「痩身」の版間の差分
出典を追加し、文章と各節を整理。 タグ: サイズの大幅な増減 |
|||
1行目: | 1行目: | ||
{{独自研究|date=2019年9月}} |
|||
本記事では、'''痩身'''(そうしん)や'''減量'''(げんりょう)について解説する。 |
本記事では、'''痩身'''(そうしん)や'''減量'''(げんりょう)について解説する。 |
||
7行目: | 6行目: | ||
痩身や減量を行うには、[[栄養]]や[[代謝]]に関する知識を身に付ける必要がある。 |
痩身や減量を行うには、[[栄養]]や[[代謝]]に関する知識を身に付ける必要がある。 |
||
「痩身や減量というのは、[[ダイエット]](規定食、食事制限)や[[フィジカルトレーニング|運動]](身体活動、エクササイズ)などを行って可能になるものであり、それらをしないで放置しておきながら、他の何かをすることで痩身や減量ができるということはない」<ref name="nhk_2014_0616">[http://megalodon.jp/2014-0616-1106-45/www3.nhk.or.jp/news/html/20140613/k10015205381000.html NHK「『いままでにないダイエット』 表示やめるよう命令」]</ref>と言われることが多い。 |
|||
== カロリー理論 == |
== カロリー理論 == |
||
身体が1日に消費するエネルギー量は、その人の体格や運動量によってひとりひとり異なっており<ref name="mite">『見てわかる!栄養の図解事典』p.10-18</ref>、その量は《[[基礎代謝]]量》と《身体活動レベル》を用いて概算できる<ref name="mite" />。 |
|||
{{独自の研究|section=1|date=2019年9月}} |
|||
人の身体で、1日ごとに消費されているエネルギー量はその人の体格や運動量によってひとりひとり異なっており<ref name="mite">『見てわかる!栄養の図解事典』p.10-18</ref>、その量は《[[基礎代謝]]量》と《身体活動レベル》を用いて概算できる<ref name="mite" />。 |
|||
自分の《基礎代謝量》に関しては「[[基礎代謝]]」を参照。 |
自分の《基礎代謝量》に関しては「[[基礎代謝]]」を参照。 |
||
49行目: | 45行目: | ||
*運動の実行:運動(散歩、家事、身体を使った仕事、エクササイズ、[[筋力トレーニング]] 等々等々)を実行することによって消費カロリーを増やす。 |
*運動の実行:運動(散歩、家事、身体を使った仕事、エクササイズ、[[筋力トレーニング]] 等々等々)を実行することによって消費カロリーを増やす。 |
||
と、されるが、実際のところ、このカロリー理論には何の根拠も無い。 |
|||
== BMI == |
|||
減量するべき場合と、するべきでない場合とがある。 |
|||
「カロリー」を体重の増減に絡めて初めて提唱したのはドイツ人の内科医カール・フォン・ノールデン( [[:de:Carl von Noorden]] )であり、彼が[[1907年]]に発表した『''Metabolism and practical medicine''』(『代謝と実践医療』)の中で「ヒトは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから太るのである」と記述している。その後、このカロリー理論は、体重の制御やダイエットにまつわる話題の中で、ほぼ必ずと言っていいほど出てくるようになった。ノールデンによるこの著作物は、インターネットでも読むことが可能<ref>{{cite journal |
|||
あくまで目安ではあるが、'''BMI'''('''Body mass index''', [[ボディマス指数]]と呼ばれる)の数値を見て判断する。BMIにより、「普通体重」と判定される範囲(18.5以上 ~ 25未満)であれば、特には痩身(減量)を行う必要はない。BMIによって「肥満」と判定された場合、とくにその数値がより高ければ高いほど(「肥満度数 2」と比較して「肥満度数 3」、「3」と比較して「肥満度数 4」など)、「減量を推進すべき」とみなされやすい。 |
|||
|last = Noorden |
|||
|first = Karl |
|||
|date = 1907 |
|||
|title = Metabolism and practical medicine |
|||
|journal = |
|||
|volume = 1320 |
|||
|page = 693 - 695}}}</ref>。 |
|||
「ヒトは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから太るのである」という考え方を概念や理論として広めた人物はノールデンということになる。 |
|||
BMIの数値が「18.5未満」の人の場合は「痩せすぎ」と判定され、その場合、それ以上体重を減らしてはいけない。見るからに異様に痩せているにもかかわらず、それでも減量を続行しようとして病気を患ったり、命を落とした事例もある(口述)。 |
|||
== 炭水化物を制限する == |
|||
== 食事療法 == |
|||
=== アトキンス・ダイエットができるまで === |
|||
{{独自の研究|section=1|date=2019年9月}} |
|||
[[1972年]]、[[アメリカ合衆国]]の医師[[ロバート・アトキンス]]は、著書『''Dr. Atkins' Diet Revolution''』(邦題:『アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット』)を出版し、「アトキンス・ダイエット」を提唱した。これは「[[肥満]]を惹き起こすのは炭水化物であり、これを制限する代わりに、肉、魚、卵、ステーキ、バターのような、タンパク質と脂肪が豊富な食べ物は自由に食べてかまわない。炭水化物が多いものは可能な限り避けなさい」とする食事法である。本書は数百万部を超える売り上げを記録した<ref>{{cite news|author=Gary Taubes |url=http://www.nytimes.com/2002/07/07/magazine/what-if-it-s-all-been-a-big-fat-lie.html?pagewanted=all |title=What if It's All Been a Big Fat Lie? |publisher=The New York Times |date=July 7, 2002|accessdate=2016-3-20}}</ref>。 |
|||
{{Main|ダイエット}} |
|||
開業したての頃のアトキンスの仕事はあまりうまくいかず、さらには身体が太り始めたことで、アトキンスは意気消沈していた。ある時、アトキンスは、[[デラウェア州]]にある会社、[[デュポン|デュポン社]](DuPont)に所属していた、アルフレッド・W・ペニントン( Alfred W. Pennington )が研究し、従業員に提供していた食事法を発見した<ref>{{cite book|last1=Mariani|first1=John F.|title=The encyclopedia of American food and drink|date=2013|isbn=9781620401613|url=https://books.google.com/books?id=K5taAgAAQBAJ&pg=PT96|chapter=Atkins, Robert (1930-2003)}}</ref>。 |
|||
<!--{{要出典範囲|食事療法による痩身の基本的な考え方は、「[[基礎代謝]]による使用[[カロリー]]+運動や活動による使用カロリー」を変えない場合、「食事による摂取カロリー」を少なくすることで痩身を期待するというものである。|date=2014年6月}}--> |
|||
<!-- |
|||
基礎代謝というのは、何もせずにじっとしていても、生命活動を維持するために生体で生理的に行われている活動である。相当するエネルギー量([[熱量]])は、[[成長期]]が終了して代謝が安定した一般成人で、一日に女性で約1200、男性で約1500[[カロリー|キロカロリー]](kcal,cal)とされている。--> |
|||
1940年代、ペニントンは、過体重か太り過ぎの従業員20人に、「ほぼ肉だけで構成された食事」を処方していた。彼らの1日の摂取カロリーは平均3000kcalであった。この食事を続けた結果、彼らは平均で週に2ポンド(約1㎏)の減量を見せた。この食事を処方された過体重の従業員には、「一食あたりの炭水化物の摂取量は20g以内」と定められ、これを超える量の炭水化物の摂取は許されなかった。デュポン社の産業医療部長、ジョージ・ゲアマン( George Gehrman )は、「食べる量を減らし、カロリーを計算し、もっと運動するようにと言ったが、全くうまくいかなかった」と述べた。ゲアマンは、自身の同僚であるペニントンに助けを求め、ペニントンはこの食事を処方したのであった<ref name="Why we get fat"> |
|||
== 運動 == |
|||
{{Cite book |
|||
{{独自の研究|section=1|date=2019年9月}} |
|||
|last = Taubes |
|||
|first = Gary |
|||
|year = 2010 |
|||
|title = Why We Get Fat |
|||
|publisher = Alfred A. Knopf |
|||
|location = New York City |
|||
|isbn = 978-0-307-27270-6 |
|||
}} |
|||
</ref>。 |
|||
アトキンスは、ペニントンが実践していたこの食事法からヒントを得て、患者を診療する際に「炭水化物が多いものを避けるか、その摂取量を可能な限り抑えたうえで、肉、魚、卵、[[食物繊維]]が豊富な緑色野菜を積極的に食べる」食事法を奨め、それと並行する形で『''Dr. Atkins' Diet Revolution''』を書いていた。 |
|||
<!-- |
|||
エクササイズによる痩身の基本的な考え方は、「食事による摂取[[カロリー]]」を変えない場合「[[基礎代謝]]による使用カロリー+運動や活動による使用カロリー」を大きくすることで痩身を期待するというものである。運動により、体内の備蓄エネルギーの大半を占める[[脂肪組織|体脂肪]]を消費させることで、痩身を期待する。単に「体重を落とす」という意味ではなく、筋肉量の増加によるいわゆる「引き締まった身体」を目的とするケースも含む。この際、外見上は以前より細く見える場合でも、体重はむしろ増えていることもある。 |
|||
*筋肥大によって、[[基礎代謝]]量および運動時の消費カロリーが増大することを利用し、痩身を期待する。筋1kgの基礎代謝量は50kcal程度といわれている。また筋肉量が増加すれば、以前と同レベルのエクササイズを行ってもより多くの筋肉量がその運動に参加することになり、消費カロリーも大きくなる。また筋力強化によって負荷自体を増大させることもできるために、さらなるカロリー消費の増加が期待できるという効果も考えられる。 |
|||
*中性脂肪から遊離脂肪酸への分解は、体内で常に起きている |
|||
*:エネルギー源として脂肪は常に血液中に存在するが、最初に運動で用いられるエネルギー源は血中の糖分(ブドウ糖)由来のもの([[解糖系]]によるエネルギー)といわれている。糖分は迅速にエネルギーに変換されるため、運動初期、とくに運動開始時に急激に必要エネルギーが増大したときに用いられやすく、その後、遊離脂肪酸からエネルギーが作られていき、運動が安定していくと徐々にそちらに切り替わる。 |
|||
*分解された遊離脂肪酸は、使われなければまた中性脂肪に合成される |
|||
*:[[カプサイシン]]や[[カフェイン]]など、中性脂肪から遊離脂肪酸への分解を促進することが知られている化学物質も、摂取するだけでは遊離脂肪酸自体は消費されずに余剰の状態で再び中性脂肪に戻っていくので、減量には寄与しない。交感神経系が活発化することで基礎代謝量が上昇する効果は期待できるがわずかである。またそうした物質の持つ興奮作用でエクササイズの効率を高めるともいえるが、精神作用物質の効果で無理に身体に負荷を掛けることは安全とはいい難い。 |
|||
*脂肪がエネルギー源として使われる割合が最も高いのは安静時である。 |
|||
*高強度運動では筋グリコーゲンや肝グリコーゲン(糖質)が主に消費される。 |
|||
*グリコーゲンが枯渇した状態で食物を摂取すると、食物中の糖質はグリコーゲンの補充に使われる。 |
|||
*グリコーゲンが充足した状態で食物を摂取すると、食物中の糖質は脂肪の合成に使われる。 |
|||
[[2002年]]、アトキンスは[[心臓発作]]を起こして倒れた。これについて、「高脂肪の食事が潜在的にどれほど危険であるかが証明された」という批判を数多く浴びた。しかし、複数のインタビューで、アトキンスは「私が心停止になったのは、以前から慢性的な[[感染症]]を患っていたからであって、[[脂肪]]の摂取量の増加とは何の関係も無い」と強く反論した<ref name=times>{{cite news |url=https://www.thetimes.co.uk/article/dr-robert-atkins-b2vmm7lmc7f |title=Dr Robert Atkins: Apostle of protein gluttony as a passport to health, wholesomeness and the perfect figure |date=April 18, 2003 |work=The Times |location =London |accessdate=November 30, 2017}}{{subscription required}}</ref><ref>{{cite web|url=http://www.nbcnews.com/id/4327741/ns/dateline_nbc/t/defending-dr-atkins/#.VAX4VfldWSo|title=Defending Dr. Atkins|work=msnbc.com|accessdate=October 4, 2014}}</ref><ref>{{Cite news|url=http://articles.cnn.com/2002-04-25/health/atkins.diet_1_atkins-diet-cardiac-arrest-cardiomyopathy?_s=PM:HEALTH|work=CNN|title=Atkins diet author home after cardiac arrest|date=April 25, 2002|deadurl=yes|archiveurl=https://web.archive.org/web/20100909173011/http://articles.cnn.com/2002-04-25/health/atkins.diet_1_atkins-diet-cardiac-arrest-cardiomyopathy?_s=PM:HEALTH|archivedate=September 9, 2010|df=}}</ref>。なお、「食事に含まれる脂肪分の摂取と、肥満や各種心疾患とは何の関係も無い」というのは、炭水化物を制限する食事法を奨める人物に共通の見識である。 |
