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「タンタンのコンゴ探険」の版間の差分

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{{出典の明記|date=2015年11月4日 (水) 02:19 (UTC)}}
|title = タンタンのコンゴ探険
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'''タンタンのコンゴ探険'''([[フランス語]]:Tintin au Congo)は、[[ベルギー]]の[[イラストレーター]]である[[エルジェ]]によって描かれたコミック、[[タンタンの冒険]]シリーズの2の作品である。1930年から1931年間に[[20世紀子ども新聞]]に連載された。1931年に白黒版刊行され、1946年にはそれをカラー化ジョが刊行され
'''タンタンのコンゴ探険'''{{lang-fr|Tintin au Congo}})は、[[ベルギー]]の漫画家[[エルジェ]]による[[漫画]]([[バンド・デシネ]])、[[タンタンの冒険|タンタンの冒険シリーズ]]の2目である。ベルギー保守紙『{{仮リンク|20世紀新聞|en|Le Vingtième Siècle}}』 (Le Vingtième Siècle)の子供向け付録誌『{{仮リンク|20世紀子ども新聞|en|Le Petit Vingtième}}』(Le Petit Vingtième)て1930年6月から1931年6月まで毎週連載されていた。当初は[[モノクロ]]であったが、1946年に著者本人によってカラー化され。[[ベルギ人]]の少年記者[[タタン (キャラクター)|タンタン]]を主人公とし、愛犬[[スノーウィ]]と共に[[ベルギー]]の[[植民地]]である[[コンゴ]]([[ベルギー領コンゴ]])に派遣され、現地人との出会いや、[[ダイヤモンド|ダイアモンド]]利権を巡る[[白人]]密航者の陰謀に関わる
当時[[ベルギー領コンゴ|ベルギー領]]だった[[コンゴ民主共和国]]を舞台としている。


前作『[[タンタン ソビエトへ]]』が読者に好評であったことから、その続編として企画され、前作完結後の翌月には本作の連載が開始された。舞台やテーマは前作と同じく、新聞社の経営者である{{仮リンク|ノルベール・ヴァレーズ|en|Norbert Wallez}}の指示の下、当時のベルギーの植民地であった[[アフリカ]]のコンゴに決まり、[[保守主義|保守主義者]]である彼の意向に沿うような[[植民地主義]]を肯定するような内容になっている。こうした描写やテーマは当時は初期作品の中でも特に人気を博したが、[[20世紀]]後半になると、[[コンゴ人]]に対する[[人種差別]]や大型動物の[[狩猟|ハンティング]]を美化するような内容に批判が見られるようになっていた。ベルギー、[[スウェーデン]]、[[イギリス]]、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]と、本作を発禁処分としたり、未成年者への閲覧制限を課す国も出てきた。本作に対する批評家意見は大半が否定的であり、前作『ソビエトへ』よりはまだ良かったが、エルジェの作品の中で最低なものの1作とも評される。
==概要==
「タンタン ソビエトへ」の次に描かれた作品。当時のアフリカの人々に対するヨーロッパ人の偏見と猛獣の狩猟などがスポーツとして楽しまれていたことが描写されている。前作は周囲の偏見のみを参考にしたという反省点からエルジェは本作よりストーリーを作る際、舞台とする国には綿密な調査をするようになった。


日本語版は、2007年に[[福音館書店]]より出版された([[川口恵子 (翻訳家)|川口恵子]]訳)。
1946年にカラー版が出版されたが、植民地であることを強調する台詞や表現は削除され、別の表現に差し替えられている。(例としてタンタンが神父の代わりに授業を行うシーンがあるが、元々の作品では「君たちの国、ベルギーを紹介しよう」という内容であったが、カラー版では算数を教える描写になっている<ref>マイケル・ファー著「タンタンの冒険 その夢と現実」より</ref>)


==あらすじ==
== あらすじ ==
『20世紀子ども新聞』の報道記者であるベルギー人少年タンタンは、ベルギー領コンゴを取材するため、愛犬のスノーウィと共に現地へ派遣される。本国人のタンタンは現地で歓迎をもって迎えられ、地元の少年ココを雇って取材旅行を開始する。一方、タンタンがコンゴにやってくる際に乗っていた[[フェリー]]には謎の密航者も潜んでおり、タンタンは何度も彼に命を狙われる。さらには、タンタンをよく思わない地元民の呪術師ムガンガの妨害も受ける。
タンタンはコンゴに向かうため、ブリュッセルを離れてフェリーに乗った。船内でスノーウィはオウムと喧嘩して尻尾を噛まれたり、治療してもらったものの、ドアに挟まれたりと災難な始末。翌日、スノーウィは再びそのオウムを見つけ、報復しようとした途端、通気口の中に入ってしまい、船内の荷物室に落ちてしまう。そこで、一人の男が怪しげな行動をしていることを目撃する。男に船から窓に放り出されてスノーウィは海に落ちるところを見たタンタンは救助を求め、なんとかスノーウィを救出。ドタバタな騒ぎがありながらもタンタンとスノーウィはコンゴにたどり着く。


