コンテンツにスキップ

「赤血球」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
Xqbot (会話 | 投稿記録)
m [r2.5.2] ロボットによる 変更: la:Erythrocytus
赤血球の老化に追記
(6人の利用者による、間の38版が非表示)
1行目: 1行目:
[[File:Reactive lymph.JPG|thumb|280px|血液の光学顕微鏡写真、多数写っているのが赤血球。中央に1つある細胞は白血球、赤血球の間に見える小さなゴミのようなものが血小板である]]
[[画像:Red White Blood cells.jpg|thumb|200px|左から赤血球、[[血小板]]、[[白血球]]]]
[[ファイル:Red White Blood cells.jpg|thumb|200px|各血球、左から赤血球、[[血小板]]、[[白血球]]([[リンパ球]])]]
'''赤血球'''(せっけっきゅう、''red blood cell''、''erythrocyte'')は、[[動物]]の[[血液]]に含まれる[[細胞]]成分の一種。
'''赤血球''' (英名、Red blood cell、あるいは Erythrocyte)は[[血液#組成・成分|血液細胞]]の1種であり、[[酸素|酸素(O<sub>2</sub>)]]を運ぶ役割を持つ。
[[骨髄]]中に存在する[[造血幹細胞]]由来の細胞である。細胞内に[[ヘモグロビン]]を有することで[[酸素]]と結合し、血流に乗って酸素を体中の組織に運搬する。なお、[[二酸化炭素]]も運搬できるが、酸素と違いほとんどの二酸化炭素は[[血漿]]に溶けて運搬される。


[[ファイル:Illu_blood_cell_lineage.jpg|thumb|480px|'''[[造血幹細胞]]とその細胞系譜'''、[[:en:Hemocytoblast]]=[[造血幹細胞]]、[[:en:Proerythroblast]]=[[前赤芽球]]、[[:en:Polychromatophilic erythrocyte]]=[[赤芽球]]、[[:en:Erythrocyte]]=[[赤血球]]、[[:en:Myeloblast]]=[[芽球]]、[[:en:Progranulocyte]]=[[前骨髄球]]、[[:en:Basophil granulocyte]]=[[好塩基球]]、[[:en:Eosinophil granulocyte]]=[[好酸球]]、[[:en:Neutrophil granulocyte]]=[[好中球]]、[[:en:Granulocyte]]=[[顆粒球]]、[[:en:Lymphoblast]]=[[リンパ芽球]]、[[:en:Lymphocyte]]=[[リンパ球]]、[[:en:Monoblast]]=[[単芽球]]、[[:en:Monocyte]]=[[単球]]、[[:en:Agranulocyte]]=[[無顆粒白血球]]、[[:en:Leukocyte]]=[[白血球]]、[[:en:Megakaryoblast]]=[[巨核芽球]]、[[:en:Megakaryocyte]]=[[巨核球]]、[[:en:Platelet]]=[[血小板]]]]
== 概要 ==
== 概要 ==
[[File:Hematies normales.jpg|thumb|280px|赤血球の走査型電子顕微鏡写真、電子顕微鏡では色は写らないため、色は画像処理時に着色したものである]]
赤血球は[[骨髄]]で[[赤芽球]]から作られ、[[血管]]に入り活動を始める。役目を終えたあとは
赤血球は[[血液#組成・成分|血液細胞]]の一つで色は赤く<ref group="註">[[血液]]の55%程度を占める[[血漿]]はやや黄色をおびてはいるがほとんど透明であり、血液の色は主に45%程度を占める赤血球の色である。</ref>血液循環によって体中を回り、肺から得た[[酸素]]を[[ヘモグロビン]]に取り込み、体のすみずみの細胞に運び供給する役割を担い、また二酸化炭素の排出にも関わる<ref name="朝倉1559">『内科学』p1559</ref>。
[[肝臓]]・[[脾臓]]で壊される。


大きさは直径が7-8[[マイクロ|μ]]m、厚さが2μm強ほどの両面中央が凹んだ円盤状であり<ref name="小川血液学p23">『血液学』p23</ref>、数は血液1[[マイクロ|μ]]Lあたり成人男性で450-650万個、成人女性で380-580万個程度<ref name="朝倉1558">『内科学』p1558</ref>で血液の容積のおよそ4-5割程度が[[ヘマトクリット値|赤血球の容積]]である<ref name="朝倉1558">『内科学』p1558</ref>。標準的な体格の成人であれば全身におよそ3.5-5リットルの血液があるため、体内の赤血球の総数はおよそ20兆個であり、これは全身の細胞数約60兆個<ref>『幹細胞の分化誘導と応用』p3</ref>の1/3である。体内の細胞にくまなく酸素を供給するために膨大な数の赤血球が存在する。
赤血球を低張液にさらすと赤血球は浸透圧崩壊を起こし、赤血球内容物(ヘモグロビン等)が水溶液中に漏出する。この現象を溶血という。その後、浸透圧を回復し赤血球膜を再封すると赤血球ゴーストができる。
[[骨髄]]では毎日2000億個程度の赤血球が作られている<ref name="朝倉1559" />が寿命は約120日程度<ref name="朝倉1560">『内科学』p1560</ref>であり、古くなると[[脾臓]]や[[肝臓]]などの[[マクロファージ]]に捕捉され分解される<ref>『内科学書』p6</ref><ref name="三輪『赤血球』p7">三輪 『赤血球』p7</ref>。赤血球は体のすみずみの細胞にまで酸素を供給するため、やわらかく非常に変形能力に富み、自分の直径の半分以下の径の狭い[[毛細血管]]にも入り込み通過することが出来る<ref>『内科学書』p10</ref><ref>野村 『赤血球』p30</ref>。


赤血球の際立った特徴は成熟する最終段階で[[細胞核]]や[[ミトコンドリア]]・[[リボゾーム]]などの細胞内器官を遺棄することである。酸素の運搬には不要な細胞核や酸素を消費するミトコンドリアを捨て去り、乾燥重量の約9割が[[ヘモグロビン]]である<ref name="三輪『赤血球』p7" />赤血球はいわばヘモグロビンを閉じ込めた柔軟な袋であり、ヘモグロビンによる酸素運搬に特化した細胞といえる。ミトコンドリアを持たないため、細胞の活動に必要なエネルギーは嫌気性解糖系と呼ばれる酵素によって糖([[グルコース]])を分解して得る<ref name="三輪血液病学p214-215">『三輪血液病学』p214-215</ref>。
細胞内のヘモグロビンが酸素と結合し、各細胞へ酸素を運搬する。ただし酸素より[[一酸化炭素]]と強く結合する為、体外から一酸化炭素を取り込んだ時、[[一酸化炭素中毒]]を生み出す原因となる。


== 赤血球に関する基準値 ==
大量出血などで赤血球が失われると、[[脳]]へ酸素が上手く運搬されない為、[[脳死]]などを引き起こす。
一般的な血液検査で赤血球に関する基準値<ref group="註">研究機関・検査施設ごとに多少の基準値設定の差はある。</ref><ref name="朝倉1558" />をあげる。
そうしたことから、出血時に対する[[代替赤血球]]の研究開発が[[日本]]でも進められている。
* 赤血球数 男性450-650万個/[[マイクロ|μ]]L 女性380-580万個/[[マイクロ|μ]]L
* ヘモグロビン濃度(Hg) 男性13-18g/[[デシ|d]]L 女性11.5-16.5g/[[デシ|d]]L (一般に貧血で数字は小さくなる)
* [[ヘマトクリット]](Ht:赤血球容積率) 男性40-54% 女性37-47% (血液の濃さであり、一般に貧血で数字は小さくなる)
* [[平均赤血球容積|MCV]](赤血球1個の容積)76-96[[フェムト|f]]L (赤血球の大きさであり、ヘマトクリット÷赤血球数で求められる。鉄欠乏性貧血では小さくなる)
* [[平均赤血球血色素量|MCH]]([[:en:mean corpuscular volume|en]])(赤血球1個あたりのヘモグロビン量) 27-35[[ピコ|p]]g (ヘモグロビン濃度÷赤血球数で求められる。)
* [[MCHC]]([[:en:Mean corpuscular hemoglobin concentration|en]])(赤血球容積に対するヘモグロビン量)29.7-34.7g/[[デシ|d]]L(ヘモグロビン濃度÷ヘマトクリットで求められる。)


== ヘモグロビンと酸素・二酸化炭素輸送 ==
細胞核を持つ赤血球は持たない動物より比較的大きい、など生物によってその大きさは異なる。例えばラットでは直径5.9μm、ヒトでは約8μmである。イヌはヒトの約80%、ネコは約50%の大きさで、共にヒトより多くの数をもつ。最大の赤血球を有する動物はゾウであると考えられており、その大きさは9μmである。一般に赤血球の大きい動物ほど赤血球数が少なくなる傾向がある。
[[File:ボーア効果(byぱた).png|thumb|350px|ボーアの原論文を元にした説明。酸素に富み、二酸化炭素の少ない肺(酸素分圧100mmHG、二酸化炭素分圧5mmHg程度)ではヘモグロビンの酸素飽和度はほぼ100%になる。赤血球はそのまま酸素の少ない組織(例えば酸素分圧30mmHg、図の赤線)に行くが、もしも二酸化炭素が無い環境だと持っている酸素の内18%程度しか放出できないが、組織内に二酸化炭素(40mmHg)があると約50%、二酸化炭素(80mmHg)があると約70%もの酸素を放出することが出来る]]
ヘモグロビンは赤血球細胞質の主要な構成物質であり、肺から全身へ酸素を運搬する役割を担っているたんぱく質である。
ヘモグロビンは[[ポルフィリン]]核に鉄を持つ4つの[[ヘム]]と4つの[[グロビン]]からなり<ref>『内科学書』p5</ref>、ヘムは中心に1つの鉄原子を持ち、酸素1分子を結合することが出来るので、ヘモグロビン1分子で4個の酸素分子と結合することができる<ref name="野村赤血球p22">野村『赤血球』p22</ref><ref name="三輪血液病学p179">『三輪血液病学』p179</ref>。標準的な体格の成人が持つ赤血球に含まれる[[ヘモグロビン]]の総量は約750gであり、1gのヘモグロビンは[[酸素|酸素(O<sub>2</sub>)]]1.39mLと結合することができる<ref>『内科学書』p12</ref>ので、総量としておよそ1Lの酸素と結合することが出来る。


赤血球の幼若な<ref group="註">[[造血幹細胞]]を源とし、完成形を赤血球とすると、造血幹細胞から赤血球への[[分化]]・成熟の途中段階である。</ref>段階である[[赤芽球]]には豊富な[[ミトコンドリア]]や[[ポリリボソーム]]が存在し、それらによって赤芽球は盛んにヘモグロビンの合成を行い、細胞が成熟するにつれて細胞質はヘモグロビンで充填されていくが、赤血球成熟の最終段階でミトコンドリアやポリリボソームが抜け落ち、成熟し完成した赤血球ではもはやヘモグロビンの合成は行われない<ref name="三輪血液病学p116-118">『三輪血液病学』p117-118</ref>。
== 脊椎動物の赤血球 ==
赤血球は主に[[ヘモグロビン]]を含んでいる。ヘモグロビンはヘムを持つ金属タンパク質である。[[肺]]や[[鰓]]の中では、ヘム中の[[鉄]]原子が[[酸素]]と結合し、身体の他の部分では酸素を放出する。酸素は赤血球の細胞膜を容易に透過できる。呼吸の結果出る二酸化炭素は、一部は赤血球によって回収されるが、その殆どは重炭酸として、血漿中に溶けて回収される。


赤芽球のミトコンドリアではヘムの骨格を成すポルフィリン環が作られ、ポルフィリン環に鉄原子が組み込まれてヘムが作られる。一方、mRNA に複数のリボソームが連結したポリリボソームはアミノ酸を組み立ててたんぱく質であるグロビンを作る<ref name="三輪血液病学p116-118" />。
脊椎動物の進化において、酸素が血漿ではなく、細胞によって運ばれるようになったことは非常に重要である。このお陰で、血液の粘性は下がり、より高濃度の酸素を運ぶことができるようになり、血液から組織への酸素の拡散の効率が上がる。


