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「熊本市交通局0800形電車」の版間の差分

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{{鉄道車両
{{鉄道車両
|車両名=熊本市交通局0800形
|車両名=熊本市交通局0800形<br />0801AB・0802AB
|社色=#269926
|社色=#269926
|画像=Kumamoto City Tram 0802 2015.jpg
|画像=Kumamoto City Tram 0802 2015.jpg
|画像説明=0802AB編成<br />2015年8月 祇園橋停付近
|画像説明=0802AB([[祇園橋停留場|祇園橋]]付近・2015年8月)
|運用者=[[熊本市交通局]]
|unit=auto
|製造所=[[新潟トランシス]]
|編成両数=1両編成(2車体連接車)
|製造年=[[2009年]]
|起動加速度=2.5
|製造数=2編成計4両
|設計最高速度=45
|運用開始=2009年[[4月1日]]
|減速度(通常)=4.68
|編成=2両固定編成(2車体連接車)
|減速度(非常)=5.04
|軌間=1,435 [[ミリメートル|mm]]
|編成定員=82(座席30)人
|電気方式=[[直流電化|直流]]600 [[ボルト (単位)|V]]([[架空電車線方式]])
|全長=18,400
<!--|設計最高速度=70 km/h-->
|全幅=2,400
|営業最高速度=40 [[キロメートル毎時|km/h]]
|全高=3,407mm<br />パンタ折り畳み高さ3,745
|起動加速度=2.5 [[キロメートル毎時毎秒|km/h/s]]
|編成重量=25t
|常用減速度=4.68 km/h/s
|軌間=1,435
|非常減速度=5.04 km/h/s
|電気方式=[[直流電化|直流]]600V、[[架空電車線方式]]
|編成定員=82人(座席30人)
|主電動機=三相誘導電動機<br />BAZu3650/4.4形 (100kW)
|編成重量=25 [[トン|t]]
|歯車比=6.786
|編成長=18,400 mm
|台車=ボルスタレス/ゴムばね式台車
|全幅=2,400 mm
|制御装置=[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ]]制御([[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]][[半導体素子|素子]])
|全高=3,745 mm
|ブレーキ方式=[[回生ブレーキ|回生]]・[[発電ブレーキ|発電]]併用全[[電気指令式ブレーキ|電気ブレーキ]]、ばね作用油圧[[ディスクブレーキ]]、[[電磁吸着ブレーキ|電磁式レールブレーキ]]
|車体=
|製造メーカー=[[新潟トランシス]](電気品は[[三菱電機]])
|台車=独立車輪式[[ボルスタレス台車]]
|備考=出典:鉄道ファン 2009年8月号付録、2009年6月号
|主電動機=[[かご形三相誘導電動機]] BAZu3650/4.6
|主電動機出力=100 [[キロワット|kW]]
|搭載数=2基 / 編成
|駆動方式=[[車体装架カルダン駆動方式|車体装荷式直角カルダン軸駆動方式]]
|歯車比=6.789
|制御方式=[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御方式]]
|制御装置=2レベル[[パルス幅変調|PWM制御]][[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]]インバータ<br />MAP-102-60VD140
|制動装置=[[回生ブレーキ|回生]]・[[発電ブレーキ|発電]]併用電気ブレーキ<br />油圧式[[ディスクブレーキ]]
|備考=出典:[[#rp825|『鉄道ピクトリアル』通巻825号]]
}}
}}
'''熊本市交通局0800形電車'''(くまもとしこうつうきょく0800がたでんしゃ)は、[[熊本市交通局]](熊本市電)[[路面電車]][[鉄道車両|車両]]。この形名は、熊本市電における形式命名慣例製造初の西暦下2桁00付けもの)による
'''熊本市交通局0800形電車'''(くまもとしこうつうきょく0800がたでんしゃ)は、[[熊本市交通局]]が市電(熊本市電)用に導入した[[路面電車]][[鉄道車両|車両]]である2車体2台車方・100%低床構造[[超低床電車]]で、[[2009年]]平成21)4月営業運転開始した。


3編成在籍しており、そのうち[[2014年]](平成26年)10月に運転を開始した第3編成 (0803AB) は熊本市電開業90周年記念の導入であり「'''COCORO'''」(こころ)の愛称を持つ。
== 概要 ==
[[新潟トランシス]]製の[[ブレーメン形]][[超低床電車]]。1台車のみの車体を2つ繋げた、連接構造の車両である。0801AB (0801A-0801B) と 0802AB (0802A-0802B) の2編成が導入され、うち0801ABは2009(平成21年)年4月1日のダイヤ改正から営業運転を開始した。熊本市電は1997年(平成9年)から日本初の[[超低床電車]]・[[熊本市交通局9700形電車|9700形]]を導入しており、2009年(平成21年)の時点で同形を5編成保有・運用しているが、本形式はそれに続く、熊本市電における2形式目の低床車である。熊本市電の新車購入は8年ぶり、新形式は12年ぶりとなる。


== 1次車 (0801AB・0802AB) ==
車体は長さ18.4m、幅2.4m、高さ約3.4m([[パンタグラフ]]除く)。車体幅が広くなり、1両あたりの定員は82名(着席定員30名)と、9700形の76名から6名分増えている。出入口部分の床面高さは路面から300mm、車内の通路部は360mm。従来のような[[バックミラー]]はなく、[[カメラ]]からの映像が運転席の画面に映るようになっている<ref>[http://kumanichi.com/osusume/toretate/kiji/20090318001.shtml 熊本市電の〝新しい顔〟新型超低床電車お披露目] - くまにちコム([[熊本日日新聞]]) 2009年3月18日</ref>。乗降口は片側に2つあり、扉の幅は1250mm。A車(上熊本駅前・田崎橋側)には[[車椅子]]用スペースが1台分設けられている。塗装は白と[[肥後椿]]をイメージした赤紫で、正面の窓下に紺色が入る。
以下、2009年に導入された1次車の2編成 (0801AB・0802AB) について記述する。


=== 導入までの経緯 ===
当形式も9700形と同様で連接車であり、構造も前位車両の前ドアを降車用、後位車両の連結面寄りドアを乗車用としたワンマン運転が可能な構造となっているが、こちらも9700形と同様に新製時から現在まで運行に際しては運転士のほかに「トラムガイド」と呼ばれる女性車掌および男性車掌が乗務し運賃収受を行う。以前のトラムガイドスペースでは手動式[[運賃箱]]による収受のため、両替や[[ICカード]]のチャージはできなかったが、2015年8月より運転席横に備える[[レシップ]]製の同様の両替機能付き運賃箱を搭載したため、トラムガイドスペースでのICカードのチャージが可能になった。ただし、新製時から両替機能付き運賃箱を設置している0803(COCORO)より若干扉寄りに取り付けられている。
本形式が導入された[[熊本市交通局]]の路面電車線(熊本市電)は、[[熊本市]]内を走る2つの路線からなる、約12キロメートルの路線網を持つ。


1970年代末の全廃計画の撤回以後市電へ積極投資を続けていた交通局では、[[1990年]](平成2年)より当時ヨーロッパで開発されつつあった[[超低床電車]]の導入について検討を始め、[[1997年]](平成9年)になって2車体式の超低床電車[[熊本市交通局9700形電車|9700形]]導入という形でこれを実現させた<ref>[[#rp643|「熊本市交通局9700形」(『鉄道ピクトリアル』)]]</ref>。同形式は[[アドトランツ]]([[ドイツ]])が製造する「[[ブレーメン形]]」が元になっており、同社と業務提携した[[新潟鐵工所]](現・[[新潟トランシス]])によって設計・製作された日本仕様の車体と輸入品の台車・電機品と組み合わせることで製造された車両である<ref>[[#rst46|「日本における低床式路面電車の導入について」]]</ref>。初め1編成が導入され、[[1999年]](平成11年)に2次車2編成、[[2001年]](平成13年)には3次車2編成がそれぞれ増備されて計5編成10両が在籍する<ref name="rj415">[[#rj415|「RAILWAY TOPICS 熊本市交通局が9700形超低床車を3月増備 5編成に」]]</ref>。
乗降は運転士のいる前方ドアとあわせ、双方のドアから可能である(0803も同様)。

