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「P-T境界」の版間の差分

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'''P-T境界'''(ぴーてぃーきょうかい)とは[[地質年代区分]]の用語で、約2億5,000万年前の[[古生代]]と[[中生代]]の境目に相当する。[[古生物学]]上では史上最大級の[[大量絶滅]]が発生したことで知られている。
'''P-T境界'''(ぴーてぃーきょうかい)とは[[地質年代区分]]の用語で、約2億5,100万年前の[[古生代]]と[[中生代]]の境目に相当する。[[古生物学]]上では史上最大級の[[大量絶滅]]が発生したことで知られている。


== 名称の由来 ==
== 名称の由来 ==
古生代最後の[[ペルム紀]]('''P'''ermian)と中生代最初の[[三畳紀]]('''T'''riassic)の境目であることから、両者の頭文字を取って「'''P-T境界'''」と命名された。P-T境界後述の大絶滅が発生している、地球内部を原因する環境変化要因が高い考えられて又、この直径約50キロメートもの巨隕石が、現在の[[南極大陸]]ウィルクスランドに落下していたという研究報告出ており、れも大絶滅の原因の一つする説がある。
古生代最後の[[ペルム紀]]('''P'''ermian)と中生代最初の[[三畳紀]]('''T'''riassic)の境目であることから、両者の頭文字を取って「'''P-T境界'''」と命名された。地質学的では時代境界は新しい生物種<ref>三畳紀始まりはコノドントの種ヒンデオダス・パルヴスの化石で規定される、「大絶滅」P279</ref>の出現時期を規定しているため時代境界の生物大量絶滅時期の地層は一致しない。この大絶滅を厳密規定すると「後期ペム紀量絶滅」とすべきであるが、地質学者間でもこの事件をP-T境界の大絶滅と呼ぶことに異論を唱え人は少ない<ref>「大絶滅」P278</ref>


== 大量絶滅 ==
== 大量絶滅 ==
一般に古生代の陸上生物は[[両生類]]や[[単弓類]]、中生代は恐竜に代表される[[爬虫類]]の時代と言われている。<!--誤解を招きかねない解説につきコメントアウト P-T境界の前は哺乳類は存在せず [[哺乳類型爬虫類]]いう爬虫類の仲間であった。P-T境界はこの哺乳類型爬虫類を完全な哺乳類にするきっかけとなった事件であり、また、その後恐竜の時代になるきっかけとなった事件であった。-->P-T境界は、この交代の原因となった大量絶滅事件が起こっており、'''総合的に全生物の95%以上が絶滅した。'''例として、ペルム紀末に海中に住んでいた海棲[[無脊椎動物]][[種 (分類学)|種]]レベルでの絶滅率は90%以上と見積もられている。この中には[[三葉虫]]・古生代型[[サンゴ]]・[[フズリナ]]など古生代に幅広く棲息していた生物種が含まれる。そ他、脊椎動物[[昆虫]]・[[植物]]などの陸上生物もたくさんの種類が絶滅した。絶滅した生物種はK-T境界よりP-T境界の方がはるかに多ったとが明らかとなっている。
一般に古生代の陸上生物は[[両生類]]や[[単弓類]]、中生代は恐竜に代表される[[爬虫類]]の時代と言われている。<!--誤解を招きかねない解説につきコメントアウト P-T境界の前は哺乳類は存在せず [[哺乳類型爬虫類]]いう爬虫類の仲間であった。P-T境界はこの哺乳類型爬虫類を完全な哺乳類にするきっかけとなった事件であり、また、その後恐竜の時代になるきっかけとなった事件であった。-->P-T境界は、この交代の原因となった大量絶滅事件が起こった。ペルム紀末に海中に住んでいた海棲[[無脊椎動物]][[種 (分類学)|種]]レベルでの絶滅率は90%以上<ref>シカゴ大学のセプコスキの計算では最大96%の種が絶滅した。「生命と地球の歴史」P137</ref>、82%の属、半分の科が消滅したと見積もられている<ref>「大絶滅」P8</ref>。この中には[[三葉虫]]・古生代型[[サンゴ]]・[[フズリナ]]など古生代に幅広く棲息していた生物種が含まれる<ref>「生命と地球歴史」P137</ref>。脊椎動物では82%の科が絶滅した<ref>「大絶滅」P153</ref>。また[[昆虫]]・[[植物]]などの陸上生物もたくさんの種類が絶滅した。絶滅した生物種は恐竜の絶滅で有名な[[K-T境界]]よりはるかに多く、カンブリア紀以降で最大規模の絶滅であった<ref>「生命地球の共進化」P207</ref>。大絶滅の原因については種々の仮説提出されているが、いまのところ地質学者の大半が同意するような明確な説は無い


===絶滅年代===
== 超大陸の形成と分裂 ==
地質時代の年代分析については、1990年代以降新しい分析技術に基づいた研究が著しく進んだ。このP-T境界についても それまでは何百万年も続いた出来事だと考えられてきたが<ref>「大絶滅」P10</ref>、1994年にStanleyとYang<ref>Stanley,S.M., and X.Yang.1994."A double mass extinction at the end of the Paleozoic era."Science 266:1340-44 </ref>がペルム紀末の絶滅が800万年から1000万年の間を隔てた2回の大量絶滅であることを発表し、さらに1996年にアメリカのノルが「絶滅事件は約2億6000万年前と約2億5000万年前の2回起こった」と[[サイエンス]]に発表した<ref>「生命と地球の共進化」P213</ref>。最初の2億6000万年前の事件は、ペルム紀中期に相当する[[ガダルピアン世]]の末期に相当するが、海水準が突然低下し多数の海洋生物が絶滅したとされており、陸上生物についても環境変化による大量絶滅があった。2番目の事件が古生代の生態系が壊滅した破局的な大量絶滅に相当する<ref>「大絶滅」P10</ref>。2番目の(本来の)大絶滅事件については中国南部の煤山にある当時の礁の地層<ref>この地層はペルム紀末から三畳紀にかけての国際模式層序地(GSSPs)に指定されている。</ref>に挟み込まれた複数の火山灰<ref>この火山灰は、当時煤山の近くにあった火山の爆発的な噴火により供給されたもので、シベリア洪水玄武岩のものではない</ref>の分析から、2億5160万年前に突然絶滅が始まり続く百万年で大絶滅が起こったと想定されている<ref>「大絶滅」P72、元データはBowring,S.A., D.H.Erwin, Y.G.Jin, M.W.Martin, K.L.Davidek, and W.Wang. 1998. "U/Pb zircon geochronology and tempo of end-Permian mass extinction.2 Science 280:1039-45</ref> <ref>火山灰中のジルコン結晶に含まれるウラン・鉛分析の結果から算出。</ref>。この年代値は中国の煤山と、そこから1000km離れた中国広西壮族自治区にあるP-T境界層で同じ値が得られている<ref>「大絶滅」P95</ref>。
2.5億年前、地表に存在するほとんど全ての陸地が1か所に集合して[[超大陸]][[パンゲア大陸|パンゲア]]を形成していた。パンゲア以外の地表はひとつの大きな海[[パンサラッサ]]となった。なおパンゲア大陸内部の[[地中海]]として[[テチス海]]が存在した。一旦形成された大陸パンゲアはおそ5千年は分裂を始めたが、その際規模な[[火山]]活動あり[[シベリア台地玄武岩]]が形成された。超大陸の形成と分裂につては、[[プルームテクトニクス]]による理論化が行わている。


== スーパーアノキシア ==
スーパーアノキシア(Superanoxia:超酸素欠乏事件)とは、P-T境界で起こった大規模な[[海洋無酸素事変|海洋酸素欠乏事件]]のこと。世界の各所に産出する当時の海洋起源の[[堆積岩]]([[泥岩]]や[[チャート (岩石)|チャート]]など)を調べると、約2億5,100万年前の前後約2,000万年にわたって[[海洋]]が[[酸素]]欠乏状態にあったことが判明している。地球史上では約100万年程度の酸素欠乏事件は何回か生起しているが、約2,000万年の間・全海洋で酸素欠乏が起こったのはP-T境界のみであった。