==登場人物==
== 歴史 ==
=== 執筆背景 ===
;[[タンタン (キャラクター)|タンタン]]
{{Quote box|width=300px|bgcolor=#c6dbf7|align=right|quote=コンゴについては、『[[タンタン ソビエトへ]]』と同じく、1930年当時の[[市民社会|ブルジョア社会]]の偏見に踊らされていたのが本当のところだ。私が知っていたのは、当時に一般に言われるこうした国の話だけだった。つまり、「アフリカはとても大きな子供であり、(中略)私達の存在が彼らにとって感謝すべきものだ」とかね。だから、そういう基準で[[アフリカ人]]を描いたんだ、当時のベルギーにあった純粋な[[パターナリズム]](温情主義)に基づいてさ。|source=[[:en:Numa Sadoul|Numa Sadoul]]のインタビューに対するエルジェのコメント{{sfn|Farr|2001|p=22}}。}}
:ルポ記者。コンゴでの生活や猛獣狩りを満喫する一方、ダイヤモンドの製造を乗っ取ろうとするギャングと対決していく。

;[[スノーウィ]]
作者の[[エルジェ]](本名:ジョルジュ・レミ)は、故郷[[ブリュッセル]]にあった[[ローマ・カトリック]]系の保守紙『{{仮リンク|20世紀新聞|en|Le Vingtième Siècle}}』(Le Vingtième Siècle)で働いており、同紙の子供向け付録誌『{{仮リンク|20世紀子ども新聞|en|Le Petit Vingtième}}』(Le Petit Vingtième)の編集と[[イラストレーター]]を兼ねていた{{sfnm|1a1=Peeters|1y=1989|1pp=31–32|2a1=Thompson|2y=1991|2pp=24–25}}。
:タンタンの相棒のフォックステリア犬。本作の序盤でトムの行動を目撃し、これがタンタンとトムが対決する起点となる。
同紙は教会の[[アベ (カトリック教会の聖職)|アベ]]で、[[ファシズム|親ファシスト]]でもあった{{仮リンク|ノルベール・ヴァレーズ|en|Norbert Wallez}}が経営と編集長を務めており、「教義と情報のためのカトリック新聞」を標榜し、彼の親ファシスト的な論調はそのまま紙面にも反映されていた{{sfnm|1a1=Peeters|1y=1989|1pp=20–32|2a1=Thompson|2y=1991|2pp=24–25|3a1=Assouline|3y=2009|3p=38}} 。
;トム
{{仮リンク|ハリー・トンプソン|en|Harry Thompson}}によれば、当時のベルギーにおいて、こうした政治思想は一般的なものであり、エルジェの周囲には「[[愛国心]]、[[カトリック (概念)|カトリック]]、厳しい[[道徳]]、規律、純真」を主とする保守思想が浸透していた{{sfn|Thompson|1991|p=24}}。
:アル・カポネの手下の一人で本作の黒幕と言っていいほどタンタンを幾度も陥れる。冒頭ではダイヤモンドの密輸を行っており、その様子をスノーウィに目撃される。その後、コンゴに着いたあと、タンタンを殺すために様々な手段を利用する。タンタンを溺死させようとしたとき、スノーウィや宣教師の活躍によって助かったタンタンと取っ組み合いになった末、川に落ちてワニに食べられた。

;ババロオムの大王
[[1929年]]、エルジェの代表作となる、架空のベルギー人の少年記者・[[タンタン (キャラクター)|タンタン]]の活躍を描く『[[タンタンの冒険]]』の連載が始まった。第1作目『[[タンタン ソビエトへ]]』は、1929年[[1月10日]]から1930年[[5月8日]]まで毎週連載されて大成功を収め、すぐに続編の企画が立ち上がった。エルジェは今度はアメリカを舞台としたいと考えていたが、ヴァレーズは当時ベルギーの植民地であった[[コンゴ]]([[ベルギー領コンゴ]])を舞台とするよう指示した{{sfnm|1a1=Assouline|1y=2009|1p=26|2a1=Lofficier|2a2=Lofficier|2y=2002|2p=24|3a=Peeters|3y=2012|3p=45}}。
:ババロオムの大王。タンタンをライオン狩りに招待する。
ベルギーの子どもたちは学校でコンゴについて習っていたが、ヴァレーズは読者に植民地経営や宣教活動への熱意を持ってほしいと狙っていた{{sfn|Assouline|2009|p=26}}。
;ココ
特に[[1928年]]の、ベルギー王[[アルベール1世 (ベルギー王)|アルベール1世]]と[[エリザベート・ド・バヴィエール|エリザベート王妃]]のコンゴ訪問の記憶もまだ新しい時期であり、ベルギーの植民地行政のさらなる振興が必要だとヴァレーズは考えていた{{sfn|Farr|2001|p=21}}。
:タンタンの給仕。
そして読者の中から、コンゴで働くことを希望する者が出てくることを期待した{{sfn|Peeters|2012|p=46}}。
;ムガンガ

