などの疾患にかかりやすくなる。稀に[[便秘]]や[[下痢]]や[[血便]]や強烈な[[腹痛]]や貧血などを伴う大腸癌(直腸癌など)を起こし、最悪な場合、腸閉塞を伴ったり、先に肝臓や肺や脳や骨やリンパなどに[[転移]]が見つかったり、肝臓に転移が出ると[[腹水]]や漿膜などに障害を起こして[[腹膜炎]]になったり、あるいは膀胱に浸潤して排尿困難を起こし[[末期がん]]の状態に陥って死亡することもある。(乳癌や子宮癌や卵巣癌や膀胱癌や膣癌や腎臓がんや膵臓がんや急性骨髄性白血病や原発性肝癌なども同じ)皮下脂肪型肥満の場合はなかなか痩せにくい体型となってしまうことが原因で、意志が弱くて怠惰な性格の場合、割合すぐ感情的になり、[[パニック]]や[[癇癪]]を起こして、声を荒らげたりする、皮下脂肪型肥満のタイプの患者の場合、稀に高血圧の原因になったり、若年性アルツハイマー症候群や皮下脂肪型肥満では肝硬変の原因となり、合併症の[[肝性脳症]]になったり、末期の大腸がん及び乳癌及び子宮癌の場合は脳転移になったりする場合もあり、最悪な場合は死に至る。健康診断や思春期以降の女子[[中学生]]及び女子[[高校生]]の健康診断(※両方とも1年生が対象)で行われる[[心電図]]検査の受診では、受診結果で散発性上室性及び散発性心室性[[期外収縮]]や[[洞性徐脈]]による、[[不整脈]]と診断されたり、また、低電位差では、四肢低電位や左軸偏移などと診断される場合があり、[[心膜炎]]などの疾患を起こしやすくなる。小学生〜高校生の女子の皮下脂肪型肥満の患者の場合、稀に[[脳腫瘍]]や急性骨髄性白血病や[[神経芽細胞腫]]や悪性リンパ腫などの小児がんにかかりやすくなる。また、子宮筋腫にもかかりやすくなる。子宮筋腫となった場合は、筋腫が圧迫し、大きくなるまで気が付かない場合あり。場合によっては、MRI検査をとった結果で、悪性の子宮肉腫と判別するためのグレーゾーンとなり、医師からは、20代から30代半ばでの若い女性でも、開腹による、子宮全摘手術を勧められ、術後の病理検査次第で、悪性の子宮肉腫になる可能性が高い。 |
また、皮下脂肪が付きすぎると胸を圧迫して[[呼吸器]]の障害を起こしたり、または、[[循環器]]障害や[[消化器]]障害や[[女性器]]障害などの内臓に影響を及ぼしたりする。さらに皮下脂肪が付きすぎて[[膀胱]]を圧迫すると[[排尿障害]]などを起こしたり、または、夜間頻尿が原因となって、2型糖尿病による神経因性膀胱や膀胱癌や気腫性膀胱炎や気腫性腎盂腎炎や慢性腎臓病などの疾患にかかりやすくなる。稀に[[便秘]]や[[下痢]]や[[血便]]や強烈な[[腹痛]]や貧血などを伴う大腸癌(直腸癌など)を起こし、最悪な場合、腸閉塞を伴ったり、先に肝臓や肺や脳や骨やリンパなどに[[転移]]が見つかったり、肝臓に転移が出ると[[腹水]]や漿膜などに障害を起こして[[腹膜炎]]になったり、あるいは膀胱に浸潤して排尿困難を起こし[[末期がん]]の状態に陥って死亡することもある。(乳癌や子宮癌や卵巣癌や膀胱癌や膣癌や腎臓がんや膵臓がんや急性骨髄性白血病や原発性肝癌なども同じ)皮下脂肪型肥満の場合はなかなか痩せにくい体型となってしまうことが原因で、意志が弱くて怠惰な性格の場合、割合すぐ感情的になり、[[パニック]]や[[癇癪]]を起こして、声を荒らげたりする、皮下脂肪型肥満のタイプの患者の場合、稀に高血圧の原因になったり、若年性アルツハイマー症候群や皮下脂肪型肥満では肝硬変の原因となり、合併症の[[肝性脳症]]になったり、末期の大腸がん及び乳癌及び子宮癌の場合は脳転移になったりする場合もあり、最悪な場合は死に至る。健康診断や思春期以降の女子[[中学生]]及び女子[[高校生]]の健康診断(※両方とも1年生が対象)で行われる[[心電図]]検査の受診では、受診結果で散発性上室性及び散発性心室性[[期外収縮]]や[[洞性徐脈]]による、[[不整脈]]と診断されたり、また、低電位差では、四肢低電位や左軸偏移などと診断される場合があり、[[心膜炎]]などの疾患を起こしやすくなる。小学生〜高校生の女子の皮下脂肪型肥満の患者の場合、稀に[[脳腫瘍]]や急性骨髄性白血病や[[神経芽細胞腫]]や悪性リンパ腫などの小児がんにかかりやすくなる。また、子宮筋腫にもかかりやすくなる。子宮筋腫となった場合は、筋腫が圧迫し、大きくなるまで気が付かない場合あり。場合によっては、MRI検査をとった結果で、悪性の子宮肉腫と判別するためのグレーゾーンとなり、医師からは、20代から30代半ばでの若い女性でも、開腹による、子宮全摘手術を勧められ、術後の病理検査次第で、悪性の子宮肉腫になる可能性が高い。 |
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== 原因 == |
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直接的には消費カロリーよりも摂取カロリーが過大なためであるが、何らかの疾患が原因となっている二次性肥満もある<ref name=naika.106.477>益崎裕章,島袋充生、「[https://doi.org/10.2169/naika.106.477 肥満症とメタボリックシンドローム:最近の知見と展望]」 『日本内科学会雑誌』 2017年 106巻 3号 p.477-483, {{doi|10.2169/naika.106.477}}</ref>。1日の適正カロリーに対し 2% 過剰な食事を10年間続けると 25kg の体重増加につながる<ref>益崎裕章、小塚智沙代、屋比久浩市、[https://doi.org/10.2199/jjsca.32.665 最新医学が明らかにしたメタボリックシンドロームの分子メカニズム] 『日本臨床麻酔学会誌』 2012年 32巻 5号 p.665-674, {{doi|10.2199/jjsca.32.665}}</ref>とされる。 |
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=== 二次性肥満 === |
=== 二次性肥満 === |
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[[File:World Per Person Energy Consumption.png|thumb|alt=A graph showing a gradual increase in global food energy consumption per person per day between 1961 and 2002.|1961年から2002年までの世界の一人当たりの平均摂取エネルギーの状況<ref name=Earth09>{{cite web |url=http://earthtrends.wri.org/searchable_db/index.php?theme=8&variable_ID=212&action=select_countries |title=EarthTrends: Nutrition: Calorie supply per capita |work=World Resources Institute |accessdate=Oct. 18, 2009}}</ref>]] |
[[File:World Per Person Energy Consumption.png|thumb|alt=A graph showing a gradual increase in global food energy consumption per person per day between 1961 and 2002.|1961年から2002年までの世界の一人当たりの平均摂取エネルギーの状況<ref name=Earth09>{{cite web |url=http://earthtrends.wri.org/searchable_db/index.php?theme=8&variable_ID=212&action=select_countries |title=EarthTrends: Nutrition: Calorie supply per capita |work=World Resources Institute |accessdate=Oct. 18, 2009}}</ref>]] |
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[[世界保健機関]] ( WHO ) が[[2003年]]に発表した報告では、肥満を増加させる要因として、高カロリー食品、動物性脂肪などに多い[[飽和脂肪酸]]、[[ファーストフード]]、砂糖の添加されたジュースの過剰摂取が挙げられ<ref>御堂直樹、[https://doi.org/10.11402/cookeryscience.44.79 日本に肥満者が少ないのは加糖飲料の摂取量が少ないためか?] 『日本調理科学会誌』 Vol.44 (2011) No.1 p.79-84, {{doi|10.11402/cookeryscience.44.79}}</ref>、反対に肥満を低下させる要因に食物繊維の多い食事や野菜や果物がある<ref>Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation [http://whqlibdoc.who.int/trs/who_TRS_916.pdf Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases] pp147-149. 2003</ref>。[[2011年]]の報告では、脂肪からのエネルギー摂取量や砂糖の摂取量を制限することや、野菜と果物だけでなく、全粒穀物や豆類、ナッツの摂取量を増やすことが推奨される<ref>[http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs311/en/ Obesity and overweight Fact sheet N°311], World Health Organization, Updated March 2011.</ref>。高脂肪の食べものを摂取すると脳内に快楽物質である[[ドーパミン]]が放出されることが動物実験で確認されている<ref>[http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2714323/5550982 過食による肥満と麻薬中毒、脳内に同じ変化 米研究] AFPBB News 2010年03月29日</ref>が、これは[[砂糖]]を摂取した時にも同じ現象が起こる。 |
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2014年 |
[[2014年]]、世界保健機関は肥満と口腔の健康に関する[[システマティック・レビュー]]を元に<ref name="MoynihanKelly2013">{{cite journal|last1=Moynihan|first1=P. J.|last2=Kelly|first2=S. A. M.|title=Effect on Caries of Restricting Sugars Intake: Systematic Review to Inform WHO Guidelines|journal=[[ジャーナル・オブ・デンタル・リサーチ|Journal of Dental Research]] |volume=93|issue=1|year=2013|pages=8–18|issn=0022-0345|doi=10.1177/0022034513508954}}</ref>、砂糖の摂取量をこれまでの1日あたり10%以下を目標とすることに加え、5%以下ではさらなる利点があるという砂糖のガイドラインのドラフトを公開した<ref>[http://www.who.int/mediacentre/news/notes/2014/consultation-sugar-guideline/en/ WHO opens public consultation on draft sugars guideline] (世界保健機関)</ref>。砂糖では、2000キロカロリーの10%は50グラム、5%は25グラムである。 |
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野生の肉食動物や、狩猟採集生活を送っている集団は、肥満になることはない。脂肪細胞から分泌されるホルモン、[[レプチン]]( Leptin )の存在がある。レプチンが脳の[[視床下部]]に到達すると、脳は身体に食べるのを止めるよう信号を送る。レプチンは「過食を防いでくれるホルモン」とされている。肥満体の場合、レプチンが正常に機能していない状態にある。この時、体内ではホルモン異常が惹き起こされている可能性が高い。また、肥満体の親と同じものを食べている子供の場合、親と同じように肥満体になる可能性が高くなる。 |
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他には、肥満になる親と同じ食事と同じ生活習慣をさせられた子は、親と同じく肥満になる事が多い。逆に、親の肥満を見て健康体へ強い意志を持ち正常体型を維持している子もいる。意志が弱くて怠惰的な性格の肥満児の子では、スナック菓子や甘いものがなかったり、自分の思い通りにならないと割合すぐ感情的になりパニックや癇癪を起こしながら声を荒らげたりする性格や内向的な性格になることが多くて[[不登校]]や[[いじめ]]や嫌がらせの原因にもなりやすい。(※病的肥満では[[プラダーウィリー症候群]]に相当する。) |
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=== 砂糖と肥満 === |
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野生の動物は肥満していない。また、未開の人々も肥満していない。食物が充分にあっても、食べ過ぎて太ることはない。食べる量を調節する仕組みがあるからである。脂肪細胞に脂肪が蓄積されると、満腹ホルモンである[[レプチン]]が分泌される。レプチンは、視床下部で検知されて、体内でのエネルギー消費が増加し、食事摂取量が減少する。肥満の人は、この仕組みが働かない。 |
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[[砂糖]]を摂取すると、高確率で肥満になる。砂糖は体内に入ると、[[血糖値]]の急上昇および高血糖の長時間の持続、[[インスリン]]の大量分泌、[[インスリン抵抗性]]、これらを同時に惹き起こす。[[果糖]]を投与された動物は、体重の制御ができなくなるだけでなく、摂食行動が止まらなくなり、体重が増えて体も動かさなくなることが動物実験で示された<ref>[http://articles.mercola.com/sites/articles/archive/2014/01/05/dr-johnson-leptin-resistance.aspx Clinical Scientist Sets the Record Straight on Hazards of Sugar] コロラド大学教授 Richard Johnson</ref>。果糖は、インスリンや[[レプチン]]抵抗性を引き起こし易く、糖尿病合併症や内臓肥満を招く要因である<ref>東原和成、[https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu.50.302 鈴木梅太郎研究室を引き継いで,広がる生物化学 匂い・フェロモンの生命科学] 『化学と生物』 Vol.50 (2012) No.4 p.302-307, {{doi|10.1271/kagakutoseibutsu.50.302}}</ref>。 |
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動物に砂糖を多く与えると、動物は肥満する。砂糖は消化されて、ブドウ糖と果糖に分解される。実験動物に[[果糖]]を投与すると、動物は体重をコントロールする能力を失い、通常より多くを食べて体を動かさなくなる<ref>[http://articles.mercola.com/sites/articles/archive/2014/01/05/dr-johnson-leptin-resistance.aspx Clinical Scientist Sets the Record Straight on Hazards of Sugar] コロラド大学教授 Richard Johnson</ref>。果糖は、インシュリンや[[レプチン]]抵抗性を引き起こし易く、糖尿病合併症や内臓肥満を招く要因である<ref>東原和成、[https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu.50.302 鈴木梅太郎研究室を引き継いで,広がる生物化学 匂い・フェロモンの生命科学] 『化学と生物』 Vol.50 (2012) No.4 p.302-307, {{doi|10.1271/kagakutoseibutsu.50.302}}</ref>。 |
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{{要出典範囲|この他、不足する栄養素がある場合には、食物摂取量は増える。不足しやすい栄養素は、カルシウム、ビタミンD、食物繊維、必須脂肪酸である|date=2017年12月}}。 |
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{{要出典範囲|もしタンパク質を食べようとする人が、タンパク質を食べると、必要が充足されて、食事行動は終息する。しかし、タンパク質を食べようとする人が、1種類のアミノ酸で味付けされたお菓子(大半は、でんぷんと油)を食べると、表面的な満足は得られるが、本当の必要性は充足されないので、いくらでもそのお菓子を食べることが可能になる|date=2017年10月}}。 |
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=== 座りがちな生活 === |
=== 座りがちな生活 === |
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{{Seealso|体を動かさない生活}} |
{{Seealso|体を動かさない生活}} |
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座りがちな生活は肥満と密接な要因があ |
座りがちな生活は、肥満と密接な要因があり<ref>Seidell 2005 p.10</ref>、肉体労働の減少は世界的にも進んでいるという<ref name=WHO2009>{{cite web |url=http://www.who.int/dietphysicalactivity/publications/facts/obesity/en/ |title=WHO: Obesity and overweight |work=[[World Health Organization]] |accessdate=January 10, 2009 |archiveurl=http://web.archive.org/web/20081218104805/http://www.who.int/dietphysicalactivity/publications/facts/obesity/en/ <!--Added by H3llBot--> |archivedate=December 18, 2008}}</ref><ref name=WHOExercise>{{cite web |url=http://www.who.int/dietphysicalactivity/factsheet_inactivity/en/index.html |title=WHO | Physical Inactivity: A Global Public Health Problem |work=[[World Health Organization]] |accessdate=February 22, 2009}}</ref><ref name=Ness2006>{{cite journal |author=Ness-Abramof R, Apovian CM |title=Diet modification for treatment and prevention of obesity |journal=Endocrine |volume=29 |issue=1 |pages=5–9 |year=2006 |month=February |pmid=16622287 |doi=10.1385/ENDO:29:1:135 |url=}}</ref>、世界人口の少なくとも30%が運動不足の状態にあるとされる<ref name=WHOExercise/>。 |