ミトコンドリアが作ったヘムとポリリボソームが作ったグロビンが細胞質内で出会い、ヘモグロビンになる<ref name="三輪血液病学p116-118" />。


成熟した赤血球は骨髄から血管内に移動し、血液循環によって肺から組織・組織から肺をめぐる。組織内では細胞の活動により[[二酸化炭素]]が発生し血漿や組織液に溶け込んでいるが、細胞膜を通して二酸化炭素は赤血球内に取り込まれる。赤血球内で二酸化炭素は炭酸脱水酵素によって重炭酸イオンと水素イオンになり、水素イオンが増加することにより酸性が強くなった赤血球内では、酸素とヘモグロビンが結びついたオキシヘモグロビンから酸素分子が遊離し、細胞膜を通って体細胞に酸素が供給される([[ボーア効果]])。酸素を放出したヘモグロビンは水素イオンと結びついて赤血球内が極端に酸性に傾くのを防ぐ<ref name="三輪血液病学p179">『三輪血液病学』p179</ref><ref name="三輪赤血球p99-100">三輪『赤血球』p99-100</ref><ref name="三輪血液病学p234">『三輪血液病学』p234</ref>。


血液中の二酸化炭素のほとんどは赤血球内に取り込まれ、二酸化炭素CO<sub>2</sub>の約70%は赤血球内の炭酸脱水酵素によって[[炭酸水素塩|重炭酸イオン(HCO<sub>3</sub><sup>−</sub>)]]に変換され、重炭酸イオンの多くはバンド3に代表される赤血球膜縦貫たんぱく質によって塩素イオンと交換に赤血球外に出され血漿に溶け込んで肺に循環する。二酸化炭素の15-20%は酸素を放出したヘモグロビンに結びつきカルバミノヘモグロビンとして赤血球により肺に運ばれ、約10%はそのまま血漿に溶け込んで肺に循環する<ref name="血液のレオロジーと血流p3">『血液のレオロジーと血流』p3</ref>。
=== 寿命 ===
ヒトについては長命説が優勢で120日間とされている。ラットでは約60日である。哺乳類において最長の寿命を持つものはラクダの赤血球であり約225日である。また酸素不足となると寿命は大幅に減少する。


人の場合だと肺では酸素分圧はほぼ100mmHgであり二酸化炭素はほとんど無いので赤血球の酸素飽和度はほぼ100%になる。酸素を含んだ赤血球は組織に循環するが、組織内の酸素分圧は組織によって違い、一般的な組織内では40mmHg、活動中の筋肉内では20mmHg程度になる<ref group="註">短距離走などの激しい運動をしている筋肉では組織内の酸素分圧は一気に5mmHg程度に下がる。この酸素分圧レベルになると筋肉組織内のミオグロビンが蓄えていた酸素を放出して一時的にまかなうがミオグロビンは酸素に対する親和性がヘモグロビンより高いので通常の組織内の酸素分圧レベル20mmHg以上では酸素を供給することは出来ない。</ref>。酸素分圧の差でも赤血球は酸素を放出するが二酸化炭素が存在せず酸素分圧の差のみであると、赤血球は持っている酸素の内10-30%程度しか赤血球外へ放出できない。しかし組織内に二酸化炭素が発生していると、それが炭酸に変換されてpHの低下するによっておきる[[ボーア効果]]によって赤血球は大半の酸素を放出することができるようになる<ref name="ハーパー生化学p49">『ハーパー生化学』p49</ref>(右上図も参照のこと)
鳥類以下の赤血球は細胞核を持っており、そうした赤血球の寿命は哺乳類のそれにくらべて長い。


酸素に富み二酸化炭素の少ない肺では、赤血球は逆の行程で[[炭酸水素塩|重炭酸イオン(HCO<sub>3</sub><sup>−</sub>)]]を二酸化炭素に戻して吐き出し、酸素を取り込む<ref name="三輪赤血球p99-100" />。
=== 哺乳類の赤血球 ===
つまり、二酸化炭素の少ない肺では赤血球内の二酸化炭素が出て行くが、赤血球内の二酸化炭素濃度が下がると炭酸脱水酵素は組織内のときとは逆に重炭酸イオン(HCO<sub>3</sub><sup>−</sub>)を二酸化炭素CO<sub>2</sub>と水酸基(OH<sup>−</sub>)に換え、赤血球内の細胞質のpHは上昇する。また赤血球内の重炭酸イオンが減少したことで赤血球外の重炭酸イオンが塩素イオンと交換で取り込まれ、二酸化炭素に変換されて再び放出される。pHが上昇した赤血球内では酸素を取り込みやすくなり、もともと酸素に富んだ肺組織内であるのでヘモグロビンはいっぱいに酸素を取り込む。酸素飽和度があがった赤血球は、再び末端の組織細胞に酸素を運搬する<ref name="細胞膜のしくみp88-89">『細胞膜のしくみ』p88-89</ref>。
[[画像:Redbloodcells.jpg|thumb|200|脱核した赤血球は真ん中がくぼんだ円盤形をしている。]]
成熟途中で細胞核が失われ(脱核という)、さらにミトコンドリア等の細胞器官を失っている。そのため、エネルギーは全て解糖系でまかなっている。ただし、[[髄外造血]]が行われると、核を持つ未熟な赤血球([[有核赤血球]],NRBC)が出現する。


過剰な酸素は細胞を傷つけるが、赤血球に酸素を取り込み末端組織内で酸素を吐き出す過程では二酸化炭素の存在によって酸素が供給されるので、二酸化炭素の濃度が濃いほど(一般に活動の盛んな細胞ほど二酸化炭素の排出が多い)赤血球が供給する酸素の量が増えてくるので酸素を必要とする細胞に必要とする適量の酸素を供給することが出来る。この点が液体に酸素を溶かし込んで供給するシステムとの大きな違いである<ref name="三輪赤血球p99-100" />。
形は真ん中のわずかにくぼんだ円盤状の形状(例外として[[ラクダ科]]では楕円形)である。円盤状の形状をとることにより、球形の形状に比べ表面積を拡大している。色は赤。赤色は呼吸色素[[ヘモグロビン]]に由来する。
{{main|ヘモグロビン}}


=== ヒトの赤血球 ===
== 赤血球の代謝 ==
成熟した赤血球は、通常の細胞が持つ核やミトコンドリア、リボゾーム、ゴルジ装置、小胞体などを捨て去り、酸素分子の輸送に特化した細胞である。その為、細胞の運動能やタンパク・脂質の合成能を持たず、通常の細胞のようには多くのエネルギーを必要としない(その為に酸素を消費してエネルギーの産出を担うミトコンドリアを捨て去ることが出来る)。しかし、赤血球でも[[ATP]]を用いての陽イオンの輸送や細胞膜やヘモグロビンなどの各タンパクの維持の為に(通常の細胞よりは少ないものの)エネルギーを必要とする。エネルギーはグルコースを分解することで得られるが、グルコースの90%は嫌気性解糖系と呼ばれる多数の酵素によるATP合成経路であるEMBDEN-MEYERHOF回路によって消費されATPを産出する。このATPはNa+やK+などの陽イオンの輸送や膜タンパクのリン酸化、解糖系自身の維持などに使われる。残りのグルコース10%はNADPHを産出する為に五炭糖リン酸化回路を経由することで消費される。NADPHはヘモグロビンなどの各タンパク質が酸化されることを防ぎ、保護する<ref name="三輪血液病学p214-216">『三輪血液病学』p214-216</ref><ref name="野村赤血球p47-61">野村『赤血球』p47-61</ref>。
[[1658年]]、[[オランダ]]の昆虫学者[[ヤン・スワンメルダム]]の[[顕微鏡]]観察により発見され、[[1673年]]、[[アントニ・ファン・レーウェンフック|レーウェンフック]]によっても観察された。


== エリスロポエチン ==
[[ヒト]]の場合、正常数は、男性で約500万個/mm&sup3;、女性で約450万個/mm&sup3;。<!--人の血液が5[L]=5×10^6[mm^3]と考えると、赤血球は2.5×10^13個となる。人体の60兆の細胞中、赤血球が25兆を占めているのは、一見ありえないほど高い比率だが、事実である。-->[[寿命]]は約120日。大きさは[[1_E-6_m|7-8μm]]である。血液を1000[[重力加速度|G]], 10分ほど[[遠心分離|遠心]]すると上層に血漿、中層にBuffycoat、下層に赤血球の層が沈殿するが、その比率は大凡55:1:44である。
[[骨髄]]では1日あたり2000億個弱の赤血球を生み出すが、骨髄にはこれの3-5倍の赤血球産出能力があり、[[貧血]]などで低酸素状態になると赤血球の産出は盛んになる<ref name="朝倉1559" />。
[[造血幹細胞]]から赤血球などの血液細胞の分化・増殖には40種類以上の因子が関わるが、とくに赤血球の増殖には[[エリスロポエチン]](EPO)が大きく関わる<ref>『内科学書』p8</ref>。
エリスロポエチンは分子量約34kDaの糖蛋白質であり主に[[腎臓]](一部は[[肝臓]])で産出される<ref name="三輪『赤血球』p24">三輪 『赤血球』p24</ref><ref name="三輪血液病学p244-245">『三輪血液病学』p244-245</ref>。貧血や慢性の肺疾患、空気の薄い高地での生活などで慢性の低酸素状態になると腎臓ではエリスロポエチンを盛んに産出するようになる。赤血球の造成の途中の段階であるCFU-E(後期赤血球系前駆細胞)は非常にエリスロポエチンの感受性が高くエリスロポエチンを受け取ると細胞分裂能を高め、赤血球の数的増加に結びつく。やがて赤血球の数量が増え、[[貧血]]などの低酸素状態が改善されると腎臓ではエリスロポエチンの産出が減少し、したがって骨髄での赤血球産出も落ち着くようになる<ref name="三輪血液病学p244-245" />。しかし慢性腎不全などで腎臓の機能が低下している患者ではEPOの産出が減り、貧血になっても赤血球の産出が亢進されず貧血が改善されない<ref name="三輪血液病学p971">『三輪血液病学』p971</ref>。
{{main|エリスロポエチン}}


== 細胞膜 ==
赤血球は、多くの[[血液型]]をもつ。中でも[[ABO式血液型]]([[1900年]][[オーストリア]]・[[ウィーン大学]][[カール・ラントシュタイナー]]により発見)は、赤血球の表面に発現している[[抗原]]によって定まる、最も主要な分類の一つである。
[[File:リン脂質の基本構造(ぱた).png|thumb|300px|]]
[[File:リン脂質二重層膜の基本構造(byパタ).png|thumb|300px|色は実際の色ではない]]
[[File:Cell membrane detailed diagram en.svg|thumb|300px|一般的な細胞膜の構造。細胞膜はリン脂質(赤い丸に黄色い2本足)が無数に並んで形成されるリン脂質二重層に各種タンパクなどが絡んで形成される。(図の着色は実際の色とは無関係である)]]
[[File:RBC membrane major proteins.png|thumb|300px|赤血球の細胞膜。一般の細胞に比べて膜骨格が顕著である。脂質二重層にからんで緑色が赤血球膜骨格、赤や青が縦貫タンパク質やそれに連結するタンパク質である。(図の着色は実際の色とは無関係である)]]
[[File:赤血球膜骨格-パタゴニア.jpg|thumb|300px|膜骨格の概略。Spectrinはactinやband4.1によって網状に連結される。Spectrinに結合したankyrinはband3と結びつき、Spectrin-actin-band4.1連結部はGlycophorinに連結する]]
赤血球は自分の直径の半分以下の径の微小な毛細血管にも入り込まなければならないので非常に柔軟な変形能力を持ち、また120日間の寿命の間、絶えず循環し繰り返しの変形に耐える安定性が求められる。その赤血球を構成している赤血球細胞膜は、主にリン脂質が隙間無く並んだ層が二重の層を形成している膜脂質二重層と、鎖状のたんぱく質が網状に連結され細胞膜を裏打ちして支持している膜骨格、脂質二重層と膜骨格の連結し保持する膜縦貫タンパク質やアンカータンパク、細胞膜を貫通し物質の細胞内外の交換の役割をはたすポンプ・キャリア・チャネルと呼ばれる膜縦貫たんぱく質や情報のやり取りの為のレセプター、表面を産毛のように覆い細胞間の情報伝達や、他の細胞との接着・分離にも関係する糖鎖などからなっている<ref name="三輪赤血球p81-98">三輪『赤血球』p81-98</ref>
===膜脂質二重層===