:ババロオムの呪術師。タンタンがコンゴに来てからはタンタンが様々な活躍をするために自身の仕事が激減し、不満になっていた。トムと結託してババロオムの木彫りの像に斧を差し込んで隠してタンタンに罪をなすりつけたり、ヒョウのふりをしてタンタンに襲い掛かろうとするなどしてタンタンを陥れた。ヒョウに変装した際、蛇に襲われそうになり、逆に自分がタンタンに助けられる。
前作『タンタン ソビエトへ』において、ほぼ単一の情報源に頼っていたように、本作でも限定的な情報源を元にコンゴや、その人々を描いていた。それは主として[[宣教師]]が書いた文献を中心に物語は構築されており、おそらく唯一、オリジナルであったのはダイヤモンドの密輸業者くらいだったと思われる{{sfn|Lofficier|Lofficier|2002|p=25}}。
;ジミー・マクダフ
他にエルジェはベルギーの[[王立中央アフリカ博物館]]を訪れ、コンゴの[[民俗学]]的な収蔵品を取材した{{sfnm|1a1=Assouline|1y=2009|1p=27|2a1=Peeters|2y=2012|2p=46}}。
:ブローカー。
また、ハンティングのシーンは、[[アンドレ・モーロワ]]の小説『ブランブル大佐の沈黙』から借用し、動物の絵は{{仮リンク|バンジャマン・ラビエ |en|Benjamin Rabier}}の[[版画]]が基になっていた{{sfn|Assouline|2009|p=27}}。
;宣教師
また、植民地に行ったことがある同僚たちから同地の話を聞いたりもしたが、エルジェは彼らの話に嫌気を差していたようであり、後に「植民地人たちは、自分の功績を自慢気に話してくるから私は好きではなかった。だけど、黒人を大きな子供と見ることをやめることもできなかったんだ」と語っている{{sfn|Peeters|2012|p=46}}。
:コンゴの教会の白人宣教師。トムによって木に吊り下げられてワニに襲われそうになったタンタンを助けた。その後もトムによって窮地に落とされたタンタンを助けている。

;ギボンズ
=== オリジナル版(1930年-1931年) ===
:アル・カポネの手下の一人。なお、「青い蓮」にも同名の人物が登場するが、別人である。
本作は1930年6月5日から1931年6月11日まで『20世紀子ども新聞』誌上で『Tintin au Congo(コンゴのタンタン)』の題で連載された。前作と同様に、[[フランス]]のカトリック新聞『Cœurs Vaillants』でも連載された{{sfnm|1a1=Assouline|1y=2009|1p=28|2a1=Lofficier|2a2=Lofficier|2y=2002|2p=24}}。作品はモノクロであり、エルジェに詳しい{{仮リンク|マイケル・ファー|en|Michael Farr}}によれば、前作『ソビエトへ』と同じく、毎週ごとに即興で描かれたものであり、ほぼ相互に無関係な出来事で構成されていた{{sfn|Farr|2001|pp=21–22}}。そして前作と同様に読者から人気を博すとヴァレーズは、前作と似たような宣伝攻勢を仕掛けた。タンタンに扮したドンカーという子役に植民地の衣装を着させて、10名のアフリカ人と[[動物園]]から借りた様々な異国の動物を伴ってブリュッセルと[[リエージュ]]でイベントを開いた。地元百貨店との共同企画であり、ブリュッセルでは5000人の観客を集めた{{sfnm|1a1=Assouline|1y=2009|1p=28|2a1=Peeters|2y=2012|2p=47|3a1=Thompson|3y=1991|3p=41}}。
1931年に前作と同様に{{lang|fr|Éditions du Petit Vingtième}}(20世紀子供出版)が1冊の書籍にまとめて、刊行した{{sfnm|1a1=Assouline|1y=2009|1p=28|2a1=Lofficier|2a2=Lofficier|2y=2002|2p=24}}。
シリーズの成功によってヴァレーズは、エルジェとの雇用契約を見直し、彼に高給を与え、自宅で仕事を行う権利を与えた{{sfn|Peeters|2012|p=47}}。

[[1937年]]、シリーズ第4作『[[ファラオの葉巻]]』より書籍版の出版を担うようになった{{仮リンク|カステルマン|en|Casterman}}社より、第2版が出版された{{sfnm|1a1=Assouline|1y=2009|1p=28|2a1=Lofficier|2a2=Lofficier|2y=2002|2p=24}}。
その後、[[1944年]]までに第7版まで再版が行われ、これはシリーズの初期7作をそれぞれ上回る売上を誇った{{sfn|McKinney|2008|p=171}}{{efn|1938年の『[[黒い島のひみつ]]』まで初期7作の平均売上は1.7万部であったが、本作は2.5万部を超えていた{{sfn|McKinney|2008|p=171}}。}}。

=== カラー化(1946年) ===
[[1940年代]]から[[1950年代]]にかけてエルジェの人気が高まると、エルジェはスタジオのチームと共に、今までのモノクロ版をカラーにリニューアルする作業に着手した。この作業ではエルジェが開発した[[リーニュクレール]]{{efn|[[リーニュクレール]](ligne claire)という名前は、エルジェ自身の命名ではなく、[[1977年]]に漫画家の[[:en:Joost Swarte|Joost Swarte]]によって名付けられた{{sfn|Pleban|2006}}。}}の技法が用いられた{{sfn|Farr|2001|p=25}}。本作は1946年にカラー化がなされ、カステルマンより出版された{{sfn|Farr|2001|p=25}}。

カラーリメイクにあたっては、カステルマンの提案に従って標準62ページに編纂し直されており、オリジナルの110ページから削減されている。物語自体にもいくつか変更が加えられ、ベルギーと植民地支配への言及の多くをカットした{{sfn|Farr|2001|p=25}}。
例えば、タンタンがコンゴの小学生に[[地理学|地理]]を教えるシーンにおいて、オリジナル版では「親愛なる友人たち。今日は君たちの国について教えよう、ベルギーだ!」と述べていたのに対し、このリメイク版では単に[[算数]]の授業になっていた{{sfn|Farr|2001|p=25}}。
また、タンタンを襲わせる[[ヒョウ]]の飼い主ジミー・マクダフは、オリジナル版ではアメリカ大サーカスの[[黒人]]支配人であったが、リメイク版では[[ヨーロッパ]]最大の、動物園向けの白人ブローカーに変更されている{{sfn|Farr|2001|p=25}}。

