コンテンツにスキップ

「バタフライ効果」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
左脳 (会話 | 投稿記録)
編集の要約なし
(同じ利用者による、間の20版が非表示)
1行目: 1行目:
{{multiple image
{{otheruses||関連作品|#バタフライ効果を扱ったフィクション作品}}<!-- バタフライ・エフェクト(曖昧さ回避 -->
| footer = ブラジルで1匹の蝶がはばたくとテキサスで竜巻が起こるか?
'''バタフライ効果'''(バタフライこうか、{{lang-en-short|butterfly effect}})、'''バタフライ・エフェクト'''とは、初期のわずかな変化が思いがけない方向へ発展してゆくこと<ref>パーソナルカタカナ語辞典【バタフライ効果】</ref>。
| image1 = Satyrinae feeding.jpg
| width1 = 176
| image2 = Nssl0187 - Flickr - NOAA Photo Library.jpg
}}


'''バタフライ効果'''(バタフライこうか、{{lang-en-short|butterfly effect}})とは、[[力学系]]の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の系の状態が大きく異なってしまうという現象{{Sfn|Lorenz|1997|p=210}}。[[カオス理論]]で扱うカオス運動の予測困難性、初期値鋭敏性を意味する標語的、寓意的な表現である{{Sfn|合原・黒崎・高橋|1999|p=230}}{{Sfn|井上|1997|p=49}}。
== 概要 ==
「バタフライ効果」は、[[カオス理論]]においては、極めて小さな差が無視できないほど大きな差を生む現象を指すための用語である。カオスの特徴あるいは定義の1つである'''初期値鋭敏性'''を意味する<ref>{{cite book|和書|author=合原一幸・黒崎政男・高橋純|editor=遠藤諭|title=哲学者クロサキと工学者アイハラの神はカオスに宿りたもう|publisher=アスキー|year=1999|edition=初版 |isbn=4-7561-3133-6|page=230}}</ref>。


[[気象学者]]の[[エドワード・ローレンツ]]による、[[蝶]]がはばたく程度の非常に小さな撹乱でも遠くの場所の[[気象]]に影響を与えるか?という問い掛けと、もしそれが正しければ、観測[[誤差]]を無くすことができない限り、正確な長期予測は根本的に困難になる、という[[数値予報]]の研究から出てきた提言に由来する。
「バタフライ効果」が指す内容を、もう少し具体的に文章で表現したものにはいくつかのバリエーションがあるが(後述)、いずれも、ある場所での[[蝶]]の羽ばたきがそこから離れた場所の将来の[[天気|天候]]に大きな影響を及ぼす、といった内容となっている。


== 意味 ==
普通、人は、自然現象において極めて近似したいくつかの初期状態は、同じ[[時間]]だけ経過すると、似たような過程を経て似たような結果に落ち着くだろう(落ち着くはずだ)、と考えがちである。それゆえ従来、[[科学者|自然科学者]]は、[[実験]]を行う時「微少な[[誤差]]は無視できる」「誤差は小さければ小さいほど影響はより小さい」と考えていた。またかつて自然科学者は、([[力学系]]という考え方でとらえ直した場合に)「[[決定論]]的(すなわち[[微分方程式]]や[[差分方程式]]で記述可能であり、[[ランダム]]ではない)で、かつ、[[無限]]に[[発散]]することなく[[有限]]な範囲で[[運動 (物理学)|運動]]が継続しているような系では、初期値のわずかな差はいくら時間が経過しても[[アトラクター]]上のわずかな[[位置]]の違いとして維持される(または小さくなる)(はずだ)」などとしばしば考える(考える傾向がある)。
[[File:Logistic map example of butterfly effect.png|thumb|250px|[[ロジスティック写像]]における初期値鋭敏性(バタフライ効果)の例。変数''x''は、[[差分方程式]]''x''<sub>''n''+1</sub> = 4 ''x<sub>n</sub>''(1 - ''x<sub>n</sub>'')に従い、離散時間''n''の増加に従って変化する。''n'' = 0における初期値''x''<sub>0</sub>は、赤は0.7で、青は0.7 + 0.00001。初めはほとんど同じ軌道だが、わずか15ステップ辺りから全く別の軌道になっていく。]]


[[自然現象]]は、[[時間]]の経過に従ってその状態を変える。[[ニュートン力学]]では、そのような自然現象の変化の法則、すなわち物体の運動の法則を発見し、将来の状態を予測する方法を確立させていった{{Sfn|井上|1997|p=9}}。このニュートン力学に代表されるように、ある状態の次の状態が確定した法則に従って一意に決まるという考え方は、[[決定論]]という呼び方で知られている{{Sfn|Grebogi/Yorke|1999|pp=50-51}}。[[量子力学]]の登場によりミクロのスケールでは運動の状態は確率的に決定されることが明らかとなったが、日常的に目にするようなマクロのスケールでは、多くの現象がニュートン力学に従っている{{Sfn|エイブラハム・ウエダ|2002|p=2}}。このような決定論的・ニュートン力学的法則に基づく物理法則から将来の状態を予測するには、その系の初期状態(初期値)が先ず必要となる。思考実験の1つである[[ラプラスの悪魔]]は、完全無欠な初期状態を得て、そこから過去と未来の全ての正確な状態を予測するが、現実には完全に正確な初期状態を知ることはできない{{Sfn|Grebogi/Yorke|1999|p=51}}。そのような場合においても、[[自然科学]]の研究では、真の初期状態との違いがわずかであれば最終状態においてもわずかな違いしか生まれないだろうと、しばし仮定されてきた{{Sfn|Grebogi/Yorke|1999|p=51}}。しかし[[カオス理論]]の発見により、決定論的・ニュートン力学的法則に従うような系でも初期値のわずかな差が時間経過と共に指数関数的に大きくなっていき、将来の状態に無視できない大きな差が生まれる現象があることが明らかになった{{Sfn|井上|1997|p=47}}{{Sfn|エイブラハム・ウエダ|2002|p=2}}。
ところが、決定論的で有限な系の中にも、[[アトラクター]]が複雑で、初期値の小さな差が大きな差へと拡大するような系が存在することが判明したのである。このような系は、その研究者によって「カオス」(あるいは「カオス系」)と呼ばれるようになり、そしてカオス系のアトラクターは「[[アトラクター|ストレンジアトラクター]]」と呼ばれるようになった。カオス系に関する研究成果は[[カオス理論]]としてまとめられ、物理学や数学の一分野となっている。


ニュートン力学のように、時間経過とともにその状態が変化し、その変化の法則が決定論のような一定法則で与えられ、初期状態が決まればその後の状態も一意に決定されるような[[システム]]、あるいは、そのようなシステムを扱う数学分野を[[力学系]]と呼ぶ{{Sfn|井上|1997|p=29}}。カオス理論は、この力学系の一分野である。'''バタフライ効果'''とは、[[非線形性]]を持つ力学系において、初期状態に存在する極めて小さな差が無視できないほど大きな差を生む現象を指す用語で、カオス理論の用語の1つである'''初期値鋭敏性'''を意味する{{Sfn|エイブラハム・ウエダ|2002|p=165}}{{Sfn|合原・黒崎・高橋|1999|p=230}}。初期値鋭敏性は、カオス理論で'''カオス'''と呼ばれる現象の特徴、あるいは定義の1つでもある{{Sfn|エイブラハム・ウエダ|2002|p=2}}。大気運動などは非線形な力学系方程式に従い、なおかつ初期値鋭敏性を有すると考えられている{{Sfn|天気予報技術研究会|2009|p=42}}。初期値鋭敏性すなわちバタフライ効果を有するかは、[[リアプノフ指数]]が正の値を取るかなどで定量評価される{{Sfn|合原・黒崎・高橋|1999|p=230}}。
カオス系においては、誤差が時間と共に有意な差へと拡大するため、長時間経過した後では無視することができない。また、ストレンジアトラクターは[[解析解]]が得られず[[数値解析]]によって得るしかないが、数値解析では誤差を避けることができないため、長期の予測は事実上不可能である。