<gallery>
[[2002年]](平成14年)、メーカーの新潟鐵工所は熊本市交通局9700形3次車に続き[[岡山電気軌道9200形電車|岡山電気軌道9200形 (MOMO)]] を製造した<ref name="ex03-19">[[#ex03|「特集・リトルダンサーと日本の超低床車」]]19頁</ref>。この車両も9700形と同様「ブレーメン形」を日本向けに設計変更したものであるが、車体のデザインは他都市と異なるものをとの意向から、当時[[フランス]]の[[ナント]]に納入されていた「[[インチェントロ]]」と呼ばれる車両のデザインを、アドトランツを買収した[[ボンバルディア]]の協力を得て利用している<ref>[[#rst75|「新潟鉄工におけるLRTの実現を目指した最近の動き」]]</ref>。以降日本では、新潟鐵工所の鉄道車両部門を引き継いだ新潟トランシスによって、「ブレーメン形」の足回りに「インチェントロ」の丸みを帯びた車体を組み合わせた超低床電車の製造が続いている<ref name="ex03-19"/>。
File:Kumamoto City Tram 0801AB 2.png|0801AB([[蔚山町停留場|蔚山町電停]])

File:Kumamoto City Tram 0801AB 4.png|0801AB([[洗馬橋停留場|洗馬橋電停]])
{{Double image aside|left|Kumamoto City Tram 9702.jpg|200|Okayama Electric Tramway 9200.jpg|200|[[熊本市交通局9700形電車|熊本市交通局9700形]]|[[岡山電気軌道9200形電車|岡山電気軌道9200形]]}}
File:Kumamoto City Tram 0801AB 6.png|0801AB([[九品寺交差点停留場|九品寺交差点電停]])
{{-}}
File:Japan_Kamikumamoto_Sta_Tram3.jpg|[[上熊本駅#.E7.86.8A.E6.9C.AC.E5.B8.82.E4.BA.A4.E9.80.9A.E5.B1.80|上熊本駅前電停]]

</gallery>
9700形3次車以後超低床電車の導入が止まっていた熊本市交通局では、[[2006年]](平成18年)に施行された[[高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律|バリアフリー新法]]において鉄道車両の[[バリアフリー]]化率目標が50パーセントとされたことを受けて超低床電車の増備に着手<ref name="rj514">[[#rj514|「RAILWAY TOPICS 熊本市電に新型超低床電車0800形が登場」]]</ref>。[[九州新幹線 (鹿児島ルート)|九州新幹線]]全線開通(2011年)を見据えてJR[[熊本駅]]と都心部の輸送力増強を図る狙いもあり<ref name="k20081228">「3月から新たに超低床型電車導入 熊本市電」『[[熊本日日新聞]]』2008年12月28日朝刊</ref>、「0800形」の導入となった。新潟トランシスにて製造が続く「インチェントロ」タイプのデザインの車両を導入するのが有利との判断から9700形ではなく新形式となっている<ref name="rj514"/>。

=== 車体・主要機器 ===
==== 車体 ====
[[ファイル:Kumamoto City Tram 0801AB 5.png|thumb|0801AB<br />([[九品寺交差点停留場|九品寺交差点電停]]・2009年4月)]]

本形式は「インチェントロ」タイプの車体を持つ2車体2台車式の超低床電車で、パンタグラフのある車両を「A車」、反対側を「B車」と称する<ref name="rp825">[[#rp825|「熊本市交通局0800形」]]</ref>。1次車では連結部を除いた車体の長さは8.74メートルで、編成の全長は18.4メートル<ref name="rp825"/>。車体幅は2.4メートルで、9700形よりもわずかに拡大した<ref name="rp825"/>。車両の全高(パンタグラフ折りたたみ高さ)は3.745メートル<ref name="rp825"/>。自重は25.0トンである<ref name="n2009-189">[[#n2009|「鉄道車両年鑑2009年版」]]189頁</ref>。

車体の塗装は[[白]]を基調とする<ref name="rp825"/>。車両先頭部は大型の曲面[[ガラス]]と鋼製の大型バンパーからなり、アクセントとなるよう[[紺色]]のラインを配する<ref name="rp825"/>。車体側面は熊本の伝統園芸[[肥後六花]]の一つ「肥後[[ツバキ|椿]]」をイメージした[[赤紫色]]の塗装とされている<ref name="rp825"/>。

==== 車内 ====
レール上面から車内の床面までの高さは通路部分で36センチメートルだが、ドア部分ではさらに下げて30センチメートルとし、電停ホームとの段差を極力小さくしている<ref name="rp825"/>。客室内の[[鉄道車両の座席|座席]]配置は車輪を収めるタイヤハウスや主電動機配置の関係から車体中央部を[[クロスシート]](3列)、車端部を[[ロングシート]]としている<ref name="rp825"/>。ドア(有効幅1.25メートル)は片側2か所ずつ計4か所の設置で、位置は左右対称ではなく反対側にはロングシートが配置される<ref name="rp825"/>。また運転席直後のロングシートは折りたたみ式となっており[[車椅子スペース]]も兼ねる<ref name="rp825"/>。

先の9700形では座席数が少ないという乗客からの意見が多数あったことから、本形式ではクロスシートの一部を1人掛けから2人掛けに変更することで座席を全体で6席増やし、座席を24席から30席へ、定員を76人から82人へとそれぞれ増加させた<ref name="rp825"/>。客室内の配色は、天井・側壁の化粧板が白、座席モケットと床が[[茶色|ブラウン]]系<ref name="rp825"/>。
<gallery>
<gallery>
File:Kumamoto City Tram 0802 inside 20160925.jpg|車内
ファイル:Kumamoto City Tram 0802 inside 20160925.jpg|車内
File:Kumamoto_City_Tram_0800_cross-seat_20160925.jpg|クロスシート
ファイル:Kumamoto_City_Tram_0800_cross-seat_20160925.jpg|クロスシート
File:Kumamoto_City_Tram_0800_wheelchair-space_20160925.jpg|跳ね上げ式シート
ファイル:Kumamoto_City_Tram_0800_wheelchair-space_20160925.jpg|折りたたみ式シート
ファイル:Kumamoto City Tram 0800 priority-seat 20160925.jpg|優先席
ファイル:Kumamoto City Tram 0800 priority-seat 20160925.jpg|優先席
</gallery>
</gallery>


==== 台車・床下機器 ====
== 0803AB「COCORO」 ==
[[鉄道車両の台車|台車]]は各車中央部に1台ずつ、[[車軸]]のない左右独立の車輪4輪からなる[[ボルスタレス台車|ボルスタレス式]][[ボギー台車]]を配する<ref name="rp825"/>。台車・車体間の[[枕バネ]]および車輪・台車間の軸バネは[[ゴム]]バネを、車輪にはゴムを挟み込んだ[[弾性車輪]]をそれぞれ使用することで、振動や騒音の軽減を図っている<ref name="rp825"/>。従来の新潟トランシス製超低床電車では台車は[[ボンバルディア]]からの輸入品であったが、新潟トランシスは[[2007年]](平成19年)にボンバルディアより技術供与を受け[[ライセンス生産]]によって自社生産する体制を整えており<ref>「石播系、加社とライセンス契約、新型路面電車を一貫生産」『[[日本経済新聞]]』2007年1月17日付朝刊</ref>、本形式では新潟トランシスが台車を自社製造する<ref name="rp825"/>。こうして輸入品を主電動機など一部に限定することで製造費の削減を図っている<ref name="rj514"/>。
2014年に、熊本市電開業90周年記念事業の一環<ref>[http://www.kotsu-kumamoto.jp/Content/asp/topics/topics_detail.asp?PageID=2&ID=584&type=1 おかげさまで 熊本市電90周年(大正13年8月1日開業)] - 熊本市交通局 交通局からのお知らせ 2014年8月1日</ref>として、5年ぶりの増備車となる0803AB(0803A-0803B)が導入された。同編成は愛称を「'''COCORO'''(こころ)」とし、同年10月3日より運行を開始した。