===海洋動物===
[[File:Phanerozoic Biodiversity.svg|thumb|400px|顕生代の生物多様性(科レベル)の推移。横軸は年代を表し単位は百万年。灰色がセプコスキのデータ、緑色が"well-defined"データ、黄色の三角が5大絶滅事件。2億5000万年前に位置する谷間がP-T境界、右側6000万年前の谷が恐竜が絶滅したK-T境界]]
[[File:Crinoids.jpg|thumb|300px|古生代に繁栄したウミユリの化石]]
海洋生物の多様性の推移について、1980年代にシカゴ大学のジャック・セプコスキが海洋生物の科が化石として最初に現れてから最後に消えるまでを記した一覧表を作成した(右図灰色の部分)。その結果約2億5000万年前にもっとも大きな大量絶滅が起こっていることが判明した。セプコスキは海洋生物の進化度を *カンブリア型進化動物相、*古生代型進化動物相、*現代型進化動物相の3種に分類して各々の科の消長を記録した。カンブリア型進化動物相は[[三葉虫]]に代表される最も古い動物相で、ペルム紀の前の[[石炭紀]]にすでに大幅に衰退していたが、ペルム紀末にすべて絶滅した。古生代型進化動物相はペルム紀当時の浅い海で最も繁栄していた相で、有関節腕足類、古生代型サンゴ、[[アンモナイト]]<ref>参考文献中ではアンモナイトとアンモノイドの表記が混在しているが、この項ではアンモナイトに統一して表記する</ref>、[[ウミユリ]]、レース状[[コケムシ]]等であるが、P-T境界で72%の科が絶滅した。現代型進化動物相は[[二枚貝]]、[[腹足類]]、[[甲殻類]]、[[硬骨魚]]類、[[軟骨魚類]]であるが、科レベルでの絶滅率は27%であった<ref>「大絶滅」P108</ref>。以下分類群ごとに解説する。
*フズリナ族:P-T境界の前段階の2億6000万年前(ガダルピアン末)において59属が14属に減少した<ref>「大絶滅」P110</ref>。その後P-T境界において消滅。
*アンモナイト族:アンモナイト族は消長が激しいのが特徴。ガダルピアン末において2/3の属が絶滅、その後約1000万年の間に数十の属が現れたがP-T境界において97%の属が絶滅。中生代の海中で再度繁栄したがK-T境界で消滅<ref>「大絶滅」P111</ref><ref>「大絶滅」P121</ref>。
*腕足類:浅い海に固定して生活する腕足類は古生代の海を代表する生物であったが、ガダルピアン末の大量絶滅とP-T境界の大量絶滅の双方で重大な影響を受け、ペルム紀中期に生息していた科の90%が中生代が始まる前に消滅した<ref>「大絶滅」P114</ref>。
*サンゴ:古生代の礁には現在の六方サンゴとは異なる床板サンゴと四放サンゴが繁栄していたが、ガダルピアン末にほとんど消滅し、残った10科107種もP-T境界においてすべて絶滅<ref>「大絶滅」P119</ref>。現代のサンゴは古生代の種とは別の系統から派生した。
*腹足類:ガダルピアン末に20-25%の属が消滅、P-T境界において41%の属が消えた<ref>「大絶滅」P122</ref>。
*二枚貝は古生代の末期に26%の科が絶滅。
*ウミユリを含む[[棘皮動物]]は古生代前紀に21網生息していたが現在5網しか生存していない<ref>「大絶滅」P118</ref>。
ガダルピアン紀末の絶滅では海水準の急激な低下により当時のかなりの浅海が干上がったことが判明しており、このため浅海中において分布域の狭い属が大きな打撃を受けた。P-T境界においては分布域の大小による影響は少なかった<ref>「大絶滅」P123</ref>が、大絶滅によって礁を形成する生物が死滅したため全地球的に礁が死滅し、礁において[[石灰岩]]のような炭酸塩岩の生成量がほとんどゼロになった<ref>「大絶滅」P124</ref>。
P-T境界における生物種の絶滅度の違いを分析したバンバックとノールは「石灰化した殻を持ち、鰓を持たず、細胞が直接酸素を吸収する循環器系の弱い動物類が絶滅の影響を強く受けた」と判断した<ref>「大絶滅」P126、元の論文は Bambach, R.K., A.H.knoll, and J.J.Sepkoski,Jr.2002."Anatomical and ecological constrains on Phanerozoic animal diversity in the marine realm."Proceedings of the National Academy of Science,USA 99:6854-59 </ref>。何らかの要因で水中の酸素が減って二酸化炭素が増えると、この種の生物は酸素を体内に取り入れることができなくなって死滅したとされている。鰓を有し活動的な循環器系と高い代謝率を有する動物、当時の軟体動物や節足動物や脊椎動物は絶滅の影響が比較的少なかった。P-T境界の前段階であるガダルピアン末の絶滅では鰓のない代謝の低い生物属の65%が絶滅したが鰓のあるグループの属レベルでの絶滅率は49%であり、P-T境界では前者の属単位での絶滅率87%に対し後者の絶滅率は38%であった。<ref>「大絶滅」P127</ref>

===陸上の動物===
陸上の動物においてもペルム紀末に2段階の大量絶滅が起こった。[[File:Lystrosaurus.jpg|thumb|300px|古生代に生きていたディキノドンの創造図]]
*爬虫類:ペルム紀中期に生息していた26属のうち、ガダルピアン末に相当する約2億6000万年前に9属が絶滅。その後多様性が回復し44属になったがP-T境界後に再度大きな影響を受け、生き残ったのは7属だけとなった<ref>「大絶滅」P146</ref>。
*単弓類:[[ディキノドン]]などの単弓類は、P-T境界において35属が2属に減った<ref>「大絶滅」P141</ref>。
*昆虫類:昆虫類は大量絶滅を受けにくい生物で、P-T境界は昆虫類が唯一影響を受けた大量絶滅事件である。古生代に22属が生息していたと見られるがペルム紀末に8目が消滅した。その後は1,2目しか絶滅していない<ref>「大絶滅」P160</ref>。

===植物===
古生代は沼沢林の[[シダ]]類、[[ヒカゲノカズラ]]類および木生シダが繁茂していたが、中生代には[[針葉樹]]、[[イチョウ]]、[[ソテツ]]および現生[[シダ]]に置き換わった。古生代の石炭紀から続くペルム紀の地層には[[石炭]]が大量に埋蔵されているが、P-T境界を境に石炭が突然無くなる。これは全世界的に同時に起こっており、[[南極]]、[[オーストラリア]]、[[インド]]、[[中国]]などで確認されている。厚い石炭層が再度出現するのは中期三畳紀の終わりもしくは後期三畳紀からである<ref>「大絶滅」P156</ref>。石炭の消滅の原因については、石炭の元となる泥炭が生成する湿地帯が長期にわたる気候変動(温暖化等)で消滅したとも考えられるが、全世界的に一斉に石炭が消えていることから気候変動だけではなく湿地帯に生息していた植物類が消滅したと考えられている。またP-T境界を境に平野部の河川の流れ方が急激に変わったことが知られている。ペルム紀の湿潤な平野部の河川は現在と同様に蛇行しながらゆっくり流れ、流域には[[泥岩]]が多く堆積していたが、P-T境界を境に突然泥岩が減り[[砂岩]]や[[礫岩]]が出現する。また河川の流れ方も蛇行が減って網状に流れるタイプに変った<ref>「大絶滅」P153</ref>。これはP-T境界において流域の植物が壊滅的に減少して土壌が無くなったこと、気候がより温暖・乾燥化したことによる、雨水による浸食が激化したためと考えられている。この突然の変化は南アフリカ、オーストラリア、ヨーロッパ、[[ウラル山脈]]の南部、インドなど世界各地のP-T境界の地層で確認されている<ref>「大絶滅」P155</ref>。

==当時の地球環境と絶滅の原因==
[[File:LatePermianGlobal.jpg|thumb|300px|パンゲア大陸とパンサラッサ海の復元予想図、大陸の南部が白い氷床に覆われている]]
===超大陸の形成 ===
2.5億年前、地表に存在するほとんど全ての陸地が1か所に集合して[[超大陸]][[パンゲア大陸|パンゲア]]を形成した。パンゲア以外の地表はひとつの大きな海[[パンサラッサ]]となった。なおパンゲア大陸内部の[[地中海]]として[[テチス海]]が存在した。までいくつも存在していた大陸と海洋がひとつずつに減ってしまうことにって生息環境の多様性が減り、生物多様性が減少したことで種の数が減る可能性がある。この場合の生物種の減少は長期的(数百万年~数程度)なものなると考えられるが、P-T境界においては量絶滅百万年以内に発生していることから、超大陸の形成と絶滅の関連性は小さと考えられる。