親水性のリン酸部分の頭部に疎水性である脂肪酸が2本の尾部がついたのがリン脂質である。赤血球の内外は主に水で満たされているのでリン脂質は頭部を外側に、水に反発する尾部を内側に厚さが3.5-5.6[[ナノメートル]]<ref name="分子細胞生物学p381">『分子細胞生物学』p381</ref>程度の厚さの2重層を作って並ぶ(右の各図で丸い頭に2本足で描かれているのがリン脂質で、それが無数に並んでいるのが2重層である)。2重層の両外側は親水性なので膜全体は赤血球内外の環境になじみ、内側には疎水性の脂肪酸が充満しているので細胞の内外をしっかり遮断することが出来る。この脂質2重層は電気的に中性で極めて小さな分子、例えば酸素分子や二酸化炭素分子は通すが、極性を持つ水分子は通りにくく、大きな分子やイオンは通ることが出来ない。<ref name="赤血球膜研究史p260">『赤血球膜研究史』p260</ref><ref name="クーパー細胞生物学p49-51">『クーパー細胞生物学』p49-51</ref>    
== 哺乳類以外の脊椎動物の赤血球 ==
[[哺乳類]]以外の脊椎動物では赤血球に[[細胞核]]を持っている。例外は[[アメリカサンショウウオ科]] ([[:en:Plethodontidae|Plethodontidae]]) の[[:en:Batrachoseps|Batrachoseps]]。これは、[[1823年]]に[[フランツ・バウエル]]が[[ジョン・ハンター (外科医)|ジョン・ハンター]]の標本を研究し[[魚類]]の赤血球中核があることをスケッチし、核 (nucleus) と命名した。


リン脂質分子同士の結合はゆるいので、各リン脂質分子は脂質2重層の中を横方向に自由に移動することができ、さらに血漿中のリン脂質分子が脂質2重層に入り込んだり、逆に血漿中に抜け出ることも可能である。また脂質2重層を貫通している膜縦貫タンパクやレセプターなども膜脂質2重層上を移動することができる(膜骨格にアンカーされているものは膜骨格の自由度の範囲内で動ける)、実際、マウスとヒトの細胞を融合させる実験では細胞膜上の分子は移動しマウス由来の分子とヒト由来の分子が混ざり合うことが確認されている。<ref name="クーパー細胞生物学p49-51"/><ref name="図解分子細胞生物学p7-8">『図解分子細胞生物学』p7-8</ref>
== 赤血球の関与する病気 ==
{{Medical}}
[[Image:Sicklecells.jpg|frame|right|[[鎌状赤血球症]]の赤血球 ]]
*[[貧血]]性疾患
**[[再生不良性貧血]]
**[[鉄芽球性貧血]]
**[[鉄欠乏性貧血]]
**[[溶血性貧血]]
***[[自己免疫性溶血性貧血]]
***[[遺伝性球状赤血球症]]
***[[サラセミア]]
***[[発作性夜間血色素尿症]]
**[[巨赤芽球性貧血]]
***[[悪性貧血]]
***[[ビタミンB12欠乏性貧血]]
**[[鎌状赤血球症]]
*[[真性多血症]]
*[[マラリア]]はマラリア[[原虫]]が赤血球に寄生する病気である。


このリン脂質分子はリン酸の先に付いた分子によりホスファチジルコリン(PC)、スフィンゴミエリン(SM)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)などがあり、赤血球の膜脂質2重層ではPCが21%、PSとPEが合わせて29%、SMが21%、コレステロールが26%、他が数%で構成される<ref name="分子細胞生物学p380">『分子細胞生物学』p380</ref>。
== 関連項目 ==
[[Image:Osmotic pressure on blood cells diagram.svg|thumb|250px|赤血球に影響する[[浸透圧]] ]]
*[[白血球]]
*[[血小板]]
*[[血漿]]
*[[貧血]]
*[[血液学]]
*[[解糖系]]
*[[網赤血球]]
*[[球状赤血球]]
*[[ハウエルジョリー小体]]、[[ハインツ小体]]
*[[多染性赤血球]]


並んだリン脂質分子の間にコレステロールが入り込むと分子間の結合力が強くなるため、膜は硬くなり柔軟性が弱くなる。膜脂質2重層の多くの部分ではコレステロールは多くはないのでリン脂質分子は比較的自由に動けるが、次に解説する膜脂質ラフト部分ではコレステロールが非常に多く硬く分子の自由度は低下する<ref name="図解分子細胞生物学p9">『図解分子細胞生物学』p9</ref><ref name="細胞膜のしくみp44-47">『細胞膜のしくみ』p44-47</ref>。

これらのPCやPS、PE、SMなどは2重層の外側(血漿側)と内側(細胞質側)で分布にムラがあり、外側にはPC、SMと糖脂質が多く、内側にはPE、PSが多く非対称分布を成している。リン脂質分子の膜の表裏間の移動は3種類の酵素が関わっており、flippaseはPE、PSを膜の外側(血漿側)から内側(細胞質側)に移動させ、floppaseはすべての脂質分子を内側から外側に移動させ、scramblaseはすべての分子を両方向に混同する。これらの酵素の働きによって膜内外のリン脂質の非対称分布がなされていると考えられている<ref name="図解分子細胞生物学p7-8"/><ref name="細胞膜のしくみp36-39">『細胞膜のしくみ』p36-39</ref>。非対称分布の一つの理由として、主なリン脂質のなかでPSは陰性荷電を持ち、細胞質内のたんぱく質が持つ陽性荷電と相互作用しやすいことが細胞膜の機能に好都合であると考えられている<ref name="赤血球膜研究史p258">『赤血球膜研究史』p258</ref>。
====膜脂質ラフト(Lipid Raft)====
リン脂質2重層膜上には他の部分より少し厚さが厚く少し硬い脂質2重層上を移動することが出来る領域があり、海に浮かぶ筏に例えられ脂質ラフト(Lipid Raft)と呼ばれている。ラフト部分ではリン脂質は主にスフィンゴミエリン(SM)で構成され、SM分子の間にコレステロール分子が非常に多く入り込んで分子間の結合を強化している。スフィンゴミエリンの脂肪酸部分はPCやPS、PEより長いのでラフトは若干厚さを増し、コレステロールが分子間結合を強化するので硬くなる。ラフトではSMとコレステロールの他に、膜縦貫タンパクやレセプター、糖脂質なども多く存在している。多くの積荷を積んだ筏のようなイメージでラフトと通称されているが、通常の脂質2重層もラフトも、どちらもリン脂質を主要構成分子にしている点は海上に浮かぶ筏とは違う。ラフトの直径は数十ナノメートル程度で赤血球膜状には多数あり、タンパクなど多種の分子を多く載せているラフトは赤血球の機能に大きく関わっている部分だと考えられている<ref name="図解分子細胞生物学p9-10">『図解分子細胞生物学』p9-10</ref><ref name="細胞膜のしくみp48-50">『細胞膜のしくみ』p48-50</ref>。

===膜骨格===
α鎖[[スペクトリン]](Spectrin)とβ鎖スペクトリンが連結した一本の線状のタンパク質が並んで2本絡まった長さ200[[ナノメートル]]のひも状のタンパク質(α鎖2本β鎖2本の4量体スペクトリン)が、4.1タンパク(Band4.1)やアクチン(Actin)など<ref group="註">スペクトリンの結合・連結には4.1タンパク(Band4.1)やアクチン(Actin)が関わり、結合部には他に4.2タンパク・4.9タンパク・アデューシンなどのタンパク質が見られるが、4.2タンパク・4.9タンパク・アデューシンの役割は不明である-出典、『新生化学実験講座6』(上)p405-408</ref>のタンパク質によって連結され網状になり脂質二重層に接するように存在するのが膜骨格である。その網状の膜骨格はアンキリン(Ankyrin)や4.1タンパクによって膜縦貫タンパク質・バンド3タンパク(Band3)やグリコフォリン(Glycophorin)に結合され細胞膜を裏打ち補強している。この脂質二重層の細胞膜を膜骨格が裏打ち補強している構造が赤血球膜の柔軟性と安定性をもたらしている<ref name="三輪赤血球p81-98" />。
===表面タンパク===
赤血球の役割は酸素や二酸化炭素の輸送であり、その為に赤血球膜では[[酸素|酸素(O<sub>2</sub>)]]と[[二酸化炭素|二酸化炭素(CO<sub>2</sub>)]]、[[炭酸水素塩|重炭酸イオン(HCO<sub>3</sub><sup>−</sub>)]]の交換が重要であり、また細胞の維持に必要な[[グルコース]]や各イオンなどの交換も重要である。

赤血球膜縦貫タンパク質であるバンド3は一つの赤血球に120万個あり赤血球膜縦貫タンパクではもっとも多いが、赤血球膜に適度な間隔をおいて存在し、脂質二重層と膜骨格のアンカーの役とともに重炭酸イオン(HCO<sub>3</sub><sup>−</sub>)と塩素イオンの交換や一部の有機物の輸送を行っている。グルコースやナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなどはその他の赤血球膜縦貫タンパク質によって輸送され、酸素分子や二酸化炭素分子などの電気的に中性で小さな分子は脂質二重層を直接通過する<ref name="三輪赤血球p81-98" /><ref name="三輪血液病学p235">『三輪血液病学』p235</ref><ref name="野村赤血球p45-46">野村『赤血球』p45-46</ref><ref name="細胞膜のしくみp86-91">『細胞膜のしくみ』p86-91</ref>。

* 主要な赤血球膜上の物質輸送機関<ref name="野村赤血球p45-46" />
{|class="wikitable"
! 担体 !! 被輸送体
|-
|脂質二重層<br /><br />
|酸素<math>\ O_2</math>、二酸化炭素<math>\ CO_2</math> ||

|-
| Na+,K+ ATPaseタンパク質
(adenosine triphosphatase)
| <math> \ Na^+</math>, <math> \ K^+</math>などの一価の陽イオン ||
|-
| Ca2+ ATPaseタンパク質
(adenosine triphosphatase)
|<math>\ Ca^{2+}</math>などの二価の陽イオン ||
|-
| バンド3タンパク質
(anion exchange protein)
|<math>\rm HCO_3^-</math>、<math> \ Cl^-</math>などの陰イオン、ピルビン酸など ||
|-
| バンド4.5タンパク質
(glucose transporter)
|グルコース ||
|-
|}上記以外にも多くの[[膜輸送体|トランスポーター]]や[[レセプター]]が赤血球膜にはあることが報告されている<ref name="三輪血液病学p111-112">『三輪血液病学』p111-112</ref>。

また、これらの赤血球膜縦貫タンパク質は血液型抗原にも関係している。

※バンド4.1や4.5等は名称は似ているが、[[電気泳動]]分析のバンド番号であり、分子量による命名であって、それぞれは異なるタンパク質である。

== 血液型 ==
[[赤血球]]の表面には250種以上の表面[[抗原]]があるが、A/B型抗原はその代表的な抗原である。
赤血球の表面にA抗原があるとA型、B抗原があるとB型、AとB,両方の抗原があるとAB型、両抗原が無いとO型とする<ref name="中山『内科学書』p49">『内科学書』p49</ref>。
逆に血漿中には各抗原に反応する抗体があり、通常A型の血漿中には抗B抗体があり、B型の血漿中には抗A抗体があり、AB型の血漿中には抗A抗体も抗B抗体のどちらも無し、O型の血漿には抗A抗体と抗B抗体両方が存在する<ref name="中山『内科学書』p49" />。

(血漿中の抗体を調べることで血液型を判定することを裏試験ともいう<ref name="中山『内科学書』p49" />。)

表面抗原に、それぞれ対応する抗体が反応すると赤血球は凝集してしまう。
{{main|血液型}}

== 必要な物質 ==
赤血球に必要な物質は大半はたんぱく質であり体内で合成できるが、鉄とビタミン12、葉酸は合成できず体外から取り込む必要がある。

=== 鉄 ===
成人の体内には3-4gの[[鉄]]があるがその2/3はヘモグロビンの構成材として赤血球中にあり、古くなった赤血球は[[脾臓]]や肝臓で壊されるが、その際に鉄は回収され、失われるのは1日あたり数mgにすぎない<ref name="朝倉1563">『内科学』p1563</ref>。しかし、出血などで鉄を多く失うとヘモグロビンの合成に必要な鉄分が不足し、赤血球は小型の物になる(小球性貧血)。

=== B12 ===
[[ビタミンB12]]はコバルトを含むビタミンの総称で、ある種のバクテリアしか生産することは出来ないが、食物連鎖によって動物は十分な量のB12を体内に持っており、人も肉類、魚類、乳製品などの動物性食品を食することでB12を取り入れるので普通の状態では体内に数年分の量のB12を貯えている。B12は食物ではたんぱく質と結びついているが、胃酸によってたんぱく質から遊離し、胃壁から分泌される内因子(IF)とB12とが膵液の作用によって結びつくことでB12は回腸から吸収されるようになる。したがって胃の切除者、萎縮性胃炎での内因子分泌障害(悪性貧血)などで内因子が不足したり、あるいは腸の吸収障害、あるいは極端な菜食主義者などでは数年ののちにB12は不足する。B12が不足すると細胞のDNAの合成が障害されて、赤血球系造血では巨赤芽球(その名のとおり巨大な赤芽球)が産生され、それは正常な赤血球に分化できないため無効造血となり[[巨赤芽球性貧血]]に陥る<ref name="三輪血液病学p184-186">『三輪血液病学』p184-186</ref><ref name="三輪血液病学p974-977">『三輪血液病学』p974-977</ref>。