また、本来は後の『ファラオの葉巻』([[1934年]])で初登場したまぬけな刑事コンビ・{{仮リンク|デュポンとデュボン|en|Thomson and Thompson}}をカメオ出演させてもいる{{sfn|Farr|2001|p=21}}。同じコマでは、本作の着色作業を手伝った{{仮リンク|エドガー・P・ジャコブ|en|Edgar P. Jacobs|fr|Edgar P. Jacobs}}も描き加えられている{{sfn|Thompson|1991|p=42}}。

=== その後の出版歴 ===
[[1975年]]に[[北欧]]の出版社から翻訳版が出版されるにあたって、エルジェに56ページ目にあった生きた[[サイ]]に穴を空け、[[ダイナマイト]]を詰めて[[爆破]]するシーンを変更して欲しいという依頼があった。エルジェ自身も、こうした大型動物のハンティングシーンに後悔があったため、これを引き受けた。変更後は、サイがタンタンの[[銃]]を誤って倒したために[[暴発]]するも、無傷でそのまま逃げ出す、というものになった{{sfn|Farr|2001|pp=23, 25}}。

長年、世界中の出版社から刊行されていたにもかかわらず、イギリスでは人種差別的な内容を理由として、長らく出版自体がなされていなかった。[[1980年代]]後期に、当時のエルジェ・スタジオのイギリスにおけるエージェントであったニック・ロドウェルが、英語版を出版する意向を発表し、また1946年カラー版よりも、1931年のモノクロ版の方が論争が少ないだろうという考えが示された{{sfn|Thompson|1991|p=42}}。
こうして、英語版は1931年の初版発行から60年経った[[1991年]]に、シリーズの最終作としてモノクロ版が発行された{{sfn|Farr|2001|p=22}}。
カラー版の翻訳版は、[[2005年]]になってエグモント社から出版された{{sfn|Hergé|2005|loc=inset}}。

日本語版は、カラー版を底本に、2007年に[[川口恵子 (翻訳家)|川口恵子]]訳として[[福音館書店]]から出版された。福音館版は順番が原作と異なっており、本作はシリーズ22作目という扱いであった<ref>{{cite web |title=タンタンのコンゴ探険 |url=https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=954 |website=福音館書店 |access-date=2023/5/1}}</ref>。

== 書評と分析 ==
エルジェの伝記を書いたPierre Assoulineは、エルジェの絵は自発性を失わず、初期のものを通して、よりはっきりしていったと考察している{{sfn|Assouline|2009|p=27}}。
また、物語が無難に始まり、物語全体を通してタンタンが[[ボーイスカウト]]として描かれているとし、こうした描写が、エルジェが持っていたヴァレーズへの「道徳的負債」を反映していると述べている{{sfn|Assouline|2009|p=27}}。
同じく伝記を書いた[[ブノワ・ペータース]]は、本作には「華やかさがなく」、「驚くほど煩わしい」モノローグがあると評しつつも、前作よりは「多少洗練された」と述べている{{sfn|Peeters|2012|pp=46–47}}。
[[プロット (物語)|プロット]]は「極めて単純」であり、タンタンのキャラクター造形が、おもちゃの動物やメタル・フィギュリン(金属製の小さな人形)で世界を操る子供のようだったとしている{{sfn|Peeters|2012|p=47}}。
{{仮リンク|マイケル・ファー|en|Michael Farr}}は前作と異なり、終盤にアメリカのダイヤモンド密輸組織が登場するところを、プロットらしきものが見られると評している{{sfn|Farr|2001|pp=21–22}}。
Philippe Goddinは前作よりも「エキサイティング」であったと評し、コンゴの先住民の描写も、それを茶化したようなものではなく、過去のヨーロッパの[[軍隊]]を[[パロディ]]にしたものと評している{{sfn|Goddin|2008|p=75}}。
一方で{{仮リンク|ハリー・トンプソン|en|Harry Thompson}}は、前作よりもほとんど後退しているとし、プロットもキャラクターもなく、「タンタンの本の中で最も幼稚」だと論じている{{sfn|Thompson|1991|p=40}}。
フィナンシャル・タイムズのサイモン・クーパーは、本作を『[[タンタン ソビエトへ]]』と同じく、シリーズ・ワースト作品と評し、「絵が下手」で「ほぼプロットがない」と批判している{{sfn|Kuper|2011}}。