===シベリア洪水玄武岩===
1992年に、過去6億年間でもっとも大きな火山噴火のひとつとされているシベリア[[洪水玄武岩]]([[シベリア台地玄武岩]])の噴出が、P-T境界と同時期に起こったと発表された。シベリア洪水玄武岩は現在残っている面積は日本(約38万平方km)の約2倍の67万5千平方kmであるが、元の範囲の推定値は拡大し続けている<ref>「大絶滅」P44</ref>。火山活動は1000km以上離れた少なくとも4箇所の独立した中心地を持ち<ref>「大絶滅」P217</ref>、溶岩はアメリカ全土(約963万平方km)の面積に近い700万平方kmを覆い、噴出総量は400万立方kmと推定されている<ref>単純な計算から溶岩の平均厚さは約600mである。</ref><ref>「大絶滅」P43</ref><ref>Nikihin, A.M., P.Ziegler, A.D.Abbott, M.Brunet, and S.Cloetingh. 2002. "Permo-Triassic intraplate magmatism and rifting in Eurasia: implications for mantle plumes and mantle dynamics." Tectonophysics 35:2-39 </ref>。火山活動の中心地のひとつシベリア北西部ノリリスク地区は溶岩の厚さが3700mあるが、ここの溶岩をアルゴン年代法で分析した結果火山活動の開始は2億5000万年前プラスマイナス160万年であるとされた<ref>Renne,P.R., Z.C.Zhang, M.A.Richards, M.T.Black, and A.R.Bass.1995."Synchrony and casual relations between Permian-Triassic boundary crises and Siberian flood volcanism." Science 269:1413-16 </ref>。また同じ地区の溶岩をウラン・鉛年代法で分析した結果、噴火年代は2億5170万年前プラスマイナス50万年から2億5110万年プラスマイナス40万年とされている<ref>「大絶滅」P99</ref>。すなわち 生物の大絶滅と同時に起こっており、P-T境界の大絶滅の重要な原因と考えられている。現在見られる玄武岩質溶岩の噴火はハワイの[[キラウエア火山]]噴火のように比較的おだやかで、火山灰を成層圏まで吹き上げるような爆発的な噴火ではないが、シベリア洪水玄武岩においては非常に爆発的な噴火を起こしたことが確認された。すなわちマントル深部から急速の上昇したとされ、また[[ダイヤモンド]]の母岩でもある[[キンバーライト]]・パイプ(地殻中のマグマの上昇速度は新幹線並みとされる<ref>「生命と地球の歴史」P147</ref>)がタイミル地方東部で確認されている<ref>「大絶滅」P44</ref><ref>Courtillot.V., and P.R.Renne. 2003. "On the ages of flood basalt events." Compte Rendu Geosciences 335:113-40 </ref>。

火山の噴火による環境への影響は下記のものが想定されているが、実際にどのような環境変化が生物を大量に死滅させたかは確認できていない。
*空気中に放出された大量の火山灰による地上への日射量減少による低温化、いわゆる「火山の冬」
*放出された硫黄が空中で酸化されて「硫酸エアロゾル」となって大気中に漂い、地上に到達する日射量を減少させることによる低温化<ref>硫酸エアロゾルは火山灰に比べて大気中に長期に滞留し、地球に入社する太陽光を反射したり吸収したりして地上に届く太陽エネルギーを減少させ、大気温度を低下させる。高橋正樹 『破局噴火』詳伝社新書 2008年 P182</ref><ref>歴史に残る玄武岩質の火山噴火で最大のものは1783年のアイスランドのラキ火山の噴火であるが、8ヶ月間に12立方kmの溶岩と大量の硫黄を噴出した。この硫黄は空気中で酸化されヨーロッパ大陸を青い霧「ブルーヘイズ」で覆い、ヨーロッパに低温化と深刻な飢饉をもたらした。</ref>
*大量の硫黄が空中で酸化して生成した[[酸性雨]]による環境破壊
*火山ガスの主成分の二酸化炭素([[温室効果]]ガス)による温暖化
*シベリア洪水玄武岩は厚い石炭層の上を覆った。地下の石炭は高温により分解してメタンガス(二酸化炭素よりも強い温室効果ガス)や二酸化炭素となって空中に放出された可能性があり、これらの温室効果ガスに由来する温暖化
世界各地のP-T境界の地層から大量の硫化物が見つかっている事<ref>「大絶滅」P191</ref>や、中国煤山のP-T境界の地層からマントル由来のストロンチウム同位体の顕著な増大から、シベリア洪水玄武岩とP-T境界の大絶滅が同時進行であったと推定される<ref>「大絶滅」P192</ref>。

なおP-T境界の前段階であるガダルピアン末の大絶滅において、中国雲南省にある洪水玄武岩の[[峨眉山]]巨大マグマ区との同時性が検討されている。この洪水玄武岩はシベリア洪水玄武岩より規模はかなり小さいもので、年代分析ではガダルピアン末の大絶滅と重なる数字が出されているが、両方の事件が同時に生起したと言う確認は取れていない。<ref>「大絶滅」P100</ref>

=== スーパーアノキシア ===
スーパーアノキシア(Superanoxia:超酸素欠乏事件)とは、P-T境界で起こった大規模な[[海洋無酸素事変|海洋酸素欠乏事件]]のこと。世界の各所に産出する当時の海洋起源の[[堆積岩]]([[泥岩]]や[[チャート (岩石)|チャート]]など)を調べると、約2億5,100万年前の前後約2,000万年にわたって[[海洋]]が[[酸素]]欠乏状態にあったことが判明している。地球史上では約100万年程度の酸素欠乏事件は何回か生起しているが、約2,000万年の間・全海洋で酸素欠乏が起こったのはP-T境界のみであった。スーパーアノキシアはP-T境界の前段階のガダルピアン末の大絶滅と同じ時期の2億6000万年前に始まり<ref>「生命と地球の歴史」P142</ref>、最盛期はP-T境界に一致している。最盛期にはその前後の地層にふんだんに見られる[[放散虫]]の化石が全く消滅しており、大洋の表層でも大量絶滅が起こっていたと考えられる<ref>「生命と地球の共進化」P211</ref>。P-T境界における酸素欠乏について、「大絶滅により光合成を行う生物が極度に減少した結果、海洋中の酸素が減少した」という考え方と、「何らかの原因で海洋が低酸素化した結果、呼吸できなくなった生物が大量に死滅した」という二通りの解釈がなされている

===海水準の変化===
顕生代の海水準の変化は主に気候が影響している。すなわち[[氷河期]]には大量の水が[[氷床]]として陸上に固定されるため海水準が低下し、温暖化によって海水準は上昇する。急激な海水準の低下は、浅海に住む生物の生存に打撃を与え絶滅の原因となる。古生代の石炭紀後期からペルム紀中期にかけて、地球は寒冷な氷河期(ゴンドワナ氷河時代)であった。パンゲア大陸の南部を形成するゴンドワナ大陸が広い範囲で氷床に覆われた<ref>「地球環境46億年の大変動史」P121</ref>。これらのことから、1980年代までの研究ではP-T境界の大絶滅の原因として海水準の低下を指摘する説もあったが、1990年代以後の中国南部や他の地域での研究結果から「P-T境界の50万年前から海水準は上昇しつつあった」とされている<ref>「大絶滅」P74</ref>。

