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'''埋蔵電力'''(まいぞうでんりょく)とは、[[企業]]などの[[自家発電]]施設による発電能力の最大規模から、自家消費する電力を除いた余剰電力<ref name=":0" /><ref name=":8">{{Cite web |title=平成二十三年六月二十七日提出 質問第二七四号 埋蔵電力に関する質問主意書 |url=https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a177274.htm |website=www.shugiin.go.jp |access-date=2023-03-27}}</ref>。2011年の[[東日本大震災]]に関連した[[東日本大震災による電力危機|電力不足問題]]において、当時の首相である[[菅直人]]などが関心を示したが<ref name=":0" />、燃料コストや送電網など複数の問題があり容易には利用できないと考えられている<ref name=":0" /><ref name=":1">{{Cite book|和書 |title=図解入門ビジネス 最新 新エネルギーと省エネの動向がよーくわかる本 |date=2012-03-14 |publisher=秀和システム |page=66 |author=今村雅人}}</ref><ref name=":9">{{Cite web |title=原発13~14基分の「埋蔵電力」使えるのに使わないネック |url=https://www.j-cast.com/tv/2011/07/13101273.html |website=J-CAST テレビウォッチ |date=2011-07-13 |access-date=2023-03-27 |language=ja}}</ref><ref name=":5">{{Cite web |title=新政権の下、電力供給システム改革議論はどうすべきか – NPO法人 国際環境経済研究所|International Environment and Economy Institute |url=https://ieei.or.jp/2013/01/special20124023/?doing_wp_cron=1679897185.6399650573730468750000 |website=ieei.or.jp |date=2013-01-18 |access-date=2023-03-27 |language=ja}}</ref>。
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{{Sakujo/本体|2023年3月27日|埋蔵電力}}
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'''埋蔵電力'''(まいぞうでんりょく)とは、[[日本]]において[[企業]]などが[[自家発電]]用に所有している[[一般電気事業者]]以外による余剰発電力。[[原子力発電所]]13 - 14基分に相当する電力があるとされる。


企業などの自家発電の余剰分という定義のほか<ref name=":0" /><ref>{{Cite web |title=九電、「埋蔵電力」調達へ 自家発電分、500社に売電要請 - 日本経済新聞 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXNASJC2201U_S1A720C1LX0000/ |website=www.nikkei.com |date=2011-07-23 |access-date=2023-03-27}}</ref><ref>{{Cite web |title=使えない「埋蔵電力」、東電の供給量に匹敵 - 日本経済新聞 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXNASFZ1101N_S1A510C1K14800/ |website=www.nikkei.com |date=2011-05-15 |access-date=2023-03-27}}</ref>、旧[[一般電気事業者]](および旧[[日本の電力会社|卸電気事業者]])以外の発電能力の余剰と説明される場合があり<ref name=":8" /><ref name=":9" />、旧[[特定規模電気事業者]]が埋蔵電力として説明される場合もあるが<ref name=":9" /><ref>{{Cite web |title=城南信用金庫、東電から「埋蔵電力」に切り替え――「脱東電」を表明 |url=https://www.alterna.co.jp/7727/ |website=オルタナ |date=2011-12-02 |access-date=2023-03-27 |language=ja |last=オルタナ編集部}}</ref>、明確には定義されていない<ref>{{Cite web |title=国内埋蔵電力「定義難しい」−副官房長官 |url=https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00171172 |website=日刊工業新聞電子版 |date=2011-07-21 |access-date=2023-03-27 |first=NIKKAN KOGYO |last=SHIMBUN,LTD}}</ref>。
== 概要 ==
日本の埋蔵電力は全国の特定規模電気事業者(PPS)を合算すれば5400万 [[ワット|kW]]にのぼり、原発54基分の4900万 kWより多い。この内4000万kWが自家消費や電力会社への卸売りなどの形で使われている。発電装置の多くは、[[重油]]や[[石炭]]を使用する火力設備であり環境的には[[二酸化炭素]]排出量増加など負荷がある。その50%は[[関東地方|関東]]、[[東北地方]]に集中しており[[製鉄所]]、[[石油コンビナート]]など大量に電力を必要とする施設では備えているところが多い。


