長いお別れ
『長いお別れ』(ながいおわかれ、The Long Goodbye)は、アメリカの作家レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説。1953年に刊行された、私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とする長編シリーズの第6作目。
『大いなる眠り』や『さらば愛しき女よ』と並ぶチャンドラーの長編である[1]。感傷的でクールな独特の文体、台詞、世界観に魅了されるファンは今でも多い。チャンドラーのハードボイルド小説は、長編短編問わず、ほとんどが探偵の一人称による語りだが、特に本作以降ハードボイルド小説というものはこの形式が模倣を超えて定番化したとさえ言え、この形式をとるハードボイルド小説の人気ははいまだ衰えていない。「ギムレットには早すぎる」や「さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ」、「警官とさよならを言う方法はまだ発明されていない。」(いずれも清水俊二訳)などのセリフで知られる。
1973年にロバート・アルトマン監督により映画化され(日本では『ロング・グッドバイ』のタイトルで公開)、2014年に日本で『ロング・グッドバイ』のタイトルでテレビドラマ化された。
あらすじ
私立探偵フィリップ・マーロウは、偶然二度助けた宿無しだがどこか品性のあるテリー・レノックスに惹かれるものを感じ、友人となる。やがてマーロウは、資産家の娘と寄りを戻したレノックスと、毎晩酒場で杯を傾けるようになるが、宿無しのときのレノックスのほうが良かったなどと違和を感じる。そんなある深夜、レノックスがただならぬ様子でマーロウのところにメキシコへ逃れる手助けを頼みに来る。レノックスの妻が殺されたのだという。マーロウはレノックスの無実を信じ、ただ頼まれたとおりにするが、家に戻ってみると待っていたのは警官で、レノックスの妻殺しは、レノックスに容疑がかかっていたのだった。マーロウは友を守るためにことさら反抗的に振舞うので、警察に連行されさんざんな目にあうが、レノックスがメキシコで自殺したとの情報が入ったので釈放される。呆然として家に戻ると「ギムレットを飲んだら、僕のことはすべて忘れてくれ」と書かれたレノックスからの手紙が届いていた。マーロウはやがて、レノックスの隣人で失踪したアル中の小説家の捜索を、その美人妻と編集者から依頼される。小説家はマーロウのおかげで戻ってくるが、彼は殺されたレノックスの妻と関係があった。小説家は禁酒の監視役をマーロウに仕事として依頼するが、小説家もまた何者かに殺されてしまう。レノックスの件でマーロウを脅迫してくるヤクザ、レノックスの岳父にあたる謎めいた大富豪など、くせものが次々とマーロウの前に現れ、意外な真相と過去にたどり着くが、それでも腑に落ちぬマーロウはくすぶった毎日を送る。そこへ一人の男がマーロウを訪問する……。
登場人物
- フィリップ・マーロウ - 探偵
- ハーラン・ポッター - 億万長者
- シルヴィア・レノックス - ハーランの末娘
- テリー・レノックス - シルヴィアの夫
- リンダ・ローリング - シルヴィアの姉
- エドワード・ローリング - リンダの夫
- ロジャー・ウェイド - 作家
- アイリーン・ウェイド - ロジャーの妻
- キャンディ - ウェイド家のハウスボーイ
- ハワード・スペンサー - ニューヨークの出版社の代表者
- ヘンリー・シャーマン - 「ジャーナル」紙の編集長
- ロニー・モーガン - 「ジャーナル」紙の記者
- ランディ・スター - クラブの経営者
- メンディ・メネンデス - ギャングのボス
- チック・アゴスティノ - メンディの用心棒
- ジョージ・ピーターズ - カーン協会員
- レスター・ヴューカニッチ - 耳鼻喉喉科の医者
- エイモス・ヴァーリー - 医者
- ヴァリンジャー - 医者
日本語訳
現在は以前から刊行されていた清水俊二訳の『長いお別れ』 と、村上春樹の新訳『ロング・グッドバイ』が両方とも流通している。
- 『長いお別れ』 清水俊二訳 早川書房(世界探偵小説全集) 1958年 絶版
- 『長いお別れ』 清水俊二訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1976年
- 『ロング・グッドバイ』 村上春樹訳 早川書房 2007年 ハードカバー
- 『ロング・グッドバイ』軽装版(ノベルス) 村上春樹訳 早川書房 2009年 絶版
- 『ロング・グッドバイ』ハヤカワ・ミステリ文庫 村上春樹訳 2010年