=== 葉酸 ===
[[葉酸]]はレバー、緑黄色野菜、果物などに含まれている水溶性ビタミンであるが、B12と共に働いて赤血球の成熟に関わる。通常では葉酸は食物から酵素の働きで空腸から吸収され、体内に数ヶ月分の量が貯えられているが、なんらかの理由で不足するとB12の不足と同じに赤血球はDNAの合成が阻害され、正常な成熟が出来ずに巨赤芽球性貧血になる<ref name="三輪血液病学p189-194">『三輪血液病学』p189-194</ref>。

== 分化 ==
[[File:Polycythemia vera, blood smear.jpg|thumb|400px|血液疾患の為に血液中に現れた[[赤芽球]]。右上に二つある有核細胞のうち丸い核のものが好塩基性赤芽球、左下にある2つの有核細胞の大きいほうが多染性赤芽球、小さいほうが正染性赤芽球。一番右上と右下のいびつな核の細胞は白血球である。]]
[[ファイル:Bloodcelldifferentiationchart(Japanese).jpg|thumb|400px|'''[[造血幹細胞]]とその細胞系統''']]
[[造血幹細胞]]から分化し始めた幼若な血液細胞は盛んに分裂して数を増やしながら少しずつ分化を進めていく。最終的に赤血球に分化・成熟する場合は造血幹細胞、骨髄系幹細胞(骨髄系前駆細胞)、赤芽球・巨核球系前駆細胞、前期赤芽球系前駆細胞(BFU-E)、後期赤芽球系前駆細胞(CFU-E)、[[前赤芽球]]、[[好塩基性赤芽球]]、[[多染性赤芽球]]、[[正染性赤芽球]]、([[網赤血球]])、赤血球と成熟していく<ref name="三輪血液病学p120-124">『三輪血液病学』p120-124</ref><ref name="三輪血液病学p242-244">『三輪血液病学』p242-244</ref>。

骨髄系幹細胞(骨髄系前駆細胞)、赤芽球・巨核球系前駆細胞、前期赤芽球系前駆細胞(BFU-E)、後期赤芽球系前駆細胞(CFU-E)などの前駆細胞の段階では、細胞は非常に活発に細胞分裂して数を増やすが、顕微鏡による形態観察では赤血球系との判別は困難である<ref name="三輪血液病学p120-124" /><ref name="三輪血液病学p242-244" />。

前赤芽球の段階から形態的にも赤血球への分化の方向がはっきりしてくる。赤血球系と判別できるようになった前赤芽球から多染性赤芽球までの細胞も前駆細胞ほど盛んではないが細胞分裂能を持ち、1つの前赤芽球は多染性赤芽球の段階までに3-4回細胞分裂を起して8-16個の細胞に増える<ref name="野村赤血球p28">野村『赤血球』p28</ref>。

前赤芽球は直径が20-25μmで前の段階の前駆細胞より大きくなり、赤血球への分化・成熟の段階で一番大きい細胞であり、顕微鏡観察で赤血球への分化の方向が明らかな最初の段階の細胞であり、核構造は繊細で、細胞質は塩基性が強く、リボゾームが多い<ref name="三輪血液病学p242-244" />。

好塩基性赤芽球では大きさは前赤芽球より小さくなり(この後の段階でさらに小さくなり続ける)16-18μmほどであり、前赤芽球ほどではないが細胞質は塩基性であり、核構造はやや粗くなる<ref name="三輪血液病学p242-244" />。

多染性赤芽球ではヘモグロビンの合成が開始され<ref name="三輪血液病学p121">『三輪血液病学』p121</ref>、ヘモグロビン量が増えるにつれ細胞質の塩基性は弱くなり、細胞はさらに小さくなり、核構造は凝縮しさらに粗くなる。この段階でも弱いながらも細胞分裂能を残している<ref name="三輪血液病学p242-244" />。

正染性赤芽球では細胞分裂能は失われ細胞核は凝縮し細胞質は赤血球に近くなる。直径は10-15μmでやがて細胞核が脱落して赤血球に成熟する<ref name="三輪血液病学p242-244" />。

これらの幼若な段階の細胞、造血幹細胞、前駆細胞、[[赤芽球]]は骨髄にのみ存在する。骨髄にはバリアがあり、幼若な血液細胞は骨髄から出ることが出来ず、脱核して赤血球になって初めて血液中に出ることが出来るため、通常は[[末梢血]]では有核の赤芽球は観察されない。

正染性赤芽球から核が脱したばかりの若い赤血球では、まだ[[リボゾーム]]が残っており、ニューメチレンブルーによる超生体染色を行うとタンパク質とRNAの複合体であるリボソームがその他の細胞内小器官を巻き込みながら網状に凝集し、凝集したリボソームのRNAが青く染まり、顕微鏡観察では網状に見えるので[[網赤血球]]と呼ぶ。網赤血球の段階でも10%-30%ほどのヘモグロビンが合成される。網赤血球は骨髄内に2日ほど留まり、その後血液中に移動して1-2日ほどでリボソームやミトコンドリアが抜け落ちて成熟し完成した赤血球になる<ref name="三輪血液病学p120-124" />。通常、網赤血球は赤血球の0.5-1.5%程度であるが、造血が盛んになると若い出来立ての赤血球である網赤血球の割合が増え、骨髄での造血機能が衰えると網赤血球の割合が減る。

赤血球は[[骨髄]]で[[造血幹細胞]]から作られるが、その分化・成熟には骨髄において[[マクロファージ]]が大きく関わっている。
骨髄において、赤血球の幼若な段階である[[赤芽球]]はマクロファージを中心にその回りを取り囲むように数個から数十個が集団で寄り集まっている。中心に存在するマクロファージは赤芽球に接し、[[ヘモグロビン]]の合成に不可欠な鉄や細胞の生育に必要な物質を供給し、成熟をコントロールし、また脱核させた核の処理や、不要になった赤血球細胞の除去にも関与している<ref name="三輪血液病学p120-124" /><ref name="三輪『血液細胞アトラス』第5版、p.77">『血液細胞アトラス』p77</ref>。
この、骨髄内においてマクロファージを中心に赤芽球が集まり、赤血球の形成に関わっている細胞集団を[[赤芽球島]]もしくは赤芽球小島という<ref name="三輪血液病学p120-124" />。

== 赤血球の老化と除去 ==
赤血球は血液中で約120日働くと老化し、老化した赤血球は脾臓でマクロファージに捕捉・貪食され分解される。分解された赤血球の構成材のアミノ酸の多くや鉄は回収され再利用されるが、ヘムの分解代謝物である[[ビリルビン]]は胆汁もしくは尿として排出される。

赤血球が老化すると嫌気性解糖系のエネルギー産出が衰え、そのために細胞膜上のNa+,K+ ATPaseタンパク質やCa2+ ATPaseタンパク質が働かなくなりイオンバランスが崩れるため細胞質は水分が減少し赤血球の変形能も衰えてくる。すると老化赤血球は脾臓の毛細血管を通過できなくなり脾臓に滞留するが、脾臓には老化赤血球を捕捉・貪食するマクロファージが待ち構えている<ref name="細胞膜のしくみp158-162">『細胞膜のしくみ』p158-162</ref>。

赤血球の細胞膜に存在する膜縦貫タンパク質であるバンド3は若い赤血球では間隔をあけて存在し、バンド3から赤血球表面に露出している糖鎖には、それに対応する自然抗体(抗バンド3IgG抗体)が存在するが、この自然抗体はバンド3の糖鎖が十分な間隔を置いている場合(単独の糖鎖)には親和性が低く結合することが出来ない。しかし、赤血球が老化してくるとヘモグロビンの酸化物が増え(この酸化物は、ヘムに酸素を取り入れたオキシヘモグロビンではない)、ヘモグロビン酸化物はバンド3の細胞質側に結合する。さらにバンド3に結合したヘモグロビンの酸化物はお互いに架橋し、バンド3を凝集させる。バンド3が凝集すると細胞表面の糖鎖も凝集し、凝集した糖鎖は抗バンド3IgG抗体との親和性が高いので抗体が結合することが出来るようになる。脾臓には抗バンド3IgG抗体に対するレセプターを持つマクロファージが存在し、凝集糖鎖に抗バンド3IgG抗体が結合した老化赤血球はマクロファージに容易に認識・捕捉されるようになる。このような過程で老化した赤血球は取り除かれると考えられている<ref name="三輪赤血球p74-79">三輪『赤血球』p74-79</ref>。

また、若い赤血球では脂質2重層を構成するリン脂質である[[ホスファチジルセリン]](PS)は赤血球膜内面・細胞質側に多く存在するが、赤血球が老化してくるとホスファチジルセリンは膜表面に多く現れる。この赤血球膜表面に多く現れたホスファチジルセリンもマクロファージによる貪食の標的になるとの説もある<ref>『三輪血液病学』p248</ref>。

== 赤血球に影響する主な病気 ==
赤血球に影響する疾患の中で主なものを挙げる<ref>『三輪血液病学』p4-5</ref>
* [[汎血球減少|汎血球減少性疾患]]
[[再生不良性貧血]]、[[骨髄異形成症候群]]、[[急性白血病]]など
* 主に赤血球数もしくはヘモグロビン量が減少する疾患
[[赤芽球癆]]、[[腎性貧血]]、[[巨赤芽球性貧血]]、[[鉄欠乏性貧血]]、[[無トランスフェリン血症]]、[[鉄芽球性貧血]]、免疫性[[溶血性貧血]]、[[鎌状赤血球症]]、[[サラセミア]]、[[発作性夜間ヘモグロビン尿症]]、[[脾機能亢進症]]など
* 赤血球数が増加する病気([[多血症]])
[[真性多血症]]など
* 色素代謝異常
[[ポリフィリン血症]]、[[メトヘモグロビン血症]]など

== 動物の赤血球 ==
[[File:Humanbood600x.jpg|thumb|210px|ヒトの赤血球、600倍の拡大画像、哺乳類の中ではヒトは大き目の赤血球を持つ]]
[[File:320fishblood600x2.jpg|thumb|210px|サカナの赤血球、上の画像と同じ拡大率である600倍の画像。サカナの赤血球は楕円で有核である。]]
[[File:320frogblood600x2.jpg|thumb|210px|カエル(両生類)の赤血球、上2枚と同じ拡大率の600倍。カエルの赤血球も楕円で有核であり、非常に大きい。同じ両生類のイモリの赤血球はカエルよりさらに大きい]]
わずかな例外([[ノトテニア亜目]]コオリウオ科)を除き[[脊椎動物]]は赤血球をもっている<ref name="三輪血液病学p2031-2036">『三輪血液病学』p2031-2036</ref>。

[[哺乳類]]の成熟した赤血球は[[ヒト]]の赤血球に似ていて無核であり、色は赤く[[ヘモグロビン]]に富み、丸い円盤状である([[ラクダ科]]のみ楕円の円盤であるが、ラクダ科の赤血球もヒトと同様に無核である)。[[マウス]]の赤血球はヒトの赤血球の半分程度の大きさであるが、代わりに血液1μLあたりの赤血球数はおよそ2倍である。哺乳類のなかではヒトの赤血球は比較的大きく、ほとんどの哺乳類は赤血球はヒトのものより小さめで赤血球の寿命は短い傾向があるが、代わりに赤血球の数は多く[[ヘマトクリット]]はどの動物でも40-50%前後とあまり変わらない。ゾウの赤血球(直径9μm)はヒトの赤血球(7-8μm)より大きいが、ヒトより体の大きい[[ウシ]]や[[ウマ]]の赤血球はマウスの赤血球と大きさはあまり変わらなく数は多く、ヤギの赤血球ではヒトの赤血球の1/5程度の体積しかないなど動物種によって様々である<ref name="実験動物の血液学">『実験動物の血液学』</ref><ref name="血液のレオロジーと血流">『血液のレオロジーと血流』p32</ref>。

[[哺乳類]]以外の脊椎動物([[鳥類]]、[[爬虫類]]、[[魚類]]、[[両生類]])の赤血球は楕円で有核であり<ref name="鳥類とエキゾチックアニマルの血液学、細胞診">『鳥類とエキゾチックアニマルの血液学、細胞診』p58-100</ref>、その細胞質にはミトコンドリアや小胞体を持ち、赤血球細胞自身の為の酸素呼吸やたんぱく質の合成などの代謝を行っている<ref name="生化学p6">『赤血球の生化学』p6</ref>。鳥類ではヒトの赤血球よりやや大きく、数はやや少ないが大きさには大きな差は無い。魚類の赤血球もヒトのものより数は少なくやや大きい。両生類の赤血球はとても大きく数は少ない。爬虫類は両生類と鳥類の間にある<ref name="実験動物の血液学" /><ref name="鳥類とエキゾチックアニマルの血液学、細胞診" />。