2011年7月4日の[[経済産業省]]の[[松永和夫]][[事務次官]](当時)の菅直人への回答によれば180万[[ワット|kW]]が使用可能であり<ref name=":0" />、2011年7月に経済産業省が自家発電設備を保有する企業に行ったアンケートによれば「売電済み」と「売電可」を合計して452万kWであった([[原子力発電所]]1基の発電量は約100万kW)<ref name=":1" />。
[[東日本大震災]]に関連した[[東日本大震災による電力危機|電力不足問題]]において[[2011年]][[7月7日]]には、[[衆議院]][[予算委員会]]で当時の[[首相]]であった[[菅直人]]が[[自家発電]]がどの程度稼動可能かを、経済産業省へ点検するよう指示したと述べた。しかし、「すでに電力各社と売電契約を結んでいる」「自家発電には設備が老朽化で休廃止になっているものもある」「中には設備不良で物理的にすぐには稼働できない自家発電もある」「各地に存在する自家発電を同時に稼働した際に、管理する人間が不足している」「送電線接続がないために売電できない」「大部分の自家発電は停電時の一時的な対策であり、数ヶ月分の発電燃料を調達する仕組みが欠如している」「売電できない自家発電で使用される燃料費のコストを負担問題がある」など課題が多く、[[経済産業省]]の公式発表では埋蔵電力は180万kWしか使えず、埋蔵電力に期待していた人たちの低い電力しか出てこなかった<ref>{{Cite web |title=菅首相、頼みの「埋蔵電力」は使えるのか |url=https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0702W_X00C11A7000000/ |website=日本経済新聞 |access-date=2023-03-27 |date=2011-07-07}}</ref>。


== 菅直人の指示による経済産業省の調査 ==
しかし、元[[慶應義塾大学]]助教授の[[藤田祐幸]]の調査によれば、[[1965年]]以降では、その年のピーク電力の際であっても、電力会社の[[火力発電]]と[[水力発電]]の発電能力だけで十分に足り、発電能力を超えた需要は一度たりとも発生しておらず、[[原子力発電所|原発]]が必要であるとする根拠はないとしている。しかし、火力発電については、定期点検における稼働停止や燃料増加によるコスト高は考慮されていない。また、燃料の大量調達に伴う船不足、系統容量の不足や電力潮流の大幅な変更に伴う保護協調の再構築等も全く考慮されていない。水力発電に至っては、そもそも定格出力で発電ができるのは十分な貯水がある限られた期間だけであり(当然一度発電すれば十分な貯水が完了するまで再発電はできない)、設備容量を積み上げただけの数字には何ら意味はない。
日本の自家発電設備の出力合計は2010年9月末時点で原発40~50基分に相当する6035万kWであり、5割が東北・関東地方に集中する<ref name=":0" />。[[石油コンビナート]]や[[製鉄所]]など大量に電力を消費する施設では、大型の発電設備を備えるケースが多い<ref name=":0" />。


[[東日本大震災]]に関連した[[東日本大震災による電力危機|電力不足問題]]において、当時の[[首相]]であった[[菅直人]]が[[2011年]]6月末ごろから急に埋蔵電力に強い関心を示したとされる<ref name=":0" />。[[7月7日]]には、[[衆議院]][[予算委員会]]で菅直人が、自家発電がどの程度稼動可能かを点検するよう経済産業省へ指示したと述べた<ref name=":0" />。しかし、経済産業省の松永和夫事務次官(当時)によれば埋蔵電力は180万kWしか使えず、菅の期待よりも低い値であった<ref name=":0">{{Cite web |title=菅首相、頼みの「埋蔵電力」は使えるのか |url=https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS0702W_X00C11A7000000/ |website=日本経済新聞 |access-date=2023-03-27 |date=2011-07-07}}</ref>。
== 参考サイト ==
*[https://web.archive.org/web/20110711201025/http://gendai.net/articles/view/syakai/131442 日刊ゲンダイ「なんと原発50基分!埋蔵電力活用で「脱原発」できる」2011年7月9日]
*[http://www.j-cast.com/tv/2011/07/13101273.html?p=all Jcast「原発13~14基分の「埋蔵電力」使えるのに使わないネック」2011年7月13日]
*[http://www.meti.go.jp/press/2011/07/20110729005/20110729005-2.pdf 自家発設備の活用状況について]