備考
矢作俊彦のハードボイルドシリーズ・二村永爾シリーズ第3作『ロング・グッドバイ(THE WRONG GOODBYE)』は、この作品を下敷きにしており、プロット、登場人物の相関に似通った要素が多い。一人称のクールな文体は、邦訳者のひとりである村上春樹もまたその影響を受けた一人である。村上は『カラマーゾフの兄弟』と『グレート・ギャツビー』と本作を、もっとも影響を受けた作品3作として挙げており、『羊をめぐる冒険』の物語も本作の影響をよく指摘される。また本作は、先行作品としてグレアム・グリーン原作による映画『第三の男』(1949)とも類似している部分がある。
映画化
ロング・グッドバイ | |
---|---|
The Long Goodbye | |
監督 | ロバート・アルトマン |
脚本 | リイ・ブラケット |
原作 |
レイモンド・チャンドラー 『長いお別れ』より |
製作 | ジェリー・ビック |
製作総指揮 | エリオット・カストナー |
出演者 | エリオット・グールド |
音楽 | ジョン・ウィリアムズ |
撮影 | ヴィルモス・スィグモンド |
編集 | ルー・ロンバード |
製作会社 |
E-K-Corporation ライオンズゲート |
配給 | ユナイテッド・アーティスツ |
公開 |
1973年3月7日 1974年2月23日 |
上映時間 | 112分 |
製作国 | アメリカ合衆国 |
言語 | 英語 |
1973年に監督ロバート・アルトマン、主演エリオット・グールドにより映画化された。邦題は『ロング・グッドバイ』(原題は『The Long Goodbye』)。
内容は1970代風にアレンジされており、エリオット・グールドが演じる探偵フィリップ・マーロウが友人テリー・レノックスの謎の死をきっかけにある事件に巻き込まれていく。
キャスト(映画)
※括弧内はTBS「月曜ロードショー」版日本語吹替(2015年10月7日発売の『吹替の名盤』シリーズ <テレビ吹替音声収録>HDリマスター版DVDに収録)
- フィリップ・マーロウ - エリオット・グールド(森川公也)
- アイリーン・ウェイド - ニーナ・ヴァン・パラント(小谷野美智子)
- ロジャー・ウェイド - スターリング・ヘイドン(宮川洋一)
- マーティ・オーガスティン - マーク・ライデル(青野武): チンピラのボス。
- ドクター・ヴェリンジャー - ヘンリー・ギブソン(千葉耕市)
- ハリー - デヴィッド・アーキン: オーガスティンの子分。
- テリー・レノックス - ジム・バウトン[注 1]
- モーガン - ウォーレン・バーリンジャー
- ルターニャ・スウィート - ルターニャ・アルダ
- デイヴ(ソクラテス) - デビッド・キャラダイン(クレジットなし[2])
- チンピラ - アーノルド・シュワルツェネッガー(クレジットなし[2]): オーガスティンの事務所にいるムキムキマッチョなチンピラ。
スタッフ(映画)
- 監督:ロバート・アルトマン
- 製作:ジェリー・ビック
- 製作総指揮:エリオット・カストナー
- 脚本:リイ・ブラケット
- 原作:レイモンド・チャンドラー(『長いお別れ』より)
- 撮影:ヴィルモス・スィグモンド
- 音楽:ジョン・ウィリアムズ
トリビア
- 松田優作がこの映画にインスパイアされ、TVでは『探偵物語』、映画では『ヨコハマBJブルース』を生み出したことで知られている[要出典]。
テレビドラマ
ロング・グッドバイ | |
---|---|
ジャンル | テレビドラマ |
原作 |
レイモンド・チャンドラー 『ロング・グッドバイ』 |
脚本 | 渡辺あや |
演出 | 堀切園健太郎 |
出演者 |
浅野忠信 綾野剛 小雪 古田新太 冨永愛 柄本明 |
時代設定 | 1950年代 |
製作 | |
プロデューサー |
(制作統括) 城谷厚司 谷口卓敬 |
制作 | NHK |
放送 | |
放送国・地域 | 日本 |
放送期間 | 2014年4月19日 - 5月17日 |
放送時間 | 土曜21:00 - 21:58 |
放送枠 | 土曜ドラマ (NHK) |
放送分 | 58分 |
回数 | 5 |
公式サイト |
『ロング・グッドバイ』(英語表記:THE LONG GOODBYE)のタイトルでテレビドラマ化。2014年4月19日より5月17日まで土曜日21:00 - 21:58に、NHKの「土曜ドラマ」枠で放送された。全5話。主演は浅野忠信で、デビュー26年にして初の連続ドラマ主演となる[3][4]。キャッチコピーは「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ。」。1950年代の東京を舞台に描かれる。