|||
以上の点から、高強度運動を行った場合、運動によって直接消費される脂肪は少ないものの、次回の食事はグリコーゲンの補充に使われ、合成される脂肪は少なくなる。その一方で、安静時(非運動時)には体脂肪が主なエネルギー源として使われるため、結果として体脂肪は減少する(食事のエネルギーが運動と基礎代謝の消費エネルギーより少ない場合)。一方、低強度運動で脂肪のみ使ったと仮定しても、筋・肝グリコーゲンが減少していない状態で摂った糖質はほとんど脂肪の合成に回されてしまう。結局、高強度であっても低強度であっても、体脂肪の増減は摂取カロリーと消費カロリーの差のみに依存することになる。 |
|||
[[2003年]][[4月]]、ニューヨークに大雪が降り、地面は凍結した。[[4月8日]]、アトキンスは通勤のため、凍った路上を歩いている途中、足を滑らせて転倒して頭部を強打し、意識不明の重体となり、集中治療室で手術を受けるも、意識が戻らないまま死亡している<ref name="wsj-ra">{{cite web |url=https://www.wsj.com/articles/SB107637899384525268 |title=Report Details Dr. Atkins's Health Problems |accessdate=January 1, 2015 |publisher=Wall Street Journal}}</ref><ref>{{cite news |url= https://www.theguardian.com/world/2003/apr/18/2 |title=Low-carb diet pioneer dies at 72 |last=McCool |first=Grant |date=April 18, 2003 |work=The Guardian |location =London |accessdate=October 29, 2009}}</ref><ref name=NYTobit>{{cite news|last1=Martin|first1=Douglas|title=Dr. Robert C. Atkins, Author of Controversial but Best-Selling Diet Books, Is Dead at 72|url=https://www.nytimes.com/2003/04/18/nyregion/dr-robert-c-atkins-author-controversial-but-best-selling-diet-books-dead-72.html|work=The New York Times|date=April 18, 2003}}</ref>。 |
|||
体型や運動経験によって、適する運動量は異なる。痩身目的で運動する人には、低強度から中強度の運動が勧められる。それは主に以下のような理由からである。 |
|||
=== ウィリアム・バンティング === |
|||
*太り気味あるいは肥満の人は、もともと運動が嫌いで運動不足になっている可能性が高いと考えられるため、辛い高強度運動では運動に対する意欲が継続できない可能性が高い。 |
|||
{{main|ウィリアム・バンティング}} |
|||
*運動不足の人が突然高強度運動を始めると、様々な故障の原因となりやすく危険である。 |
|||
炭水化物を避けるか、可能な限りその摂取を制限し、[[タンパク質]]と[[脂肪]]を重点的に摂取する食事法の創始者は、ロバート・アトキンスが元祖というわけではない。前述した、デュポン社のアルフレッド・ペニントン以前に、[[ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン]]( Jean Anthelme Brillat-Savarin, 1755~1826 )、ジャン=フランソア・ダンセル( Jean-François Dancel )、[[ユストゥス・フォン・リービッヒ]]( Justus Liebig )、ウィリアム・ハーヴェイ( William Harvey, 1807~1876 )、[[ウィリアム・バンティング]]( William Banting, 1796~1878 )、[[ジョン・ユドキン]]( John Yudkin, 1910~1995 )といった、歴史上の様々な人物が実践してきた方法である<ref name="Why we get fat"></ref>。彼らはいずれも、「肉のような栄養価の高い食べ物は、ヒトを太らせることはない」「ヒトを太らせるのは、[[小麦粉]]のような精製された炭水化物、とくに[[砂糖]]である」「食事に含まれる脂肪分は、肥満や各種心疾患とは何の関係も無い」と確信していた<ref name="Why we get fat"></ref>。アトキンスも著書『Dr. Atkins' Diet Revolution』の中で、「砂糖は始末に負えない厄介な物体」と断じている。 |
|||
*日常的に運動を行っており、高強度の運動を行う基礎体力が十分備わっている人がさらに減量を行おうとする場合、低中強度の運動は退屈でかえって苦痛であり、また同じ運動時間では高強度運動よりも消費カロリーが少ないので効果が現われにくい。そのような人は痩身のために無理をして低中強度の運動を長時間行う必要はない。 |
|||
*運動不足により老廃物が身体に溜まってしまうと、脂肪と結びつき取り除く事が難しい「セルライト」に変化してしまう。<ref>{{Cite web|url=https://二の腕痩せる.club|title=二の腕痩せ|accessdate=2018-11-15|publisher=}}</ref> |
|||
ウィリアム・バンティングは、ロンドン生まれの葬儀屋であった。バンティングは、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。その彼に炭水化物の摂取を制限する食事法を奨めたのは、医師であり友人でもあったウィリアム・ハーヴェイであった。ハーヴェイがこの食事法を学んだのは、[[フランス]]の医師、[[クロード・ベルナール]]が[[パリ]]で行った[[糖尿病]]についての講演を聴いたのがきっかけであった<ref name=Groves>{{Cite web | url = http://www.second-opinions.co.uk/banting.html | title = WILLIAM BANTING: The Father of the Low-Carbohydrate Diet | accessdate = 26 December 2007 |
|||
体脂肪などは直接運動エネルギーとして消費される以外に、運動のために代謝が活発になる(体温の上昇)ことによっても消費される。このことは特に低強度から中強度の運動では重要になる。水泳などでは運動中・運動後に体を冷やさないように注意すると効率よく消費するカロリーを増やすことができる。 |
|||
| last = Groves, PhD | first = Barry | year = 2002 | publisher = Second Opinions }}</ref><ref>{{cite EB1911 |
|||
| wstitle=Corpulence | volume=7 | pages=192–193 }</ref>。 |
|||
クロード・ベルナールの講演を聴く前までのハーヴェイは、「体重を減らすには、激しい身体活動に励めば良い」と考えており、バンティングに対してそうするよう伝えた。バンティングは「早朝に2時間、ボートを漕ぐ」ことにし、[[テムズ川]]でボートを漕ぎ続けた。彼の腕の筋力は強化されたが、それとともに猛烈な食欲が湧き、その食欲を満たさねばならなくなり、体重は減るどころかどんどん増えていった。ハーヴェイは友人に対し、「運動を止めなさい」と言った<ref name="Why we get fat"></ref>。「'''運動には体重を減らす効果は無い'''」と悟ったためである。ハーヴェイから炭水化物の摂取を制限する食事法を教わり、実践したバンティングは、最終的に50ポンド(約23㎏)の減量に成功している。 |
|||
なお、高強度運動によって筋組織の[[タンパク質]]が分解されることにより生成された[[アミノ酸]]をエネルギーとして使用するので筋線維が縮小して基礎代謝を下げてしまうといったことも言われるが、これは体内の糖質も中性脂肪も枯渇してしまった極端な飢餓状態での話であり、健康な人が運動する限りにおいてはほとんど問題にはならない。通常は、食事によって[[たんぱく質]]を十分補えば、[[ウエイトトレーニング#超回復|超回復]]によって筋線維が強化される効果の方が大きいと考えられる。 |
|||
[[1863年]]、バンティングは、減量に成功した食事法や、減量にあたって試しては失敗を続けてきた方法をまとめた『''Letter on Corpulence, Addressed to the Public''』(『市民に宛てた、肥満についての書簡』)を出版した。 |
|||
{{see also|基礎代謝|筋肉|フィジカルトレーニング|有酸素運動}} |
|||
--> |
|||
バンティング自身、『''Letter on Corpulence, Addressed to the Public''』の中で、「減量に対して何の効果も無い方法」の1つに、「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。[[イギリス]]の医師、トマス・ホークス・タナー( [[:en:Thomas Hawkes Tanner]], 1824~1871 )も、 著書『''The Practice of Medicine''』の中で、「肥満を治療するにあたっての『ばかげた』治療法の1つに、「食べる量を減らす」「毎日多くの時間を散歩と乗馬に費やす」を挙げている<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
『''Letter on Corpulence''』はまもなくベストセラーとなり、複数の言語にも翻訳された。その後、「Do you bant?」(ダイエットするかい?)、「Are you banting?」(今、ダイエット中なの?)という言い回しが広まった。この言い回しは、バンティングが実践した食事法について言及しており、時にはダイエットそのものを指すこともある<ref name=Groves/>。のちにバンティングの名前から、「Bant」は「食事療法を行う、ダイエットをする」という意味の[[動詞]]として使われるようになり、[[スウェーデン語]]にもこの言葉が輸入されて使われるようになった<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
[[南ローデシア]](現在の[[ジンバブエ]])出身の科学者[[:en:Tim Noakes|ティム・ノークス]]は、「低糖質・高脂肪ダイエット」と名付け、この食事法を普及させた<ref name="bizn_Scie">{{Cite web | title = Scientist lives as hunter-gatherer: Proves Tim Noakes' Banting diet REALLY improves health | author = | work = BizNews.com | date = 4 July 2017 | accessdate = 2018-06-05 | url = https://www.biznews.com/global-citizen/2017/07/04/tim-noakes-banting/ | language = | quote = }}</ref>。 |
|||
[[サイエンスライター|サイエンス・ジャーナリスト]]、[[ゲアリー・タウブス]]による著書『''Good Calories, Bad Calories''』([[2007年]])では、「A brief history of Banting」(「バンティングについての簡潔な物語」)と題した序章から始まり、バンティングについて論じている<ref name=Taubes2007>{{cite book|last=Taubes|first=Gary |title=Good Calories, Bad Calories: Challenging the Conventional Wisdom on Diet, Weight Control, and Disease|url=https://books.google.com/books?id=YjcFmAEACAAJ|year=2007|publisher=Knopf|isbn=978-1-4000-4078-0}}</ref>。炭水化物の摂取を制限する食事法についての議論の際には、しばしばバンティングの名前が挙がる<ref name="pmid15351198">{{Cite journal|vauthors=Astrup A, Meinert Larsen T, Harper A |title=Atkins and other low-carbohydrate diets: hoax or an effective tool for weight loss? |journal=Lancet |volume=364 |issue=9437 |pages=897–9 |year=2004 |pmid=15351198 |doi=10.1016/S0140-6736(04)16986-9 }}</ref><ref name="pmid16286782">{{Cite journal|author=Bliss M |title=Resurrections in Toronto: the emergence of insulin |journal=Horm. Res. |volume=64 Suppl 2 |issue= 2|pages=98–102 |year=2005 |pmid=16286782 |doi=10.1159/000087765 }}</ref><ref name="pmid15767625">{{Cite journal|author=Bray GA |title=Is there something special about low-carbohydrate diets? |journal=Ann. Intern. Med. |volume=142 |issue=6 |pages=469–70 |year=2005 |pmid=15767625 |doi= 10.7326/0003-4819-142-6-200503150-00013}}</ref><ref name="pmid17220180">{{Cite journal|vauthors=Focardi M, Dick GM, Picchi A, Zhang C, Chilian WM |title=Restoration of coronary endothelial function in obese Zucker rats by a low-carbohydrate diet |journal=Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. |volume=292 |issue=5 |pages=H2093–9 |year=2007 |pmid=17220180 |doi=10.1152/ajpheart.01202.2006 }}</ref><ref name="pmid15535891">{{Cite journal|vauthors=Arora S, McFarlane SI |title=Review on "Atkins Diabetes Revolution: The Groundbreaking Approach to Preventing and Controlling Type 2 Diabetes" by Mary C. Vernon and Jacqueline A. Eberstein |journal=Nutr Metab (Lond) |volume=1 |issue=1 |pages=14 |year=2004 |pmid=15535891 |doi=10.1186/1743-7075-1-14 |pmc=535347}}</ref>。 |