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これは主に、社会における交通手段の機械化や、家庭における省力化の進行によるものとされている<ref name=WHO2009/><ref name=WHOExercise/><ref name=Ness2006/>。子供らも徒歩や体育授業が少なくなってきた事により、身体運動能力レベルが不足してきている<ref>{{cite journal |author=Salmon J, Timperio A |title=Prevalence, trends and environmental influences on child and youth physical activity |journal=Med Sport Sci |volume=50 |issue= |pages=183–99 |year=2007 |pmid=17387258 |doi=10.1159/000101391 |series=Medicine and Sport Science |isbn=978-3-318-01396-2 }}</ref>。世界的にも、レジャーとして体を動かす |
これは主に、社会における交通手段の機械化や、家庭における省力化の進行によるものとされている<ref name=WHO2009/><ref name=WHOExercise/><ref name=Ness2006/>。子供らも徒歩や体育授業が少なくなってきた事により、身体運動能力レベルが不足してきている<ref>{{cite journal |author=Salmon J, Timperio A |title=Prevalence, trends and environmental influences on child and youth physical activity |journal=Med Sport Sci |volume=50 |issue= |pages=183–99 |year=2007 |pmid=17387258 |doi=10.1159/000101391 |series=Medicine and Sport Science |isbn=978-3-318-01396-2 }}</ref>。世界的にも、レジャーとして体を動かす機会が減っている。WHOは、世界の人々が余暇レクレーションに活発ではなくなっていると指摘しているが、[[フィンランド]]で行われた研究では増加しているとされ<ref>{{cite journal |author=Borodulin K, Laatikainen T, Juolevi A, Jousilahti P |title=Thirty-year trends of physical activity in relation to age, calendar time and birth cohort in Finnish adults |journal=Eur J Public Health |volume=18 |issue=3 |pages=339–44 |year=2008 |month=June |pmid=17875578 |doi=10.1093/eurpub/ckm092 |url=}}</ref>、[[アメリカ合衆国]]での研究では、「レジャー活動における運動時間の明確な変化は見られない」<ref>{{cite journal |author=Brownson RC, Boehmer TK, Luke DA |title=Declining rates of physical activity in the United States: what are the contributors? |journal=Annu Rev Public Health |volume=26 |issue= |pages=421–43 |year=2005 |pmid=15760296 |doi=10.1146/annurev.publhealth.26.021304.144437 |url=}}</ref> としている。 |
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子供と大人の両方において、テレビ視聴時間と肥満リスクには関連性がある<ref>{{cite journal |author=Gortmaker SL, Must A, Sobol AM, Peterson K, Colditz GA, Dietz WH |title=Television viewing as a cause of increasing obesity among children in the United States, 1986–1990 |journal=Arch Pediatr Adolesc Med |volume=150 |issue=4 |pages=356–62 |year=1996 |month=April |pmid=8634729 |doi=10.1001/archpedi.1996.02170290022003}}</ref><ref>{{cite journal |author=Vioque J, Torres A, Quiles J |title=Time spent watching television, sleep duration and obesity in adults living in Valencia, Spain |journal=Int. J. Obes. Relat. Metab. Disord. |volume=24 |issue=12 |pages=1683–8 |year=2000 |month=December |pmid=11126224 |doi= 10.1038/sj.ijo.0801434|url=}}</ref><ref>{{cite journal |author=Tucker LA, Bagwell M |title=Television viewing and obesity in adult females |journal=Am J Public Health |volume=81 |issue=7 |pages=908–11 |year=1991 |month=July |pmid=2053671 |pmc=1405200 |doi= 10.2105/AJPH.81.7.908|url=http://www.ajph.org/cgi/reprint/81/7/908 | format=PDF}}</ref>。73の研究のうち63にて(86%)、メディアに接する |
子供と大人の両方において、テレビの視聴時間と肥満リスクには関連性があるという<ref>{{cite journal |author=Gortmaker SL, Must A, Sobol AM, Peterson K, Colditz GA, Dietz WH |title=Television viewing as a cause of increasing obesity among children in the United States, 1986–1990 |journal=Arch Pediatr Adolesc Med |volume=150 |issue=4 |pages=356–62 |year=1996 |month=April |pmid=8634729 |doi=10.1001/archpedi.1996.02170290022003}}</ref><ref>{{cite journal |author=Vioque J, Torres A, Quiles J |title=Time spent watching television, sleep duration and obesity in adults living in Valencia, Spain |journal=Int. J. Obes. Relat. Metab. Disord. |volume=24 |issue=12 |pages=1683–8 |year=2000 |month=December |pmid=11126224 |doi= 10.1038/sj.ijo.0801434|url=}}</ref><ref>{{cite journal |author=Tucker LA, Bagwell M |title=Television viewing and obesity in adult females |journal=Am J Public Health |volume=81 |issue=7 |pages=908–11 |year=1991 |month=July |pmid=2053671 |pmc=1405200 |doi= 10.2105/AJPH.81.7.908|url=http://www.ajph.org/cgi/reprint/81/7/908 | format=PDF}}</ref>。73の研究のうち63にて(86%)、メディアに接する機会が増えるほど子供の肥満が増加するとされ、テレビの視聴時間の割合が増えるほど肥満は増加すると示されている<ref>{{cite web |url= http://ipsdweb.ipsd.org/uploads/IPPC/CSM%20Media%20Health%20Report.pdf |title=Media + Child and Adolescent Health: A Systematic Review |publisher=Common Sense Media|year=2008|format=PDF |work=Ezekiel J. Emanuel |accessdate=April 6, 2009}}</ref>。 |
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テレビを見て過ごすことは、体重増加、過体重、肥満の危険因子として指摘されている<ref>{{cite book|author=World Cancer Research Fund and American Institute for Cancer Research|url=http://wcrf.org/int/research-we-fund/continuous-update-project-cup/second-expert-report |title=Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer: A Global Perspective|year= 2007|publisher=Amer. Inst. for Cancer Research|isbn= 978-0972252225}} 日本語要旨:[http://www.wcrf.org/sites/default/files/SER-SUMMARY-(Japanese).pdf 食べもの、栄養、運動とがん予防]、[[世界がん研究基金]]と[[米国がん研究機構]]</ref>。 |
テレビを見て過ごすことは、体重増加、過体重、肥満の危険因子として指摘されている<ref>{{cite book|author=World Cancer Research Fund and American Institute for Cancer Research|url=http://wcrf.org/int/research-we-fund/continuous-update-project-cup/second-expert-report |title=Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer: A Global Perspective|year= 2007|publisher=Amer. Inst. for Cancer Research|isbn= 978-0972252225}} 日本語要旨:[http://www.wcrf.org/sites/default/files/SER-SUMMARY-(Japanese).pdf 食べもの、栄養、運動とがん予防]、[[世界がん研究基金]]と[[米国がん研究機構]]</ref>。 |
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なお、肥満対策として、しばしば「食べる量を減らして運動する」と言われるが、これには「何の効果も無い」と主張する者もいる(後述)。 |
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=== 遺伝説 === |
=== 遺伝説 === |
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「なぜ太るのか」について、「過食よりも[[遺伝子]]が重要な役割を果たしている」と唱える研究者もいる<ref name="20080317nikkeibo">「“夢のやせ薬”、開発競争の裏側 20社余りの製薬会社が、肥満治療薬の市場に参入」『日経ビジネスオンライン』日経BP社、2008年3月17日付配信</ref>。「体は一定の体重を保とうとする機能」がある。そして、ある人にとって望ましい体重は遺伝子によって決定づけられる。したがって、その人が太っていてもそれは「本人にとっては正常な状態となっている」という<ref name="20080317nikkeibo"/>。また、遺伝的要因については、レプチンが発見され、このホルモンがエネルギーの消費増加と食物摂取量低下をもたらす<ref>河合俊英、島田朗、「レプチン」 『臨床検査』 49巻 13号, 2005/12/15, {{doi|10.11477/mf.1542100354}}</ref>という説が発表された。その後、肥満に関係した多くのホルモン様物質が発見されており、脂肪組織は、単なるエネルギー貯蔵庫ではなく、内分泌器官と考えられる<ref>下村伊一郎、船橋徹、松澤佑次、[https://doi.org/10.2169/naika.93.655 肥満の役割 アディポサイトカインの産生異常] 『日本内科学会雑誌』 Vol.93 (2004) No.4 P.655-661, {{doi|10.2169/naika.93.655}}</ref>ようになってきており、それらホルモン様物質の多くは炎症に関係している。 |
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=== 睡眠不足の影響 === |
=== 睡眠不足の影響 === |
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* 睡眠時間の短さと肥満との相関関係を指摘する数多くの報告がある([[日本大学]]、[[兼板佳孝]])<ref>大塚俊昭、川田智之、矢内美雪、[https://doi.org/10.1539/sangyoeisei.B10013 【原著】一職域男性集団におけるメタボリックシンドロームの発症率およびメタボリックシンドローム発症に関連する生活習慣因子の検討] 『産業衛生学雑誌』 Vol.53 (2011) No.3 P.78, {{doi|10.1539/sangyoeisei.B10013}}</ref><ref>宮崎総一郎、小林隆一、北村拓朗、[https://doi.org/10.11453/orltokyo.54.10 睡眠時無呼吸症候群診療のピットフォール] 『耳鼻咽喉科展望』 Vol.54 (2011) No.1 P.10-18, {{doi|10.11453/orltokyo.54.10}}</ref>。 |
* 睡眠時間の短さと肥満との相関関係を指摘する数多くの報告がある([[日本大学]]、[[兼板佳孝]])<ref>大塚俊昭、川田智之、矢内美雪、[https://doi.org/10.1539/sangyoeisei.B10013 【原著】一職域男性集団におけるメタボリックシンドロームの発症率およびメタボリックシンドローム発症に関連する生活習慣因子の検討] 『産業衛生学雑誌』 Vol.53 (2011) No.3 P.78, {{doi|10.1539/sangyoeisei.B10013}}</ref><ref>宮崎総一郎、小林隆一、北村拓朗、[https://doi.org/10.11453/orltokyo.54.10 睡眠時無呼吸症候群診療のピットフォール] 『耳鼻咽喉科展望』 Vol.54 (2011) No.1 P.10-18, {{doi|10.11453/orltokyo.54.10}}</ref>。 |
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* シカゴ大学内分泌学部門のイヴ・ヴァン・コーター博士によると、睡眠不足が肥満に結びつくメカニズムは以下の通り。睡眠不足は飢餓信号を送るホルモン、[[グレリン]]の分泌を増加させ |
* シカゴ大学内分泌学部門のイヴ・ヴァン・コーター博士によると、睡眠不足が肥満に結びつくメカニズムは以下の通り。睡眠不足は飢餓信号を送るホルモン、[[グレリン]]の分泌を増加させ、レプチンの分泌量が減る。睡眠科学の分野の研究者らは、この発見を踏まえて、小児を対象にした分析を立て続けに行なった。この研究を行っている研究者に共通した見解は「睡眠時間の短い子供はよく寝ている子供より太っている」<ref>『間違いだらけの子育て 子育ての常識を変える10の最新ルール』第2章 「睡眠時間を削ってはいけない」ポー・ブロンソン、アリュリー・メリーマン著 小松淳子訳 インターシフト</ref>という。 |
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睡眠時間が短過ぎたり、ストレスに常に晒されていると、「ストレス・ホルモン」である[[コルチゾール]]( Cortisol )の分泌が増える。コルチゾールは、脂肪を蓄積させるホルモン、インスリンの分泌を誘発する。 |
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=== 腸内細菌 === |
=== 腸内細菌 === |
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環境要因のひとつとして腸内細菌叢が肥満を引き起こしているとする研究がある<ref>{{PDFlink|[http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1605_03.pdf 糖尿病と腸内細菌]}} 『モダンメディア』 2016年5月号(第62巻5号)</ref><ref>園山慶、「[https://doi.org/10.11209/jim.24.193 メタボリックシンドロームと腸内細菌叢]」 『腸内細菌学雑誌』 Vol.24 (2010) No.3 P.193-201, {{DOI|10.11209/jim.24.193}}</ref>。 |
環境要因のひとつとして腸内細菌叢が肥満を引き起こしているとする研究がある<ref>{{PDFlink|[http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1605_03.pdf 糖尿病と腸内細菌]}} 『モダンメディア』 2016年5月号(第62巻5号)</ref><ref>園山慶、「[https://doi.org/10.11209/jim.24.193 メタボリックシンドロームと腸内細菌叢]」 『腸内細菌学雑誌』 Vol.24 (2010) No.3 P.193-201, {{DOI|10.11209/jim.24.193}}</ref>。 |
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肥満の有無に[[アッカーマンシア・ムシニフィラ]]([[w:Akkermansia muciniphila|Akkermansia muciniphila]])という[[腸内細菌]]が関わっているとの指摘がある。この細菌が少ない人ほど[[BMI]]値が高い。痩せ |
肥満の有無に、「[[アッカーマンシア・ムシニフィラ]]([[w:Akkermansia muciniphila|Akkermansia muciniphila]])という[[腸内細菌]]が関わっている」との指摘がある。この細菌が少ない人ほど[[BMI]]値が高いという。痩せている人ではこの細菌が腸内細菌の4%を占め、太った人ではほとんどゼロである。この細菌は腸壁を覆う[[粘液]]層の表面に潜んでいる。この細菌が少ないと粘液層が薄くなり[[リポ多糖]]が血液中に入りやすいとされる。なお、リポ多糖は脂肪細胞の炎症を引き起こし新しい[[脂肪細胞]]の形成を妨げ、既存の細胞に脂肪の過剰な蓄積を起こす<ref name="アランナ">アランナ・コリン著、矢野真千子訳『あなたの体は9割が細菌』 p94ほか、2016年8月30日、河出書房新社、ISBN 9784309253527</ref>。 |
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== 原因 == |