キャスト(テレビドラマ)
主人公
- 増沢 磐二(ますざわ ばんじ)
- 演 - 浅野忠信
- 私立探偵。雨の中で妻に捨てられ路上に行き倒れていた保を助けたことが切っ掛けで、何度か酒を酌み交わす仲になっていく。
- 原作のフィリップ・マーロウに当たる。
原田家
- 原田 保(はらだ たもつ)
- 演 - 綾野剛(少年期:柾木玲弥)
- 旧姓:城崎。本名:松井 誠一(まつい せいいち)。キャバレーローズの支配人をしていた頃に客で来店していた志津香と出会い、彼女に見初められ婿養子に入る。その後、妻を殺害したと書き記した遺書を残して逃亡先の台湾にあるホテルの一室で命を絶つ。
- 原作のテリー・レノックスに当たる。
- 原田 志津香(はらだ しずか)
- 演 - 太田莉菜
- 保の妻。女優で有名な実業家の娘。鈍器で頭部を数回殴打された後に拳銃で殺される。遺作の主演映画は『闇夜の包帯娘』。
- 原作のシルヴィア・レノックスに当たる。
- 高村 世志乃(たかむら よしの)
- 演 - 冨永愛
- 旧姓:原田。志津香の姉。高村医師の妻。
- 原作のリンダ・ローリングに当たる。
- 原田 平蔵(はらだ へいぞう)
- 演 - 柄本明
- 実業家。志津香の父。
- 原作のハーラン・ポッターに当たる。
- 遠藤(えんどう)
- 演 - 吉田鋼太郎
- 原田家の顧問弁護士。
- 原作のスーウェル・エンディコットに当たる。
- 風間(かざま)
- 演 - 徳井優
- 志津香に仕える使用人。
- 原作の運転手・エイモスに当たる。
- 秘書
- 演 - 大西武志
警察関係者
- 岸田(きしだ)
- 演 - 遠藤憲一
- 警部補。磐二とは旧知の仲。
- 原作のバーニー・オールズとグリーンを合成した人物。
- 権田(ごんだ)
- 演 - 高橋努
- 刑事。岸田の部下。盤二に暴力をふるう。
- 原作のデイトンとグレゴリアスを合成した人物。
上井戸家
- 上井戸 亜以子(かみいど あいこ)
- 演 - 小雪(少女期:中村ゆりか)
- 譲治の妻。
- 原作のアイリーン・ウェイドに当たる。
- 上井戸 譲治(かみいど じょうじ)
- 演 - 古田新太
- ベストセラー作家。亜以子の夫。代表的な著書は『背徳の踊り子』『美女と黒蜥蜴』。
- 原作のロジャー・ウェイドに当たる。
- 金田 章介(かねだ しょうすけ)
- 演 - 泉澤祐希
- 譲治の身の回りの世話などをする書生。
- 原作のキャンディーに当たる。
その他
- 羽丘(はねおか)
- 演 - 田口トモロヲ
- 出版社社長。譲治の担当編集者。アルコール使用障害に陥る夫を救ってほしいという妻・亜以子の依頼を増沢に連絡を取り、仲介する。
- 原作のハワード・スペンサーに当たる。
- 森田(もりた)
- 演 - 滝藤賢一
- 志津香殺害事件を取材する東亜タイムスの記者。
- 原作のロニー・モーガンに当たる。
- リリー
- 演 - 福島リラ
- キャバレー紅夢のステージで唄う歌姫。
- 高村 肇(たかむら はじめ)
- 演 - 堀部圭亮
- 亜以子の主治医で世志乃の夫。高村記念病院院長兼精神科部長。
- 原作のエドワード・ローリングに当たる。
- 正岡 虎一(まさおか とらいち)
- 演 - やべきょうすけ
- 通称:正虎(まさとら)。本名:木村 丸男(きむら まるお)。戦後に闇市、現在は賭場やキャバレーを取り仕切る元締。独立第361国境守備隊に徴兵されていた頃、同じ部隊に所属していた保に命を救われる。
- 原作のメンディー・メネンデスに当たる。
- 財前(ざいぜん)
- 演 - 岩松了
- 譲治に麻薬を売っている医師。
- 原作のヴェリンジャーに当たる。
- 六郎(ろくろう)
- 演 - 渡辺大知
- 廃墟と化した財前病院に棲みつき、門番だと名乗る男。
- 原作のアールに当たる。
- バーテン
- 演 - 中嶋しゅう
- バーヴィクターズのバーテン。
- 闇医者
- 演 - でんでん
- 磐二と繋がりがある闇医師。
- 中年女
- 演 - 石田えり
- 磐二に夫の浮気調査を依頼する。
ゲスト
複数話・単話登場の場合は演者名の横の括弧()内に表記。
スタッフ(テレビドラマ)
- 原作 - レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』
- 脚本 - 渡辺あや
- 音楽 - 大友良英
- 演出 - 堀切園健太郎(NHKエンタープライズ)
- 語り - 滝藤賢一
- 脚本協力 - 小川真司
- タイトルバック写真 - 長谷井宏紀