実在する自然現象に対して力学系の[[計算モデル]]を構築して将来の状態を予測するには初期値をモデルに与える必要がある。しかし、実際の予測では予測対象物の観測によって初期値を得るが、この際の観測誤差を無くすことはできない{{Sfn|井上|1997|p=48}}{{Sfn|天気予報技術研究会|2009|pp=225-226}}。一方、予測のための計算モデルが初期値鋭敏性を有する場合、初期値の極めて小さな差も指数関数的に増大していく。したがって、計算モデルから将来の状態を予測しようとしても、短期間の内ならばある程度の精度で予測可能でも長期間後の状態の予測は近似的にも不可能となる<ref name="船越2008_11">{{cite book|和書|author=船越満明|title=カオス|series=シリーズ 非線形科学入門3|publisher=朝倉書店|year=2008|edition=初版 isbn=978-4-254-11613-7|page=11}}</ref><ref name="合原2011_9">{{cite book|和書|title=カオス時系列解析の基礎と応用|editor=合原一幸|author=池口徹・山田泰司・小室元政|publisher=産業図書|year=2011|edition=第4刷 |isbn= 978-4-7828-1010-1|page=9}}</ref>。このような性質は'''長期予測不能性'''<ref name="合原2011_9"/>や'''予測不可能性'''<ref name="船越2008_11"/>などとも呼ばれる。このような初期値鋭敏性の帰結である長期予測不能性の存在も、バタフライ効果が意味するものである{{Sfn|Grebogi/Yorke|1999|p=181}}{{Sfn|井上|1997|p=49}}。
バタフライ効果とは、「カオスな系では、初期条件のわずかな差が、結果に大きな違いをもたらす。結果は実際上予測不可能」ということである。

== 研究史 ==
1961年に[[エドワード・ローレンツ]]が計算機上で[[数値予報|数値計算によって天気予測を行う]]プログラムを実行していた時のこと、最初ローレンツはある入力値を「0.506127」とした上で天気予測プログラムを実行し予想される天気を得た。次に、彼はもう一度同じ計算結果を得ようとし、(小さな差異は無視できる、と信じて)「0.506」と入力し、同じプログラムを実行した。ところが、2度目の実行では(彼が想定していたのとは異なり)予測される天気の展開は、一回目の計算とまったく異なったものになっていた<ref>Nancy Mathis, ''Storm Warning: The Story of a Killer Tornado.'' , ISBN 978-0-7432-8053-2</ref>。


== 表現の由来 ==
== 表現の由来 ==
バタフライ効果(butterfly effect)という表現は、気象学者の[[エドワード・ローレンツ]]が1972年に[[アメリカ科学振興協会]]で行った講演のタイトル"''Predictability: Does the Flap of a Butterfly's Wings in Brazil Set Off a Tornado in Texas?''"(予測可能性:[[ブラジル]]で1匹の[[蝶]]がはばたくと[[テキサス]]で[[竜巻]]が起こるか?)<ref name="Lorenz1972">{{Cite web |author = Edward N. Lorenz |year = 1972 |title = Predictability: Does the Flap of a Butterfly's Wings in Brazil Set Off a Tornado in Texas? |work= EDWARD NORTON LORENZ PUBLICATIONS |url = http://eaps4.mit.edu/research/Lorenz/publications.htm |format = pdf |accessdate=2014-12-28 }}</ref>に由来すると考えられている{{Sfn|Lorenz|1997|p=12}}{{Sfn|エイブラハム・ウエダ|2002|p=85}}。ローレンツによると、ローレンツ自身は初期値鋭敏性の象徴として元々は[[カモメ]]を使っていたが、この学会の主催者で気象学者のフィリップ・メリリースが[[蝶]]に変更したことで、この講演タイトルとなった{{Sfn|Lorenz|1997|p=13}}。蝶の方が儚げで弱そうなものに見えるので、大きなものを生み出し得る小さなものの象徴に最適と判断したのだろうと、ローレンツはこの変更理由を推測している{{Sfn|Lorenz|1997|p=13}}{{#tag:ref|[[レイ・ブラッドベリ]]による1952年の短編小説『雷のような音』でも、1匹の蝶によって歴史が大きく変化するという[[プロット (物語)|プロット]]が有るが、ローレンツが聞いてみたところによるとメリリースはこの小説については知らなかった{{Sfn|Lorenz|1997|p=13}}。|group="†"}}。
[[ファイル:TwoLorenzOrbits.jpg|thumb|250px|初期値がわずかに異なる二つの[[ローレンツ方程式]]の軌跡が、しだいにずれてゆくことを示した図]]
[[Image:Sensitive-dependency.svg|thumb|250px|初期値がわずかに異なると異なった道筋をたどって展開してゆく例]]
「butterfly effect」という簡潔な表現自体は[[エドワード・ローレンツ]]が1972年に[[アメリカ科学振興協会]]でおこなった講演のタイトル『予測可能性-ブラジルでの蝶の羽ばたきはテキサスでトルネードを引き起こすか』に由来する。ローレンツによると、この講演のタイトルは学会の主催者で気象学者の[[フィリップ・メリリース]]が付けたものだという<ref>{{cite book|和書
|author=E. N Lorenz|translator =杉山勝・杉山智子|title=ローレンツ カオスのエッセンス|publisher=共立出版|year=1997|edition=初版|isbn=4-320-00895-2|page=13}}</ref>。
またローレンツ自身は、1963年にニューヨーク科学アカデミーで自分の発見を掲載した中で「ある気象学者は、この説が正しいとすると、[[カモメ]]のたった1回の羽ばたきが気候の成り行きを未来永劫変えうることに気付いた」と書いている。


バタフライ効果という言葉が一般的に引用されるとき、ローレンツの講演タイトルのような形で説明を付けることが多いが、説明に出てくる地名と発生する現象には様々な違いが見られる。ベストセラーとなった1987年のジェイムズ・グリック([[:en:James Gleick|James Gleick]])の著書"Chaos: Making a New Science"(邦題:カオス―新しい科学をつくる)では{{Sfn|Lorenz|1997|p=2}}、「今日の[[北京]]の1匹の蝶のはばたきが、翌月に[[ニューヨーク]]で嵐を起こす」という形で説明されており{{Sfn|Gleick|1994|p=8}}、元の講演タイトルと比較すると「ブラジル」が「北京」に、「テキサス」が「ニューヨーク」に変わっている。[[ポピュラーカルチャー]]での例としては、1990年の映画『[[ハバナ (映画)|ハバナ]]』で[[ロバート・レッドフォード]]演じる主人公が「1匹の蝶が[[中国]]ではばたけば、[[カリブ]]で[[ハリケーン]]を起こす」というセリフを[[レナ・オリン]]演じるヒロインに話すシーンがあり<ref name="Boston Globe">{{Cite web |url=http://www.boston.com/bostonglobe/ideas/articles/2008/06/08/the_meaning_of_the_butterfly/?page=full |title=The meaning of the butterfly: Why pop culture loves the 'butterfly effect,' and gets it totally wrong |work=The Boston Globe |accessdate=2014-12-29 |author=Peter Dizikes |date=2008-06-08 |publisher= Globe Newspaper Company}}</ref>、「ブラジル」が「中国」に、「テキサス」が「カリブ」に、「嵐」が「ハリケーン」に変わっている。
他にも「[[北京市|北京]]で蝶が羽ばたくと、[[ニューヨーク]]で嵐が起こる」や、「アマゾンを舞う1匹の蝶の羽ばたきが、遠く離れたシカゴに大雨を降らせる」という表現が使われることもある。