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「消費カロリーよりも摂取カロリーのほうが多いから太る」と言われることが多いが、何らかの疾患が原因となっている二次性肥満もある<ref name=naika.106.477>益崎裕章,島袋充生、「[https://doi.org/10.2169/naika.106.477 肥満症とメタボリックシンドローム:最近の知見と展望]」 『日本内科学会雑誌』 2017年 106巻 3号 p.477-483, {{doi|10.2169/naika.106.477}}</ref>。1日の適正カロリーに対し 2% 過剰な食事を10年間続けると 25kg の体重増加につながる<ref>益崎裕章、小塚智沙代、屋比久浩市、[https://doi.org/10.2199/jjsca.32.665 最新医学が明らかにしたメタボリックシンドロームの分子メカニズム] 『日本臨床麻酔学会誌』 2012年 32巻 5号 p.665-674, {{doi|10.2199/jjsca.32.665}}</ref>とされる。 |
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== 予防 == |
== 予防 == |
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世界保健機関 (WHO) は、肥満問題に対する戦略として以下を挙げている<ref>村上直久『世界は食の安全を守れるか―食品パニックと危機管理』(平凡社新書)151頁。ISBN 978-4582852370。</ref>。 |
世界保健機関 ( WHO ) は、肥満問題に対する戦略として以下を挙げている<ref>村上直久『世界は食の安全を守れるか―食品パニックと危機管理』(平凡社新書)151頁。ISBN 978-4582852370。</ref>。 |
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* [[砂糖]]、脂肪、動物性脂肪 |
* [[砂糖]]、脂肪、[[動物性脂肪]]の摂取制限 |
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* 食品の広告を制限する |
* 食品の広告を制限する |
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* 税制を活用する([[砂糖税]]) |
* 税制を活用する([[砂糖税]]) |
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== 治療 == |
== 治療 == |
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肥満の |
肥満の治療方法としては、[[食事療法]]と[[運動療法]]の2つであると言われる<ref name=CADG2006>{{cite journal |author=Lau DC, Douketis JD, Morrison KM, Hramiak IM, Sharma AM, Ur E |title=2006 Canadian clinical practice guidelines on the management and prevention of obesity in adults and children summary |journal=CMAJ |volume=176 |issue=8 |pages=S1–13 |year=2007 |month=April |pmid=17420481 |pmc=1839777 |doi=10.1503/cmaj.061409 |url=}}</ref>。 |
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短期的には減量できるが<ref name=Strychar>{{cite journal |author=Strychar I |title=Diet in the management of weight loss |journal=CMAJ |volume=174 |issue=1 |pages=56–63 |year=2006 |month=January |pmid=16389240 |pmc=1319349 |doi=10.1503/cmaj.045037 |url=http://www.cmaj.ca/cgi/content/full/174/1/56}}</ref> が、減量した体重を維持するのはなかなか難しく、運動と減食を続けるように、と要求されることが多い<ref>{{cite journal |author=Shick SM, Wing RR, Klem ML, McGuire MT, Hill JO, Seagle H |title=Persons successful at long-term weight loss and maintenance continue to consume a low-energy, low-fat diet |journal=J Am Diet Assoc |volume=98 |issue=4 |pages=408–13 |year=1998 |month=April |pmid=9550162 |doi=10.1016/S0002-8223(98)00093-5}}</ref><ref>{{cite journal |author=Tate DF, Jeffery RW, Sherwood NE, Wing RR |title=Long-term weight losses associated with prescription of higher physical activity goals. Are higher levels of physical activity protective against weight regain? |journal=Am. J. Clin. Nutr. |volume=85 |issue=4 |pages=954–9 |date=1 April 2007|pmid=17413092 |url=http://www.ajcn.org/cgi/content/full/85/4/954}}</ref>。生活習慣の改善を伴った長期的な減量成功率は、「2~20%」とされている<ref>{{cite journal |author= Wing, Rena R; Phelan, Suzanne|title=Science-Based Solutions to Obesity: What are the Roles of Academia, Government, Industry, and Health Care? Proceedings of a symposium, Boston, Massachusetts, USA, 10–11 March 2004 and Anaheim, California, USA, 2 October 2004 |journal=Am. J. Clin. Nutr. |volume=82 |issue=1 Suppl |pages=207S–273S |date=1 July 2005|pmid=16002825 |url=http://www.ajcn.org/cgi/content/full/82/1/222S }}</ref>。食生活の改善は、妊娠期における体重増加を食い止め、母子共々の健康を改善する<ref>{{cite journal|last=Thangaratinam|first=S|coauthors=Rogozinska, E; Jolly, K; Glinkowski, S; Roseboom, T; Tomlinson, JW; Kunz, R; Mol, BW; Coomarasamy, A; Khan, KS|title=Effects of interventions in pregnancy on maternal weight and obstetric outcomes: meta-analysis of randomised evidence|journal=BMJ (Clinical research ed.)|date=2012 May 16|volume=344|pages=e2088|pmid=22596383|pmc=3355191|doi=10.1136/bmj.e2088}}</ref>。 |
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肥満に最も効果をもたらす治療は肥満症治療手術である<ref>{{cite journal|last=Colquitt|first=JL|coauthors=Picot, J; Loveman, E; Clegg, AJ|title=Surgery for obesity.|journal=Cochrane database of systematic reviews (Online)|date=2009 Apr 15|issue=2|pages=CD003641|pmid=19370590}}</ref>。 |
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=== 食事療法 === |
=== 食事療法 === |
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食事法の選択肢として、カロリー制限食、[[低脂肪食]]、[[アトキンス・ダイエット]]、[[低炭水化物ダイエット|炭水化物制限食]]、[[地中海食]]、古代食、[[ダッシュダイエット]]、Ornish食, Zone食が挙げられる<ref>山田 悟, 肥満症の食事療法-成功のコツ. 日医雑誌 2014; 143: 54-58.</ref>。低脂肪食と低炭水化物食・地中海食を比較した研究では、炭水化物制限食と地中海食は同等の減量効果がみられたという<ref>Shai I et al. [https://doi.org/10.1056/NEJMoa0708681 Weight Loss with a Low-Carbohydrate], Mediterranean, or Low-Fat Diet. N Engl J Med 2008; 359:229-241. ,{{doi|10.1056/NEJMoa0708681}}</ref>。 |
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:低脂肪食と低炭水化物食、地中海食を比較した研究では、低炭水化物食と地中海食は同等の減量効果がみられた。<ref>Shai I et al. [https://doi.org/10.1056/NEJMoa0708681 Weight Loss with a Low-Carbohydrate], Mediterranean, or Low-Fat Diet. N Engl J Med 2008; 359:229-241. ,{{doi|10.1056/NEJMoa0708681}}</ref> |
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=== 手術 === |
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呼吸や歩行などに困難を来たすほどに高度となった肥満は「病的肥満」と呼ばれ、手術を要する場合もある<ref>{{cite journal|last=Colquitt|first=JL|coauthors=Picot, J; Loveman, E; Clegg, AJ|title=Surgery for obesity.|journal=Cochrane database of systematic reviews (Online)|date=2009 Apr 15|issue=2|pages=CD003641|pmid=19370590}}</ref>。 |
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=== 手術治療 === |
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* 胃縮小術 |
* 胃縮小術 |
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:開腹手術として、肥満に対する最初にして唯一の保険収載の外科手術治療 |
:開腹手術として、肥満に対する最初にして唯一の保険収載の外科手術治療。 |
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* 腹腔鏡下スリーブ状胃切除手術(袖状胃切除術とも。Laparoscopic sleeve gastrectomy:LSG) |
* 腹腔鏡下スリーブ状胃切除手術(袖状胃切除術とも。Laparoscopic sleeve gastrectomy:LSG) |
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:胃の大彎側を腹腔鏡下に切除する治療法。前述の胃縮小術と近いが開腹手術ではなく腹腔鏡下手術である。日本でもBMI>35において保険適応手術となっている。(K656-2 腹腔鏡下胃縮小術(スリーブ状切除によるもの、36,410点) |
:胃の大彎側を腹腔鏡下に切除する治療法。前述の胃縮小術と近いが開腹手術ではなく腹腔鏡下手術である。日本でもBMI>35において保険適応手術となっている。(K656-2 腹腔鏡下胃縮小術(スリーブ状切除によるもの、36,410点) |
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* 腹腔鏡下調節性胃バンディング手術(Laparoscopic adjustable gastric banding:LAGB) |
* 腹腔鏡下調節性胃バンディング手術(Laparoscopic adjustable gastric banding:LAGB) |
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:胃の上部にバンドを巻いて調節ポートを皮下に埋め込む手術。調節ポートでバンドの収縮具合を調整する。保険適応 |
:胃の上部にバンドを巻いて調節ポートを皮下に埋め込む手術。調節ポートでバンドの収縮具合を調整する。保険は適応されない。 |
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* 腹腔鏡下Roux-en-Y胃バイパス手術(Laparoscopic Roux-en-Y gastric banding:LRYGB) |
* 腹腔鏡下Roux-en-Y胃バイパス手術(Laparoscopic Roux-en-Y gastric banding:LRYGB) |
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:小腸バイパス術(Jejunoileal bypass:JIB)や胆膵バイパス術(Biliopancreatic diversion:BPD)の応用として開発され |
:小腸バイパス術(Jejunoileal bypass:JIB)や胆膵バイパス術(Biliopancreatic diversion:BPD)の応用として開発された。保険は適応されない。 |
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* 内視鏡的胃内バルーン留置術(endoscopic intragastric balloon:IGB) |
* 内視鏡的胃内バルーン留置術(endoscopic intragastric balloon:IGB) |
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:[[1982年]]にNieben OGとHarboe Hによって考案され、胃内に[[生理食塩水]]を注入したバルーンを留置(Bioenteric Intragastric Balloon:BIB®)する。バルーン |
:[[1982年]]にNieben OGとHarboe Hによって考案され、胃内に[[生理食塩水]]を注入したバルーンを留置(Bioenteric Intragastric Balloon:BIB®)する。バルーンが劣化を見せたら、6ヵ月ごとに交換する必要がある。これも保険は適応されない。 |
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* AspireAssistシステム<ref>[https://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm506625.htm FDA approves AspireAssist obesity device]</ref> |
* AspireAssistシステム<ref>[https://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm506625.htm FDA approves AspireAssist obesity device]</ref> |
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: [[胃瘻]]を増設し専用の減量装置を用いる。 |
: [[胃瘻]]を増設し、専用の減量装置を用いる。[[アメリカ食品医薬品局]]が[[2016年]]に承認した。食事から約20分後に、体外の装置を胃瘻ポートに取り付けられ、胃内内容物のおよそ30%が排出・廃棄される<ref>Thompson CC et al. [https://doi.org/10.1038/ajg.2016.500 Percutaneous gastrostomy device for the treatment of class II and class III obesity: Results of a randomized controlled trial]. Am J Gastroenterol 2017 Mar; 112:447., {{doi|10.1038/ajg.2016.500}}</ref>。 |
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=== 薬物治療 === |
=== 薬物治療 === |
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* [[リラグリチド]]([[インクレチン]]・[[アナログ]]、治験中)<ref>Lancet. 2009 Nov 7;374(9701):1606-16.</ref> |
* [[リラグリチド]]([[インクレチン]]・[[アナログ]]、治験中)<ref>Lancet. 2009 Nov 7;374(9701):1606-16.</ref> |
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* [[ゼニカル]]([[脂肪]]吸収阻害剤 orlistat; 日本未発売) |
* [[ゼニカル]]([[脂肪]]吸収阻害剤 orlistat; 日本未発売) |
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* [[防風通聖散]](ボウフウツウショウサン) [[漢方薬]]:[[麻黄]]、[[甘草]]、[[荊芥]]、[[連翹]]、ほか合計18種類の生薬より構成される<ref>{{PDFlink|[http://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=5200130D1060 ツムラ漢方防風通聖散エキス顆粒(ボウフウツウショウサン)]}} 医薬品インタビューフォーム 2014年11月(改訂第6版) 日本標準商品分類番号875200</ref>。耐糖能異常<ref>[http://www.j-athero.org/guide/kiken/02.html 動脈硬化の病気を防ぐガイドブック 糖尿病・耐糖能異常] 日本動脈硬化学会</ref>を有する肥満者に有効<ref>[http://www.jsom.or.jp/medical/ebm/er/pdf/040013.pdf 耐糖能異常を有する日本人肥満女性での防風通聖散の有効性と安全性] 漢方治療エビデンスレポート日本東洋医学会 EBM委員会エビデンスレポート</ref> |
* [[防風通聖散]](ボウフウツウショウサン) [[漢方薬]]:[[麻黄]]、[[甘草]]、[[荊芥]]、[[連翹]]、ほか合計18種類の生薬より構成される<ref>{{PDFlink|[http://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=5200130D1060 ツムラ漢方防風通聖散エキス顆粒(ボウフウツウショウサン)]}} 医薬品インタビューフォーム 2014年11月(改訂第6版) 日本標準商品分類番号875200</ref>。耐糖能異常<ref>[http://www.j-athero.org/guide/kiken/02.html 動脈硬化の病気を防ぐガイドブック 糖尿病・耐糖能異常] 日本動脈硬化学会</ref>を有する肥満者に有効<ref>[http://www.jsom.or.jp/medical/ebm/er/pdf/040013.pdf 耐糖能異常を有する日本人肥満女性での防風通聖散の有効性と安全性] 漢方治療エビデンスレポート日本東洋医学会 EBM委員会エビデンスレポート</ref> |
