失われた都市Z

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パーシー・フォーセット(1911年撮影)

失われた都市Z(うしなわれたとし ゼット、:Lost City of Z)は、イギリスの探検家パーシー・フォーセット英語版ブラジルマットグロッソ州のジャングルの中に存在すると考えていた先住民の都市。

失われた都市Zという名称はフォーセット自身が命名した。

フォーセットは、南アメリカの初期の歴史とアマゾン川流域の探検で得た知見に基づき、かつてこの地には複雑な文明が発生し今でもその遺跡が残っている可能性があるという理論を立てた[1]

導入[編集]

アマゾンには有史以来高度な文明が栄えたことはないとされる。アマゾンの環境は過酷で食物も育たず、人口の増加も望めなかったため、様々な文化や技術もまったく発展しなかった[2]

しかし、コンキスタドールたちの年代記には、神殿を建造して精巧な工芸品も生み出していた『白く輝く都市』の目撃談などアマゾンに文明が栄えたことを示す証言が数多く残されている[3]

年代記はそれらの記述から学者によって信用出来ない代物だとされていたが、フォーセットは自身がアマゾンを探検した経験から、年代記には事実が含まれていると感じた[4]エルドラドの黄金郷伝説は作り話だとしても、文明に関する記述や女性戦士などについては実在したか、モデルがあるだろうと考えた[4]

フォーセットは探検の合間を縫って過去に南アメリカを探検した人々の年代記を調査していた。

1753年に発見された都市[編集]

フォーセットはブラジル国立図書館英語版でポルトガル人バンデイランテスが書き残した『1753年発見の......大きな隠された古代都市の史記英語版』という文書を発見した[5]。この文書は当時のブラジル総督ルイス・ペレグリノ・デ・アタイデポルトガル語版に宛てられたものである[6]。フォーセットはこの文書がアマゾンに文明が存在した重要な証拠だと考えていた[7]

文書は、1753年、ミナス・ゲライスに住む名もなき男(名前は失われている)がムリベカ銀山を探しに行くところからスタートする[8]。地図や測量など無い時代で進む方向は適当だったが、フォーセットの調査によると男の一団は北に向かったという[8]。彼らは10年もの間、銀山を求めて一帯を彷徨ったが、得るものは何も無く、海岸沿いにある植民地に向けて東に進むことにした[9]

途中、森林地帯の平原の先に、切り立った山が現れた。男は探検心から、その向こうの景色を見たくなり、登頂を試みたが、山は絶壁で登ることが出来なかった[10]。一行は夜営をすることになり、ホセとマノエルにたき木を探しに行かせた。2人はたまたまシカを見かけ、その姿を追っていったところ、頂上に登っていけそうな割れ目を見つけた[10]。その発見を聞き付けた一行は夜営を取り止めて、登頂を再開し、時間を掛けて山頂まで辿り着いた[11]

頂上から景色を眺めたところ、山の麓から4マイル先に巨大な都市があった[11]

一行はその都市がスペインの植民地かもしれないので急いで身を隠した[11]。一行は麓に降りていって道から離れた小川近くにたどり着きそこで夜営した。名もなき男はポルトガル人2人、黒人4人の偵察隊を結成して、都市の詳細を調査させに行かせたが、人が住んでいるような気配はなく、そもそも付近に遮蔽物が何も無いため都市に近くことは出来なかった[12]。そこで一行に同行してきた先住民を偵察に出すことにした[12]。彼は一行に都市は無人だとの報告をもたらしたので都市に向かうことになった[12]

都市は廃墟になってから久しいようで、地面に埋没している建物やコウモリの排泄物で埋まってしまった建物もあった[13]。至るところの地面が割れていることから都市は地震に襲われて滅んだものと推察された[13]

都市の外方には植物に覆われた城壁があり、そこを進むと、3つのアーチがある門が現れた[14]。真ん中のアーチの上には正体不明の文字が刻まれた石があった[14]。アーチを潜ると広い通りがあり両端には2階建ての家が連なっていた[14]。通りは大きな広場に接続されて、その広場の四隅には黒石の尖塔があり、中央には黒石の柱と北を指差しながら別の手を腰に当てた男の像があった[15]

男がこの都市から書き写したもの。彫られていた場所は、1番目が宮殿らしき建物の上、2番目と3番目は大瀑布近くの洞窟、4番目が都市から少し離れた位置にある遺跡である[16]

広場には宮殿らしき建物があり、その玄関の上部にはギリシャ文字らしきものや青年の像があった[15]。宮殿の向かい側には神殿らしき建物があり、ここの入り口の上にも文字らしきものが刻まれていた[13]。広場の向こうには川があり、それを渡った場所、都市から4分の1マイル離れた所には、文字が刻まれた石碑やカラフルな石で出来た階段がある建物があった[13]

ホアン・アントニオ(唯一名前が残っている人物)が都市で金貨を拾ったことから、一行の都市に対する見方が恐怖から欲望に様変わりした[17]。都市には急いで逃げた住民たちの財宝が遺されていると考えられるが、詳細は語られてないため不明である[17]

男は川近くの森林から入り文明世界へと帰還することにした。いったんここを出て財宝を運搬するための探検隊を引き連れてから、この都市に戻ってくる予定だった[18]。なお、都市の位置については不明だが、一行の先住民が覚えてくれるだろうと考えた[18]