[[File:Lorenz system r28 s10 b2-6666.png|thumb|220px|ローレンツ・アトラクタ]]
もちろんこれは、ブラジルでの蝶の羽ばたきというごく小さい要素であっても、テキサスでトルネードが起きるという気候変動に大きく影響を与える可能性があるという事を表しているのである。ブラジルの蝶の羽ばたきを観測すれば、テキサスの天気が予報可能であるという話ではない。端的に言えば、(自然界では)小さな要素でも未来に大きな影響を与える以上、確かな未来予測は実際上不可能という事である。


一方、上記の講演からではなく、ローレンツがこの講演以前に研究・発表した、[[ローレンツ方程式]]と呼ばれる次の3連立非線形常微分方程式が生み出す[[ストレンジアトラクター]]の形状に由来するという考えもある {{Sfn|Lorenz|1997|p=12}}。
== バタフライ効果が現れる(現れることがある)例 ==
:<math>\frac{dx}{dt} = -px+py</math>
* [[天気]]、[[気象]]。[[気温]]・[[風]]・[[波]]などの状態・変化。
:<math>\frac{dy}{dt} = -xz+rx-y</math>
* 道路(交通)における自動車の自然[[渋滞]]
:<math>\frac{dz}{dt} = xy-bz</math>
* [[株価]]の値動き{{要出典|date=2013年12月}}
ここで、ローレンツ方程式のパラメータを、''p'' = 10、''r'' = 28、''b'' = 8/3として与えて数値計算で軌道を計算すると、ストレンジアトラクタと呼ばれる3次元の解軌道が描かれる。これらのパラメータにより生み出されるストレンジアトラクタは、ローレンツの名を冠して'''ローレンツ・アトラクタ'''と呼ばれ<ref name="カオス力学の基礎_9">{{Cite book |和書 |author=早間慧 |title=カオス力学の基礎 |year=2002 |edition=改訂2版 |publisher=現代数学社 |isbn =4-7687-0282-1 |page =9}}</ref>、その軌道はちょうど蝶が羽を開いたような形をしている{{#tag:ref|「[[フクロウ]]の顔」{{Sfn|Gleick|1994|p=29}}、「フクロウの目」<ref name="カオス力学の基礎_9"/>に似ているとも形容される。|group="†"}}。このため、バタフライ効果の語源となったかは不明だが、このストレンジアトラクタのことは'''ローレンツ・バタフライ'''とも呼ばれる{{Sfn|エイブラハム・ウエダ|2002|p=158}}{{Sfn|Lorenz|1997|p=12}}。ローレンツ自身もどちらが語源であったかは確証していないが、ストレンジアトラクタの形状に由来する可能性について「私が話を交わした大勢の人たちは、バタフライ効果という名がこのアトラクタにちなんでつけられたものと思っていた。あるいはそういうことだったかもしれない」と述べている{{Sfn|Lorenz|1997|p=12}}。

== 歴史 ==
今日の「バタフライ効果」が意味する初期値鋭敏性や予測不可能性の存在についての学術的な議論は、ローレンツ以前にも、[[アンリ・ポアンカレ]]などにより行われてきた{{Sfn|合原・黒崎・高橋|1999|p=41}}{{Sfn|Lorenz|1997|p=117}}。これについては[[カオス理論#研究史]]なども参照のこと。以下では、ローレンツの研究を中心に「バタフライ効果」という用語が広まるまでの経緯を説明する。

1961年に[[エドワード・ローレンツ]]が計算機上で[[数値予報]]プログラムを実行していた時のこと、最初ローレンツはある入力値を「0.506127」とした上で天気予測プログラムを実行し、予想される天気のパターンを得た{{Sfn|Gleick|1994|p=16}}。このときのコンピュータのアウトプットは、スペースの節約から、入力値が[[四捨五入]]された「0.506」までしか打ち出されないものであった{{Sfn|Gleick|1994|p=16}}。ローレンツは、もう一度同じ計算をさせるため、特に気に留めずに、打ち出された方の値「0.506」を入力して計算を開始させた{{Sfn|Lorenz|1997|p=134}}{{Sfn|Gleick|1994|p=16}}。計算が終えるまでコーヒーを飲みに行き、しばらく後に戻って2度目の計算結果をすると、予測される天気のパターンは一回目の計算とまったく異なったものになっていた{{Sfn|Lorenz|1997|p=134}}。ローレンツはコンピュータが壊れたと最初は考えたが{{#tag:ref|当時のコンピュータは[[真空管式コンピュータ一覧|真空管式]]のため壊れやすい{{Sfn|合原・黒崎・高橋|1999|p=42}}。|group="†"}}、データを調べていく内に入力値のわずかな差によるものだと気づいた{{Sfn|Lorenz|1997|p=134}}{{#tag:ref|この場合の入力値の[[誤差]]は、(0.506127 - 0.506) / 0.506127 × 100 = 約0.025%|group="†"}}。この結果から、もし本物の大気もこの計算モデルのような振る舞いを起こすものならば、大気の状態値の観測誤差などが存在する限り気象の長期予想は不可能になることを思い付き、初期値鋭敏性と長期予測不能性のアイデアを持つようになる{{Sfn|Lorenz|1997|p=135}}。

上記の計算結果は12変数の方程式の数値予報モデルにより得られたものだったが{{Sfn|Lorenz|1997|p=131}}、さらに変数を減らした単純なモデルでも、初期値鋭敏性とそれを強く関連すると考えられる非周期性の解が有するものがあるかについて、ローレンツは研究を続けた{{Sfn|Lorenz|1997|p=136}}。ある日、気象学者のバリー・ザルツマンに、非周期性の解を示す7変数方程式からなる[[大気循環]]モデルによる研究を紹介され、ローレンツは、このモデルを3変数まで減らしても同様な非周期性を示す可能性に気づく{{Sfn|Lorenz|1997|p=136}}。ザルツマンに自身の考えを伝えた上で3変数でのモデルの研究を進め、このモデルから単純な方程式の系でも初期値鋭敏性、非周期性を例証できることを確信すると、成果をまとめ、1963年に論文"''Deterministic Nonperiodic Flow''"(決定論的な非周期な流れ)を[[アメリカ気象学会]]へ投稿した{{Sfn|Lorenz|1997|p=138}}。この論文中で示された3変数モデルは、前述で説明した、今日ではローレンツ方程式と呼ばれるものである{{Sfn|Lorenz|1997|p=186}}。この研究成果は初めはほとんど注目もなかったが{{Sfn|合原・黒崎・高橋|1999|p=43}}{{Sfn|Lorenz|1997|p=144}}、その後の1970年代後半に起きるカオス理論の隆盛とともに再評価され{{Sfn|エイブラハム・ウエダ|2002|p=170}}、現在は最初期におけるカオス発見の1つに数えられている{{Sfn|エイブラハム・ウエダ|2002|p=78}}。1963年に出された予測可能性に関する別の論文では、論文の結びで「理論が正しければ、1羽の[[カモメ]]の1回のはばたきは気象現象の将来を永遠に変えるに十分となることを、一人の気象学者は述べた。論議はまだ決着していないが、近年の多くの証拠はカモメの方を支持しているように思われる」と述べており<ref>{{Cite journal |author = Edward N. Lorenz |month=February |year = 1963 |title = The predictability of hydrodynamic flow. |journal= Transactions of the New York Academy of Sciences |url = http://eaps4.mit.edu/research/Lorenz/publications.htm |format = pdf |volume=25 |issue=4 |pages=409-432}}</ref>、後の講演タイトルに類似した表現も既に存在する。