|||
なお、バンティングは、この食事法が広まった功績は、自分にではなく、「(この食事法を教えてくれた)ハーヴェイにある」と主張した。 |
|||
=== ケトジェニック・ダイエット === |
|||
1920年代前半には、[[ミネソタ州]][[ロチェスター (ミネソタ州)|ロチェスター市]]にある[[メイヨー・クリニック]]( Mayo Clinic )の医師、[[ラッセル・ワイルダー]]( Russel wilder )が『ケトン食』を開発し、肥満患者・糖尿病患者にこれを処方している。これは食事において、「摂取エネルギーの90%を脂肪から、6%をタンパク質から摂取する」(極度の高脂肪・極度の低糖質な食事)というもの。元々は[[てんかん|癲癇]]を治療するための食事法であったが、「[[肥満]]や[[糖尿病]]に対しても有効な食事法になりうる」としてワイルダーは開発した。炭水化物とタンパク質の摂取は可能な限り抑え、大量の脂肪分を摂取することで、身体は脂肪を分解して作り出す「[[ケトン体]]」( keto )をエネルギー源にして生存できる体質となる。この食事法は『[[:en:Ketogenic diet|ケトジェニック・ダイエット]]』として知られるようになる。 |
|||
アトキンスも著書『''Dr. Atkins' Diet Revolution''』の中でケトン体について触れており、「炭水化物の摂取を極力抑え、脂肪の摂取量を増やすことで、身体はブドウ糖ではなく、脂肪をエネルギー源にして生存できる」という趣旨を述べ、体重を減らしたい人に向けて、炭水化物を避けるか、その摂取制限を奨めている。 |
|||
== 炭水化物制限食の歴史 == |
|||
「太りたくないのなら、炭水化物を避けなさい」と指導する食事法は奇抜でも斬新でもなく、歴史上何度も登場している。方法論がどうであれ、「炭水化物を極力避ける」という点においては、バンティングを初め、過去の様々な人物が実践してきた食事法と同じである。 |
|||
* [[ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン]]は、19世紀前半に出版した著書『味覚の生理学』( 『''Physiologie du Goût''』 )の中で、 |
|||
「ヒトを肥満にさせるのは、デンプン質と小麦粉であり、これに[[砂糖]]も組み合わせれば確実に肥満をもたらす」 |
|||
「ヒトにおいても、動物においても、脂肪の蓄積はデンプン質と穀物によってのみ起こる、ということは証明済みである」 |
|||
「デンプン質・小麦粉由来のすべての物を厳しく節制すれば、肥満を防げるだろう」と明言している<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
* [[1844年]]、フランスの外科医で退役軍医、ジャン=フランソア・ダンセル( Jean-François Dancel )は、肥満に関する自身の考えをフランス科学アカデミーで発表した。その著書『Obesity, or Excessive Corpulence』は、[[1864年]]に[[英語]]に翻訳され、出版された。ダンセルは、 |
|||
「患者が主に『肉だけ』を食べ、それ以外の食べ物の摂取は少量だけにすれば、一人の例外もなく肥満を治癒できる」 |
|||
と述べている<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
* 「炭水化物を避け、肉だけを食べることで肥満を治癒できる」というダンセルの主張は、ドイツ人の化学者[[ユストゥス・フォン・リービッヒ]]による研究を根拠にしており、リービッヒもダンセルも、肉を中心に食べる食事法を信じていた。 |
|||
ダンセルは、 |
|||
「肉ではないすべての食べ物(炭素と水素が豊富な食物。つまり炭水化物)は、身体に脂肪を蓄積させるに違いない。肥満を治すためのいかなる治療法も、この原理に基づいている」 |
|||
「肉食動物は決して太っていない一方で、草食動物は太っている。カバはかなりの量の脂肪のせいで不格好に見える。彼らは植物性の物質(米、キビ、サトウキビ・・・穀物全般)のみを餌にしている」 |
|||
と述べた<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
* [[1866年]]、[[ベルリン]]で開催された内科学会にて、「人気のある食事療法」に関する討論会が開かれた。その際、ウィリアム・バンティングが実践した方法は、肥満患者を確実に減らせる3種類の食事法の1つとして取り上げられた。他の2種類はドイツ人の医師が開発したもので、方法は微妙に異なるが、いずれの食事法にも共通するのは以下の2つであった。 |
|||
「肉は無制限に食べてかまわない」<ref name="Why we get fat"></ref> |
|||
「デンプン質が豊富なものは完全に禁止とする」<ref name="Why we get fat"></ref> |
|||
* 1950年代、ミシガン州立大学栄養学部主任マーガレット・オールソン( Margaret Ohlson )は、過体重の学生に従来型の飢餓食(※極度のカロリー制限食)を与えた。彼らの体重はほとんど減らないばかりか、 |
|||
「すっかり活気が失せ、空腹であることを常に意識し続け、やる気が無くなっている」 |
|||
と報告した。一方、タンパク質と脂肪を大量に含む食事を摂らせると、平均で週に3ポンド(約1.4kg)減量し、 |
|||
「食間の空腹感に悩まされることはなく、気分の良さと満足感に包まれた」 |
|||
と報告した。この食事法を実践した者は、いずれも特別な努力をすることなく体重を減らし、空腹感に悩まされることもなかった<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
* オールソンの教え子で[[コーネル大学]]の臨床学教授シャーロット・ヤング( Charlotte Young )は、[[1973年]][[10月]]に[[アメリカ国立衛生研究所]]で開催された会議にて、食事療法に関する講演を行った。医者が肥満について重点的に話し合う会議を定期的に開くようになった1960年代の半ばまでには、食事療法に関する講演が必ず行われており、それらの講演の内容はいずれも「炭水化物を制限する食事法について」であった。これらの会議のうち、5回は、[[1967年]]~[[1974年]]にかけて、アメリカ合衆国と、欧州各国で開催された。ヤングは、アルフレッド・ペニントンがデュポン社で実践した炭水化物を制限する食事法を研究し、自身の師匠であるオールソンの業績について、この会議で発表した。ヤングは「体重および体脂肪の減少、その割合は、食事に含まれる炭水化物の量と逆相関しているように見える」「炭水化物の摂取量を減らし、脂肪の摂取量を増やすと、体重も体脂肪も大幅に減った」と報告した。炭水化物を制限する食事法について、ヤングは |
|||
「空腹感からの解放、異常な疲労感の緩和、満足のいく減量、長期にわたる減量とその後の体重制御への順当さに対する評価において、いずれもすばらしい臨床的成果を見せた」 |
|||
と述べた<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
* 『The Principles and Practice of Medicine』の1901年度版にて、ウィリアム・オスラー( William Osler )は、肥満体の女性に対して「食べ物を食べ過ぎないこと。とくに、デンプン質が豊富な食べ物と[[砂糖]]を減らすように」と述べている<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
* [[1907年]]、『A Textbook of the Practice of Medicine』にて、ジェームズ・フレンチ( James French )は、「肥満体における過剰な脂肪について、その一部は食べ物に含まれていた脂肪でできているが、その大部分は炭水化物を食べたのが原因で蓄積する」と述べている<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
* [[1925年]]、ロンドンにあるセイント・トマス病院医科大学のH. ガーディナー・ヒル( H. Gardiner-Hill )は、炭水化物を制限する食事法を奨めており、医学雑誌『The Lancet』の中で「どのようなパンであれ、45~65%の炭水化物を含んでおり、食パンに至っては最大で60%に達する可能性があり、これらは廃棄されねばならない」と述べている<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
* [[1936年]]、[[デンマーク]]の医師ペール・ハンセン( Per Hansenn )は、「『制限すべきは炭水化物だけであり、身体に脂肪を蓄積させる作用が無いタンパク質と脂肪を、空腹を感じたらいつでも食べて構わない』という点が、この食事法の有利な点である」と述べた<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
* 第2次世界大戦終盤、アメリカ海軍が太平洋を西に向かっていたころ、『U.S. Force's Guide』の中で、 |
|||
「ニューギニアの北東にある群島、カロリン諸島では胴回りの管理に苦労するかもしれない」 |
|||
「現地人の食べている基本的な食物は、パンノキの実、タロイモ、ヤマノイモ、サツマイモ、クズウコン・・・デンプン質が豊富なものであるため」 |
|||
と、兵士たちに警告している<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
* [[1946年]]に初版が出版されたベンジャミン・スポック( Benjamin M. Spock )による子育て本『Baby and Child Care』にて「体重がどれほど増えるか減るか、は、デンプン質の食べ物をどれぐらい摂取するかで決まる」と記述されている。この文章はその後の50年間、全ての版で使われ続けた<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
* [[1963年]]、サー・スタンリー・ディヴィッドソン( Sir Stanley Davidson )と、レジナルド・パスモア( Reginald Passmore )の2人は、『Human Nutrition and Diabetes』を出版した。この本では、 |
|||
「人気のある『痩せる方法』は、いずれも炭水化物の摂取を制限するものである」 |
|||
「炭水化物の多いものを食べ過ぎることこそが、肥満の最大の原因であり、その摂取は徹底的に減らすべきである」 |
|||
と記述されている。同年、パスモアは、イギリスで出版されている栄養学の雑誌『British Journal of Nutrition』にて、以下の宣言で始まる論文の共著者にもなっている。 |
|||
「全ての女性は、炭水化物の摂取が身体に脂肪を蓄積させることを知っている。これは1つの常識であり、このことに異議を唱える栄養学者は存在しないであろう」<ref name="Why we get fat"></ref> |
|||
* [[1958年]]には[[リチャード・マッカーネス]]( Richard Mackerness, 1916~1996 )による著書『''Eat Fat and Grow Slim''』(『脂肪を食べて細身になろう』)、[[1960年]]には{{仮リンク|ヘルマン・ターラー|en|Herman Taller}}( Herman Taller, 1906~1984 )による著書『''Calories Don't Count''』(『カロリーは気にするな』)が出版されており、いずれも炭水化物の摂取制限を奨める内容である。 |
|||
* [[イギリス]]の[[生理学|生理学者]]・[[栄養学|栄養学者]]、[[ジョン・ユドキン]]( John Yudkin )は、1972年に出版した著書『Pure, White and Deadly』の中で、「肥満や心臓病を惹き起こす犯人は[[砂糖]]であり、食べ物に含まれる脂肪分は、これらの病気とは何の関係も無い」と断じている。また、ユドキンは、「砂糖・小麦粉、その他炭水化物の含有量が多いもの全般を禁止する代わりに、肉・魚・卵・緑色野菜は自由に食べてよい」と主張している。 |
|||
* サイエンス・ジャーナリストの[[ゲアリー・タウブス]]( Gary Taubes )は、 |
|||
「体重を減らしたいのなら、炭水化物を食事から排除すれば成功する。これを守らなければ、減量は必ず失敗に終わる」 |
|||
「炭水化物ではなく、タンパク質と脂肪の摂取を減らした場合、常に空腹感が付きまとい、その空腹が減量を失敗に導くであろう」 |
|||
と明言している。 |
|||
* [[肥満]]や[[糖尿病]]に悩む人に向けられたウェブサイト「ダイエット・ドクター」の創設者であり、その最高経営責任者でもある[[スウェーデン]]の医師[[アンドゥリーアス・イーエンフェルト]]( Andreas Eenfeldt )は、 |
|||