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*[[大柴胡湯]](ダイシサイコトウ) 漢方薬:[[柴胡]]、[[半夏]]、[[黄芩]]、[[芍薬]]、[[大棗]]、[[枳実]]、[[生姜]]、[[大黄]]より構成され、[[胃炎]]、常習[[便秘]]、[[高血圧]]や肥満に伴う[[肩こり]]・[[頭痛]]・便秘、[[神経症]]、肥満症に有効<ref>{{Cite web|url=https://www.tsumura.co.jp/products/ippan/031/index_s.html|title=ツムラ漢方大柴胡湯エキス顆粒(ダイサイコトウ) : 一般用漢方製剤・一般用医薬品 {{!}} 製品情報 {{!}} ツムラ|accessdate=2018-12-07|website=www.tsumura.co.jp|language=ja}}</ref> |
* [[大柴胡湯]](ダイシサイコトウ) 漢方薬:[[柴胡]]、[[半夏]]、[[黄芩]]、[[芍薬]]、[[大棗]]、[[枳実]]、[[生姜]]、[[大黄]]より構成され、[[胃炎]]、常習[[便秘]]、[[高血圧]]や肥満に伴う[[肩こり]]・[[頭痛]]・便秘、[[神経症]]、肥満症に有効<ref>{{Cite web|url=https://www.tsumura.co.jp/products/ippan/031/index_s.html|title=ツムラ漢方大柴胡湯エキス顆粒(ダイサイコトウ) : 一般用漢方製剤・一般用医薬品 {{!}} 製品情報 {{!}} ツムラ|accessdate=2018-12-07|website=www.tsumura.co.jp|language=ja}}</ref> |
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*[[防已黄耆湯]](ボウイオウギトウ) 漢方薬:[[黄耆]]、[[防已]]、[[蒼朮]]、大棗、甘草、生姜より構成され、肥満に伴う関節の腫れや痛み、[[むくみ]]、[[多汗症]]、肥満症 |
* [[防已黄耆湯]](ボウイオウギトウ) 漢方薬:[[黄耆]]、[[防已]]、[[蒼朮]]、大棗、甘草、生姜より構成され、肥満に伴う関節の腫れや痛み、[[むくみ]]、[[多汗症]]、肥満症に有効<ref>{{Cite web|url=https://www.tsumura.co.jp/products/ippan/042/index_s.html|title=ツムラ漢方防已黄耆湯エキス顆粒(ボウイオウギトウ) : 一般用漢方製剤・一般用医薬品 {{!}} 製品情報 {{!}} ツムラ|accessdate=2018-12-07|website=www.tsumura.co.jp|language=ja}}</ref> |
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== 疫学 == |
== 疫学 == |
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{{Multicol-end}} |
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|alt=A map of the world with countries colored to reflect the percentage of men who are obese. Obese males and females have higher prevalence (above 30%) in the U.S. and some Middle Eastern and Oceanian countries, medium prevalence in the rest of North America and Europe, and lower prevalence (<5%) in most of Asia and Africa.||}} |
|alt=A map of the world with countries colored to reflect the percentage of men who are obese. Obese males and females have higher prevalence (above 30%) in the U.S. and some Middle Eastern and Oceanian countries, medium prevalence in the rest of North America and Europe, and lower prevalence (<5%) in most of Asia and Africa.||}} |
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肥満は社会問題化している。世界的には、男性の24 |
肥満は社会問題化している。世界的には、男性の24%と女性の27%が肥満であるという<ref>5 大陸 63 ヵ国が参加した「国際腹部肥満測定デー (IDEAO)」のデータ解析の結果</ref>。一般的に、アジア諸国に比べると欧米諸国では肥満の人々の割合が高い<ref>INSERM Beverley Balkau</ref>。アメリカ合衆国においては、国民の30%以上が肥満であり、単純性肥満は肥満の約90パーセントを占める。 |
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[[開発途上国]]と呼ばれる地域でも深刻な健康問題になりつつある。[[ブラジル]]における女性の肥満率は、[[1975年]]には24%だったのが、[[2003年]]には38%に、[[バングラデシュ]]においては、[[1996年]]には3%から[[2007年]]には12%に、[[ケニア]]において、[[1993年]]の15%から2003年には26%に上昇している<ref name="DeFries">ルース・ドフリース『食糧と人類:飢餓を克服した大増産の文明史』小川敏子訳 日本経済新聞出版社 2016年、ISBN 9784532169817 pp.247-253.</ref>。世界的に肥満が増加している背景について、[[グローバリゼーション|世界規模]]での安価な[[油脂]]類や動物性食品の普及によって、高脂肪、高カロリーの食生活への急速な変化が起きていることが主な原因と考える者もいる<ref name="DeFries"/>。 |
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肥満は[[開発途上国]]と呼ばれる地域でも深刻な健康問題になりつつある。[[ブラジル]]の女性の肥満率は1975年の24パーセントから2003年には38パーセントに、[[バングラデシュ]]では1996年の3パーセントから2007年には12パーセントに、[[ケニア]]では1993年の15パーセントから2003年には26パーセントに、いずれも増加している<ref name="DeFries">ルース・ドフリース『食糧と人類:飢餓を克服した大増産の文明史』小川敏子訳 日本経済新聞出版社 2016年、ISBN 9784532169817 pp.247-253.</ref>。[[グローバリゼーション|世界規模]]での安価な[[油脂]]類や動物性食品の普及によって、高脂肪、高カロリーの食生活への急速な変化が起きていることが主な原因と考えられている<ref name="DeFries"/>。 |
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{{節スタブ}} |
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[[Image:Bmi30chart.png|thumb|250px|[[経済協力開発機構|OECD]] 加盟国のうち、BMI 指数が 30 以上の割合。]] |
[[Image:Bmi30chart.png|thumb|250px|[[経済協力開発機構|OECD]] 加盟国のうち、BMI 指数が 30 以上の割合。]] |
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=== アメリカ合衆国 === |
=== アメリカ合衆国 === |
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[[アメリカ合衆国 |
[[アメリカ合衆国]]では、[[ボディマス指数|BMI]]が「30」以上で「肥満」と見なされている。[[2002年]]に取られたデータによれば、BMIが25以上の人は65.7%で、BMIが30以上の子供は16%以上に達するという。アメリカでは、[[ジャンクフード]]の販売について子供の健康や食の嗜好を守るために、自主規制する方向に向かっている。公的な医療保険制度が整っていないことも手伝い、経済上の理由による医療保険未加入者が約4700万人いると言われており、低所得者層ほど栄養価の高いものは食べられず、肥満や病気を患いやすくなっている。 |
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[[アメリカ医学研究所]] (IOM) は、 |
[[アメリカ医学研究所]] ( IOM ) は、「[[カロリー]]が高く、[[栄養価]]に乏しい食品の[[コマーシャル]]が子供の肥満に関わっている」としており、[[自主規制]]ないし政府の介入を求めた<ref>[http://www.iom.edu/CMS/3788/21939/31330.aspx Food Marketing to Children and Youth: Threat or Opportunity?] (Institute of medicine)</ref>。[[シカゴ大学]]は、「18歳未満をターゲットにした食べ物のコマーシャルに使われている商品の90%以上が栄養価に乏しいものばかりであり、食の嗜好に影響を与える」と報告した<ref>[http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2277386/2094497 米国の子供たちの肥満は、「健康に悪い食品のCM」にさらされているから?] (AFPBB News、2007年09月08日 10:16)</ref>。肥満対策のため、[[公立学校]]で糖分の多い飲料や脂肪を除去していない[[牛乳]]は販売されないように合意された<ref>[http://www.nytimes.com/2006/05/04/health/04soda.html Bottlers Agree to a School Ban on Sweet Drinks] (The New York Times, 2006-5-4)</ref>。[[マクドナルド]]や[[ペプシコ]]を初めとする企業が、12歳以下の子供にはジャンクフードの[[広告]]をやめることで合意した<ref>[http://www.nytimes.com/2007/07/18/business/18food.html Limiting Ads of Junk Food to Children] (New York Times, July 18, 2007)</ref>。このような害悪により、肥満は現代において早急に撲滅しなければならない重大な社会問題と見なされている<ref>[http://www.garbagenews.net/archives/2142258.html アメリカにおける肥満と病気、健康的な生活との関係] 2014年3月14日 ガベージニュース</ref> 。 |
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{{seealso|ジャンクフード}} |
{{seealso|ジャンクフード}} |
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=== 東欧 === |
=== 東欧 === |
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[[冷戦|東西冷戦]] |
[[冷戦|東西冷戦]]の終結後、マクドナルドを筆頭に、アメリカのファーストフード店が旧[[東側諸国]]にも進出している。[[2010年]]の時点で肥満児は急増している。[[ルーマニア]]の研究機関によれば、ルーマニア国民の4人に1人が肥満であり、子供の肥満の場合、冷戦時代の2倍以上の8%に達するという。肥満の一歩手前の「太り気味」も含めると、5人に1人が[[生活習慣病]]のリスクを抱えているという。また、所得の低い家庭ほど、ファストフードに頼る傾向があるとされる。同国では2010年1月に「ジャンクフード税」の導入を発表した。[[ブルガリア]]では、政府の方針に基づき、全国の学校の食堂や売店から[[スナック菓子]]や[[清涼飲料水]]を撤去した<ref>{{citenews|url=http://www.asahi.com/international/update/0316/TKY201003150469.html|title=東欧で肥満児急増 体操教室流行・ジャンクフード税導入|publisher=[[朝日新聞]]|date=2010-3-16|accessdate=2010-3-16}}</ref>。 |
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{{seealso|肥満税}} |
{{seealso|肥満税}} |
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=== クウェート === |
=== クウェート === |
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ファストフードが人気であるという。2010年の時点で国民の74%が「太りすぎ」であるという。国民の14%は[[糖尿病]]を患っており、その数は増加しつつあるという。8歳の子供が糖尿病にかかる事例も起こっている。政府は健康的な食品の販売や運動の奨励などを行うことで対策に乗り出しているという<ref>{{citenews|url=http://www.cnn.co.jp/fringe/AIC201005070014.html|title=世界有数の肥満国クウェート、ファーストフード人気も一因に|publisher=CNN.co.jp|date=2010-5-7|accessdate=2010-5-7}}</ref>。 |
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=== サウジアラビア === |
=== サウジアラビア === |
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クウェート |
クウェート同様、ファストフード店が人気であるという。成人の肥満率は30%を超えている。肥満対策に向けて、女子体育が解禁されたという。 |
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=== 中国 === |
=== 中国 === |
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[[ケンタッキーフライドチキン]]や[[ピザハット]]を初めとしたファストフード店が、一日につき一店舗のペースで開店しているという。これは、アメリカのファストフード業界にとって、中国市場が極めて魅力的であることを示唆している。近い将来、中国は「ファストフード大国」になるだろうと見なされている<ref>{{citenews|url=http://www.cnn.co.jp/business/AIC201007140006.html|title=中国がファストフード大国に KFC など急ピッチで開店|publisher=CNN.co.jp|date=2010-7-14|accessdate=2010-7-17}}</ref>が、同時にこれは肥満や生活習慣病のリスクも伴うことを意味する。 |
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2010年の時点での中国の肥満人口は3億2500万人であったが、[[2030年]]には倍増して6億5000万人に達する見通しだという<ref>[http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2010&d=0501&f=national_0501_019.shtml 中国の肥満人口は3億人超、2030年には6.5億人に 2010-05-01(土) 163011 サーチナ] 2013年2月22日閲覧。</ref>。 |
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=== 日本 === |
=== 日本 === |
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{{Seealso|日本の健康}} |
{{Seealso|日本の健康}} |
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日本の肥満率は先進国最小の低さであり、BMI指数は男女とも「普通体重」階級内に収まる<ref name="eiyou">{{Cite report|publisher=厚生労働省 |title=平成26年 国民健康・栄養調査報告 |date=2015-12-09 |url=http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h26-houkoku.html}}</ref>。男子のほうが肥満傾向にある<ref name=eiyou />。 |
日本の肥満率は先進国最小の低さであり、BMI指数は男女とも「普通体重」階級内に収まる<ref name="eiyou">{{Cite report|publisher=厚生労働省 |title=平成26年 国民健康・栄養調査報告 |date=2015-12-09 |url=http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h26-houkoku.html}}</ref>。男子のほうが肥満傾向にある<ref name=eiyou />。[[健康増進法]]が制定されたことに伴い、肥満者には[[特定健診・特定保健指導]]が推進されている。 |
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日本における肥満(BMI30以上)の頻度は3%とされている<ref>WHO monitoring of trends and determinants in cardiovasculsr diseases「日本人の BMI に関する研究」班の報告</ref>が、成人や小児を問わず、肥満は増加しているという。10~12歳では、男子の10%、女子の8~9%が肥満であり、その9割以上が単純性肥満であるという。 |
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=== 太平洋の島嶼国家 === |
=== 太平洋の島嶼国家 === |
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18歳人口のうち肥満とされる人の比率を示す肥満率の国際比較では、[[南太平洋]]に点在する[[島国|島嶼国家]]が上位を占める。世界保健機関 |
18歳人口のうち肥満とされる人の比率を示す肥満率の国際比較では、[[南太平洋]]に点在する[[島国|島嶼国家]]が上位を占める。世界保健機関の2014年時点集計では、トップの[[クック諸島]]は50%を超え、上位10カ国に入る[[パラオ]]、[[ナウル]]、[[サモア]]、[[トンガ]]、[[ニウエ]]、[[マーシャル諸島]]、[[キリバス]]、[[ツバル]]は40%台である。背景としては[[第二次世界大戦]]後、外国から流入した[[ファストフード]]や肉を好む島民が増え、伝統的食品([[パンノキ]]の実や[[タロイモ]]、野菜、果物、[[魚]])より摂取カロリーが増えたことが指摘されている<ref>[https://www.asahi.com/articles/DA3S13355993.html 【世界初2018】トンガ、肥満に悩む/伝統食よりファストフード…生活習慣病リスク]『朝日新聞』朝刊2018年2月12日(国際面)。</ref>。 |
