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「エゾモモンガ」の版間の差分

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|族 = [[モモンガ|モモンガ族]] [[:Pteromyini|Pteromyini]]
|族 = [[モモンガ|モモンガ族]] [[:Pteromyini|Pteromyini]]
|属 = [[モモンガ|モモンガ属]] [[:en:Pteromys|Pteromys]]
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|種 = [[タイリクモモンガ]] [[:en:Pteromys volans|Pteromys volans]]
|種 = [[タイリクモモンガ]] [[:en:Pteromys volans|Pteromys volans]] (Linnaeus, 1758){{Sfn|IUCN|2016}}
|亜種 = '''エゾモモンガ''' ''Pteromys volans orii''
|亜種 = '''エゾモモンガ''' ''Pteromys volans orii''
|学名 = ''Pteromys volans orii''
|学名 = ''Pteromys volans orii ([[黒田長礼|Kuroda]], 1921)''<ref name="ITIS"/>
|和名 = エゾモモンガ
|和名 = エゾモモンガ
|英名 = Russian flying squirrel<ref name="円山 (2008) website">「[[#円山 (2008)|エゾモモンガ]]」(札幌市円山動物園)より。</ref>
|英名 = Russian flying squirrel<ref name="円山 (2008) website">「[[#円山 (2008)|エゾモモンガ]]」(札幌市円山動物園)より。</ref><br>Siberian Flying Squirrel{{Sfn|国立科学研究所}}<br>Eurasian small flying squirrel{{Sfn|国立科学研究所}}
|生息図 =
|生息図 = [[ファイル:Pteromys volans range map.svg|180px]]
|生息図キャプション = エゾモモンガの生息図
|生息図キャプション =
}}
}}
<!-- 定義 -->
<!-- 定義 -->
'''エゾモモンガ'''(蝦夷小鼯鼠、''Pteromys volans orii'')は、[[ネズミ目]](齧歯目)[[リス|リス科]][[リス亜科]][[モモンガ|モモンガ族]][[モモンガ|モモンガ属]][[タイリクモモンガ|タイリクモモンガ種]]の[[亜種]]で、日本の[[北海道]]に生息するモモンガである(→[[#maruyama photo|写真]])。
'''エゾモモンガ'''(蝦夷小鼯鼠、''Pteromys volans orii ([[黒田長礼|Kuroda]], 1921)''<ref name="ITIS">{{ITIS|ID=930669|taxon=''Pteromys volans orii''|accessdate=2020-01-24}}</ref>)は、[[ネズミ目]](齧歯目)[[リス|リス科]][[リス亜科]][[モモンガ|モモンガ族]][[モモンガ|モモンガ属]][[タイリクモモンガ|タイリクモモンガ種]] ''[[:en:Pteromys volans|Pteromys volans]]'' ([[:w:Carl Linnaeus|Linnaeus]], [[:w:10th edition of Systema Naturae|1758]]) の[[亜種]]で、日本の[[北海道]]に生息する[[固有種|固有亜種]]である{{Sfn|門崎|1974|p=249}}(→[[#maruyama photo|写真]])。


== 名称 ==
== 名称 ==
[[黒田長礼]]が[[1921年]]([[大正]]10年)に記録したタイリクモモンガの亜種で<ref name="ITIS"/>、初の公式記録は同年の[[ウトナイ湖]](現:[[苫小牧市]])におけるものである<ref name="北海道ファンマガジン">{{Cite web|url=http://pucchi.net/hokkaido/nature/risu.php|title=エゾリスとエゾシマリスとエゾモモンガ|accessdate=2020-01-23|publisher=北海道リレーション|author=編集部|date=2009-05-13|website=[[北海道ファンマガジン]]|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20160608164836/http://pucchi.net/hokkaido/nature/risu.php|archivedate=2020-01-23}}</ref>。和名「蝦夷小鼯鼠」の命名者は[[岸田久吉]]{{Refnest|group="注"|理学博士・農学博士{{Sfn|門崎|2009|p=397}}。}}で{{Sfn|門崎|2009|p=345}}、亜種名の''orii''は[[折居彪二郎]]への[[献名]]。
和名「蝦夷小鼯鼠」の命名者は[[岸田久吉]]{{Refnest|group="注"|理学博士・農学博士<ref>{{Harvnb|門崎|2009|p=397}}</ref>。}}で、[[種 (分類学)|種]]の学名''Pteromys volans''の意味は「飛ぶ翼のある鼠」で、''Pteromys''が[[ギリシャ語]]で「翼のあるネズミ」、''volans''が[[ラテン語]]で「飛ぶ」をそれぞれ意味する<ref name="門崎2009 p.345">{{Harvnb|門崎|2009|p=345}}</ref>。亜種名の''orii''は[[折居彪二郎]]への[[献名]]。


[[アイヌ語]]では「アツ・カムイ」(アツ=「群棲」・カムイ=「神」の意味、すなわち「群棲する神」の意味)<ref name="富士元2001 p.3">{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=3}}</ref>もしくは「アッ・カムイ」(「子供の守り神」の意味、「アッカムイ」とも)と呼ばれたほか<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=3}}</ref>、[[1940年代]]までは[[狩猟|猟師]]・[[山子]](やまご){{Refnest|group="注"|「山子」とは[[樵|木樵]]など山仕事をする人のこと<ref>{{Harvnb|広辞苑|2018|p=2962}}</ref>。}}の間で「晩鳥」(バンドリ)という俗名で呼ばれていた<ref name="門崎2009 p.345"/>
[[アイヌ語]]では「アツ・カムイ」(アツ=「群棲」・カムイ=「神」の意味、すなわち「群棲する神」の意味){{Sfn|富士元|2001|p=3}}もしくは「アッ・カムイ」(「子供の守り神」の意味、「アッカムイ」とも)と呼ばれたほか{{Sfn|目黒|1994|p=3}}、[[1940年代]]までは[[狩猟|猟師]]・[[山子]](やまご){{Refnest|group="注"|「山子」とは[[樵|木樵]]など山仕事をする人のこと{{Sfn|広辞苑|2018|p=2962}}。}}の間で「晩鳥」(バンドリ)という俗名で呼ばれていた{{Sfn|門崎|2009|p=345}}


== 分布 ==
== 分布 ==
{{See also|タイリクモモンガ}}
本種を含むタイリクモモンガ種は[[ユーラシア大陸]]北部に分布し<ref name="石井2008 p.124"/>、その範囲は西端は[[フィンランド]]・[[リトアニア]]、さらに[[モンゴル]]を経て[[中華人民共和国]](中国)の[[渭水]]・[[朝鮮半島]]北部・極北を除く[[ロシア連邦]][[沿海地方]]以北<ref name="門崎2009 p.347"/>、[[樺太]](サハリン島)<ref name="石井2008 p.124"/>・東端は[[アナディリ]]までと広範囲の森林地帯に分布するが、[[カムチャツカ半島]]には分布していない<ref name="門崎2009 p.347"/>。
本種は北海道全域{{Sfn|柳川|2002|p=84}}平野部 - [[亜高山帯針葉樹林|亜高山帯]]にかけて分布し{{Sfn|門崎|2009|p=347}}、森林([[常緑針葉樹林]]・[[落葉広葉樹林]])に生息する{{Refnest|group="注"|エゾリスは常緑針葉樹林・エゾシマリスはミズナラ・柏などによる落葉広葉樹林に好んで生息するが、エゾモモンガはどちらの林にも好んで生息する{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。[[エゾマツ]]・トドマツなど常緑針葉樹は冬季でも葉を落とさないため、常緑針葉樹林では空中の天敵から身を隠すことができる{{Sfn|目黒|1994|p=16}}。}}{{Sfn|石井|2008|p=124}}。[[札幌市]]内の[[道立自然公園野幌森林公園|森林公園]]・[[札幌市円山動物園|円山動物園]]付近にも生息しているが<ref name="円山 (2008) website" />、北海道島嶼部・[[千島列島]]には生息していない{{Sfn|門崎|2009|p=347}}


本種は住処・食料・移動手段をいずれも樹木に依存しており、樹木のない場所では生息できない{{Sfn|進啓士郎|2019|p=83}}。一方である程度の面積{{Refnest|group="注"|市街地の公園・人家周辺の数ヘクタールの残存林でも観察される{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。}}・巣穴にできる太さの樹木がある森林ならば生息でき{{Sfn|富士元|2001|p=3}}、市街地の公園・学校の林{{Sfn|進啓士郎|2019|p=83}}・鉄道の線路沿いにある[[防風林]]・住宅地近くの[[雑木林]]などといった環境にも生息する{{Sfn|富士元|2001|p=3}}。しかし夜行性で警戒心が強いことに加え、一生のほとんどを樹上で過ごすため継続して観察することは難しく、詳しい生態はあまり知られていない{{Sfn|富士元|2001|p=3}}。
北海道の平野部 - [[亜高山帯針葉樹林|亜高山帯]]にかけて分布し<ref name="門崎2009 p.347">{{Harvnb|門崎|2009|p=348}}</ref>、森林([[常緑針葉樹林]]・[[落葉広葉樹林]])に生息する<ref name="石井2008 p.124"/>{{Refnest|group="注"|[[エゾマツ]]・トドマツなど常緑針葉樹は冬季でも葉を落とさないため、常緑針葉樹林では空中の天敵から身を隠すことができる<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=16}}</ref>。}}。[[札幌市]]内の[[道立自然公園野幌森林公園|森林公園]]・[[札幌市円山動物園|円山動物園]]付近にも生息しているが<ref name="円山 (2008) website" />、北海道島嶼部・[[千島列島]]には生息していない<ref name="門崎2009 p.347"/>


種は住処食料移動手段をいずれも樹木依存しており、樹木のない場所では生息できない<ref name="進2019 p.83">{{Harvnb|進啓士郎|2019|p=83}}</ref>。一方である程度の面積・巣穴にできる太さの樹木がある森林ならば生息でき<ref name="富士元2001 p.3"/>、市街地の公園・学校の林<ref name="進2019 p.83"/>・鉄道の線路沿いにある[[防風林]]・住宅地近くの[[雑木林]]などといっ環境生息する<ref name="富士元2001 p.3"/>。かし夜行性で警戒心が強ことに加え、一生のほとんどを樹上で過ごすため継続して観察すること難し、詳しい態はあまり知られていない<ref name="富士元2001 p.3"/>。なお同じ北海道に生息するリス科の動物である[[エゾリス]]([[キタリス]]の亜種)・[[エゾシマリス]]([[シマリス]]の亜種)とはそれぞれ活動時間・空間・餌や巣などの資源を使い分けているため、3種とも競合せず同じ環境で生息できる<ref name="進2019 p.82">{{Harvnb|進啓士郎|2019|p=82}}</ref>
四国九州に生息る[[ニホンモモンガ]](日本固有種)は[[ムササビ]]と巣穴などをめぐり競合するめ比較的高地多いが、北海道にはムササビが生息しいため、本種低地から高地まで幅広く生息する{{Refnest|group="注"|本種の生息標高は海抜0メートル - 2,500メートルと広範囲にわたる{{Sfn|IUCN|2016}}。}}{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。なお同じ北海道に生息するリス科の動物である[[エゾリス]]([[キタリス]]の亜種)・[[エゾシマリス]]([[シマリス]]の亜種)とはそれぞれ活動時間・空間・餌や巣などの資源を使い分けているため、3種とも競合せず同じ環境で生息できる{{Sfn|進啓士郎|2019|p=83}}。