「ヒトを病気にさせるのは[[動物性脂肪]]ではなく、炭水化物である」「今まで言われ続けてきた、『脂肪の摂取を減らしたり、低脂肪な食事をするように』という『伝統的な食事法』<ref>https://web.archive.org/web/20130112032640/http://www.slv.se/grupp1/Mat-och-naring/Kostrad/</ref>は、何の役にも立たない」「低脂肪の食事は、長期的に見ても『体重の減少に効果がある』との証明はされておらず、食事のあり方を変えるべきである」との立場を明確にしている<ref>http://www.lakartidningen.se/engine.php?articleId=10235</ref>。[[2008年]]にスウェーデンの保険福祉庁とアメリカ糖尿病学会が「炭水化物を制限する食事法は肥満や糖尿病治療に役立つ可能性がある」という評価をくだすも、ある5人のダイエットの専門家がそれを認めなかった。イーエンフェルトはこれに対して大いに疑問視した<ref>http://www.lakartidningen.se/engine.php?articleId=9961</ref>。[[2009年]]、イーエンフェルトは、スウェーデンの医療雑誌『Dagens Medicin』に、スウェーデン食糧庁の「動物性脂肪を避けるように」との警告には何の根拠も無いこと、国が推奨している現在の食事内容をただちに変えるべきであるという内容の記事を、12人の著者とともに共同で寄稿した<ref>http://www.dagensmedicin.se/debatt/livsmedelsverket-bor-omedelbart-sluta-med-kostrad-till-allmanheten</ref>。 |
|||
[[2011年]]、イーエンフェルトは著書「Low Carb, High Fat Food Revolution: Advice and Recipes to Improve Your Health and Reduce Your Weight」を出版し、炭水化物を制限する食事法を奨めている<ref>http://www.ssdf.nu/tidningen/artikel.php?id=1272</ref>。本書は[[英語]]で書かれ、スウェーデン本国でベストセラーとなり、8つの言語に翻訳された<ref>Mullens, Anne (3 Feb 2017). [https://www.rd.com/health/conditions/how-to-avoid-becoming-diabetic/ Stick to This Diet If You Want to Reverse Diabetes Risk Factors—or Avoid Them Completely]. Reader’s Digest.</ref>。 |
|||
== 「減食と運動は無意味」 == |
|||
「痩身や減量というのは、食事制限や[[フィジカルトレーニング|運動]]をせずして成功しない」<ref name="nhk_2014_0616">[http://megalodon.jp/2014-0616-1106-45/www3.nhk.or.jp/news/html/20140613/k10015205381000.html NHK「『いままでにないダイエット』 表示やめるよう命令」]</ref>と言われることが多い。「食べる量を減らして運動しろ」ということであるが、実際には、この言い分には何の根拠も無い。 |
|||
肥満患者を治療する臨床医の多くは、1960年代までは、「運動すれば減量できる」「座りっぱなしの生活をしていると太る」「食べ過ぎるから太る」といった考え方を「幼稚」として退けていた。メイヨー・クリニックの医師、ラッセル・ワイルダーもその1人である。[[1932年]]、肥満についての講演を行った際に、ワイルダーは以下のように述べている。 |
|||
「肥満患者は、ベッドの上で安静にしていることで、より早く体重を減らせる。一方で、激しい身体活動は減量の速度を低下させる」「運動を続ければ続けるほどより多くの脂肪が消費されるはずであり、減量もそれに比例するはずだ、という患者の理屈は一見正しいように見えるが、体重計が何の進歩も示していないのを見て、患者は落胆する」<ref name="Why we get fat"></ref> |
|||
メイヨー・クリニックで医師として働いていたワイルダーは主に糖尿病患者を担当していたが、糖尿病だけではなく、肥満の治療にも関心が高かった。前述のとおり、ワイルダーは「極度の低糖質・高脂肪な食事」であるケトン食を、肥満患者・糖尿病患者に処方し続けた。 |
|||
「運動は減量に何の効果も無い」と明言している人物は何人もいる。前述のウィリアム・バンティングは『市民に宛てた、肥満についての書簡』の中で「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。イギリスの医師トマス・ホークス・タナーも、著書『The Practice of Medicine』の中で、「肥満を治療するにあたっての『ばかげた』治療法の1つに、「食べる量を減らす」「毎日多くの時間を散歩と乗馬に費やす」を挙げている。バンティングに炭水化物制限を教える前のウィリアム・ハーヴェイも、「激しい身体活動に励めば痩せられるはずだ」と考えていた。 |
|||
1990年代初期、[[アメリカ国立衛生研究所]]は、「Women's Health Initiative」と題した、約10億ドルに及ぶ研究を行った。この中で、「低脂肪の食事で心臓病や癌を本当に予防できるか」という研究も同時に行われた。5万人近くの女性を登録し、2万人をランダムに選び、果物・野菜・食物繊維が豊富なもの・脂肪が少ないもの・・・これらを優先的に食べるよう指示した。この食事を続ける意欲を保つため、女性たちは定期的にカウンセリングを受けた。毎日の食事の摂取カロリーは360kcal分減らし、少ない量を食べ続けた。この食事を8年間続けた結果、女性たちは(実験開始前と比べて)1人あたり平均で約1kg体重が減ったが、その腰回りは膨らんだ<ref name="Why we get fat"></ref>。この事実が意味するところは、「彼女らの身体から減ったのは脂肪ではなく、筋肉である」ということである。また、研究者らは「脂肪の少ない食事は、心疾患、癌、その他の病気を予防できなかった」とも報告している。彼女らの受けたカウンセリングおよび食事の意味として、意識的か無意識的かを問わず、「少なく食べるよう心掛けた」ことである<ref name="Why we get fat"></ref>。「消費カロリーが摂取カロリーを上回れば体重は減る」のが本当であるのなら、この試験に参加した女性たちが太った理由が説明できなくなる。脂肪は1kgにつき、約7000kcalのエネルギーに相当する。彼女らが、毎日の食事の摂取カロリーを360kcal減らしていたのなら、実験を開始して3週間で約1kgの脂肪が減っていたはずであり、1年続ければ約16㎏の脂肪が減る計算になる。試験開始の時点で、参加した女性たちの半数は肥満体であり、大多数は少なくとも過体重であった<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
[[ハーバード大学]]の研究者ブルース・ビストリアン( Bruce Bistrian )は、「減食(食べる量を減らす)は、肥満に対する処置にも治療法にもならない。最も目立つ症状を一時的に緩和する方法でしかない。もしも減食が肥満に対する処置にも治療にもならないとするなら、これは『過食は肥満の原因ではない』ことを示す」と述べている<ref name="Why we get fat"></ref>。「過食が肥満の原因である」という考えに疑問を投げかけるあらゆる理由の中で最も明確なものは、「肥満は、食べる量を減らしても治せない」という事実である。また、肥満は、エネルギーバランス、カロリー理論、過食、熱力学、物理法則とは、何の関係も無い<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
[[2007年]]、ハーバード大学医学部長ジェフリー・フライアー( Jeffrey Flier )とその妻テリー・マラトス・フライアー( Terry Maratos-Flier )は、雑誌『''Scientific American''』に論文を寄稿した。その論文の中では「ヒトの食欲とエネルギーの消費について、この2つは人間が意識的に変えられるような代物ではない」「この2つの要素のバランスの補正と結果が脂肪組織の増減につながるなどという、そんな単純な変数ではない」と述べている<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
[[カリフォルニア州]]ローレンスバークレー国立研究所の統計学者、ポール・ウィリアムズ( Paul Williams )と、スタンフォード大学の研究者ピーター・ウッド( Peter Wood )は、普段からよく走る習慣のある13000人を集め、これらのランナーたちの1週間の累計走行距離と、年ごとの体重の変化を比較する研究を行った。最もたくさん走った人ほど最も体重が少ない傾向こそあったが、これらのランナー全員、「年を重ねるごとに体重が増えていく」傾向にあった<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
2007年8月、アメリカ心臓病協会とアメリカスポーツ医学会は、身体活動と健康に関するガイドラインを共同で発表した。この団体の専門家たちは、週に5日、1日に30分程度の精力的な運動が「健康を保ち、促進するために必要である」と述べた。しかし、「肥満になることや痩せたままでいることに対して、運動がどのような影響を与えるのか」という質問になると、彼らは以下のようにしか答えられなかった。 |
|||
「1日あたりのエネルギー消費の多い人は、それが少ない人に比べて、時間とともに体重が増える可能性が低い、と仮定することは理にかなっている。これまでのところ、この仮説を支持する証拠となるものについては、説得力があるものとは言えない」<ref name="Why we get fat"></ref> |
|||
イングランドの医師ジョン・ブリファ( John Briffa )は、著書『''Escape the Diet Trap''』の中で、「Aerobic exercise has little impact on weight loss」(「有酸素運動に減量の効果は無い」)と断言している。 |
|||
== 過食実験 == |
|||
[[2013年]]、イングランド人のサム・フェルサム( Sam Feltham )は、1日に5000kcalを超えるエネルギーを摂取する過食実験を自らの身体で実施した。最初の21日間で栄養素の構成比を「脂肪53%(461.42g)、タンパク質37%(333.2g)、炭水化物10%(85.2g)」に設定し、1日に「5794kcal」のエネルギーを摂取する生活を21日間続けた。21日後、フェルサムの体重は1.3kg増加したが、腰回りは3cm縮んだ。フェルサムの身体からは脂肪が減り、除脂肪体重が増加し、身体は引き締まった。次に、フェルサムは摂取エネルギーの構成比を「炭水化物64%(892.7g)、タンパク質22%(188.65g)、脂肪14%(140,8g)」に変え、1日の摂取エネルギーを「5793kcal」に調節し、再び21日間過ごした。21日後、フェルサムの体重は7.1kg増加し、腰回りは9.25cm膨らんだ<ref>{{Cite web |author= |date= |url=https://idmprogram.com/smash-the-fat-calories-part-xi/ |title=Smash the Fat – Calories Part XI |website= |publisher= |accessdate=2019-09-29}}</ref><ref>{{Cite web |author= |date= |url=https://www.huffingtonpost.co.uk/sam-feltham/my-5000-calorie-experiment_b_3350869.html?guccounter=1&guce_referrer=aHR0cHM6Ly93d3cuZ29vZ2xlLmNvbS8&guce_referrer_sig=AQAAAEMi_QZIU7ew23VdwFOV2e4vfYL52B3uJbWjI-sDFrnSzempe_jGebfJzJ7t7TmAHn3NOR2rJjAt9fG9AjGzXRxr6TLVAXpub1ULl_d63yjQD0ibanURkWfZvpzQRyphhvPL0cNjt_VGCVHaGSlLFJOUo76HrxSmegF42kKm4LiM |title=Halfway Through My 21 Day 5,000 Calorie Experiment |website= |publisher= |accessdate=2019-09-29}}</ref><ref>{{youtube|id=9Hy737EuL-o|title=Round Up of The 21 Day 5,000 Calorie Challenge}}</ref>。 |
|||
== 断食・絶食療法 == |
== 断食・絶食療法 == |
||
一切の固形物を摂取することなく、水、茶、ブラックコーヒー、ビタミンとミネラルのみで生活する方 |
一切の固形物を摂取することなく、水、茶、ブラックコーヒー、ビタミンとミネラルのみで生活することで、自分で肥満を治療するやり方もある。この[[断食]]を'''382日間'''続け、456ポンド('''約207㎏''')あった体重を180ポンド(約82㎏)まで減らし、最終的に276ポンド('''約125㎏''')の減量に成功したスコットランド人、[[アンガス・バルビエーリ]]( Angus Barbieri )がいる。バルビエーリが行った断食は、1971年版の[[ギネス世界記録|ギネスブック]]にも登録されている<ref>{{Cite web |author= |date= |url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2495396/ |title=Features of a successful therapeutic fast of 382 days' duration |website= |publisher= |accessdate=2019-09-29}}</ref><ref>{{Cite web |author= |date= |url=https://www.eveningtelegraph.co.uk/fp/tale-angus-barbieri-fasted-year-lost-21-stone/ |title=The tale of Angus Barbieri who fasted for more than a year – and lost 21 stone |website= |publisher= |accessdate=2019-09-29}}</ref>。 |
||
=== 間欠的断食 === |
|||
