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[[ファイル:Visualization of the persistence homological scaffolds.jpg|サムネイル|脳の異なる部位が連絡して働く様子を視覚化した図。右:シロシビン影響下にて脳の各部位は多様に連絡しあう。左:通常時。<ref name="pmid25401177">{{cite journal|last1=Vaccarino|first1=F.|last2=Petri|first2=G.|last3=Expert|first3=P.|coauthors=et al.|title=Homological scaffolds of brain functional networks|journal=Journal of The Royal Society Interface|volume=11|issue=101|pages=20140873–20140873|year=2014|pmid=25401177|pmc=4223908|doi=10.1098/rsif.2014.0873|url=http://rsif.royalsocietypublishing.org/content/11/101/20140873}}</ref>]] |
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脂溶性のシロシンが中枢神経系に容易に移行し作用の主体となる<ref name="臨床中毒学"/>。シロシビンはアルカリホスファターゼや一般的なエステラーゼによって加水分解されシロシンとなる<ref name="臨床中毒学"/>。セロトニンに類似した物質であり、セロトニン受容体の5HT<sub>2A</sub>受容体に主として親和性がある<ref name="臨床中毒学"/>。 |
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2017年12月19日 (火) 17:47時点における版
シロシビン | |
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[3-(2-dimethylaminoethyl)-1H-indol-4-yl] dihydrogen phosphate | |
別称 インドシビン、Cy-39 | |
識別情報 | |
CAS登録番号 | 520-52-5 |
PubChem | 10624 |
ChemSpider | 10178 |
日化辞番号 | J6.604D |
KEGG | C07576 |
特性 | |
化学式 | C12H17N2O4P |
モル質量 | 284.25 g mol−1 |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
シロシビンあるいはサイロシビン(Psilocybin、4-ホスホリルオキシ-N,N-ジメチルトリプタミン)は、マジックマッシュルームと一般に称されるキノコに含有される成分で、幻覚剤に分類される、インドールアルカロイドの一種。同じく菌内で共存しているシロシン(Psilocin)のリン酸エステルであり、シロシビンの加水分解により作用の主となるシロシンとなる。シビレタケ属やヒカゲタケ属といったハラタケ目のキノコに含まれる。
リゼルグ酸ジエチルアミド (LSD) とも似た化学構造を持ち、作用も似ている。向精神薬に関する条約で規制されている。日本では麻薬及び向精神薬取締法により、シロシンと共に厳しく規制されている。
イギリスでは、治療抵抗性うつ病や[1]、禁煙[2]に対する効果の臨床試験が進行している。
歴史

シロシビンを多く含む幻覚性キノコは、かなり古くからバリ島やメキシコなどではシャーマニズムに利用されてきた。
1957年にアメリカの菌類学者のロバート・ゴードン・ワッソンによるメキシコ実地調査の記録がアメリカの『ライフ』で「魔法のきのこを求めて』として掲載されキノコの存在が公になる。フランス国立自然史博物館の館長のロジェ・エイムはワッソンンに同行したりして、この地方を探検し、シロシベ・メキシカーナ・アイムと名付けた種のキノコを自分の研究室で人工栽培した[3]。このキノコから成分を抽出しようという研究が同博物館において行われることとなり、製薬会社のメルク社とスミス・クライン・アンド・フレンチ社も研究グループを使って取り組んだが、成果を得ず、エイムはパリのサンド社を介して問い合わせた[3]。スイス本社でLSDを合成したアルバート・ホフマンの研究経験が生かされるのではということで、エイムはホフマンを訪れ、サンド社においてもホフマンの元で研究が行われた[3]。エイムが栽培したキノコが用いられ分離してみるが結果を経ず、LSDの場合と同様に、ホフマンは自ら生体実験を行い強い作用を示し、そして多くの同僚がモルモットになってくれたおかげで、最終的に純粋な成分を蒸留しシロシン、シロシビンと名付けられた[3]。
