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「サツマハオリムシ」の版間の差分

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'''サツマハオリムシ'''(薩摩羽織虫 ''Lamellibrachia satsuma'')は、[[鹿児島湾]]などに生息する[[ハオリムシ]](いわる「[[チューブワーム]]」)の一種。
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==特徴==
==特徴==
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体の大部分を[[棲管]]と呼ばれる[[管]]に入れ、[[鰓]]のみを外に出して生活している<ref name=hadaka/>。先端には、体棲菅引き込んだときに蓋として働く部位があ。鰓は、毛細血管の通った糸集まっシート状の構造で、およそ20対ある<ref name=miura72/>。根元側にはラメラーシートと呼ばれる他よりも大きいシート4枚あり、こ呼吸に加えて先端部保護する機能も持つと推測されている<ref name=miura72/>。鰓に続く2[[センチメートル]]ほどの部位はハオリと呼ばれる筋肉質の胸部で、棲菅の材料となる分泌物塗り付け管を成長させたり、体を管に固定したりす役割を持つ<ref name=miura72/>ハオリ部背面には溝あり、殖細胞を棲菅の外に放出する経路となる<ref name=miura72/>。この溝の周囲の形態と色彩が[[雌雄]]で異なり<ref name=satsuma/>、雄では白く、溝の両側が盛り上がって管のようになるが、雌では平らで茶色である<ref name=miura72/>。サツマハオリムシ他種に比べ、ハオリ部が相対的に短い<ref name=satsuma/>。


栄養体部と呼ばれる部位(胴体)が体の大部分を占めている。その内部には栄養体と呼ばれる黒色の細胞塊が詰まっており<ref name=miura72/>、[[硫化水素]]を利用する[[硫黄細菌]]が[[細胞内共生]]をしている<ref name=satsuma/>。[[消化管]]を持たず、後述するようにこの硫黄細菌から得られる[[有機物]]に依存して生きている<ref name=satsuma/><ref name=godac>{{Cite web|url=http://www.godac.jp/bismal/integrationView.jsf?taxon=9000044|title=Species: ''Lamellibrachia satsuma'' Miura, Tsukahara & Hashimoto, 1997 サツマハオリムシ|work=Biological Information System for Marine Life|publisher=[[国際海洋環境情報センター]]|accessdate=2010-12-19}}</ref>。また胴体の前側(ハオリに近い側)には精巣または卵巣を持つ<ref name=miura72/>。背側と腹側に各1本の血管が走るが、背側の血管はハオリ部で太くなり、心臓となる<ref name=miura72/>。
棲管は最大で太さ8[[ミリメートル]]に達し、長さは50-100[[センチメートル]]程度が多いが、2メートルを超えることもある<ref name=satsuma/>。群生し、高さ5メートル、直径10メートルを超える巨大なコロニーを作ることもある<ref name=satsuma/>。


体の後端は短い尾部であり、30以上の環節([[体節]])に分かれ、剛毛が生えている。尾部は棲菅の後部を作り、修復する<ref name=miura72/>。尾部は採集時に切れてしまうことが多い<ref name=miura72/>。
なお、棲管の表面には[[アマクサクラゲ]]の[[ポリプ]]が生息することが観察されている。ちなみに、このクラゲのポリプが自然界で発見されているのは2013年時点でこれだけである<ref>三宅、Lindsay(2013)p.22-23</ref>。

棲管は最大で太さ8[[ミリメートル]]に達し、長さは50-100[[センチメートル]]程度が多いが、2メートルを超えることもある<ref name=satsuma/>。群生し、高さ5メートル、直径10メートルを超える巨大なコロニーを作ることもある<ref name=satsuma/>。野外で計測された成長速度からの計算によって、100年以上生きると推測されている<ref name=miura111/>。