== 特徴 ==
== 特徴 ==
成獣の大きさには[[雄|オス]]・[[雌|メス]]で違いがあり、[[体長]](頭胴長)はオスの方が長く16 - 18センチメートル(cm)、メスは約15センチメートル{{Sfn|門崎|2009|p=345}}。[[体重]]はオスが約120グラム(g){{Sfn|門崎|2009|p=345}}、オスとメスを区別していないデータでは81 - 120グラム{{Sfn|石井|2008|p=124}}ないし100 - 120グラム{{Sfn|柳川|2002|p=84}}、[[妊娠]]したメスでは150 - 160グラム{{Sfn|進啓士郎|2019|p=84}}。
成獣の大きさには[[雄|オス]]・[[雌|メス]]で違いがあり、[[体長]](頭胴長)はオスの方が長く16 - 18cm(センチメートル)、メスは約15cm<ref name="門崎2009 p.345"/>。[[体重]]はオスが約120g(グラム)<ref name="門崎2009 p.345"/>、オスとメスを区別していないデータでは81 - 120g<ref name="石井2008 p.124"/>、[[妊娠]]したメスでは150 - 160g<ref name="進2019 p.84"/>。耳長は18 - 22mm(ミリメートル)・[[後足長]]は32 - 35mmで<ref name="石井2008 p.124">{{Harvnb|石井|2008|p=124}}</ref>、<!-- 体毛 -->体毛の[[毛先]]の色は1年を通して[[頬]] - [[胸|胸部]]・[[下腹部]]にかけて白色だが、それ以外の部位は白色または褐色で毛の下部は黒色である<ref name="門崎2009 p.345"/>。目は直径7 - 9mmと体格に比して大きく{{Refnest|group="注"|目が大きいのは夜行性のためで<ref name="太田2017 p.67"/>、その視力は真っ暗な夜の森林の中でも枝に接触することなく飛行できるほど高い<ref>{{Harvnb|目黒誠一|田中美奈子|2002|p=5}}</ref>。}}、目の周囲の毛色は黒い毛足が裸出しているため黒色<ref name="門崎2009 p.345"/>。[[陰茎骨]]は細長く二又になっている<ref name="門崎2009 p.345"/>{{Refnest|group="注"|ニホンモモンガの陰茎骨は極めて短くて幅広く、ねじれている<ref name="門崎2009 p.345"/>。}}。<!-- 歯 -->[[歯]]数は[[切歯]]が上2本・下2本、[[犬歯]]はなし、[[小臼歯|前臼歯]]は上4本・下2本、後臼歯は上6本・下6本の合計22本(上12本・下10本)<ref name="門崎2009 p.345"/>。[[乳首|乳頭]]数は[[胸|胸部]]2対・[[腹|腹部]]1対・[[鼠蹊部|鼠径部]]1対の合計8個(4対)<ref name="門崎2009 p.345"/>{{Refnest|group="注"|ニホンモモンガの乳頭数は5対(10個)なのでその点で区別できる<ref name="京都府">{{Cite web|url=http://www.pref.kyoto.jp/gairai/data/d01_14.html|title=京都府外来生物データ(タイリクモモンガ)|accessdate=2019-09-15|publisher=[[京都府]]|website=京都府 外来生物情報|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915123131/http://www.pref.kyoto.jp/gairai/data/d01_14.html|archivedate=2019-09-15}}</ref>。}}。[[指趾]]数(指の数)は[[前肢]]が4本(×2=8本、[[親指|第1指]]がない)・[[後肢]]が5本(×2=10本)の合計18本<ref name="門崎2009 p.345"/>。手の指は長くて物を握り掴むことに適しており<ref name="門崎2009 p.345"/>、樹木を登るため鋭い鉤爪を持つ一方<ref name="太田2017 p.67"/>、足の平は無毛で細い枝などを掴みやすい体つきになっている<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=48}}</ref>


耳長は18 - 22ミリメートル(mm)・[[後足長]]は32 - 35ミリメートルで{{Sfn|石井|2008|p=124}}、<!-- 体毛 -->体毛の[[毛先]]の色は1年を通して{{Sfn|門崎|2009|p=345}}腹面{{Sfn|柳川|2002|p=84}}([[頬]] - [[胸|胸部]]・[[下腹部]]にかけて)は白色だが、それ以外の部位は白色または褐色で毛の下部は黒色である{{Sfn|門崎|2009|p=345}}。背面の体毛色は保護色になっており{{Sfn|目黒|1994|p=53}}、夏毛は淡い茶褐色・冬毛は淡い灰褐色{{Sfn|柳川|2002|p=84}}ないし白っぽい{{Refnest|group="注"|ニホンモモンガの場合は背面は夏毛が茶褐色・冬毛が灰褐色で、腹面は本種と同じく白色となる{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。}}{{Sfn|富士元|2001|p=54}}。目は直径7 - 9ミリメートルと体格に比して大きく{{Refnest|group="注"|目が大きいのは夜行性のためで{{Sfn|太田|2017|p=67}}、その視力は真っ暗な夜の森林の中でも枝に接触することなく飛行できるほど高い{{Sfn|目黒|田中|2002|p=5}}。}}、目の周囲の毛色は黒い毛足が裸出しているため黒色{{Sfn|門崎|2009|p=345}}。
[[新生子]]は体長5.0 - 5.6cm、尾長は2.2 - 2.5cmで[[体毛]]はほとんど生えておらず、[[視力]]・[[聴力]]はまだない<ref name="門崎2009 p.345"/>

<!-- 歯 -->[[歯]]数は[[切歯]]が上2本・下2本、[[犬歯]]はなし、[[小臼歯|前臼歯]]は上4本・下2本、後臼歯は上6本・下6本の合計22本(上12本・下10本){{Sfn|門崎|2009|p=345}}。[[乳首|乳頭]]数は[[胸|胸部]]2対・[[腹|腹部]]1対・[[鼠蹊部|鼠径部]]1対の合計8個(4対){{Sfn|門崎|2009|p=345}}{{Refnest|group="注"|ニホンモモンガの乳頭数は5対(10個)なのでその点で区別できる<ref name="京都府">{{Cite web|url=http://www.pref.kyoto.jp/gairai/data/d01_14.html|title=京都府外来生物データ(タイリクモモンガ)|accessdate=2019-09-15|publisher=[[京都府]]|website=京都府 外来生物情報|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915123131/http://www.pref.kyoto.jp/gairai/data/d01_14.html|archivedate=2019-09-15}}</ref>。}}。[[指趾]]数(指の数)は[[前肢]]が4本(×2=8本、[[親指|第1指]]がない)・[[後肢]]が5本(×2=10本)の合計18本{{Sfn|門崎|2009|p=345}}。手の指は長くて物を握り掴むことに適しており{{Sfn|門崎|2009|p=345}}、樹木を登るため鋭い鉤爪を持つ一方{{Sfn|太田|2017|p=67}}、足の平は無毛で細い枝などを掴みやすい体つきになっている{{Sfn|目黒|1994|p=48}}。

[[陰茎骨]]は細長く二又になっている{{Sfn|門崎|2009|p=345}}{{Refnest|group="注"|ニホンモモンガの陰茎骨は極めて短くて幅広く、ねじれている{{Sfn|門崎|2009|p=345}}。}}。[[染色体数]]は本種・ニホンモモンガとも同じ2n = 38である{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。

[[新生子]]は体長5.0 - 5.6センチメートル、尾長は2.2 - 2.5センチメートルで[[体毛]]はほとんど生えておらず、[[視力]]・[[聴力]]はまだない{{Sfn|門崎|2009|p=345}}


=== 飛膜・尾 ===
=== 飛膜・尾 ===
本種は[[滑空]]するための飛膜を持っており<ref name="門崎2009 p.345"/>、飛膜は頬後部 - 前肢まで、前肢から体側に沿って[[後肢]]まで、後肢から[[尾]]の付け根まである<ref name="門崎2009 p.345"/><ref name="門崎2009 p.94">{{Harvnb|門崎|2009|p=94}}</ref>。前肢の[[手関節|手首]]の先には飛膜を支える硬い[[軟骨]](長さ約4cm)が伸びており、飛膜もこの軟骨に沿って広がっている<ref name="門崎2009 p.345"/>
本種は[[滑空]]するための飛膜を持っており{{Sfn|門崎|2009|p=345}}、飛膜は頬後部 - 前肢まで、前肢から体側に沿って[[後肢]]まで、後肢から[[尾]]の付け根まである{{Sfn|門崎|2009|p=345}}{{Sfn|門崎|2009|p=94}}。前肢の[[手関節|手首]]の先には飛膜を支える硬い[[軟骨]](長さ約4センチメートル)が伸びており、飛膜もこの軟骨に沿って広がっている{{Sfn|門崎|2009|p=345}}


尾長はオス・メスともほぼ同じで約10cm(尾率=体長に対する尾の比率:52.3% - 72%)<ref name="門崎2009 p.345"/>。尾の断面は扁平で<ref name="門崎2009 p.345"/>、滑空時は[[方向舵]]の役目を果たす<ref name="清水 vol.9">「[[#清水 vol.9|エゾモモンガと清水飼育員]]」(Maruyama Zoo Channel)より。</ref>。
尾長はオス・メスともほぼ同じで約10センチメートル(尾率=体長に対する尾の比率:52.3% - 72%){{Sfn|門崎|2009|p=345}} - 12センチメートル{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。尾の断面は扁平で{{Sfn|門崎|2009|p=345}}、滑空時は[[方向舵]]の役目を果たす<ref name="清水 vol.9">「[[#清水 vol.9|エゾモモンガと清水飼育員]]」(Maruyama Zoo Channel)より。</ref>。


== 生態 ==
== 生態 ==
=== 活動時間 ===
本種[[夜行性]]で<ref name="門崎2009 p.346"/>、通常は日没から平均15 - 20分程度で巣から出て活動を開始し、何度か巣に戻って休む。巣から出ている時間のほとんどは餌を食べるために使い、最後の活動は日の出前20 - 25分ごろに終えることが多い<ref name="進2019 p.83"/>。春 - 夏にかけての繁殖期には日中に活動する場合もある<ref name="進2019 p.83"/>
本種は[[夜行性]]の小動物であることに加え、一度の滑空により高距離を移動するため発見・追跡が非常に困難である{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。加えて一生のほとんどを樹上で過ごし、天然の樹洞・キツツキ類の古巣を巣穴として利用するため捕獲も困難である{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。そのような特性に加え、人間にとってはほとんど利害をもたらさない動物であったためあまり注目されず、かつて本種の生態はほとんど研究が進んでいなかったが、小鳥用の巣箱を巣穴として利用することが判明したことで電波発信機を用いた[[遠隔測定法|テレメトリー法]]による追跡調査が可能となり、その生態が明らかになっていった{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。


活動開始時刻・終了時刻日没・日の出時刻の季節変化比例して変化する{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。春 - 秋(5月 - 10月)にかけて{{Sfn|柳川|2002|p=84}}日没から平均15 - 20分程度で巣から出て活動を開始し、何度か巣に戻って休む{{Sfn|進啓士郎|2019|p=83}}。巣から出ている時間の約75%は餌を食べるために使い{{Sfn|柳川|2002|p=84}}、最後の活動は日の出前20 - 25分ごろに終えることが多い{{Sfn|啓士郎|2019|p=83}}本種は主に夜行性だが{{Sfn|門崎|2009|p=346}}、春 - 夏にかけての繁殖期{{Sfn|進啓士郎|2019|p=83}}・および厳冬期には夜間だけでなく日中に活動する{{Sfn|太田|2017|p=71}}
活動範囲は巣を中心とした領域で<ref name="門崎2009 p.346">{{Harvnb|門崎|2009|p=346}}</ref>、その広さはオスで約2ha(ヘクタール)・メスでは約1haであり、メス同士の活動範囲は個体間で重ならないが、オス同士では重なる<ref name="石井2008 p.124" />。本種はほとんど樹上生活かそれに類する生活を送っており<ref name="太田2017 p.67"/>、地面に降りることはほとんどなく<ref name="門崎2009 p.347"/>、雪面・地面で足跡を見ることはほとんどないが、地面を跳躍歩調する際にも飛膜を広げるため揚力が働き着地圧が軽減され、手足の着地痕が不鮮明になりやすい一方で新雪上では雪面に飛膜痕が残ることが多い<ref name="門崎2009 p.94"/>。また[[爪]]が鋭いため垂直の[[樹木]]・建造物などの[[モルタル]]壁の表面を垂直・上下左右へ自由に移動できる<ref name="門崎2009 p.347"/>。行動単位は子育て中のメス以外は基本的には1匹であるが、1つの巣に複数の個体が同居していることも少なくなく<ref name="門崎2009 p.346"/>、特に冬季には述のように複数個体で1つの巣に集まって越冬する場合がある<ref>{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=54}}</ref>