===炭素同位体比の急変===
P-T境界の大絶滅と同時に、地上や海中において堆積した炭酸塩岩中の炭素同位体比が急変したことが確認されている。地球の炭素は質量数12の<sup>12</sup>Cと質量数13の<sup>13</sup>Cが約99:1の比率で存在しているが<ref><sup>12</sup>Cと<sup>13</sup>Cの比率は98.892:1.108 である。このほかに数千から数万年単位の遺跡の年代分析に使われる放射性元素の<sup>14</sup>Cがごく微量に存在する。</ref>、この炭素同位体比率を測定すると、空中の二酸化炭素、生物体内の有機物など存在する場所によって微妙に異なっている。地質年代に起こった出来事を分析するのに この炭素同位体比を比較する手法が最近重要視されている。同位体比は標準物質<ref>標準サンプルは[[白亜紀]]ピー・ディー類層の頭足類ベレムナイトの化石</ref>の<sup>13</sup>C比率との偏差の千分率(‰)で表され、一般にδ<sup>13</sup>C と表記される。同位体比が変化する原因は生物活動による。光合成生物が大気中の二酸化炭素<ref>二酸化炭素の供給源である火山ガスの現在のδ<sup>13</sup>Cは-5‰程度、表層海水が約2‰である</ref>を固定する際に<sup>12</sup>Cをより多く取り入れるため、植物や植物を食べた動物のδ<sup>13</sup>Cは元の二酸化炭素より低い値(-20から-25‰)をとる。生物が死後分解されずに地中に埋没すると、その分だけ大気の<sup>12</sup>Cが減ってδ<sup>13</sup>Cがプラス側に推移する。生物の死骸が変化してできた石炭、石油、天然ガス(主成分は[[メタン]])、メタンハイドレート等のδ<sup>13</sup>Cの値も大きなマイナス値を示す。海洋で堆積する石灰岩は、化学的に堆積したものも生物活動に由来するものも大気中の二酸化炭素を原料として作られるため、石灰岩のδ<sup>13</sup>Cの変化は、大気中の二酸化炭素のそれを反映している。ペルム紀後期の石灰岩のδ<sup>13</sup>Cはほぼ3-4‰で安定していたが、P-T境界で急激に低下し-2‰の値をとり、三畳紀初頭に0-1‰まで回復する。この変動のピークは2回あり急激な変動の期間は約16万年と見積もられている<ref>「大絶滅」P179</ref>。この急激なδ<sup>13</sup>Cの変化は大気中の二酸化炭素の変化を示すもので、必然的に地球全体で同時に生起した。海中以外でも陸上のP-T境界の地層に同様の変動が記録されており大絶滅が地上でも同時に起こったことの証拠とされ、またP-T境界の地層を特定するための指標として使われている。この急激なδ<sup>13</sup>Cの低下の原因については、生物起源の有機物の空中への大量放出や、光合成生物の激減による炭素分別の停止などが考えられる。今まで下記のような仮説が提出されているがどの仮説も決定的な証拠は出ていない<ref>「大絶滅」P190</ref>。
*温暖化に伴う[[メタンハイドレート]]の大量放出
*当時大量に石炭が堆積していたシベリアに洪水玄武岩の流出した結果発生した石炭の分解・燃焼
*全世界で地上の草木が激減して土壌が露出・流出し、土壌中の有機物が酸化された
*植物が死滅してしまい光合成が長期間低下した結果、大気中の二酸化炭素のδ<sup>13</sup>C値が火山ガスの値に近づいた

===巨大隕石の落下の可能性===
恐竜が絶滅した事件である「K-T境界」においては、巨大な隕石が落下したことが確実視されつつある。巨大な隕石が地球に落下した場合の環境への影響は大きく、大絶滅を起こしうるためP-T境界においてもクレーターの探索が行われており、オーストラリア<ref>Beckerらが2004年のScienceへ投稿したベドー構造など</ref>や南極において巨大クレーター発見の報告がなされている。巨大隕石が地球に落下したK-T境界では次のような現象が確認されており、生物が大量に死滅する状況を表している。<ref>「地球環境46億年の大変動」P169-P192</ref>。
*落下の衝撃による巨大クレーターの存在
*衝突に伴って発生した空中に飛散した塵(ダスト雲)からの砕屑物の層が地球規模で広がっている。大量のダストが地球全体を覆ったと考えられる。
*地球外からもたらされたと判断される元素の濃集、K-T境界ではイリジウムの濃集が判明している。
*隕石衝突のエネルギーによる全地球的な森林火事の発生、P-T境界の地層から地上のすべての森林が燃えた量に相当する大量の煤が発見されている。本体の隕石以外に落下地点から飛び散った破片が大気圏へ再落下するときの熱が火元となって、落下地点から離れた場所でも火災が起こった可能性がある。
*衝突により発生した巨大津波(最大波高300m)の証拠
P-T境界においては今のところ巨大クレーター発見の報告はあるが2項目目以後については確認されていない。地球外物質の落下がP-T境界の大絶滅の直接原因となった可能性は今のところ高くない。

==絶滅からの生物多様性回復の遅れ==
[[File:Isoetes japonica.JPG|thumb|250px|P-T境界後の三畳紀の陸地に広範に繁殖したミズニラの現生種]]
過去のすべての大絶滅事件の後には、絶滅した生物種に変って次世代の生物が繁栄して生物多様性が回復した。たとえばK-T境界では恐竜に代表される大型爬虫類のほとんどが絶滅した後、数十万年<ref>「生命と地球の歴史」P156</ref><ref>「大絶滅」P16</ref>で哺乳類や鳥類が多様性をもたらした。P-T境界において生物多様性の回復は非常に遅れ、400万年後においても種の数が回復せず、本格的に回復したのは約1000万年後<ref>「生命と地球の歴史」P156</ref>である。生物多様性の回復が遅れた原因は、P-T境界後も引き続き地球環境が生物の生存に対して厳しい条件にあった可能性が考えられる<ref>「大絶滅」P233</ref>。

===化石として見つかる種の数が少ない===
アメリカの[[テキサス州]]のペルム紀の海洋地層では底生生物数千種、そのうち巻貝が数百種が確認されているが、[[ユタ州]]の砂岩・石灰岩地帯で採取される大絶滅後の三畳紀初期の地層には底生の生物22属、巻き貝化石の種類は9-10種類しか見つかっていない<ref>「大絶滅」P1</ref><ref>「大絶滅」P232</ref>。また世界各地の三畳紀初期の地層には二枚貝の「クラライア」や腕足類の「リンギュラ」のみが数百万以上かたまって見つかる場合も多い<ref>たとえばアメリカ西部の前期三畳紀のデインウッディ累層の全化石のうち49%がリンギュラである。「大絶滅」P239</ref>。この2種類は通常は低酸素条件下に生息する生物で、当時の浅海は引き続き低酸素状態であった可能性が示唆されている<ref>「大絶滅」P52</ref>。さらに上記スーパーアノキシアがP-T境界後も約1000万年間継続していることと整合している<ref>「大絶滅」P53</ref>。

またクラライアやリンギュラの同一種は、ユタ州、北イタリア、イラン、中国南部、日本でも三畳紀初頭の化石の主体として確認されており<ref>「大絶滅」P2</ref>、この期間は種の多様性が著しく低下していた。クラライアやリンギュラは他の生物が出現し始める前期三畳紀の終わりにはまれにしか見つからなくなる<ref>「大絶滅」P239</ref>。

===ストロマトライトの繁栄===
[[ストロマトライト]]は[[原生代]]に繁栄した微生物群集によって構築された堆積岩でありカンブリア紀以後姿を消していたが、三畳紀初頭の海洋で広範囲に分布していた。ストロマトライトは現在でもオーストラリアのシャーク湾等で見ることができるが、捕食者に対する防御に欠けるため他の生物が生息できない条件<ref>シャーク湾では熱帯にある入り口の狭い湾で水の蒸発が激しく塩分濃度が濃いため他の生物が生息できない</ref>で生きている。この三畳紀初頭のストロマトライトの化石がドイツ<ref>原生代の代表であるストロマトライト化石は、ドイツの三畳紀初頭の地層から発見された。「大絶滅」P238</ref>・アメリカ西部・トルコ・グリーンランド・中国南部・イラン・日本で見つかっており、400から500万年の間浅海で繁栄していた<ref>「大絶滅」P238</ref>。この期間の海洋においてストロマトライトを捕食する生物が激減していたと考えられる。

===植物の状況===
上記のように前期三畳紀の地層からは今のところ石炭が見つかっていない。石炭の元となる泥炭地の植物が激減したと思われる<ref>「大絶滅」P247</ref>。オーストラリアの三畳紀初頭の地層からは小さい[[ミズニラ]]、背の低い[[ヒカゲノカズラ]]、種子シダ、[[トクサ]]、少数の[[針葉樹]]が見つかっている。特にミズニラ類のアイソエステは13の新種が前期三畳紀の湿地・氾濫原・砂漠などに広がった。当時熱帯に位置していたヨーロッパでもミズニラはヒカゲノカズラとともに主要な植物であった。これら前期三畳紀に特有な植物から中生代を代表する針葉樹に植生が変るのはオーストラリアとヨーロッパでは中期三畳紀の始め、中国では中期三畳紀の後半であった<ref>「大絶滅」P245-P247</ref>。