- 編集 - 大庭弘之
- 美術 - 山口類児、伊達美貴子
- スタイリスト - 北村道子
- アクション指導 - 下村勇二
- バーテンダー指導 - 高坂壮一
- 台湾語指導 - 鄭文逸
- 制作統括 - 城谷厚司(NHKエンタープライズ)、谷口卓敬(NHK)
- 制作 - NHKエンタープライズ
- 制作著作 - NHK
放送日程
各話 | 放送日 | サブタイトル |
---|---|---|
第1回 | 4月19日 | 色男死す |
第2回 | 4月26日 | 女が階段を上る時 |
第3回 | 5月 | 3日妹の愛人 |
第4回 | 5月10日 | 墓穴にて |
最終回 | 5月17日 | 早過ぎる |
平均視聴率 4.9%[5](視聴率は関東地区・ビデオリサーチ社調べ) |
- 最終回は『プロ野球 巨人対広島』中継により30分繰り下げ(21:30 - 22:30)。
- 本編は全回58分。BSプレミアムでも11月8日~12月5日の日程で午前0時から放送された。
- 新曲を交え110分に再編集を行った「リミテッド・エディション」が12月6日にBSプレミアムで、2015年1月2日には総合テレビで放送される。
関連商品
- サウンドトラック
-
- 土曜ドラマ ロング・グッドバイ オリジナル・サウンドトラック(2014年5月14日発売、ビクターエンタテインメント)
- 公式本
-
- 長谷井宏紀・写真『The Long Goodbye NHK土曜ドラマ「ロング・グッドバイ」ビジュアルブック』(2014年4月24日発売、早川書房)ISBN 978-4152094513
- ノベライズ
-
- 司城志朗・ノベライズ、渡辺あや・脚本『ロング・グッドバイ〔東京篇〕』(2014年4月24日発売、早川書房〈ハヤカワ文庫〉)ISBN 978-4150311568
NHK 土曜ドラマ | ||
---|---|---|
前番組 | 番組名 | 次番組 |
足尾から来た女
(2014.1.18 - 2014.1.25) |
ロング・グッドバイ
(2014.4.19 - 2014.5.17) |
55歳からのハローライフ
(2014.6.14 - 2014.7.12) |
脚注
- ^ 1995年出版のアメリカ探偵作家協会によるベスト100では、8位に「大いなる眠り」、13位「長いお別れ」、21位「さらば愛しき女よ」となっているが、日本ではハヤカワミステリーベスト100など、ほとんどのランキングで、チャンドラー作品としては1位を保ち傑作とする人が多い。
- ^ a b c “The Long Goodbye (1973) - Full cast and crew” (英語). IMDb. 2013年1月30日閲覧。
- ^ “浅野忠信さん連続ドラマ初主演!『ロング・グッドバイ』”. NHK (2014年1月14日). 2014年1月14日閲覧。
- ^ “浅野忠信 : デビュー26年で初の連ドラ主演”. まんたんウェブ (2014年1月14日). 2014年1月14日閲覧。
- ^ 「発表! 第81回ドラマアカデミー賞」『週刊ザテレビジョン関西版』第20巻33号(2014年8月22日号)、KADOKAWA、2014年8月22日、26頁。
注釈
- ^ 元メジャーリーガー。
学術的参考文献
- 小野智恵「ポスト・ノワールに迷い込む古典的ハリウッド映画 ― 『ロング・グッドバイ』における失われた連続性」、『交錯する映画 ― アニメ・映画・文学』、映画学叢書(加藤幹郎監修、杉野健太郎編、ミネルヴァ書房、2013年3月)所収。
関連項目
- ヴィルヘルム・シュタイニッツ - マーロウが並べていた棋譜「スタイニッツ」のこと。1900年没。
- ペチジン - 「デメロール」の名で登場した鎮痛薬。
- 特殊空挺部隊 - 1941年から実戦に投入された。
外部リンク
- 映画
- エラー: subst: がありません。Movielink ではなく subst:Movielink としてください。
- エラー: subst: がありません。Movielink ではなく subst:Movielink としてください。
- エラー: subst: がありません。Movielink ではなく subst:Movielink としてください。
- エラー: subst: がありません。Movielink ではなく subst:Movielink としてください。
- The Long Goodbye - TCM Movie Database(英語)
- The Long Goodbye - Rotten Tomatoes(英語)
- テレビドラマ