アイデアをもっと広めるべきだという同僚の説得もあり、ローレンツは1972年に[[アメリカ科学振興協会]]で、名称の由来となったとされる前述の講演を行う<ref name="MIT News"/>。カモメから蝶へ変わった理由は[[#表現の由来]]で説明した通りである。さらに、カオス理論を一般大衆向けにも広めた、前述の1987年のグリックのベストセラーの中でも「バタフライ効果」という名前の1つの章が割り当てられ、ローレンツの業績と「バタフライ効果」という用語が世に広まっていった{{Sfn|Lorenz|1997|p=12}}<ref name="MIT News">{{Cite web |url=http://www.technologyreview.com/article/422809/when-the-butterfly-effect-took-flight/ |title=When the Butterfly Effect Took Flight |work=MIT News |accessdate=2014-12-30 |author=Peter Dizikes |date=2011-02-22 |publisher= MIT Technology Review}}</ref>。

==気象予報における例==
[[File:WRF rita spread2.jpg|thumb|270px|[[ハリケーン・リタ]]の進路予測の計算例。下側がアンサンブル予測の例。]]
バタフライ効果の語源となったとされる講演で、「ブラジルで1匹の蝶がはばたくとテキサスで竜巻が起こる」という現象が本当に起こるかどうかについての直接の答えは、ローレンツ自身も示していない<ref name="Lorenz1972"/>。講演の最後に「[[大気]]の不安定性について我々は確信を深めつつあるが、最初の問い掛けには、あともう数年は答えないままにしておくしかないだろう。」と述べた上で、「一方、今日の天気予報の誤りを、気象パターンの微小な構造のせいにするようなことはできない。もっと大まかな構造ですら不完全にしか観測できないこと、関連する物理的原理について未だに不完全な知識しか持ち合わせていないこと、それらの原理を人間やコンピュータが予報に使うために定式化の際にどうしても近似が必要になること、これらが予報の誤りの主原因である。これらの欠陥を完全に取り除くことはできないが、観測システムの拡張や研究の強化によって大幅な改善はできるだろう。」と、バタフライ効果の有る無しの結論以前に予報精度向上のためにすべき点に触れて、ローレンツは講演を締めくくっている<ref name="Lorenz1972"/>。

問い掛け自体への否定的な回答の例としては、科学ジャーナリストのブライアン・クレッグ([[:en:Brian Clegg (writer)|Brian Clegg]])は、著書"Dice World: Science and Life in a Random Universe"(邦題:世界はデタラメ―ランダム宇宙の科学と生活)で、蝶のはばたきの影響は小さ過ぎて実際のところ減衰してしまうだろうと考えられる点、竜巻は局所的な気象配置が支配的である点などを根拠にして、バタフライ効果の基本的考え方は正当としつつも、「ローレンツの質問への答えはノーである。」と述べている<ref>{{cite book|和書|translator = 竹内薫|author=ブライアン・クレッグ|title=世界はデタラメ―ランダム宇宙の科学と生活|publisher=NTT出版|year=2014|edition=初版|isbn=978-4-7571-6060-6|page=103}}</ref>。ローレンツも講演中で、否定的な材料として、ブラジルとテキサスでは[[地球の半球]]位置が違うため大気の性質が相当異なっているので影響は[[赤道]]を越えられない可能性や、[[乱流]]状態の大気中では影響は広がるが穏やかな大気中では影響は広がらない可能性などを挙げている{{Sfn|エイブラハム・ウエダ|2002|pp=87-88}}。

一方、「ブラジルで1匹の蝶がはばたくとテキサスで竜巻が起こす」かどうかの正否は別にして、バタフライ効果が原因となり長期予測の精度が低下することは現代の[[気象予報]]上の問題点として認識されている{{Sfn|天気予報技術研究会|2009|p=226}}<ref name="山崎孝治">{{Cite web |url=http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/people/yamazaki/papers/etc2001.html |title=長期予報はなぜ当たらないか|author=山崎孝治 |work=平成17 年度公開講座 《地球環境の何故?に答える最新の研究》|accessdate=2015-01-11}}</ref><ref>{{Cite web |url=http://www.nhk.or.jp/sonae/column/20121115.html |title=コンピューターによる天気の長期予報|author=木本昌秀 |work=NHK そなえる防災 |accessdate=2015-01-11|publisher=NHK}}</ref>{{#tag:ref|反対意見として、ライターで数学者のデイヴィット・オレル([[:en:David Orrell|David Orrell]])による、気象予測の精度が低い原因は、計算モデルが現実の気象現象を正確にモデリングできていないことによる影響が大きく、バタフライ効果による影響は小さいとする研究成果・意見もある<ref>{{cite book|和書|translator = 太田直子ほか|author=デイヴィット・オレル|title=明日をどこまで計算できるか? ―「予測する科学」の歴史と可能性|publisher=早川書房|year=2010|edition=初版|isbn=978-4-15-209105-5|pages=176-185}}</ref><ref>{{Cite web |url=http://www.abc.net.au/science/articles/2002/03/18/436385.htm |title=No More Butterfly Effect |accessdate=2015-01-30|author=Karl S. Kruszelnicki|date=2002-03-18|work=News in Science (ABC Science)|publisher=Australian Broadcasting Corporation}}</ref>。|group="†"}}。バタフライ効果による長期予測精度の低下のため、詳細な予報を行える期間は2週間程度が限界と言われている<ref name="山崎孝治"/><ref>{{cite book|和書 |translator = 堤之智 |author=John D. Cox |title=嵐の正体にせまった科学者たち―気象予報が現代のかたちになるまで |publisher=丸善出版 |year=2013 |edition=初版|isbn=978-4-621-08749-7 |page=353}}</ref>。この点を少しでも克服するため、初期値を意図的にわずかに変えた計算を複数行い、それらの計算結果の平均を採用することで精度を高める[[アンサンブル予報]]という手法も開発された{{Sfn|天気予報技術研究会|2009|pp=7-8}}。日本の[[気象庁]]では、2015年現在、5日先までの台風予報、1週間先までの天気予報、それより長期の天候予測でアンサンブル予報を採用している<ref>{{Cite web |url=http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/1-3-8.html |title=知識・解説 アンサンブル予報 |accessdate=2015-01-11|publisher=気象庁}}</ref>。


== バタフライ効果を扱ったフィクション作品 ==
== バタフライ効果を扱ったフィクション作品 ==
ローレンツの研究、バタフライ効果という用語が与えられる以前からも、バタフライ効果が意味する初期鋭敏性、すなわち非常に小さな事象が[[因果関係]]の末に大きな結果につながるという考え方は、フィクション作品の中で多く見られる。グリックは著作の中で、そのような古い例として、童謡[[マザー・グース]]の『釘がないので』を挙げている{{Sfn|Gleick|1994|p=23}}。ローレンツ自身も、講演以前の作品として、ジョージ・リッピー・スチュアート([[:en:George R. Stewart|George R. Stewart]])による1941年の小説『嵐』や[[レイ・ブラッドベリ]]による1952年の短編小説『雷のような音』で、バタフライ効果を意味するようなセリフやストーリーが有ることを例として挙げている{{Sfn|Lorenz|1997|pp=12-13}}。ジャーナリストのピーター・ディザイクス(Peter Dizikes)は、[[ボストン・グローブ]]のコラムで、[[ポピュラーカルチャー]]の中では、バタフライ効果という用語が「歴史や運命を決定する一見些細な出来事や、[[因果関係]]の繰り返しの果てに人生の行き先や世界経済にまで影響を与える最初のきっかけが存在することの意味する[[メタファー]]」として愛されていると述べている<ref name="Boston Globe"/>。