体重を目標もしくはそれ以下まで落としたものの、その後再び体重が増えてダイエット開始前と同じ体重に戻ったり、以前よりも体脂肪率が増加する。これは俗に'''リバウンド'''と呼ばれている。減量とリバウンドを繰り返すと、痩せにくく、太りやすい状態となる。 |
|||
体重のリバウンド現象については、[[膵臓]]から分泌されるホルモン、[[インスリン]]および[[インスリン抵抗性]]が原因と考えられている。[[カナダ]]の腎臓内科医、ジェイスン・ファン( Jason Fung )は、「リバウンドとは、インスリンが設定した体重に戻ろうとすること」と述べている。「体重の『設定値』を決めるのはこのインスリンであり、インスリンが過剰に分泌される状態が続くとともに、インスリンが『体重の設定値のつまみを回す』と、何をどうしようとも、身体はインスリンが設定した体重に戻ろうとする」という<ref>{{Cite book |
|||
|last = Fung |
|||
|first = Jason |
|||
|author = Jason Fung |
|||
|authorlink = |
|||
|coauthors = |
|||
|year = 2016 |
|||
|title = The Obesity Code: Unlocking the Secrets of Weight Loss |
|||
|publisher = Greystone Books,Canada |
|||
|page = |
|||
|isbn = 9781771641258 |
|||
}}</ref>。なお、ジェイスン・ファンは、「血中のインスリン濃度が低い状態を維持することにより、インスリン抵抗性を治療し、安定して体重を減らす」手段について、「間欠的に行う断食」( Intermittent fasting )を推進している<ref>{{Cite web |author = Jason Fung |date = December 19 2016 |url = https://www.dietdoctor.com/fasting-myths |title = Fasting myths |website = |publisher = dietdoctor.com |accessdate = 2019-09-29 }}</ref><ref>{{Cite web |author = Jason Fung |date=September 11 2016 |url = https://www.dietdoctor.com/intermittent-fasting |title = Intermittent fasting for beginners |website = |publisher = dietdoctor.com |accessdate = 2019-09-29}}</ref>。 |
|||
== ホルモンによる作用で減量する == |
|||
[[1965年]]、医学物理学者のロザリン・サスマン・ヤロウ( Rosalyn Sussman Yalow )と、ソロモン・アーロン・バーソン( Solomon Aaron Berson )の2人は、「脂肪を[[脂肪細胞]]から放出させ、それをエネルギーにして消費する」ためには、「“Requires only the negative stimulus of insulin deficiency.”」(「『インスリン不足』という負の刺激以外は必要ない」)と明言した<ref name="Why we get fat"></ref>。 |
|||
== BMI == |
|||
減量するべき場合と、するべきでない場合とがある。 |
|||
あくまで目安ではあるが、'''BMI'''('''Body mass index''', [[ボディマス指数]]と呼ばれる)の数値を見て判断する。BMIにより、「普通体重」と判定される範囲(18.5以上 ~ 25未満)であれば、体重の増減に囚われる心配は無用である。BMIによって「肥満」と判定された場合、とくにその数値がより高ければ高いほど(「肥満度数 2」と比較して「肥満度数 3」、「3」と比較して「肥満度数 4」など)、「減量を推進すべき」とみなされやすい。 |
|||
BMIの数値が「18.5未満」の人の場合は「痩せすぎ」と判定され、その場合、それ以上体重を減らしてはいけない。見るからに異様に痩せているにもかかわらず、それでも減量を続行しようとして病気を患ったり、命を落とした事例もある(口述)。 |
|||
== 手術 == |
== 手術 == |
||
109行目: | 271行目: | ||
== 痩せ薬 == |
== 痩せ薬 == |
||
どうすれば痩せ、どうすれば太るのかを知らない人につけこんで、痩身にも減量にも役立たない商品やサービスを売りつける業者も存在する<ref name="nhk_2014_0616" />。[[アメリカ合衆国]]を例に挙げると、その市場規模は約330億ドルだという<ref name="20080317nikkeibo">「“夢のやせ薬”、開発競争の裏側 20社余りの製薬会社が、肥満治療薬の市場に参入」『日経ビジネスオンライン』日経BP社、2008年3月17日付配信</ref>。 |
どうすれば痩せ、どうすれば太るのかを知らない人につけこんで、痩身にも減量にも役立たない商品やサービスを売りつける業者も存在する<ref name="nhk_2014_0616" />。[[アメリカ合衆国]]を例に挙げると、その市場規模は約330億ドルだという<ref name="20080317nikkeibo">「“夢のやせ薬”、開発競争の裏側 20社余りの製薬会社が、肥満治療薬の市場に参入」『日経ビジネスオンライン』日経BP社、2008年3月17日付配信</ref>。しかも、少女らによる減量目的の[[アナボリックステロイド|ステロイド]]剤の使用が社会問題と化している。[[2005年]]に行われた報告によれば、女子高校生のおおよそ5%、女子中学生のおおよそ7%が、少なくとも一度はステロイド剤を使用した経験があるという<ref>[http://web.archive.org/web/20060708221555/http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__1104219/detail 米国少女たちの危険なダイエット=ステロイド使用が社会問題に] [[livedoor]] ([[AP通信]])</ref>。 |
||
「痩せる」ことを目的に薬物を服用する方法であるが、いずれも根拠は薄い。 |
|||
=== 種類 === |
=== 種類 === |
||
128行目: | 288行目: | ||
以上のような基準を満たさない人は、痩せ薬の本来の投与対象でないため、医師による処方はなされないと考えてよい。 |
以上のような基準を満たさない人は、痩せ薬の本来の投与対象でないため、医師による処方はなされないと考えてよい。 |
||
=== 痩せ薬と社会問題 === |
|||
アメリカ合衆国では、少女らによる減量目的の[[アナボリックステロイド|ステロイド]]剤の使用が社会問題と化している。[[2005年]]に行われた報告によれば、女子高校生のおおよそ5%、女子中学生のおおよそ7%が、少なくとも一度はステロイド剤を使用した経験があるという<ref>[http://web.archive.org/web/20060708221555/http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__1104219/detail 米国少女たちの危険なダイエット=ステロイド使用が社会問題に] [[livedoor]] ([[AP通信]])</ref>。 |
|||
=== 宣伝を行う業者 === |
=== 宣伝を行う業者 === |
||
146行目: | 303行目: | ||
* [[ファウンデーション (服飾)|補正下着]]([[ガードル]]、[[ボディスーツ]]) ・・・ 細身の外見に見せることが可能。だが、痩身効果や体型の補正効果が医学的に示されたことは1度もない。[[マルチ商法]]や[[連鎖販売取引|ネットワークビジネス]]で販売されることが多い |
* [[ファウンデーション (服飾)|補正下着]]([[ガードル]]、[[ボディスーツ]]) ・・・ 細身の外見に見せることが可能。だが、痩身効果や体型の補正効果が医学的に示されたことは1度もない。[[マルチ商法]]や[[連鎖販売取引|ネットワークビジネス]]で販売されることが多い |
||
これらはいずれも |
なお、これらはいずれも減量の効果は一切無い。 |
||
== |
=== 詐欺 === |
||
どうすれば太るのか、どうすれば痩せるのかを知らない人に付けこむ形で、健康被害や[[詐欺]]の事例がしばしば発生する。例として、以下のようなものがあげられる。 |
|||
最初は美容の目的で手段として体重を減らしたが、次第に「手段の目的化」がおこり、体型を客観的に把握できず単純に体重の数値のみに拘泥する状態になることがある。これが行き過ぎると、自身が理想としている体型への強い渇望感が変質して生じる「[[神経性無食欲症]]」( anorexia, 「拒食症」とも)と呼ばれる精神疾患に罹患することがある。ファッションモデルをやっていた[[アナ・カロリナ・レストン]]や、[[ルイゼル・ラモス|ルイゼル]]/[[エリアナ・ラモス]]姉妹は、体重の増減に憑りつかれた挙句、[[栄養失調]]が原因で死亡している。 |
|||
== リバウンド == |
|||
痩身行動によって、一時体重を目標もしくはそれ以下まで落としたものの、その後再び体重が増えてダイエット開始前と同じ体重に戻ったり、以前よりも体脂肪率が増加する。これは俗に'''リバウンド'''と呼ばれている。 |
|||
減量とリバウンドを繰り返すと、一般的には筋肉より脂肪の割合が増加、以前と同じ体重であっても体脂肪率や肉体の体積は増大し、体型はより太く見える。こうなると、痩せにくく、太りやすい状態となる。 |
|||
== 痩身法と詐欺・健康被害の問題 == |
|||
ダイエット・痩身法は、健康被害や[[詐欺]]に結びつきやすい分野でもある。例として、以下のようなものがあげられる。 |
|||
* [[副作用]]が強い薬や、有害な成分を含むダイエット食品 |
* [[副作用]]が強い薬や、有害な成分を含むダイエット食品 |
||
172行目: | 321行目: | ||
** [[カルト]]などが美容や痩身を謳った本やサークルを勧誘の手段とするケース - [[法の華三法行]]など |
** [[カルト]]などが美容や痩身を謳った本やサークルを勧誘の手段とするケース - [[法の華三法行]]など |
||
これらにも減量の効果は一切無い。 |
|||
==脚注== |
|||
== 精神疾患 == |
|||
最初は美容の目的で手段として体重を減らしたが、次第に「手段の目的化」がおこり、体型を客観的に把握できず単純に体重の数値のみに拘泥する状態になることがある。これが行き過ぎると、自身が理想としている体型への強い渇望感が変質して生じる「[[神経性無食欲症]]」( anorexia, 「拒食症」とも)と呼ばれる精神疾患に罹患することがある。ファッションモデルをやっていた[[アナ・カロリナ・レストン]]や、[[ルイゼル・ラモス|ルイゼル]]/[[エリアナ・ラモス]]姉妹は、体重の増減に憑りつかれた挙句、[[栄養失調]]が原因で死亡している。 |
|||
== 脚注 == |
|||
;注 |
;注 |
||
{{Reflist|group="注"}} |
{{Reflist|group="注"}} |
2019年9月29日 (日) 18:34時点における版
本記事では、痩身(そうしん)や減量(げんりょう)について解説する。
痩身とは、痩せた身体[1](または引き締まった身体)のこと、そのような身体にすることである。また、そのような身体にすることの意味で「減量」という言葉が用いられることがある。「痩身」と「減量」、いずれも同じニュアンスで用いられやすい。
厳密に言えば「痩身と減量」は同義ではない。「減量」は、総体重に着目した概念である。身体から脂肪が減って筋肉量が増えると、体重は増えるが身体は引き締まる。また、格闘技のような厳格な体重別階級制のあるスポーツの選手が、なるべく低い体重の階級で競技するために減量に励むこともある。
痩身や減量を行うには、栄養や代謝に関する知識を身に付ける必要がある。
カロリー理論
身体が1日に消費するエネルギー量は、その人の体格や運動量によってひとりひとり異なっており[2]、その量は《基礎代謝量》と《身体活動レベル》を用いて概算できる[2]。
自分の《基礎代謝量》に関しては「基礎代謝」を参照。
《身体活動レベル》については、次の表の右側を見て、左側から該当の数値を見つける。
活動 レベル |
身体活動 レベル |
生活パターン |
---|---|---|
低い | 1.5 | 生活の大部分で座っており(=座位)、(つまり、デスクワークなど)静的な活動が中心の場合 |
普通 | 1.75 | 座位中心の生活だが、仕事で立ったりすることもあり、あるいは通勤、買い物、家事、軽いスポーツをすることが含まれる場合 |
高い | 2.0 | 仕事で移動することや立っていることが多い場合。あるいは日常的にスポーツや活発な活動を行う習慣がある場合。 |
次の式が成り立つ。
- 一日の基礎代謝量(kcal) × 身体活動レベル = 一日に消費されるカロリー
例えば年齢が30代で基礎代謝量が1,140kcalの女性で、通勤してデスクワーク中心の仕事をしている人(=身体活動レベルが普通、つまり数値が1.75)の女性ならば
一日に身体が消費するカロリーは、1,140(kcal) x 1.75 = 1995(kcal) となる。
- 口から入るカロリー < 身体が消費するカロリー
この不等式を成立させるためのポイントは「食事の制限」と「運動の実行」である。左辺を小さくするために「食事の制限」を行い、右辺を大きくするために「運動を実行」する。
- 食事の制限:ビタミンやミネラルは摂取し食品のバランスは保ち健康に配慮しつつ、総カロリーを抑える食事制限(ダイエット)を行い、口から入るカロリーを制限する。
- 運動の実行:運動(散歩、家事、身体を使った仕事、エクササイズ、筋力トレーニング 等々等々)を実行することによって消費カロリーを増やす。
と、されるが、実際のところ、このカロリー理論には何の根拠も無い。
「カロリー」を体重の増減に絡めて初めて提唱したのはドイツ人の内科医カール・フォン・ノールデン( de:Carl von Noorden )であり、彼が1907年に発表した『Metabolism and practical medicine』(『代謝と実践医療』)の中で「ヒトは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから太るのである」と記述している。その後、このカロリー理論は、体重の制御やダイエットにまつわる話題の中で、ほぼ必ずと言っていいほど出てくるようになった。ノールデンによるこの著作物は、インターネットでも読むことが可能[3]。
「ヒトは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから太るのである」という考え方を概念や理論として広めた人物はノールデンということになる。