造血の場は哺乳類と鳥類では主に骨髄、魚類では主に腎臓、両生類では脾臓である。爬虫類は種によってさまざまである<ref name="三輪血液病学p2031-2036" /><ref name="実験動物の血液学" />。

[[無脊椎動物]]ではある程度の体の大きさを持っているものは白血球に相当する細胞を持っているが、赤血球を持っているものは極めて少なく例外的な存在とも言える<ref group="註">極めて古い1954年の資料ではあるが、百万とも、あるいはそれ以上とも言われる無脊椎動物全種の中で赤血球を持っている種の数を100種程度としている。-出典『生物学実験法講座 第8巻 A』p31-33</ref>。その赤血球を持つ例外的な無脊椎動物はすべて海棲であり、特に種類が多い昆虫類を含め陸上の無脊椎動物には赤血球を持つものはいない。その無脊椎動物の赤血球は脊椎動物の赤血球とはずいぶん異なる面が多く、その一つの特徴は核の他に何らかの顆粒が細胞質にあることであり、またそれ以外にも種によっては以下のような特徴がある<ref name="生物学実験法講座">『生物学実験法講座 第8巻 A』p31-33</ref>。
* [[シロナマコ]]の赤血球は数本の突起があり、核以外にも目立って大きい数個の顆粒がある。
* [[ユムシ]]や[[アカガイ]]の赤血球では顆粒の数は数十個に及ぶ。
* [[タマキガイ]]の赤血球には複数の核がある。
* [[星虫類]]([[ホシムシ]])の赤血球には数個の六面体の結晶が存在する。
星虫類の赤血球には[[ヘムエリスリン]]、それ以外にはヘモグロビン<ref group="註">[[アカガイ]]などは[[エリスロクルオリン]]を持つが、参考にした『生物学実験法講座 第8巻 A』p31-33は古い資料でありエリスロクルオリンはヘモグロビンの近縁として同一視していると思われる。</ref>が存在する<ref name="生物学実験法講座" />。

これらのわずかな例外を除くほとんどの無脊椎動物は赤血球を持たない。無脊椎動物の多数を占める赤血球を持たない者の血液では[[ヘモグロビン]]、[[エリスロクルオリン]]、[[ヘムエリスリン]]や[[ヘモシアニン]]などの[[血色素]]が直接血漿に溶け込んで循環し酸素供給している。血が赤くない[[軟体類]]や[[節足動物]]などの動物の多くではヘモグロビンではなく[[銅]]を用いた[[ヘモシアニン]]で酸素を運ぶため血液は青みがかかっている<ref name="三輪血液病学p2031-2036" /><ref name="実験動物の血液学" /><ref name="鳥類とエキゾチックアニマルの血液学、細胞診" />。

== 赤血球研究の歴史 ==
赤血球研究の歴史の中で主なものの年表を記す。
{|class="wikitable"
! 年 !! 発見者および研究者 !! 研究史 !! 出典
|-
|1658<br />
|[[ヤン・スワンメルダム|スワンメルダム]]
|赤血球の発見
|<ref name="生化学p2">『赤血球の生化学』p2</ref>

|-
|1674<br />
|[[アントニ・ファン・レーウェンフック|レーヴェンフック]]
|赤血球の詳細な報告、大きさの把握
|<ref name="生化学p2" />
|-

|1747
|[[メンギニ]]
|赤血球が鉄を含むことを磁石を用いて発見
|<ref name="生化学p2" />
|-

|1774
| [[ジョゼフ・プリーストリー|プリーストリー]]
| 赤血球が酸素に反応することを観察
|<ref name="生化学p2" />
|-

|1780
| [[アントワーヌ・ラヴォアジエ|ラヴォアジエ]]とラプラス
| 赤血球が酸素を運搬することを明らかにした
|<ref name="生化学p2" />
|-

|1865
| [[ホッペザイレル]]
| ヘモグロビンの詳細な研究
|<ref name="生化学p2" />
|-

|1901
| [[カール・ラントシュタイナー|ラントシュタイナー]]
| 血液型の発見
|<ref name="生化学p104">『赤血球の生化学』p104</ref>
|-

|1904
| [[クリスティアン・ボーア|ボーア]]
| 酸素解離曲線([[ボーア効果]])の解明
|<ref name="生化学p26-27">『赤血球の生化学』p26-27</ref>
|-

|1948
| [[フレデリック・サンガー|サンガー]]と[[ポーター]]
| ヘモグロビンの構造研究の開始
|<ref name="生化学p21">『赤血球の生化学』p21</ref>
|-

|1961
| [[ペルツ]]
| ヘモグロビンの立体構造解析
|<ref name="生化学p21">『赤血球の生化学』p21</ref>
|-
|}
== 脚注 ==
=== 註釈 ===
{{Reflist|group="註"}}

=== 出典 ===
{{Reflist|3}}

== 参考文献 ==
* 小川哲平、大島年照、浅野茂隆 編著 『血液学』、中外医学社、1991年
* 杉本恒明、矢崎義雄 総編集 『内科学』第9版、朝倉書店、2007年、ISBN 978-4-254-32230-9
* 小川聡 総編集 『内科学書』Vol.6 改訂第7版、中山書店、2009年、ISBN 978-4-521-73173-5
* エヌ・ティー・エス 編集 『幹細胞の分化誘導と応用』エヌ・ティー・エス、2009年、ISBN 978-4-86043-160-0
* 三輪史朗 監修 『赤血球』医学書院、1998年、ISBN 4-260-10946-4
* 野村武夫 編集 『赤血球』中外医学社、1994年、ISBN 4-498-02554-7
* 浅野茂隆、池田康夫、内山卓 監修 『三輪血液病学』文光堂、2006年、ISBN 4-8306-1419-6
* 三輪史朗、渡辺陽之輔 共著 『血液細胞アトラス』第5版、文光堂、2004年、ISBN 978-4-8306-1417-0
* 菅原基晃、前田信治 共著『血液のレオロジーと血流』コロナ社、2003年、ISBN 4-339-07147-1
* Terry W.Campbell,Christine K.Ellis 著 『鳥類とエキゾチックアニマルの血液学、細胞診』斑目広郎訳、文永堂出版、2010年、ISBN 978-4-8300-3228-8
* 関正利、他 編集 『実験動物の血液学』ソフトサイエンス社、1981年
* 岡田弥一郎 編集『生物学実験法講座』 第8巻 A-体液生理実験法、中山書店、1954年
* 日本生化学会 編集『新生化学実験講座 6(上)』生体膜と膜輸送、東京化学同人、1992年、ISBN 4-8079-1071-X
* 水上茂樹 著『赤血球の生化学』第2版、東京大学出版会、1993年、ISBN 4-13-063209-4
* Robert K.Murray,Daryl K.Granner,Victor W.Rodwell著『ハーパー・生化学』上代淑人監訳、丸善、2007年、ISBN 978-4-621-07801-3
* 八幡 義人 著『赤血球膜研究史』医薬ジャーナル社、2007年、ISBN 978-4-7532-2238-4
* 八幡 義人 著『細胞膜のしくみ』裳華房、2008年、ISBN 978-4-7853-8784-6
* Geoffrey M.Cooper,Robert E.Hausman著『クーパー細胞生物学』須藤和夫,他,訳、東京化学同人、2008年、ISBN 978-4-8079-0686-4
* 浅島 誠、駒崎 伸二 共著『図解分子細胞生物学』裳華房、2010年、ISBN 978-4-7853-5841-9
* H. Lodish,他 著『分子細胞生物学』石浦章一他 訳、東京化学同人、2010年、ISBN 978-4-8079-0732-8
{{DEFAULTSORT:せつけつきゆう}}
{{DEFAULTSORT:せつけつきゆう}}
[[Category:法医学]]
[[Category:血液学]]
[[Category:医学]]
[[Category:免疫学]]
[[Category:免疫学]]
[[Category:血液]]
[[Category:血液]]
111行目: 327行目:
[[io:Eritrocito]]
[[io:Eritrocito]]
[[is:Rauð blóðkorn]]
[[is:Rauð blóðkorn]]
[[it:Globulo rosso]]
[[it:Eritrocita]]
[[ka:ერითროციტები]]
[[ka:ერითროციტები]]
[[kn:ಕೆಂಪು ರಕ್ತ ಕಣ]]
[[kn:ಕೆಂಪು ರಕ್ತ ಕಣ]]

2011年3月2日 (水) 13:10時点における版

血液の光学顕微鏡写真、多数写っているのが赤血球。中央に1つある細胞は白血球、赤血球の間に見える小さなゴミのようなものが血小板である
各血球、左から赤血球、血小板白血球(リンパ球)

赤血球 (英名、Red blood cell、あるいは Erythrocyte)は血液細胞の1種であり、酸素(O2)を運ぶ役割を持つ。

概要

ファイル:Hematies normales.jpg
赤血球の走査型電子顕微鏡写真、電子顕微鏡では色は写らないため、色は画像処理時に着色したものである

赤血球は血液細胞の一つで色は赤く[註 1]血液循環によって体中を回り、肺から得た酸素ヘモグロビンに取り込み、体のすみずみの細胞に運び供給する役割を担い、また二酸化炭素の排出にも関わる[1]

大きさは直径が7-8μm、厚さが2μm強ほどの両面中央が凹んだ円盤状であり[2]、数は血液1μLあたり成人男性で450-650万個、成人女性で380-580万個程度[3]で血液の容積のおよそ4-5割程度が赤血球の容積である[3]。標準的な体格の成人であれば全身におよそ3.5-5リットルの血液があるため、体内の赤血球の総数はおよそ20兆個であり、これは全身の細胞数約60兆個[4]の1/3である。体内の細胞にくまなく酸素を供給するために膨大な数の赤血球が存在する。 骨髄では毎日2000億個程度の赤血球が作られている[1]が寿命は約120日程度[5]であり、古くなると脾臓肝臓などのマクロファージに捕捉され分解される[6][7]。赤血球は体のすみずみの細胞にまで酸素を供給するため、やわらかく非常に変形能力に富み、自分の直径の半分以下の径の狭い毛細血管にも入り込み通過することが出来る[8][9]

赤血球の際立った特徴は成熟する最終段階で細胞核ミトコンドリアリボゾームなどの細胞内器官を遺棄することである。酸素の運搬には不要な細胞核や酸素を消費するミトコンドリアを捨て去り、乾燥重量の約9割がヘモグロビンである[7]赤血球はいわばヘモグロビンを閉じ込めた柔軟な袋であり、ヘモグロビンによる酸素運搬に特化した細胞といえる。ミトコンドリアを持たないため、細胞の活動に必要なエネルギーは嫌気性解糖系と呼ばれる酵素によって糖(グルコース)を分解して得る[10]

赤血球に関する基準値

一般的な血液検査で赤血球に関する基準値[註 2][3]をあげる。

  • 赤血球数 男性450-650万個/μL 女性380-580万個/μL
  • ヘモグロビン濃度(Hg) 男性13-18g/dL 女性11.5-16.5g/dL (一般に貧血で数字は小さくなる)
  • ヘマトクリット(Ht:赤血球容積率) 男性40-54% 女性37-47% (血液の濃さであり、一般に貧血で数字は小さくなる)
  • MCV(赤血球1個の容積)76-96fL (赤血球の大きさであり、ヘマトクリット÷赤血球数で求められる。鉄欠乏性貧血では小さくなる)
  • MCH(en)(赤血球1個あたりのヘモグロビン量) 27-35pg (ヘモグロビン濃度÷赤血球数で求められる。)
  • MCHC(en)(赤血球容積に対するヘモグロビン量)29.7-34.7g/dL(ヘモグロビン濃度÷ヘマトクリットで求められる。)

ヘモグロビンと酸素・二酸化炭素輸送

ボーアの原論文を元にした説明。酸素に富み、二酸化炭素の少ない肺(酸素分圧100mmHG、二酸化炭素分圧5mmHg程度)ではヘモグロビンの酸素飽和度はほぼ100%になる。赤血球はそのまま酸素の少ない組織(例えば酸素分圧30mmHg、図の赤線)に行くが、もしも二酸化炭素が無い環境だと持っている酸素の内18%程度しか放出できないが、組織内に二酸化炭素(40mmHg)があると約50%、二酸化炭素(80mmHg)があると約70%もの酸素を放出することが出来る