一方、ディザイクスは、前述のコラム、[[マサチューセッツ工科大学]]のニュースマガジンの中で、ポピュラーカルチャーでのバタフライ効果の引用のされ方を見ると、この言葉が示すところの一側面しか理解されていない虞を指摘している<ref name="Boston Globe"/><ref name="MIT News"/>。ボストン・グローブのコラムでは、仮に蝶のはばたきが連鎖の果てに嵐を起こすとしても、そのような小さな撹乱でも嵐が起きるような場合に何が嵐を起こしたのかをそもそも特定することができるのか?という、ローレンツの仕事が示した「原因と結果」というものを考えるときの新たな視点が伝わらない可能性について懸念を示している<ref name="Boston Globe"/>。


*『[[サウンド・オブ・サンダー]]』 - [[レイ・ブラッドベリ]]による[[1952年]]の短編小説およびそれを原作とする[[2005年]]の映画。
*『[[サウンド・オブ・サンダー]]』 - [[レイ・ブラッドベリ]]による[[1952年]]の短編小説およびそれを原作とする[[2005年]]の映画。
*『[[ジュラシック・パーク]]』 - 小説および映画。(映画は1993年)マルコム博士が[[カオス理論]]を説明する場面でバタフライ効果に言及。
*『[[ジュラシック・パーク]]』 - 小説および映画。(映画は1993年)マルコム博士が[[カオス理論]]を説明する場面でバタフライ効果に言及。
55行目: 75行目:
*『バタフライエフェクト』- [[私立恵比寿中学]]の楽曲 2014年6月4日発売
*『バタフライエフェクト』- [[私立恵比寿中学]]の楽曲 2014年6月4日発売


== 出典 ==
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
<references />
{{Reflist|group=†}}

=== 出典 ===
{{Reflist|2}}

== 参考文献 ==
*{{cite book ja-jp
|author=E. N Lorenz
|translator =杉山勝・杉山智子
|title=ローレンツ カオスのエッセンス
|publisher=共立出版
|year=1997
|edition=初版
|isbn=4-320-00895-2
|ref= {{Sfnref|Lorenz|1997}}
}}
*{{cite book ja-jp
|title=カオスはこうして発見された
|editor=ラルフ・エイブラハム、ヨシスケ・ウエダ
|translator =稲垣耕作・赤松則男
|publisher=共立出版
|year=2002
|edition=初版
|isbn= 4-320-03418-X
|ref= {{Sfnref|エイブラハム・ウエダ|2002}}
}}
*{{cite book ja-jp
|author=合原一幸・黒崎政男・高橋純
|title=哲学者クロサキと工学者アイハラの神はカオスに宿りたもう
|publisher=アスキー
|year=1999
|edition=初版
|isbn=4-7561-3133-6
|ref={{Sfnref|合原・黒崎・高橋|1999}}
}}
*{{cite book ja-jp
|editor=天気予報技術研究会
|title=気象予報士のための最新天気予報用語集
|publisher=東京堂出版
|year=2009
|edition=初版
|isbn=978-4-490-10775-3
|ref={{Sfnref|天気予報技術研究会|2009}}
}}
*{{Cite book ja-jp
|author=井上政義
|title=やさしくわかるカオスと複雑系の科学
|year=1997
|edition=初版
|publisher=日本実業出版社
|isbn =4-53402492-4
|ref ={{Sfnref|井上|1997}}
}}
*{{cite book ja-jp
|title=カオス・インパクト―カオスは自然科学と社会科学に何をもたらしたか
|editor=Celso Grebogi, James A. Yorke
|translator =香田徹ほか
|publisher=森北出版
|year=1999
|edition=第1版
|isbn= 4-627-21321-2
|ref= {{Sfnref|Grebogi/Yorke|1999}}
}}
*{{Cite book
|author=James Gleick
|title=Chaos: Making a New Science
|year=2008
|edition=20
|publisher=Penguin Books
|isbn =978-0-14-311345-4
|ref ={{Sfnref|Gleick|1994}}
}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
*[[カオス理論]]
*[[複雑系]]
*[[複雑系]]
*[[非線形科学]]
*[[非線形科学]]
*[[風が吹けば桶屋が儲かる]]
*[[風が吹けば桶屋が儲かる]]

*[[経路依存性]]
== 外部リンク ==
*{{Spedia|Butterfly_effect|Butterfly effect}}


{{DEFAULTSORT:はたふらいこうか}}
{{DEFAULTSORT:はたふらいこうか}}
[[Category:複雑系]]
[[Category:因果]]
[[Category:カオス理論]]
[[Category:カオス理論]]
[[Category:物理現象]]
[[Category:物理現象]]
[[Category:に関する記事]]
[[Category:気象学]]

2015年1月30日 (金) 15:02時点における版

ブラジルで1匹の蝶がはばたくとテキサスで竜巻が起こるか?

バタフライ効果(バタフライこうか、: butterfly effect)とは、力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の系の状態が大きく異なってしまうという現象[1]カオス理論で扱うカオス運動の予測困難性、初期値鋭敏性を意味する標語的、寓意的な表現である[2][3]

気象学者エドワード・ローレンツによる、がはばたく程度の非常に小さな撹乱でも遠くの場所の気象に影響を与えるか?という問い掛けと、もしそれが正しければ、観測誤差を無くすことができない限り、正確な長期予測は根本的に困難になる、という数値予報の研究から出てきた提言に由来する。

意味

ロジスティック写像における初期値鋭敏性(バタフライ効果)の例。変数xは、差分方程式xn+1 = 4 xn(1 - xn)に従い、離散時間nの増加に従って変化する。n = 0における初期値x0は、赤は0.7で、青は0.7 + 0.00001。初めはほとんど同じ軌道だが、わずか15ステップ辺りから全く別の軌道になっていく。

自然現象は、時間の経過に従ってその状態を変える。ニュートン力学では、そのような自然現象の変化の法則、すなわち物体の運動の法則を発見し、将来の状態を予測する方法を確立させていった[4]。このニュートン力学に代表されるように、ある状態の次の状態が確定した法則に従って一意に決まるという考え方は、決定論という呼び方で知られている[5]量子力学の登場によりミクロのスケールでは運動の状態は確率的に決定されることが明らかとなったが、日常的に目にするようなマクロのスケールでは、多くの現象がニュートン力学に従っている[6]。このような決定論的・ニュートン力学的法則に基づく物理法則から将来の状態を予測するには、その系の初期状態(初期値)が先ず必要となる。思考実験の1つであるラプラスの悪魔は、完全無欠な初期状態を得て、そこから過去と未来の全ての正確な状態を予測するが、現実には完全に正確な初期状態を知ることはできない[7]。そのような場合においても、自然科学の研究では、真の初期状態との違いがわずかであれば最終状態においてもわずかな違いしか生まれないだろうと、しばし仮定されてきた[7]。しかしカオス理論の発見により、決定論的・ニュートン力学的法則に従うような系でも初期値のわずかな差が時間経過と共に指数関数的に大きくなっていき、将来の状態に無視できない大きな差が生まれる現象があることが明らかになった[8][6]