== 埋蔵電力の利用の問題点 ==
== 関連項目 ==
自家発電の多くは[[重油]]や[[石炭]]を燃料とする火力設備で、老朽化が進み安定運転が難しいものもある<ref name=":0" />。燃料コストが高い、燃料の調達ができないなどの問題も挙げられている<ref name=":1" />。また、自家発電施設から電力会社に送電する設備の設置が必要であり<ref name=":1" />、さらに大手電力の送電網を自由に安価なコストで利用できる措置も必要である<ref name=":0" />。電力価格の高騰を招くとも指摘されている<ref name=":0" /><ref>{{Cite web |title=(第8回)産業構造の転換で電力使用を抑えられる |url=https://toyokeizai.net/articles/-/7476 |website=東洋経済オンライン |date=2011-08-01 |access-date=2023-03-27 |language=ja}}</ref>。
* [[原子力ムラ]]

これらの問題点から、[[日本経済新聞]]は2011年7月に「一時的な電力不足を乗り切る目的なら効果はあるものの、石油価格が上昇する局面での長期利用は電力価格の高騰を招き、[[二酸化炭素]](CO2)の排出量も増える」と主張している<ref name=":0" />。また、[[京都大学]]の[[藤井聡]]は2011年6月に「埋蔵電力をどれだけかき集めても十分量を確保することが不可能であることはいずれも否定しがたい真実だ」と主張している<ref name=":4">{{Cite web |title=藤井聡:日本を守るために,原発再稼働の道を真剣に探るべし – 京都大学 都市社会工学専攻 藤井研究室 |url=http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/archives/177 |date=2011-06-11 |access-date=2023-03-27 |language=ja}}</ref>。[[三菱UFJ銀行|三菱東京UFJ銀行]](当時)経済調査室は2011年7月に「安全性やコスト、規模などの点から見て完全に原子力発電を代替し得るものなのか、定かではない」としている<ref>{{Cite web |url=https://www.bk.mufg.jp/report/ecorevi2011/review0120110719.pdf |format=pdf |title=経済レビュー 日本経済と電力問題について |access-date=2023-03-27 |publisher=三菱東京UFJ銀行 |date=2011-07-19}}</ref>。2012年に[[東京大学]]の岩船由美子は「都合の良い埋蔵電力は存在しない」と主張した<ref>{{Cite journal|author=岩船由美子|year=2012|title=正しい節電を考える|url=https://www.og-cel.jp/search/__icsFiles/afieldfile/2012/07/06/07.pdf|format=pdf|journal=情報誌CEL|volume=101|page=31}}</ref>。

2013年に国際環境経済研究所は「震災直後に一部で期待が高まった「埋蔵電力」はカラ振りであった」と主張した<ref name=":5" />。

== 埋蔵電力を利用できるとする主張 ==
埋蔵電力の利用は困難であるとする主張が多いが<ref name=":0" /><ref name=":1" /><ref name=":4" />、埋蔵電力で電力不足が解消できるとする主張も存在した。