[[主電動機]]は出力100[[ワット|キロワット]]の[[かご形三相誘導電動機]](ボンバルディア製<ref>[[#jrr2009|『私鉄車両編成表2009』]]189頁</ref>、形式名:BAZu3650/4.6<ref name="n2009-189"/>)で、台車1台につき1台ずつ搭載<ref name="rp825"/>。車体床下に装荷されており、駆動力は主電動機から[[自在継手]](ユニバーサルジョイント)、[[プロペラシャフト|推進軸]](スプライン軸)、[[かさ歯車]]、2段減速平歯車装置を経て片側の動輪に伝わり、さらに駆動軸(ねじり軸)を介して反対側の動輪に伝達される([[車体装架カルダン駆動方式|車体装荷式直角カルダン軸駆動方式]])<ref name="rp825"/>。
「COCORO」という愛称は、「利用者への思いやり」と「熊本を訪れる観光客をおもてなしの心でお迎えする」という意味があるとしている<ref name="sankei20140918">[http://www.sankei.com/region/news/140918/rgn1409180068-n1.html 新型超低床車両、熊本市電COCORO駆ける] - [[産経新聞|産経デジタル]] 2014.9.18</ref><ref>[http://www.asahi.com/articles/ASG945J0JG94TLVB00G.html 熊本)路面電車におもてなしの心 熊本、新型車両を搬入] - [[朝日新聞|朝日新聞デジタル]] 2014年9月5日</ref>。


[[鉄道のブレーキ|ブレーキ]]は、主電動機を用いる電気ブレーキ([[発電ブレーキ|発電]]・[[回生ブレーキ|回生]]併用)があり、これで低速域まで減速<ref name="rp825"/>。それ以降は機械ブレーキであるバネ作用・油圧緩め式の[[ディスクブレーキ]](主電動機出力軸に設置)を用いる<ref name="rp825"/>。これらの常用ブレーキのほかにも[[二次電池|蓄電池]]駆動の[[電磁吸着ブレーキ]](トラックブレーキ)を[[保安ブレーキ]]として備える<ref name="rp825"/>。
[[九州旅客鉄道|JR九州]]をはじめ[[熊本県]]内を走る鉄道車両のデザイナーとして知られる[[水戸岡鋭治]]がデザインを担当している。なお、水戸岡は、熊本市電では9700形の一部塗色のデザインも担当している。


==== 屋根上機器 ====
外装は、[[前照灯|ヘッドライト]]を従来車とは位置や形状を変更し「正面も笑っているような顔」<ref name="kumanichi20140912">[http://kumanichi.com/news/local/main/20140912009.xhtml 工夫がいっぱい新型熊本市電 園児招き内覧会] - くまにちコム(熊本日日新聞) 2014年09月12日</ref>になっており、[[熊本城]]の城壁をイメージした<ref name="kumanichi20140912" />濃茶メタリックの塗装に金色の[[シンボルマーク]]や[[ロゴタイプ|ロゴ]]を配している。[[ハート (シンボル)|ハート]]3つを連ねたシンボルマークは、「水・緑・情熱」を表しているとしており<ref name="sankei20140918" /><ref>水戸岡鋭治からのプレゼント まちと人を幸福にするデザイン 公式図録([[熊本市現代美術館]] 2014年)</ref>、「わくわく都市くまもと」のシンボルマーク<ref>[http://wakuwaku-kumamoto.com/info/ 「わくわく都市くまもと」について] - 「わくわく都市くまもと」熊本シティブランドWEB</ref>に由来している。
[[ファイル:Kumamoto City Tram 0801AB 6.png|thumb|upright|屋根上機器の配置。手前から冷房装置、パンタグラフ、主制御装置(VVVFインバータ)、蓄電池箱、SIV装置、冷房装置の順<ref name="rp825"/>。]]


床下機器は主電動機や駆動関連機器のみと最小限に留められており、主要な機器は屋根上に配置されている<ref name="rp825"/>。
内装は、座席や床などに[[木材]]([[カエデ|メープル]]、[[クルミ|ウォールナット]])を使用し「森と水の都くまもと」を表すとしている<ref>[http://mainichi.jp/select/news/20141005k0000m040005000c.html 熊本市電:超低床車両「COCORO」出発進行 熊本] - [[毎日新聞]] 2014年10月04日</ref>。車内設備として、テーブルやドリンクホルダーが設置されているが飲食は出来ない。


[[集電装置]]はシングルアーム式パンタグラフ(形式名:FB500.80<ref name="n2009-189"/>)で、A車先頭部寄りに設置<ref name="rp825"/>。主電動機への供給電力を制御する[[電気車の速度制御|主制御装置]]は[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]]による[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御]]方式であり([[三菱電機]]製<ref name="rp825"/>、形式名:MAP-102-60VD140<ref name="n2009-189"/>)、1群のインバータにつき1台の主電動機を制御する(1C1M方式)<ref name="rp825"/>。設置場所はA車屋根上の連結部寄り<ref name="rp825"/>。
また当編成は、新製時より中央扉のトラムガイドスペースにレシップ製運賃箱を搭載している。


そのほか屋上に配置された機器としては、[[冷房装置]]の[[室外機]](各車、冷房装置の形式名はCU206SA<ref name="n2009-189"/>)、蓄電池(B車)、補助電源用[[静止形インバータ|SIV装置]](B車)がある<ref name="rp825"/>。
0803AB「COCORO」の運用は固定ダイヤであり、平日は上熊本車庫からB系統([[上熊本駅|上熊本駅前]] - [[健軍町停留場|健軍町]])で始まり、日祝は上熊本車庫から臨系統で[[辛島町停留場|辛島町]]止めで折り返して田崎橋へ向かい、日中はA系統([[田崎橋停留場|田崎橋]] - 健軍町)で夕方にはB系統で健軍町から上熊本駅前(上熊本車庫)へ戻る運用で、土曜日はB系統のみの運用で1日6 - 8往復するため、大江車庫へは入庫しない。ただし、他の低床車両は共通運用である<ref>[http://kumanichi.com/news/local/main/20141003003.xhtml 新型車両「COCORO」運行開始 熊本市電] - くまにちコム(熊本日日新聞) 2014年10月03日</ref>。


==== その他機器 ====
運転席は中央部にあり、9700形と共通化された右手扱いのワンハンドル式[[マスター・コントローラー]]を備える<ref name="rp825"/>。車体形状の都合で9700形にあったような後方監視用の[[バックミラー]]が設置できなくなったため、代用として車外確認用のカメラを設置しており、運転台左右にモニターがある<ref name="rp825"/>。[[2010年]]度(平成22年度)になって、他車と同じく常時記録型[[ドライブレコーダー]]が新設された<ref>[[#rp855|「鉄道車両年鑑2011年版」]]154頁</ref>。

車体前面と側面の[[方向幕|行先表示器]]は[[発光ダイオード|LED]]式を用いる<ref name="rp825"/>。

=== 竣工と運行開始 ===
0801AB・0802ABともに、[[2009年]](平成21年)[[3月19日]]付で竣工した<ref>[[#n2009|「鉄道車両年鑑2009年版」]]229頁</ref>。導入事業費は合計5億円<ref>「3月から新たに超低床型電車導入 熊本市電」『熊本日日新聞』2008年12月28日朝刊</ref>。同年[[4月1日]]のダイヤ改正より営業運転に投入され、改正当日は0801ABが運用に入った<ref>[[#rf578|「CAR INFO 熊本市交通局0800形」(『鉄道ファン』)]]</ref>。

この本形式2編成導入により熊本市電の超低床電車は9700形とあわせて7編成に増加し、予備を除いて6編成が毎日運用に就く体制が可能となった<ref name="rj514"/>。1時間あたりでは1往復ずつの増便になる計算で、運行本数は[[熊本市電A系統|2系統(現A系統)]]では毎時2 - 3本、[[熊本市電B系統|3系統(現B系統)]]では毎時1本(朝夕ラッシュ時毎時2本)へと増加した<ref name="rj514"/>。また本形式導入の代替で、連接車[[熊本市交通局5000形電車|5000形]]が2編成[[廃車 (鉄道)|廃車]]された<ref name="rj514"/>。
{{-}}