本種は秋に越冬への準備として栄養豊富な種子類を食べ、体脂肪を貯えて体重を15 - 20%増加させる{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。
本種は[[キツツキ]]の一種である[[アカゲラ]]の古巣([[樹洞]])<ref>{{Harvnb|富士元寿彦|2004|p=39}}</ref>・自然にできた樹洞・人為的に[[木|樹木]]に架けた[[鳥類|鳥]]用の[[巣箱]]・[[住宅|人家]]などの[[屋根裏]]・[[エゾリス]]の古巣などが様々なものを[[巣]]として利用する<ref name="門崎2009 p.346-347">{{Harvnb|門崎|2009|pp=346-347}}</ref>。樹洞は入り口がほぼ円形 - 卵形で直径4 - 6cm程度の物を好むが、出入口を歯で齧って形状を改善する場合もある<ref name="門崎2009 p.347"/>。また巣穴は入り口が広いと[[クロテン]]([[エゾクロテン]])など天敵に襲われる危険性が高いため狭い巣穴を好み<ref>{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=23}}</ref>、500円硬貨程度の大きさがあれば入ることができる<ref>{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=6}}</ref>。また本種は巣内に乾燥した柔らかい[[植物性]]の[[巣材]](枯れ木の乾燥した内皮をほぐしたもの、乾燥したコケ類・[[サルオガセ]]・枯れ草など)を運び入れ、その中で眠る<ref name="門崎2009 p.347"/>。このほか、樹木の枝上に小枝・樹皮を利用して巣を作る場合や<ref name="石井2008 p.124" />、凍結してできた樹木の割れ目を利用する場合もある<ref name="太田2017 p.69">{{Harvnb|太田達也|2017|p=69}}</ref>


==== 越冬 ====
本種は夕方に目覚めて巣穴を出るとまず糞尿を排泄するが、周囲に危険を感じない場合は低い場所で、危険を感じた場合は高い場所で用を足す<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=33}}</ref>。糞は長さ7 - 15mm・直径3 - 5mmほどの米粒状糞、および柔らかい米粒状糞が集着した糞、不定形な軟便と3大別されるが、多くの場合は長さ約10mm・直径約4mmである<ref name="門崎2009 p.238">{{Harvnb|門崎|2009|p=238}}</ref>。糞の色は黄褐色 - 緑褐色、もしくは暗緑色・赤銅色と多様で<ref name="門崎2009 p.238"/>、糞は食痕がある場所・巣穴がある樹木(巣木)・移動経路上の休憩場所となっている樹下によく散乱している<ref name="門崎2009 p.238"/>。食巣穴近くの樹木で糞をする習性があり<ref name="太田2017 p.69"/>、巣木の巣穴付近の樹面に止まりながら排泄することも普通で、巣穴下の樹面・根元の雪面は糞尿で汚れていることがある<ref name="門崎2009 p.239">{{Harvnb|門崎|2009|p=239}}</ref>。1回の排糞量は多い時で40粒ほどで、同じ巣に複数個体が同居している場合は巣樹の下に2,000 - 3,000粒も糞が溜まっている場合がある<ref name="門崎2009 p.239"/>。このことからエゾモモンガの巣木を見つける目安としては「樹洞からエゾモモンガが出入りしたことを確認」する以外に「樹皮面がエゾモモンガの糞尿で汚れているか、樹木の根本付近に総量50cc以上の多量の糞(複数回の脱糞)が散在している」点が挙げられる<ref name="門崎2009 p.54">{{Harvnb|門崎|2009|p=54}}</ref>
本種はエゾシマリスと異なり冬(11月 - 4月)も[[冬眠]]しないほか、エゾシマリス・エゾリスのように秋季に種子を貯食することもない{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。氷点下25℃以下にまで気温が低下して髭が白く凍り付き{{Sfn|目黒|1994|p=67}}、小さな体を吹き飛ばされるほど激しい猛吹雪が吹き荒れる厳冬期でも餌を食べに巣穴の外へ出て活動するが{{Sfn|富士元|2001|p=66}}、冬季は活動を必要最小限にとどめるため活動時間が極端に短くなり、活動開始・終了時間とも非常に不規則になる{{Refnest|group="注"|飼育実験下では冬季の1日の総活動時間は平均45分であった{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。}}{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。


体毛の色保護色になっており<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=53}}</ref>、夏毛は茶褐色で冬毛は白っぽい<ref name="富士元2001 p.54"/>。冬季が近づくと冬毛に生え変わり、体を寄せ合い保温効果を高める目的で1つの巣穴に複数個体(通常は2 - 5匹、多い場合で10匹程度)が集まり集団で[[越冬]]する<ref name="富士元2001 p.54">{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=54}}</ref>。本種は[[冬眠]]せず<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=34}}</ref><ref name="富士元2001 p.66"/>、氷点下25℃以下にまで気温低下して髭が白く凍り付き<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=67}}</ref>、小さな体を吹き飛ばされほど激しい猛吹雪が吹き荒れる厳冬期でも餌を食べに巣穴の外へ出て活動するほか<ref name="富士元2001 p.66">{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=66}}</ref>、厳冬期には夜間だけでなく日中にも活動する<ref name="太田2017 p.71">{{Harvnb|太田達也|2017|p=71}}</ref>また本種は無駄な争いを好まず、冬季に自分の巣穴へ同種他個体が来ても拒絶することなく互いに厳しい冬を乗り切る<ref name="太田2017 p.69"/>
また本種は体を寄せ合い保温効果を高める目的で1つの巣穴に複数個体(通常は2 - 5匹、多い場合で10匹程度)が集まり集団で[[越冬]]する習性る{{Sfn|富士元|2001|p=54}}。本種は無駄な争いを好まず、冬季に自分の巣穴へ同種他個体が来ても拒絶することなく互いに厳しい冬を乗り切る{{Sfn|太田|2017|p=69}}


=== 食性 ===
=== 活動範囲・巣 ===
活動範囲は巣を中心とした領域で{{Sfn|門崎|2009|p=346}}、その広さはオスで約2ヘクタール(ha)・メスでは約1ヘクタールである{{Refnest|group="注"|柳川(2002)によればテレメトリー法により測定したメスの縄張りは平均1.7ヘクタール、♂の行動圏は4.8ヘクタールで、うち道路・農耕地などエゾモモンガが利用できない領域を除いた森林だけの面積はメスが1.1ヘクタール、♂が2.2ヘクタールであった{{Sfn|柳川|2002|p=86}}。}}{{Sfn|石井|2008|p=124}}。メスは少なくとも繁殖期に縄張りを持ち、互いに縄張りは重なり合わないが、オスは縄張りを持たずメスより広い行動圏を持ち、オス同士の行動圏は大きく重なる{{Sfn|柳川|2002|p=86}}。
[[食性]]は[[雑食|雑食性]]で、基本的には[[植物性]]のものを食べている<ref name="門崎2009 p.347"/>。植物では木の[[芽]]・[[花]]・[[葉]]・[[樹皮]]の甘皮・[[種子]]などで、[[マツ]]類の球果([[松ぼっくり]])の種子・[[ドングリ]]、[[ヤマグワ]]・[[イチイ]]・[[サクラ]]の実も食べるが、[[クルミ]]は食べない<ref name="門崎2009 p.347"/>。四季ごとの主な食物は以下の通り。
* 冬 - 主に[[トドマツ]]の葉や[[カラマツ]]・[[シラカバ]]の冬芽・小枝の皮<ref name="富士元2001 p.27"/>・花穂など<ref name="進2019 p.84"/>
* 春 - ヤナギ類・シラカバ・ハンノキなどの若葉<ref name="進2019 p.84">{{Harvnb|進啓士郎|2019|p=84}}</ref>。3月ごろには[[ハンノキ]]の雄花の花穂<ref name="富士元2001 p.27">{{Harvnb|富士元寿彦|2001|p=27}}</ref>、3月下旬には[[イタヤカエデ]]の甘い樹液を好んで食べる<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=47}}</ref>
* 夏・秋 - ヤマグワ・サクラ・シラカバ・カエデなどの実、未熟なドングリ(カシワ・ミズナラなど)を食べる<ref name="進2019 p.84"/>
本種はほぼ完全な植物食だが<ref name="進2019 p.84"/>、[[昆虫]]など動物性の食物も食べる<ref name="門崎2009 p.347"/>。昆虫は[[成虫]]・[[幼虫]]・[[蛹]]を食べる<ref name="門崎2009 p.347"/>。本種は手の指が長いので食物を手で持って食べることができる<ref name="門崎2009 p.347"/>。地上には天敵の肉食動物が多いため地上に下りて川・湖の水を飲むことはなく樹上で水分補給をし、夏は樹木の葉に付いた水滴・冬は枝に積もった雪を飲み食いして水分を補給する<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=32}}</ref>


本種はほとんど樹上生活かそれに類する生活を送っており{{Sfn|太田|2017|p=67}}、地面に降りることはほとんどなく{{Sfn|門崎|2009|p=347}}、雪面・地面で足跡を見ることはほとんどないが、地面を跳躍歩調する際にも飛膜を広げるため揚力が働き着地圧が軽減され、手足の着地痕が不鮮明になりやすい一方で新雪上では雪面に飛膜痕が残ることが多い{{Sfn|門崎|2009|p=94}}。また[[爪]]が鋭いため垂直の[[樹木]]・建造物などの[[モルタル]]壁の表面を垂直・上下左右へ自由に移動できる{{Sfn|門崎|2009|p=347}}。行動単位は子育て中のメス以外は基本的には1匹であるが、1つの巣に複数の個体が同居していることも少なくなく{{Sfn|門崎|2009|p=346}}、特に冬季には述のように複数個体で1つの巣に集まって越冬する場合がある{{Sfn|富士元|2001|p=54}}。
なお本種は基本的に目標の樹木を発見すると食事が終わるまであまり動かず、1か所の樹木で食事をすることで体力を温存し、余分なエネルギー消費を抑えるため冬眠せず越冬することができる<ref name="太田2017 p.69"/>。しかし一方で食事を終えて巣に帰る途中で巣穴とは別の樹洞を探す場合があり、この行動により天敵接近時の避難場所や冬の共同生活・子育てに適した場所を調査する<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=56}}</ref>


本種は[[キツツキ]]の一種である[[アカゲラ]]の古巣([[樹洞]]){{Sfn|富士元|2004|p=39}}・自然にできた樹洞・人為的に[[木|樹木]]に架けた[[鳥類|鳥]]用の[[巣箱]]・[[住宅|人家]]などの[[屋根裏]]・[[エゾリス]]の古巣などが様々なものを[[巣]]として利用する{{Sfn|門崎|2009|pp=346-347}}。樹洞は入り口がほぼ円形 - 卵形で直径4 - 6センチメートル程度の物を好むが、出入口を歯で齧って形状を改善する場合もある{{Sfn|門崎|2009|p=347}}。また巣穴は入り口が広いと[[クロテン]]([[エゾクロテン]])など天敵に襲われる危険性が高いため狭い巣穴を好み{{Sfn|富士元|2001|p=23}}、500円硬貨程度の大きさがあれば入ることができる{{Sfn|富士元|2001|p=6}}。また本種は巣内に乾燥した柔らかい[[植物性]]の[[巣材]](枯れ木の乾燥した内皮をほぐしたもの、乾燥したコケ類・[[サルオガセ]]・枯れ草など)を運び入れ、その中で眠る{{Sfn|門崎|2009|p=347}}。このほか、樹木の枝上に小枝・樹皮を利用して巣を作る場合や{{Sfn|石井|2008|p=124}}、凍結してできた樹木の割れ目を利用する場合もある{{Sfn|太田|2017|p=69}}。
=== 天敵・寿命 ===
市街地・農耕地に生息するエゾモモンガの[[天敵]]はクロテン・[[フクロウ|エゾフクロウ]]・[[ハイタカ]]・[[ネコ]](飼い猫・野良猫とも)などである<ref name="進2019 p.84"/>。また[[シマフクロウ]]・[[クマタカ]]など希少な猛禽類もエゾモモンガを餌とする<ref name="進2019 p.84"/>