炭水化物を制限する
アトキンス・ダイエットができるまで
1972年、アメリカ合衆国の医師ロバート・アトキンスは、著書『Dr. Atkins' Diet Revolution』(邦題:『アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット』)を出版し、「アトキンス・ダイエット」を提唱した。これは「肥満を惹き起こすのは炭水化物であり、これを制限する代わりに、肉、魚、卵、ステーキ、バターのような、タンパク質と脂肪が豊富な食べ物は自由に食べてかまわない。炭水化物が多いものは可能な限り避けなさい」とする食事法である。本書は数百万部を超える売り上げを記録した[4]。
開業したての頃のアトキンスの仕事はあまりうまくいかず、さらには身体が太り始めたことで、アトキンスは意気消沈していた。ある時、アトキンスは、デラウェア州にある会社、デュポン社(DuPont)に所属していた、アルフレッド・W・ペニントン( Alfred W. Pennington )が研究し、従業員に提供していた食事法を発見した[5]。
1940年代、ペニントンは、過体重か太り過ぎの従業員20人に、「ほぼ肉だけで構成された食事」を処方していた。彼らの1日の摂取カロリーは平均3000kcalであった。この食事を続けた結果、彼らは平均で週に2ポンド(約1㎏)の減量を見せた。この食事を処方された過体重の従業員には、「一食あたりの炭水化物の摂取量は20g以内」と定められ、これを超える量の炭水化物の摂取は許されなかった。デュポン社の産業医療部長、ジョージ・ゲアマン( George Gehrman )は、「食べる量を減らし、カロリーを計算し、もっと運動するようにと言ったが、全くうまくいかなかった」と述べた。ゲアマンは、自身の同僚であるペニントンに助けを求め、ペニントンはこの食事を処方したのであった[6]。
アトキンスは、ペニントンが実践していたこの食事法からヒントを得て、患者を診療する際に「炭水化物が多いものを避けるか、その摂取量を可能な限り抑えたうえで、肉、魚、卵、食物繊維が豊富な緑色野菜を積極的に食べる」食事法を奨め、それと並行する形で『Dr. Atkins' Diet Revolution』を書いていた。
2002年、アトキンスは心臓発作を起こして倒れた。これについて、「高脂肪の食事が潜在的にどれほど危険であるかが証明された」という批判を数多く浴びた。しかし、複数のインタビューで、アトキンスは「私が心停止になったのは、以前から慢性的な感染症を患っていたからであって、脂肪の摂取量の増加とは何の関係も無い」と強く反論した[7][8][9]。なお、「食事に含まれる脂肪分の摂取と、肥満や各種心疾患とは何の関係も無い」というのは、炭水化物を制限する食事法を奨める人物に共通の見識である。
2003年4月、ニューヨークに大雪が降り、地面は凍結した。4月8日、アトキンスは通勤のため、凍った路上を歩いている途中、足を滑らせて転倒して頭部を強打し、意識不明の重体となり、集中治療室で手術を受けるも、意識が戻らないまま死亡している[10][11][12]。
ウィリアム・バンティング
炭水化物を避けるか、可能な限りその摂取を制限し、タンパク質と脂肪を重点的に摂取する食事法の創始者は、ロバート・アトキンスが元祖というわけではない。前述した、デュポン社のアルフレッド・ペニントン以前に、ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン( Jean Anthelme Brillat-Savarin, 1755~1826 )、ジャン=フランソア・ダンセル( Jean-François Dancel )、ユストゥス・フォン・リービッヒ( Justus Liebig )、ウィリアム・ハーヴェイ( William Harvey, 1807~1876 )、ウィリアム・バンティング( William Banting, 1796~1878 )、ジョン・ユドキン( John Yudkin, 1910~1995 )といった、歴史上の様々な人物が実践してきた方法である[6]。彼らはいずれも、「肉のような栄養価の高い食べ物は、ヒトを太らせることはない」「ヒトを太らせるのは、小麦粉のような精製された炭水化物、とくに砂糖である」「食事に含まれる脂肪分は、肥満や各種心疾患とは何の関係も無い」と確信していた[6]。アトキンスも著書『Dr. Atkins' Diet Revolution』の中で、「砂糖は始末に負えない厄介な物体」と断じている。
ウィリアム・バンティングは、ロンドン生まれの葬儀屋であった。バンティングは、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。その彼に炭水化物の摂取を制限する食事法を奨めたのは、医師であり友人でもあったウィリアム・ハーヴェイであった。ハーヴェイがこの食事法を学んだのは、フランスの医師、クロード・ベルナールがパリで行った糖尿病についての講演を聴いたのがきっかけであった[13][14]。
クロード・ベルナールの講演を聴く前までのハーヴェイは、「体重を減らすには、激しい身体活動に励めば良い」と考えており、バンティングに対してそうするよう伝えた。バンティングは「早朝に2時間、ボートを漕ぐ」ことにし、テムズ川でボートを漕ぎ続けた。彼の腕の筋力は強化されたが、それとともに猛烈な食欲が湧き、その食欲を満たさねばならなくなり、体重は減るどころかどんどん増えていった。ハーヴェイは友人に対し、「運動を止めなさい」と言った[6]。「運動には体重を減らす効果は無い」と悟ったためである。ハーヴェイから炭水化物の摂取を制限する食事法を教わり、実践したバンティングは、最終的に50ポンド(約23㎏)の減量に成功している。
1863年、バンティングは、減量に成功した食事法や、減量にあたって試しては失敗を続けてきた方法をまとめた『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』(『市民に宛てた、肥満についての書簡』)を出版した。
バンティング自身、『Letter on Corpulence, Addressed to the Public』の中で、「減量に対して何の効果も無い方法」の1つに、「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。イギリスの医師、トマス・ホークス・タナー( en:Thomas Hawkes Tanner, 1824~1871 )も、 著書『The Practice of Medicine』の中で、「肥満を治療するにあたっての『ばかげた』治療法の1つに、「食べる量を減らす」「毎日多くの時間を散歩と乗馬に費やす」を挙げている[6]。
『Letter on Corpulence』はまもなくベストセラーとなり、複数の言語にも翻訳された。その後、「Do you bant?」(ダイエットするかい?)、「Are you banting?」(今、ダイエット中なの?)という言い回しが広まった。この言い回しは、バンティングが実践した食事法について言及しており、時にはダイエットそのものを指すこともある[13]。のちにバンティングの名前から、「Bant」は「食事療法を行う、ダイエットをする」という意味の動詞として使われるようになり、スウェーデン語にもこの言葉が輸入されて使われるようになった[6]。
南ローデシア(現在のジンバブエ)出身の科学者ティム・ノークスは、「低糖質・高脂肪ダイエット」と名付け、この食事法を普及させた[15]。
サイエンス・ジャーナリスト、ゲアリー・タウブスによる著書『Good Calories, Bad Calories』(2007年)では、「A brief history of Banting」(「バンティングについての簡潔な物語」)と題した序章から始まり、バンティングについて論じている[16]。炭水化物の摂取を制限する食事法についての議論の際には、しばしばバンティングの名前が挙がる[17][18][19][20][21]。
なお、バンティングは、この食事法が広まった功績は、自分にではなく、「(この食事法を教えてくれた)ハーヴェイにある」と主張した。
ケトジェニック・ダイエット
1920年代前半には、ミネソタ州ロチェスター市にあるメイヨー・クリニック( Mayo Clinic )の医師、ラッセル・ワイルダー( Russel wilder )が『ケトン食』を開発し、肥満患者・糖尿病患者にこれを処方している。これは食事において、「摂取エネルギーの90%を脂肪から、6%をタンパク質から摂取する」(極度の高脂肪・極度の低糖質な食事)というもの。元々は癲癇を治療するための食事法であったが、「肥満や糖尿病に対しても有効な食事法になりうる」としてワイルダーは開発した。炭水化物とタンパク質の摂取は可能な限り抑え、大量の脂肪分を摂取することで、身体は脂肪を分解して作り出す「ケトン体」( keto )をエネルギー源にして生存できる体質となる。この食事法は『ケトジェニック・ダイエット』として知られるようになる。
アトキンスも著書『Dr. Atkins' Diet Revolution』の中でケトン体について触れており、「炭水化物の摂取を極力抑え、脂肪の摂取量を増やすことで、身体はブドウ糖ではなく、脂肪をエネルギー源にして生存できる」という趣旨を述べ、体重を減らしたい人に向けて、炭水化物を避けるか、その摂取制限を奨めている。
炭水化物制限食の歴史
「太りたくないのなら、炭水化物を避けなさい」と指導する食事法は奇抜でも斬新でもなく、歴史上何度も登場している。方法論がどうであれ、「炭水化物を極力避ける」という点においては、バンティングを初め、過去の様々な人物が実践してきた食事法と同じである。
- ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランは、19世紀前半に出版した著書『味覚の生理学』( 『Physiologie du Goût』 )の中で、
「ヒトを肥満にさせるのは、デンプン質と小麦粉であり、これに砂糖も組み合わせれば確実に肥満をもたらす」
「ヒトにおいても、動物においても、脂肪の蓄積はデンプン質と穀物によってのみ起こる、ということは証明済みである」
「デンプン質・小麦粉由来のすべての物を厳しく節制すれば、肥満を防げるだろう」と明言している[6]。
- 1844年、フランスの外科医で退役軍医、ジャン=フランソア・ダンセル( Jean-François Dancel )は、肥満に関する自身の考えをフランス科学アカデミーで発表した。その著書『Obesity, or Excessive Corpulence』は、1864年に英語に翻訳され、出版された。ダンセルは、
「患者が主に『肉だけ』を食べ、それ以外の食べ物の摂取は少量だけにすれば、一人の例外もなく肥満を治癒できる」
と述べている[6]。
- 「炭水化物を避け、肉だけを食べることで肥満を治癒できる」というダンセルの主張は、ドイツ人の化学者ユストゥス・フォン・リービッヒによる研究を根拠にしており、リービッヒもダンセルも、肉を中心に食べる食事法を信じていた。
ダンセルは、
「肉ではないすべての食べ物(炭素と水素が豊富な食物。つまり炭水化物)は、身体に脂肪を蓄積させるに違いない。肥満を治すためのいかなる治療法も、この原理に基づいている」
「肉食動物は決して太っていない一方で、草食動物は太っている。カバはかなりの量の脂肪のせいで不格好に見える。彼らは植物性の物質(米、キビ、サトウキビ・・・穀物全般)のみを餌にしている」
と述べた[6]。
- 1866年、ベルリンで開催された内科学会にて、「人気のある食事療法」に関する討論会が開かれた。その際、ウィリアム・バンティングが実践した方法は、肥満患者を確実に減らせる3種類の食事法の1つとして取り上げられた。他の2種類はドイツ人の医師が開発したもので、方法は微妙に異なるが、いずれの食事法にも共通するのは以下の2つであった。
「肉は無制限に食べてかまわない」[6]
「デンプン質が豊富なものは完全に禁止とする」[6]
- 1950年代、ミシガン州立大学栄養学部主任マーガレット・オールソン( Margaret Ohlson )は、過体重の学生に従来型の飢餓食(※極度のカロリー制限食)を与えた。彼らの体重はほとんど減らないばかりか、
「すっかり活気が失せ、空腹であることを常に意識し続け、やる気が無くなっている」
と報告した。一方、タンパク質と脂肪を大量に含む食事を摂らせると、平均で週に3ポンド(約1.4kg)減量し、
「食間の空腹感に悩まされることはなく、気分の良さと満足感に包まれた」
と報告した。この食事法を実践した者は、いずれも特別な努力をすることなく体重を減らし、空腹感に悩まされることもなかった[6]。
- オールソンの教え子でコーネル大学の臨床学教授シャーロット・ヤング( Charlotte Young )は、1973年10月にアメリカ国立衛生研究所で開催された会議にて、食事療法に関する講演を行った。医者が肥満について重点的に話し合う会議を定期的に開くようになった1960年代の半ばまでには、食事療法に関する講演が必ず行われており、それらの講演の内容はいずれも「炭水化物を制限する食事法について」であった。これらの会議のうち、5回は、1967年~1974年にかけて、アメリカ合衆国と、欧州各国で開催された。ヤングは、アルフレッド・ペニントンがデュポン社で実践した炭水化物を制限する食事法を研究し、自身の師匠であるオールソンの業績について、この会議で発表した。ヤングは「体重および体脂肪の減少、その割合は、食事に含まれる炭水化物の量と逆相関しているように見える」「炭水化物の摂取量を減らし、脂肪の摂取量を増やすと、体重も体脂肪も大幅に減った」と報告した。炭水化物を制限する食事法について、ヤングは
「空腹感からの解放、異常な疲労感の緩和、満足のいく減量、長期にわたる減量とその後の体重制御への順当さに対する評価において、いずれもすばらしい臨床的成果を見せた」
と述べた[6]。
- 『The Principles and Practice of Medicine』の1901年度版にて、ウィリアム・オスラー( William Osler )は、肥満体の女性に対して「食べ物を食べ過ぎないこと。とくに、デンプン質が豊富な食べ物と砂糖を減らすように」と述べている[6]。
- 1907年、『A Textbook of the Practice of Medicine』にて、ジェームズ・フレンチ( James French )は、「肥満体における過剰な脂肪について、その一部は食べ物に含まれていた脂肪でできているが、その大部分は炭水化物を食べたのが原因で蓄積する」と述べている[6]。
- 1925年、ロンドンにあるセイント・トマス病院医科大学のH. ガーディナー・ヒル( H. Gardiner-Hill )は、炭水化物を制限する食事法を奨めており、医学雑誌『The Lancet』の中で「どのようなパンであれ、45~65%の炭水化物を含んでおり、食パンに至っては最大で60%に達する可能性があり、これらは廃棄されねばならない」と述べている[6]。
- 1936年、デンマークの医師ペール・ハンセン( Per Hansenn )は、「『制限すべきは炭水化物だけであり、身体に脂肪を蓄積させる作用が無いタンパク質と脂肪を、空腹を感じたらいつでも食べて構わない』という点が、この食事法の有利な点である」と述べた[6]。