<!-- 上記の説明と異なる内容が多く また「メタンには炭素12が多く含まれており」(普通の炭素は99%が炭素12です)など誤解を招く表現があるためコメントアウトします。
== 想定されるシナリオ ==
== 想定されるシナリオ ==
これらをまとめて説明することが検討されている。一例として下記のシナリオが提案されている。
これらをまとめて説明することが検討されている。一例として下記のシナリオが提案されている。
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*当時、[[植物]]による長年の光合成によって、[[酸素]]は大気の30%程度を占めるまでに蓄積していたが、メタンハイドレートから放出された大量の[[メタン]]の燃焼に消費され、又、メタンと酸素が反応して別の物質に変わってしまったため10%程度にまで急減してしまった。(生物が呼吸困難を起こすのは15%ぐらいである)そのうえ、多くの植物がこの時に絶滅してしまった。このことの裏づけとして、酸素がある環境では作られないはずの[[ベルチェリン]](Berthierine)が南極の当時の地層から見つかっている。<ref>なお、その後酸素濃度が回復するまでに約一億年かかったとされるが、これが恐竜の[[気嚢]]システムを誕生させ(のちの[[鳥類]]につながる)、なおかつ当時繁栄していた哺乳類型爬虫類が完全な哺乳類に進化し、[[子宮]]をもつものの子孫の生存の確実性が増し、[[哺乳類]]が[[横隔膜]]をもつことにより呼吸機能が改善されたとされる。この説は2004年放送の[[日本放送協会|NHK]][[地球大進化〜46億年・人類への旅|地球大進化]]の第4章に詳しく紹介されている。</ref>
*当時、[[植物]]による長年の光合成によって、[[酸素]]は大気の30%程度を占めるまでに蓄積していたが、メタンハイドレートから放出された大量の[[メタン]]の燃焼に消費され、又、メタンと酸素が反応して別の物質に変わってしまったため10%程度にまで急減してしまった。(生物が呼吸困難を起こすのは15%ぐらいである)そのうえ、多くの植物がこの時に絶滅してしまった。このことの裏づけとして、酸素がある環境では作られないはずの[[ベルチェリン]](Berthierine)が南極の当時の地層から見つかっている。<ref>なお、その後酸素濃度が回復するまでに約一億年かかったとされるが、これが恐竜の[[気嚢]]システムを誕生させ(のちの[[鳥類]]につながる)、なおかつ当時繁栄していた哺乳類型爬虫類が完全な哺乳類に進化し、[[子宮]]をもつものの子孫の生存の確実性が増し、[[哺乳類]]が[[横隔膜]]をもつことにより呼吸機能が改善されたとされる。この説は2004年放送の[[日本放送協会|NHK]][[地球大進化〜46億年・人類への旅|地球大進化]]の第4章に詳しく紹介されている。</ref>
* メタンハイドレートの融解によって、赤道付近では気温が10度あがり、極地では、20度~30度あがった。
* メタンハイドレートの融解によって、赤道付近では気温が10度あがり、極地では、20度~30度あがった。
* この結果、[[環境]]の変化に耐え切れず多くの生物が死に絶え、[[生態系]]が崩壊。最終的に生物の95%が死滅するに至った。
* この結果、[[環境]]の変化に耐え切れず多くの生物が死に絶え、[[生態系]]が崩壊。最終的に生物の95%が死滅するに至った。-->


=== 顕生代の内訳のグラフ ===
== 顕生代の内訳のグラフ ==
''地質時代区分表は[[地質時代]]を参照。''
''地質時代区分表は[[地質時代]]を参照。''
* 上段:左から、古生代、中生代、新生代を示している。
* 上段:左から、古生代、中生代、新生代を示している。
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<!-- 書式は[[Wikipedia:出典を明記する]]に従う -->
<!-- 書式は[[Wikipedia:出典を明記する]]に従う -->
*Douglas H. Erwin著 大野照文監訳 『大絶滅』共立出版2009年 ISBN 978-4-320-05685-5
* [[丸山茂徳]]・[[磯崎行雄]] 『生命と地球の歴史』 [[岩波書店]]〈[[岩波新書]]〉1998年、ISBN 4-00-430543-8。
* [[丸山茂徳]]・[[磯崎行雄]] 『生命と地球の歴史』 [[岩波書店]]〈[[岩波新書]]〉1998年、ISBN 4-00-430543-8。
*川上紳一・東条文治 『図解入門 最新地球史がよくわかる本』秀和システム 2006年 ISBN 4-7980-1260-2

*川上紳一 『生命と地球の共進化』NHKブックス 2000年 ISBN 4-14-001888-7
*田近英一『地球環境46億年の大変動史』科学同人 2009年 ISBN 978-4-7598-1324-1
<!-- == 外部リンク == -->
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[[es:Extinción masiva del Pérmico-Triásico]]
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[[eu:Permo-Triasiar iraungipen masiboa]]
[[eu:Permo-Triasiar iraungipen masiboa]]
[[fa:رویداد انقراض پرمیان-تریاس]]
[[fi:Permikauden joukkotuho]]
[[fi:Permikauden joukkotuho]]
[[fr:Extinction Permien-Trias]]
[[fr:Extinction Permien-Trias]]

2011年1月26日 (水) 06:54時点における版

P-T境界(ぴーてぃーきょうかい)とは地質年代区分の用語で、約2億5,100万年前の古生代中生代の境目に相当する。古生物学上では史上最大級の大量絶滅が発生したことで知られている。

名称の由来

古生代最後のペルム紀Permian)と中生代最初の三畳紀Triassic)の境目であることから、両者の頭文字を取って「P-T境界」と命名された。地質学的では時代境界は新しい生物種[1]の出現時期を規定しているため、時代境界の地層と生物の大量絶滅時期の地層とは一致しない。この大絶滅を厳密に規定すると「後期ペルム紀大量絶滅」とすべきであるが、地質学者の間でもこの事件をP-T境界の大絶滅と呼ぶことに異論を唱える人は少ない。[2]

大量絶滅

一般に古生代の陸上生物は両生類単弓類、中生代は恐竜に代表される爬虫類の時代と言われている。P-T境界では、この交代の原因となった大量絶滅事件が起こった。ペルム紀末に海中に住んでいた海棲無脊椎動物レベルでの絶滅率は90%以上[3]、82%の属、半分の科が消滅したと見積もられている[4]。この中には三葉虫・古生代型サンゴフズリナなど古生代に幅広く棲息していた生物種が含まれる[5]。脊椎動物では82%の科が絶滅した[6]。また昆虫植物などの陸上生物もたくさんの種類が絶滅した。絶滅した生物種は恐竜の絶滅で有名なK-T境界よりはるかに多く、カンブリア紀以降で最大規模の絶滅であった[7]。大絶滅の原因については種々の仮説が提出されているが、いまのところ地質学者の大半が同意するような明確な説は無い。

絶滅年代

地質時代の年代分析については、1990年代以降新しい分析技術に基づいた研究が著しく進んだ。このP-T境界についても それまでは何百万年も続いた出来事だと考えられてきたが[8]、1994年にStanleyとYang[9]がペルム紀末の絶滅が800万年から1000万年の間を隔てた2回の大量絶滅であることを発表し、さらに1996年にアメリカのノルが「絶滅事件は約2億6000万年前と約2億5000万年前の2回起こった」とサイエンスに発表した[10]。最初の2億6000万年前の事件は、ペルム紀中期に相当するガダルピアン世の末期に相当するが、海水準が突然低下し多数の海洋生物が絶滅したとされており、陸上生物についても環境変化による大量絶滅があった。2番目の事件が古生代の生態系が壊滅した破局的な大量絶滅に相当する[11]。2番目の(本来の)大絶滅事件については中国南部の煤山にある当時の礁の地層[12]に挟み込まれた複数の火山灰[13]の分析から、2億5160万年前に突然絶滅が始まり続く百万年で大絶滅が起こったと想定されている[14] [15]。この年代値は中国の煤山と、そこから1000km離れた中国広西壮族自治区にあるP-T境界層で同じ値が得られている[16]


海洋動物

顕生代の生物多様性(科レベル)の推移。横軸は年代を表し単位は百万年。灰色がセプコスキのデータ、緑色が"well-defined"データ、黄色の三角が5大絶滅事件。2億5000万年前に位置する谷間がP-T境界、右側6000万年前の谷が恐竜が絶滅したK-T境界
古生代に繁栄したウミユリの化石

海洋生物の多様性の推移について、1980年代にシカゴ大学のジャック・セプコスキが海洋生物の科が化石として最初に現れてから最後に消えるまでを記した一覧表を作成した(右図灰色の部分)。その結果約2億5000万年前にもっとも大きな大量絶滅が起こっていることが判明した。セプコスキは海洋生物の進化度を *カンブリア型進化動物相、*古生代型進化動物相、*現代型進化動物相の3種に分類して各々の科の消長を記録した。カンブリア型進化動物相は三葉虫に代表される最も古い動物相で、ペルム紀の前の石炭紀にすでに大幅に衰退していたが、ペルム紀末にすべて絶滅した。古生代型進化動物相はペルム紀当時の浅い海で最も繁栄していた相で、有関節腕足類、古生代型サンゴ、アンモナイト[17]ウミユリ、レース状コケムシ等であるが、P-T境界で72%の科が絶滅した。現代型進化動物相は二枚貝腹足類甲殻類硬骨魚類、軟骨魚類であるが、科レベルでの絶滅率は27%であった[18]。以下分類群ごとに解説する。