本種は夕方に目覚めて巣穴を出るとまず糞尿を排泄するが、周囲に危険を感じない場合は低い場所で、危険を感じた場合は高い場所で用を足す{{Sfn|目黒|1994|p=33}}。糞は長さ7 - 15ミリメートル・直径3 - 5ミリメートルほどの米粒状糞、および柔らかい米粒状糞が集着した糞、不定形な軟便と3大別されるが、多くの場合は長さ約10ミリメートル・直径約4ミリメートルである{{Sfn|門崎|2009|p=238}}。糞の色は黄褐色 - 緑褐色、もしくは暗緑色・赤銅色と多様で{{Sfn|門崎|2009|p=238}}、糞は食痕がある場所・巣穴がある樹木(巣木)・移動経路上の休憩場所となっている樹下によく散乱している{{Sfn|門崎|2009|p=238}}。食巣穴近くの樹木で糞をする習性があり{{Sfn|太田|2017|p=69}}、巣木の巣穴付近の樹面に止まりながら排泄することも普通で、巣穴下の樹面・根元の雪面は糞尿で汚れていることがある{{Sfn|門崎|2009|p=239}}。1回の排糞量は多い時で40粒ほどで、同じ巣に複数個体が同居している場合は巣樹の下に2,000 - 3,000粒も糞が溜まっている場合がある{{Sfn|門崎|2009|p=239}}。このことからエゾモモンガの巣木を見つける目安としては「樹洞からエゾモモンガが出入りしたことを確認」する以外に「樹皮面がエゾモモンガの糞尿で汚れているか、樹木の根本付近に総量50cc以上の多量の糞(複数回の脱糞)が散在している」点が挙げられる{{Sfn|門崎|2009|p=54}}。
本種は天敵が多い一方で攻撃力を有さず<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=30}}</ref>、天敵に見つからないよう常に周囲を警戒し、樹上では自分の体が天敵に見つからないよう注意している<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=62}}</ref>。本種は天敵に気づくとそれが立ち去るまで気づかれないようにじっとして動かないが、時にはその時間が1 - 2時間におよぶ場合もある<ref name="門崎2009 p.347" />

=== 食性 ===
[[食性]]は[[雑食|雑食性]]で、基本的には[[植物性]]のものを食べている{{Sfn|門崎|2009|p=347}}。植物では木の[[芽]]・[[花]]・[[葉]]・[[樹皮]]の甘皮・[[種子]]などで、[[マツ]]類の球果([[松ぼっくり]])の種子・[[ドングリ]]、[[ヤマグワ]]・[[イチイ]]・[[サクラ]]の実も食べるが、[[クルミ]]は食べない{{Sfn|門崎|2009|p=347}}。四季ごとの主な食物は以下の通り。
* 冬 - 主に[[トドマツ]]の葉や[[カラマツ]]・[[シラカバ]]の冬芽・小枝の皮{{Sfn|富士元|2001|p=27}}・花穂など{{Sfn|進啓士郎|2019|p=84}}{{Sfn|啓士郎|2019|p=84}}
* 春 - ヤナギ類・シラカバ・ハンノキなどの若葉{{Sfn|進啓士郎|2019|p=84}}。3月ごろには[[ハンノキ]]の雄花の花穂{{Sfn|富士元|2001|p=27}}、3月下旬には[[イタヤカエデ]]の甘い樹液を好んで食べる{{Sfn|目黒|1994|p=47}}。
* 夏・秋 - ヤマグワ・サクラ・シラカバ・カエデなどの実、未熟なドングリ(カシワ・ミズナラなど)を食べる{{Sfn|啓士郎|2019|p=84}}
本種はほぼ完全な植物食だが{{Sfn|啓士郎|2019|p=84}}、[[昆虫]]など動物性の食物も食べる{{Sfn|門崎|2009|p=347}}。昆虫は[[成虫]]・[[幼虫]]・[[蛹]]を食べる{{Sfn|門崎|2009|p=347}}。本種は手の指が長いので食物を手で持って食べることができる{{Sfn|門崎|2009|p=347}}。地上には天敵の肉食動物が多いため地上に下りて川・湖の水を飲むことはなく樹上で水分補給をし、夏は樹木の葉に付いた水滴・冬は枝に積もった雪を飲み食いして水分を補給する{{Sfn|目黒|1994|p=32}}。


なお本種は基本的に目標の樹木を発見すると食事が終わるまであまり動かず、1か所の樹木で食事をすることで体力を温存し、余分なエネルギー消費を抑えるため冬眠せず越冬することができる{{Sfn|太田|2017|p=69}}。しかし一方で食事を終えて巣に帰る途中で巣穴とは別の樹洞を探す場合があり、この行動により天敵接近時の避難場所や冬の共同生活・子育てに適した場所を調査する{{Sfn|目黒|1994|p=56}}。
[[寿命]]は[[飼育]]個体では4 - 5年だが[[野生]]個体では3年未満が多い<ref name="石井2008 p.124" />


=== 滑空 ===
=== 滑空 ===
本種は飛膜を開いて高所から低所へ滑空して移動し、最長で約50m(メートルにわたり滑空することができるほか<ref name="門崎2009 p.347"/>、尾を[[方向舵]]として使用することにより滑空中の旋回を可能としており<ref name="清水 vol.9" /><ref name="太田2017 p.67"/>、きりもみ・上昇もできる<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|pp=18-19}}</ref>。本種はまず垂直な樹幹を鋭い鉤爪で駆け登り、樹上近くに到達すると周囲の様子を窺いながら目標の樹木を目指してジャンプし、両手足をいっぱいに伸ばして飛膜を広げ滑空する<ref name="太田2017 p.67"/>。そして四肢を微妙に動かし、飛膜を使って揚力を調整しながら下降気味に飛翔し、目的の樹木手前でわずかに上昇して樹面にしがみつく<ref name="門崎2009 p.54"/>。無風の時は高木から飛び降りて滑空する一方、追い風がある場合は追い風に乗り、向かい風の場合はゆっくりと飛行する<ref>{{Harvnb|目黒誠一|1994|p=46}}</ref>。離木位置と着木位置の高低差が大きければ滑空可能距離が長くなり、着地した樹木からはさらに次の樹木へと移動することができる<ref name="太田2017 p.67">{{Harvnb|太田達也|2017|p=67}}</ref>。本種は滅多に地上に下りず積雪期に足跡を残さないほか、滑空することで樹木間の移動時間を短縮することで食事に費やす時間を多く取ることができる<ref name="太田2017 p.67"/>。その姿は白い布が飛んでいくように見えることから「空飛ぶハンカチ」と喩えられる<ref name="太田2017 p.67"/>
本種は飛膜を開いて高所から低所へ滑空して移動し、最長で約50メートルにわたり滑空することができるほか{{Sfn|門崎|2009|p=347}}、尾を[[方向舵]]として使用することにより滑空中の旋回を可能としており<ref name="清水 vol.9" />{{Sfn|太田|2017|p=67}}、きりもみ・上昇もできる{{Sfn|目黒|1994|pp=18-19}}。本種はまず垂直な樹幹を鋭い鉤爪で駆け登り、樹上近くに到達すると周囲の様子を窺いながら目標の樹木を目指してジャンプし、両手足をいっぱいに伸ばして飛膜を広げ滑空する{{Sfn|太田|2017|p=67}}。そして四肢を微妙に動かし、飛膜を使って揚力を調整しながら下降気味に飛翔し、目的の樹木手前でわずかに上昇して樹面にしがみつく{{Sfn|門崎|2009|p=54}}。無風の時は高木から飛び降りて滑空する一方、追い風がある場合は追い風に乗り、向かい風の場合はゆっくりと飛行する{{Sfn|目黒|1994|p=46}}。離木位置と着木位置の高低差が大きければ滑空可能距離が長くなり、着地した樹木からはさらに次の樹木へと移動することができる{{Sfn|太田|2017|p=67}}。本種は滅多に地上に下りず積雪期に足跡を残さないほか、滑空することで樹木間の移動時間を短縮することで食事に費やす時間を多く取ることができる{{Sfn|太田|2017|p=67}}。その姿は白い布が飛んでいくように見えることから「空飛ぶハンカチ」と喩えられる{{Sfn|太田|2017|p=67}}


=== 繁殖と子モモンガの独立 ===
=== 繁殖 ===
[[繁殖]]期は[[春|初春]] - [[夏]]で{{Sfn|門崎|2009|p=345}}、2月下旬 - 3月下旬に1回目の[[性的興奮|発情期]]を迎える{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。最初の繁殖期に当たる2月 - 3月は活動が低下する時期だが繁殖期を迎えたオスは例外で、日没前から巣を出て盛んに鳴くオスの姿が観察される{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。本種は1頭のメスをめぐり2,3頭のオスが争う場合もあるが、ムササビのように激しく争うわけではない{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。メスはオスとの交尾を受け入れる際は樹幹に貼りつきじっとしているが、交尾を拒絶する際には横に突き出した枝に留まる{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。1回の交尾時間は7 - 9分で、一晩のうちに何度も交尾を繰り返す{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。
[[繁殖]]期は[[春|初春]] - [[夏]]で、2月下旬 - 3月下旬に1回目の[[性的興奮|発情]]を迎えて4月中旬 - 8月に[[出産]]するが、時には夏に発情する個体もいる<ref name="門崎2009 p.345"/>。出産回数はその年の繁殖期に1, 2回で、通常は1回<ref name="門崎2009 p.345"/>。妊娠期間は不明で1回の出産の新生子数は2 - 5匹<ref name="門崎2009 p.345"/>、もしくは2 - 6匹で多くの場合は3匹である<ref name="石井2008 p.124"/>。子育てはメスだけで行うが、母子と成体オスが同居する場合もあり<ref>{{Harvnb|門崎|2009|pp=345-346}}</ref>、[[ムササビ]]などと違い他のオスに対しての攻撃性はほとんどない。[[幼獣]]は生後約10週目に親離れし、翌年には繁殖が可能となる<ref name="門崎2009 p.345"/>。

出産回数はその年の繁殖期に1, 2回で、通常は1回である{{Sfn|門崎|2009|p=345}}。交尾後のメスは樹洞・巣箱に単独で営巣し、4月中旬 - 5月上旬に[[出産]]する{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。妊娠期間は不明で1回の出産の新生子数は2 - 5匹{{Sfn|門崎|2009|p=345}}、もしくは2 - 6匹で多くの場合は3匹である{{Sfn|石井|2008|p=124}}。子育てはメスだけで行うが、母子と成体オスが同居する場合もある{{Refnest|group="注"|授乳中の母子とオスの同居例はいずれも子は巣立ってこそいなかったが開眼して成長した状態で、哺乳類においてこのように授乳中の母子とオスが同居することは非常に珍しい{{Sfn|柳川|2002|p=86}}。夏季には子育て中のメスの巣穴に入り込んで母子と同居し、確実にメスと交尾しようとするオスもいる{{Sfn|柳川|2002|p=85}}。}}{{Sfn|門崎|2009|pp=345-346}}。本種はノミなどの寄生虫増加・子の糞尿による巣の汚染に対処するため保育中に何度か巣を移転するが、移動中に誤って子を落としてしまう場合がある{{Sfn|柳川|2002|p=85}}。その際は地面に落ちた子は母親に見つかるか疲れ切るまで成獣と似た鳴き声を上げ、自分の場所を親に知らせる場合がある{{Sfn|柳川|2002|pp=85-86}}。

[[幼獣]]は生後約20日で這うようになり、30日前後で腹を地面から離して歩けるようになるが、耳の穴が開くのは生後平均20日で、開眼は生後約35日である{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。開眼後は開眼前より早く成長するようになり、生後40日で自分ですからで歩くようになり、約50日で滑空の練習を始めると生後約60日(6月中旬 - 7月上旬)で体重は60 - 70グラムに達し、母親から独立する{{Sfn|柳川|2002|p=84}}。親離れした幼獣は翌年には繁殖可能となる{{Sfn|門崎|2009|p=345}}。

時には夏に発情する個体もおり{{Sfn|門崎|2009|p=345}}、2度目の交尾期は子供が巣立つ6月 - 7月ごろ・出産時期は7月下旬 - 8月で、その時期にはオスがメスのいる樹洞のそばで盛んに鳴いている場合がある{{Sfn|柳川|2002|pp=84-85}}。