ニュートン力学のように、時間経過とともにその状態が変化し、その変化の法則が決定論のような一定法則で与えられ、初期状態が決まればその後の状態も一意に決定されるようなシステム、あるいは、そのようなシステムを扱う数学分野を力学系と呼ぶ[9]。カオス理論は、この力学系の一分野である。バタフライ効果とは、非線形性を持つ力学系において、初期状態に存在する極めて小さな差が無視できないほど大きな差を生む現象を指す用語で、カオス理論の用語の1つである初期値鋭敏性を意味する[10][2]。初期値鋭敏性は、カオス理論でカオスと呼ばれる現象の特徴、あるいは定義の1つでもある[6]。大気運動などは非線形な力学系方程式に従い、なおかつ初期値鋭敏性を有すると考えられている[11]。初期値鋭敏性すなわちバタフライ効果を有するかは、リアプノフ指数が正の値を取るかなどで定量評価される[2]

実在する自然現象に対して力学系の計算モデルを構築して将来の状態を予測するには初期値をモデルに与える必要がある。しかし、実際の予測では予測対象物の観測によって初期値を得るが、この際の観測誤差を無くすことはできない[12][13]。一方、予測のための計算モデルが初期値鋭敏性を有する場合、初期値の極めて小さな差も指数関数的に増大していく。したがって、計算モデルから将来の状態を予測しようとしても、短期間の内ならばある程度の精度で予測可能でも長期間後の状態の予測は近似的にも不可能となる[14][15]。このような性質は長期予測不能性[15]予測不可能性[14]などとも呼ばれる。このような初期値鋭敏性の帰結である長期予測不能性の存在も、バタフライ効果が意味するものである[16][3]

表現の由来

バタフライ効果(butterfly effect)という表現は、気象学者のエドワード・ローレンツが1972年にアメリカ科学振興協会で行った講演のタイトル"Predictability: Does the Flap of a Butterfly's Wings in Brazil Set Off a Tornado in Texas?"(予測可能性:ブラジルで1匹のがはばたくとテキサス竜巻が起こるか?)[17]に由来すると考えられている[18][19]。ローレンツによると、ローレンツ自身は初期値鋭敏性の象徴として元々はカモメを使っていたが、この学会の主催者で気象学者のフィリップ・メリリースがに変更したことで、この講演タイトルとなった[20]。蝶の方が儚げで弱そうなものに見えるので、大きなものを生み出し得る小さなものの象徴に最適と判断したのだろうと、ローレンツはこの変更理由を推測している[20][† 1]

バタフライ効果という言葉が一般的に引用されるとき、ローレンツの講演タイトルのような形で説明を付けることが多いが、説明に出てくる地名と発生する現象には様々な違いが見られる。ベストセラーとなった1987年のジェイムズ・グリック(James Gleick)の著書"Chaos: Making a New Science"(邦題:カオス―新しい科学をつくる)では[21]、「今日の北京の1匹の蝶のはばたきが、翌月にニューヨークで嵐を起こす」という形で説明されており[22]、元の講演タイトルと比較すると「ブラジル」が「北京」に、「テキサス」が「ニューヨーク」に変わっている。ポピュラーカルチャーでの例としては、1990年の映画『ハバナ』でロバート・レッドフォード演じる主人公が「1匹の蝶が中国ではばたけば、カリブハリケーンを起こす」というセリフをレナ・オリン演じるヒロインに話すシーンがあり[23]、「ブラジル」が「中国」に、「テキサス」が「カリブ」に、「嵐」が「ハリケーン」に変わっている。

ローレンツ・アトラクタ

一方、上記の講演からではなく、ローレンツがこの講演以前に研究・発表した、ローレンツ方程式と呼ばれる次の3連立非線形常微分方程式が生み出すストレンジアトラクターの形状に由来するという考えもある [18]

ここで、ローレンツ方程式のパラメータを、p = 10、r = 28、b = 8/3として与えて数値計算で軌道を計算すると、ストレンジアトラクタと呼ばれる3次元の解軌道が描かれる。これらのパラメータにより生み出されるストレンジアトラクタは、ローレンツの名を冠してローレンツ・アトラクタと呼ばれ[24]、その軌道はちょうど蝶が羽を開いたような形をしている[† 2]。このため、バタフライ効果の語源となったかは不明だが、このストレンジアトラクタのことはローレンツ・バタフライとも呼ばれる[26][18]。ローレンツ自身もどちらが語源であったかは確証していないが、ストレンジアトラクタの形状に由来する可能性について「私が話を交わした大勢の人たちは、バタフライ効果という名がこのアトラクタにちなんでつけられたものと思っていた。あるいはそういうことだったかもしれない」と述べている[18]

歴史

今日の「バタフライ効果」が意味する初期値鋭敏性や予測不可能性の存在についての学術的な議論は、ローレンツ以前にも、アンリ・ポアンカレなどにより行われてきた[27][28]。これについてはカオス理論#研究史なども参照のこと。以下では、ローレンツの研究を中心に「バタフライ効果」という用語が広まるまでの経緯を説明する。

1961年にエドワード・ローレンツが計算機上で数値予報プログラムを実行していた時のこと、最初ローレンツはある入力値を「0.506127」とした上で天気予測プログラムを実行し、予想される天気のパターンを得た[29]。このときのコンピュータのアウトプットは、スペースの節約から、入力値が四捨五入された「0.506」までしか打ち出されないものであった[29]。ローレンツは、もう一度同じ計算をさせるため、特に気に留めずに、打ち出された方の値「0.506」を入力して計算を開始させた[30][29]。計算が終えるまでコーヒーを飲みに行き、しばらく後に戻って2度目の計算結果をすると、予測される天気のパターンは一回目の計算とまったく異なったものになっていた[30]。ローレンツはコンピュータが壊れたと最初は考えたが[† 3]、データを調べていく内に入力値のわずかな差によるものだと気づいた[30][† 4]。この結果から、もし本物の大気もこの計算モデルのような振る舞いを起こすものならば、大気の状態値の観測誤差などが存在する限り気象の長期予想は不可能になることを思い付き、初期値鋭敏性と長期予測不能性のアイデアを持つようになる[32]

上記の計算結果は12変数の方程式の数値予報モデルにより得られたものだったが[33]、さらに変数を減らした単純なモデルでも、初期値鋭敏性とそれを強く関連すると考えられる非周期性の解が有するものがあるかについて、ローレンツは研究を続けた[34]。ある日、気象学者のバリー・ザルツマンに、非周期性の解を示す7変数方程式からなる大気循環モデルによる研究を紹介され、ローレンツは、このモデルを3変数まで減らしても同様な非周期性を示す可能性に気づく[34]。ザルツマンに自身の考えを伝えた上で3変数でのモデルの研究を進め、このモデルから単純な方程式の系でも初期値鋭敏性、非周期性を例証できることを確信すると、成果をまとめ、1963年に論文"Deterministic Nonperiodic Flow"(決定論的な非周期な流れ)をアメリカ気象学会へ投稿した[35]。この論文中で示された3変数モデルは、前述で説明した、今日ではローレンツ方程式と呼ばれるものである[36]。この研究成果は初めはほとんど注目もなかったが[37][38]、その後の1970年代後半に起きるカオス理論の隆盛とともに再評価され[39]、現在は最初期におけるカオス発見の1つに数えられている[40]。1963年に出された予測可能性に関する別の論文では、論文の結びで「理論が正しければ、1羽のカモメの1回のはばたきは気象現象の将来を永遠に変えるに十分となることを、一人の気象学者は述べた。論議はまだ決着していないが、近年の多くの証拠はカモメの方を支持しているように思われる」と述べており[41]、後の講演タイトルに類似した表現も既に存在する。