  • フズリナ族:P-T境界の前段階の2億6000万年前(ガダルピアン末)において59属が14属に減少した[19]。その後P-T境界において消滅。
  • アンモナイト族:アンモナイト族は消長が激しいのが特徴。ガダルピアン末において2/3の属が絶滅、その後約1000万年の間に数十の属が現れたがP-T境界において97%の属が絶滅。中生代の海中で再度繁栄したがK-T境界で消滅[20][21]
  • 腕足類:浅い海に固定して生活する腕足類は古生代の海を代表する生物であったが、ガダルピアン末の大量絶滅とP-T境界の大量絶滅の双方で重大な影響を受け、ペルム紀中期に生息していた科の90%が中生代が始まる前に消滅した[22]
  • サンゴ:古生代の礁には現在の六方サンゴとは異なる床板サンゴと四放サンゴが繁栄していたが、ガダルピアン末にほとんど消滅し、残った10科107種もP-T境界においてすべて絶滅[23]。現代のサンゴは古生代の種とは別の系統から派生した。
  • 腹足類:ガダルピアン末に20-25%の属が消滅、P-T境界において41%の属が消えた[24]
  • 二枚貝は古生代の末期に26%の科が絶滅。
  • ウミユリを含む棘皮動物は古生代前紀に21網生息していたが現在5網しか生存していない[25]

ガダルピアン紀末の絶滅では海水準の急激な低下により当時のかなりの浅海が干上がったことが判明しており、このため浅海中において分布域の狭い属が大きな打撃を受けた。P-T境界においては分布域の大小による影響は少なかった[26]が、大絶滅によって礁を形成する生物が死滅したため全地球的に礁が死滅し、礁において石灰岩のような炭酸塩岩の生成量がほとんどゼロになった[27]。 P-T境界における生物種の絶滅度の違いを分析したバンバックとノールは「石灰化した殻を持ち、鰓を持たず、細胞が直接酸素を吸収する循環器系の弱い動物類が絶滅の影響を強く受けた」と判断した[28]。何らかの要因で水中の酸素が減って二酸化炭素が増えると、この種の生物は酸素を体内に取り入れることができなくなって死滅したとされている。鰓を有し活動的な循環器系と高い代謝率を有する動物、当時の軟体動物や節足動物や脊椎動物は絶滅の影響が比較的少なかった。P-T境界の前段階であるガダルピアン末の絶滅では鰓のない代謝の低い生物属の65%が絶滅したが鰓のあるグループの属レベルでの絶滅率は49%であり、P-T境界では前者の属単位での絶滅率87%に対し後者の絶滅率は38%であった。[29]

陸上の動物

陸上の動物においてもペルム紀末に2段階の大量絶滅が起こった。

古生代に生きていたディキノドンの創造図
  • 爬虫類:ペルム紀中期に生息していた26属のうち、ガダルピアン末に相当する約2億6000万年前に9属が絶滅。その後多様性が回復し44属になったがP-T境界後に再度大きな影響を受け、生き残ったのは7属だけとなった[30]
  • 単弓類:ディキノドンなどの単弓類は、P-T境界において35属が2属に減った[31]
  • 昆虫類:昆虫類は大量絶滅を受けにくい生物で、P-T境界は昆虫類が唯一影響を受けた大量絶滅事件である。古生代に22属が生息していたと見られるがペルム紀末に8目が消滅した。その後は1,2目しか絶滅していない[32]

植物

古生代は沼沢林のシダ類、ヒカゲノカズラ類および木生シダが繁茂していたが、中生代には針葉樹イチョウソテツおよび現生シダに置き換わった。古生代の石炭紀から続くペルム紀の地層には石炭が大量に埋蔵されているが、P-T境界を境に石炭が突然無くなる。これは全世界的に同時に起こっており、南極オーストラリアインド中国などで確認されている。厚い石炭層が再度出現するのは中期三畳紀の終わりもしくは後期三畳紀からである[33]。石炭の消滅の原因については、石炭の元となる泥炭が生成する湿地帯が長期にわたる気候変動(温暖化等)で消滅したとも考えられるが、全世界的に一斉に石炭が消えていることから気候変動だけではなく湿地帯に生息していた植物類が消滅したと考えられている。またP-T境界を境に平野部の河川の流れ方が急激に変わったことが知られている。ペルム紀の湿潤な平野部の河川は現在と同様に蛇行しながらゆっくり流れ、流域には泥岩が多く堆積していたが、P-T境界を境に突然泥岩が減り砂岩礫岩が出現する。また河川の流れ方も蛇行が減って網状に流れるタイプに変った[34]。これはP-T境界において流域の植物が壊滅的に減少して土壌が無くなったこと、気候がより温暖・乾燥化したことによる、雨水による浸食が激化したためと考えられている。この突然の変化は南アフリカ、オーストラリア、ヨーロッパ、ウラル山脈の南部、インドなど世界各地のP-T境界の地層で確認されている[35]

当時の地球環境と絶滅の原因

ファイル:LatePermianGlobal.jpg
パンゲア大陸とパンサラッサ海の復元予想図、大陸の南部が白い氷床に覆われている

超大陸の形成

2.5億年前、地表に存在するほとんど全ての陸地が1か所に集合して超大陸パンゲアを形成した。パンゲア以外の地表はひとつの大きな海パンサラッサとなった。なおパンゲア大陸内部の地中海としてテチス海が存在した。それまでいくつも存在していた大陸と海洋がひとつずつに減ってしまうことによって生息環境の多様性が減り、生物多様性が減少したことで種の数が減る可能性がある。この場合の生物種の減少は長期的(数百万年~数千万年程度)なものになると考えられるが、P-T境界においては大量絶滅が百万年以内に発生していることから、超大陸の形成と絶滅の関連性は小さいと考えられる。

シベリア洪水玄武岩

1992年に、過去6億年間でもっとも大きな火山噴火のひとつとされているシベリア洪水玄武岩シベリア台地玄武岩)の噴出が、P-T境界と同時期に起こったと発表された。シベリア洪水玄武岩は現在残っている面積は日本(約38万平方km)の約2倍の67万5千平方kmであるが、元の範囲の推定値は拡大し続けている[36]。火山活動は1000km以上離れた少なくとも4箇所の独立した中心地を持ち[37]、溶岩はアメリカ全土(約963万平方km)の面積に近い700万平方kmを覆い、噴出総量は400万立方kmと推定されている[38][39][40]。火山活動の中心地のひとつシベリア北西部ノリリスク地区は溶岩の厚さが3700mあるが、ここの溶岩をアルゴン年代法で分析した結果火山活動の開始は2億5000万年前プラスマイナス160万年であるとされた[41]。また同じ地区の溶岩をウラン・鉛年代法で分析した結果、噴火年代は2億5170万年前プラスマイナス50万年から2億5110万年プラスマイナス40万年とされている[42]。すなわち 生物の大絶滅と同時に起こっており、P-T境界の大絶滅の重要な原因と考えられている。現在見られる玄武岩質溶岩の噴火はハワイのキラウエア火山噴火のように比較的おだやかで、火山灰を成層圏まで吹き上げるような爆発的な噴火ではないが、シベリア洪水玄武岩においては非常に爆発的な噴火を起こしたことが確認された。すなわちマントル深部から急速の上昇したとされ、またダイヤモンドの母岩でもあるキンバーライト・パイプ(地殻中のマグマの上昇速度は新幹線並みとされる[43])がタイミル地方東部で確認されている[44][45]

火山の噴火による環境への影響は下記のものが想定されているが、実際にどのような環境変化が生物を大量に死滅させたかは確認できていない。

  • 空気中に放出された大量の火山灰による地上への日射量減少による低温化、いわゆる「火山の冬」
  • 放出された硫黄が空中で酸化されて「硫酸エアロゾル」となって大気中に漂い、地上に到達する日射量を減少させることによる低温化[46][47]
  • 大量の硫黄が空中で酸化して生成した酸性雨による環境破壊
  • 火山ガスの主成分の二酸化炭素(温室効果ガス)による温暖化
  • シベリア洪水玄武岩は厚い石炭層の上を覆った。地下の石炭は高温により分解してメタンガス(二酸化炭素よりも強い温室効果ガス)や二酸化炭素となって空中に放出された可能性があり、これらの温室効果ガスに由来する温暖化