== COCORO (0803AB) ==
{{鉄道車両
|車両名=熊本市交通局0800形<br />0803AB「COCORO」
|社色=#269926
|画像=Kumamoto-0803cocoro.jpg
|画像説明=0803AB「COCORO」<br />(2014年10月)
|運用者=[[熊本市交通局]]
|製造所=[[新潟トランシス]]
|製造年=[[2014年]]
|製造数=1編成2両
|運用開始=2014年[[10月3日]]
|編成=2両固定編成(2車体連接車)
|軌間=1,435 [[ミリメートル|mm]]
|電気方式=[[直流電化|直流]]600 [[ボルト (単位)|V]]([[架空電車線方式]])
|最高運転速度=40 [[キロメートル毎時|km/h]]
|設計最高速度=70 km/h
|編成定員=86人(座席38人)
|編成重量=25 [[トン|t]]
|編成長=18,460 mm
|全幅=2,400 mm
|全高=3,745 mm
|車体=
|台車=独立車輪式[[ボルスタレス台車]]
|主電動機=[[かご形三相誘導電動機]]<br />TDK6413-C
|主電動機出力=100 [[キロワット|kW]]
|搭載数=2基 / 編成
|駆動方式=[[車体装架カルダン駆動方式|車体装荷式直角カルダン軸駆動方式]]
|歯車比=6.789
|制御方式=[[可変電圧可変周波数制御|VVVFインバータ制御方式]]
|制御装置=2レベル[[パルス幅変調|PWM制御]][[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|IGBT]]インバータ<br />MAP-102-60VD140
|制動装置=[[回生ブレーキ|回生]]・[[発電ブレーキ|発電]]併用電気ブレーキ<br />油圧式[[ディスクブレーキ]]
|備考=出典:[[#rst220|『鉄道車両と技術』通巻220号]]・[[#rp909|『鉄道ピクトリアル』通巻909号]]
}}
以下、2014年に導入された2次車(0803AB、愛称「COCORO」)について記述する。

=== 運行開始までの経緯 ===
1次車導入後、熊本市交通局は経営の悪化により2008年度末には資金不足額が55億円に達して資金不足比率が198%を超えるにいたり、[[地方公共団体の財政の健全化に関する法律]]に基づいて2009年度から2015年度まで7年間にわたる「経営健全化計画」を策定し、経営の健全化に取り組むこととなった<ref name="rst220-13">[[#rst220|「熊本市交通局0800型「COCORO」デビュー」]]13-16頁</ref>。同計画では、軌道事業(市電)については厳しい経営の中でも魅力を高めるためとして新型超低床車両の導入が盛り込まれた<ref name="rst220-13"/>。

新型車両のデザインは、熊本市観光文化交流局シティプロモーション課の発案で[[新幹線800系電車|九州新幹線800系]]など[[九州旅客鉄道|JR九州]]の列車デザインで実績がある工業デザイナー[[水戸岡鋭治]]に依頼することとなり、同課がデザイン作成費用を、交通局が車体制作費をそれぞれ予算化<ref name="rst220-13"/>。さらに車両の導入は当初予定の2013年度(平成25年度)からデザイン作成期間を考慮して2014年度(平成26年度)となり、熊本市電開業90周年の記念事業との位置づけになった<ref name="rst220-13"/>。[[2013年]](平成25年)4月、熊本市の会合で新型車両は現在運行中の新潟トランシス製車両(0800形の増備)によると決定<ref name="rst220-13"/>。同年8月、デザイン作成に関し市シティプロモーション課と水戸岡が代表を務めるドーンデザイン研究所との間に契約が締結された<ref name="rst220-13"/>。水戸岡が熊本市交通局の車両デザインに携わったのは先に9700形2・3次車の例がある<ref name="rj415"/>。また新潟トランシス製超低床車では[[岡山電気軌道9200形電車|岡山電気軌道9200形「MOMO」]]の例がある<ref name="rst220-13"/>。

翌[[2014年]](平成26年)3月30日、[[熊本市現代美術館]]において、水戸岡や熊本市長の[[幸山政史]](当時)らにより水戸岡のデザイン展(6月より9月まで)の告知とともに新型車両のデザインと愛称が発表された<ref name="rst220-16">[[#rst220|「熊本市交通局0800型「COCORO」デビュー」]]16-20頁</ref>。愛称の「'''COCORO'''」(こころ)は、子供から高齢者までさまざまな乗客を迎える「思いやり」や、熊本市を訪れる観光客への「おもてなしの心」を表すという<ref name="rj572">[[#rj572|「RAILWAY TOPICS 熊本市電が水戸岡氏デザインのCOCOROを導入」]]</ref>。導入費は約3億1900万円で、通常の車両より3000万円ほど高くなった<ref>[[#nenkan2015|「COCOROのスタイルが熊本を変える」]]</ref>。

車体の製作は同年1月より[[新潟県]]にある新潟トランシスの工場で進められ、8月末に完成、9月1日[[牽引自動車|トレーラー]]に載せられて熊本へと出発した<ref name="rst220-20">[[#rst220|「熊本市交通局0800型「COCORO」デビュー」]]20-21頁</ref>。熊本への到着は9月4日で、大江車庫で線路上に降ろされた後、ほかの車両に牽引されて上熊本の車両工場へ移送された<ref name="rst220-16"/>。同工場ではエンブレムの取り付けなど最終調整が実施されている<ref name="rst220-20"/>。12日には報道関係者向けの内覧会を開催<ref name="rst220-20"/>。熊本市現代美術館(市電沿線、[[通町筋停留場]]近くにある)で開催中の水戸岡のデザイン展最終日にあたる15日には試運転を兼ねたサプライズ運行があった<ref name="rst220-20"/>。竣工は[[9月30日|30日]]付<ref>[[#n2015|「鉄道車両年鑑2015年版」]]248頁</ref>。

2014年[[10月3日]]午前10時より、大江車庫において「COCORO」の出発式が開催された<ref name="rst220-20"/>。テープカットに続く市長や水戸岡ら来賓を乗せた記念列車運転の後、同日午後より営業運転が始まった<ref name="rst220-20"/>。

=== 車体デザイン ===
車体の塗装は黒に近いメタリックの[[茶色|濃茶色]]一色で<ref name="rj578">[[#rj578|「RAILWAY TOPICS 熊本市電「COCORO」」]]</ref>、[[熊本城]]の城壁をイメージしたもの<ref name="rst220-13"/>。さらに[[金色]]のロゴとシンボルマークを車体各所に配することで、在来車両との差異化を図っている<ref name="rj578"/>。シンボルは3つの[[ハート (シンボル)|ハートマーク]]からなり、それぞれ熊本市の都市ブランドコンセプトである「水・緑・情熱」を表すという<ref name="rj578"/>。またロゴはやさしさを感じられるようにとの狙いで丸みを帯びた形となった<ref name="rj578"/>。

車体前面には、愛嬌のある「どんぐり目玉」をイメージした、少し飛び出した丸い[[前照灯|ヘッドライト]]が並ぶ<ref name="rst220-13"/>。車体側面には夜間走行時に周囲を走る車両などへ存在を示すためオレンジ色に発光するする[[LED照明|LED]]の表示灯を片側10個ずつ、計20個設置している<ref name="rst220-16"/>。表示灯のメーカーは[[スイス]]のEAO<ref name="rst220-16"/>。

車両の寸法については、連結部を除いた各車の全長が8.77メートル(編成全長は18.46メートル)となり<ref name="rst220-16"/>、1次車よりわずかに長くなった。車体幅は2.4メートル、パンタグラフ折りたたみ高さは3.745メートルで<ref name="rst220-16"/>、1次車と同一である。

=== 客室デザイン ===
内装は「森と水の都くまもと」を表現する狙いで可能な限り[[木材]]を使用する<ref name="rj578"/>。その上、2両編成であることからそれぞれの車両で異なった車内空間とするために、明るい車内空間を形成する「[[カエデ|メープル]]材」(B車<ref name="rp909"/>)と、落ち着いた雰囲気を形成する「[[クルミ|ウォールナット]]材」(A車<ref name="rp909"/>)を車両によって使い分けている<ref name="rst220-16"/>。木材の使用箇所は床板、座席、吊り輪など<ref name="rst220-16"/>。座席には[[ウレタン]]を入れた皮製の座布団が取り付けられている<ref name="rst220-16"/>。

各車中央部のクロスシート部分には、「短い乗車時間でもちょっとした旅行気分を味わえるように」との理由で着脱可能なテーブルが備わる<ref name="rst220-16"/>。このテーブルの上には[[ステンレス鋼|ステンレス板]]を支えとしてキャンディトレイが載っている<ref name="rst220-16"/>。座席配置の見直しにより座席定員は38人となり、全体の定員は1次車の82人から86人に増加した<ref name="rp909">[[#rp909|「熊本市交通局0800形増備車「COCORO」」]]</ref>。

天井は[[アルミニウム合金]]板に[[メラミン樹脂]]のエナメル塗装を施したもの<ref name="rst220-16"/>。各車両に14個ずつ、合計28個の[[ダウンライト]]を設置し、側壁にも6個ずつ計12個のLED灯を備えていることから、夜間は車内があかるく、外からは車内の様子が明るく浮かびあがって見えるようになっている<ref name="rst220-16"/>。