- 第2次世界大戦終盤、アメリカ海軍が太平洋を西に向かっていたころ、『U.S. Force's Guide』の中で、
「ニューギニアの北東にある群島、カロリン諸島では胴回りの管理に苦労するかもしれない」
「現地人の食べている基本的な食物は、パンノキの実、タロイモ、ヤマノイモ、サツマイモ、クズウコン・・・デンプン質が豊富なものであるため」
と、兵士たちに警告している[6]。
- 1946年に初版が出版されたベンジャミン・スポック( Benjamin M. Spock )による子育て本『Baby and Child Care』にて「体重がどれほど増えるか減るか、は、デンプン質の食べ物をどれぐらい摂取するかで決まる」と記述されている。この文章はその後の50年間、全ての版で使われ続けた[6]。
- 1963年、サー・スタンリー・ディヴィッドソン( Sir Stanley Davidson )と、レジナルド・パスモア( Reginald Passmore )の2人は、『Human Nutrition and Diabetes』を出版した。この本では、
「人気のある『痩せる方法』は、いずれも炭水化物の摂取を制限するものである」
「炭水化物の多いものを食べ過ぎることこそが、肥満の最大の原因であり、その摂取は徹底的に減らすべきである」
と記述されている。同年、パスモアは、イギリスで出版されている栄養学の雑誌『British Journal of Nutrition』にて、以下の宣言で始まる論文の共著者にもなっている。
「全ての女性は、炭水化物の摂取が身体に脂肪を蓄積させることを知っている。これは1つの常識であり、このことに異議を唱える栄養学者は存在しないであろう」[6]
- 1958年にはリチャード・マッカーネス( Richard Mackerness, 1916~1996 )による著書『Eat Fat and Grow Slim』(『脂肪を食べて細身になろう』)、1960年にはヘルマン・ターラー( Herman Taller, 1906~1984 )による著書『Calories Don't Count』(『カロリーは気にするな』)が出版されており、いずれも炭水化物の摂取制限を奨める内容である。
- イギリスの生理学者・栄養学者、ジョン・ユドキン( John Yudkin )は、1972年に出版した著書『Pure, White and Deadly』の中で、「肥満や心臓病を惹き起こす犯人は砂糖であり、食べ物に含まれる脂肪分は、これらの病気とは何の関係も無い」と断じている。また、ユドキンは、「砂糖・小麦粉、その他炭水化物の含有量が多いもの全般を禁止する代わりに、肉・魚・卵・緑色野菜は自由に食べてよい」と主張している。
- サイエンス・ジャーナリストのゲアリー・タウブス( Gary Taubes )は、
「体重を減らしたいのなら、炭水化物を食事から排除すれば成功する。これを守らなければ、減量は必ず失敗に終わる」
「炭水化物ではなく、タンパク質と脂肪の摂取を減らした場合、常に空腹感が付きまとい、その空腹が減量を失敗に導くであろう」
と明言している。
- 肥満や糖尿病に悩む人に向けられたウェブサイト「ダイエット・ドクター」の創設者であり、その最高経営責任者でもあるスウェーデンの医師アンドゥリーアス・イーエンフェルト( Andreas Eenfeldt )は、
「ヒトを病気にさせるのは動物性脂肪ではなく、炭水化物である」「今まで言われ続けてきた、『脂肪の摂取を減らしたり、低脂肪な食事をするように』という『伝統的な食事法』[22]は、何の役にも立たない」「低脂肪の食事は、長期的に見ても『体重の減少に効果がある』との証明はされておらず、食事のあり方を変えるべきである」との立場を明確にしている[23]。2008年にスウェーデンの保険福祉庁とアメリカ糖尿病学会が「炭水化物を制限する食事法は肥満や糖尿病治療に役立つ可能性がある」という評価をくだすも、ある5人のダイエットの専門家がそれを認めなかった。イーエンフェルトはこれに対して大いに疑問視した[24]。2009年、イーエンフェルトは、スウェーデンの医療雑誌『Dagens Medicin』に、スウェーデン食糧庁の「動物性脂肪を避けるように」との警告には何の根拠も無いこと、国が推奨している現在の食事内容をただちに変えるべきであるという内容の記事を、12人の著者とともに共同で寄稿した[25]。
2011年、イーエンフェルトは著書「Low Carb, High Fat Food Revolution: Advice and Recipes to Improve Your Health and Reduce Your Weight」を出版し、炭水化物を制限する食事法を奨めている[26]。本書は英語で書かれ、スウェーデン本国でベストセラーとなり、8つの言語に翻訳された[27]。
「減食と運動は無意味」
「痩身や減量というのは、食事制限や運動をせずして成功しない」[28]と言われることが多い。「食べる量を減らして運動しろ」ということであるが、実際には、この言い分には何の根拠も無い。
肥満患者を治療する臨床医の多くは、1960年代までは、「運動すれば減量できる」「座りっぱなしの生活をしていると太る」「食べ過ぎるから太る」といった考え方を「幼稚」として退けていた。メイヨー・クリニックの医師、ラッセル・ワイルダーもその1人である。1932年、肥満についての講演を行った際に、ワイルダーは以下のように述べている。
「肥満患者は、ベッドの上で安静にしていることで、より早く体重を減らせる。一方で、激しい身体活動は減量の速度を低下させる」「運動を続ければ続けるほどより多くの脂肪が消費されるはずであり、減量もそれに比例するはずだ、という患者の理屈は一見正しいように見えるが、体重計が何の進歩も示していないのを見て、患者は落胆する」[6]
メイヨー・クリニックで医師として働いていたワイルダーは主に糖尿病患者を担当していたが、糖尿病だけではなく、肥満の治療にも関心が高かった。前述のとおり、ワイルダーは「極度の低糖質・高脂肪な食事」であるケトン食を、肥満患者・糖尿病患者に処方し続けた。
「運動は減量に何の効果も無い」と明言している人物は何人もいる。前述のウィリアム・バンティングは『市民に宛てた、肥満についての書簡』の中で「食べる量を減らして運動量を増やす」を挙げている。イギリスの医師トマス・ホークス・タナーも、著書『The Practice of Medicine』の中で、「肥満を治療するにあたっての『ばかげた』治療法の1つに、「食べる量を減らす」「毎日多くの時間を散歩と乗馬に費やす」を挙げている。バンティングに炭水化物制限を教える前のウィリアム・ハーヴェイも、「激しい身体活動に励めば痩せられるはずだ」と考えていた。
1990年代初期、アメリカ国立衛生研究所は、「Women's Health Initiative」と題した、約10億ドルに及ぶ研究を行った。この中で、「低脂肪の食事で心臓病や癌を本当に予防できるか」という研究も同時に行われた。5万人近くの女性を登録し、2万人をランダムに選び、果物・野菜・食物繊維が豊富なもの・脂肪が少ないもの・・・これらを優先的に食べるよう指示した。この食事を続ける意欲を保つため、女性たちは定期的にカウンセリングを受けた。毎日の食事の摂取カロリーは360kcal分減らし、少ない量を食べ続けた。この食事を8年間続けた結果、女性たちは(実験開始前と比べて)1人あたり平均で約1kg体重が減ったが、その腰回りは膨らんだ[6]。この事実が意味するところは、「彼女らの身体から減ったのは脂肪ではなく、筋肉である」ということである。また、研究者らは「脂肪の少ない食事は、心疾患、癌、その他の病気を予防できなかった」とも報告している。彼女らの受けたカウンセリングおよび食事の意味として、意識的か無意識的かを問わず、「少なく食べるよう心掛けた」ことである[6]。「消費カロリーが摂取カロリーを上回れば体重は減る」のが本当であるのなら、この試験に参加した女性たちが太った理由が説明できなくなる。脂肪は1kgにつき、約7000kcalのエネルギーに相当する。彼女らが、毎日の食事の摂取カロリーを360kcal減らしていたのなら、実験を開始して3週間で約1kgの脂肪が減っていたはずであり、1年続ければ約16㎏の脂肪が減る計算になる。試験開始の時点で、参加した女性たちの半数は肥満体であり、大多数は少なくとも過体重であった[6]。
ハーバード大学の研究者ブルース・ビストリアン( Bruce Bistrian )は、「減食(食べる量を減らす)は、肥満に対する処置にも治療法にもならない。最も目立つ症状を一時的に緩和する方法でしかない。もしも減食が肥満に対する処置にも治療にもならないとするなら、これは『過食は肥満の原因ではない』ことを示す」と述べている[6]。「過食が肥満の原因である」という考えに疑問を投げかけるあらゆる理由の中で最も明確なものは、「肥満は、食べる量を減らしても治せない」という事実である。また、肥満は、エネルギーバランス、カロリー理論、過食、熱力学、物理法則とは、何の関係も無い[6]。
2007年、ハーバード大学医学部長ジェフリー・フライアー( Jeffrey Flier )とその妻テリー・マラトス・フライアー( Terry Maratos-Flier )は、雑誌『Scientific American』に論文を寄稿した。その論文の中では「ヒトの食欲とエネルギーの消費について、この2つは人間が意識的に変えられるような代物ではない」「この2つの要素のバランスの補正と結果が脂肪組織の増減につながるなどという、そんな単純な変数ではない」と述べている[6]。
カリフォルニア州ローレンスバークレー国立研究所の統計学者、ポール・ウィリアムズ( Paul Williams )と、スタンフォード大学の研究者ピーター・ウッド( Peter Wood )は、普段からよく走る習慣のある13000人を集め、これらのランナーたちの1週間の累計走行距離と、年ごとの体重の変化を比較する研究を行った。最もたくさん走った人ほど最も体重が少ない傾向こそあったが、これらのランナー全員、「年を重ねるごとに体重が増えていく」傾向にあった[6]。
2007年8月、アメリカ心臓病協会とアメリカスポーツ医学会は、身体活動と健康に関するガイドラインを共同で発表した。この団体の専門家たちは、週に5日、1日に30分程度の精力的な運動が「健康を保ち、促進するために必要である」と述べた。しかし、「肥満になることや痩せたままでいることに対して、運動がどのような影響を与えるのか」という質問になると、彼らは以下のようにしか答えられなかった。
「1日あたりのエネルギー消費の多い人は、それが少ない人に比べて、時間とともに体重が増える可能性が低い、と仮定することは理にかなっている。これまでのところ、この仮説を支持する証拠となるものについては、説得力があるものとは言えない」[6]
イングランドの医師ジョン・ブリファ( John Briffa )は、著書『Escape the Diet Trap』の中で、「Aerobic exercise has little impact on weight loss」(「有酸素運動に減量の効果は無い」)と断言している。
過食実験
2013年、イングランド人のサム・フェルサム( Sam Feltham )は、1日に5000kcalを超えるエネルギーを摂取する過食実験を自らの身体で実施した。最初の21日間で栄養素の構成比を「脂肪53%(461.42g)、タンパク質37%(333.2g)、炭水化物10%(85.2g)」に設定し、1日に「5794kcal」のエネルギーを摂取する生活を21日間続けた。21日後、フェルサムの体重は1.3kg増加したが、腰回りは3cm縮んだ。フェルサムの身体からは脂肪が減り、除脂肪体重が増加し、身体は引き締まった。次に、フェルサムは摂取エネルギーの構成比を「炭水化物64%(892.7g)、タンパク質22%(188.65g)、脂肪14%(140,8g)」に変え、1日の摂取エネルギーを「5793kcal」に調節し、再び21日間過ごした。21日後、フェルサムの体重は7.1kg増加し、腰回りは9.25cm膨らんだ[29][30][31]。
断食・絶食療法
一切の固形物を摂取することなく、水、茶、ブラックコーヒー、ビタミンとミネラルのみで生活することで、自分で肥満を治療するやり方もある。この断食を382日間続け、456ポンド(約207㎏)あった体重を180ポンド(約82㎏)まで減らし、最終的に276ポンド(約125㎏)の減量に成功したスコットランド人、アンガス・バルビエーリ( Angus Barbieri )がいる。バルビエーリが行った断食は、1971年版のギネスブックにも登録されている[32][33]。
間欠的断食
体重を目標もしくはそれ以下まで落としたものの、その後再び体重が増えてダイエット開始前と同じ体重に戻ったり、以前よりも体脂肪率が増加する。これは俗にリバウンドと呼ばれている。減量とリバウンドを繰り返すと、痩せにくく、太りやすい状態となる。
体重のリバウンド現象については、膵臓から分泌されるホルモン、インスリンおよびインスリン抵抗性が原因と考えられている。カナダの腎臓内科医、ジェイスン・ファン( Jason Fung )は、「リバウンドとは、インスリンが設定した体重に戻ろうとすること」と述べている。「体重の『設定値』を決めるのはこのインスリンであり、インスリンが過剰に分泌される状態が続くとともに、インスリンが『体重の設定値のつまみを回す』と、何をどうしようとも、身体はインスリンが設定した体重に戻ろうとする」という[34]。なお、ジェイスン・ファンは、「血中のインスリン濃度が低い状態を維持することにより、インスリン抵抗性を治療し、安定して体重を減らす」手段について、「間欠的に行う断食」( Intermittent fasting )を推進している[35][36]。
ホルモンによる作用で減量する
1965年、医学物理学者のロザリン・サスマン・ヤロウ( Rosalyn Sussman Yalow )と、ソロモン・アーロン・バーソン( Solomon Aaron Berson )の2人は、「脂肪を脂肪細胞から放出させ、それをエネルギーにして消費する」ためには、「“Requires only the negative stimulus of insulin deficiency.”」(「『インスリン不足』という負の刺激以外は必要ない」)と明言した[6]。
BMI
減量するべき場合と、するべきでない場合とがある。
あくまで目安ではあるが、BMI(Body mass index, ボディマス指数と呼ばれる)の数値を見て判断する。BMIにより、「普通体重」と判定される範囲(18.5以上 ~ 25未満)であれば、体重の増減に囚われる心配は無用である。BMIによって「肥満」と判定された場合、とくにその数値がより高ければ高いほど(「肥満度数 2」と比較して「肥満度数 3」、「3」と比較して「肥満度数 4」など)、「減量を推進すべき」とみなされやすい。
BMIの数値が「18.5未満」の人の場合は「痩せすぎ」と判定され、その場合、それ以上体重を減らしてはいけない。見るからに異様に痩せているにもかかわらず、それでも減量を続行しようとして病気を患ったり、命を落とした事例もある(口述)。
手術