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トンガのポヒバ首相は2018年8月、近隣島嶼国家の首脳に、1年間の[[ダイエット]]競争を呼び掛けた<ref>[http://www.afpbb.com/articles/-/3186116 「トンガ首相、太平洋諸国首脳にダイエット競争呼び掛け」][[フランス通信社]](2018年8月15日)2018年8月24日閲覧。</ref>。 |
トンガのポヒバ首相は2018年8月、近隣島嶼国家の首脳に、1年間の[[ダイエット]]競争を呼び掛けた<ref>[http://www.afpbb.com/articles/-/3186116 「トンガ首相、太平洋諸国首脳にダイエット競争呼び掛け」][[フランス通信社]](2018年8月15日)2018年8月24日閲覧。</ref>。 |
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== 社会的影響 == |
== 社会的影響 == |
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肥満は、食費だけではなく医療費 |
肥満は、食費だけではなく医療費の増加ももたらし、家計の負担につながる<ref>『肥満、家計にも「重く」…20キロ超過で医療費2.5倍』2007年8月8日付配信 読売新聞</ref>。肥満はあらゆる病気の原因となり、治療費や健康対策費が余計にかかり、国家経済への影響も多大であり、肥満人口減少プログラムが組まれる機会が増えるとみなされている。[[2009年]]4月以降、アメリカの航空会社を使った場合、満席時には2席分の料金を請求される可能性がある。 |
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== 肥満と減食・運動について == |
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=== カール・フォン・ノールデンによるカロリー理論 === |
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「痩身や減量というのは、食事制限や[[フィジカルトレーニング|運動]]をせずして成功しない」<ref name="nhk_2014_0616">[http://megalodon.jp/2014-0616-1106-45/www3.nhk.or.jp/news/html/20140613/k10015205381000.html NHK「『いままでにないダイエット』 表示やめるよう命令」]</ref>と言われることが多い。「食べる量を減らして運動しろ」ということであるが、実際には、この言い分には何の根拠も無い。 |
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「カロリー」を体重の増減に絡めて初めて提唱したのはドイツ人の内科医カール・フォン・ノールデン( [[:de:Carl von Noorden]] )であり、彼が[[1907年]]に[[英語]]で発表した『''Metabolism and Practical Medicine''』(『代謝と実践医療』)の第3章『Obesity』(『肥満』)の中で、 |
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「''The ingestion of a quantity of food greater than that required by the body, leads to an accumulation of fat, and to obesity, the disproportion should be continued over a considerable period.''」(「身体が必要としている以上の量の食べ物を摂取することが脂肪の蓄積をもたらし、その不均衡が長期に亘って続くと、肥満になるはずである」) |
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と記述している<ref>{{Cite journal |
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|last = Noorden |
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|first = Karl |
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|date = 1907 |
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|title = [https://archive.org/stream/metabolismpracti03nooruoft#page/692/mode/2up Metabolism and Practical Medicine, the Chapter III 'Obesity'] |
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|journal = |
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|volume = |
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|page = 693 - 695}}</ref>。その後、このノールデンの主張は、体重を制御する方法やダイエットについて伝授する人間がほぼ必ずと言っていいほど口にするようになった。ノールデンによるこの著作物は、インターネットでも読むことが可能。 |
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「ヒトは消費する以上に多くのカロリーを摂取するから太るのである」という考え方を概念や理論として広めた人物の元祖はノールデンということになる。 |
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=== ラッセル・ワイルダー === |
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肥満患者を治療する臨床医の多くは、1960年代までは、「運動すれば減量できる」「座りっぱなしの生活をしていると太る」「食べ過ぎるから太る」といった考え方を「幼稚」として退けていた。[[ミネソタ州]][[ロチェスター (ミネソタ州)|ロチェスター市]]にある[[メイヨー・クリニック]]( Mayo Clinic )の勤務医、[[ラッセル・ワイルダー]]( Russel wilder, 1885~1959 )もその1人である。[[1932年]]、肥満についての講演を行った際に、ワイルダーは以下のように述べている。 |
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「肥満患者は、ベッドの上で安静にしていることで、より早く体重を減らせる。一方で、激しい身体活動は減量の速度を低下させる」「運動を続ければ続けるほどより多くの脂肪が消費されるはずであり、減量もそれに比例するはずだ、という患者の理屈は一見正しいように見えるが、体重計が何の進歩も示していないのを見て、患者は落胆する」<ref name="Why we get fat"> |
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{{Cite book |
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|last = Taubes |
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|first = Gary |
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|year = 2010 |
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|title = Why We Get Fat |
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|publisher = Alfred A. Knopf |
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|location = New York City |
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|isbn = 978-0-307-27270-6 |
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}} |
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</ref> |
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ラッセル・ワイルダーのこの主張は、カール・フォン・ノールデンが唱えたカロリー理論を全否定するものである。ワイルダーはメイヨー・クリニックにて、主に糖尿病患者を担当していたが、糖尿病だけではなく、肥満の治療にも関心が高かった。1920年代前半、ワイルダーは『ケトン食』を開発し、肥満患者・糖尿病患者にこれを処方している。これは食事において、「摂取エネルギーの90%を脂肪から、6%をタンパク質から摂取する」(極度の高脂肪・極度の低糖質な食事)というもの。元々は[[てんかん|癲癇]]を治療するための食事法であったが、「肥満や糖尿病に対しても有効な食事法になりうる」としてワイルダーは開発した。炭水化物とタンパク質の摂取は可能な限り抑え、大量の脂肪分を摂取することで、身体は脂肪を分解して作り出す「[[ケトン体]]」( keto )をエネルギー源にして生存できる体質となる。この食事法は『{{ill2|ケトジェニック・ダイエット|en|Ketogenic diet}}』として知られるようになる。 |
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=== ウィリアム・バンティング === |
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{{Seealso|ウィリアム・バンティング}} |
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「運動は減量に何の効果も無い」と明言している人物は何人もいる。ノールデンが「消費する以上のエネルギーを摂取するから太るのだ」と唱える遥か以前から、ウィリアム・ハーヴェイ( William Harvey, 1807~1876 )、[[ウィリアム・バンティング]]( William Banting, 1796~1878 )といった人物がカロリー理論に相当するやり方を実践していた。 |
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ウィリアム・バンティングは、ロンドン生まれの葬儀屋であった。バンティングは、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。その彼に炭水化物の摂取を制限する食事法を奨めたのは、医師であり友人でもあったウィリアム・ハーヴェイであった。ハーヴェイがこの食事法を学んだのは、[[フランス]]の医師、[[クロード・ベルナール]]が[[パリ]]で行った[[糖尿病]]についての講演を聴いたのがきっかけであった<ref name=Groves>{{Cite web | url = http://www.second-opinions.co.uk/banting.html | title = WILLIAM BANTING: The Father of the Low-Carbohydrate Diet | accessdate = 26 December 2007 |
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| last = Groves, PhD | first = Barry | year = 2002 | publisher = Second Opinions }}</ref><ref>{{cite EB1911 |
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| wstitle=Corpulence | volume=7 | pages=192–193 }</ref>。 |
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クロード・ベルナールの講演を聴く前までのハーヴェイは、「体重を減らすには、激しい身体活動に励めば良い」と考えており、バンティングに対してそうするよう伝えた。バンティングは「早朝に2時間、ボートを漕ぐ」ことにし、[[テムズ川]]でボートを漕ぎ続けた。彼の腕の筋力は強化されたが、それとともに猛烈な食欲が湧き、その食欲を満たさねばならなくなり、体重は減るどころかどんどん増えていった。ハーヴェイは友人に対し、「運動を止めなさい」と言った<ref name="Why we get fat"></ref>。「'''運動には体重を減らす効果は無い'''」と悟ったためである。ハーヴェイから炭水化物の摂取を制限する食事法を教わり、実践したバンティングは、最終的に50ポンド(約23㎏)の減量に成功している。[[1863年]]、バンティングは、減量に成功した食事法や、減量するにあたって試しては失敗を繰り返してきた方法をまとめた『''Letter on Corpulence, Addressed to the Public''』(『市民に宛てた、肥満についての書簡』)を出版した。 |
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バンティング自身、『''Letter on Corpulence, Addressed to the Public''』の中で、「減量に対して何の効果も無い方法」の1つに、「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。イングランドの医師、トマス・ホークス・タナー( [[:en:Thomas Hawkes Tanner]], 1824~1871 )も、 著書『''The Practice of Medicine''』の中で、「肥満を治療するにあたっての『ばかげた』治療法」の1つに、「食べる量を減らす」「毎日多くの時間を散歩と乗馬に費やす」を挙げ、「これらの方法をどんなに辛抱強く続けたところで、望む目的が達成されることはない」と断じている<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
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『''Letter on Corpulence''』はまもなくベストセラーとなり、複数の言語にも翻訳された。その後、「Do you bant?」(ダイエットするかい?)、「Are you banting?」(今、ダイエット中なの?)という言い回しが広まった。この言い回しは、バンティングが実践した食事法について言及しており、時にはダイエットそのものを指すこともある<ref name=Groves/>。のちにバンティングの名前から、「Bant」は「食事療法を行う、ダイエットをする」という意味の[[動詞]]として使われるようになり、[[スウェーデン語]]にもこの言葉が輸入されて使われるようになった<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
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[[南ローデシア]](現在の[[ジンバブエ]])出身の科学者[[:en:Tim Noakes|ティム・ノークス]]は、「低糖質・高脂肪ダイエット」と名付け、この食事法を普及させた<ref name="bizn_Scie">{{Cite web | title = Scientist lives as hunter-gatherer: Proves Tim Noakes' Banting diet REALLY improves health | author = | work = BizNews.com | date = 4 July 2017 | accessdate = 2018-06-05 | url = https://www.biznews.com/global-citizen/2017/07/04/tim-noakes-banting/ | language = | quote = }}</ref>。 |
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[[サイエンスライター|サイエンス・ジャーナリスト]]、[[ゲアリー・タウブス]]による著書『''Good Calories, Bad Calories''』([[2007年]])では、「''A brief history of Banting''」(「バンティングについての簡潔な物語」)と題した序章から始まり、バンティングについて論じている<ref name=Taubes2007>{{cite book|last=Taubes|first=Gary |title=Good Calories, Bad Calories: Challenging the Conventional Wisdom on Diet, Weight Control, and Disease|url=https://books.google.com/books?id=YjcFmAEACAAJ|year=2007|publisher=Knopf|isbn=978-1-4000-4078-0}}</ref>。炭水化物の摂取を制限する食事法についての議論の際には、しばしばバンティングの名前が挙がる<ref name="pmid15351198">{{Cite journal|vauthors=Astrup A, Meinert Larsen T, Harper A |title=Atkins and other low-carbohydrate diets: hoax or an effective tool for weight loss? |journal=Lancet |volume=364 |issue=9437 |pages=897–9 |year=2004 |pmid=15351198 |doi=10.1016/S0140-6736(04)16986-9 }}</ref><ref name="pmid16286782">{{Cite journal|author=Bliss M |title=Resurrections in Toronto: the emergence of insulin |journal=Horm. Res. |volume=64 Suppl 2 |issue= 2|pages=98–102 |year=2005 |pmid=16286782 |doi=10.1159/000087765 }}</ref><ref name="pmid15767625">{{Cite journal|author=Bray GA |title=Is there something special about low-carbohydrate diets? |journal=Ann. Intern. Med. |volume=142 |issue=6 |pages=469–70 |year=2005 |pmid=15767625 |doi= 10.7326/0003-4819-142-6-200503150-00013}}</ref><ref name="pmid17220180">{{Cite journal|vauthors=Focardi M, Dick GM, Picchi A, Zhang C, Chilian WM |title=Restoration of coronary endothelial function in obese Zucker rats by a low-carbohydrate diet |journal=Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. |volume=292 |issue=5 |pages=H2093–9 |year=2007 |pmid=17220180 |doi=10.1152/ajpheart.01202.2006 }}</ref><ref name="pmid15535891">{{Cite journal|vauthors=Arora S, McFarlane SI |title=Review on "Atkins Diabetes Revolution: The Groundbreaking Approach to Preventing and Controlling Type 2 Diabetes" by Mary C. Vernon and Jacqueline A. Eberstein |journal=Nutr Metab (Lond) |volume=1 |issue=1 |pages=14 |year=2004 |pmid=15535891 |doi=10.1186/1743-7075-1-14 |pmc=535347}}</ref>。なお、バンティングは、この食事法が広まった功績は、自分にではなく、「(この食事法を教えてくれた)ハーヴェイにある」と主張した。 |