=== 鳴き声 ===
=== 鳴き声 ===
本種は「ジィージィー」と鳴く{{Sfn|門崎|2009|p=347}}。成獣は交尾期以外にはほとんど鳴かないが、幼獣は他のリス類の子と異なり、巣の引っ越しの際に母親と離れ離れになった際などには非常によく鳴く{{Refnest|group="注"|エゾモモンガの子がエゾリスなどと違い頻繁に鳴く理由は「夜行性であるため、視覚による子の探索がほとんど不可能であるから」と考えられている{{Sfn|柳川|2002|p=86}}。}}{{Sfn|柳川|2002|p=85}}。また、子が開眼して自力で行動できるようになると離れ離れになった母子は同じような声で鳴き交わしながら相互に歩み寄るほか、さらに成長した子の場合は巣の中で鳴いている母親の声を頼りに自力で巣に戻る{{Sfn|柳川|2002|p=85}}。
本種は「ジィージィー」と鳴く<ref name="門崎2009 p.347" />。

=== 天敵・寿命 ===
市街地・農耕地に生息するエゾモモンガの[[天敵]]はクロテン・[[フクロウ|エゾフクロウ]]・[[ハイタカ]]・[[ネコ]](飼い猫・野良猫とも){{Refnest|group="注"|市街地では主にネコが重要な捕食者になっている{{Sfn|柳川|2002|p=87}}。}}などである{{Sfn|啓士郎|2019|p=84}}。また[[シマフクロウ]]・[[クマタカ]]など希少な猛禽類もエゾモモンガを餌とする{{Sfn|啓士郎|2019|p=84}}

本種は天敵が多い一方で攻撃力を有さず{{Sfn|目黒|1994|p=30}}、天敵に見つからないよう常に周囲を警戒し、樹上では自分の体が天敵に見つからないよう注意している{{Sfn|目黒|1994|p=62}}。本種は天敵に気づくとそれが立ち去るまで気づかれないようにじっとして動かないが、時にはその時間が1 - 2時間におよぶ場合もある{{Sfn|門崎|2009|p=347}}

[[寿命]]は[[飼育]]個体では4 - 5年だが[[野生]]個体では3年未満が多い{{Sfn|石井|2008|p=124}}


== 人間との関係 ==
== 人間との関係 ==
本種は[[アイヌ民族]]から「アッカムイ」と呼ばれて知られてはいたが夜行性であるために記録された時期は遅く、初の公式記録は1921年だった<ref name="北海道ファンマガジン"/>。
1957年に合田昌義の文献『エゾモモンガによる材木害』にて「北海道中標津営林署養老牛国有林(北海道[[標津郡]][[中標津町]])でカラマツ120本の樹枝先端を食害した」例が報告されているが<ref name="哺乳動物学雑誌1967">[[#哺乳動物学雑誌1967]]</ref>、[[害獣]]として駆除されるほどの実害は発生していないとされる<ref>{{Cite report|title=北海道の樹木の獣害|url=https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fri/kanko/fukyu/jumoku/doubutu/gaiju.htm|publisher=[[地方独立行政法人]]:[[北海道立総合研究機構]](略称:「道総研」)|language=日本語|accessdate=2018-12-19|archivedate=2018年12月19日|archiveurl=http://web.archive.org/web/20181221095758/https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fri/kanko/fukyu/jumoku/doubutu/gaiju.htm}}</ref>。


1957年(昭和32年)に合田昌義の文献『エゾモモンガによる材木害』にて「北海道中標津営林署養老牛国有林(北海道[[標津郡]][[中標津町]])で[[カラマツ]]120本の樹枝先端を食害した」例が報告されているが<ref name="哺乳動物学雑誌1967">[[#哺乳動物学雑誌1967]]</ref>、[[害獣]]として駆除されるほどの実害は発生していないとされる<ref>{{Cite report|title=北海道の樹木の獣害|url=https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fri/kanko/fukyu/jumoku/doubutu/gaiju.htm|publisher=[[地方独立行政法人]]:[[北海道立総合研究機構]](略称:「道総研」)|language=日本語|accessdate=2018-12-19|archivedate=2018年12月19日|archiveurl=http://web.archive.org/web/20181221095758/https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fri/kanko/fukyu/jumoku/doubutu/gaiju.htm}}</ref>。
森林伐採・孤立化や食物の不足などにより生息数は減少傾向にある<ref name="円山 (2013) website">「[[#円山 (2013)|エゾモモンガ]]」(札幌市円山動物園)より。</ref>{{Refnest|group="注"|タイリクモモンガはフィンランド・[[エストニア]]・[[大韓民国]](韓国)でも森林分断化の悪影響を受け減少傾向にあり<ref>{{Cite journal|和書|title=糞を用いたタイリクモモンガ ''Pteromys volans'' の生息確認方法|url=http://id.nii.ac.jp/1588/00001042/|author1=嶌本樹|author2=古川竜司|author3=鈴木圭|author4=柳川久|journal=哺乳類科学|volume=54|issue=2|pages=201-206|year=2014|doi=10.11238/mammalianscience.54.201|publisher=[[日本哺乳類学会]]|language=ja|accessdate=2019-10-14}}</ref>、韓国に生息するタイリクモモンガの亜種 ''Pteromys volans aluco'' (Thomas) は1982年11月16日付で[[大韓民国指定天然記念物|韓国の天然記念物に指定(第328号)]]されている<ref>{{Cite web|title=멸종위기종 - 하늘다람쥐|url=http://www.me.go.kr/wonju/web/board/read.do?pagerOffset=0&maxPageItems=10&maxIndexPages=10&searchKey=title&searchValue=%ED%95%98%EB%8A%98%EB%8B%A4%EB%9E%8C%EC%A5%90&menuId=10154&orgCd=&boardId=240483&boardMasterId=717&boardCategoryId=&rn=2|date=2007-01-02|publisher=[[大韓民国]](韓国)[[環境部]]|language=ko|accessdate=2019-10-14|archivedate=2019年10月14日|archiveurl=https://web.archive.org/web/20191014160151/http://www.me.go.kr/wonju/web/board/read.do?pagerOffset=0&maxPageItems=10&maxIndexPages=10&searchKey=title&searchValue=%ED%95%98%EB%8A%98%EB%8B%A4%EB%9E%8C%EC%A5%90&menuId=10154&orgCd=&boardId=240483&boardMasterId=717&boardCategoryId=&rn=2}}</ref><ref>{{Cite web|title=[천연기념물 이야기_하늘다람쥐, 반달가슴곰] | 상세 - 문화재청|url=http://www.cha.go.kr/newsBbz/selectNewsBbzView.do?newsItemId=155697606&curPage=1&strWhere=&strValue=&schWhere=&schDirect=&sectionId=ocp&sdate=&edate=&category=&mn=NS_01_09_02|date=2012-07-09|publisher=大韓民国(韓国)環境部|language=ko|accessdate=2019-10-14|archivedate=2019年10月14日|archiveurl=https://web.archive.org/web/20191014154539/http://www.cha.go.kr/newsBbz/selectNewsBbzView.do?newsItemId=155697606&curPage=1&strWhere=&strValue=&schWhere=&schDirect=&sectionId=ocp&sdate=&edate=&category=&mn=NS_01_09_02}}</ref>。}}。[[札幌市円山動物園]]では1967年から本種の飼育・繁殖に取り組んでいるほか<ref name="円山 (2013) website"/>、[[釧路市動物園]]<ref>[[#釧路市動物園]]</ref>・[[おびひろ動物園]]<ref>[[#おびひろ動物園]]</ref>・[[旭川市旭山動物園]]<ref>[[#旭川市旭山動物園]]</ref>でも本種が飼育されている。


市街地周辺の緑地にも生息し個体数も少なくない種だが{{Sfn|柳川|2002|p=86}}、森林伐採・孤立化や食物の不足などにより生息数は減少傾向にある<ref name="円山 (2013) website">「[[#円山 (2013)|エゾモモンガ]]」(札幌市円山動物園)より。</ref>。特に市街地・農耕地の残存林に生息するエゾモモンガにとっては林同士をつなぐ防風林(並木)が通路として役立っているが、それらの防風林が寸断されると地面に降りて移動できないエゾモモンガは他の林へ移動できなくなり、繁殖・分散が正常に行えなくなって個体数減少につながる{{Sfn|柳川|2002|p=87}}。有刺鉄線に引っ掛かり死亡した事故例も数例あり、人間の住環境周辺はエゾモモンガにとって安全な住処とは言えない{{Sfn|柳川|2002|p=87}}。
なお本種を除くタイリクモモンガ種はかつて[[フクロモモンガ]]([[有袋類]])・[[アメリカモモンガ]](モモンガ属)とともに日本国内へペット(愛玩動物)として輸入されていたが<ref name="侵入生物DB">{{Cite web|url=https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10400.html|title=タイリクモモンガ|accessdate=2019-09-15|publisher=[[国立環境研究所]]|website=侵入生物DB|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915123224/https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10400.html|archivedate=2019-09-15}}</ref>、個人による飼育下での繁殖は難しい<ref name="環境省"/>。またタイリクモモンガ種は野生化した個体が本種と亜種間交雑したり<ref name="環境省">{{Cite web|url=https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/L-ho-08.html|title=タイリクモモンガ [外来生物法]|accessdate=2019-09-15|publisher=[[環境省]]|website=特定外来生物の解説|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915122920/https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list/L-ho-08.html|archivedate=2019-09-15}}</ref>{{Refnest|group="注"|自然界での亜種間交雑については確認されていないが、仮に逸脱すれば再捕獲することは非常に困難となる<ref name="北海道ブルーリスト">{{Cite web|url=http://bluelist.pref.hokkaido.lg.jp/db/detail_nomap.php?k=01&cd=4|title=タイリクモモンガ|accessdate=2019-09-15|publisher=北海道|website=北海道ブルーリスト|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915122916/http://bluelist.pref.hokkaido.lg.jp/db/detail_nomap.php?k=01&cd=4|archivedate=2019-09-15}}</ref>。日本国内における定着状況は不明だが、1999年に高知県[[高知市]]内で1頭が捕獲された記録がある<ref>{{Cite web|url=http://www.lutra.jp/tairikumomonga.htm|title=タイリクモモンガ|accessdate=2019-09-15|publisher=四国自然史科学研究センター|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915122959/http://www.lutra.jp/tairikumomonga.htm|archivedate=2019-09-15}}</ref>。}}、本種や[[ニホンモモンガ]](ホンドモモンガ、[[本州]]・[[四国]]・[[九州]]に生息)と競合することが懸念されたため<ref name="侵入生物DB"/>、[[2005年]](平成17年)12月14日から[[特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律]]により「特定外来生物」に第二次指定種として追加指定され、翌2006年(平成18年)2月1日以降は輸入・飼育などが原則として禁止されている<ref>{{Cite web|url=https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/files/siteisyu_list2.pdf|title=特定外来生物一覧|format=PDF|accessdate=2019-09-15|publisher=[[環境省]]|website=|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20190915144324/https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/files/siteisyu_list2.pdf|archivedate=2019-09-15}}</ref>{{Refnest|group="注"|なお動物写真家・鈴木欣司は「タイリクモモンガは短命である上、仮に街中で飼育されていた個体が逸走してもまず生き延びられない。もしうまく公園までたどり着いても武器を持たない弱い動物であるため、カラス・ネコ・イタチ・ヘビなど(天敵)にすぐ餌食にされてしまう。大切にモモンガを愛玩している飼育者がわざわざニホンモモンガ・エゾモモンガの生息地まで出向いて捨てることは考えられない。かわいいペットだが(輸入・飼育が原則禁止されたことで)いずれは茶の間から消えてしまうのだろうか」と述べ、特定外来生物指定に否定的な見解を示している<ref>『[[中日新聞]]』2006年12月19日夕刊科学面5頁「身近なエイリアン 鈴木欣司 守ってあげたい タイリクモモンガ」</ref>。}}。