1946年のカラー版については、ファーはオリジナル版よりも劣化したと評している。「活気」と「雰囲気」が失われ、コンゴの新しい風景も説得力に欠けており、「乾燥した埃っぽい現実的な広がり」よりも、ヨーロッパの動物園のようであると評している{{sfn|Farr|2001|p=22}}。
逆にペータースは、カラー版の方を肯定的に評し、エルジェのデッサン力向上による、「美的な改善」と「構成の明確化」が見て取れ、「より生き生きとして、流れるような」セリフ回しの向上があると述べている{{sfn|Peeters|1989|pp=30–31}}。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
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* {{cite book |title=The King Incorporated: Leopold the Second and the Congo |last=Ascherson |first=Neal |author-link=Neal Ascherson |year=1999 |orig-year=1963 |publisher=Granta |location=London |isbn=1-86207-290-6 |edition=Reprint}}
* {{cite journal |title=Racism in Children's Books: ''Tintin in the Congo'' |author=Anon |journal=The Journal of Blacks in Higher Education |volume=56 |date=Summer 2007 |issue=56 |page=14 |jstor=25073692 |publisher=The JBHE Foundation}}
* {{cite book |title=The Metamorphoses of Tintin, or Tintin for Adults |last=Apostolidès |first=Jean-Marie |others=Jocelyn Hoy (translator) |year=2010 |orig-year=2006 |publisher=Stanford University Press |location=Stanford |isbn=978-0-8047-6031-7}}
* {{cite book |title=Hergé, the Man Who Created Tintin |last=Assouline |first=Pierre |others=Charles Ruas (translator) |year=2009 |orig-year=1996 |publisher=Oxford University Press |location=Oxford and New York |isbn=978-0-19-539759-8}}
* {{cite news |title=DR Congo slams 'Tintin' minister |date=22 October 2004 |publisher=BBC News |url-status=live |url=http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/3944591.stm |archive-url=https://web.archive.org/web/20151018082757/http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/3944591.stm |archive-date=18 October 2015 |ref={{SfnRef |BBC |2004}}}}
* {{cite news |title=Bid to ban 'racist' Tintin book |date=12 July 2007 |publisher=BBC News |url-status=live |url=http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/6294670.stm |archive-url=https://web.archive.org/web/20070822153126/http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/6294670.stm |archive-date=22 August 2007 |access-date=11 March 2011 |ref={{SfnRef |BBC |2007}} }}
* {{cite news |title=Tintin in the Congo not racist, court rules |date=13 February 2012 |publisher=BBC News |url-status=live |url=https://www.bbc.co.uk/news/entertainment-arts-17014127 |archive-url=https://web.archive.org/web/20120216031202/http://www.bbc.co.uk/news/entertainment-arts-17014127 |archive-date=16 February 2012 |access-date=6 June 2013 |ref={{SfnRef |BBC |2012}} }}
* {{cite news |title=Ban 'racist' Tintin book, says CRE |last=Beckford |first=Martin |date=12 July 2007 |newspaper=The Telegraph |location=London |url-status=live |url=https://www.telegraph.co.uk/news/uknews/1557233/Ban-racist-Tintin-book-says-CRE.html |archive-url=https://web.archive.org/web/20090506085254/http://www.telegraph.co.uk/news/uknews/1557233/Ban-racist-Tintin-book-says-CRE.html |archive-date=6 May 2009 |access-date=3 November 2011 }}
* {{cite news |title=Tintin banned from children's shelves over 'racism' fears |last=Bunyan |first=Nigel |date=3 November 2011 |newspaper=The Telegraph |location=London |url-status=live |url=https://www.telegraph.co.uk/culture/books/booknews/8866991/Tintin-banned-from-childrens-shelves-over-racism-fears.html |archive-url=https://web.archive.org/web/20130305164805/http://www.telegraph.co.uk/culture/books/booknews/8866991/Tintin-banned-from-childrens-shelves-over-racism-fears.html |archive-date=5 March 2013 |access-date=3 November 2011 }}
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* {{cite news |title=Tintin in trouble: Congo book slammed |last=Chopra |first=Arush |newspaper=Daily News Analysis |location=Mumbai |date=3 February 2006 |url-status=live |url=http://www.dnaindia.com/mumbai/report_tintin-in-trouble-congo-book-slammed_1010988 |archive-url=https://www.webcitation.org/6HBNL8iUk?url=http://www.dnaindia.com/mumbai/1010988/report-tintin-in-trouble-congo-book-slammed |archive-date=6 June 2013 |access-date=6 June 2013 }}
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* {{cite news |title=JK vidtar ingen åtgärd i Tintin-ärendet |trans-title=JK takes no action in Tintin matter |language=sv |last=Lindell |first=Karin |date=22 August 2007 |newspaper=Medievärlden |location=Stockholm, Sweden |url-status=dead |url=http://www.medievarlden.se/component/content/article/92-arkiv/1106 |archive-url=https://web.archive.org/web/20131016114035/http://www.medievarlden.se/component/content/article/92-arkiv/1106 |archive-date=16 October 2013 |access-date=19 February 2015}}
* {{cite book |title=The Pocket Essential Tintin |last1=Lofficier |first1=Jean-Marc |last2=Lofficier |first2=Randy |year=2002 |publisher=Pocket Essentials |location=Harpenden, Hertfordshire |isbn=978-1-904048-17-6}}
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* {{cite web |title=Investigating the Clear Line Style |last=Pleban |first=Dafna |date=7 November 2006 |publisher=ComicFoundry |url-status=dead |url=http://comicfoundry.com/?p=1526 |archive-url=https://web.archive.org/web/20090227003559/http://comicfoundry.com/?p=1526 |archive-date=27 February 2009 |access-date=2 October 2008}}
* {{cite news |title=Tintin 'racist' court case nears its conclusion after four years |last=Samuel |first=Henry |date=18 October 2011 |newspaper=The Telegraph |location=London |url-status=live |url=https://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/europe/belgium/8834175/Tintin-racist-court-case-nears-its-conclusion-after-four-years.html |archive-url=https://web.archive.org/web/20111019202149/http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/europe/belgium/8834175/Tintin-racist-court-case-nears-its-conclusion-after-four-years.html |archive-date=19 October 2011 |access-date=6 June 2013}}
* {{cite news |title=Race row continues to dog Tintin's footsteps |last=Smith |first=Neil |date=28 April 2010 |publisher=BBC News |url-status=live |url=http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/arts_and_culture/8648694.stm |archive-url=https://web.archive.org/web/20100501134922/http://news.bbc.co.uk/2/hi/entertainment/arts_and_culture/8648694.stm |archive-date=1 May 2010 |access-date=6 June 2013}}
* {{cite book |title=Tintin: Hergé and his Creation |last=Thompson |first=Harry |author-link=Harry Thompson |year=1991 |publisher=Hodder and Stoughton |location=London |isbn=978-0-340-52393-3}}
* {{cite news |title=Effort to ban Tintin comic book fails in Belgium |last=Vrielink |first=Jogchum |date=14 May 2012 |newspaper=The Guardian |url-status=live |url=https://www.theguardian.com/law/2012/may/14/effort-ban-tintin-congo-fails |archive-url=https://web.archive.org/web/20120517000531/http://www.guardian.co.uk/law/2012/may/14/effort-ban-tintin-congo-fails |archive-date=17 May 2012 |access-date=22 December 2012}}
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== 外部リンク ==
* [http://en.tintin.com/albums/show/id/26/page/0/0/tintin-in-the-congo ''Tintin in the Congo''] at the Official Tintin Website
* [http://www.tintinologist.org/guides/books/02congo.html ''Tintin in the Congo''] at [http://www.tintinologist.org Tintinologist.org]