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=== 「減食と運動は無意味」 === |
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1990年代初期、[[アメリカ国立衛生研究所]]は、「Women's Health Initiative」と題した、約10億ドルに及ぶ研究を行った。この中で、「低脂肪の食事で心臓病や癌を本当に予防できるか」という研究も同時に行われた。5万人近くの女性を登録し、2万人をランダムに選び、果物・野菜・[[全粒穀物]]・食物繊維が豊富なもの・脂肪が少ないもの・・・これらを優先的に食べるよう指示した。この食事を続ける意欲を保つため、女性たちは定期的にカウンセリングを受けた。毎日の食事の摂取カロリーは360kcal分減らし、少ない量を食べ続けた。また、参加した女性たちは「少なく食べるように」「脂肪が少ないものを食べるように」「運動するように」という指示も与えられ、減食と運動を忠実にこなし続けた。この生活を8年間続けた結果、女性たちは(実験開始前と比べて)1人あたり平均で約1kg体重が減ったが、その腰回りは膨らんだ<ref name="Why we get fat"></ref>。この事実が意味するところは、「彼女らの身体から減ったのは脂肪ではなく、筋肉である」ということである。また、研究者たちは「脂肪の少ない食事は、心疾患、癌、その他の病気を予防できなかった」とも報告している。彼女らが受けたカウンセリングおよび食事の意味として、意識的か無意識的かを問わず、「少なく食べるよう心掛けた」ことである<ref name="Why we get fat"></ref>。「消費カロリーが摂取カロリーを上回れば体重は減る」のが本当であるのなら、この試験に参加した女性たちが太った理由が説明できなくなる。脂肪は1kgにつき、約7000kcalのエネルギーに相当する。彼女らが、毎日の食事の摂取カロリーを360kcal減らしていたのなら、実験を開始して3週間で約1kgの脂肪が減っていたはずであり、1年続ければ約16㎏の脂肪が減る計算になる。試験開始の時点で、参加した女性たちの半数は肥満体であり、大多数は少なくとも過体重であった<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
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[[ハーバード大学]]の研究者ブルース・ビストリアン( Bruce Bistrian )は、「減食(食べる量を減らす)は、肥満に対する処置にも治療法にもならない。最も目立つ症状を一時的に緩和する方法でしかない。もしも減食が肥満に対する処置にも治療にもならないとするなら、これは『過食は肥満の原因ではない』ことを示す」と述べている<ref name="Why we get fat"></ref>。「過食が肥満の原因である」という考えに疑問を投げかけるあらゆる理由の中で最も明確なものは、「肥満は、食べる量を減らしても治せない」という事実である。 |
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[[1977年]]、アメリカ合衆国において、運動熱の高まりが強まっていたころ、アメリカ国立衛生研究所は、肥満および体重制御についての2度目の会議を主催した。この会議に集まった専門家たちは、「体重を制御するという点において、運動の重要性は、想像している以上に低い。ヒトは運動量を増やせば、同時に食べる量も増えがちになり、運動による消費エネルギーの増加が食べる量の増加に勝るのかどうか、それを予測するのは不可能である」という結論に達した<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
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[[カリフォルニア州]]ローレンスバークレー国立研究所の統計学者、ポール・ウィリアムズ( Paul Williams )と、スタンフォード大学の研究者ピーター・ウッド( Peter Wood )は、普段からよく走る習慣のある13000人を集め、これらのランナーたちの1週間の累計走行距離と、年ごとの体重の変化を比較する研究を行った。ピーター・ウッドは、運動が健康にどのような影響を及ぼすのかについて、1970年代から研究を行っていた人物でもある。この13000人のランナーについての研究では、最もたくさん走った人ほど最も体重が少ない傾向こそあったが、これらのランナー全員、「'''年を重ねるごとに体重が増えていく'''」傾向にあった<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
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[[2007年]]、ハーバード大学医学部長ジェフリー・フライアー( Jeffrey Flier )とその妻テリー・マラトス・フライアー( Terry Maratos-Flier )は、雑誌『''Scientific American''』に論文を寄稿し、その中で「ヒトの食欲とエネルギーの消費について、この2つは人間が意識的に変えられるような代物ではない」「この2つの要素のバランスの補正と結果が脂肪組織の増減につながるなどという、そんな単純な変数ではない」と述べている<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
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2007年8月、アメリカ心臓病協会とアメリカスポーツ医学会は、身体活動と健康に関するガイドラインを共同で発表した。この団体の専門家たちは、週に5日、1日に30分程度の精力的な運動が「健康を保ち、促進するために必要である」と述べた。しかし、「肥満になることや痩せたままでいることに対して、運動がどのような影響を与えるのか」という質問になると、彼らは以下のようにしか答えられなかった。 |
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「1日あたりのエネルギー消費の多い人は、それが少ない人に比べて、時間とともに体重が増える可能性が低い、と仮定することは理にかなっている。これまでのところ、この仮説を支持する証拠となるものについては、『説得力がある』とは呼べない」<ref name="Why we get fat"></ref> |
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[[ゲアリー・タウブス]]は、「''We don't get fat because we overeat; we overeat because we're getting fat.''」(「ヒトは過食するから太るのではなく、身体が今まさに太りつつあるから過食に走るのである」)と明言している<ref name="Why we get fat"></ref>。また、「肥満は、エネルギーバランス、カロリー理論、過食、熱力学、物理法則とは、何の関係も無い」「過食や運動不足は肥満の原因ではなく、あくまで『結果』でしかない」「『肥満』とは『栄養過剰』ではなく、『[[栄養失調]]』の一種である」と断じている<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
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== 過食実験 == |
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[[2013年]]、イングランド人のサム・フェルサム( Sam Feltham )は、1日に5000kcalを超えるエネルギーを摂取する過食実験を自らの身体で実施した。最初の21日間で栄養素の構成比を「脂肪53%(461.42g)、タンパク質37%(333.2g)、炭水化物10%(85.2g)」に設定し、1日に「5794kcal」のエネルギーを摂取する生活を21日間続けた。21日後、フェルサムの体重は1.3kg増加したが、腰回りは3cm縮んだ。フェルサムの身体からは脂肪が減り、除脂肪体重が増加し、身体は引き締まった。 |
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次に、フェルサムは摂取エネルギーの構成比を「炭水化物64%(892.7g)、タンパク質22%(188.65g)、脂肪14%(140.8g)」に変え、1日の摂取エネルギーを「5793kcal」に調節し、再び21日間過ごした。21日後、フェルサムの体重は7.1kg増加し、腰回りは9.25cm膨らんだ<ref>{{Cite web |author= |date= |url=https://idmprogram.com/smash-the-fat-calories-part-xi/ |title=Smash the Fat – Calories Part XI |website= |publisher= |accessdate=2019-09-29}}</ref><ref>{{Cite web |author= |date= |url=https://www.huffingtonpost.co.uk/sam-feltham/my-5000-calorie-experiment_b_3350869.html?guccounter=1&guce_referrer=aHR0cHM6Ly93d3cuZ29vZ2xlLmNvbS8&guce_referrer_sig=AQAAAEMi_QZIU7ew23VdwFOV2e4vfYL52B3uJbWjI-sDFrnSzempe_jGebfJzJ7t7TmAHn3NOR2rJjAt9fG9AjGzXRxr6TLVAXpub1ULl_d63yjQD0ibanURkWfZvpzQRyphhvPL0cNjt_VGCVHaGSlLFJOUo76HrxSmegF42kKm4LiM |title=Halfway Through My 21 Day 5,000 Calorie Experiment |website= |publisher= |accessdate=2019-09-29}}</ref><ref>{{youtube|id=9Hy737EuL-o|title=Round Up of The 21 Day 5,000 Calorie Challenge}}</ref>。 |
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== 脚注 == |
== 脚注 == |
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* [[肥満細胞]] - 膨れた様が肥満を想起させることからこの名が付けられた。 |
* [[肥満細胞]] - 膨れた様が肥満を想起させることからこの名が付けられた。 |
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* [[大腿骨頭すべり症]] - 大腿骨頭すべり症の患者には、肥満の者が多いことが知られている。 |
* [[大腿骨頭すべり症]] - 大腿骨頭すべり症の患者には、肥満の者が多いことが知られている。 |
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* [[脂肪 |
* [[脂肪細胞]] |
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* [[体脂肪率]] |
* [[体脂肪率]] |
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* [[標準体重]] |
* [[標準体重]] |
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* [[メタボリックシンドローム]] |
* [[メタボリックシンドローム]] |
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* [[変形性膝関節症]] |
* [[変形性膝関節症]] |
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* [[デブ]] |
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* [[脂肪吸引]] |
* [[脂肪吸引]] |
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* [[ダイエット]] |
* [[ダイエット]] |
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* [[デブ]] |
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* [[痩せすぎ]] |
* [[痩せすぎ]] |
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2019年10月4日 (金) 02:00時点における版
肥満 | |
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概要 | |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | E66 |
ICD-9-CM | 278 |
OMIM | 601665 |
DiseasesDB | 9099 |
MedlinePlus | 007297 |
eMedicine | med/1653 |
肥満(ひまん、英語: obesity, corpulence)とは、一般的に、正常な状態に比べて体重が多い状況、あるいは体脂肪が過剰に蓄積した状況を言う。体重や体脂肪の増加に伴った症状の有無は問わない。体質性のものと症候性のものに分類できるが、後者を特に肥満症と呼ぶこともある。対義語は、羸痩(るいそう)である。主にヒトを含めた哺乳類で使われることが多い。以下ではヒトにおける肥満について論じる。ヒト以外の肥満については、ペットの肥満などを参照のこと。中年太り(ちゅうねんぶとり)は肥満の1種である。
肥満の診断
肥満は概念的には明確なアイディアであり、概ね標準体重より 20 % 以上体重が超過した辺りからを肥満と呼ぶ。
体重による肥満の診断
現在、成人は体重による肥満診断として、BMI が頻繁に用いられている。BMIの数値が一定以上だと肥満と判定される。
その基準は様々な組織や団体が設けているが、主な基準は以下の通りである。
状態 | 指標 | |
---|---|---|
痩せすぎ | 16.00未満 | |
痩せ | 16.00以上、16.99以下 | |
痩せぎみ | 17.00以上、18.49以下 | |
普通体重 | 18.50以上、24.99以下 | |
前肥満 | 25.00以上、29.99以下 | |
肥満(1度) | 30.00以上、34.99以下 | |
肥満(2度) | 35.00以上、39.99以下 | |
肥満(3度) | 40.00以上 |
状態 | 指標 |
---|---|
低体重(痩せ型) | 18.5未満 |
普通体重 | 18.5以上、25未満 |
肥満(1度) | 25以上、30未満 |
肥満(2度) | 30以上、35未満 |
肥満(3度) | 35以上、40未満 |
肥満(4度) | 40以上 |
乳幼児では BMI はカウプ指数と呼ばれ、18.0 以上が肥満傾向とされる。学童では、ローレル指数 (= 10 × kg/m3) が 160以上で「肥満」と見なされる。これらは身長と体重から単純に計算された値であるから(成人の正常体重では BMI = 22)、大体の目安にはなるが、これだけでは筋肉質なのか脂肪過多なのか、皮下脂肪型肥満なのか内臓型肥満なのか、一切分からないという批判を受ける。BMIは標準体型の人には当てはまるが、骨太の人、足長な人、骨細の人、筋肉の多い人等には間違った判定が出る欠点がある。このため、肥満と診断する際は下のような定義と併用することがある。
体脂肪率による肥満の診断
適正な体脂肪率は、男性では 15~19%、女性では 20~25%とされ、これを上回ると「肥満」と見なされる。正確な測定には困難を伴うため、その値の扱いをめぐって一定の見解は得られていない。筋肉質なのか脂肪過多なのかどうかを判断するには精密な機械を用いる必要があり、その際にはCTやMRIで体脂肪面積を測定し、体脂肪率を推定するのが最も正確と言われる。
その他の肥満
腹部肥満(中心性肥満)
腹囲によって診断するが、その診断基準は統一されてはいない。2007年6月、アメリカ糖尿病学会、アメリカ栄養学会、北米肥満学会は共同声明を発表し、「現時点では、腹囲の基準値はすべて、科学的根拠が不十分であり、今後確立される科学的基準値は人種別、性別、年齢別、肥満度別の非常に複雑なものになるであろう」と指摘した。後述する症候性肥満の中には、中心性肥満などの特異な肥満像を呈するものがある。通常は内科医師が発見・診断する。
脂肪細胞との関わり
脂肪細胞の肥大化
脂肪細胞は、細胞質内に脂肪滴を有する細胞のことである。前駆脂肪細胞が、脂肪細胞への脂肪酸輸送を促進する転写因子であるPPARγ等の因子によって刺激されて成熟脂肪細胞(正常脂肪細胞)となる。カイロミクロンやVLDLの中性脂肪をリポタンパクリパーゼによって分解し、脂肪酸を脂肪細胞へ運ぶことによって脂肪細胞が成熟する。また、グルコースが脂肪細胞へ取り込まれると脂肪酸が合成される。通常の脂肪細胞は、インスリン受容体を介さずにグルコースの取り込みを促進し、さらに、インスリン受容体の感受性を良くするアディポネクチンを分泌する。高カロリー摂取や運動不足などによって脂肪細胞は次第に肥大化していき、肥大化脂肪細胞となる。脂肪細胞の大きさが上限に達し、これ以上脂肪を溜め込めない状態になると、周囲の前駆脂肪細胞がPPARγなどによって刺激されて成熟脂肪細胞となり順次肥大化していく。また、脂肪細胞も細胞分裂し、脂肪細胞の数も増加する。この巨視的な状態が肥満である。
白色脂肪細胞はヒトにおいて250-300億個あり、直径は成熟脂肪細胞において70-90μmであり、肥大化脂肪細胞は130-140μmまで大きくなる[3]。
脂肪細胞が存在する動物は、無限大に太っていく。ヒトもまた例外ではない。
肥大化脂肪細胞の分泌
脂肪細胞が肥大化すると、インスリン抵抗性( Insulin Resistance )を惹起する種々の物質(TNFα、脂肪酸、レジスチン)、肥満中枢を刺激して食欲を抑制するレプチン、インスリン受容体の感受性を良くするアディポネクチンの分泌低下、血液凝固を促進する物質(en:plasminogen activator を阻害して血液凝固の溶解を阻害する物質)、単球やリンパ球の遊走を引き起こす単球走化性タンパク質(monocyte chemoattractant protein)、昇圧作用を持つ生理活性物質アンジオテンシンIIの原料となるアンジオテンシノーゲンなどが分泌される[3]。
高血糖と脂肪細胞
炭水化物を摂取することで血糖値が上昇すると、膵臓からホルモンの一種であるインスリンが分泌される。血中のブドウ糖濃度が高い(高血糖)状態は身体にとっては毒でしかないため、血中に溢れたブドウ糖をかき集めて筋肉や肝臓内のグリコーゲン(ブドウ糖の貯蔵庫)に蓄える。その後、時間が経過するとともに、安静にしていても、運動する際のエネルギー源としてもグリコーゲンは消費されていく。グリコーゲンにも貯蔵しきれないぐらいに血中のブドウ糖濃度が上昇すると、インスリンはそれを全部中性脂肪に合成して脂肪細胞内部に閉じ込める。それに伴い、血糖値が低下するが、インスリンの分泌量が多すぎると、急に空腹を感じたり、急激な眠気が襲ってくる。インスリンは全身の脂肪細胞に強く作用し、摂取した炭水化物を中性脂肪に合成して脂肪細胞内に閉じ込め、脂肪細胞は肥大していく。脂肪細胞は、肥大するにつれて「サイトカイン」( cytokine, 「炎症性分子」)を放出するようになり、これは全身に有害な影響をもたらす。
高血圧との関係
脂肪細胞が肥大化すると、次のことが起こる。
- 交感神経活動の亢進
- :過剰に分泌されたレプチンが交感神経の活動を亢進させ、血管を収縮させること等により、血圧を上昇させる[4]。
- レニン-アンジオテンシン系の活性化