ホフマンとその同僚とエイムは研究に従事し、当初はキノコに品種改良を施し論文を寄稿し、化学構造の特定などを行っていった[3]。
性質
シロシビンはシロシンのリン酸エステルであり、どちらも同様の作用があるが、シロシンの分子は不安定で酸素によって急速に破壊されるが、シロシビンは極めて安定した物質である[3]。LSDと共通の化学特性および化学構造がある[3]。生物が生じさせるインドール化合物について重要な物質である[3]。脳内の神経伝達物質であるセロトニンに近い化学構造を持つ[3]。熱に安定しており、紅茶、スープ、シチュー、オムレツといった調理では破壊されない[4]。シロシビンは水溶性であり、脂溶性のシロシンである[4]。
生合成
シロシビンは、生合成的にトリプトファンに由来するアルカロイド(インドールアルカロイド)で、脱炭酸されたトリプトファンはトリプタミンとなり、それがインドールアルカロイドの前駆体となる。
薬理作用

脂溶性のシロシンが中枢神経系に容易に移行し作用の主体となる[4]。シロシビンはアルカリホスファターゼや一般的なエステラーゼによって加水分解されシロシンとなる[4]。セロトニンに類似した物質であり、セロトニン受容体の5HT2A受容体に主として親和性がある[4]。
症状は、摂取してから30分ほどで悪寒や吐気を伴う腹部不快感があり、1時間も過ぎると瞳孔が拡大して視覚異常が現れ始め、末梢細動脈は収縮して血圧が上がる。言わば、交感神経系が興奮した時と似た状態である。2時間ほど後には幻覚、幻聴、手足の痺れ、脱力感などが顕著に現れて時間・空間の認識さえ困難となる。
4~8時間でほとんど正常に戻る[4]。作用が似ているLSDでは8-12時間である[3]。
薬物動態
摂取後は速やかに加水分解されてシロシンとなり、腎臓・肝臓・脳・血液に分布する。ヒトの中毒量は5-10mg程度(乾燥したシロシベ・クベンシスで1-2g相当)。15mg以上も摂取すると、LSD並の強烈な幻覚性が発現する。成長したヒカゲシビレタケ、オオシビレタケで2、3本、アイゾメシバフタケだと5、6本で中毒する。分離したシロシビンを直接静脈注射すると、数分で効果が現れる。
LSDあるいはメスカリンと同時に摂取した場合、類似の構造をもつ物質であるために交差耐性ができる[6]。
副作用
シロシビンの致死量は、標準使用量の1000倍であり、これが狭いものは例えばアルコールは約11倍である[7]。痙攣や昏睡などの重症例は極めて稀で、死亡するようなことはまずないが、幼児や老人が大量に摂取すると重篤な症状に陥ることもある。
制御された条件で害の兆候はなく、依存性もない[7]。シロシビンを好む傾向は嗜癖と呼ばれる。他の副作用としては、バッドトリップを体験することがある。
視覚的体験が再燃するフラッシュバックについて、シロシビンを用いたいくつかのランダム化比較試験では報告されていない。シロシビン使用後に起こって持続する精神医学的な症例報告はほとんどない。むしろ生涯におけるシロシビンの使用は、精神医学的な入院や薬の処方が少ないことに関連している。[8]
シロシビン単体ではないが、シビレタケ属の一種で、シロシビン含有量の多いシロシベ・ベオシスチン(Psilocybe baeocystin)を子供が誤食して死亡した例が報告されている。ベニテングタケやテングタケに代表されるイボテン酸の中毒症状は、最終的に意識が消失していく傾向にあるのに対し、シロシビン中毒では過覚醒が発現することが多い。
中毒
活性炭が投与できれば胃洗浄は不要である [4]。発作などの重症はきわめてまれで、死亡例もほとんどない[4]。刺激の少ない部屋で6時間ほど経過観察し、興奮があれば2-5mgのジアゼパム、幻視があれば1-2mgのリスペリドンを用いる[4]。トライエージでのシロシンの検出はできない[4]。
規制の弊害
上記のような副作用に比して、また治療研究も存在するが、国連の向精神薬に関する条約におけるスケジュールI(最も厳しい規制)を順守するには、50回分である1グラムを生産するのに10万ポンド(約1500万円)となっており、これを扱えるライセンスを持つ病院は少なく、警察の巡回や保管と輸送に関する難儀な規則があり、より有害な薬物よりも5-10倍の費用がかさむことになる[7]。つまり厳しい規制は害を防止するよりも、害を引き起こす可能性の方が高い[7]。