[[札幌市円山動物園]]では1967年から本種の飼育・繁殖に取り組んでいるほか<ref name="円山 (2013) website"/>、[[釧路市動物園]]<ref>[[#釧路市動物園]]</ref>・[[おびひろ動物園]]<ref>[[#おびひろ動物園]]</ref>・[[旭川市旭山動物園]]<ref>[[#旭川市旭山動物園]]</ref>でも本種が飼育されている。
<!--== テレビ番組 ==
<!--== テレビ番組 ==
* 『モモンガ驚きエコ生活』 [[ダーウィンが来た! 〜生きもの新伝説〜|ダーウィンが来た]]、[[NHK総合テレビジョン]]、2006年6月4日放送<ref>{{Cite web|title=ダーウィンが来た(第9回・モモンガ驚きエコ生活)|url=http://cgi2.nhk.or.jp/darwin/broadcasting/detail.cgi?sp=p009|date=2006-06-04|publisher=[[日本放送協会]](NHK)|accessdate=2018-12-03|archivedate=2018-12-03|archiveurl=http://web.archive.org/web/20181203121008/http://cgi2.nhk.or.jp/darwin/articles/detail.cgi?p=p009}}</ref>
* 『モモンガ驚きエコ生活』 [[ダーウィンが来た! 〜生きもの新伝説〜|ダーウィンが来た]]、[[NHK総合テレビジョン]]、2006年6月4日放送<ref>{{Cite web|title=ダーウィンが来た(第9回・モモンガ驚きエコ生活)|url=http://cgi2.nhk.or.jp/darwin/broadcasting/detail.cgi?sp=p009|date=2006-06-04|publisher=[[日本放送協会]](NHK)|accessdate=2018-12-03|archivedate=2018-12-03|archiveurl=http://web.archive.org/web/20181203121008/http://cgi2.nhk.or.jp/darwin/articles/detail.cgi?p=p009}}</ref>
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* {{cite journal | 和書 | title = エゾモモンガ | journal = [[旭川市旭山動物園]] | publisher = [[旭川市]] | date = | url = https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/facilityinformation/d066628.html | accessdate = 2019-09-21 | ref = 旭川市旭山動物園}}
* {{cite journal | 和書 | title = エゾモモンガ | journal = [[旭川市旭山動物園]] | publisher = [[旭川市]] | date = | url = https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/facilityinformation/d066628.html | accessdate = 2019-09-21 | ref = 旭川市旭山動物園}}
* {{cite journal | 和書 | author = 清水飼育員 | title = エゾモモンガと清水飼育員 | journal = 動物たちと飼育員 | volume = Vol.9 | publisher = [http://www.maruyama-zoo.jp/index.shtml Maruyama Zoo Channel](札幌市円山動物園 応援ウェブサイト)| url = http://www.maruyama-zoo.jp/animaltalk/12_index_msg.html | accessdate = 2010年1月15日(金) | ref = 清水 vol.9}}- 飼育員による本種の説明(動画)
* {{cite journal | 和書 | author = 清水飼育員 | title = エゾモモンガと清水飼育員 | journal = 動物たちと飼育員 | volume = Vol.9 | publisher = [http://www.maruyama-zoo.jp/index.shtml Maruyama Zoo Channel](札幌市円山動物園 応援ウェブサイト)| url = http://www.maruyama-zoo.jp/animaltalk/12_index_msg.html | accessdate = 2010年1月15日(金) | ref = 清水 vol.9}}- 飼育員による本種の説明(動画)

* {{cite journal | 和書 | author1 = [[阿部永]] | title = エゾリスの生態についての二,三の知見 | journal = 哺乳動物学雑誌 | volume = 3 |issue = 5 | publisher = 日本哺乳動物学会 | date = 1967-08 | url = https://doi.org/10.11238/jmammsocjapan1952.3.118 | accessdate = 2018-12-19 | ref = 哺乳動物学雑誌1967}}
* {{cite journal | 和書 | author1 = [[阿部永]] | title = エゾリスの生態についての二,三の知見 | journal = 哺乳動物学雑誌 | volume = 3 |issue = 5 | publisher = 日本哺乳動物学会 | date = 1967-08 | url = https://doi.org/10.11238/jmammsocjapan1952.3.118 | accessdate = 2018-12-19 | ref = 哺乳動物学雑誌1967}}
* {{Cite journal|和書|author=[[門崎允昭]]|title=近接地域との比較に基づく現存北海道産哺乳類について - Present Status of Mammals of Hokkaido as Considered from That of Adjacent Territories|journal=第四紀研究|volume=12|issue=4|publisher=日本第四紀学会|year=1974|url=https://doi.org/10.4116/jaqua.12.245|pages=245-255|accessdate=2020-01-23|ref={{SfnRef|門崎|1974}}}}
* {{cite journal | 和書 | author1 = 浅利裕伸 | author2 = 柳川久 | author3 = 安藤元一 | title = 日本産樹上性リス類による森林被害 | journal = 森林野生動物研究会誌 | volume = 39 | publisher = 森林野生動物研究会 | year=2014 | url = https://doi.org/10.18987/jjwrs.39.0_11|doi=10.18987/jjwrs.39.0_11 | accessdate = 2018-12-19 | ref = 森林野生動物研究会誌2014}}
* {{cite journal | 和書 | author1 = 浅利裕伸 | author2 = 柳川久 | author3 = 安藤元一 | title = 日本産樹上性リス類による森林被害 | journal = 森林野生動物研究会誌 | volume = 39 | publisher = 森林野生動物研究会 | year=2014 | url = https://doi.org/10.18987/jjwrs.39.0_11|doi=10.18987/jjwrs.39.0_11 | accessdate = 2018-12-19 | ref = 森林野生動物研究会誌2014}}
* {{Cite web|url=https://www.iucnredlist.org/species/18702/115144995|title=Pteromys volans|date=2016-08-19|accessdate=2020-01-23|publisher=[[国際自然保護連合]]|website=IUCN Red list|language=en|archiveurl=https://megalodon.jp/2020-0123-2241-52/https://www.iucnredlist.org:443/species/18702/115144995|archivedate=2020-01-23|ref={{SfnRef|IUCN|2016}}}}
* {{Cite web|url=https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10400.html|title=タイリクモモンガ|accessdate=2020-01-23|publisher=[[国立環境研究所]]|website=侵入生物DB|language=ja|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200123152953/https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10400.html|archivedate=2020-01-23|ref={{SfnRef|国立科学研究所}}}}


; 出版物
; 出版物
* {{cite book | 和書 | author = [[石井信夫]] | editor = 阿部永 監修[[自然環境研究センター]] 編集 | chapter = タイリクモモンガ | page = 124 | title = 日本哺乳類 | edition = 改訂2 | date = 200875 1刷発行 |origdate=19941220日・初版第1刷発行 / 2005年7月20日・改訂版第1刷発行 | publisher = [[学校法人東海大学出版会|東海大学出版会]] | isbn = 978-4486018025 | ref = {{SfnRef|石井|2008}}}}
* {{Cite book|和書|author=柳川久|editor=[[日高敏隆]]監修)・[[川道武男]]編集|chapter=エゾモモンガとニホンモモンガ|pages=84-87|title=日本動物大百科 哺乳類I|volume=第1巻|edition=第3刷|date=2002322・初版3刷発行|origdate=1996221日・初版第1刷発行|publisher=[[平凡社]]|isbn=978-4582545517|ref={{SfnRef|柳川|2002}}}}
* {{Cite book|和書|author=[[石井信夫]]|editor=阿部永(監修)・[[自然環境研究センター]](編集)|chapter=タイリクモモンガ|page=124|title=日本の哺乳類|edition=改訂2版|date=2008年7月5日・第1刷発行|origdate=1994年12月20日・初版第1刷発行 / 2005年7月20日・改訂版第1刷発行|publisher=[[学校法人東海大学出版会|東海大学出版会]]|isbn=978-4486018025|ref={{SfnRef|石井|2008}}}}
* {{cite book | 和書 | author = [[門崎允昭]] | title = 野生動物調査痕跡学図鑑 | publisher = [[北海道出版企画センター]] | date = 2009-10-20 | isbn = 978-4832809147 |pages=38-39,54,64,94-97,169-171,173-174,176,183,223-224,238-240,321,345-347 |ref={{SfnRef|門崎|2009}}}}
* {{Cite book|和書|title=エゾモモンガ 目黒誠一写真集 -アッカムイの森にきる-|author=目黒誠一|publisher=[[講談社]]|date=1997-10-13|edition=第5刷|origdate=1994-03-15|isbn=978-4062068833|ref={{SfnRef|目黒誠一|1994}}}}
* {{Cite book|和書|author=[[門崎允昭]]|title=動物調査痕跡学図鑑|publisher=[[北海道出版企画センター]]|date=2009-10-20|isbn=978-4832809147|pages=38-39,54,64,94-97,169-171,173-174,176,183,223-224,238-240,321,345-347|ref={{SfnRef|門崎|2009}}}}
* {{Cite book|和書|title=エゾモモンガ|author=富士元寿彦|publisher=[[北海道新聞社]]|date=2001-04-10|edition=第2刷|origdate=2001-01-31|isbn=978-4894531338|ref={{SfnRef|富士元寿彦|2001}}}}
* {{Cite book|和書|title=エゾモモンガ 目黒誠一写真集 -アッカムイの森に生きる-|author=目黒誠一|publisher=[[講談社]]|date=1997-10-13|edition=第5刷|origdate=1994-03-15|isbn=978-4062068833|ref={{SfnRef|目黒|1994}}}}
* {{Cite book|和書|title=モモンガの森へ|author1=目黒誠一|author2=[[田中美奈子]]|publisher=講談社|date=2002-05-20|edition=第1刷|isbn=978-4062663724|ref={{SfnRef|目黒誠一|田中美奈子|2002}}}}
* {{Cite book|和書|title=エゾモモンガ|author=富士元寿彦|publisher=[[北海道新聞社]]|date=2001-04-10|edition=第2|origdate=2001-01-31|isbn=978-4894531338|ref={{SfnRef|富士元|2001}}}}
* {{Cite book|和書|title=モモンガにあいたい|series=seiseisha mini book series|author=富士元寿彦|publisher=青菁社|date=2004-12-24|edition=初版第1刷|isbn=978-4883502035|ref={{SfnRef|富士元寿彦|2004}}}}
* {{Cite book|和書|title=モモンガの森へ|author1=目黒誠一|author2=[[田中美奈子]]|publisher=講談社|date=2002-05-20|edition=第1刷|isbn=978-4062663724|ref={{SfnRef|目黒|田中|2002}}}}
* {{Cite book|和書|title=モモンガだモン! 北の森からのメッセージ|author=太田達也|publisher=天夢人|date=2017-12-11|isbn=978-4635820257|ref={{SfnRef|太田達也|2017}}}}
* {{Cite book|和書|title=モモンガにあいたい|series=seiseisha mini book series|author=富士元寿彦|publisher=青菁社|date=2004-12-24|edition=初版第1刷|isbn=978-4883502035|ref={{SfnRef|富士元|2004}}}}
* {{Cite book|和書|title=モモンガだモン! 北の森からのメッセージ|author=太田達也|publisher=天夢人|date=2017-12-11|isbn=978-4635820257|ref={{SfnRef|太田|2017}}}}
* {{Cite book|和書|title=世界一かわいいエゾモモンガ|author=進啓士郎|publisher=パイインターナショナル|date=2019-10-07|edition=初版第1刷発行|ISBN=978-4756252678|ref={{SfnRef|進啓士郎|2019}}}} - 2019年10月10日発売。
* {{Cite book|和書|title=世界一かわいいエゾモモンガ|author=進啓士郎|publisher=パイインターナショナル|date=2019-10-07|edition=初版第1刷発行|ISBN=978-4756252678|ref={{SfnRef|進啓士郎|2019}}}} - 2019年10月10日発売。
** 北海道・知床で野生動物を撮影する写真家・進啓士郎が撮影・制作した写真集。[[帯広畜産大学]]野生動物管理学研究室の協力による生態解説付き。
** 北海道・知床で野生動物を撮影する写真家・進啓士郎が撮影・制作した写真集。[[帯広畜産大学]]野生動物管理学研究室の協力による生態解説付き。
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{Commonscat|Pteromys volans|タイリクモモンガ(エゾモモンガ)}}
{{Wikispecies|Pteromys volans|タイリクモモンガ(エゾモモンガ)}}
* [[エゾモモンガ (Kitacaキャラクター)]] - 同種をモデルにした[[北海道旅客鉄道|JR北海道]]のicカード[[Kitaca]]のキャラクター。
* [[エゾモモンガ (Kitacaキャラクター)]] - 同種をモデルにした[[北海道旅客鉄道|JR北海道]]のicカード[[Kitaca]]のキャラクター。
* [[タイリクモモンガ]] - 基亜種。
* [[エモンガ]] - 同種をモデルにしたポケモン。
* [[エモンガ]] - 同種をモデルにしたポケモン。