世界各地のP-T境界の地層から大量の硫化物が見つかっている事[48]や、中国煤山のP-T境界の地層からマントル由来のストロンチウム同位体の顕著な増大から、シベリア洪水玄武岩とP-T境界の大絶滅が同時進行であったと推定される[49]

なおP-T境界の前段階であるガダルピアン末の大絶滅において、中国雲南省にある洪水玄武岩の峨眉山巨大マグマ区との同時性が検討されている。この洪水玄武岩はシベリア洪水玄武岩より規模はかなり小さいもので、年代分析ではガダルピアン末の大絶滅と重なる数字が出されているが、両方の事件が同時に生起したと言う確認は取れていない。[50]

スーパーアノキシア

スーパーアノキシア(Superanoxia:超酸素欠乏事件)とは、P-T境界で起こった大規模な海洋酸素欠乏事件のこと。世界の各所に産出する当時の海洋起源の堆積岩泥岩チャートなど)を調べると、約2億5,100万年前の前後約2,000万年にわたって海洋酸素欠乏状態にあったことが判明している。地球史上では約100万年程度の酸素欠乏事件は何回か生起しているが、約2,000万年の間・全海洋で酸素欠乏が起こったのはP-T境界のみであった。スーパーアノキシアはP-T境界の前段階のガダルピアン末の大絶滅と同じ時期の2億6000万年前に始まり[51]、最盛期はP-T境界に一致している。最盛期にはその前後の地層にふんだんに見られる放散虫の化石が全く消滅しており、大洋の表層でも大量絶滅が起こっていたと考えられる[52]。P-T境界における酸素欠乏について、「大絶滅により光合成を行う生物が極度に減少した結果、海洋中の酸素が減少した」という考え方と、「何らかの原因で海洋が低酸素化した結果、呼吸できなくなった生物が大量に死滅した」という二通りの解釈がなされている。

海水準の変化

顕生代の海水準の変化は主に気候が影響している。すなわち氷河期には大量の水が氷床として陸上に固定されるため海水準が低下し、温暖化によって海水準は上昇する。急激な海水準の低下は、浅海に住む生物の生存に打撃を与え絶滅の原因となる。古生代の石炭紀後期からペルム紀中期にかけて、地球は寒冷な氷河期(ゴンドワナ氷河時代)であった。パンゲア大陸の南部を形成するゴンドワナ大陸が広い範囲で氷床に覆われた[53]。これらのことから、1980年代までの研究ではP-T境界の大絶滅の原因として海水準の低下を指摘する説もあったが、1990年代以後の中国南部や他の地域での研究結果から「P-T境界の50万年前から海水準は上昇しつつあった」とされている[54]

炭素同位体比の急変

P-T境界の大絶滅と同時に、地上や海中において堆積した炭酸塩岩中の炭素同位体比が急変したことが確認されている。地球の炭素は質量数12の12Cと質量数13の13Cが約99:1の比率で存在しているが[55]、この炭素同位体比率を測定すると、空中の二酸化炭素、生物体内の有機物など存在する場所によって微妙に異なっている。地質年代に起こった出来事を分析するのに この炭素同位体比を比較する手法が最近重要視されている。同位体比は標準物質[56]13C比率との偏差の千分率(‰)で表され、一般にδ13C と表記される。同位体比が変化する原因は生物活動による。光合成生物が大気中の二酸化炭素[57]を固定する際に12Cをより多く取り入れるため、植物や植物を食べた動物のδ13Cは元の二酸化炭素より低い値(-20から-25‰)をとる。生物が死後分解されずに地中に埋没すると、その分だけ大気の12Cが減ってδ13Cがプラス側に推移する。生物の死骸が変化してできた石炭、石油、天然ガス(主成分はメタン)、メタンハイドレート等のδ13Cの値も大きなマイナス値を示す。海洋で堆積する石灰岩は、化学的に堆積したものも生物活動に由来するものも大気中の二酸化炭素を原料として作られるため、石灰岩のδ13Cの変化は、大気中の二酸化炭素のそれを反映している。ペルム紀後期の石灰岩のδ13Cはほぼ3-4‰で安定していたが、P-T境界で急激に低下し-2‰の値をとり、三畳紀初頭に0-1‰まで回復する。この変動のピークは2回あり急激な変動の期間は約16万年と見積もられている[58]。この急激なδ13Cの変化は大気中の二酸化炭素の変化を示すもので、必然的に地球全体で同時に生起した。海中以外でも陸上のP-T境界の地層に同様の変動が記録されており大絶滅が地上でも同時に起こったことの証拠とされ、またP-T境界の地層を特定するための指標として使われている。この急激なδ13Cの低下の原因については、生物起源の有機物の空中への大量放出や、光合成生物の激減による炭素分別の停止などが考えられる。今まで下記のような仮説が提出されているがどの仮説も決定的な証拠は出ていない[59]

  • 温暖化に伴うメタンハイドレートの大量放出
  • 当時大量に石炭が堆積していたシベリアに洪水玄武岩の流出した結果発生した石炭の分解・燃焼
  • 全世界で地上の草木が激減して土壌が露出・流出し、土壌中の有機物が酸化された
  • 植物が死滅してしまい光合成が長期間低下した結果、大気中の二酸化炭素のδ13C値が火山ガスの値に近づいた

巨大隕石の落下の可能性

恐竜が絶滅した事件である「K-T境界」においては、巨大な隕石が落下したことが確実視されつつある。巨大な隕石が地球に落下した場合の環境への影響は大きく、大絶滅を起こしうるためP-T境界においてもクレーターの探索が行われており、オーストラリア[60]や南極において巨大クレーター発見の報告がなされている。巨大隕石が地球に落下したK-T境界では次のような現象が確認されており、生物が大量に死滅する状況を表している。[61]

  • 落下の衝撃による巨大クレーターの存在
  • 衝突に伴って発生した空中に飛散した塵(ダスト雲)からの砕屑物の層が地球規模で広がっている。大量のダストが地球全体を覆ったと考えられる。
  • 地球外からもたらされたと判断される元素の濃集、K-T境界ではイリジウムの濃集が判明している。
  • 隕石衝突のエネルギーによる全地球的な森林火事の発生、P-T境界の地層から地上のすべての森林が燃えた量に相当する大量の煤が発見されている。本体の隕石以外に落下地点から飛び散った破片が大気圏へ再落下するときの熱が火元となって、落下地点から離れた場所でも火災が起こった可能性がある。
  • 衝突により発生した巨大津波(最大波高300m)の証拠

P-T境界においては今のところ巨大クレーター発見の報告はあるが2項目目以後については確認されていない。地球外物質の落下がP-T境界の大絶滅の直接原因となった可能性は今のところ高くない。

絶滅からの生物多様性回復の遅れ

ファイル:Isoetes japonica.JPG
P-T境界後の三畳紀の陸地に広範に繁殖したミズニラの現生種

過去のすべての大絶滅事件の後には、絶滅した生物種に変って次世代の生物が繁栄して生物多様性が回復した。たとえばK-T境界では恐竜に代表される大型爬虫類のほとんどが絶滅した後、数十万年[62][63]で哺乳類や鳥類が多様性をもたらした。P-T境界において生物多様性の回復は非常に遅れ、400万年後においても種の数が回復せず、本格的に回復したのは約1000万年後[64]である。生物多様性の回復が遅れた原因は、P-T境界後も引き続き地球環境が生物の生存に対して厳しい条件にあった可能性が考えられる[65]

化石として見つかる種の数が少ない

アメリカのテキサス州のペルム紀の海洋地層では底生生物数千種、そのうち巻貝が数百種が確認されているが、ユタ州の砂岩・石灰岩地帯で採取される大絶滅後の三畳紀初期の地層には底生の生物22属、巻き貝化石の種類は9-10種類しか見つかっていない[66][67]。また世界各地の三畳紀初期の地層には二枚貝の「クラライア」や腕足類の「リンギュラ」のみが数百万以上かたまって見つかる場合も多い[68]。この2種類は通常は低酸素条件下に生息する生物で、当時の浅海は引き続き低酸素状態であった可能性が示唆されている[69]。さらに上記スーパーアノキシアがP-T境界後も約1000万年間継続していることと整合している[70]