==分布==
==分布==
初めて発見された鹿児島湾の[[湧水域]](現地の[[漁師]]は「たぎり」と呼ぶ<ref name=zs/><ref name=jm/>、水深80-130メートル)のほか、[[南海トラフ]]の湧水域、[[北マリアナ諸島]]近海の[[熱水噴出孔|熱水噴出域]]でも確認されている<ref name=satsuma/><ref name=godac/>。生息水深は80-430メートル<ref name=satsuma/>。サツマハオリムシは、ハオリムシ類の中では最も浅い海に生息する。
初めて発見された鹿児島湾の[[湧水域]](現地の[[漁師]]は「たぎり」と呼ぶ<ref name=zs/><ref name=jm/>、水深80-130メートル)のほか、[[南海トラフ]]の湧水域、[[北マリアナ諸島]]近海の[[熱水噴出孔|熱水噴出域]]でも確認されている<ref name=satsuma/><ref name=godac/>。生息水深は80-430メートル<ref name=satsuma/>。サツマハオリムシは、ハオリムシ類の中では最も浅い海に生息する。

== 栄養 ==
前述するようにサツマハオリムシの栄養体内には硫黄酸化細菌が共生し、硫化水素の[[化学エネルギー]]を利用して[[水]]と[[二酸化炭素]]などから[[糖]]や[[アミノ酸]]といった[[有機物]]を合成している<ref name=miura82/>。

鹿児島湾では、硫化水素を含む火山性ガスの噴出する場所にサツマハオリムシが生息している。しかし、サツマハオリムシの体内に含まれる[[硫黄]]の[[安定同位体]]比は、火山性ガスよりも海底の泥に生息する[[硫酸還元菌]]が合成する硫化水素に近い。したがって、主な硫化水素源は火山性ガスよりもむしろこれらの細菌が合成するものであると考えられる<ref name=miura97/>。火山性ガスは、直接に利用されることに加えて、硝酸還元菌に適した環境をもたらすことで本種の生存に寄与していると考えられている<ref name=miura97/>。

硫黄酸化細菌に供給する硫化水素は、[[酸素]]などの物質とともに、鰓からハオリムシの体内に取り込まれ、栄養体部に運ばれる。ハオリムシの血液は赤く、酸素だけでなく硫化水素とも結合できる巨大ヘモグロビンを含んでいる<ref name=miura72/>。棲菅の後端は一部が薄くなっており、鰓だけでなくそこから泥のなかの硫化水素を取り込んでいる可能性もある<ref name=miura97/>。

== 繁殖と発生 ==
[[雌雄異体]]で[[体内受精]]。雄が約100の[[精子]]が束になった精子束を海水中に放出し、雌の卵巣から出た未受精卵に接合する。受精卵は雌の貯卵嚢に保持され、その後放卵が起こる。受精卵は卵径約0.1[[ミリメートル]]で、ゴカイ類に似た[[トロコフォア]]幼生を経て、[[カンザシゴカイ]]類と共通するネクトキータ幼生までの発生過程が観察されている。他の[[環形動物]]の幼生と異なり、口や消化管は形成されない<ref name=miura111/>。

== 他の生物との関係 ==
サツマハオリムシのコロニーには[[タギリカクレエビ]]が群れで棲み、しばしば同時に採集される<ref name=miura58/>。また生息地周辺の泥に生息する[[タギリキヌタレガイ]]が、本種の根元に付着した泥から発見されることもある<ref name=miura58/>。棲管の表面には[[アマクサクラゲ]]の[[ポリプ]]が生息することが観察されている。このクラゲのポリプが自然界で発見されているのは2013年時点でこれだけである<ref name=miyake/>。


==系統と分類==
==系統と分類==
かつてハオリムシ類は、ヒゲムシ類とともに[[有鬚動物]]門に分類されていた。しかし[[分子系統解析]]の結果[[環形動物]]の[[多毛類]]に含まれることが明らかになり、近縁な[[ホネクイハナムシ]]類とともに[[シボグリヌム科]]に分類されている<ref name=shinka>{{cite book|和書|chapter=ハオリムシ類の進化と系統|author=小島茂明|title=[[#fujikura|潜水調査船が観た深海生物]]|pages=pp. 158-159}}</ref>。
かつてハオリムシ類は、ヒゲムシ類とともに[[有鬚動物]]門に分類されていた。しかし[[分子系統解析]]の結果環形動物の[[多毛類]]に含まれることが明らかになり、近縁な[[ホネクイハナムシ]]類とともに[[シボグリヌム科]]に分類されている<ref name=shinka/>。