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* 本種の写真 -{{cite book | 和書 | title = エゾモモンガ「タロウ」写真集 | publisher = [[札幌市円山動物園]] | url = http://www.city.sapporo.jp/zoo/topics/dokidoki_photo-momonga.html | accessdate = 2010年1月15日(金) | ref = maruyama photo}}
* 本種の写真 -{{cite book | 和書 | title = エゾモモンガ「タロウ」写真集 | publisher = [[札幌市円山動物園]] | url = http://www.city.sapporo.jp/zoo/topics/dokidoki_photo-momonga.html | accessdate = 2010年1月15日(金) | ref = maruyama photo}}
* 本種の滑空の様子(動画)-{{cite journal | 和書 | title = エゾモモンガの飛翔 | journal = ドキドキ体験 | publisher = [http://www.maruyama-zoo.jp/index.shtml Maruyama Zoo Channel](札幌市円山動物園 応援ウェブサイト)| url = http://www.maruyama-zoo.jp/dokidokimovie/9_index_msg.html | accessdate = 2010年1月15日(金)}}


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2020年1月30日 (木) 14:58時点における版

エゾモモンガ
エゾモモンガ
エゾモモンガ (Pteromys volans orii)
北海道上川郡東川町 (2009年3月)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: ネズミ目(齧歯目) Rodentia
: リス科 Sciuridae
亜科 : リス亜科 Sciurinae
: モモンガ族 Pteromyini
: モモンガ属 Pteromys
: タイリクモモンガ Pteromys volans (Linnaeus, 1758)[1]
亜種 : エゾモモンガ Pteromys volans orii
学名
Pteromys volans orii (Kuroda, 1921)[2]
和名
エゾモモンガ
英名
Russian flying squirrel[3]
Siberian Flying Squirrel[4]
Eurasian small flying squirrel[4]

エゾモモンガ(蝦夷小鼯鼠、Pteromys volans orii (Kuroda, 1921)[2])は、ネズミ目(齧歯目)リス科リス亜科モモンガ族モモンガ属タイリクモモンガ種 Pteromys volans (Linnaeus, 1758) の亜種で、日本の北海道に生息する固有亜種である[5](→写真)。

名称

黒田長礼1921年大正10年)に記録したタイリクモモンガの亜種で[2]、初の公式記録は同年のウトナイ湖(現:苫小牧市)におけるものである[6]。和名「蝦夷小鼯鼠」の命名者は岸田久吉[注 1][8]、亜種名のorii折居彪二郎への献名

アイヌ語では「アツ・カムイ」(アツ=「群棲」・カムイ=「神」の意味、すなわち「群棲する神」の意味)[9]もしくは「アッ・カムイ」(「子供の守り神」の意味、「アッカムイ」とも)と呼ばれたほか[10]1940年代までは猟師山子(やまご)[注 2]の間で「晩鳥」(バンドリ)という俗名で呼ばれていた[8]

分布

本種は北海道全域の[12]平野部 - 亜高山帯にかけて分布し[13]、森林(常緑針葉樹林落葉広葉樹林)に生息する[注 3][15]札幌市内の森林公園円山動物園付近にも生息しているが[3]、北海道島嶼部・千島列島には生息していない[13]

本種は住処・食料・移動手段をいずれも樹木に依存しており、樹木のない場所では生息できない[16]。一方である程度の面積[注 4]・巣穴にできる太さの樹木がある森林ならば生息でき[9]、市街地の公園・学校の林[16]・鉄道の線路沿いにある防風林・住宅地近くの雑木林などといった環境にも生息する[9]。しかし夜行性で警戒心が強いことに加え、一生のほとんどを樹上で過ごすため継続して観察することは難しく、詳しい生態はあまり知られていない[9]

本州・四国・九州に生息するニホンモモンガ(日本固有種)はムササビと巣穴などをめぐり競合するため比較的高地に多いが、北海道にはムササビが生息しないため、本種は低地から高地まで幅広く生息する[注 5][12]。なお同じ北海道に生息するリス科の動物であるエゾリスキタリスの亜種)・エゾシマリスシマリスの亜種)とはそれぞれ活動時間・空間・餌や巣などの資源を使い分けているため、3種とも競合せず同じ環境で生息できる[16]

特徴

成獣の大きさにはオスメスで違いがあり、体長(頭胴長)はオスの方が長く16 - 18センチメートル(cm)、メスは約15センチメートル[8]体重はオスが約120グラム(g)[8]、オスとメスを区別していないデータでは81 - 120グラム[15]ないし100 - 120グラム[12]妊娠したメスでは150 - 160グラム[17]

耳長は18 - 22ミリメートル(mm)・後足長は32 - 35ミリメートルで[15]、体毛の毛先の色は1年を通して[8]腹面[12] - 胸部下腹部にかけて)は白色だが、それ以外の部位は白色または褐色で毛の下部は黒色である[8]。背面の体毛色は保護色になっており[18]、夏毛は淡い茶褐色・冬毛は淡い灰褐色[12]ないし白っぽい[注 6][19]。目は直径7 - 9ミリメートルと体格に比して大きく[注 7]、目の周囲の毛色は黒い毛足が裸出しているため黒色[8]

数は切歯が上2本・下2本、犬歯はなし、前臼歯は上4本・下2本、後臼歯は上6本・下6本の合計22本(上12本・下10本)[8]乳頭数は胸部2対・腹部1対・鼠径部1対の合計8個(4対)[8][注 8]指趾数(指の数)は前肢が4本(×2=8本、第1指がない)・後肢が5本(×2=10本)の合計18本[8]。手の指は長くて物を握り掴むことに適しており[8]、樹木を登るため鋭い鉤爪を持つ一方[20]、足の平は無毛で細い枝などを掴みやすい体つきになっている[23]

陰茎骨は細長く二又になっている[8][注 9]染色体数は本種・ニホンモモンガとも同じ2n = 38である[12]

新生子は体長5.0 - 5.6センチメートル、尾長は2.2 - 2.5センチメートルで体毛はほとんど生えておらず、視力聴力はまだない[8]

飛膜・尾

本種は滑空するための飛膜を持っており[8]、飛膜は頬後部 - 前肢まで、前肢から体側に沿って後肢まで、後肢からの付け根まである[8][24]。前肢の手首の先には飛膜を支える硬い軟骨(長さ約4センチメートル)が伸びており、飛膜もこの軟骨に沿って広がっている[8]

尾長はオス・メスともほぼ同じで約10センチメートル(尾率=体長に対する尾の比率:52.3% - 72%)[8] - 12センチメートル[12]。尾の断面は扁平で[8]、滑空時は方向舵の役目を果たす[25]

生態

活動時間

本種は夜行性の小動物であることに加え、一度の滑空により高距離を移動するため発見・追跡が非常に困難である[12]。加えて一生のほとんどを樹上で過ごし、天然の樹洞・キツツキ類の古巣を巣穴として利用するため捕獲も困難である[12]。そのような特性に加え、人間にとってはほとんど利害をもたらさない動物であったためあまり注目されず、かつて本種の生態はほとんど研究が進んでいなかったが、小鳥用の巣箱を巣穴として利用することが判明したことで電波発信機を用いたテレメトリー法による追跡調査が可能となり、その生態が明らかになっていった[12]

活動開始時刻・終了時刻は日没・日の出時刻の季節変化に比例して変化する[12]。春 - 秋(5月 - 10月)にかけては[12]日没から平均15 - 20分程度で巣から出て活動を開始し、何度か巣に戻って休む[16]。巣から出ている時間の約75%は餌を食べるために使い[12]、最後の活動は日の出前20 - 25分ごろに終えることが多い[16]。本種は主に夜行性だが[26]、春 - 夏にかけての繁殖期[16]・および厳冬期には夜間だけでなく日中にも活動する[27]

本種は秋に越冬への準備として栄養豊富な種子類を食べ、体脂肪を貯えて体重を15 - 20%増加させる[12]

越冬

本種はエゾシマリスと異なり冬(11月 - 4月)も冬眠しないほか、エゾシマリス・エゾリスのように秋季に種子を貯食することもない[12]。氷点下25℃以下にまで気温が低下して髭が白く凍り付き[28]、小さな体を吹き飛ばされるほど激しい猛吹雪が吹き荒れる厳冬期でも餌を食べに巣穴の外へ出て活動するが[29]、冬季は活動を必要最小限にとどめるため活動時間が極端に短くなり、活動開始・終了時間とも非常に不規則になる[注 10][12]

また本種は体を寄せ合い保温効果を高める目的で1つの巣穴に複数個体(通常は2 - 5匹、多い場合で10匹程度)が集まり集団で越冬する習性がある[19]。本種は無駄な争いを好まず、冬季に自分の巣穴へ同種他個体が来ても拒絶することなく互いに厳しい冬を乗り切る[30]

活動範囲・巣

活動範囲は巣を中心とした領域で[26]、その広さはオスで約2ヘクタール(ha)・メスでは約1ヘクタールである[注 11][15]。メスは少なくとも繁殖期に縄張りを持ち、互いに縄張りは重なり合わないが、オスは縄張りを持たずメスより広い行動圏を持ち、オス同士の行動圏は大きく重なる[31]

本種はほとんど樹上生活かそれに類する生活を送っており[20]、地面に降りることはほとんどなく[13]、雪面・地面で足跡を見ることはほとんどないが、地面を跳躍歩調する際にも飛膜を広げるため揚力が働き着地圧が軽減され、手足の着地痕が不鮮明になりやすい一方で新雪上では雪面に飛膜痕が残ることが多い[24]。またが鋭いため垂直の樹木・建造物などのモルタル壁の表面を垂直・上下左右へ自由に移動できる[13]。行動単位は子育て中のメス以外は基本的には1匹であるが、1つの巣に複数の個体が同居していることも少なくなく[26]、特に冬季には前述のように複数個体で1つの巣に集まって越冬する場合がある[19]

本種はキツツキの一種であるアカゲラの古巣(樹洞[32]・自然にできた樹洞・人為的に樹木に架けた用の巣箱人家などの屋根裏エゾリスの古巣などが様々なものをとして利用する[33]。樹洞は入り口がほぼ円形 - 卵形で直径4 - 6センチメートル程度の物を好むが、出入口を歯で齧って形状を改善する場合もある[13]。また巣穴は入り口が広いとクロテンエゾクロテン)など天敵に襲われる危険性が高いため狭い巣穴を好み[34]、500円硬貨程度の大きさがあれば入ることができる[35]。また本種は巣内に乾燥した柔らかい植物性巣材(枯れ木の乾燥した内皮をほぐしたもの、乾燥したコケ類・サルオガセ・枯れ草など)を運び入れ、その中で眠る[13]。このほか、樹木の枝上に小枝・樹皮を利用して巣を作る場合や[15]、凍結してできた樹木の割れ目を利用する場合もある[30]

本種は夕方に目覚めて巣穴を出るとまず糞尿を排泄するが、周囲に危険を感じない場合は低い場所で、危険を感じた場合は高い場所で用を足す[36]。糞は長さ7 - 15ミリメートル・直径3 - 5ミリメートルほどの米粒状糞、および柔らかい米粒状糞が集着した糞、不定形な軟便と3大別されるが、多くの場合は長さ約10ミリメートル・直径約4ミリメートルである[37]。糞の色は黄褐色 - 緑褐色、もしくは暗緑色・赤銅色と多様で[37]、糞は食痕がある場所・巣穴がある樹木(巣木)・移動経路上の休憩場所となっている樹下によく散乱している[37]。食巣穴近くの樹木で糞をする習性があり[30]、巣木の巣穴付近の樹面に止まりながら排泄することも普通で、巣穴下の樹面・根元の雪面は糞尿で汚れていることがある[38]。1回の排糞量は多い時で40粒ほどで、同じ巣に複数個体が同居している場合は巣樹の下に2,000 - 3,000粒も糞が溜まっている場合がある[38]。このことからエゾモモンガの巣木を見つける目安としては「樹洞からエゾモモンガが出入りしたことを確認」する以外に「樹皮面がエゾモモンガの糞尿で汚れているか、樹木の根本付近に総量50cc以上の多量の糞(複数回の脱糞)が散在している」点が挙げられる[39]

食性

食性雑食性で、基本的には植物性のものを食べている[13]。植物では木の樹皮の甘皮・種子などで、マツ類の球果(松ぼっくり)の種子・ドングリヤマグワイチイサクラの実も食べるが、クルミは食べない[13]。四季ごとの主な食物は以下の通り。

