静止トランスファ軌道

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静止トランスファ軌道(せいしトランスファきどう、geostationary transfer orbit, GTO)は、人工衛星静止軌道にのせる前に、一時的に投入される軌道で、遠地点が静止軌道の高度、近地点が低高度の楕円軌道である[1]

静止軌道は、地表からの高度が赤道上約36,000 kmとなる円軌道である。衛星をこの軌道に投入する際には次のような手順をとるのが普通である。

図:静止トランスファ軌道と静止軌道
パーキング軌道に打上げ
まず、ロケットで衛星を低高度で地球を周回する円軌道に打ち上げる。これをパーキング軌道(図の点線で示す円)と呼ぶ。
静止トランスファ軌道に軌道変換
次に、適切な時間にロケットエンジンで加速し、遠地点を静止軌道の高度まで上げる。このとき遠地点が衛星の追跡管制上都合の良い位置になるように、軌道変換の時刻を選ぶ必要がある。一旦パーキング軌道に投入する理由はこのためである。
静止ドリフト軌道に軌道変換
近地点の高度を遠地点に等しく、すなわち円軌道になるように軌道変換を行う。このためには、遠地点でロケットエンジン(アポジエンジン)(モーター)を使用して推力を与える必要がある。通常、数回に分けてアポジエンジンを噴射させ、軌道変換を行う。
最終的な静止軌道に移動
最後に、衛星内蔵の姿勢制御用エンジンで軌道高度の微調整を行い、所定の静止位置に移動する。

このような軌道高度の変換方式を一般にホーマン変換、トランスファ軌道をホーマン遷移軌道とよび、変換に要するエネルギーが最小で済むことで知られる。また、地球静止軌道に限らず、異なる惑星軌道間の変換でも同様な方式を用いることが可能である。

通常、パーキング軌道からGTOに変換する際には打上げロケットの最上段を、GTOから静止軌道に変換する際には衛星に内蔵した小型ロケットを用いることが多い。後者は遠地点 (apogee) で噴射することからアポジモーター (apogee motor) と呼ぶ。

なお通常は、上記の軌道変換中に、軌道面も変更する。パーキング軌道は通常打ち上げ地点の緯度に近い軌道傾斜角を持つため、例えば種子島バイコヌールなどの射場から打ち上げると、静止衛星に必要な軌道傾斜角0°に変換する必要がある。この意味では射場の緯度は赤道に近いほどよく、欧州宇宙機関が用いるフランス領ギアナクールー宇宙センターは北緯6°程度とたいへん立地条件が良い。米国のシーローンチ社は赤道上からの打ち上げサービスを行っている。この場合、軌道変換という視点からはもっとも効率がよい。

脚注

  1. ^ 宇宙情報センター. “軌道の種類”. 2016年1月30日閲覧。

関連項目