{{タンタンの冒険}}
{{タンタンの冒険}}

2023年6月18日 (日) 13:02時点における版

タンタンのコンゴ探険
(Tintin au Congo)
発売日
シリーズタンタンの冒険シリーズ
出版社Éditions du Petit Vingtième
制作陣
製作者エルジェ
オリジナル
掲載20世紀子ども新聞英語版
掲載期間1930年6月5日 – 1931年6月11日
言語フランス語
翻訳版
出版社福音館書店
発売日2007年
ISBN978-4-8340-2037-3
翻訳者川口恵子
年表
前作タンタン ソビエトへ (1930年)
次作タンタン アメリカへ (1932年)

タンタンのコンゴ探険』(フランス語: Tintin au Congo)は、ベルギーの漫画家エルジェによる漫画バンド・デシネ)、タンタンの冒険シリーズの2作目である。ベルギーの保守紙『20世紀新聞英語版』 (Le Vingtième Siècle)の子供向け付録誌『20世紀子ども新聞英語版』(Le Petit Vingtième)にて1930年6月から1931年6月まで毎週連載されていた。当初はモノクロであったが、1946年に著者本人によってカラー化された。ベルギー人の少年記者タンタンを主人公とし、愛犬スノーウィと共にベルギー植民地であるコンゴベルギー領コンゴ)に派遣され、現地人との出会いや、ダイアモンド利権を巡る白人密航者の陰謀に関わる。

前作『タンタン ソビエトへ』が読者に好評であったことから、その続編として企画され、前作完結後の翌月には本作の連載が開始された。舞台やテーマは前作と同じく、新聞社の経営者であるノルベール・ヴァレーズ英語版の指示の下、当時のベルギーの植民地であったアフリカのコンゴに決まり、保守主義者である彼の意向に沿うような植民地主義を肯定するような内容になっている。こうした描写やテーマは当時は初期作品の中でも特に人気を博したが、20世紀後半になると、コンゴ人に対する人種差別や大型動物のハンティングを美化するような内容に批判が見られるようになっていた。ベルギー、スウェーデンイギリスアメリカと、本作を発禁処分としたり、未成年者への閲覧制限を課す国も出てきた。本作に対する批評家意見は大半が否定的であり、前作『ソビエトへ』よりはまだ良かったが、エルジェの作品の中で最低なものの1作とも評される。

日本語版は、2007年に福音館書店より出版された(川口恵子訳)。

あらすじ

『20世紀子ども新聞』の報道記者であるベルギー人少年タンタンは、ベルギー領コンゴを取材するため、愛犬のスノーウィと共に現地へ派遣される。本国人のタンタンは現地で歓迎をもって迎えられ、地元の少年ココを雇って取材旅行を開始する。一方、タンタンがコンゴにやってくる際に乗っていたフェリーには謎の密航者も潜んでおり、タンタンは何度も彼に命を狙われる。さらには、タンタンをよく思わない地元民の呪術師ムガンガの妨害も受ける。

歴史

執筆背景

コンゴについては、『タンタン ソビエトへ』と同じく、1930年当時のブルジョア社会の偏見に踊らされていたのが本当のところだ。私が知っていたのは、当時に一般に言われるこうした国の話だけだった。つまり、「アフリカはとても大きな子供であり、(中略)私達の存在が彼らにとって感謝すべきものだ」とかね。だから、そういう基準でアフリカ人を描いたんだ、当時のベルギーにあった純粋なパターナリズム(温情主義)に基づいてさ。
Numa Sadoulのインタビューに対するエルジェのコメント[1]

作者のエルジェ(本名:ジョルジュ・レミ)は、故郷ブリュッセルにあったローマ・カトリック系の保守紙『20世紀新聞英語版』(Le Vingtième Siècle)で働いており、同紙の子供向け付録誌『20世紀子ども新聞英語版』(Le Petit Vingtième)の編集とイラストレーターを兼ねていた[2]。 同紙は教会のアベで、親ファシストでもあったノルベール・ヴァレーズ英語版が経営と編集長を務めており、「教義と情報のためのカトリック新聞」を標榜し、彼の親ファシスト的な論調はそのまま紙面にも反映されていた[3]ハリー・トンプソン英語版によれば、当時のベルギーにおいて、こうした政治思想は一般的なものであり、エルジェの周囲には「愛国心カトリック、厳しい道徳、規律、純真」を主とする保守思想が浸透していた[4]