- :アンジオテンシノーゲンは肝臓で産生されるが、肥大化脂肪細胞からも産生、分泌される。アンジオテンシノーゲンから生成されたアンジオテンシンⅡは、副腎皮質球状帯に作用してナトリウムの再吸収を促進するアルドステロンの分泌を促進し体内に水分を貯留する[5]。また、脳下垂体に作用し利尿を抑えるホルモンである抗利尿ホルモンであるバソプレッシン(ADH)の分泌を促進し同じく体内に水分を貯留する[6]。これらのことにより高血圧を招く。肥満患者において高血圧症が多いのはこのためである[3]。
また、肥満細胞の肥大化(=肥満)によるインスリン抵抗性の発現は高インスリン血症の原因となる。高インスリン血症は、腎尿細管へ直接作用してナトリウム貯留を引き起こす。水分の貯留により血圧が上昇する[7][8]。
炭水化物の摂取を制限する食事を続けることで、血糖値と血中のインスリン濃度が低い状態が続くと、体内で変化が起こる。血糖値とインスリン濃度が高い状態になると、インスリンは腎臓に対して「ナトリウムを再吸収せよ」という信号を送り、腎臓はその指令のとおりに動く。インスリンは尿酸の分泌を阻害し、それに伴って身体は水分を保持しようとし、血圧は上昇する(→高血圧)。時間の経過に伴い、血中のインスリンの濃度が低下すると、腎臓は貯蔵していたナトリウムを、体内に溜まった余計な水分と一緒に体外に排出する。これは人体にとって有益な現象であり、炭水化物の摂取を制限するだけで血圧は簡単に低下する。体重が200ポンド(約91kg)あり、炭水化物を常食している人がその摂取制限を開始すると、身体から減少する余計な水分量は、最大で6ポンド(約2.8kg)以上に達する可能性があるとされる[9]。
インスリン抵抗性との関係
脂肪細胞が肥大化すると、特に内臓に存在する脂肪細胞から遊離脂肪酸が遊離される。この脂肪酸の一部が骨格筋や肝細胞に運ばれ、骨格筋内へ運ばれた脂肪酸はタンパク質分子をリン酸化する酵素であるプロテインキナーゼCを活性化し、更にNF-κBに関連したIκBαのセリン残基をリン酸化する酵素複合体であるIκB kinase (IKK)が活性化されて、インスリン受容体基質であるIRS1タンパクのセリン残基をリン酸化する。この経路によってIRS1タンパクがリン酸化されると、正常なリン酸化過程が阻害され、結果的にIRS1以降のシグナルが伝達されず、インスリン依存のグルコーストランスポーターであるGLUT4を膜に移送できなくなる。GLUT4が機能しにくくなると、インスリンによりグルコースが細胞に取り込まれにくくなる。この状態がインスリン抵抗性となる[3]。
もう1つのメカニズムとして、脂肪細胞から単球走化性タンパク質であるMCP-1が遊離され、MCP-1は単球を引き寄せ、細胞外に出た単球は活性化されてマクロファージとなる。このマクロファージは脂肪細胞の周囲に集積し、ここから腫瘍壊死因子として知られるTNFαを分泌する。TNFαが受容体に結合するとセリン・スレオニンキナーゼであるJNK(c-Jun amino-terminal kinase)がインスリン受容体基質であるIRS1タンパクのセリン残基をリン酸化する。この経路でも上記メカニズムと同様にインスリン抵抗性となる。また、TNFαは、GLUT4の発現を抑制する作用もある。TNFαのこれらの作用は著明なインスリン抵抗性を示す[3]。
さらに加えて、脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンは、TNFαや遊離脂肪酸と異なり、インスリン受容体の感受性を上げるが、脂肪細胞の肥大化によりアディポネクチンの分泌が低下し、結果としてインスリン抵抗性を示す[3]。
メタボリック症候群
炭水化物を食べ続けることで慢性的な高血糖が常態化すると、身体はさらにインスリンの分泌量を増やそうとする。インスリンの分泌量が異常に増える状態が続くことで高インスリン血症となり、身体にますます脂肪が蓄積して悪循環に陥る。炭水化物の摂取を増やせば増やすほど、血糖値の乱高下を惹き起こし、細胞は燃料不足に陥り、それに伴って空腹を感じて食欲が増し、とくに炭水化物を多く含む食べ物に対する渇望感が強まる。インスリンは体内で暴走し、炭水化物や砂糖が多いものを見境いなく欲しがる状態になる。血中のインスリン濃度が高い状態が続くことで、身体はインスリン抵抗性を発症し、糖尿病を患うリスクが急上昇する。インスリンの大量分泌が常態化し、膵臓が疲弊すると、インスリンの分泌が機能不全に陥り、血糖値の微調整も不可能になり、糖尿病を発症する。この状態でインスリンの注射を怠ると、命の危険に直結する。いわゆるメタボリック症候群は、このインスリン抵抗性がより重篤になった状態でもある。
死亡率
国立がん研究センターが男性16万人を平均11年間追跡した調査によれば、全死因でもっとも死亡率が少なかったのは、BMI値が25~26.9とされたグループであったという。このグループは「肥満」に該当する[11]。
アメリカ疾病管理予防センターが様々な人種の約288万人を対象に行った研究結果によれば、「BMI値が『18.5~25未満の標準体重グループ』と『25~30未満の過体重グループ』では、過体重グループの方が死亡リスクが6%も低い」という[12]。
罹患リスクの増大
肥満は生活習慣病[13] をはじめとして、数多くの疾患の危険因子 (risk factor)となる。先進諸国では病気の主要原因が肥満によるものとなっている。
肥満と糖尿病は密接に関係している。40-59歳の男性で、糖尿病が強く疑われる人の割合は、BMI18.5-22で5.9%、BMI22-25で7.7%、BMI25-30で14.5%、BMI30以上で28.6%であった。なお、加齢を重ねていない20-39歳の男性ではこのような大きな差は出ていなかった[14]。1971年から1980年のデータで糖尿病患者と日本人一般の平均寿命を比べると男性で約10年、女性では約15年の寿命の短縮が認められた[15][16]。このメカニズムとして、高血糖が生体のタンパク質を非酵素的に糖化させ、タンパク質本来の機能を損うことによって障害が発生する。この糖化による影響は、血管の主要構成成分であるコラーゲンや水晶体蛋白クリスタリンなど寿命の長いタンパク質ほど大きな影響を受ける。白内障は老化によって引き起こされるが、高血糖状態が続くことでより高度に進行する[15]。同様のメカニズムにより、動脈硬化や微小血管障害も進行する。また、糖化反応により生じたフリーラジカル等により酸化ストレスも増大させる[17]。
シンシナティ子供病院で行われた研究では、「肥満の女の子は思春期初来が早く、胸が大きくなり始める(乳房の発達が始まる)のが早い」という。これは男の子でも同様であり、「肥満の男児は第二次性徴が早く発現する」[18]。
脂肪沈着は、一般に、皮下脂肪から内臓脂肪へ、更に、脂肪以外の臓器(異所性脂肪)へと進行し、それに伴って以下の合併症の頻度は大きくなる。
- 肝臓癌 - 男性肥満者においては多くの癌で死亡リスクが増大するが、最も相対危険度が高いのは肝臓癌であった。[19] 以下下記の膵臓癌、胃癌、食道癌、直腸結腸癌と続く。
- 膵臓癌 [19]
- 胃癌 [19]
- 食道癌
- 直腸結腸癌(=大腸癌)
- 高脂血症
- 高血圧
- 動脈硬化
- 糖尿病
- 体重負担による、変形性関節症
- 肥満による睡眠時無呼吸症候群
- 内臓器能力低下による体臭の悪化。
- 性腺機能障害によるインポテンツ(女性の場合は無月経)や陰毛がわずかにしか生えなくなったり、あるいは全く生えなくなる無毛症になりやすい。
- アルツハイマー型認知症
- 前立腺癌 - 男性の肥満者に多い。夜間頻尿を伴ったり、尿が出にくくなったり、残尿感が多くなってしまう排尿障害になりやすい。最悪な場合は先にリンパ節や骨などに転移が見つかったまま、末期がんの状態に陥り、死亡するケースが多い。(女性の場合の乳癌や子宮癌や卵巣癌や膣癌なども同じ)
- 下肢静脈瘤[24]
皮下脂肪型肥満からなりやすい病気
関連の強さ | リスクを下げるもの(部位) | リスクを上げるもの(部位) |
---|---|---|
確実 | 身体活動(結腸) | 過体重と肥満(食道<腺がん>、結腸、直腸、乳房<閉経後>、子宮体部、腎臓)、(略) |
可能性大 | 身体活動(乳房)、(略) | (略) |
分類
単純性肥満
単純性肥満は、エネルギーの摂取過剰や消費不足が原因であるという。小児では両親の一方、もしくは両方供に肥満であることが多く、身長が暦年齢相当で、精神運動発達は正常、奇形は見られず、食生活が影響する。
症候性肥満
代謝異常や内分泌疾患の一部でも肥満を来たす。これらを症候性肥満(二次性肥満)と言う。症候性肥満の例として、以下のようなものがある。
- ナルコレプシーによる代謝異常が原因となることがある[27][28]。
- 視床下部性肥満 : プラダー・ウィリー症候群 - フレーリッヒ症候群 - ローレンス・ムーン・ビードル症候群
- クッシング症候群では副腎皮質ステロイドの過剰による症状として、中心性肥満を呈する。
- 甲状腺機能低下症では甲状腺機能の低下によって脂肪分解が阻害され肥満となる。
- カルシウム代謝に関連するホルモンであるPTHに対する細胞の反応異常を示す偽性副甲状腺機能低下症のIa、Ic型や偽性偽性副甲状腺機能低下症では、オルブライト遺伝性骨異栄養症(肥満、低身長、円形顔貌、中手骨・中足骨の短縮など)を特徴とする肥満を示す。
- 多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS) の女性は、男性化(多毛、にきび、低声音など)と肥満を示す。
- 薬物性肥満は薬物の副作用としての肥満のことであり、副腎皮質ステロイド薬などで見られるものがある。
皮下脂肪型肥満
女性になりやすい肥満で臀部や腰周りや二の腕に付く肥満であり生活習慣病にはなりにくいが、乳癌、子宮癌、卵巣癌、関節痛、月経異常、貧血、あるいはホルモン低下によって乳房が膨らまなくなる乳房発育不全や、陰毛がわずかにしか生えないあるいは生えなくなる無毛症など、性腺発育不全などの生活習慣病と関係ない病気になりやすいと言われている。
また、皮下脂肪が付きすぎると胸を圧迫して呼吸器の障害を起こしたり、または、循環器障害や消化器障害や女性器障害などの内臓に影響を及ぼしたりする。さらに皮下脂肪が付きすぎて膀胱を圧迫すると排尿障害などを起こしたり、または、夜間頻尿が原因となって、2型糖尿病による神経因性膀胱や膀胱癌や気腫性膀胱炎や気腫性腎盂腎炎や慢性腎臓病などの疾患にかかりやすくなる。稀に便秘や下痢や血便や強烈な腹痛や貧血などを伴う大腸癌(直腸癌など)を起こし、最悪な場合、腸閉塞を伴ったり、先に肝臓や肺や脳や骨やリンパなどに転移が見つかったり、肝臓に転移が出ると腹水や漿膜などに障害を起こして腹膜炎になったり、あるいは膀胱に浸潤して排尿困難を起こし末期がんの状態に陥って死亡することもある。(乳癌や子宮癌や卵巣癌や膀胱癌や膣癌や腎臓がんや膵臓がんや急性骨髄性白血病や原発性肝癌なども同じ)皮下脂肪型肥満の場合はなかなか痩せにくい体型となってしまうことが原因で、意志が弱くて怠惰な性格の場合、割合すぐ感情的になり、パニックや癇癪を起こして、声を荒らげたりする、皮下脂肪型肥満のタイプの患者の場合、稀に高血圧の原因になったり、若年性アルツハイマー症候群や皮下脂肪型肥満では肝硬変の原因となり、合併症の肝性脳症になったり、末期の大腸がん及び乳癌及び子宮癌の場合は脳転移になったりする場合もあり、最悪な場合は死に至る。健康診断や思春期以降の女子中学生及び女子高校生の健康診断(※両方とも1年生が対象)で行われる心電図検査の受診では、受診結果で散発性上室性及び散発性心室性期外収縮や洞性徐脈による、不整脈と診断されたり、また、低電位差では、四肢低電位や左軸偏移などと診断される場合があり、心膜炎などの疾患を起こしやすくなる。小学生〜高校生の女子の皮下脂肪型肥満の患者の場合、稀に脳腫瘍や急性骨髄性白血病や神経芽細胞腫や悪性リンパ腫などの小児がんにかかりやすくなる。また、子宮筋腫にもかかりやすくなる。子宮筋腫となった場合は、筋腫が圧迫し、大きくなるまで気が付かない場合あり。場合によっては、MRI検査をとった結果で、悪性の子宮肉腫と判別するためのグレーゾーンとなり、医師からは、20代から30代半ばでの若い女性でも、開腹による、子宮全摘手術を勧められ、術後の病理検査次第で、悪性の子宮肉腫になる可能性が高い。
二次性肥満
何らかの疾病が原因となる肥満は、二次性肥満と呼ばれる。
食習慣
世界保健機関 ( WHO ) が2003年に発表した報告では、肥満を増加させる要因として、高カロリー食品、動物性脂肪などに多い飽和脂肪酸、ファーストフード、砂糖の添加されたジュースの過剰摂取が挙げられ[30]、反対に肥満を低下させる要因に食物繊維の多い食事や野菜や果物がある[31]。2011年の報告では、脂肪からのエネルギー摂取量や砂糖の摂取量を制限することや、野菜と果物だけでなく、全粒穀物や豆類、ナッツの摂取量を増やすことが推奨される[32]。高脂肪の食べものを摂取すると脳内に快楽物質であるドーパミンが放出されることが動物実験で確認されている[33]が、これは砂糖を摂取した時にも同じ現象が起こる。
2014年、世界保健機関は肥満と口腔の健康に関するシステマティック・レビューを元に[34]、砂糖の摂取量をこれまでの1日あたり10%以下を目標とすることに加え、5%以下ではさらなる利点があるという砂糖のガイドラインのドラフトを公開した[35]。砂糖では、2000キロカロリーの10%は50グラム、5%は25グラムである。
野生の肉食動物や、狩猟採集生活を送っている集団は、肥満になることはない。脂肪細胞から分泌されるホルモン、レプチン( Leptin )の存在がある。レプチンが脳の視床下部に到達すると、脳は身体に食べるのを止めるよう信号を送る。レプチンは「過食を防いでくれるホルモン」とされている。肥満体の場合、レプチンが正常に機能していない状態にある。この時、体内ではホルモン異常が惹き起こされている可能性が高い。また、肥満体の親と同じものを食べている子供の場合、親と同じように肥満体になる可能性が高くなる。
砂糖と肥満
砂糖を摂取すると、高確率で肥満になる。砂糖は体内に入ると、血糖値の急上昇および高血糖の長時間の持続、インスリンの大量分泌、インスリン抵抗性、これらを同時に惹き起こす。果糖を投与された動物は、体重の制御ができなくなるだけでなく、摂食行動が止まらなくなり、体重が増えて体も動かさなくなることが動物実験で示された[36]。果糖は、インスリンやレプチン抵抗性を引き起こし易く、糖尿病合併症や内臓肥満を招く要因である[37]。
座りがちな生活
座りがちな生活は、肥満と密接な要因があり[38]、肉体労働の減少は世界的にも進んでいるという[39][40][41]、世界人口の少なくとも30%が運動不足の状態にあるとされる[40]。 これは主に、社会における交通手段の機械化や、家庭における省力化の進行によるものとされている[39][40][41]。子供らも徒歩や体育授業が少なくなってきた事により、身体運動能力レベルが不足してきている[42]。世界的にも、レジャーとして体を動かす機会が減っている。WHOは、世界の人々が余暇レクレーションに活発ではなくなっていると指摘しているが、フィンランドで行われた研究では増加しているとされ[43]、アメリカ合衆国での研究では、「レジャー活動における運動時間の明確な変化は見られない」[44] としている。
子供と大人の両方において、テレビの視聴時間と肥満リスクには関連性があるという[45][46][47]。73の研究のうち63にて(86%)、メディアに接する機会が増えるほど子供の肥満が増加するとされ、テレビの視聴時間の割合が増えるほど肥満は増加すると示されている[48]。
テレビを見て過ごすことは、体重増加、過体重、肥満の危険因子として指摘されている[49]。
なお、肥満対策として、しばしば「食べる量を減らして運動する」と言われるが、これには「何の効果も無い」と主張する者もいる(後述)。
遺伝説
「なぜ太るのか」について、「過食よりも遺伝子が重要な役割を果たしている」と唱える研究者もいる[50]。「体は一定の体重を保とうとする機能」がある。そして、ある人にとって望ましい体重は遺伝子によって決定づけられる。したがって、その人が太っていてもそれは「本人にとっては正常な状態となっている」という[50]。また、遺伝的要因については、レプチンが発見され、このホルモンがエネルギーの消費増加と食物摂取量低下をもたらす[51]という説が発表された。その後、肥満に関係した多くのホルモン様物質が発見されており、脂肪組織は、単なるエネルギー貯蔵庫ではなく、内分泌器官と考えられる[52]ようになってきており、それらホルモン様物質の多くは炎症に関係している。
睡眠不足の影響
- 睡眠時間の短さと肥満との相関関係を指摘する数多くの報告がある(日本大学、兼板佳孝)[53][54]。
- シカゴ大学内分泌学部門のイヴ・ヴァン・コーター博士によると、睡眠不足が肥満に結びつくメカニズムは以下の通り。睡眠不足は飢餓信号を送るホルモン、グレリンの分泌を増加させ、レプチンの分泌量が減る。睡眠科学の分野の研究者らは、この発見を踏まえて、小児を対象にした分析を立て続けに行なった。この研究を行っている研究者に共通した見解は「睡眠時間の短い子供はよく寝ている子供より太っている」[55]という。
睡眠時間が短過ぎたり、ストレスに常に晒されていると、「ストレス・ホルモン」であるコルチゾール( Cortisol )の分泌が増える。コルチゾールは、脂肪を蓄積させるホルモン、インスリンの分泌を誘発する。
腸内細菌
環境要因のひとつとして腸内細菌叢が肥満を引き起こしているとする研究がある[56][57]。
肥満の有無に、「アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)という腸内細菌が関わっている」との指摘がある。この細菌が少ない人ほどBMI値が高いという。痩せている人ではこの細菌が腸内細菌の4%を占め、太った人ではほとんどゼロである。この細菌は腸壁を覆う粘液層の表面に潜んでいる。この細菌が少ないと粘液層が薄くなりリポ多糖が血液中に入りやすいとされる。なお、リポ多糖は脂肪細胞の炎症を引き起こし新しい脂肪細胞の形成を妨げ、既存の細胞に脂肪の過剰な蓄積を起こす[58]。
原因
「消費カロリーよりも摂取カロリーのほうが多いから太る」と言われることが多いが、何らかの疾患が原因となっている二次性肥満もある[59]。1日の適正カロリーに対し 2% 過剰な食事を10年間続けると 25kg の体重増加につながる[60]とされる。
予防
世界保健機関 ( WHO ) は、肥満問題に対する戦略として以下を挙げている[61]。
治療
肥満の治療方法としては、食事療法と運動療法の2つであると言われる[62]。 短期的には減量できるが[63] が、減量した体重を維持するのはなかなか難しく、運動と減食を続けるように、と要求されることが多い[64][65]。生活習慣の改善を伴った長期的な減量成功率は、「2~20%」とされている[66]。食生活の改善は、妊娠期における体重増加を食い止め、母子共々の健康を改善する[67]。
食事療法
食事法の選択肢として、カロリー制限食、低脂肪食、アトキンス・ダイエット、炭水化物制限食、地中海食、古代食、ダッシュダイエット、Ornish食, Zone食が挙げられる[68]。低脂肪食と低炭水化物食・地中海食を比較した研究では、炭水化物制限食と地中海食は同等の減量効果がみられたという[69]。
手術
呼吸や歩行などに困難を来たすほどに高度となった肥満は「病的肥満」と呼ばれ、手術を要する場合もある[70]。
- 胃縮小術
- 開腹手術として、肥満に対する最初にして唯一の保険収載の外科手術治療。
- 腹腔鏡下スリーブ状胃切除手術(袖状胃切除術とも。Laparoscopic sleeve gastrectomy:LSG)
- 胃の大彎側を腹腔鏡下に切除する治療法。前述の胃縮小術と近いが開腹手術ではなく腹腔鏡下手術である。日本でもBMI>35において保険適応手術となっている。(K656-2 腹腔鏡下胃縮小術(スリーブ状切除によるもの、36,410点)
- 腹腔鏡下調節性胃バンディング手術(Laparoscopic adjustable gastric banding:LAGB)
- 胃の上部にバンドを巻いて調節ポートを皮下に埋め込む手術。調節ポートでバンドの収縮具合を調整する。保険は適応されない。
- 腹腔鏡下Roux-en-Y胃バイパス手術(Laparoscopic Roux-en-Y gastric banding:LRYGB)
- 小腸バイパス術(Jejunoileal bypass:JIB)や胆膵バイパス術(Biliopancreatic diversion:BPD)の応用として開発された。保険は適応されない。
- 内視鏡的胃内バルーン留置術(endoscopic intragastric balloon:IGB)
- 1982年にNieben OGとHarboe Hによって考案され、胃内に生理食塩水を注入したバルーンを留置(Bioenteric Intragastric Balloon:BIB®)する。バルーンが劣化を見せたら、6ヵ月ごとに交換する必要がある。これも保険は適応されない。
- AspireAssistシステム[71]
- 胃瘻を増設し、専用の減量装置を用いる。アメリカ食品医薬品局が2016年に承認した。食事から約20分後に、体外の装置を胃瘻ポートに取り付けられ、胃内内容物のおよそ30%が排出・廃棄される[72]。
薬物治療
- マジンドール(商品名サノレックス)
- リラグリチド(インクレチン・アナログ、治験中)[73]