2011年に、[[民主党 (日本 1998-2016)|民主党]]の[[川内博史]][[日本の国会議員|衆議院議員]](当時)及び民主党関係者は、[[経済産業省]]が「原発再稼働をしないと夏の電力需要を乗り切るのは難しい」という「電力ないない神話」によって[[海江田万里]]を洗脳していると主張し、埋蔵電力についての議論を歓迎した<ref>{{Cite web |title=打ち砕かれた経産省の「原発再稼働シナリオ」 菅首相は「脱原発」を貫けるか |url=https://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2011/07/29/%e6%89%93%e3%81%a1%e7%a0%95%e3%81%8b%e3%82%8c%e3%81%9f%e7%b5%8c%e7%94%a3%e7%9c%81%e3%81%ae%e3%80%8c%e5%8e%9f%e7%99%ba%e5%86%8d%e7%a8%bc%e5%83%8d%e3%82%b7%e3%83%8a%e3%83%aa%e3%82%aa%e3%80%8d%e3%80%80/ |website=週刊金曜日オンライン |date=2011-07-29 |access-date=2023-03-27 |language=ja}}</ref>。しかし、実際には2011年の夏期には全国的に電力確保に苦しむことになった<ref name=":6">{{Cite web |title=今夏の需給見通しと需給対策の状況について |url=https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2011/0610-1j.html |website=関西電力株式会社 |date=2011-06-10 |access-date=2023-03-27 |language=ja}}</ref><ref name=":7">{{Cite web |url=http://news.shikoku-np.co.jp/kagawa/social/201106/20110611000140.htm |title=電力各社、試練の夏/西日本は中国電頼み |access-date=2023-03-27 |publisher=四国新聞社 |archive-url=https://web.archive.org/web/20110614084420/http://news.shikoku-np.co.jp/kagawa/social/201106/20110611000140.htm |archive-date=2011-06-11 |date=2011-06-11}}</ref>。

2012年に、民主党の[[橋本勉 (政治家)|橋本勉]]衆議院議員(当時)は「原発事故を機に大企業の工場が自家発電を増やしていることは広く知られているのに、いまだに考慮されていない。それで『電力が足りない』と繰り返し主張するのは全く説得力がありません。再稼働のために、それを妨げる数字を出したくないだけではないか」と主張した<ref>{{Cite web |title=電力足りぬというが自家発電の震災後増強分は原発6基分相当 |url=https://www.news-postseven.com/archives/20120605_113480.html?DETAIL |website=NEWSポストセブン |date=2012-06-05 |access-date=2023-03-27 |language=ja}}</ref>。

電力市場の自由化および[[発送電分離]]によって埋蔵電力の利用が促進されるという主張もなされた<ref>{{Cite web |title=重要さを増す企業の自家発電システム(その2) |url=https://xtech.nikkei.com/dm/article/NEWS/20110805/194695/ |website=日経クロステック(xTECH) |date=2011-08-12 |access-date=2023-03-27 |language=ja |last=日経クロステック(xTECH)}}</ref>。2016年には電力小売全面自由化、2020年には発送電分離が実施され<ref>{{Cite web |url=https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/050_05_01.pdf |format=pdf |title=一般送配電事業者を取り巻く情勢と 今後の費用回収の在り方について |access-date=2023-03-27 |publisher=資源エネルギー庁 |date=2022-06-30}}</ref>、小売電気事業者が増加し余剰電力の売買も活発化した<ref>{{Cite web |title=電力小売全面自由化で、何が変わったのか? |url=https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/denryokugaskaikaku/denryokujiyuka.html |website=経済産業省 資源エネルギー庁 |date=2017-09-28 |access-date=2023-03-27 |language=ja}}</ref>。しかし、電力自由化に起因した発電設備を持つ大手電力の収益力の悪化<ref name=":10" />、それに伴う火力発電所の減少<ref name=":11" /><ref name=":10" />、発送電分離による供給責任の不透明化と情報連携不足などにより<ref>{{Cite web |title=「電力自由化は失敗だった」節電要請が目前に迫るほど日本の電力網は弱っている 「こうなったら停電させたらいい」 (3ページ目) |url=https://president.jp/articles/-/42629 |website=PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) |date=2021-01-24 |access-date=2023-03-28 |language=ja}}</ref>、電力供給の脆弱性を高めるという指摘もある。実際に、2021年の電力需要ひっ迫に対しては電力自由化が一因であるとの指摘もなされている<ref>{{Cite web |title=「電力自由化は失敗だった」節電要請が目前に迫るほど日本の電力網は弱っている 「こうなったら停電させたらいい」 (2ページ目) |url=https://president.jp/articles/-/42629 |website=PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) |date=2021-01-24 |access-date=2023-03-27 |language=ja}}</ref><ref name=":11">{{Cite web |title=電力危機に勝つ企業:再エネ急増と電力自由化が電力不足を招いたからくり=荒木涼子/和田肇 |url=https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220823/se1/00m/020/048000c |website=週刊エコノミスト Online |date=2022-08-16 |access-date=2023-03-27 |language=ja}}</ref><ref name=":10">{{Cite web |title=電力自由化の陰で起こっていること – NPO法人 国際環境経済研究所|International Environment and Economy Institute |url=https://ieei.or.jp/2021/02/yamamoto-blog210205/ |website=ieei.or.jp |date=2021-02-05 |access-date=2023-03-27 |language=ja}}</ref>。