サツマハオリムシ属は他のハオリムシ類とは区別される[[単系統群]]であり、[[相模湾]]に生息するサガミハオリムシなど少なくとも6種の未記載種が示唆されている<ref name=shinka/>。
サツマハオリムシ属は他のハオリムシ類とは区別される[[単系統群]]であり、[[相模湾]]に生息するサガミハオリムシなど少なくとも6種の未記載種が示唆されている<ref name=shinka/>。

== 発見までの経緯 ==
[[1973年]]、鹿児島湾で水銀で汚染された魚が発見された。火山性ガスの噴出する「たぎり」がその原因と目されたことから、1977年に有人潜水艇「[[はくよう]]」による鹿児島湾の調査が行われた。このときに、不鮮明ながら海底に群生する様子が偶然に撮影され<ref name=jm/><ref name=osaka/>、採集もされた<ref name=miura51/>。しかしこのときにはハオリムシ類とは認識されず<ref name=osaka/>、専門家に問い合わせられることもないまま、標本も保存されなかった<ref name=miura51/>。その際の写真が生物学者の目に留まり、1990年から[[海洋科学技術センター]](のちの[[海洋研究開発機構]])による再調査が始まった。しかし、1977年の調査地点のうち水深200メートルの場所からは見つからず、より浅い調査地点は[[海上自衛隊]]の実験区域のため、演習のない期間に限っての特別な調査許可を得て調査が行われた<ref name=osaka/>。その結果、[[1993年]]2月の調査において水深82メートルの海底で見つかった群生からの採取に成功し、ハオリムシの一種と確認された<ref name=zs/><ref name=jm/>。新種として[[記載]]されたのは[[1997年]]である<ref name=jm/>。


==飼育・展示==
==飼育・展示==
世界で初めて飼育展示を行ったのは[[いおワールドかごしま水族館]]である<ref name=jm/>。そのほか、[[新江ノ島水族館]]と[[名古屋港水族館]]でもサツマハオリムシの飼育展示を行っている。サツマハオリムシを棲管から透明な管に移し、観察しやすくする技術も開発されている<ref name=hadaka/>。
鹿児島大学では1993年に採集された個体の一部を生かしたまま実験室に持ち帰り、[[硫化ナトリウム]]を飼育海水に加えることで硫化水素を発生させる方法によって飼育に成功した<ref name=miura86/>。この技術を用いて世界で初めて飼育展示を行ったのは[[いおワールドかごしま水族館]]である<ref name=jm/><ref name=miura86/>。そのほか、[[新江ノ島水族館]]と[[名古屋港水族館]]でもサツマハオリムシの飼育展示を行っている。サツマハオリムシを棲管から透明な管に移し、観察しやすくする技術も開発されている<ref name=hadaka/>。


==出典==
==出典==
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<ref name=jm>{{cite book |和書 |title=[[#yoshida|ジンベエザメの命 メダカの命]] |pages=72-84頁}}</ref>
<ref name=zs>{{cite journal |last1=Hashimoto |first1=Jun |last2=Miura |first2=Tomoyuki |last3=Fujikura |first3=Katsunori |last4=Ossaka |first4=Joyo |title=Discovery of vestimentiferan tube-worms in the euphotic zone |year=1993 |journal=Zoological Science |volume=10 |issue=6 |pages=1063-1067 |naid=110003323150 |issn=02890003}}</ref>
<ref name=hadaka>{{cite book|和書|author=三宅裕志|chapter=ハオリムシを裸にする|title=[[#fujikura|潜水調査船が観た深海生物]]|pages=160-161}}</ref>
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}}