痩身を目的とした手術には以下のものがある。手術の効果に関しては個人差が大きく、場合によっては命の危険もある。
- 美容整形のうちの一つとして腹部などの皮下脂肪を切除したり、吸引する(脂肪吸引)。
- レーザーや注射などで脂肪を融解して、老廃物と一緒に体外に排出する(脂肪融解レーザー)。
- 食事量の減少や摂取カロリー量の減少を期待するため、胃の一部を縛ったり、胃の一部を切除したり、胃・小腸をバイパスするという手術が病的肥満患者に行われることがある。
- Roux-en-Y胃バイパス術
- 腹腔鏡下調節性胃バンディング術
- 袖状胃切除術(sleeve gastrectomy:SG)
痩せ薬
どうすれば痩せ、どうすれば太るのかを知らない人につけこんで、痩身にも減量にも役立たない商品やサービスを売りつける業者も存在する[28]。アメリカ合衆国を例に挙げると、その市場規模は約330億ドルだという[37]。しかも、少女らによる減量目的のステロイド剤の使用が社会問題と化している。2005年に行われた報告によれば、女子高校生のおおよそ5%、女子中学生のおおよそ7%が、少なくとも一度はステロイド剤を使用した経験があるという[38]。
種類
「痩せ薬」とされているものについては、以下の種類がある。
事例
ヨーロッパ各国でつい最近まで使われていたものとしてフェンフルラミンがある。脳内にあるセロトニン受容体に直接作用してセロトニンの濃度を高めることにより、食欲を抑制する作用がある。アメリカ合衆国では1996年に許可が下り、市場に出回った。しかし、その翌年に心臓弁膜症と肺高血圧を誘発する危険性を指摘されたことで、FDAの要請に基づいて市場から回収された。日本でも、このフェンフルラミンや甲状腺ホルモンの混入した健康食品が、インターネットや口コミを通じて出回り、重大な健康被害を引き起こす例が多発して社会問題になった(2002年)。
EMEAやFDA、厚生労働省により承認された痩せ薬の多くは中枢神経系に作用する薬物であり、これらの薬は少なくとも、日本においては本来医師が処するものであり、実際に日本で承認されているマジンドールは処方箋医薬品である。しかし、日本においてはマジンドール以外の薬物は承認されておらず、かつその適応基準は非常に厳格に設定されている(後述)。
現在EMEAあるいはFDAに認可されている痩せ薬はBMI≧30の高度肥満症であるか、BMI≧27でかつ2型糖尿病や脂質代謝障害などの基礎疾患を有している人が投与対象である[39][40][41][42]。特に、日本における投与についてはBMI≧35または70%以上の肥満度の高度肥満症であること(マジンドールの適用基準)が前提となっており、一段と厳しい基準を課している[43]。
以上のような基準を満たさない人は、痩せ薬の本来の投与対象でないため、医師による処方はなされないと考えてよい。
宣伝を行う業者
いずれも痩身効果は医学的に証明されておらず、疑似科学に近い(これに関連して、TVやインターネットで紹介された減量法は、いずれも何の根拠も無いものであったり、実験データを捏造したり、不十分であったりして、健康被害が発生した例が実際に報告されている[44])。
1. サプリメントを服用することにより、結果として食事の内容や量、バランスを変化させたのと同様の効果を期待するというもの。その類のサプリメントには大きく分けて、
- 「通常の食事の代わりに服用して満腹中枢を刺激する(結果として摂食量の減少が期待できる)」とされるもの
- 「食事中に含まれる、熱量となる栄養素の一部吸収を阻害する」とされるもの(例:カテキン、キトサン)がある[注 1]。
2. 主に脂肪を物理的に刺激することで部分的に減量することを目的とする。
- 利用される方法は熱(「サウナスーツ」。 発汗作用により、一時的に体重を減らす)、高周波振動(電動式痩身ローラー・ベルト)、低周波振動(マッサージ器)、磁力 etc.
- エステティックサロンなどで行われているマッサージによる「脂肪のもみ出し」 ・・・ これは脂肪の流動性を高める、あるいは脂肪細胞を破壊し血中に溶出させ脂肪量を減少させる、というもの。だが、脂肪細胞といえどあくまで他組織と密接に関係する生体組織であり、マッサージを受けることで温度が上昇し、一時的に柔らかくなることはあっても流動性が高くなったり移動したりするものではない(そのようなことで移動していては脂肪細胞のほとんどすべてが足に集まってしまう)。また、マッサージで実際に脂肪細胞を破壊するような力を加えたならば、周辺組織の破壊を伴う重傷を負うであろう
- 補正下着(ガードル、ボディスーツ) ・・・ 細身の外見に見せることが可能。だが、痩身効果や体型の補正効果が医学的に示されたことは1度もない。マルチ商法やネットワークビジネスで販売されることが多い
なお、これらはいずれも減量の効果は一切無い。
詐欺
どうすれば太るのか、どうすれば痩せるのかを知らない人に付けこむ形で、健康被害や詐欺の事例がしばしば発生する。例として、以下のようなものがあげられる。
- 副作用が強い薬や、有害な成分を含むダイエット食品
- 期待される効果やサービスの内容に対して著しく料金が高額なもの
- 科学的に効果が期待できないもの
- 宣伝・勧誘の方法に問題があるもの
これらにも減量の効果は一切無い。
精神疾患
最初は美容の目的で手段として体重を減らしたが、次第に「手段の目的化」がおこり、体型を客観的に把握できず単純に体重の数値のみに拘泥する状態になることがある。これが行き過ぎると、自身が理想としている体型への強い渇望感が変質して生じる「神経性無食欲症」( anorexia, 「拒食症」とも)と呼ばれる精神疾患に罹患することがある。ファッションモデルをやっていたアナ・カロリナ・レストンや、ルイゼル/エリアナ・ラモス姉妹は、体重の増減に憑りつかれた挙句、栄養失調が原因で死亡している。
脚注
- 注
出典
- ^ 広辞苑 第六版「痩身」
- ^ a b c 『見てわかる!栄養の図解事典』p.10-18
- ^ Noorden, Karl (1907). Metabolism and practical medicine. 1320. p. 693 - 695.}
- ^ Gary Taubes (2002年7月7日). “What if It's All Been a Big Fat Lie?”. The New York Times 2016年3月20日閲覧。
- ^ Mariani, John F. (2013). “Atkins, Robert (1930-2003)”. The encyclopedia of American food and drink. ISBN 9781620401613
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad Taubes, Gary (2010). Why We Get Fat. New York City: Alfred A. Knopf. ISBN 978-0-307-27270-6
- ^ “Dr Robert Atkins: Apostle of protein gluttony as a passport to health, wholesomeness and the perfect figure”. The Times (London). (2003年4月18日) 2017年11月30日閲覧。(要購読契約)
- ^ “Defending Dr. Atkins”. msnbc.com. 2014年10月4日閲覧。
- ^ “Atkins diet author home after cardiac arrest”. CNN. (2002年4月25日). オリジナルの2010年9月9日時点におけるアーカイブ。
- ^ “Report Details Dr. Atkins's Health Problems”. Wall Street Journal. 2015年1月1日閲覧。
- ^ McCool, Grant (2003年4月18日). “Low-carb diet pioneer dies at 72”. The Guardian (London) 2009年10月29日閲覧。
- ^ Martin, Douglas (2003年4月18日). “Dr. Robert C. Atkins, Author of Controversial but Best-Selling Diet Books, Is Dead at 72”. The New York Times
- ^ a b Groves, PhD, Barry (2002年). “WILLIAM BANTING: The Father of the Low-Carbohydrate Diet”. Second Opinions. 2007年12月26日閲覧。
- ^ {{cite EB1911 | wstitle=Corpulence | volume=7 | pages=192–193 }
- ^ “Scientist lives as hunter-gatherer: Proves Tim Noakes' Banting diet REALLY improves health”. BizNews.com (2017年7月4日). 2018年6月5日閲覧。
- ^ Taubes, Gary (2007). Good Calories, Bad Calories: Challenging the Conventional Wisdom on Diet, Weight Control, and Disease. Knopf. ISBN 978-1-4000-4078-0
- ^ “Atkins and other low-carbohydrate diets: hoax or an effective tool for weight loss?”. Lancet 364 (9437): 897–9. (2004). doi:10.1016/S0140-6736(04)16986-9. PMID 15351198.
- ^ Bliss M (2005). “Resurrections in Toronto: the emergence of insulin”. Horm. Res. 64 Suppl 2 (2): 98–102. doi:10.1159/000087765. PMID 16286782.
- ^ Bray GA (2005). “Is there something special about low-carbohydrate diets?”. Ann. Intern. Med. 142 (6): 469–70. doi:10.7326/0003-4819-142-6-200503150-00013. PMID 15767625.
- ^ “Restoration of coronary endothelial function in obese Zucker rats by a low-carbohydrate diet”. Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 292 (5): H2093–9. (2007). doi:10.1152/ajpheart.01202.2006. PMID 17220180.
- ^ “Review on "Atkins Diabetes Revolution: The Groundbreaking Approach to Preventing and Controlling Type 2 Diabetes" by Mary C. Vernon and Jacqueline A. Eberstein”. Nutr Metab (Lond) 1 (1): 14. (2004). doi:10.1186/1743-7075-1-14. PMC 535347. PMID 15535891 .
- ^ https://web.archive.org/web/20130112032640/http://www.slv.se/grupp1/Mat-och-naring/Kostrad/
- ^ http://www.lakartidningen.se/engine.php?articleId=10235
- ^ http://www.lakartidningen.se/engine.php?articleId=9961
- ^ http://www.dagensmedicin.se/debatt/livsmedelsverket-bor-omedelbart-sluta-med-kostrad-till-allmanheten
- ^ http://www.ssdf.nu/tidningen/artikel.php?id=1272
- ^ Mullens, Anne (3 Feb 2017). Stick to This Diet If You Want to Reverse Diabetes Risk Factors—or Avoid Them Completely. Reader’s Digest.
- ^ a b NHK「『いままでにないダイエット』 表示やめるよう命令」
- ^ “Smash the Fat – Calories Part XI”. 2019年9月29日閲覧。
- ^ “Halfway Through My 21 Day 5,000 Calorie Experiment”. 2019年9月29日閲覧。
- ^ Round Up of The 21 Day 5,000 Calorie Challenge - YouTube
- ^ “Features of a successful therapeutic fast of 382 days' duration”. 2019年9月29日閲覧。
- ^ “The tale of Angus Barbieri who fasted for more than a year – and lost 21 stone”. 2019年9月29日閲覧。
- ^ Fung, Jason (2016). The Obesity Code: Unlocking the Secrets of Weight Loss. Greystone Books,Canada. ISBN 9781771641258
- ^ Jason Fung (2016年12月19日). “Fasting myths”. dietdoctor.com. 2019年9月29日閲覧。
- ^ Jason Fung (2016年9月11日). “Intermittent fasting for beginners”. dietdoctor.com. 2019年9月29日閲覧。
- ^ 「“夢のやせ薬”、開発競争の裏側 20社余りの製薬会社が、肥満治療薬の市場に参入」『日経ビジネスオンライン』日経BP社、2008年3月17日付配信
- ^ 米国少女たちの危険なダイエット=ステロイド使用が社会問題に livedoor (AP通信)
- ^ [1][リンク切れ]
- ^ [2][リンク切れ]
- ^ [3][リンク切れ]
- ^ [4]
- ^ “サノレックス錠0.5mg 添付文書” (PDF). 日本医薬情報センター(JAPIC) (2014年12月). 2016年8月4日閲覧。
- ^ [5]