各車車内の前後には停留場や運賃を案内する[[液晶ディスプレイ]]が設置されている<ref name="rst220-16"/>。[[レシップ]]製で、外国人観光客に対応するため日本語のほか[[英語]]・[[韓国語]]・[[中国語]]の4か国語に対応する<ref name="rst220-16"/>。
<gallery>
<gallery>
ファイル:Kumamoto City Tram 0803 cocoro inside 20160925.jpg|車内
File:Kumamoto-0803cocoro.jpg|0803AB([[辛島町停留場|辛島町電停]]付近)
ファイル:Kumamoto_City_Tram_0803cocoro_cross-seat_20160925.jpg|クロスシート
File:Kumamoto City Tram 0803 cocoro inside 20160925.jpg|車内
ファイル:Kumamoto City Tram 0803cocoro wheelchair-space 20160925.jpg|跳ね上げ式シート
File:Kumamoto_City_Tram_0803cocoro_cross-seat_20160925.jpg|クロスシート
File:Kumamoto City Tram 0803cocoro wheelchair-space 20160925.jpg|跳ね上げ式シート
ファイル:Kumamoto City Tram 0803A cocoro inside 20160925.jpg|0803Aは床にウォルナッを使用
File:Kumamoto City Tram 0803A cocoro inside 20160925.jpg|0803Aは床にウォールナットを使用
ファイル:Kumamoto_City_Tram_0803B_cocoro_inside_20160925.jpg|0803Bは床にルを使用
File:Kumamoto_City_Tram_0803B_cocoro_inside_20160925.jpg|0803Bは床にメープルを使用
</gallery>
</gallery>


== 関連項目 ==
=== 機器の変更点 ===
機器類では主電動機が[[東洋電機製造]]製の[[かご形三相誘導電動機]](形式名「TDK6413-C」<ref>[[#n2015|「鉄道車両年鑑2015年版」]]217頁</ref>)へと変更されている<ref name="rp909"/>。出力は100キロワットのまま<ref name="rp909"/>。また2012年4月以降の新造VVVFインバータ制御車に設置が義務付けられた運転記録装置を装備する<ref name="rp909"/>。
0800形は、以下の3形式とほぼ同じ車体を使用している。

<!-- [[岡山電気軌道9200形電車]]は乗降扉の数が異なり、「同じ車両」と言及している資料もありません -->
=== 運用 ===
* [[万葉線MLRV1000形電車]]
「COCORO」の運用は独立した固定ダイヤで行われている。2018年4月改正時点では、
* [[富山ライトレールTLR0600形電車]]
* 平日は、上熊本車庫を出庫してまず[[上熊本駅|上熊本駅前]]から[[熊本市電B系統|B系統]]として[[健軍町停留場|健軍町]]へ向かい、その後[[熊本市電A系統|A系統]]として健軍町 - [[田崎橋停留場|田崎橋]]間を6往復する。最後に健軍町からB系統として上熊本駅前へ戻って入庫する。
* [[富山地方鉄道9000形電車]]
* 土曜は、終日B系統に入り上熊本駅前 - 健軍町間を7往復する。
* 日曜・祝日は、出庫してまず上熊本駅前から[[辛島町停留場|辛島町]]折返しで田崎橋まで運行し、その後A系統として田崎橋 - 健軍町間を6往復する。さらに田崎橋から健軍町まで運行した後、B系統として上熊本駅前へ戻って入庫する。
という運用が組まれている。

== 車掌の乗務について ==
本形式は9700形と同様に、運転士の負担軽減のため[[車掌]]が乗務する<ref name="ex08">[[#ex08|『路面電車EX』Vol.08]] 58-59頁</ref>。元は「Lパーサー」(「L」は[[ライトレール]] (Lightrail) の頭文字をとったもの)という名称であったが、[[2011年]](平成23年)3月の[[九州新幹線 (鹿児島ルート)|九州新幹線]]全通にあわせ「トラムガイド」へと改称された<ref name="ex08"/>。このとき業務に観光案内が追加されている<ref name="ex08"/>。車掌が乗務するため、前後どちらのドアからも乗降が可能である<ref name="handbook">[[#handbook2018|『路面電車ハンドブック』2018年版]]175-181</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
<references />
{{Reflist|2}}


== 外部リンク ==
== 参考文献 ==
{{Commonscat|Kumamoto City Tram 0800}}
{{Commonscat|Kumamoto City Tram 0800}}
'''雑誌記事'''
*[https://news.mynavi.jp/news/2009/04/22/026/index.html 熊本市交通局に12年ぶりの新型車登場 - 低床式車両「0800型」の運行を開始] - マイコミジャーナル
* 『[[鉄道ピクトリアル]]』各号
*[http://www.urban.ne.jp/home/yaman/news89.htm##532 路面電車ニュース789 熊本市電 新車0800形を導入 営業運転開始]
** {{Cite journal|和書|author=宮崎輝昭 |title=熊本市交通局9700形 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第47巻第10号(通巻643号) |publisher=[[電気車研究会]] |date=1997-07 |pages=41-45 |ref=rp643 }}
* 「鉄道車両年鑑」(『鉄道ピクトリアル』臨時増刊号)各号
** {{Cite journal|和書|title=鉄道車両年鑑2009年版 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第59巻第10号(通巻825号) |publisher=電気車研究会 |date=2009-10 |ref=n2009 }}
*** {{Cite journal|和書|author=松川和憲 |title=熊本市交通局0800形 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第59巻第10号(通巻825号) |publisher=電気車研究会 |date=2009-10 |pages=184-186 |ref=rp825 }}
** {{Cite journal|和書|title=鉄道車両年鑑2011年版 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第61巻第10号(通巻855号) |publisher=電気車研究会 |date=2011-10 |ref=rp855 }}
** {{Cite journal|和書|title=鉄道車両年鑑2015年版 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第65巻第10号(通巻909号) |publisher=電気車研究会 |date=2015-10 |ref=n2015 }}
*** {{Cite journal|和書|author=浜田幸輔 |title=熊本市交通局0800形増備車「COCORO」 |journal=鉄道ピクトリアル |volume=第65巻第10号(通巻909号) |publisher=電気車研究会 |date=2015-10 |pages=211-212 |ref=rp909 }}
* 『[[鉄道ジャーナル]]』各号
** {{Cite journal|和書|title=RAILWAY TOPICS 熊本市交通局が9700形超低床車を3月増備 5編成に |journal=鉄道ジャーナル |volume=第35巻第5号(通巻415号) |publisher=鉄道ジャーナル社 |date=2001-05 |pages=91 |ref=rj415 }}
** {{Cite journal|和書|title=RAILWAY TOPICS 熊本市電に新型超低床電車0800形が登場 |journal=鉄道ジャーナル |volume=第43巻第8号(通巻514号) |publisher=鉄道ジャーナル社 |date=2009-08 |pages=135 |ref=rj514 }}
** {{Cite journal|和書|title=RAILWAY TOPICS 熊本市電が水戸岡氏デザインのCOCOROを導入 |journal=鉄道ジャーナル |volume=第48巻第6号(通巻572号) |publisher=鉄道ジャーナル社 |date=2014-06 |pages=112 |ref=rj572 }}
** {{Cite journal|和書|title=RAILWAY TOPICS 熊本市電「COCORO」 |journal=鉄道ジャーナル |volume=第48巻第12号(通巻578号) |publisher=[[成美堂出版]] |date=2014-12 |pages=112 |ref=rj578 }}
* 『鉄道車両と技術』各号
** {{Cite journal|和書|author=大野真一 |title=日本における低床式路面電車の導入について |journal=鉄道車両と技術 |volume=第5巻第5号(通巻46号) |publisher=レールアンドテック出版 |date=1999-05 |pages=28-34 |ref=rst46 }}
** {{Cite journal|和書|author=大野真一 |title=新潟鉄工におけるLRTの実現を目指した最近の動き |journal=鉄道車両と技術 |volume=第8巻第4号(通巻75号) |publisher=レールアンドテック出版 |date=2002-07 |pages=38-42 |ref=rst75 }}
** {{Cite journal|和書|author=伊藤達也 |title=熊本市交通局0800型「COCORO」デビュー |journal=鉄道車両と技術 |volume=第20巻第12号(通巻220号) |publisher=レールアンドテック出版 |date=2014-12 |pages=13-21 |ref=rst220 }}
* {{Cite journal|和書|author= |title=CAR INFO 熊本市交通局0800形 |journal=[[鉄道ファン (雑誌)|鉄道ファン]] |volume=第49巻第6号(通巻578号) |publisher=[[交友社]] |date=2009-06 |pages=92 |ref=rf578 }}
* {{Cite journal|和書|author=堀切邦生 |title=特集・リトルダンサーと日本の超低床車 |journal=路面電車EX |volume=vol.03 |publisher=[[イカロス出版]] |date=2014-05 |pages=3-20 |ref=ex03 }}
* {{Cite journal|和書|author=大鶴倫宣 |title=女性運転士・アテンダント奮戦記 |journal=路面電車EX |volume=vol.08 |publisher=イカロス出版 |date=2017-10 |pages=54-61 |ref=ex08 }}
* {{Cite journal|和書|author=佐藤信博 |title=COCOROのスタイルが熊本を変える |journal=路面年鑑2015 |publisher=イカロス出版 |date=2015-01 |pages=4-7 |ref=nenkan2015 }}