1929年、エルジェの代表作となる、架空のベルギー人の少年記者・タンタンの活躍を描く『タンタンの冒険』の連載が始まった。第1作目『タンタン ソビエトへ』は、1929年1月10日から1930年5月8日まで毎週連載されて大成功を収め、すぐに続編の企画が立ち上がった。エルジェは今度はアメリカを舞台としたいと考えていたが、ヴァレーズは当時ベルギーの植民地であったコンゴベルギー領コンゴ)を舞台とするよう指示した[5]。 ベルギーの子どもたちは学校でコンゴについて習っていたが、ヴァレーズは読者に植民地経営や宣教活動への熱意を持ってほしいと狙っていた[6]。 特に1928年の、ベルギー王アルベール1世エリザベート王妃のコンゴ訪問の記憶もまだ新しい時期であり、ベルギーの植民地行政のさらなる振興が必要だとヴァレーズは考えていた[7]。 そして読者の中から、コンゴで働くことを希望する者が出てくることを期待した[8]

前作『タンタン ソビエトへ』において、ほぼ単一の情報源に頼っていたように、本作でも限定的な情報源を元にコンゴや、その人々を描いていた。それは主として宣教師が書いた文献を中心に物語は構築されており、おそらく唯一、オリジナルであったのはダイヤモンドの密輸業者くらいだったと思われる[9]。 他にエルジェはベルギーの王立中央アフリカ博物館を訪れ、コンゴの民俗学的な収蔵品を取材した[10]。 また、ハンティングのシーンは、アンドレ・モーロワの小説『ブランブル大佐の沈黙』から借用し、動物の絵はバンジャマン・ラビエ 英語版版画が基になっていた[11]。 また、植民地に行ったことがある同僚たちから同地の話を聞いたりもしたが、エルジェは彼らの話に嫌気を差していたようであり、後に「植民地人たちは、自分の功績を自慢気に話してくるから私は好きではなかった。だけど、黒人を大きな子供と見ることをやめることもできなかったんだ」と語っている[8]

オリジナル版(1930年-1931年)

本作は1930年6月5日から1931年6月11日まで『20世紀子ども新聞』誌上で『Tintin au Congo(コンゴのタンタン)』の題で連載された。前作と同様に、フランスのカトリック新聞『Cœurs Vaillants』でも連載された[12]。作品はモノクロであり、エルジェに詳しいマイケル・ファー英語版によれば、前作『ソビエトへ』と同じく、毎週ごとに即興で描かれたものであり、ほぼ相互に無関係な出来事で構成されていた[13]。そして前作と同様に読者から人気を博すとヴァレーズは、前作と似たような宣伝攻勢を仕掛けた。タンタンに扮したドンカーという子役に植民地の衣装を着させて、10名のアフリカ人と動物園から借りた様々な異国の動物を伴ってブリュッセルとリエージュでイベントを開いた。地元百貨店との共同企画であり、ブリュッセルでは5000人の観客を集めた[14]。 1931年に前作と同様にÉditions du Petit Vingtième(20世紀子供出版)が1冊の書籍にまとめて、刊行した[12]。 シリーズの成功によってヴァレーズは、エルジェとの雇用契約を見直し、彼に高給を与え、自宅で仕事を行う権利を与えた[15]

1937年、シリーズ第4作『ファラオの葉巻』より書籍版の出版を担うようになったカステルマン英語版社より、第2版が出版された[12]。 その後、1944年までに第7版まで再版が行われ、これはシリーズの初期7作をそれぞれ上回る売上を誇った[16][注釈 1]

カラー化(1946年)

1940年代から1950年代にかけてエルジェの人気が高まると、エルジェはスタジオのチームと共に、今までのモノクロ版をカラーにリニューアルする作業に着手した。この作業ではエルジェが開発したリーニュクレール[注釈 2]の技法が用いられた[18]。本作は1946年にカラー化がなされ、カステルマンより出版された[18]

カラーリメイクにあたっては、カステルマンの提案に従って標準62ページに編纂し直されており、オリジナルの110ページから削減されている。物語自体にもいくつか変更が加えられ、ベルギーと植民地支配への言及の多くをカットした[18]。 例えば、タンタンがコンゴの小学生に地理を教えるシーンにおいて、オリジナル版では「親愛なる友人たち。今日は君たちの国について教えよう、ベルギーだ!」と述べていたのに対し、このリメイク版では単に算数の授業になっていた[18]。 また、タンタンを襲わせるヒョウの飼い主ジミー・マクダフは、オリジナル版ではアメリカ大サーカスの黒人支配人であったが、リメイク版ではヨーロッパ最大の、動物園向けの白人ブローカーに変更されている[18]

また、本来は後の『ファラオの葉巻』(1934年)で初登場したまぬけな刑事コンビ・デュポンとデュボン英語版をカメオ出演させてもいる[7]。同じコマでは、本作の着色作業を手伝ったエドガー・P・ジャコブ英語版フランス語版も描き加えられている[19]