  • 冬 - 主にトドマツの葉やカラマツシラカバの冬芽・小枝の皮[40]・花穂など[17][17]
  • 春 - ヤナギ類・シラカバ・ハンノキなどの若葉[17]。3月ごろにはハンノキの雄花の花穂[40]、3月下旬にはイタヤカエデの甘い樹液を好んで食べる[41]
  • 夏・秋 - ヤマグワ・サクラ・シラカバ・カエデなどの実、未熟なドングリ(カシワ・ミズナラなど)を食べる[17]

本種はほぼ完全な植物食だが[17]昆虫など動物性の食物も食べる[13]。昆虫は成虫幼虫を食べる[13]。本種は手の指が長いので食物を手で持って食べることができる[13]。地上には天敵の肉食動物が多いため地上に下りて川・湖の水を飲むことはなく樹上で水分補給をし、夏は樹木の葉に付いた水滴・冬は枝に積もった雪を飲み食いして水分を補給する[42]

なお本種は基本的に目標の樹木を発見すると食事が終わるまであまり動かず、1か所の樹木で食事をすることで体力を温存し、余分なエネルギー消費を抑えるため冬眠せず越冬することができる[30]。しかし一方で食事を終えて巣に帰る途中で巣穴とは別の樹洞を探す場合があり、この行動により天敵接近時の避難場所や冬の共同生活・子育てに適した場所を調査する[43]

滑空

本種は飛膜を開いて高所から低所へ滑空して移動し、最長で約50メートルにわたり滑空することができるほか[13]、尾を方向舵として使用することにより滑空中の旋回を可能としており[25][20]、きりもみ・上昇もできる[44]。本種はまず垂直な樹幹を鋭い鉤爪で駆け登り、樹上近くに到達すると周囲の様子を窺いながら目標の樹木を目指してジャンプし、両手足をいっぱいに伸ばして飛膜を広げ滑空する[20]。そして四肢を微妙に動かし、飛膜を使って揚力を調整しながら下降気味に飛翔し、目的の樹木手前でわずかに上昇して樹面にしがみつく[39]。無風の時は高木から飛び降りて滑空する一方、追い風がある場合は追い風に乗り、向かい風の場合はゆっくりと飛行する[45]。離木位置と着木位置の高低差が大きければ滑空可能距離が長くなり、着地した樹木からはさらに次の樹木へと移動することができる[20]。本種は滅多に地上に下りず積雪期に足跡を残さないほか、滑空することで樹木間の移動時間を短縮することで食事に費やす時間を多く取ることができる[20]。その姿は白い布が飛んでいくように見えることから「空飛ぶハンカチ」と喩えられる[20]

繁殖

繁殖期は初春 - [8]、2月下旬 - 3月下旬に1回目の発情期を迎える[12]。最初の繁殖期に当たる2月 - 3月は活動が低下する時期だが繁殖期を迎えたオスは例外で、日没前から巣を出て盛んに鳴くオスの姿が観察される[12]。本種は1頭のメスをめぐり2,3頭のオスが争う場合もあるが、ムササビのように激しく争うわけではない[12]。メスはオスとの交尾を受け入れる際は樹幹に貼りつきじっとしているが、交尾を拒絶する際には横に突き出した枝に留まる[12]。1回の交尾時間は7 - 9分で、一晩のうちに何度も交尾を繰り返す[12]

出産回数はその年の繁殖期に1, 2回で、通常は1回である[8]。交尾後のメスは樹洞・巣箱に単独で営巣し、4月中旬 - 5月上旬に出産する[12]。妊娠期間は不明で1回の出産の新生子数は2 - 5匹[8]、もしくは2 - 6匹で多くの場合は3匹である[15]。子育てはメスだけで行うが、母子と成体オスが同居する場合もある[注 12][47]。本種はノミなどの寄生虫増加・子の糞尿による巣の汚染に対処するため保育中に何度か巣を移転するが、移動中に誤って子を落としてしまう場合がある[46]。その際は地面に落ちた子は母親に見つかるか疲れ切るまで成獣と似た鳴き声を上げ、自分の場所を親に知らせる場合がある[48]

幼獣は生後約20日で這うようになり、30日前後で腹を地面から離して歩けるようになるが、耳の穴が開くのは生後平均20日で、開眼は生後約35日である[12]。開眼後は開眼前より早く成長するようになり、生後40日で自分ですからで歩くようになり、約50日で滑空の練習を始めると生後約60日(6月中旬 - 7月上旬)で体重は60 - 70グラムに達し、母親から独立する[12]。親離れした幼獣は翌年には繁殖可能となる[8]

時には夏に発情する個体もおり[8]、2度目の交尾期は子供が巣立つ6月 - 7月ごろ・出産時期は7月下旬 - 8月で、その時期にはオスがメスのいる樹洞のそばで盛んに鳴いている場合がある[49]

鳴き声

本種は「ジィージィー」と鳴く[13]。成獣は交尾期以外にはほとんど鳴かないが、幼獣は他のリス類の子と異なり、巣の引っ越しの際に母親と離れ離れになった際などには非常によく鳴く[注 13][46]。また、子が開眼して自力で行動できるようになると離れ離れになった母子は同じような声で鳴き交わしながら相互に歩み寄るほか、さらに成長した子の場合は巣の中で鳴いている母親の声を頼りに自力で巣に戻る[46]

天敵・寿命

市街地・農耕地に生息するエゾモモンガの天敵はクロテン・エゾフクロウハイタカネコ(飼い猫・野良猫とも)[注 14]などである[17]。またシマフクロウクマタカなど希少な猛禽類もエゾモモンガを餌とする[17]

本種は天敵が多い一方で攻撃力を有さず[51]、天敵に見つからないよう常に周囲を警戒し、樹上では自分の体が天敵に見つからないよう注意している[52]。本種は天敵に気づくとそれが立ち去るまで気づかれないようにじっとして動かないが、時にはその時間が1 - 2時間におよぶ場合もある[13]

寿命飼育個体では4 - 5年だが野生個体では3年未満が多い[15]

人間との関係

本種はアイヌ民族から「アッカムイ」と呼ばれて知られてはいたが夜行性であるために記録された時期は遅く、初の公式記録は1921年だった[6]

1957年(昭和32年)に合田昌義の文献『エゾモモンガによる材木害』にて「北海道中標津営林署養老牛国有林(北海道標津郡中標津町)でカラマツ120本の樹枝先端を食害した」例が報告されているが[53]害獣として駆除されるほどの実害は発生していないとされる[54]

市街地周辺の緑地にも生息し個体数も少なくない種だが[31]、森林伐採・孤立化や食物の不足などにより生息数は減少傾向にある[55]。特に市街地・農耕地の残存林に生息するエゾモモンガにとっては林同士をつなぐ防風林(並木)が通路として役立っているが、それらの防風林が寸断されると地面に降りて移動できないエゾモモンガは他の林へ移動できなくなり、繁殖・分散が正常に行えなくなって個体数減少につながる[50]。有刺鉄線に引っ掛かり死亡した事故例も数例あり、人間の住環境周辺はエゾモモンガにとって安全な住処とは言えない[50]

札幌市円山動物園では1967年から本種の飼育・繁殖に取り組んでいるほか[55]釧路市動物園[56]おびひろ動物園[57]旭川市旭山動物園[58]でも本種が飼育されている。

脚注

注釈

  1. ^ 理学博士・農学博士[7]
  2. ^ 「山子」とは木樵など山仕事をする人のこと[11]
  3. ^ エゾリスは常緑針葉樹林・エゾシマリスはミズナラ・柏などによる落葉広葉樹林に好んで生息するが、エゾモモンガはどちらの林にも好んで生息する[12]エゾマツ・トドマツなど常緑針葉樹は冬季でも葉を落とさないため、常緑針葉樹林では空中の天敵から身を隠すことができる[14]
  4. ^ 市街地の公園・人家周辺の数ヘクタールの残存林でも観察される[12]
  5. ^ 本種の生息標高は海抜0メートル - 2,500メートルと広範囲にわたる[1]
  6. ^ ニホンモモンガの場合は背面は夏毛が茶褐色・冬毛が灰褐色で、腹面は本種と同じく白色となる[12]
  7. ^ 目が大きいのは夜行性のためで[20]、その視力は真っ暗な夜の森林の中でも枝に接触することなく飛行できるほど高い[21]
  8. ^ ニホンモモンガの乳頭数は5対(10個)なのでその点で区別できる[22]
  9. ^ ニホンモモンガの陰茎骨は極めて短くて幅広く、ねじれている[8]
  10. ^ 飼育実験下では冬季の1日の総活動時間は平均45分であった[12]
  11. ^ 柳川(2002)によればテレメトリー法により測定したメスの縄張りは平均1.7ヘクタール、♂の行動圏は4.8ヘクタールで、うち道路・農耕地などエゾモモンガが利用できない領域を除いた森林だけの面積はメスが1.1ヘクタール、♂が2.2ヘクタールであった[31]
  12. ^ 授乳中の母子とオスの同居例はいずれも子は巣立ってこそいなかったが開眼して成長した状態で、哺乳類においてこのように授乳中の母子とオスが同居することは非常に珍しい[31]。夏季には子育て中のメスの巣穴に入り込んで母子と同居し、確実にメスと交尾しようとするオスもいる[46]
  13. ^ エゾモモンガの子がエゾリスなどと違い頻繁に鳴く理由は「夜行性であるため、視覚による子の探索がほとんど不可能であるから」と考えられている[31]
  14. ^ 市街地では主にネコが重要な捕食者になっている[50]

出典

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  56. ^ #釧路市動物園
  57. ^ #おびひろ動物園
  58. ^ #旭川市旭山動物園

参考文献

ウェブサイト
出版物
  • 柳川久 著「エゾモモンガとニホンモモンガ」、日高敏隆(監修)・川道武男(編集) 編『日本動物大百科 哺乳類I』 第1巻(初版第3刷)、平凡社、2002年3月22日・初版第3刷発行(原著1996年2月21日・初版第1刷発行)、84-87頁。ISBN 978-4582545517 
  • 石井信夫 著「タイリクモモンガ」、阿部永(監修)・自然環境研究センター(編集) 編『日本の哺乳類』(改訂2版)東海大学出版会、2008年7月5日・第1刷発行(原著1994年12月20日・初版第1刷発行 / 2005年7月20日・改訂版第1刷発行)、124頁。ISBN 978-4486018025 
  • 門崎允昭『野生動物調査痕跡学図鑑』北海道出版企画センター、2009年10月20日、38-39,54,64,94-97,169-171,173-174,176,183,223-224,238-240,321,345-347頁。ISBN 978-4832809147 
  • 目黒誠一『エゾモモンガ 目黒誠一写真集 -アッカムイの森に生きる-』(第5刷)講談社、1997年10月13日(原著1994年3月15日)。ISBN 978-4062068833 
  • 富士元寿彦『エゾモモンガ』(第2刷)北海道新聞社、2001年4月10日(原著2001年1月31日)。ISBN 978-4894531338 
  • 目黒誠一、田中美奈子『モモンガの森へ』(第1刷)講談社、2002年5月20日。ISBN 978-4062663724 
  • 富士元寿彦『モモンガにあいたい』(初版第1刷)青菁社〈seiseisha mini book series〉、2004年12月24日。ISBN 978-4883502035 
  • 太田達也『モモンガだモン! 北の森からのメッセージ』天夢人、2017年12月11日。ISBN 978-4635820257 
  • 進啓士郎『世界一かわいいエゾモモンガ』(初版第1刷発行)パイインターナショナル、2019年10月7日。ISBN 978-4756252678  - 2019年10月10日発売。
    • 北海道・知床で野生動物を撮影する写真家・進啓士郎が撮影・制作した写真集。帯広畜産大学野生動物管理学研究室の協力による生態解説付き。
辞典

写真集・関連書籍

  • 富士元寿彦『子ども科学図書館 飛べ!エゾモモンガ』大日本図書、1998年1月。ISBN 978-4477008820 
  • 福田幸広『風の友だちモモンガ Little Friends』リベラル社、2007年10月1日。ISBN 978-4434110856 
  • 西尾博之『えぞももんがのきもち』北海道新聞社、2016年4月20日。ISBN 978-4894538245 

関連項目

外部リンク