==参考文献==
==参考文献==
*{{cite book|和書|author=藤倉克則|coauthors=奥谷喬司丸山正|title=潜水調査船が観た深海生物 深海生物研究の現在|publisher=東海大学出版会|year=2008|isbn=9784486017875|ref=fujikura}}
*{{cite book|和書|author1=藤倉克則|author2=奥谷喬司 |author3=丸山正|title=潜水調査船が観た深海生物 深海生物研究の現在|publisher=東海大学出版会|year=2008|isbn=9784486017875|ref=fujikura}}
*{{cite book|和書|author=吉田啓正|title=ジンベエザメの命 メダカの命 水族館・限りなく生きることに迫る|publisher=信山社サイテック|year=1999|isbn=4797225475|ref=yoshida}}
*{{cite book|和書|author=吉田啓正|title=ジンベエザメの命 メダカの命 水族館・限りなく生きることに迫る|publisher=信山社サイテック|year=1999|isbn=4797225475|ref=yoshida}}
*{{Cite book|和書|author=大木公彦|series=かごしま文庫61|title=鹿児島湾の謎を追って|publisher=春苑堂出版|year=2000|ISBN=4-915093-68-9|ref=oki}}。
*{{cite book|和書|author=大木公彦|series=かごしま文庫61|title=鹿児島湾の謎を追って|publisher=春苑堂出版|year=2000|ISBN=4-915093-68-9|ref=oki}}。
*三宅浩志Dhugal Lindsay、『110種のクラゲの不思議な生態 最新 クラゲ図鑑』、(2013)、誠文堂光新社
*{{cite book|和書 |author1=三宅浩志 |author2=Dhugal Lindsay |title=最新クラゲ図鑑 110種のクラゲの不思議な生態 |year=2013 |publisher=誠文堂光新社 |isbn= |ref=miyake}}
*{{cite book|和書 |author=三浦知之 |title=サツマハオリムシってどんな生きもの? 目も口もない奇妙な動物 |series=もっと知りたい!海の生きものシリーズ3 |publisher=恒星社厚生閣 |isbn=9784769912774 |year=2012 |ref=miura}}


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2015年1月29日 (木) 15:09時点における版

サツマハオリムシ
水槽内で飼育されているサツマハオリムシのコロニー。
分類
: 動物界 Animalia
: 環形動物門 Annelida
: 多毛綱 Polychaeta
: ケヤリムシSabellida
: シボグリヌム科 Siboglinidae
: サツマハオリムシ属 Lamellibrachia
: サツマハオリムシ
L. satsuma
学名
Lamellibrachia satsuma
Miura, Tsukahara & Hashimoto, 1997

サツマハオリムシLamellibrachia satsuma)は、鹿児島湾などに生息するハオリムシ(いわゆる「チューブワーム」)の一種。

特徴

棲管から取り出されたサツマハオリムシ。

体の大部分を棲管と呼ばれるに入れ、のみを外に出して生活している[1]。先端には、体を棲菅に引き込んだときに蓋として働く部位がある。鰓は、毛細血管の通った糸が集まったシート状の構造で、およそ20対ある[2]。根元側にはラメラーシートと呼ばれる他よりも大きいシートが4枚あり、これは呼吸に加えて先端部を保護する機能も持つと推測されている[2]。鰓に続く2センチメートルほどの部位はハオリと呼ばれる筋肉質の胸部で、棲菅の材料となる分泌物を塗り付けて管を成長させたり、体を管に固定したりする役割を持つ[2]。ハオリ部背面には溝があり、生殖細胞を棲菅の外に放出する経路となる[2]。この溝の周囲の形態と色彩が雌雄で異なり[3]、雄では白く、溝の両側が盛り上がって管のようになるが、雌では平らで茶色である[2]。サツマハオリムシは他種に比べて、ハオリ部が相対的に短い[3]

栄養体部と呼ばれる部位(胴体)が体の大部分を占めている。その内部には栄養体と呼ばれる黒色の細胞塊が詰まっており[2]硫化水素を利用する硫黄細菌細胞内共生をしている[3]消化管を持たず、後述するようにこの硫黄細菌から得られる有機物に依存して生きている[3][4]。また胴体の前側(ハオリに近い側)には精巣または卵巣を持つ[2]。背側と腹側に各1本の血管が走るが、背側の血管はハオリ部で太くなり、心臓となる[2]