その後の出版歴

1975年北欧の出版社から翻訳版が出版されるにあたって、エルジェに56ページ目にあった生きたサイに穴を空け、ダイナマイトを詰めて爆破するシーンを変更して欲しいという依頼があった。エルジェ自身も、こうした大型動物のハンティングシーンに後悔があったため、これを引き受けた。変更後は、サイがタンタンのを誤って倒したために暴発するも、無傷でそのまま逃げ出す、というものになった[20]

長年、世界中の出版社から刊行されていたにもかかわらず、イギリスでは人種差別的な内容を理由として、長らく出版自体がなされていなかった。1980年代後期に、当時のエルジェ・スタジオのイギリスにおけるエージェントであったニック・ロドウェルが、英語版を出版する意向を発表し、また1946年カラー版よりも、1931年のモノクロ版の方が論争が少ないだろうという考えが示された[19]。 こうして、英語版は1931年の初版発行から60年経った1991年に、シリーズの最終作としてモノクロ版が発行された[1]。 カラー版の翻訳版は、2005年になってエグモント社から出版された[21]

日本語版は、カラー版を底本に、2007年に川口恵子訳として福音館書店から出版された。福音館版は順番が原作と異なっており、本作はシリーズ22作目という扱いであった[22]

書評と分析

エルジェの伝記を書いたPierre Assoulineは、エルジェの絵は自発性を失わず、初期のものを通して、よりはっきりしていったと考察している[11]。 また、物語が無難に始まり、物語全体を通してタンタンがボーイスカウトとして描かれているとし、こうした描写が、エルジェが持っていたヴァレーズへの「道徳的負債」を反映していると述べている[11]。 同じく伝記を書いたブノワ・ペータースは、本作には「華やかさがなく」、「驚くほど煩わしい」モノローグがあると評しつつも、前作よりは「多少洗練された」と述べている[23]プロットは「極めて単純」であり、タンタンのキャラクター造形が、おもちゃの動物やメタル・フィギュリン(金属製の小さな人形)で世界を操る子供のようだったとしている[15]マイケル・ファー英語版は前作と異なり、終盤にアメリカのダイヤモンド密輸組織が登場するところを、プロットらしきものが見られると評している[13]。 Philippe Goddinは前作よりも「エキサイティング」であったと評し、コンゴの先住民の描写も、それを茶化したようなものではなく、過去のヨーロッパの軍隊パロディにしたものと評している[24]。 一方でハリー・トンプソン英語版は、前作よりもほとんど後退しているとし、プロットもキャラクターもなく、「タンタンの本の中で最も幼稚」だと論じている[25]。 フィナンシャル・タイムズのサイモン・クーパーは、本作を『タンタン ソビエトへ』と同じく、シリーズ・ワースト作品と評し、「絵が下手」で「ほぼプロットがない」と批判している[26]

1946年のカラー版については、ファーはオリジナル版よりも劣化したと評している。「活気」と「雰囲気」が失われ、コンゴの新しい風景も説得力に欠けており、「乾燥した埃っぽい現実的な広がり」よりも、ヨーロッパの動物園のようであると評している[1]。 逆にペータースは、カラー版の方を肯定的に評し、エルジェのデッサン力向上による、「美的な改善」と「構成の明確化」が見て取れ、「より生き生きとして、流れるような」セリフ回しの向上があると述べている[27]

脚注

注釈

  1. ^ 1938年の『黒い島のひみつ』まで初期7作の平均売上は1.7万部であったが、本作は2.5万部を超えていた[16]
  2. ^ リーニュクレール(ligne claire)という名前は、エルジェ自身の命名ではなく、1977年に漫画家のJoost Swarteによって名付けられた[17]

出典

  1. ^ a b c Farr 2001, p. 22.
  2. ^ Peeters 1989, pp. 31–32; Thompson 1991, pp. 24–25.
  3. ^ Peeters 1989, pp. 20–32; Thompson 1991, pp. 24–25; Assouline 2009, p. 38.
  4. ^ Thompson 1991, p. 24.
  5. ^ Assouline 2009, p. 26; Lofficier & Lofficier 2002, p. 24.
  6. ^ Assouline 2009, p. 26.
  7. ^ a b Farr 2001, p. 21.
  8. ^ a b Peeters 2012, p. 46.
  9. ^ Lofficier & Lofficier 2002, p. 25.
  10. ^ Assouline 2009, p. 27; Peeters 2012, p. 46.
  11. ^ a b c Assouline 2009, p. 27.
  12. ^ a b c Assouline 2009, p. 28; Lofficier & Lofficier 2002, p. 24.
  13. ^ a b Farr 2001, pp. 21–22.
  14. ^ Assouline 2009, p. 28; Peeters 2012, p. 47; Thompson 1991, p. 41.
  15. ^ a b Peeters 2012, p. 47.
  16. ^ a b McKinney 2008, p. 171.
  17. ^ Pleban 2006.
  18. ^ a b c d e Farr 2001, p. 25.
  19. ^ a b Thompson 1991, p. 42.
  20. ^ Farr 2001, pp. 23, 25.
  21. ^ Hergé 2005, inset.
  22. ^ タンタンのコンゴ探険”. 福音館書店. 2023年5月1日閲覧。
  23. ^ Peeters 2012, pp. 46–47.
  24. ^ Goddin 2008, p. 75.
  25. ^ Thompson 1991, p. 40.
  26. ^ Kuper 2011.
  27. ^ Peeters 1989, pp. 30–31.

参考文献

外部リンク