== 原子力発電所の必要性に関する議論 ==
2011年には、埋蔵電力を利用しなくても発電能力は足りているという意見もみられた。2011年の報道では、元[[慶應義塾大学]]助教授の[[藤田祐幸]]の調査によれば、[[1965年]]以降では電力会社の[[火力発電]]と[[水力発電]]の発電能力だけで十分に足り、発電能力を超えた需要は一度たりとも発生しておらず、原発が必要であるとする根拠はないとしている<ref name=":2">{{Cite web |url=http://gendai.net/articles/view/syakai/131442 |title=なんと原発50基分!埋蔵電力活用で「脱原発」できる |access-date=2011-07-09 |publisher=日刊ゲンダイ |archive-url=https://web.archive.org/web/20110711201025/http://gendai.net/articles/view/syakai/131442 |archive-date=2011-07-11}}</ref>。また、京都大学原子炉実験所助教の[[小出裕章]]は2011年4月の講演で日本の発電能力は余っていると述べた<ref name=":2" />。

一方で、京都大学の藤井聡は2011年6月に「原発を止めるなら火力発電を増やさざるを得ない」と主張し、電気料金の値上がりや外国からの燃料の輸入の増加を指摘した<ref name=":4" />。

実際には、2011年6月には原子力発電所の再稼働の遅れにより、被災地とは遠い[[西日本]]においても[[中国電力]]以外では電力確保に苦しむことになった<ref name=":7" />。2011年の夏期には、[[関西電力]]が夏季に原子力発電所の停止による影響などを理由に15%の節電を要請した<ref name=":6" />。2012年夏期には関西電力、[[九州電力]]、[[北海道電力]]、[[四国電力]]において電力需給のひっ迫が見込まれ、[[輪番停電|計画停電]]が検討された他に、火力発電所の利用の増加による電気料金の上昇も指摘された<ref>{{Cite web |url=https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/npu/policy09/pdf/20120604/20120518_3.pdf |format=pdf |title=「今夏の電力需給対策について」のポイント |date=2012-05-18 |access-date=2023-03-27 |publisher=内閣官房}}</ref><ref>{{Cite web |url=https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002doat-att/2r9852000002dodt.pdf |format=pdf |title=計画停電が実施された場合の医療機関等の対応について |date=2012-06-22 |access-date=2023-03-27 |publisher=厚生労働省}}</ref>。