体の後端は短い尾部であり、30以上の環節(体節)に分かれ、剛毛が生えている。尾部は棲菅の後部を作り、修復する[2]。尾部は採集時に切れてしまうことが多い[2]

棲管は最大で太さ8ミリメートルに達し、長さは50-100センチメートル程度が多いが、2メートルを超えることもある[3]。群生し、高さ5メートル、直径10メートルを超える巨大なコロニーを作ることもある[3]。野外で計測された成長速度からの計算によって、100年以上生きると推測されている[5]

分布

初めて発見された鹿児島湾の湧水域(現地の漁師は「たぎり」と呼ぶ[6][7]、水深80-130メートル)のほか、南海トラフの湧水域、北マリアナ諸島近海の熱水噴出域でも確認されている[3][4]。生息水深は80-430メートル[3]。サツマハオリムシは、ハオリムシ類の中では最も浅い海に生息する。

栄養

前述するようにサツマハオリムシの栄養体内には硫黄酸化細菌が共生し、硫化水素の化学エネルギーを利用して二酸化炭素などからアミノ酸といった有機物を合成している[8]

鹿児島湾では、硫化水素を含む火山性ガスの噴出する場所にサツマハオリムシが生息している。しかし、サツマハオリムシの体内に含まれる硫黄安定同位体比は、火山性ガスよりも海底の泥に生息する硫酸還元菌が合成する硫化水素に近い。したがって、主な硫化水素源は火山性ガスよりもむしろこれらの細菌が合成するものであると考えられる[9]。火山性ガスは、直接に利用されることに加えて、硝酸還元菌に適した環境をもたらすことで本種の生存に寄与していると考えられている[9]

硫黄酸化細菌に供給する硫化水素は、酸素などの物質とともに、鰓からハオリムシの体内に取り込まれ、栄養体部に運ばれる。ハオリムシの血液は赤く、酸素だけでなく硫化水素とも結合できる巨大ヘモグロビンを含んでいる[2]。棲菅の後端は一部が薄くなっており、鰓だけでなくそこから泥のなかの硫化水素を取り込んでいる可能性もある[9]

繁殖と発生

雌雄異体体内受精。雄が約100の精子が束になった精子束を海水中に放出し、雌の卵巣から出た未受精卵に接合する。受精卵は雌の貯卵嚢に保持され、その後放卵が起こる。受精卵は卵径約0.1ミリメートルで、ゴカイ類に似たトロコフォア幼生を経て、カンザシゴカイ類と共通するネクトキータ幼生までの発生過程が観察されている。他の環形動物の幼生と異なり、口や消化管は形成されない[5]

他の生物との関係

サツマハオリムシのコロニーにはタギリカクレエビが群れで棲み、しばしば同時に採集される[10]。また生息地周辺の泥に生息するタギリキヌタレガイが、本種の根元に付着した泥から発見されることもある[10]。棲管の表面にはアマクサクラゲポリプが生息することが観察されている。このクラゲのポリプが自然界で発見されているのは2013年時点でこれだけである[11]

系統と分類

かつてハオリムシ類は、ヒゲムシ類とともに有鬚動物門に分類されていた。しかし分子系統解析の結果環形動物の多毛類に含まれることが明らかになり、近縁なホネクイハナムシ類とともにシボグリヌム科に分類されている[12]

サツマハオリムシ属は他のハオリムシ類とは区別される単系統群であり、相模湾に生息するサガミハオリムシなど少なくとも6種の未記載種が示唆されている[12]