またクラライアやリンギュラの同一種は、ユタ州、北イタリア、イラン、中国南部、日本でも三畳紀初頭の化石の主体として確認されており[71]、この期間は種の多様性が著しく低下していた。クラライアやリンギュラは他の生物が出現し始める前期三畳紀の終わりにはまれにしか見つからなくなる[72]

ストロマトライトの繁栄

ストロマトライト原生代に繁栄した微生物群集によって構築された堆積岩でありカンブリア紀以後姿を消していたが、三畳紀初頭の海洋で広範囲に分布していた。ストロマトライトは現在でもオーストラリアのシャーク湾等で見ることができるが、捕食者に対する防御に欠けるため他の生物が生息できない条件[73]で生きている。この三畳紀初頭のストロマトライトの化石がドイツ[74]・アメリカ西部・トルコ・グリーンランド・中国南部・イラン・日本で見つかっており、400から500万年の間浅海で繁栄していた[75]。この期間の海洋においてストロマトライトを捕食する生物が激減していたと考えられる。

植物の状況

上記のように前期三畳紀の地層からは今のところ石炭が見つかっていない。石炭の元となる泥炭地の植物が激減したと思われる[76]。オーストラリアの三畳紀初頭の地層からは小さいミズニラ、背の低いヒカゲノカズラ、種子シダ、トクサ、少数の針葉樹が見つかっている。特にミズニラ類のアイソエステは13の新種が前期三畳紀の湿地・氾濫原・砂漠などに広がった。当時熱帯に位置していたヨーロッパでもミズニラはヒカゲノカズラとともに主要な植物であった。これら前期三畳紀に特有な植物から中生代を代表する針葉樹に植生が変るのはオーストラリアとヨーロッパでは中期三畳紀の始め、中国では中期三畳紀の後半であった[77]



顕生代の内訳のグラフ

地質時代区分表は地質時代を参照。

  • 上段:左から、古生代、中生代、新生代を示している。
  • 下段:カンブリア紀から第四紀までを紀ごとに示している。(右端の第四紀は見えにくい可能性がある。)
古生代 中生代 新生代





























(P)




(T)









(K)




(T)




. P-T境界 . K-T境界 .

脚注

  1. ^ 三畳紀の始まりはコノドントの種ヒンデオダス・パルヴスの化石で規定される、「大絶滅」P279
  2. ^ 「大絶滅」P278
  3. ^ シカゴ大学のセプコスキの計算では最大96%の種が絶滅した。「生命と地球の歴史」P137
  4. ^ 「大絶滅」P8
  5. ^ 「生命と地球の歴史」P137
  6. ^ 「大絶滅」P153
  7. ^ 「生命と地球の共進化」P207
  8. ^ 「大絶滅」P10
  9. ^ Stanley,S.M., and X.Yang.1994."A double mass extinction at the end of the Paleozoic era."Science 266:1340-44
  10. ^ 「生命と地球の共進化」P213
  11. ^ 「大絶滅」P10
  12. ^ この地層はペルム紀末から三畳紀にかけての国際模式層序地(GSSPs)に指定されている。
  13. ^ この火山灰は、当時煤山の近くにあった火山の爆発的な噴火により供給されたもので、シベリア洪水玄武岩のものではない
  14. ^ 「大絶滅」P72、元データはBowring,S.A., D.H.Erwin, Y.G.Jin, M.W.Martin, K.L.Davidek, and W.Wang. 1998. "U/Pb zircon geochronology and tempo of end-Permian mass extinction.2 Science 280:1039-45
  15. ^ 火山灰中のジルコン結晶に含まれるウラン・鉛分析の結果から算出。
  16. ^ 「大絶滅」P95
  17. ^ 参考文献中ではアンモナイトとアンモノイドの表記が混在しているが、この項ではアンモナイトに統一して表記する
  18. ^ 「大絶滅」P108
  19. ^ 「大絶滅」P110
  20. ^ 「大絶滅」P111
  21. ^ 「大絶滅」P121
  22. ^ 「大絶滅」P114
  23. ^ 「大絶滅」P119
  24. ^ 「大絶滅」P122
  25. ^ 「大絶滅」P118
  26. ^ 「大絶滅」P123
  27. ^ 「大絶滅」P124
  28. ^ 「大絶滅」P126、元の論文は Bambach, R.K., A.H.knoll, and J.J.Sepkoski,Jr.2002."Anatomical and ecological constrains on Phanerozoic animal diversity in the marine realm."Proceedings of the National Academy of Science,USA 99:6854-59
  29. ^ 「大絶滅」P127
  30. ^ 「大絶滅」P146
  31. ^ 「大絶滅」P141
  32. ^ 「大絶滅」P160
  33. ^ 「大絶滅」P156
  34. ^ 「大絶滅」P153
  35. ^ 「大絶滅」P155
  36. ^ 「大絶滅」P44
  37. ^ 「大絶滅」P217
  38. ^ 単純な計算から溶岩の平均厚さは約600mである。
  39. ^ 「大絶滅」P43
  40. ^ Nikihin, A.M., P.Ziegler, A.D.Abbott, M.Brunet, and S.Cloetingh. 2002. "Permo-Triassic intraplate magmatism and rifting in Eurasia: implications for mantle plumes and mantle dynamics." Tectonophysics 35:2-39
  41. ^ Renne,P.R., Z.C.Zhang, M.A.Richards, M.T.Black, and A.R.Bass.1995."Synchrony and casual relations between Permian-Triassic boundary crises and Siberian flood volcanism." Science 269:1413-16
  42. ^ 「大絶滅」P99
  43. ^ 「生命と地球の歴史」P147
  44. ^ 「大絶滅」P44
  45. ^ Courtillot.V., and P.R.Renne. 2003. "On the ages of flood basalt events." Compte Rendu Geosciences 335:113-40
  46. ^ 硫酸エアロゾルは火山灰に比べて大気中に長期に滞留し、地球に入社する太陽光を反射したり吸収したりして地上に届く太陽エネルギーを減少させ、大気温度を低下させる。高橋正樹 『破局噴火』詳伝社新書 2008年 P182
  47. ^ 歴史に残る玄武岩質の火山噴火で最大のものは1783年のアイスランドのラキ火山の噴火であるが、8ヶ月間に12立方kmの溶岩と大量の硫黄を噴出した。この硫黄は空気中で酸化されヨーロッパ大陸を青い霧「ブルーヘイズ」で覆い、ヨーロッパに低温化と深刻な飢饉をもたらした。
  48. ^ 「大絶滅」P191
  49. ^ 「大絶滅」P192
  50. ^ 「大絶滅」P100
  51. ^ 「生命と地球の歴史」P142
  52. ^ 「生命と地球の共進化」P211
  53. ^ 「地球環境46億年の大変動史」P121
  54. ^ 「大絶滅」P74
  55. ^ 12Cと13Cの比率は98.892:1.108 である。このほかに数千から数万年単位の遺跡の年代分析に使われる放射性元素の14Cがごく微量に存在する。
  56. ^ 標準サンプルは白亜紀ピー・ディー類層の頭足類ベレムナイトの化石
  57. ^ 二酸化炭素の供給源である火山ガスの現在のδ13Cは-5‰程度、表層海水が約2‰である
  58. ^ 「大絶滅」P179
  59. ^ 「大絶滅」P190
  60. ^ Beckerらが2004年のScienceへ投稿したベドー構造など
  61. ^ 「地球環境46億年の大変動」P169-P192
  62. ^ 「生命と地球の歴史」P156
  63. ^ 「大絶滅」P16
  64. ^ 「生命と地球の歴史」P156
  65. ^ 「大絶滅」P233
  66. ^ 「大絶滅」P1
  67. ^ 「大絶滅」P232
  68. ^ たとえばアメリカ西部の前期三畳紀のデインウッディ累層の全化石のうち49%がリンギュラである。「大絶滅」P239
  69. ^ 「大絶滅」P52
  70. ^ 「大絶滅」P53
  71. ^ 「大絶滅」P2
  72. ^ 「大絶滅」P239
  73. ^ シャーク湾では熱帯にある入り口の狭い湾で水の蒸発が激しく塩分濃度が濃いため他の生物が生息できない
  74. ^ 原生代の代表であるストロマトライト化石は、ドイツの三畳紀初頭の地層から発見された。「大絶滅」P238
  75. ^ 「大絶滅」P238
  76. ^ 「大絶滅」P247
  77. ^ 「大絶滅」P245-P247

関連項目

参考文献

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