都市を離れて50マイル進むと大瀑布があり、その絶壁には鉱山跡があった[18]。男たちは東に向かって進み、サン・フランシスコ川に着いてからパラグァッス川を経由してバイアに到着した[19]。男は都市の財宝と鉱山を自分たちのものにするため、バイアからブラジル総督のアタイデに手紙を送ったが、スルーされた[19]

それ以降の男や都市の運命については、不明である[19]。100年後にブラジル政府がこの文書を発見し、探検隊が組まれたが、何の成果も上げられなかった[19]

フォーセットによるとブラジルにはこの様な失われた都市が点在しているという[20]

前述したように都市の神殿や彫像には象形文字かギリシャ文字に類似した謎の図もしくは文字が刻まれていた[21][22]。名もなき男はその文字らしきものを史記に書き写しており、史記を見たフォーセットはそれを自分の日記に模写している[21][22]

アラビアンナイトの翻訳で有名な探検家のリチャード・バートンもこの文書を読んでアマゾンのジャングルに赴き、そこでの探険を綴ったExplorations of the Highlands of Brazil: With a Full Account of the Gold & Diamond Minesを出版した[16]

探検[編集]

最初[編集]

文書はバイーア州のsertãoでの探検の後に書かれた[i]。フォーセットがZ発見にむけて探検の準備をしているときに第1次世界大戦が勃発しイギリス政府の支援を受けられなくなった。フォーセットはイギリスに戻って西部戦線に従事した。 1920年、都市を発見するために個人的な探検に乗り出したが、結果的に熱に苦しまされ荷物を運搬する動物を射殺することになったので探検を諦めた[1]

最後[編集]

5年後に行われた2回目の探検でフォーセットとその息子のジャック、ジャックの友人のローリー・ライメル(Raleigh Rimell)はマットグロッソのジャングルで姿を消した。

デッド・ホース・キャンプの位置に関する議論[編集]

後年の発見[編集]

研究者はシングー川上流近くにあるKuhikugu遺跡について先住民から聞いた情報がフォーセットの考えに影響を与えたと考えている[23]。Kuhikugu遺跡はフォーセットがジャングルで死亡した後と思われる1925年に西欧人によって発見された。この遺跡で発見された20の町や村にはかつて5万人もの人々が住んでいた可能性がある。アマゾニア南部の河間地域では大きな幾何学的な土塁(geometrical earthworks)が発見された[24]

2022年5月にボリビアのリャノス・デ・モホス地域のジャングルで発見されたカサラベ文化の古代都市はフォーセットの理論を後押しするものと考えられる[25]

フィクションにおけるZ[編集]

2016年には、原作をデイヴィッド・グラン英語版、脚本をジェームズ・グレイが務めた映画『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』が公開され、チャーリー・ハナムロバート・パティンソントム・ホランドシエナ・ミラーらが主演を務めた[26]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ See Fawcett's book Exploration Fawcett (1953).

出典[編集]

  1. ^ a b Grann, David (September 19, 2005). “The Lost City of Z”. The New Yorker LXXXI (28): 56–81. ISSN 0028-792X. http://www.newyorker.com/magazine/2005/09/19/the-lost-city-of-z. 
  2. ^ グラン(2010年)p.36、p.37
  3. ^ グラン(2010年)p.169
  4. ^ a b グラン(2010年)p.168
  5. ^ グラン(2010年)p.173
  6. ^ フォーセット(1961年)p.172
  7. ^ グラン(2010年)p.171
  8. ^ a b フォーセット(1961年)p.162
  9. ^ フォーセット(1961年)p.163
  10. ^ a b フォーセット(1961年)p.164
  11. ^ a b c フォーセット(1961年)p.165
  12. ^ a b c フォーセット(1961年)p.166
  13. ^ a b c d フォーセット(1961年)p.169
  14. ^ a b c フォーセット(1961年)p.167
  15. ^ a b フォーセット(1961年)p.168
  16. ^ a b English Translation of Manuscript 512”. Fawcett Adventure website(web.archive.org) (2010年2月27日). 2022年12月8日閲覧。
  17. ^ a b フォーセット(1961年)p.170
  18. ^ a b c フォーセット(1961年)p.171
  19. ^ a b c d フォーセット(1961年)p.172
  20. ^ フォーセット(1961年)p.172~p.174
  21. ^ a b フォーセット(1961年)p.168
  22. ^ a b グラン(2010年)p.174
  23. ^ Grann, David (2009). The Lost City of Z: A Tale of Deadly Obsession in the Amazon. Doubleday. ISBN 978-0-385-51353-1 
  24. ^ Jonas Gregorio de Souza (2018年3月27日). “Pre-Columbian earth-builders settled along the entire southern rim of the Amazon”. Nature.com. 2018年3月29日閲覧。
  25. ^ Lost Cities of the Amazon Discovered From the Air” (英語). Smithsonian Magazine. 2022年12月8日閲覧。
  26. ^ Jagernauth, Kevin (2015年8月19日). “James Gray's 'The Lost City Of Z' Starts Shooting, Marvel's Spider-Man Tom Holland Joins The Cast”. IndieWire. 2015年12月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年12月15日閲覧。

参考文献[編集]

  • デイヴィッド・グラン『ロスト・シティZ 探検史上、最大の謎を追え』2010年、NHK出版
  • パーシー・H.フォーセット著、吉田健一訳『フォーセット探検記』(世界ノンフィクション全集20)1961年、筑摩書房。

関連文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]