また、2022年3月に初めて[[電力需給ひっ迫警報]]が発令された際には、原子力発電所の多くが停止していることが原因の1つとされた<ref name=":3">{{Cite web |title=電力不足とは? 予備率1%台の衝撃とその背景 |url=https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00081/072000408/ |website=日経ビジネス電子版 |date=2022-08-08 |access-date=2023-03-27 |language=ja |last=日経ビジネス電子版}}</ref><ref>{{Cite web |title=ニュースでよく聞くあのはなし!電力不足?!なぜ電力需給ひっ迫が起きる? |url=https://www.ene100.jp/commentary/13983 |website=エネ百科|きみと未来と。 {{!}} エネルギーの解説サイト |date=2023-01-20 |access-date=2023-03-27}}</ref>。ただし[[2022年ロシアのウクライナ侵攻|ウクライナ侵攻]]の影響による[[液化天然ガス]]の不足や、火力発電所の休廃止も原因として挙げられている<ref name=":3" />。

== 出典 ==
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{{発電の種類}}
{{発電の種類}}

2023年4月14日 (金) 05:20時点における版

埋蔵電力(まいぞうでんりょく)とは、企業などの自家発電施設による発電能力の最大規模から、自家消費する電力を除いた余剰電力[1][2]。2011年の東日本大震災に関連した電力不足問題において、当時の首相である菅直人などが関心を示したが[1]、燃料コストや送電網など複数の問題があり容易には利用できないと考えられている[1][3][4][5]

企業などの自家発電の余剰分という定義のほか[1][6][7]、旧一般電気事業者(および旧卸電気事業者)以外の発電能力の余剰と説明される場合があり[2][4]、旧特定規模電気事業者が埋蔵電力として説明される場合もあるが[4][8]、明確には定義されていない[9]

2011年7月4日の経済産業省松永和夫事務次官(当時)の菅直人への回答によれば180万kWが使用可能であり[1]、2011年7月に経済産業省が自家発電設備を保有する企業に行ったアンケートによれば「売電済み」と「売電可」を合計して452万kWであった(原子力発電所1基の発電量は約100万kW)[3]

菅直人の指示による経済産業省の調査

日本の自家発電設備の出力合計は2010年9月末時点で原発40~50基分に相当する6035万kWであり、5割が東北・関東地方に集中する[1]石油コンビナート製鉄所など大量に電力を消費する施設では、大型の発電設備を備えるケースが多い[1]

東日本大震災に関連した電力不足問題において、当時の首相であった菅直人2011年6月末ごろから急に埋蔵電力に強い関心を示したとされる[1]7月7日には、衆議院予算委員会で菅直人が、自家発電がどの程度稼動可能かを点検するよう経済産業省へ指示したと述べた[1]。しかし、経済産業省の松永和夫事務次官(当時)によれば埋蔵電力は180万kWしか使えず、菅の期待よりも低い値であった[1]

埋蔵電力の利用の問題点

自家発電の多くは重油石炭を燃料とする火力設備で、老朽化が進み安定運転が難しいものもある[1]。燃料コストが高い、燃料の調達ができないなどの問題も挙げられている[3]。また、自家発電施設から電力会社に送電する設備の設置が必要であり[3]、さらに大手電力の送電網を自由に安価なコストで利用できる措置も必要である[1]。電力価格の高騰を招くとも指摘されている[1][10]

これらの問題点から、日本経済新聞は2011年7月に「一時的な電力不足を乗り切る目的なら効果はあるものの、石油価格が上昇する局面での長期利用は電力価格の高騰を招き、二酸化炭素(CO2)の排出量も増える」と主張している[1]。また、京都大学藤井聡は2011年6月に「埋蔵電力をどれだけかき集めても十分量を確保することが不可能であることはいずれも否定しがたい真実だ」と主張している[11]三菱東京UFJ銀行(当時)経済調査室は2011年7月に「安全性やコスト、規模などの点から見て完全に原子力発電を代替し得るものなのか、定かではない」としている[12]。2012年に東京大学の岩船由美子は「都合の良い埋蔵電力は存在しない」と主張した[13]

2013年に国際環境経済研究所は「震災直後に一部で期待が高まった「埋蔵電力」はカラ振りであった」と主張した[5]