'''書籍'''
* {{Cite book|和書|author=ジェー・アール・アール(編) |title=私鉄車両編成表2009 |publisher=[[交通新聞社]] |year=2009 |ref=jrr2009 }}
* {{Cite book|和書|author=日本路面電車同好会 |title=日本の路面電車ハンドブック |volume=2018年版 |publisher=日本路面電車同好会 |year=2018 |ref=handbook2018 }}

== 外部リンク ==
* [http://www.kotsu-kumamoto.jp/one_html3/pub/Default.aspx?c_id=35 COCORO運行時刻表] - 熊本市交通局


{{熊本市交通局の路面電車}}
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[[Category:熊本市交通局の電車|0800]]
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2018年12月4日 (火) 12:29時点における版

熊本市交通局0800形
0801AB・0802AB
0802AB(祇園橋付近・2015年8月)
基本情報
運用者 熊本市交通局
製造所 新潟トランシス
製造年 2009年
製造数 2編成計4両
運用開始 2009年4月1日
主要諸元
編成 2両固定編成(2車体連接車)
軌間 1,435 mm
電気方式 直流600 V架空電車線方式
最高運転速度 40 km/h
起動加速度 2.5 km/h/s
減速度(常用) 4.68 km/h/s
減速度(非常) 5.04 km/h/s
編成定員 82人(座席30人)
編成重量 25 t
編成長 18,400 mm
全幅 2,400 mm
全高 3,745 mm
台車 独立車輪式ボルスタレス台車
主電動機 かご形三相誘導電動機 BAZu3650/4.6
主電動機出力 100 kW
搭載数 2基 / 編成
駆動方式 車体装荷式直角カルダン軸駆動方式
歯車比 6.789
制御方式 VVVFインバータ制御方式
制御装置 2レベルPWM制御IGBTインバータ
MAP-102-60VD140
制動装置 回生発電併用電気ブレーキ
油圧式ディスクブレーキ
備考 出典:『鉄道ピクトリアル』通巻825号
テンプレートを表示

熊本市交通局0800形電車(くまもとしこうつうきょく0800がたでんしゃ)は、熊本市交通局が市電(熊本市電)用に導入した路面電車車両である。2車体2台車方式・100%低床構造の超低床電車で、2009年(平成21年)4月に営業運転を開始した。

3編成在籍しており、そのうち2014年(平成26年)10月に運転を開始した第3編成 (0803AB) は熊本市電開業90周年記念の導入であり「COCORO」(こころ)の愛称を持つ。

1次車 (0801AB・0802AB)

以下、2009年に導入された1次車の2編成 (0801AB・0802AB) について記述する。

導入までの経緯

本形式が導入された熊本市交通局の路面電車線(熊本市電)は、熊本市内を走る2つの路線からなる、約12キロメートルの路線網を持つ。

1970年代末の全廃計画の撤回以後市電へ積極投資を続けていた交通局では、1990年(平成2年)より当時ヨーロッパで開発されつつあった超低床電車の導入について検討を始め、1997年(平成9年)になって2車体式の超低床電車9700形導入という形でこれを実現させた[1]。同形式はアドトランツドイツ)が製造する「ブレーメン形」が元になっており、同社と業務提携した新潟鐵工所(現・新潟トランシス)によって設計・製作された日本仕様の車体と輸入品の台車・電機品と組み合わせることで製造された車両である[2]。初め1編成が導入され、1999年(平成11年)に2次車2編成、2001年(平成13年)には3次車2編成がそれぞれ増備されて計5編成10両が在籍する[3]

2002年(平成14年)、メーカーの新潟鐵工所は熊本市交通局9700形3次車に続き岡山電気軌道9200形 (MOMO) を製造した[4]。この車両も9700形と同様「ブレーメン形」を日本向けに設計変更したものであるが、車体のデザインは他都市と異なるものをとの意向から、当時フランスナントに納入されていた「インチェントロ」と呼ばれる車両のデザインを、アドトランツを買収したボンバルディアの協力を得て利用している[5]。以降日本では、新潟鐵工所の鉄道車両部門を引き継いだ新潟トランシスによって、「ブレーメン形」の足回りに「インチェントロ」の丸みを帯びた車体を組み合わせた超低床電車の製造が続いている[4]

9700形3次車以後超低床電車の導入が止まっていた熊本市交通局では、2006年(平成18年)に施行されたバリアフリー新法において鉄道車両のバリアフリー化率目標が50パーセントとされたことを受けて超低床電車の増備に着手[6]九州新幹線全線開通(2011年)を見据えてJR熊本駅と都心部の輸送力増強を図る狙いもあり[7]、「0800形」の導入となった。新潟トランシスにて製造が続く「インチェントロ」タイプのデザインの車両を導入するのが有利との判断から9700形ではなく新形式となっている[6]

車体・主要機器

車体

0801AB
九品寺交差点電停・2009年4月)

本形式は「インチェントロ」タイプの車体を持つ2車体2台車式の超低床電車で、パンタグラフのある車両を「A車」、反対側を「B車」と称する[8]。1次車では連結部を除いた車体の長さは8.74メートルで、編成の全長は18.4メートル[8]。車体幅は2.4メートルで、9700形よりもわずかに拡大した[8]。車両の全高(パンタグラフ折りたたみ高さ)は3.745メートル[8]。自重は25.0トンである[9]

車体の塗装はを基調とする[8]。車両先頭部は大型の曲面ガラスと鋼製の大型バンパーからなり、アクセントとなるよう紺色のラインを配する[8]。車体側面は熊本の伝統園芸肥後六花の一つ「肥後椿」をイメージした赤紫色の塗装とされている[8]

車内

レール上面から車内の床面までの高さは通路部分で36センチメートルだが、ドア部分ではさらに下げて30センチメートルとし、電停ホームとの段差を極力小さくしている[8]。客室内の座席配置は車輪を収めるタイヤハウスや主電動機配置の関係から車体中央部をクロスシート(3列)、車端部をロングシートとしている[8]。ドア(有効幅1.25メートル)は片側2か所ずつ計4か所の設置で、位置は左右対称ではなく反対側にはロングシートが配置される[8]。また運転席直後のロングシートは折りたたみ式となっており車椅子スペースも兼ねる[8]

先の9700形では座席数が少ないという乗客からの意見が多数あったことから、本形式ではクロスシートの一部を1人掛けから2人掛けに変更することで座席を全体で6席増やし、座席を24席から30席へ、定員を76人から82人へとそれぞれ増加させた[8]。客室内の配色は、天井・側壁の化粧板が白、座席モケットと床がブラウン[8]

台車・床下機器

台車は各車中央部に1台ずつ、車軸のない左右独立の車輪4輪からなるボルスタレス式ボギー台車を配する[8]。台車・車体間の枕バネおよび車輪・台車間の軸バネはゴムバネを、車輪にはゴムを挟み込んだ弾性車輪をそれぞれ使用することで、振動や騒音の軽減を図っている[8]。従来の新潟トランシス製超低床電車では台車はボンバルディアからの輸入品であったが、新潟トランシスは2007年(平成19年)にボンバルディアより技術供与を受けライセンス生産によって自社生産する体制を整えており[10]、本形式では新潟トランシスが台車を自社製造する[8]。こうして輸入品を主電動機など一部に限定することで製造費の削減を図っている[6]