ヘモグロビンは赤血球細胞質の主要な構成物質であり、肺から全身へ酸素を運搬する役割を担っているたんぱく質である。 ヘモグロビンはポルフィリン核に鉄を持つ4つのヘムと4つのグロビンからなり[11]、ヘムは中心に1つの鉄原子を持ち、酸素1分子を結合することが出来るので、ヘモグロビン1分子で4個の酸素分子と結合することができる[12][13]。標準的な体格の成人が持つ赤血球に含まれるヘモグロビンの総量は約750gであり、1gのヘモグロビンは酸素(O2)1.39mLと結合することができる[14]ので、総量としておよそ1Lの酸素と結合することが出来る。

赤血球の幼若な[註 3]段階である赤芽球には豊富なミトコンドリアポリリボソームが存在し、それらによって赤芽球は盛んにヘモグロビンの合成を行い、細胞が成熟するにつれて細胞質はヘモグロビンで充填されていくが、赤血球成熟の最終段階でミトコンドリアやポリリボソームが抜け落ち、成熟し完成した赤血球ではもはやヘモグロビンの合成は行われない[15]

赤芽球のミトコンドリアではヘムの骨格を成すポルフィリン環が作られ、ポルフィリン環に鉄原子が組み込まれてヘムが作られる。一方、mRNA に複数のリボソームが連結したポリリボソームはアミノ酸を組み立ててたんぱく質であるグロビンを作る[15]

ミトコンドリアが作ったヘムとポリリボソームが作ったグロビンが細胞質内で出会い、ヘモグロビンになる[15]

成熟した赤血球は骨髄から血管内に移動し、血液循環によって肺から組織・組織から肺をめぐる。組織内では細胞の活動により二酸化炭素が発生し血漿や組織液に溶け込んでいるが、細胞膜を通して二酸化炭素は赤血球内に取り込まれる。赤血球内で二酸化炭素は炭酸脱水酵素によって重炭酸イオンと水素イオンになり、水素イオンが増加することにより酸性が強くなった赤血球内では、酸素とヘモグロビンが結びついたオキシヘモグロビンから酸素分子が遊離し、細胞膜を通って体細胞に酸素が供給される(ボーア効果)。酸素を放出したヘモグロビンは水素イオンと結びついて赤血球内が極端に酸性に傾くのを防ぐ[13][16][17]

血液中の二酸化炭素のほとんどは赤血球内に取り込まれ、二酸化炭素CO2の約70%は赤血球内の炭酸脱水酵素によって重炭酸イオン(HCO3−)に変換され、重炭酸イオンの多くはバンド3に代表される赤血球膜縦貫たんぱく質によって塩素イオンと交換に赤血球外に出され血漿に溶け込んで肺に循環する。二酸化炭素の15-20%は酸素を放出したヘモグロビンに結びつきカルバミノヘモグロビンとして赤血球により肺に運ばれ、約10%はそのまま血漿に溶け込んで肺に循環する[18]

人の場合だと肺では酸素分圧はほぼ100mmHgであり二酸化炭素はほとんど無いので赤血球の酸素飽和度はほぼ100%になる。酸素を含んだ赤血球は組織に循環するが、組織内の酸素分圧は組織によって違い、一般的な組織内では40mmHg、活動中の筋肉内では20mmHg程度になる[註 4]。酸素分圧の差でも赤血球は酸素を放出するが二酸化炭素が存在せず酸素分圧の差のみであると、赤血球は持っている酸素の内10-30%程度しか赤血球外へ放出できない。しかし組織内に二酸化炭素が発生していると、それが炭酸に変換されてpHの低下するによっておきるボーア効果によって赤血球は大半の酸素を放出することができるようになる[19](右上図も参照のこと)

酸素に富み二酸化炭素の少ない肺では、赤血球は逆の行程で重炭酸イオン(HCO3−)を二酸化炭素に戻して吐き出し、酸素を取り込む[16]。 つまり、二酸化炭素の少ない肺では赤血球内の二酸化炭素が出て行くが、赤血球内の二酸化炭素濃度が下がると炭酸脱水酵素は組織内のときとは逆に重炭酸イオン(HCO3−)を二酸化炭素CO2と水酸基(OH−)に換え、赤血球内の細胞質のpHは上昇する。また赤血球内の重炭酸イオンが減少したことで赤血球外の重炭酸イオンが塩素イオンと交換で取り込まれ、二酸化炭素に変換されて再び放出される。pHが上昇した赤血球内では酸素を取り込みやすくなり、もともと酸素に富んだ肺組織内であるのでヘモグロビンはいっぱいに酸素を取り込む。酸素飽和度があがった赤血球は、再び末端の組織細胞に酸素を運搬する[20]

過剰な酸素は細胞を傷つけるが、赤血球に酸素を取り込み末端組織内で酸素を吐き出す過程では二酸化炭素の存在によって酸素が供給されるので、二酸化炭素の濃度が濃いほど(一般に活動の盛んな細胞ほど二酸化炭素の排出が多い)赤血球が供給する酸素の量が増えてくるので酸素を必要とする細胞に必要とする適量の酸素を供給することが出来る。この点が液体に酸素を溶かし込んで供給するシステムとの大きな違いである[16]

赤血球の代謝

成熟した赤血球は、通常の細胞が持つ核やミトコンドリア、リボゾーム、ゴルジ装置、小胞体などを捨て去り、酸素分子の輸送に特化した細胞である。その為、細胞の運動能やタンパク・脂質の合成能を持たず、通常の細胞のようには多くのエネルギーを必要としない(その為に酸素を消費してエネルギーの産出を担うミトコンドリアを捨て去ることが出来る)。しかし、赤血球でもATPを用いての陽イオンの輸送や細胞膜やヘモグロビンなどの各タンパクの維持の為に(通常の細胞よりは少ないものの)エネルギーを必要とする。エネルギーはグルコースを分解することで得られるが、グルコースの90%は嫌気性解糖系と呼ばれる多数の酵素によるATP合成経路であるEMBDEN-MEYERHOF回路によって消費されATPを産出する。このATPはNa+やK+などの陽イオンの輸送や膜タンパクのリン酸化、解糖系自身の維持などに使われる。残りのグルコース10%はNADPHを産出する為に五炭糖リン酸化回路を経由することで消費される。NADPHはヘモグロビンなどの各タンパク質が酸化されることを防ぎ、保護する[21][22]

エリスロポエチン

骨髄では1日あたり2000億個弱の赤血球を生み出すが、骨髄にはこれの3-5倍の赤血球産出能力があり、貧血などで低酸素状態になると赤血球の産出は盛んになる[1]造血幹細胞から赤血球などの血液細胞の分化・増殖には40種類以上の因子が関わるが、とくに赤血球の増殖にはエリスロポエチン(EPO)が大きく関わる[23]。 エリスロポエチンは分子量約34kDaの糖蛋白質であり主に腎臓(一部は肝臓)で産出される[24][25]。貧血や慢性の肺疾患、空気の薄い高地での生活などで慢性の低酸素状態になると腎臓ではエリスロポエチンを盛んに産出するようになる。赤血球の造成の途中の段階であるCFU-E(後期赤血球系前駆細胞)は非常にエリスロポエチンの感受性が高くエリスロポエチンを受け取ると細胞分裂能を高め、赤血球の数的増加に結びつく。やがて赤血球の数量が増え、貧血などの低酸素状態が改善されると腎臓ではエリスロポエチンの産出が減少し、したがって骨髄での赤血球産出も落ち着くようになる[25]。しかし慢性腎不全などで腎臓の機能が低下している患者ではEPOの産出が減り、貧血になっても赤血球の産出が亢進されず貧血が改善されない[26]

細胞膜

色は実際の色ではない
一般的な細胞膜の構造。細胞膜はリン脂質(赤い丸に黄色い2本足)が無数に並んで形成されるリン脂質二重層に各種タンパクなどが絡んで形成される。(図の着色は実際の色とは無関係である)
赤血球の細胞膜。一般の細胞に比べて膜骨格が顕著である。脂質二重層にからんで緑色が赤血球膜骨格、赤や青が縦貫タンパク質やそれに連結するタンパク質である。(図の着色は実際の色とは無関係である)
膜骨格の概略。Spectrinはactinやband4.1によって網状に連結される。Spectrinに結合したankyrinはband3と結びつき、Spectrin-actin-band4.1連結部はGlycophorinに連結する

赤血球は自分の直径の半分以下の径の微小な毛細血管にも入り込まなければならないので非常に柔軟な変形能力を持ち、また120日間の寿命の間、絶えず循環し繰り返しの変形に耐える安定性が求められる。その赤血球を構成している赤血球細胞膜は、主にリン脂質が隙間無く並んだ層が二重の層を形成している膜脂質二重層と、鎖状のたんぱく質が網状に連結され細胞膜を裏打ちして支持している膜骨格、脂質二重層と膜骨格の連結し保持する膜縦貫タンパク質やアンカータンパク、細胞膜を貫通し物質の細胞内外の交換の役割をはたすポンプ・キャリア・チャネルと呼ばれる膜縦貫たんぱく質や情報のやり取りの為のレセプター、表面を産毛のように覆い細胞間の情報伝達や、他の細胞との接着・分離にも関係する糖鎖などからなっている[27]

膜脂質二重層

親水性のリン酸部分の頭部に疎水性である脂肪酸が2本の尾部がついたのがリン脂質である。赤血球の内外は主に水で満たされているのでリン脂質は頭部を外側に、水に反発する尾部を内側に厚さが3.5-5.6ナノメートル[28]程度の厚さの2重層を作って並ぶ(右の各図で丸い頭に2本足で描かれているのがリン脂質で、それが無数に並んでいるのが2重層である)。2重層の両外側は親水性なので膜全体は赤血球内外の環境になじみ、内側には疎水性の脂肪酸が充満しているので細胞の内外をしっかり遮断することが出来る。この脂質2重層は電気的に中性で極めて小さな分子、例えば酸素分子や二酸化炭素分子は通すが、極性を持つ水分子は通りにくく、大きな分子やイオンは通ることが出来ない。[29][30]    

リン脂質分子同士の結合はゆるいので、各リン脂質分子は脂質2重層の中を横方向に自由に移動することができ、さらに血漿中のリン脂質分子が脂質2重層に入り込んだり、逆に血漿中に抜け出ることも可能である。また脂質2重層を貫通している膜縦貫タンパクやレセプターなども膜脂質2重層上を移動することができる(膜骨格にアンカーされているものは膜骨格の自由度の範囲内で動ける)、実際、マウスとヒトの細胞を融合させる実験では細胞膜上の分子は移動しマウス由来の分子とヒト由来の分子が混ざり合うことが確認されている。[30][31]

このリン脂質分子はリン酸の先に付いた分子によりホスファチジルコリン(PC)、スフィンゴミエリン(SM)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)などがあり、赤血球の膜脂質2重層ではPCが21%、PSとPEが合わせて29%、SMが21%、コレステロールが26%、他が数%で構成される[32]

並んだリン脂質分子の間にコレステロールが入り込むと分子間の結合力が強くなるため、膜は硬くなり柔軟性が弱くなる。膜脂質2重層の多くの部分ではコレステロールは多くはないのでリン脂質分子は比較的自由に動けるが、次に解説する膜脂質ラフト部分ではコレステロールが非常に多く硬く分子の自由度は低下する[33][34]

これらのPCやPS、PE、SMなどは2重層の外側(血漿側)と内側(細胞質側)で分布にムラがあり、外側にはPC、SMと糖脂質が多く、内側にはPE、PSが多く非対称分布を成している。リン脂質分子の膜の表裏間の移動は3種類の酵素が関わっており、flippaseはPE、PSを膜の外側(血漿側)から内側(細胞質側)に移動させ、floppaseはすべての脂質分子を内側から外側に移動させ、scramblaseはすべての分子を両方向に混同する。これらの酵素の働きによって膜内外のリン脂質の非対称分布がなされていると考えられている[31][35]。非対称分布の一つの理由として、主なリン脂質のなかでPSは陰性荷電を持ち、細胞質内のたんぱく質が持つ陽性荷電と相互作用しやすいことが細胞膜の機能に好都合であると考えられている[36]

膜脂質ラフト(Lipid Raft)

リン脂質2重層膜上には他の部分より少し厚さが厚く少し硬い脂質2重層上を移動することが出来る領域があり、海に浮かぶ筏に例えられ脂質ラフト(Lipid Raft)と呼ばれている。ラフト部分ではリン脂質は主にスフィンゴミエリン(SM)で構成され、SM分子の間にコレステロール分子が非常に多く入り込んで分子間の結合を強化している。スフィンゴミエリンの脂肪酸部分はPCやPS、PEより長いのでラフトは若干厚さを増し、コレステロールが分子間結合を強化するので硬くなる。ラフトではSMとコレステロールの他に、膜縦貫タンパクやレセプター、糖脂質なども多く存在している。多くの積荷を積んだ筏のようなイメージでラフトと通称されているが、通常の脂質2重層もラフトも、どちらもリン脂質を主要構成分子にしている点は海上に浮かぶ筏とは違う。ラフトの直径は数十ナノメートル程度で赤血球膜状には多数あり、タンパクなど多種の分子を多く載せているラフトは赤血球の機能に大きく関わっている部分だと考えられている[37][38]