- ゼニカル(脂肪吸収阻害剤 orlistat; 日本未発売)
- 防風通聖散(ボウフウツウショウサン) 漢方薬:麻黄、甘草、荊芥、連翹、ほか合計18種類の生薬より構成される[74]。耐糖能異常[75]を有する肥満者に有効[76]
- 大柴胡湯(ダイシサイコトウ) 漢方薬:柴胡、半夏、黄芩、芍薬、大棗、枳実、生姜、大黄より構成され、胃炎、常習便秘、高血圧や肥満に伴う肩こり・頭痛・便秘、神経症、肥満症に有効[77]
- 防已黄耆湯(ボウイオウギトウ) 漢方薬:黄耆、防已、蒼朮、大棗、甘草、生姜より構成され、肥満に伴う関節の腫れや痛み、むくみ、多汗症、肥満症に有効[78]
疫学
肥満は社会問題化している。世界的には、男性の24%と女性の27%が肥満であるという[80]。一般的に、アジア諸国に比べると欧米諸国では肥満の人々の割合が高い[81]。アメリカ合衆国においては、国民の30%以上が肥満であり、単純性肥満は肥満の約90パーセントを占める。
開発途上国と呼ばれる地域でも深刻な健康問題になりつつある。ブラジルにおける女性の肥満率は、1975年には24%だったのが、2003年には38%に、バングラデシュにおいては、1996年には3%から2007年には12%に、ケニアにおいて、1993年の15%から2003年には26%に上昇している[82]。世界的に肥満が増加している背景について、世界規模での安価な油脂類や動物性食品の普及によって、高脂肪、高カロリーの食生活への急速な変化が起きていることが主な原因と考える者もいる[82]。
この節の加筆が望まれています。 |
肥満の国際的状況
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国では、BMIが「30」以上で「肥満」と見なされている。2002年に取られたデータによれば、BMIが25以上の人は65.7%で、BMIが30以上の子供は16%以上に達するという。アメリカでは、ジャンクフードの販売について子供の健康や食の嗜好を守るために、自主規制する方向に向かっている。公的な医療保険制度が整っていないことも手伝い、経済上の理由による医療保険未加入者が約4700万人いると言われており、低所得者層ほど栄養価の高いものは食べられず、肥満や病気を患いやすくなっている。
アメリカ医学研究所 ( IOM ) は、「カロリーが高く、栄養価に乏しい食品のコマーシャルが子供の肥満に関わっている」としており、自主規制ないし政府の介入を求めた[83]。シカゴ大学は、「18歳未満をターゲットにした食べ物のコマーシャルに使われている商品の90%以上が栄養価に乏しいものばかりであり、食の嗜好に影響を与える」と報告した[84]。肥満対策のため、公立学校で糖分の多い飲料や脂肪を除去していない牛乳は販売されないように合意された[85]。マクドナルドやペプシコを初めとする企業が、12歳以下の子供にはジャンクフードの広告をやめることで合意した[86]。このような害悪により、肥満は現代において早急に撲滅しなければならない重大な社会問題と見なされている[87] 。
東欧
東西冷戦の終結後、マクドナルドを筆頭に、アメリカのファーストフード店が旧東側諸国にも進出している。2010年の時点で肥満児は急増している。ルーマニアの研究機関によれば、ルーマニア国民の4人に1人が肥満であり、子供の肥満の場合、冷戦時代の2倍以上の8%に達するという。肥満の一歩手前の「太り気味」も含めると、5人に1人が生活習慣病のリスクを抱えているという。また、所得の低い家庭ほど、ファストフードに頼る傾向があるとされる。同国では2010年1月に「ジャンクフード税」の導入を発表した。ブルガリアでは、政府の方針に基づき、全国の学校の食堂や売店からスナック菓子や清涼飲料水を撤去した[88]。
クウェート
ファストフードが人気であるという。2010年の時点で国民の74%が「太りすぎ」であるという。国民の14%は糖尿病を患っており、その数は増加しつつあるという。8歳の子供が糖尿病にかかる事例も起こっている。政府は健康的な食品の販売や運動の奨励などを行うことで対策に乗り出しているという[89]。
サウジアラビア
クウェート同様、ファストフード店が人気であるという。成人の肥満率は30%を超えている。肥満対策に向けて、女子体育が解禁されたという。
中国
ケンタッキーフライドチキンやピザハットを初めとしたファストフード店が、一日につき一店舗のペースで開店しているという。これは、アメリカのファストフード業界にとって、中国市場が極めて魅力的であることを示唆している。近い将来、中国は「ファストフード大国」になるだろうと見なされている[90]が、同時にこれは肥満や生活習慣病のリスクも伴うことを意味する。
2010年の時点での中国の肥満人口は3億2500万人であったが、2030年には倍増して6億5000万人に達する見通しだという[91]。
日本
日本の肥満率は先進国最小の低さであり、BMI指数は男女とも「普通体重」階級内に収まる[92]。男子のほうが肥満傾向にある[92]。健康増進法が制定されたことに伴い、肥満者には特定健診・特定保健指導が推進されている。
日本における肥満(BMI30以上)の頻度は3%とされている[93]が、成人や小児を問わず、肥満は増加しているという。10~12歳では、男子の10%、女子の8~9%が肥満であり、その9割以上が単純性肥満であるという。
太平洋の島嶼国家
18歳人口のうち肥満とされる人の比率を示す肥満率の国際比較では、南太平洋に点在する島嶼国家が上位を占める。世界保健機関の2014年時点集計では、トップのクック諸島は50%を超え、上位10カ国に入るパラオ、ナウル、サモア、トンガ、ニウエ、マーシャル諸島、キリバス、ツバルは40%台である。背景としては第二次世界大戦後、外国から流入したファストフードや肉を好む島民が増え、伝統的食品(パンノキの実やタロイモ、野菜、果物、魚)より摂取カロリーが増えたことが指摘されている[94]。
トンガのポヒバ首相は2018年8月、近隣島嶼国家の首脳に、1年間のダイエット競争を呼び掛けた[95]。
社会的影響
肥満は、食費だけではなく医療費の増加ももたらし、家計の負担につながる[96]。肥満はあらゆる病気の原因となり、治療費や健康対策費が余計にかかり、国家経済への影響も多大であり、肥満人口減少プログラムが組まれる機会が増えるとみなされている。2009年4月以降、アメリカの航空会社を使った場合、満席時には2席分の料金を請求される可能性がある。
肥満と減食・運動について
カール・フォン・ノールデンによるカロリー理論
「痩身や減量というのは、食事制限や運動をせずして成功しない」[97]と言われることが多い。「食べる量を減らして運動しろ」ということであるが、実際には、この言い分には何の根拠も無い。
「カロリー」を体重の増減に絡めて初めて提唱したのはドイツ人の内科医カール・フォン・ノールデン( de:Carl von Noorden )であり、彼が1907年に英語で発表した『Metabolism and Practical Medicine』(『代謝と実践医療』)の第3章『Obesity』(『肥満』)の中で、
「The ingestion of a quantity of food greater than that required by the body, leads to an accumulation of fat, and to obesity, the disproportion should be continued over a considerable period.」(「身体が必要としている以上の量の食べ物を摂取することが脂肪の蓄積をもたらし、その不均衡が長期に亘って続くと、肥満になるはずである」)
と記述している[98]。その後、このノールデンの主張は、体重を制御する方法やダイエットについて伝授する人間がほぼ必ずと言っていいほど口にするようになった。ノールデンによるこの著作物は、インターネットでも読むことが可能。
「ヒトは消費する以上に多くのカロリーを摂取するから太るのである」という考え方を概念や理論として広めた人物の元祖はノールデンということになる。
ラッセル・ワイルダー
肥満患者を治療する臨床医の多くは、1960年代までは、「運動すれば減量できる」「座りっぱなしの生活をしていると太る」「食べ過ぎるから太る」といった考え方を「幼稚」として退けていた。ミネソタ州ロチェスター市にあるメイヨー・クリニック( Mayo Clinic )の勤務医、ラッセル・ワイルダー( Russel wilder, 1885~1959 )もその1人である。1932年、肥満についての講演を行った際に、ワイルダーは以下のように述べている。
「肥満患者は、ベッドの上で安静にしていることで、より早く体重を減らせる。一方で、激しい身体活動は減量の速度を低下させる」「運動を続ければ続けるほどより多くの脂肪が消費されるはずであり、減量もそれに比例するはずだ、という患者の理屈は一見正しいように見えるが、体重計が何の進歩も示していないのを見て、患者は落胆する」[9]
ラッセル・ワイルダーのこの主張は、カール・フォン・ノールデンが唱えたカロリー理論を全否定するものである。ワイルダーはメイヨー・クリニックにて、主に糖尿病患者を担当していたが、糖尿病だけではなく、肥満の治療にも関心が高かった。1920年代前半、ワイルダーは『ケトン食』を開発し、肥満患者・糖尿病患者にこれを処方している。これは食事において、「摂取エネルギーの90%を脂肪から、6%をタンパク質から摂取する」(極度の高脂肪・極度の低糖質な食事)というもの。元々は癲癇を治療するための食事法であったが、「肥満や糖尿病に対しても有効な食事法になりうる」としてワイルダーは開発した。炭水化物とタンパク質の摂取は可能な限り抑え、大量の脂肪分を摂取することで、身体は脂肪を分解して作り出す「ケトン体」( keto )をエネルギー源にして生存できる体質となる。この食事法は『ケトジェニック・ダイエット』として知られるようになる。
ウィリアム・バンティング
「運動は減量に何の効果も無い」と明言している人物は何人もいる。ノールデンが「消費する以上のエネルギーを摂取するから太るのだ」と唱える遥か以前から、ウィリアム・ハーヴェイ( William Harvey, 1807~1876 )、ウィリアム・バンティング( William Banting, 1796~1878 )といった人物がカロリー理論に相当するやり方を実践していた。
ウィリアム・バンティングは、ロンドン生まれの葬儀屋であった。バンティングは、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。その彼に炭水化物の摂取を制限する食事法を奨めたのは、医師であり友人でもあったウィリアム・ハーヴェイであった。ハーヴェイがこの食事法を学んだのは、フランスの医師、クロード・ベルナールがパリで行った糖尿病についての講演を聴いたのがきっかけであった[99][100]。
クロード・ベルナールの講演を聴く前までのハーヴェイは、「体重を減らすには、激しい身体活動に励めば良い」と考えており、バンティングに対してそうするよう伝えた。バンティングは「早朝に2時間、ボートを漕ぐ」ことにし、テムズ川でボートを漕ぎ続けた。彼の腕の筋力は強化されたが、それとともに猛烈な食欲が湧き、その食欲を満たさねばならなくなり、体重は減るどころかどんどん増えていった。ハーヴェイは友人に対し、「運動を止めなさい」と言った[9]。「運動には体重を減らす効果は無い」と悟ったためである。ハーヴェイから炭水化物の摂取を制限する食事法を教わり、実践したバンティングは、最終的に50ポンド(約23㎏)の減量に成功している。1863年、バンティングは、減量に成功した食事法や、減量するにあたって試しては失敗を繰り返してきた方法をまとめた『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』(『市民に宛てた、肥満についての書簡』)を出版した。
バンティング自身、『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』の中で、「減量に対して何の効果も無い方法」の1つに、「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。イングランドの医師、トマス・ホークス・タナー( en:Thomas Hawkes Tanner, 1824~1871 )も、 著書『The Practice of Medicine』の中で、「肥満を治療するにあたっての『ばかげた』治療法」の1つに、「食べる量を減らす」「毎日多くの時間を散歩と乗馬に費やす」を挙げ、「これらの方法をどんなに辛抱強く続けたところで、望む目的が達成されることはない」と断じている[9]。
『Letter on Corpulence』はまもなくベストセラーとなり、複数の言語にも翻訳された。その後、「Do you bant?」(ダイエットするかい?)、「Are you banting?」(今、ダイエット中なの?)という言い回しが広まった。この言い回しは、バンティングが実践した食事法について言及しており、時にはダイエットそのものを指すこともある[99]。のちにバンティングの名前から、「Bant」は「食事療法を行う、ダイエットをする」という意味の動詞として使われるようになり、スウェーデン語にもこの言葉が輸入されて使われるようになった[9]。
南ローデシア(現在のジンバブエ)出身の科学者ティム・ノークスは、「低糖質・高脂肪ダイエット」と名付け、この食事法を普及させた[101]。
サイエンス・ジャーナリスト、ゲアリー・タウブスによる著書『Good Calories, Bad Calories』(2007年)では、「A brief history of Banting」(「バンティングについての簡潔な物語」)と題した序章から始まり、バンティングについて論じている[102]。炭水化物の摂取を制限する食事法についての議論の際には、しばしばバンティングの名前が挙がる[103][104][105][106][107]。なお、バンティングは、この食事法が広まった功績は、自分にではなく、「(この食事法を教えてくれた)ハーヴェイにある」と主張した。
「減食と運動は無意味」
1990年代初期、アメリカ国立衛生研究所は、「Women's Health Initiative」と題した、約10億ドルに及ぶ研究を行った。この中で、「低脂肪の食事で心臓病や癌を本当に予防できるか」という研究も同時に行われた。5万人近くの女性を登録し、2万人をランダムに選び、果物・野菜・全粒穀物・食物繊維が豊富なもの・脂肪が少ないもの・・・これらを優先的に食べるよう指示した。この食事を続ける意欲を保つため、女性たちは定期的にカウンセリングを受けた。毎日の食事の摂取カロリーは360kcal分減らし、少ない量を食べ続けた。また、参加した女性たちは「少なく食べるように」「脂肪が少ないものを食べるように」「運動するように」という指示も与えられ、減食と運動を忠実にこなし続けた。この生活を8年間続けた結果、女性たちは(実験開始前と比べて)1人あたり平均で約1kg体重が減ったが、その腰回りは膨らんだ[9]。この事実が意味するところは、「彼女らの身体から減ったのは脂肪ではなく、筋肉である」ということである。また、研究者たちは「脂肪の少ない食事は、心疾患、癌、その他の病気を予防できなかった」とも報告している。彼女らが受けたカウンセリングおよび食事の意味として、意識的か無意識的かを問わず、「少なく食べるよう心掛けた」ことである[9]。「消費カロリーが摂取カロリーを上回れば体重は減る」のが本当であるのなら、この試験に参加した女性たちが太った理由が説明できなくなる。脂肪は1kgにつき、約7000kcalのエネルギーに相当する。彼女らが、毎日の食事の摂取カロリーを360kcal減らしていたのなら、実験を開始して3週間で約1kgの脂肪が減っていたはずであり、1年続ければ約16㎏の脂肪が減る計算になる。試験開始の時点で、参加した女性たちの半数は肥満体であり、大多数は少なくとも過体重であった[9]。
ハーバード大学の研究者ブルース・ビストリアン( Bruce Bistrian )は、「減食(食べる量を減らす)は、肥満に対する処置にも治療法にもならない。最も目立つ症状を一時的に緩和する方法でしかない。もしも減食が肥満に対する処置にも治療にもならないとするなら、これは『過食は肥満の原因ではない』ことを示す」と述べている[9]。「過食が肥満の原因である」という考えに疑問を投げかけるあらゆる理由の中で最も明確なものは、「肥満は、食べる量を減らしても治せない」という事実である。
1977年、アメリカ合衆国において、運動熱の高まりが強まっていたころ、アメリカ国立衛生研究所は、肥満および体重制御についての2度目の会議を主催した。この会議に集まった専門家たちは、「体重を制御するという点において、運動の重要性は、想像している以上に低い。ヒトは運動量を増やせば、同時に食べる量も増えがちになり、運動による消費エネルギーの増加が食べる量の増加に勝るのかどうか、それを予測するのは不可能である」という結論に達した[9]。
カリフォルニア州ローレンスバークレー国立研究所の統計学者、ポール・ウィリアムズ( Paul Williams )と、スタンフォード大学の研究者ピーター・ウッド( Peter Wood )は、普段からよく走る習慣のある13000人を集め、これらのランナーたちの1週間の累計走行距離と、年ごとの体重の変化を比較する研究を行った。ピーター・ウッドは、運動が健康にどのような影響を及ぼすのかについて、1970年代から研究を行っていた人物でもある。この13000人のランナーについての研究では、最もたくさん走った人ほど最も体重が少ない傾向こそあったが、これらのランナー全員、「年を重ねるごとに体重が増えていく」傾向にあった[9]。
2007年、ハーバード大学医学部長ジェフリー・フライアー( Jeffrey Flier )とその妻テリー・マラトス・フライアー( Terry Maratos-Flier )は、雑誌『Scientific American』に論文を寄稿し、その中で「ヒトの食欲とエネルギーの消費について、この2つは人間が意識的に変えられるような代物ではない」「この2つの要素のバランスの補正と結果が脂肪組織の増減につながるなどという、そんな単純な変数ではない」と述べている[9]。
2007年8月、アメリカ心臓病協会とアメリカスポーツ医学会は、身体活動と健康に関するガイドラインを共同で発表した。この団体の専門家たちは、週に5日、1日に30分程度の精力的な運動が「健康を保ち、促進するために必要である」と述べた。しかし、「肥満になることや痩せたままでいることに対して、運動がどのような影響を与えるのか」という質問になると、彼らは以下のようにしか答えられなかった。
「1日あたりのエネルギー消費の多い人は、それが少ない人に比べて、時間とともに体重が増える可能性が低い、と仮定することは理にかなっている。これまでのところ、この仮説を支持する証拠となるものについては、『説得力がある』とは呼べない」[9]
ゲアリー・タウブスは、「We don't get fat because we overeat; we overeat because we're getting fat.」(「ヒトは過食するから太るのではなく、身体が今まさに太りつつあるから過食に走るのである」)と明言している[9]。また、「肥満は、エネルギーバランス、カロリー理論、過食、熱力学、物理法則とは、何の関係も無い」「過食や運動不足は肥満の原因ではなく、あくまで『結果』でしかない」「『肥満』とは『栄養過剰』ではなく、『栄養失調』の一種である」と断じている[9]。
過食実験
2013年、イングランド人のサム・フェルサム( Sam Feltham )は、1日に5000kcalを超えるエネルギーを摂取する過食実験を自らの身体で実施した。最初の21日間で栄養素の構成比を「脂肪53%(461.42g)、タンパク質37%(333.2g)、炭水化物10%(85.2g)」に設定し、1日に「5794kcal」のエネルギーを摂取する生活を21日間続けた。21日後、フェルサムの体重は1.3kg増加したが、腰回りは3cm縮んだ。フェルサムの身体からは脂肪が減り、除脂肪体重が増加し、身体は引き締まった。
次に、フェルサムは摂取エネルギーの構成比を「炭水化物64%(892.7g)、タンパク質22%(188.65g)、脂肪14%(140.8g)」に変え、1日の摂取エネルギーを「5793kcal」に調節し、再び21日間過ごした。21日後、フェルサムの体重は7.1kg増加し、腰回りは9.25cm膨らんだ[108][109][110]。
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- ^ Round Up of The 21 Day 5,000 Calorie Challenge - YouTube
関連項目
- 肥満細胞 - 膨れた様が肥満を想起させることからこの名が付けられた。
- 大腿骨頭すべり症 - 大腿骨頭すべり症の患者には、肥満の者が多いことが知られている。
- 脂肪細胞
- 体脂肪率
- 標準体重
- 生活習慣病
- メタボリックシンドローム
- 変形性膝関節症
- 脂肪吸引
- ダイエット
- デブ
- 痩せすぎ
外部リンク
- 肥満ホームページへようこそ 厚生労働省
- BMIってなんだろう? 万有製薬株式会社
- 体脂肪率とは オムロンヘルスケア株式会社
- 日本肥満学会ホームページ