医療用途
2000年ごろには、アメリカでは、強迫性障害や、群発性頭痛にシロシビンの臨床試験を行ない、一定の効果を得たという報告もある[9][10]。
イギリスでは、医学研究審議会(MRC)の資金提供を受け、2015年に治療抵抗性うつ病に対する研究が開始され[1]、その結果、8年から30年のうつ病を患う患者12人の約半分は、服用体験から3週間後に寛解に達した(うつ病の基準を満たさなかった)[11]。またシロシビンと認知行動療法を併用して、ニコチン依存症(たばこの喫煙)に対する治療研究もなされている。禁煙のためにシロシビンを用いた被験者15人の予備的な研究が行われており、半年後では、心理療法やほかの薬物療法の通常35%未満の禁煙率よりも大幅に多い80%という経過が報告されている[2]。アルコール依存症では、被験者10人中の数人は試験から脱落や除外があったが、36週目でも飲酒を減少させていた[12]。
アメリカの成人の全国調査では、19万人から生涯におけるシロシビンとLSDが、心理的苦痛や自殺思考、また自殺計画や自殺企図の減少と関連していることが分かった[13]。
シロシビンを含む菌類
シロシビン、シロシンを含むのはハラタケ目のキノコで、同じ種でも採取場所や時期によっても含有量は異なってくるが、特に多量にシロシビンを含む属として、前述のシビレタケ属、ヒカゲタケ属と、日本では小笠原諸島などに分布する熱帯性のアイゾメヒカゲタケ属が挙げられる。僅かでも含むものも数えれば、その数は200種以上にも及ぶ。その中には、シロシビン以外の毒が共存するキノコも少なからず存在する。
日本で法規制前に、合法ドラッグとして市販されていたシロシビン含有キノコの代表的なものとして、シロシベ・クベンシス(ミナミシビレタケ)、シロシベ・アズレンシス(P. azurenscens)、シロシベ・メキシカーナ(俗名:メキシカン/P. mexicana)、コーポランディア・サイアネンシス(俗名:ハワイアン/アイゾメヒカゲタケ/Copelandia cyanescens)などの北中米原産種がよく知られる。
2002年の規制時に取り締まり種として通達されたものは、シビレタケ属 Psilocybe の、ヒカゲシビレタケ P. argentipes、ミナミシビレタケ(別名:ニライタケ) P. cubensis、アイセンボンタケ P. fasciata、ヤブシビレタケ P. lonchophorus (日本での自生は未確認)、オオシビレタケ P. subaeruginascens、アイゾメシバフタケ P. subcearulipes、シビレタケ P. vanenata。ヒカゲタケ属 Panaeolusのワライタケ P. papilionaceus、ヒカゲタケ P. sphinctrinus (ワライタケと同じもの)、センボンサイギョウガサ P. subbalteatus。アイゾメヒカゲタケ属の Copelandia、アイゾメヒカゲタケ C. cyanescens。また、海外種としてシロシベ・タンパネンシス Psilocybe tampanensis。ただし、規制対象はシロシビンを含有するキノコ類である。

- フウセンタケ科 Cortinariaceae
- ケコガサタケ属 Galerina (猛毒のα-アマニチンも含む)
- チャツムタケ属 Gymnopilus
- アセタケ属 Inocybe
- オキナタケ科 Bolbitiaceae
- フミヅキタケ属 Agrocybe
- コガサタケ属 Conocybe
- ヒカゲタケ属 Panaeolus
- ジンガサタケ属 Anellaria
- アオゾメヒカゲタケ属 Copelandia
- ヒメシバフタケ属 Panaeolina
- モエギタケ科 Strophariaceae
- クリタケ属 Hypholoma (ニガクリタケは猛毒)
- シビレタケ属 Psilocybe
- キシメジ科 Tricholomataceae
- ヒナノヒガサ属 Gerronema
- クヌギタケ属 Mycena
- ウラベニガサ科 Pluteaceae
- ウラベニガサ属 Pluteus
映画
- A New Understanding: The Science of Psilocybin - 2015年のドキュメンタリー。シロシビンによる不安、抑うつ、身体的な痛みを緩和する治療研究を特集している。
出典
- ^ a b Nutt, David (2014). “Help luck along to find psychiatric medicines”. Nature 515 (7526): 165–165. doi:10.1038/515165a. PMID 25391924 .