膜骨格

α鎖スペクトリン(Spectrin)とβ鎖スペクトリンが連結した一本の線状のタンパク質が並んで2本絡まった長さ200ナノメートルのひも状のタンパク質(α鎖2本β鎖2本の4量体スペクトリン)が、4.1タンパク(Band4.1)やアクチン(Actin)など[註 5]のタンパク質によって連結され網状になり脂質二重層に接するように存在するのが膜骨格である。その網状の膜骨格はアンキリン(Ankyrin)や4.1タンパクによって膜縦貫タンパク質・バンド3タンパク(Band3)やグリコフォリン(Glycophorin)に結合され細胞膜を裏打ち補強している。この脂質二重層の細胞膜を膜骨格が裏打ち補強している構造が赤血球膜の柔軟性と安定性をもたらしている[27]

表面タンパク

赤血球の役割は酸素や二酸化炭素の輸送であり、その為に赤血球膜では酸素(O2)二酸化炭素(CO2)重炭酸イオン(HCO3−)の交換が重要であり、また細胞の維持に必要なグルコースや各イオンなどの交換も重要である。

赤血球膜縦貫タンパク質であるバンド3は一つの赤血球に120万個あり赤血球膜縦貫タンパクではもっとも多いが、赤血球膜に適度な間隔をおいて存在し、脂質二重層と膜骨格のアンカーの役とともに重炭酸イオン(HCO3−)と塩素イオンの交換や一部の有機物の輸送を行っている。グルコースやナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなどはその他の赤血球膜縦貫タンパク質によって輸送され、酸素分子や二酸化炭素分子などの電気的に中性で小さな分子は脂質二重層を直接通過する[27][39][40][41]

  • 主要な赤血球膜上の物質輸送機関[40]
担体 被輸送体
脂質二重層

酸素、二酸化炭素
Na+,K+ ATPaseタンパク質

(adenosine triphosphatase)

, などの一価の陽イオン
Ca2+ ATPaseタンパク質

(adenosine triphosphatase)

などの二価の陽イオン
バンド3タンパク質

(anion exchange protein)

などの陰イオン、ピルビン酸など
バンド4.5タンパク質

(glucose transporter)

グルコース

上記以外にも多くのトランスポーターレセプターが赤血球膜にはあることが報告されている[42]

また、これらの赤血球膜縦貫タンパク質は血液型抗原にも関係している。

※バンド4.1や4.5等は名称は似ているが、電気泳動分析のバンド番号であり、分子量による命名であって、それぞれは異なるタンパク質である。

血液型

赤血球の表面には250種以上の表面抗原があるが、A/B型抗原はその代表的な抗原である。 赤血球の表面にA抗原があるとA型、B抗原があるとB型、AとB,両方の抗原があるとAB型、両抗原が無いとO型とする[43]。 逆に血漿中には各抗原に反応する抗体があり、通常A型の血漿中には抗B抗体があり、B型の血漿中には抗A抗体があり、AB型の血漿中には抗A抗体も抗B抗体のどちらも無し、O型の血漿には抗A抗体と抗B抗体両方が存在する[43]

(血漿中の抗体を調べることで血液型を判定することを裏試験ともいう[43]。)

表面抗原に、それぞれ対応する抗体が反応すると赤血球は凝集してしまう。

必要な物質

赤血球に必要な物質は大半はたんぱく質であり体内で合成できるが、鉄とビタミン12、葉酸は合成できず体外から取り込む必要がある。

成人の体内には3-4gのがあるがその2/3はヘモグロビンの構成材として赤血球中にあり、古くなった赤血球は脾臓や肝臓で壊されるが、その際に鉄は回収され、失われるのは1日あたり数mgにすぎない[44]。しかし、出血などで鉄を多く失うとヘモグロビンの合成に必要な鉄分が不足し、赤血球は小型の物になる(小球性貧血)。

B12

ビタミンB12はコバルトを含むビタミンの総称で、ある種のバクテリアしか生産することは出来ないが、食物連鎖によって動物は十分な量のB12を体内に持っており、人も肉類、魚類、乳製品などの動物性食品を食することでB12を取り入れるので普通の状態では体内に数年分の量のB12を貯えている。B12は食物ではたんぱく質と結びついているが、胃酸によってたんぱく質から遊離し、胃壁から分泌される内因子(IF)とB12とが膵液の作用によって結びつくことでB12は回腸から吸収されるようになる。したがって胃の切除者、萎縮性胃炎での内因子分泌障害(悪性貧血)などで内因子が不足したり、あるいは腸の吸収障害、あるいは極端な菜食主義者などでは数年ののちにB12は不足する。B12が不足すると細胞のDNAの合成が障害されて、赤血球系造血では巨赤芽球(その名のとおり巨大な赤芽球)が産生され、それは正常な赤血球に分化できないため無効造血となり巨赤芽球性貧血に陥る[45][46]

葉酸

葉酸はレバー、緑黄色野菜、果物などに含まれている水溶性ビタミンであるが、B12と共に働いて赤血球の成熟に関わる。通常では葉酸は食物から酵素の働きで空腸から吸収され、体内に数ヶ月分の量が貯えられているが、なんらかの理由で不足するとB12の不足と同じに赤血球はDNAの合成が阻害され、正常な成熟が出来ずに巨赤芽球性貧血になる[47]

分化

血液疾患の為に血液中に現れた赤芽球。右上に二つある有核細胞のうち丸い核のものが好塩基性赤芽球、左下にある2つの有核細胞の大きいほうが多染性赤芽球、小さいほうが正染性赤芽球。一番右上と右下のいびつな核の細胞は白血球である。
造血幹細胞とその細胞系統

造血幹細胞から分化し始めた幼若な血液細胞は盛んに分裂して数を増やしながら少しずつ分化を進めていく。最終的に赤血球に分化・成熟する場合は造血幹細胞、骨髄系幹細胞(骨髄系前駆細胞)、赤芽球・巨核球系前駆細胞、前期赤芽球系前駆細胞(BFU-E)、後期赤芽球系前駆細胞(CFU-E)、前赤芽球好塩基性赤芽球多染性赤芽球正染性赤芽球、(網赤血球)、赤血球と成熟していく[48][49]

骨髄系幹細胞(骨髄系前駆細胞)、赤芽球・巨核球系前駆細胞、前期赤芽球系前駆細胞(BFU-E)、後期赤芽球系前駆細胞(CFU-E)などの前駆細胞の段階では、細胞は非常に活発に細胞分裂して数を増やすが、顕微鏡による形態観察では赤血球系との判別は困難である[48][49]

前赤芽球の段階から形態的にも赤血球への分化の方向がはっきりしてくる。赤血球系と判別できるようになった前赤芽球から多染性赤芽球までの細胞も前駆細胞ほど盛んではないが細胞分裂能を持ち、1つの前赤芽球は多染性赤芽球の段階までに3-4回細胞分裂を起して8-16個の細胞に増える[50]

前赤芽球は直径が20-25μmで前の段階の前駆細胞より大きくなり、赤血球への分化・成熟の段階で一番大きい細胞であり、顕微鏡観察で赤血球への分化の方向が明らかな最初の段階の細胞であり、核構造は繊細で、細胞質は塩基性が強く、リボゾームが多い[49]

好塩基性赤芽球では大きさは前赤芽球より小さくなり(この後の段階でさらに小さくなり続ける)16-18μmほどであり、前赤芽球ほどではないが細胞質は塩基性であり、核構造はやや粗くなる[49]

多染性赤芽球ではヘモグロビンの合成が開始され[51]、ヘモグロビン量が増えるにつれ細胞質の塩基性は弱くなり、細胞はさらに小さくなり、核構造は凝縮しさらに粗くなる。この段階でも弱いながらも細胞分裂能を残している[49]

正染性赤芽球では細胞分裂能は失われ細胞核は凝縮し細胞質は赤血球に近くなる。直径は10-15μmでやがて細胞核が脱落して赤血球に成熟する[49]

これらの幼若な段階の細胞、造血幹細胞、前駆細胞、赤芽球は骨髄にのみ存在する。骨髄にはバリアがあり、幼若な血液細胞は骨髄から出ることが出来ず、脱核して赤血球になって初めて血液中に出ることが出来るため、通常は末梢血では有核の赤芽球は観察されない。

正染性赤芽球から核が脱したばかりの若い赤血球では、まだリボゾームが残っており、ニューメチレンブルーによる超生体染色を行うとタンパク質とRNAの複合体であるリボソームがその他の細胞内小器官を巻き込みながら網状に凝集し、凝集したリボソームのRNAが青く染まり、顕微鏡観察では網状に見えるので網赤血球と呼ぶ。網赤血球の段階でも10%-30%ほどのヘモグロビンが合成される。網赤血球は骨髄内に2日ほど留まり、その後血液中に移動して1-2日ほどでリボソームやミトコンドリアが抜け落ちて成熟し完成した赤血球になる[48]。通常、網赤血球は赤血球の0.5-1.5%程度であるが、造血が盛んになると若い出来立ての赤血球である網赤血球の割合が増え、骨髄での造血機能が衰えると網赤血球の割合が減る。

赤血球は骨髄造血幹細胞から作られるが、その分化・成熟には骨髄においてマクロファージが大きく関わっている。 骨髄において、赤血球の幼若な段階である赤芽球はマクロファージを中心にその回りを取り囲むように数個から数十個が集団で寄り集まっている。中心に存在するマクロファージは赤芽球に接し、ヘモグロビンの合成に不可欠な鉄や細胞の生育に必要な物質を供給し、成熟をコントロールし、また脱核させた核の処理や、不要になった赤血球細胞の除去にも関与している[48][52]。 この、骨髄内においてマクロファージを中心に赤芽球が集まり、赤血球の形成に関わっている細胞集団を赤芽球島もしくは赤芽球小島という[48]

赤血球の老化と除去

赤血球は血液中で約120日働くと老化し、老化した赤血球は脾臓でマクロファージに捕捉・貪食され分解される。分解された赤血球の構成材のアミノ酸の多くや鉄は回収され再利用されるが、ヘムの分解代謝物であるビリルビンは胆汁もしくは尿として排出される。

赤血球が老化すると嫌気性解糖系のエネルギー産出が衰え、そのために細胞膜上のNa+,K+ ATPaseタンパク質やCa2+ ATPaseタンパク質が働かなくなりイオンバランスが崩れるため細胞質は水分が減少し赤血球の変形能も衰えてくる。すると老化赤血球は脾臓の毛細血管を通過できなくなり脾臓に滞留するが、脾臓には老化赤血球を捕捉・貪食するマクロファージが待ち構えている[53]

赤血球の細胞膜に存在する膜縦貫タンパク質であるバンド3は若い赤血球では間隔をあけて存在し、バンド3から赤血球表面に露出している糖鎖には、それに対応する自然抗体(抗バンド3IgG抗体)が存在するが、この自然抗体はバンド3の糖鎖が十分な間隔を置いている場合(単独の糖鎖)には親和性が低く結合することが出来ない。しかし、赤血球が老化してくるとヘモグロビンの酸化物が増え(この酸化物は、ヘムに酸素を取り入れたオキシヘモグロビンではない)、ヘモグロビン酸化物はバンド3の細胞質側に結合する。さらにバンド3に結合したヘモグロビンの酸化物はお互いに架橋し、バンド3を凝集させる。バンド3が凝集すると細胞表面の糖鎖も凝集し、凝集した糖鎖は抗バンド3IgG抗体との親和性が高いので抗体が結合することが出来るようになる。脾臓には抗バンド3IgG抗体に対するレセプターを持つマクロファージが存在し、凝集糖鎖に抗バンド3IgG抗体が結合した老化赤血球はマクロファージに容易に認識・捕捉されるようになる。このような過程で老化した赤血球は取り除かれると考えられている[54]

また、若い赤血球では脂質2重層を構成するリン脂質であるホスファチジルセリン(PS)は赤血球膜内面・細胞質側に多く存在するが、赤血球が老化してくるとホスファチジルセリンは膜表面に多く現れる。この赤血球膜表面に多く現れたホスファチジルセリンもマクロファージによる貪食の標的になるとの説もある[55]

赤血球に影響する主な病気

赤血球に影響する疾患の中で主なものを挙げる[56]