主電動機は出力100キロワットかご形三相誘導電動機(ボンバルディア製[11]、形式名:BAZu3650/4.6[9])で、台車1台につき1台ずつ搭載[8]。車体床下に装荷されており、駆動力は主電動機から自在継手(ユニバーサルジョイント)、推進軸(スプライン軸)、かさ歯車、2段減速平歯車装置を経て片側の動輪に伝わり、さらに駆動軸(ねじり軸)を介して反対側の動輪に伝達される(車体装荷式直角カルダン軸駆動方式[8]

ブレーキは、主電動機を用いる電気ブレーキ(発電回生併用)があり、これで低速域まで減速[8]。それ以降は機械ブレーキであるバネ作用・油圧緩め式のディスクブレーキ(主電動機出力軸に設置)を用いる[8]。これらの常用ブレーキのほかにも蓄電池駆動の電磁吸着ブレーキ(トラックブレーキ)を保安ブレーキとして備える[8]

屋根上機器

屋根上機器の配置。手前から冷房装置、パンタグラフ、主制御装置(VVVFインバータ)、蓄電池箱、SIV装置、冷房装置の順[8]

床下機器は主電動機や駆動関連機器のみと最小限に留められており、主要な機器は屋根上に配置されている[8]

集電装置はシングルアーム式パンタグラフ(形式名:FB500.80[9])で、A車先頭部寄りに設置[8]。主電動機への供給電力を制御する主制御装置IGBTによるVVVFインバータ制御方式であり(三菱電機[8]、形式名:MAP-102-60VD140[9])、1群のインバータにつき1台の主電動機を制御する(1C1M方式)[8]。設置場所はA車屋根上の連結部寄り[8]

そのほか屋上に配置された機器としては、冷房装置室外機(各車、冷房装置の形式名はCU206SA[9])、蓄電池(B車)、補助電源用SIV装置(B車)がある[8]

その他機器

運転席は中央部にあり、9700形と共通化された右手扱いのワンハンドル式マスター・コントローラーを備える[8]。車体形状の都合で9700形にあったような後方監視用のバックミラーが設置できなくなったため、代用として車外確認用のカメラを設置しており、運転台左右にモニターがある[8]2010年度(平成22年度)になって、他車と同じく常時記録型ドライブレコーダーが新設された[12]

車体前面と側面の行先表示器LED式を用いる[8]

竣工と運行開始

0801AB・0802ABともに、2009年(平成21年)3月19日付で竣工した[13]。導入事業費は合計5億円[14]。同年4月1日のダイヤ改正より営業運転に投入され、改正当日は0801ABが運用に入った[15]

この本形式2編成導入により熊本市電の超低床電車は9700形とあわせて7編成に増加し、予備を除いて6編成が毎日運用に就く体制が可能となった[6]。1時間あたりでは1往復ずつの増便になる計算で、運行本数は2系統(現A系統)では毎時2 - 3本、3系統(現B系統)では毎時1本(朝夕ラッシュ時毎時2本)へと増加した[6]。また本形式導入の代替で、連接車5000形が2編成廃車された[6]

COCORO (0803AB)

熊本市交通局0800形
0803AB「COCORO」
0803AB「COCORO」
(2014年10月)
基本情報
運用者 熊本市交通局
製造所 新潟トランシス
製造年 2014年
製造数 1編成2両
運用開始 2014年10月3日
主要諸元
編成 2両固定編成(2車体連接車)
軌間 1,435 mm
電気方式 直流600 V架空電車線方式
最高運転速度 40 km/h
設計最高速度 70 km/h
編成定員 86人(座席38人)
編成重量 25 t
編成長 18,460 mm
全幅 2,400 mm
全高 3,745 mm
台車 独立車輪式ボルスタレス台車
主電動機 かご形三相誘導電動機
TDK6413-C
主電動機出力 100 kW
搭載数 2基 / 編成
駆動方式 車体装荷式直角カルダン軸駆動方式
歯車比 6.789
制御方式 VVVFインバータ制御方式
制御装置 2レベルPWM制御IGBTインバータ
MAP-102-60VD140
制動装置 回生発電併用電気ブレーキ
油圧式ディスクブレーキ
備考 出典:『鉄道車両と技術』通巻220号『鉄道ピクトリアル』通巻909号
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以下、2014年に導入された2次車(0803AB、愛称「COCORO」)について記述する。

運行開始までの経緯

1次車導入後、熊本市交通局は経営の悪化により2008年度末には資金不足額が55億円に達して資金不足比率が198%を超えるにいたり、地方公共団体の財政の健全化に関する法律に基づいて2009年度から2015年度まで7年間にわたる「経営健全化計画」を策定し、経営の健全化に取り組むこととなった[16]。同計画では、軌道事業(市電)については厳しい経営の中でも魅力を高めるためとして新型超低床車両の導入が盛り込まれた[16]

新型車両のデザインは、熊本市観光文化交流局シティプロモーション課の発案で九州新幹線800系などJR九州の列車デザインで実績がある工業デザイナー水戸岡鋭治に依頼することとなり、同課がデザイン作成費用を、交通局が車体制作費をそれぞれ予算化[16]。さらに車両の導入は当初予定の2013年度(平成25年度)からデザイン作成期間を考慮して2014年度(平成26年度)となり、熊本市電開業90周年の記念事業との位置づけになった[16]2013年(平成25年)4月、熊本市の会合で新型車両は現在運行中の新潟トランシス製車両(0800形の増備)によると決定[16]。同年8月、デザイン作成に関し市シティプロモーション課と水戸岡が代表を務めるドーンデザイン研究所との間に契約が締結された[16]。水戸岡が熊本市交通局の車両デザインに携わったのは先に9700形2・3次車の例がある[3]。また新潟トランシス製超低床車では岡山電気軌道9200形「MOMO」の例がある[16]

2014年(平成26年)3月30日、熊本市現代美術館において、水戸岡や熊本市長の幸山政史(当時)らにより水戸岡のデザイン展(6月より9月まで)の告知とともに新型車両のデザインと愛称が発表された[17]。愛称の「COCORO」(こころ)は、子供から高齢者までさまざまな乗客を迎える「思いやり」や、熊本市を訪れる観光客への「おもてなしの心」を表すという[18]。導入費は約3億1900万円で、通常の車両より3000万円ほど高くなった[19]

車体の製作は同年1月より新潟県にある新潟トランシスの工場で進められ、8月末に完成、9月1日トレーラーに載せられて熊本へと出発した[20]。熊本への到着は9月4日で、大江車庫で線路上に降ろされた後、ほかの車両に牽引されて上熊本の車両工場へ移送された[17]。同工場ではエンブレムの取り付けなど最終調整が実施されている[20]。12日には報道関係者向けの内覧会を開催[20]。熊本市現代美術館(市電沿線、通町筋停留場近くにある)で開催中の水戸岡のデザイン展最終日にあたる15日には試運転を兼ねたサプライズ運行があった[20]。竣工は30日[21]

2014年10月3日午前10時より、大江車庫において「COCORO」の出発式が開催された[20]。テープカットに続く市長や水戸岡ら来賓を乗せた記念列車運転の後、同日午後より営業運転が始まった[20]

車体デザイン

車体の塗装は黒に近いメタリックの濃茶色一色で[22]熊本城の城壁をイメージしたもの[16]。さらに金色のロゴとシンボルマークを車体各所に配することで、在来車両との差異化を図っている[22]。シンボルは3つのハートマークからなり、それぞれ熊本市の都市ブランドコンセプトである「水・緑・情熱」を表すという[22]。またロゴはやさしさを感じられるようにとの狙いで丸みを帯びた形となった[22]

車体前面には、愛嬌のある「どんぐり目玉」をイメージした、少し飛び出した丸いヘッドライトが並ぶ[16]。車体側面には夜間走行時に周囲を走る車両などへ存在を示すためオレンジ色に発光するするLEDの表示灯を片側10個ずつ、計20個設置している[17]。表示灯のメーカーはスイスのEAO[17]

車両の寸法については、連結部を除いた各車の全長が8.77メートル(編成全長は18.46メートル)となり[17]、1次車よりわずかに長くなった。車体幅は2.4メートル、パンタグラフ折りたたみ高さは3.745メートルで[17]、1次車と同一である。

客室デザイン

内装は「森と水の都くまもと」を表現する狙いで可能な限り木材を使用する[22]。その上、2両編成であることからそれぞれの車両で異なった車内空間とするために、明るい車内空間を形成する「メープル材」(B車[23])と、落ち着いた雰囲気を形成する「ウォールナット材」(A車[23])を車両によって使い分けている[17]。木材の使用箇所は床板、座席、吊り輪など[17]。座席にはウレタンを入れた皮製の座布団が取り付けられている[17]