- ^ a b Johnson, M. W.; Garcia-Romeu, A.; Cosimano, M. P.; et al. (2014). “Pilot study of the 5-HT2AR agonist psilocybin in the treatment of tobacco addiction”. Journal of Psychopharmacology 28 (11): 983–992. doi:10.1177/0269881114548296. PMC 4286320. PMID 25213996 .
- ^ a b c d e f g h i j A.ホッフマン 著、(監訳)福屋武人、(翻訳)堀正、榎本博明 訳『LSD-幻想世界への旅』新曜社、1984年。 LSD-MEIN SORGENKIND, 1979.
- ^ a b c d e f g h i j 上條吉人 著、相馬一亥(監修) 編『臨床中毒学』医学書院、2009年10月、233-236頁。ISBN 978-4260008822。
- ^ Vaccarino, F.; Petri, G.; Expert, P.; et al. (2014). “Homological scaffolds of brain functional networks”. Journal of The Royal Society Interface 11 (101): 20140873–20140873. doi:10.1098/rsif.2014.0873. PMC 4223908. PMID 25401177 .
- ^ レスター・グリンスプーン、ジェームズ・B. バカラー 『サイケデリック・ドラッグ-向精神物質の科学と文化』 杵渕幸子訳、妙木浩之訳、工作舎、2000年。ISBN 978-4875023210。46頁。(原著 Psychedelic Drugs Reconsidered, 1979)
- ^ a b c d Rucker, J. J. H. (2015). “Psychedelic drugs should be legally reclassified so that researchers can investigate their therapeutic potential”. BMJ 350 (may26 20): h2902–h2902. doi:10.1136/bmj.h2902. PMID 26014506.
- ^ Lu, Lin; Krebs, Teri S.; Johansen, Pål-Ørjan; et al. (2013). “Psychedelics and Mental Health: A Population Study”. PLoS ONE 8 (8): e63972. doi:10.1371/journal.pone.0063972. PMC 3747247. PMID 23976938 .
- ^ WIRED.jp (2004年10月1日). “幻覚剤の治療臨床試験、本格化へ(上)”. 2009年11月22日閲覧。
- ^ WIRED.jp (2004年10月1日). “幻覚剤の治療臨床試験、本格化へ(下)”. 2009年11月22日閲覧。
- ^ Nutt, David J; Carhart-Harris, Robin L; Bolstridge, Mark; et al. (2016). “Psilocybin with psychological support for treatment-resistant depression: an open-label feasibility study”. The Lancet Psychiatry 3 (7): 619–627. doi:10.1016/S2215-0366(16)30065-7. PMID 27210031 .
- ^ dos Santos, R. G.; Osorio, F. L.; Crippa, J. A. S.; et al. (2016). “Antidepressive, anxiolytic, and antiaddictive effects of ayahuasca, psilocybin and lysergic acid diethylamide (LSD): a systematic review of clinical trials published in the last 25 years”. Therapeutic Advances in Psychopharmacology 6 (3): 193–213. doi:10.1177/2045125316638008. PMC 4910400. PMID 27354908 .
- ^ “Psychedelic drug use could reduce psychological distress, suicidal thinking, study suggests”. ScienceDaily. (2015年3月9日) 2015年11月1日閲覧。
外部リンク
- Psychedelic research group (英語) (インペリアル・カレッジ・ロンドン)