埋蔵電力を利用できるとする主張

埋蔵電力の利用は困難であるとする主張が多いが[1][3][11]、埋蔵電力で電力不足が解消できるとする主張も存在した。

2011年に、民主党川内博史衆議院議員(当時)及び民主党関係者は、経済産業省が「原発再稼働をしないと夏の電力需要を乗り切るのは難しい」という「電力ないない神話」によって海江田万里を洗脳していると主張し、埋蔵電力についての議論を歓迎した[14]。しかし、実際には2011年の夏期には全国的に電力確保に苦しむことになった[15][16]

2012年に、民主党の橋本勉衆議院議員(当時)は「原発事故を機に大企業の工場が自家発電を増やしていることは広く知られているのに、いまだに考慮されていない。それで『電力が足りない』と繰り返し主張するのは全く説得力がありません。再稼働のために、それを妨げる数字を出したくないだけではないか」と主張した[17]

電力市場の自由化および発送電分離によって埋蔵電力の利用が促進されるという主張もなされた[18]。2016年には電力小売全面自由化、2020年には発送電分離が実施され[19]、小売電気事業者が増加し余剰電力の売買も活発化した[20]。しかし、電力自由化に起因した発電設備を持つ大手電力の収益力の悪化[21]、それに伴う火力発電所の減少[22][21]、発送電分離による供給責任の不透明化と情報連携不足などにより[23]、電力供給の脆弱性を高めるという指摘もある。実際に、2021年の電力需要ひっ迫に対しては電力自由化が一因であるとの指摘もなされている[24][22][21]

原子力発電所の必要性に関する議論

2011年には、埋蔵電力を利用しなくても発電能力は足りているという意見もみられた。2011年の報道では、元慶應義塾大学助教授の藤田祐幸の調査によれば、1965年以降では電力会社の火力発電水力発電の発電能力だけで十分に足り、発電能力を超えた需要は一度たりとも発生しておらず、原発が必要であるとする根拠はないとしている[25]。また、京都大学原子炉実験所助教の小出裕章は2011年4月の講演で日本の発電能力は余っていると述べた[25]

一方で、京都大学の藤井聡は2011年6月に「原発を止めるなら火力発電を増やさざるを得ない」と主張し、電気料金の値上がりや外国からの燃料の輸入の増加を指摘した[11]

実際には、2011年6月には原子力発電所の再稼働の遅れにより、被災地とは遠い西日本においても中国電力以外では電力確保に苦しむことになった[16]。2011年の夏期には、関西電力が夏季に原子力発電所の停止による影響などを理由に15%の節電を要請した[15]。2012年夏期には関西電力、九州電力北海道電力四国電力において電力需給のひっ迫が見込まれ、計画停電が検討された他に、火力発電所の利用の増加による電気料金の上昇も指摘された[26][27]

また、2022年3月に初めて電力需給ひっ迫警報が発令された際には、原子力発電所の多くが停止していることが原因の1つとされた[28][29]。ただしウクライナ侵攻の影響による液化天然ガスの不足や、火力発電所の休廃止も原因として挙げられている[28]

出典

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  3. ^ a b c d e 今村雅人『図解入門ビジネス 最新 新エネルギーと省エネの動向がよーくわかる本』秀和システム、2012年3月14日、66頁。 
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  27. ^ 計画停電が実施された場合の医療機関等の対応について” (pdf). 厚生労働省 (2012年6月22日). 2023年3月27日閲覧。
  28. ^ a b 日経ビジネス電子版 (2022年8月8日). “電力不足とは? 予備率1%台の衝撃とその背景”. 日経ビジネス電子版. 2023年3月27日閲覧。
  29. ^ ニュースでよく聞くあのはなし!電力不足?!なぜ電力需給ひっ迫が起きる?”. エネ百科|きみと未来と。 | エネルギーの解説サイト (2023年1月20日). 2023年3月27日閲覧。