アイデアをもっと広めるべきだという同僚の説得もあり、ローレンツは1972年にアメリカ科学振興協会で、名称の由来となったとされる前述の講演を行う[42]。カモメから蝶へ変わった理由は#表現の由来で説明した通りである。さらに、カオス理論を一般大衆向けにも広めた、前述の1987年のグリックのベストセラーの中でも「バタフライ効果」という名前の1つの章が割り当てられ、ローレンツの業績と「バタフライ効果」という用語が世に広まっていった[18][42]

気象予報における例

ハリケーン・リタの進路予測の計算例。下側がアンサンブル予測の例。

バタフライ効果の語源となったとされる講演で、「ブラジルで1匹の蝶がはばたくとテキサスで竜巻が起こる」という現象が本当に起こるかどうかについての直接の答えは、ローレンツ自身も示していない[17]。講演の最後に「大気の不安定性について我々は確信を深めつつあるが、最初の問い掛けには、あともう数年は答えないままにしておくしかないだろう。」と述べた上で、「一方、今日の天気予報の誤りを、気象パターンの微小な構造のせいにするようなことはできない。もっと大まかな構造ですら不完全にしか観測できないこと、関連する物理的原理について未だに不完全な知識しか持ち合わせていないこと、それらの原理を人間やコンピュータが予報に使うために定式化の際にどうしても近似が必要になること、これらが予報の誤りの主原因である。これらの欠陥を完全に取り除くことはできないが、観測システムの拡張や研究の強化によって大幅な改善はできるだろう。」と、バタフライ効果の有る無しの結論以前に予報精度向上のためにすべき点に触れて、ローレンツは講演を締めくくっている[17]

問い掛け自体への否定的な回答の例としては、科学ジャーナリストのブライアン・クレッグ(Brian Clegg)は、著書"Dice World: Science and Life in a Random Universe"(邦題:世界はデタラメ―ランダム宇宙の科学と生活)で、蝶のはばたきの影響は小さ過ぎて実際のところ減衰してしまうだろうと考えられる点、竜巻は局所的な気象配置が支配的である点などを根拠にして、バタフライ効果の基本的考え方は正当としつつも、「ローレンツの質問への答えはノーである。」と述べている[43]。ローレンツも講演中で、否定的な材料として、ブラジルとテキサスでは地球の半球位置が違うため大気の性質が相当異なっているので影響は赤道を越えられない可能性や、乱流状態の大気中では影響は広がるが穏やかな大気中では影響は広がらない可能性などを挙げている[44]

一方、「ブラジルで1匹の蝶がはばたくとテキサスで竜巻が起こす」かどうかの正否は別にして、バタフライ効果が原因となり長期予測の精度が低下することは現代の気象予報上の問題点として認識されている[45][46][47][† 5]。バタフライ効果による長期予測精度の低下のため、詳細な予報を行える期間は2週間程度が限界と言われている[46][50]。この点を少しでも克服するため、初期値を意図的にわずかに変えた計算を複数行い、それらの計算結果の平均を採用することで精度を高めるアンサンブル予報という手法も開発された[51]。日本の気象庁では、2015年現在、5日先までの台風予報、1週間先までの天気予報、それより長期の天候予測でアンサンブル予報を採用している[52]

バタフライ効果を扱ったフィクション作品

ローレンツの研究、バタフライ効果という用語が与えられる以前からも、バタフライ効果が意味する初期鋭敏性、すなわち非常に小さな事象が因果関係の末に大きな結果につながるという考え方は、フィクション作品の中で多く見られる。グリックは著作の中で、そのような古い例として、童謡マザー・グースの『釘がないので』を挙げている[53]。ローレンツ自身も、講演以前の作品として、ジョージ・リッピー・スチュアート(George R. Stewart)による1941年の小説『嵐』やレイ・ブラッドベリによる1952年の短編小説『雷のような音』で、バタフライ効果を意味するようなセリフやストーリーが有ることを例として挙げている[54]。ジャーナリストのピーター・ディザイクス(Peter Dizikes)は、ボストン・グローブのコラムで、ポピュラーカルチャーの中では、バタフライ効果という用語が「歴史や運命を決定する一見些細な出来事や、因果関係の繰り返しの果てに人生の行き先や世界経済にまで影響を与える最初のきっかけが存在することの意味するメタファー」として愛されていると述べている[23]

一方、ディザイクスは、前述のコラム、マサチューセッツ工科大学のニュースマガジンの中で、ポピュラーカルチャーでのバタフライ効果の引用のされ方を見ると、この言葉が示すところの一側面しか理解されていない虞を指摘している[23][42]。ボストン・グローブのコラムでは、仮に蝶のはばたきが連鎖の果てに嵐を起こすとしても、そのような小さな撹乱でも嵐が起きるような場合に何が嵐を起こしたのかをそもそも特定することができるのか?という、ローレンツの仕事が示した「原因と結果」というものを考えるときの新たな視点が伝わらない可能性について懸念を示している[23]


  • サウンド・オブ・サンダー』 - レイ・ブラッドベリによる1952年の短編小説およびそれを原作とする2005年の映画。
  • ジュラシック・パーク』 - 小説および映画。(映画は1993年)マルコム博士がカオス理論を説明する場面でバタフライ効果に言及。
  • 月夜の恋占い』 - 2000年のフランス映画。原題Le Battement d'Ailes du Papillon(蝶の羽のはばたき)の通りバタフライ効果を題材にしている。
  • 世にも奇妙な物語 2003年秋の特別編』-冒頭のタモリのものがたりで言及。
  • バタフライ・エフェクト』 - 2004年のアメリカ映画。日本公開は2005年
  • フィッシュストーリー』 - 伊坂幸太郎による2005年の短編小説およびそれを原作とする2009年の映画。
  • STEINS;GATE』 - 2009年のゲーム作品。バタフライ効果をメインテーマの1つにしている。
  • JIN-仁-』 - 2009年秋にTBS系で放映されたテレビドラマ。タイムスリップした主人公は自らの行為が先の歴史に与えてしまうであろう影響について葛藤するが、その際のキーワードとして登場する。
  • ミスター・ノーバディ』 - ジャコ・ヴァン・ドルマル監督によるSFファンタジー映画。
  • 『Butterfly Effect』- 9mm Parabellum Bulletの楽曲。1st Album『Termination』に収録。
  • The Epic of Zektbach』 - Zektbach名義で展開されている音楽を中心としたプロジェクト。秩序(調和)と混沌の対立を大きなテーマとして描いており、劇中世界が混沌に包まれるきっかけとなったのは過去の或る些細な出来事だったという事実をバタフライ効果として説明している。
  • ジパング』- かわぐちかいじの漫画作品。過去にタイムスリップした主人公たちの行動が歴史を大きく変えてしまう可能性があることをバタフライ効果に言及し説明している。
  • タイム・リープ あしたはきのう』 - 高畑京一郎の小説。意識なく時間移動してしまう主人公から相談を受けた人物が些細なことが歴史を大きく変えてしまう可能性があることをバタフライ効果に言及して説明している。
  • ゴルゴ13 北京の蝶』
  • うずまき』- 伊藤潤二の漫画作品。第3巻にて言及。ただし、吐く息がものすごく強くなるというだけであり、本来の意味とは大きく異なる。
  • 『ドS刑事 [1] 風が吹けば桶屋が儲かる殺人事件』- 七尾与史の推理小説。
  • 『バタフライ・エフェクト』- sasakure.UKの楽曲。2nd Album『幻実アイソ―ポス』に収録。
  • 『あのとき始まったことのすべて』- 中村航による2010年の短編小説。
  • 『バタフライエフェクト』- 私立恵比寿中学の楽曲 2014年6月4日発売