再生不良性貧血骨髄異形成症候群急性白血病など

  • 主に赤血球数もしくはヘモグロビン量が減少する疾患

赤芽球癆腎性貧血巨赤芽球性貧血鉄欠乏性貧血無トランスフェリン血症鉄芽球性貧血、免疫性溶血性貧血鎌状赤血球症サラセミア発作性夜間ヘモグロビン尿症脾機能亢進症など

  • 赤血球数が増加する病気(多血症

真性多血症など

  • 色素代謝異常

ポリフィリン血症メトヘモグロビン血症など

動物の赤血球

ヒトの赤血球、600倍の拡大画像、哺乳類の中ではヒトは大き目の赤血球を持つ
サカナの赤血球、上の画像と同じ拡大率である600倍の画像。サカナの赤血球は楕円で有核である。
カエル(両生類)の赤血球、上2枚と同じ拡大率の600倍。カエルの赤血球も楕円で有核であり、非常に大きい。同じ両生類のイモリの赤血球はカエルよりさらに大きい

わずかな例外(ノトテニア亜目コオリウオ科)を除き脊椎動物は赤血球をもっている[57]

哺乳類の成熟した赤血球はヒトの赤血球に似ていて無核であり、色は赤くヘモグロビンに富み、丸い円盤状である(ラクダ科のみ楕円の円盤であるが、ラクダ科の赤血球もヒトと同様に無核である)。マウスの赤血球はヒトの赤血球の半分程度の大きさであるが、代わりに血液1μLあたりの赤血球数はおよそ2倍である。哺乳類のなかではヒトの赤血球は比較的大きく、ほとんどの哺乳類は赤血球はヒトのものより小さめで赤血球の寿命は短い傾向があるが、代わりに赤血球の数は多くヘマトクリットはどの動物でも40-50%前後とあまり変わらない。ゾウの赤血球(直径9μm)はヒトの赤血球(7-8μm)より大きいが、ヒトより体の大きいウシウマの赤血球はマウスの赤血球と大きさはあまり変わらなく数は多く、ヤギの赤血球ではヒトの赤血球の1/5程度の体積しかないなど動物種によって様々である[58][59]

哺乳類以外の脊椎動物(鳥類爬虫類魚類両生類)の赤血球は楕円で有核であり[60]、その細胞質にはミトコンドリアや小胞体を持ち、赤血球細胞自身の為の酸素呼吸やたんぱく質の合成などの代謝を行っている[61]。鳥類ではヒトの赤血球よりやや大きく、数はやや少ないが大きさには大きな差は無い。魚類の赤血球もヒトのものより数は少なくやや大きい。両生類の赤血球はとても大きく数は少ない。爬虫類は両生類と鳥類の間にある[58][60]

造血の場は哺乳類と鳥類では主に骨髄、魚類では主に腎臓、両生類では脾臓である。爬虫類は種によってさまざまである[57][58]

無脊椎動物ではある程度の体の大きさを持っているものは白血球に相当する細胞を持っているが、赤血球を持っているものは極めて少なく例外的な存在とも言える[註 6]。その赤血球を持つ例外的な無脊椎動物はすべて海棲であり、特に種類が多い昆虫類を含め陸上の無脊椎動物には赤血球を持つものはいない。その無脊椎動物の赤血球は脊椎動物の赤血球とはずいぶん異なる面が多く、その一つの特徴は核の他に何らかの顆粒が細胞質にあることであり、またそれ以外にも種によっては以下のような特徴がある[62]

星虫類の赤血球にはヘムエリスリン、それ以外にはヘモグロビン[註 7]が存在する[62]

これらのわずかな例外を除くほとんどの無脊椎動物は赤血球を持たない。無脊椎動物の多数を占める赤血球を持たない者の血液ではヘモグロビンエリスロクルオリンヘムエリスリンヘモシアニンなどの血色素が直接血漿に溶け込んで循環し酸素供給している。血が赤くない軟体類節足動物などの動物の多くではヘモグロビンではなくを用いたヘモシアニンで酸素を運ぶため血液は青みがかかっている[57][58][60]

赤血球研究の歴史

赤血球研究の歴史の中で主なものの年表を記す。

発見者および研究者 研究史 出典
1658
スワンメルダム 赤血球の発見 [63]
1674
レーヴェンフック 赤血球の詳細な報告、大きさの把握 [63]
1747 メンギニ 赤血球が鉄を含むことを磁石を用いて発見 [63]
1774 プリーストリー 赤血球が酸素に反応することを観察 [63]
1780 ラヴォアジエとラプラス 赤血球が酸素を運搬することを明らかにした [63]
1865 ホッペザイレル ヘモグロビンの詳細な研究 [63]
1901 ラントシュタイナー 血液型の発見 [64]
1904 ボーア 酸素解離曲線(ボーア効果)の解明 [65]
1948 サンガーポーター ヘモグロビンの構造研究の開始 [66]
1961 ペルツ ヘモグロビンの立体構造解析 [66]

脚注

註釈

  1. ^ 血液の55%程度を占める血漿はやや黄色をおびてはいるがほとんど透明であり、血液の色は主に45%程度を占める赤血球の色である。
  2. ^ 研究機関・検査施設ごとに多少の基準値設定の差はある。
  3. ^ 造血幹細胞を源とし、完成形を赤血球とすると、造血幹細胞から赤血球への分化・成熟の途中段階である。
  4. ^ 短距離走などの激しい運動をしている筋肉では組織内の酸素分圧は一気に5mmHg程度に下がる。この酸素分圧レベルになると筋肉組織内のミオグロビンが蓄えていた酸素を放出して一時的にまかなうがミオグロビンは酸素に対する親和性がヘモグロビンより高いので通常の組織内の酸素分圧レベル20mmHg以上では酸素を供給することは出来ない。
  5. ^ スペクトリンの結合・連結には4.1タンパク(Band4.1)やアクチン(Actin)が関わり、結合部には他に4.2タンパク・4.9タンパク・アデューシンなどのタンパク質が見られるが、4.2タンパク・4.9タンパク・アデューシンの役割は不明である-出典、『新生化学実験講座6』(上)p405-408
  6. ^ 極めて古い1954年の資料ではあるが、百万とも、あるいはそれ以上とも言われる無脊椎動物全種の中で赤血球を持っている種の数を100種程度としている。-出典『生物学実験法講座 第8巻 A』p31-33
  7. ^ アカガイなどはエリスロクルオリンを持つが、参考にした『生物学実験法講座 第8巻 A』p31-33は古い資料でありエリスロクルオリンはヘモグロビンの近縁として同一視していると思われる。

出典

  1. ^ a b c 『内科学』p1559
  2. ^ 『血液学』p23
  3. ^ a b c 『内科学』p1558
  4. ^ 『幹細胞の分化誘導と応用』p3
  5. ^ 『内科学』p1560
  6. ^ 『内科学書』p6
  7. ^ a b 三輪 『赤血球』p7
  8. ^ 『内科学書』p10
  9. ^ 野村 『赤血球』p30
  10. ^ 『三輪血液病学』p214-215
  11. ^ 『内科学書』p5
  12. ^ 野村『赤血球』p22
  13. ^ a b 『三輪血液病学』p179
  14. ^ 『内科学書』p12
  15. ^ a b c 『三輪血液病学』p117-118
  16. ^ a b c 三輪『赤血球』p99-100
  17. ^ 『三輪血液病学』p234
  18. ^ 『血液のレオロジーと血流』p3
  19. ^ 『ハーパー生化学』p49
  20. ^ 『細胞膜のしくみ』p88-89
  21. ^ 『三輪血液病学』p214-216
  22. ^ 野村『赤血球』p47-61
  23. ^ 『内科学書』p8
  24. ^ 三輪 『赤血球』p24
  25. ^ a b 『三輪血液病学』p244-245
  26. ^ 『三輪血液病学』p971
  27. ^ a b c 三輪『赤血球』p81-98
  28. ^ 『分子細胞生物学』p381
  29. ^ 『赤血球膜研究史』p260
  30. ^ a b 『クーパー細胞生物学』p49-51
  31. ^ a b 『図解分子細胞生物学』p7-8
  32. ^ 『分子細胞生物学』p380
  33. ^ 『図解分子細胞生物学』p9
  34. ^ 『細胞膜のしくみ』p44-47
  35. ^ 『細胞膜のしくみ』p36-39
  36. ^ 『赤血球膜研究史』p258
  37. ^ 『図解分子細胞生物学』p9-10
  38. ^ 『細胞膜のしくみ』p48-50
  39. ^ 『三輪血液病学』p235
  40. ^ a b 野村『赤血球』p45-46
  41. ^ 『細胞膜のしくみ』p86-91
  42. ^ 『三輪血液病学』p111-112
  43. ^ a b c 『内科学書』p49
  44. ^ 『内科学』p1563
  45. ^ 『三輪血液病学』p184-186
  46. ^ 『三輪血液病学』p974-977
  47. ^ 『三輪血液病学』p189-194
  48. ^ a b c d e 『三輪血液病学』p120-124
  49. ^ a b c d e f 『三輪血液病学』p242-244
  50. ^ 野村『赤血球』p28
  51. ^ 『三輪血液病学』p121
  52. ^ 『血液細胞アトラス』p77
  53. ^ 『細胞膜のしくみ』p158-162
  54. ^ 三輪『赤血球』p74-79
  55. ^ 『三輪血液病学』p248
  56. ^ 『三輪血液病学』p4-5
  57. ^ a b c 『三輪血液病学』p2031-2036
  58. ^ a b c d 『実験動物の血液学』
  59. ^ 『血液のレオロジーと血流』p32
  60. ^ a b c 『鳥類とエキゾチックアニマルの血液学、細胞診』p58-100
  61. ^ 『赤血球の生化学』p6
  62. ^ a b 『生物学実験法講座 第8巻 A』p31-33
  63. ^ a b c d e f 『赤血球の生化学』p2
  64. ^ 『赤血球の生化学』p104
  65. ^ 『赤血球の生化学』p26-27
  66. ^ a b 『赤血球の生化学』p21

参考文献

  • 小川哲平、大島年照、浅野茂隆 編著 『血液学』、中外医学社、1991年
  • 杉本恒明、矢崎義雄 総編集 『内科学』第9版、朝倉書店、2007年、ISBN 978-4-254-32230-9
  • 小川聡 総編集 『内科学書』Vol.6 改訂第7版、中山書店、2009年、ISBN 978-4-521-73173-5
  • エヌ・ティー・エス 編集 『幹細胞の分化誘導と応用』エヌ・ティー・エス、2009年、ISBN 978-4-86043-160-0
  • 三輪史朗 監修 『赤血球』医学書院、1998年、ISBN 4-260-10946-4
  • 野村武夫 編集 『赤血球』中外医学社、1994年、ISBN 4-498-02554-7
  • 浅野茂隆、池田康夫、内山卓 監修 『三輪血液病学』文光堂、2006年、ISBN 4-8306-1419-6
  • 三輪史朗、渡辺陽之輔 共著 『血液細胞アトラス』第5版、文光堂、2004年、ISBN 978-4-8306-1417-0
  • 菅原基晃、前田信治 共著『血液のレオロジーと血流』コロナ社、2003年、ISBN 4-339-07147-1
  • Terry W.Campbell,Christine K.Ellis 著 『鳥類とエキゾチックアニマルの血液学、細胞診』斑目広郎訳、文永堂出版、2010年、ISBN 978-4-8300-3228-8
  • 関正利、他 編集 『実験動物の血液学』ソフトサイエンス社、1981年
  • 岡田弥一郎 編集『生物学実験法講座』 第8巻 A-体液生理実験法、中山書店、1954年
  • 日本生化学会 編集『新生化学実験講座 6(上)』生体膜と膜輸送、東京化学同人、1992年、ISBN 4-8079-1071-X
  • 水上茂樹 著『赤血球の生化学』第2版、東京大学出版会、1993年、ISBN 4-13-063209-4
  • Robert K.Murray,Daryl K.Granner,Victor W.Rodwell著『ハーパー・生化学』上代淑人監訳、丸善、2007年、ISBN 978-4-621-07801-3
  • 八幡 義人 著『赤血球膜研究史』医薬ジャーナル社、2007年、ISBN 978-4-7532-2238-4
  • 八幡 義人 著『細胞膜のしくみ』裳華房、2008年、ISBN 978-4-7853-8784-6
  • Geoffrey M.Cooper,Robert E.Hausman著『クーパー細胞生物学』須藤和夫,他,訳、東京化学同人、2008年、ISBN 978-4-8079-0686-4
  • 浅島 誠、駒崎 伸二 共著『図解分子細胞生物学』裳華房、2010年、ISBN 978-4-7853-5841-9
  • H. Lodish,他 著『分子細胞生物学』石浦章一他 訳、東京化学同人、2010年、ISBN 978-4-8079-0732-8