各車中央部のクロスシート部分には、「短い乗車時間でもちょっとした旅行気分を味わえるように」との理由で着脱可能なテーブルが備わる[17]。このテーブルの上にはステンレス板を支えとしてキャンディトレイが載っている[17]。座席配置の見直しにより座席定員は38人となり、全体の定員は1次車の82人から86人に増加した[23]

天井はアルミニウム合金板にメラミン樹脂のエナメル塗装を施したもの[17]。各車両に14個ずつ、合計28個のダウンライトを設置し、側壁にも6個ずつ計12個のLED灯を備えていることから、夜間は車内があかるく、外からは車内の様子が明るく浮かびあがって見えるようになっている[17]

各車車内の前後には停留場や運賃を案内する液晶ディスプレイが設置されている[17]レシップ製で、外国人観光客に対応するため日本語のほか英語韓国語中国語の4か国語に対応する[17]

機器の変更点

機器類では主電動機が東洋電機製造製のかご形三相誘導電動機(形式名「TDK6413-C」[24])へと変更されている[23]。出力は100キロワットのまま[23]。また2012年4月以降の新造VVVFインバータ制御車に設置が義務付けられた運転記録装置を装備する[23]

運用

「COCORO」の運用は独立した固定ダイヤで行われている。2018年4月改正時点では、

  • 平日は、上熊本車庫を出庫してまず上熊本駅前からB系統として健軍町へ向かい、その後A系統として健軍町 - 田崎橋間を6往復する。最後に健軍町からB系統として上熊本駅前へ戻って入庫する。
  • 土曜は、終日B系統に入り上熊本駅前 - 健軍町間を7往復する。
  • 日曜・祝日は、出庫してまず上熊本駅前から辛島町折返しで田崎橋まで運行し、その後A系統として田崎橋 - 健軍町間を6往復する。さらに田崎橋から健軍町まで運行した後、B系統として上熊本駅前へ戻って入庫する。

という運用が組まれている。

車掌の乗務について

本形式は9700形と同様に、運転士の負担軽減のため車掌が乗務する[25]。元は「Lパーサー」(「L」はライトレール (Lightrail) の頭文字をとったもの)という名称であったが、2011年(平成23年)3月の九州新幹線全通にあわせ「トラムガイド」へと改称された[25]。このとき業務に観光案内が追加されている[25]。車掌が乗務するため、前後どちらのドアからも乗降が可能である[26]

脚注

  1. ^ 「熊本市交通局9700形」(『鉄道ピクトリアル』)
  2. ^ 「日本における低床式路面電車の導入について」
  3. ^ a b 「RAILWAY TOPICS 熊本市交通局が9700形超低床車を3月増備 5編成に」
  4. ^ a b 「特集・リトルダンサーと日本の超低床車」19頁
  5. ^ 「新潟鉄工におけるLRTの実現を目指した最近の動き」
  6. ^ a b c d e f 「RAILWAY TOPICS 熊本市電に新型超低床電車0800形が登場」
  7. ^ 「3月から新たに超低床型電車導入 熊本市電」『熊本日日新聞』2008年12月28日朝刊
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae 「熊本市交通局0800形」
  9. ^ a b c d e 「鉄道車両年鑑2009年版」189頁
  10. ^ 「石播系、加社とライセンス契約、新型路面電車を一貫生産」『日本経済新聞』2007年1月17日付朝刊
  11. ^ 『私鉄車両編成表2009』189頁
  12. ^ 「鉄道車両年鑑2011年版」154頁
  13. ^ 「鉄道車両年鑑2009年版」229頁
  14. ^ 「3月から新たに超低床型電車導入 熊本市電」『熊本日日新聞』2008年12月28日朝刊
  15. ^ 「CAR INFO 熊本市交通局0800形」(『鉄道ファン』)
  16. ^ a b c d e f g h i 「熊本市交通局0800型「COCORO」デビュー」13-16頁
  17. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 「熊本市交通局0800型「COCORO」デビュー」16-20頁
  18. ^ 「RAILWAY TOPICS 熊本市電が水戸岡氏デザインのCOCOROを導入」
  19. ^ 「COCOROのスタイルが熊本を変える」
  20. ^ a b c d e f 「熊本市交通局0800型「COCORO」デビュー」20-21頁
  21. ^ 「鉄道車両年鑑2015年版」248頁
  22. ^ a b c d e 「RAILWAY TOPICS 熊本市電「COCORO」」
  23. ^ a b c d e f 「熊本市交通局0800形増備車「COCORO」」
  24. ^ 「鉄道車両年鑑2015年版」217頁
  25. ^ a b c 『路面電車EX』Vol.08 58-59頁
  26. ^ 『路面電車ハンドブック』2018年版175-181

参考文献

雑誌記事

  • 鉄道ピクトリアル』各号
    • 宮崎輝昭「熊本市交通局9700形」『鉄道ピクトリアル』第47巻第10号(通巻643号)、電気車研究会、1997年7月、41-45頁。 
  • 「鉄道車両年鑑」(『鉄道ピクトリアル』臨時増刊号)各号
    • 「鉄道車両年鑑2009年版」『鉄道ピクトリアル』第59巻第10号(通巻825号)、電気車研究会、2009年10月。 
      • 松川和憲「熊本市交通局0800形」『鉄道ピクトリアル』第59巻第10号(通巻825号)、電気車研究会、2009年10月、184-186頁。 
    • 「鉄道車両年鑑2011年版」『鉄道ピクトリアル』第61巻第10号(通巻855号)、電気車研究会、2011年10月。 
    • 「鉄道車両年鑑2015年版」『鉄道ピクトリアル』第65巻第10号(通巻909号)、電気車研究会、2015年10月。 
      • 浜田幸輔「熊本市交通局0800形増備車「COCORO」」『鉄道ピクトリアル』第65巻第10号(通巻909号)、電気車研究会、2015年10月、211-212頁。 
  • 鉄道ジャーナル』各号
    • 「RAILWAY TOPICS 熊本市交通局が9700形超低床車を3月増備 5編成に」『鉄道ジャーナル』第35巻第5号(通巻415号)、鉄道ジャーナル社、2001年5月、91頁。 
    • 「RAILWAY TOPICS 熊本市電に新型超低床電車0800形が登場」『鉄道ジャーナル』第43巻第8号(通巻514号)、鉄道ジャーナル社、2009年8月、135頁。 
    • 「RAILWAY TOPICS 熊本市電が水戸岡氏デザインのCOCOROを導入」『鉄道ジャーナル』第48巻第6号(通巻572号)、鉄道ジャーナル社、2014年6月、112頁。 
    • 「RAILWAY TOPICS 熊本市電「COCORO」」『鉄道ジャーナル』第48巻第12号(通巻578号)、成美堂出版、2014年12月、112頁。 
  • 『鉄道車両と技術』各号
    • 大野真一「日本における低床式路面電車の導入について」『鉄道車両と技術』第5巻第5号(通巻46号)、レールアンドテック出版、1999年5月、28-34頁。 
    • 大野真一「新潟鉄工におけるLRTの実現を目指した最近の動き」『鉄道車両と技術』第8巻第4号(通巻75号)、レールアンドテック出版、2002年7月、38-42頁。 
    • 伊藤達也「熊本市交通局0800型「COCORO」デビュー」『鉄道車両と技術』第20巻第12号(通巻220号)、レールアンドテック出版、2014年12月、13-21頁。 
  • 「CAR INFO 熊本市交通局0800形」『鉄道ファン』第49巻第6号(通巻578号)、交友社、2009年6月、92頁。 
  • 堀切邦生「特集・リトルダンサーと日本の超低床車」『路面電車EX』vol.03、イカロス出版、2014年5月、3-20頁。 
  • 大鶴倫宣「女性運転士・アテンダント奮戦記」『路面電車EX』vol.08、イカロス出版、2017年10月、54-61頁。 
  • 佐藤信博「COCOROのスタイルが熊本を変える」『路面年鑑2015』、イカロス出版、2015年1月、4-7頁。 

書籍

  • ジェー・アール・アール(編)『私鉄車両編成表2009』交通新聞社、2009年。 
  • 日本路面電車同好会『日本の路面電車ハンドブック』 2018年版、日本路面電車同好会、2018年。 

外部リンク