発見までの経緯

1973年、鹿児島湾で水銀で汚染された魚が発見された。火山性ガスの噴出する「たぎり」がその原因と目されたことから、1977年に有人潜水艇「はくよう」による鹿児島湾の調査が行われた。このときに、不鮮明ながら海底に群生する様子が偶然に撮影され[7][13]、採集もされた[14]。しかしこのときにはハオリムシ類とは認識されず[13]、専門家に問い合わせられることもないまま、標本も保存されなかった[14]。その際の写真が生物学者の目に留まり、1990年から海洋科学技術センター(のちの海洋研究開発機構)による再調査が始まった。しかし、1977年の調査地点のうち水深200メートルの場所からは見つからず、より浅い調査地点は海上自衛隊の実験区域のため、演習のない期間に限っての特別な調査許可を得て調査が行われた[13]。その結果、1993年2月の調査において水深82メートルの海底で見つかった群生からの採取に成功し、ハオリムシの一種と確認された[6][7]。新種として記載されたのは1997年である[7]

飼育・展示

鹿児島大学では1993年に採集された個体の一部を生かしたまま実験室に持ち帰り、硫化ナトリウムを飼育海水に加えることで硫化水素を発生させる方法によって飼育に成功した[15]。この技術を用いて世界で初めて飼育展示を行ったのはいおワールドかごしま水族館である[7][15]。そのほか、新江ノ島水族館名古屋港水族館でもサツマハオリムシの飼育展示を行っている。サツマハオリムシを棲管から透明な管に移し、観察しやすくする技術も開発されている[1]

出典

  1. ^ a b 三宅裕志「ハオリムシを裸にする」『潜水調査船が観た深海生物』、160-161頁。 
  2. ^ a b c d e f g h i j k サツマハオリムシってどんな生きもの?』、72-79頁。 
  3. ^ a b c d e f g h 三浦知之「サツマハオリムシ」『潜水調査船が観た深海生物』、151頁。 
  4. ^ a b Species: Lamellibrachia satsuma Miura, Tsukahara & Hashimoto, 1997 サツマハオリムシ”. Biological Information System for Marine Life. 国際海洋環境情報センター. 2010年12月19日閲覧。
  5. ^ a b サツマハオリムシってどんな生きもの?』、111-118頁。 
  6. ^ a b Hashimoto, Jun; Miura, Tomoyuki; Fujikura, Katsunori; Ossaka, Joyo (1993). “Discovery of vestimentiferan tube-worms in the euphotic zone”. Zoological Science 10 (6): 1063-1067. ISSN 02890003. NAID 110003323150. 
  7. ^ a b c d e ジンベエザメの命 メダカの命』、72-84頁頁。 
  8. ^ サツマハオリムシってどんな生きもの?』、82-83頁。 
  9. ^ a b c サツマハオリムシってどんな生きもの?』、97-108頁。 
  10. ^ a b サツマハオリムシってどんな生きもの?』、58-61頁。 
  11. ^ 最新クラゲ図鑑』、22-23頁。 
  12. ^ a b 小島茂明「ハオリムシ類の進化と系統」『潜水調査船が観た深海生物』、158-159頁。 
  13. ^ a b c 小坂丈予「随想 海底火山調査にまつわる話(8)鹿児島湾奥部の海底噴気孔の調査」(PDF)『水路』第33巻第3号、2004年、15-21頁、ISSN 02874660NAID 40006462746 
  14. ^ a b サツマハオリムシってどんな生きもの?』、51-53頁。 
  15. ^ a b サツマハオリムシってどんな生きもの?』、86-91頁。 

参考文献

  • 藤倉克則、奥谷喬司、丸山正『潜水調査船が観た深海生物 深海生物研究の現在』東海大学出版会、2008年。ISBN 9784486017875 
  • 吉田啓正『ジンベエザメの命 メダカの命 水族館・限りなく生きることに迫る』信山社サイテック、1999年。ISBN 4797225475 
  • 大木公彦『鹿児島湾の謎を追って』春苑堂出版〈かごしま文庫61〉、2000年。ISBN 4-915093-68-9 
  • 三宅浩志、Dhugal Lindsay『最新クラゲ図鑑 110種のクラゲの不思議な生態』誠文堂光新社、2013年。 
  • 三浦知之『サツマハオリムシってどんな生きもの? 目も口もない奇妙な動物』恒星社厚生閣〈もっと知りたい!海の生きものシリーズ3〉、2012年。ISBN 9784769912774