脚注

注釈

  1. ^ レイ・ブラッドベリによる1952年の短編小説『雷のような音』でも、1匹の蝶によって歴史が大きく変化するというプロットが有るが、ローレンツが聞いてみたところによるとメリリースはこの小説については知らなかった[20]
  2. ^ フクロウの顔」[25]、「フクロウの目」[24]に似ているとも形容される。
  3. ^ 当時のコンピュータは真空管式のため壊れやすい[31]
  4. ^ この場合の入力値の誤差は、(0.506127 - 0.506) / 0.506127 × 100 = 約0.025%
  5. ^ 反対意見として、ライターで数学者のデイヴィット・オレル(David Orrell)による、気象予測の精度が低い原因は、計算モデルが現実の気象現象を正確にモデリングできていないことによる影響が大きく、バタフライ効果による影響は小さいとする研究成果・意見もある[48][49]

出典

  1. ^ Lorenz 1997, p. 210.
  2. ^ a b c 合原・黒崎・高橋 1999, p. 230.
  3. ^ a b 井上 1997, p. 49.
  4. ^ 井上 1997, p. 9.
  5. ^ Grebogi/Yorke 1999, pp. 50–51.
  6. ^ a b c エイブラハム・ウエダ 2002, p. 2.
  7. ^ a b Grebogi/Yorke 1999, p. 51.
  8. ^ 井上 1997, p. 47.
  9. ^ 井上 1997, p. 29.
  10. ^ エイブラハム・ウエダ 2002, p. 165.
  11. ^ 天気予報技術研究会 2009, p. 42.
  12. ^ 井上 1997, p. 48.
  13. ^ 天気予報技術研究会 2009, pp. 225–226.
  14. ^ a b 船越満明『カオス』(初版 isbn=978-4-254-11613-7)朝倉書店〈シリーズ 非線形科学入門3〉、2008年、11頁。 
  15. ^ a b 池口徹・山田泰司・小室元政 著、合原一幸 編『カオス時系列解析の基礎と応用』(第4刷)産業図書、2011年、9頁。ISBN 978-4-7828-1010-1 
  16. ^ Grebogi/Yorke 1999, p. 181.
  17. ^ a b c Edward N. Lorenz (1972年). “Predictability: Does the Flap of a Butterfly's Wings in Brazil Set Off a Tornado in Texas?” (pdf). EDWARD NORTON LORENZ PUBLICATIONS. 2014年12月28日閲覧。
  18. ^ a b c d e Lorenz 1997, p. 12.
  19. ^ エイブラハム・ウエダ 2002, p. 85.
  20. ^ a b c Lorenz 1997, p. 13.
  21. ^ Lorenz 1997, p. 2.
  22. ^ Gleick 1994, p. 8.
  23. ^ a b c d Peter Dizikes (2008年6月8日). “The meaning of the butterfly: Why pop culture loves the 'butterfly effect,' and gets it totally wrong”. The Boston Globe. Globe Newspaper Company. 2014年12月29日閲覧。
  24. ^ a b 早間慧『カオス力学の基礎』(改訂2版)現代数学社、2002年、9頁。ISBN 4-7687-0282-1 
  25. ^ Gleick 1994, p. 29.
  26. ^ エイブラハム・ウエダ 2002, p. 158.
  27. ^ 合原・黒崎・高橋 1999, p. 41.
  28. ^ Lorenz 1997, p. 117.
  29. ^ a b c Gleick 1994, p. 16.
  30. ^ a b c Lorenz 1997, p. 134.
  31. ^ 合原・黒崎・高橋 1999, p. 42.
  32. ^ Lorenz 1997, p. 135.
  33. ^ Lorenz 1997, p. 131.
  34. ^ a b Lorenz 1997, p. 136.
  35. ^ Lorenz 1997, p. 138.
  36. ^ Lorenz 1997, p. 186.
  37. ^ 合原・黒崎・高橋 1999, p. 43.
  38. ^ Lorenz 1997, p. 144.
  39. ^ エイブラハム・ウエダ 2002, p. 170.
  40. ^ エイブラハム・ウエダ 2002, p. 78.
  41. ^ Edward N. Lorenz (February 1963). “The predictability of hydrodynamic flow.” (pdf). Transactions of the New York Academy of Sciences 25 (4): 409-432. http://eaps4.mit.edu/research/Lorenz/publications.htm. 
  42. ^ a b c Peter Dizikes (2011年2月22日). “When the Butterfly Effect Took Flight”. MIT News. MIT Technology Review. 2014年12月30日閲覧。
  43. ^ ブライアン・クレッグ 著、竹内薫 訳『世界はデタラメ―ランダム宇宙の科学と生活』(初版)NTT出版、2014年、103頁。ISBN 978-4-7571-6060-6 
  44. ^ エイブラハム・ウエダ 2002, pp. 87–88.
  45. ^ 天気予報技術研究会 2009, p. 226.
  46. ^ a b 山崎孝治. “長期予報はなぜ当たらないか”. 平成17 年度公開講座 《地球環境の何故?に答える最新の研究》. 2015年1月11日閲覧。
  47. ^ 木本昌秀. “コンピューターによる天気の長期予報”. NHK そなえる防災. NHK. 2015年1月11日閲覧。
  48. ^ デイヴィット・オレル 著、太田直子ほか 訳『明日をどこまで計算できるか? ―「予測する科学」の歴史と可能性』(初版)早川書房、2010年、176-185頁。ISBN 978-4-15-209105-5 
  49. ^ Karl S. Kruszelnicki (2002年3月18日). “No More Butterfly Effect”. News in Science (ABC Science). Australian Broadcasting Corporation. 2015年1月30日閲覧。
  50. ^ John D. Cox 著、堤之智 訳『嵐の正体にせまった科学者たち―気象予報が現代のかたちになるまで』(初版)丸善出版、2013年、353頁。ISBN 978-4-621-08749-7 
  51. ^ 天気予報技術研究会 2009, pp. 7–8.
  52. ^ 知識・解説 アンサンブル予報”. 気象庁. 2015年1月11日閲覧。
  53. ^ Gleick 1994, p. 23.
  54. ^ Lorenz 1997, pp. 12–13.

参考文献

  • E. N Lorenz、杉山勝・杉山智子(訳)、1997、『ローレンツ カオスのエッセンス』初版、共立出版 ISBN 4-320-00895-2
  • ラルフ・エイブラハム、ヨシスケ・ウエダ(編)、稲垣耕作・赤松則男(訳)、2002、『カオスはこうして発見された』初版、共立出版 ISBN 4-320-03418-X
  • 合原一幸・黒崎政男・高橋純、1999、『哲学者クロサキと工学者アイハラの神はカオスに宿りたもう』初版、アスキー ISBN 4-7561-3133-6
  • 天気予報技術研究会(編)、2009、『気象予報士のための最新天気予報用語集』初版、東京堂出版 ISBN 978-4-490-10775-3
  • 井上政義、1997、『やさしくわかるカオスと複雑系の科学』初版、日本実業出版社 ISBN 4-53402492-4
  • Celso Grebogi, James A. Yorke(編)、香田徹ほか(訳)、1999、『カオス・インパクト―カオスは自然科学と社会科学に何をもたらしたか』第1版、森北出版 ISBN 4-627-21321-2
  • James Gleick (2008). Chaos: Making a New Science (20 ed.). Penguin Books. ISBN 978-0-14-311345-4 

関連項目

外部リンク