航空宇宙軍史

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航空宇宙軍史』(こうくううちゅうぐんし)は谷甲州作のハードSF小説作品群。 この項ではこの作品と同一の世界設定を用いた作品群を含めて航空宇宙軍史シリーズとして扱う。

早川書房(主にハヤカワ文庫)より刊行されたほか、中央公論新社より、電子書籍として全面改稿された4巻が発売されている。2016年、『コロンビア・ゼロ 新・航空宇宙軍史』が第35回日本SF大賞受賞。

航空宇宙軍史シリーズ

航空宇宙軍の発足から、外惑星連合(木星・土星の衛星による連合)との2次に渡る戦争(外惑星動乱)、そして汎銀河連合との恒星間戦争に至る人類文明史を背景に展開する、ハードSF作品群。

相対軌道相対速度を利用した爆雷等の兵器をはじめ、航宙に年単位の時間がかかる(ワープの類は出てこない)、実際に計算された星間軌道など、今日の科学的知見と技術的蓄積の延長線上にある「嘘っぽくない」宇宙戦争が魅力である。また戦争の背景となるべき社会の資源・技術・エネルギー収支・新技術の実運用面等の考察を踏まえている点は注目に値する。

作品

作品に描かれている時代を元に分類する。大きく分けると、長編がメインストーリーで、短編は局地戦を描いたものが多い。

外史・前史

  • 戦闘員ヴォルテ
地球上、サハリンからシベリアでの物語。航空宇宙軍によって戦いのために作られた人造人間ヴォルテによる、自由を求める闘争を描く。
  • 137機動旅団 —— 雑誌掲載のみ。
地球がその勢力圏に取り込み、産業振興と植民を行っていた惑星ジャヌー。そこで起こった原住民の反地球騒乱を鎮圧するために、航空宇宙軍陸戦隊最精鋭の第137機動旅団が作戦に投入される。「いかなる混戦でもゲリラと良民を区別し、絶対に無辜の民間人を殺さない」誇り高き兵団である機動旅団の先鋒・偵察大隊矢澤小隊はしかしジャヌーで惨憺たる敗北を喫する。その理由ははたして… 第2次『奇想天外』誌新人賞佳作の、谷甲州デビュー作であり航空宇宙軍史第一作。なお、冒頭部は『終わりなき索敵』に叙述の視点を変えて取り込まれている。
  • ガネッシュとバイラブ
戦いに敗れ銀河に散って迫害を受ける地球人が、地球帰還のためにテロで恒星間宇宙船を奪おうとする。しかし成功せず、大量の犠牲者を出した末に惑星間宇宙船による無謀な恒星間逃避行となる。その妄執とも言える望郷の念を追跡機の機載コンピュータがシミュレーションの末に理解してしまったとき…。なお雑誌初出版と短編集収載版とでは結末を含めてほとんど全面的に稿が改められている。第2次『奇想天外』掲載。
  • 惑星CB-8越冬隊
地球は汎銀河世界にその位置さえも忘れ去られた時代。特異な軌道を持つ惑星CB-8を可住化改造するためのプロジェクトは、CB-8の異常な性質により人工太陽がトラブルを起こし、気圧変動も重なって越冬隊は全滅の危機に瀕する。一方CB-8にはありのままのその星に入植しようとした地球人グループもいた。空気が希薄になりゆく氷の大陸で、生き延びるための苦闘が始まる。全編脱稿後第2次『奇想天外』に分載、ハードカバー単行本として出版される。当時の名義は「甲州」ではあるが、これは谷甲州の初単行本作品である。

第1次外惑星動乱

  • カリスト-開戦前夜-
開戦前夜のカリスト。航空宇宙軍に対する戦略をめぐってカリスト軍幹部たちは議論を重ねるが、非公然組織であるがゆえの統制の甘さをついて主戦派は戦争準備につきすすむ。早期の開戦に反対する戦略情報部長エリクセン准将は、この動きを阻むべく、独自の活動を開始した…。
  • タナトス戦闘団
慎重派のクーデターの失敗から、主戦派が主導権を握ったカリスト。開戦劈頭の奇襲作戦決行の準備を命じられたタナトス戦闘団隊長ダンテ中佐は、月面都市に潜入する。しかし、カリスト軍幕僚会議の思惑と航空宇宙軍警務隊の隙の無い警戒の間で、事態は思わぬ方向に進んでゆく。
  • 火星鉄道一九(マーシャン・レイルロード) —— 短編集
  • 星の墓標 —— 短編集

第1次外惑星動乱終結後

  • 最後の戦闘航海
連作短編集
  • エリヌス-戒厳令-
外惑星動乱終結後23年。戦後地下組織化した外惑星連合軍SPAはエリヌスでクーデターを起こし同衛星都市の支配権を奪取、政治的・軍事的な聖域化を企てる。周到な計画の下に3隻の輸送船を仕立てた何か月にも及ぶ作戦ののち、圧倒的な兵力をエリヌスへ電撃的に奇襲降下させたSPAはいったんは行政府を制圧したかに見えたが…。憲法、あるいは最高法規を頂点とする法治国家の統治体系を、たった一つの宣言で覆しうる「戒厳令」(「国家非常事態宣言」)、その力と恐怖をポリティカル・フィクションとしてSFに取り入れた意欲作。航空宇宙軍史の外惑星動乱後の歴史のデッサンを示す。同時に、戦争に引き裂かれた家族の悲しい物語でもある。巻末に著者自身が2123年時点での設定をまとめた「資料編」を収める。
  • ザナドゥ高地
  • イシカリ平原
  • サラゴッサ・マーケット
  • ジュピター・サーカス —— 以上4作は現在雑誌掲載のみ

汎銀河文明との対決と航空宇宙軍の終焉

  • 終わりなき索敵(上・下)

電子書籍版

2005年から、全面改稿された電子書籍版が中央公論新社より刊行されている。物語は変わらず、作中の年代に沿って順次発売されている。GALAPAGOSソニー・リーダー等の電子ブックリーダーで閲読可能。

  • カリスト-開戦前夜-
  • タナトス戦闘団
  • 火星鉄道一九
  • 巡洋艦サラマンダー

航空宇宙軍

航空宇宙軍は航空宇宙軍史に登場する架空の軍事組織。 これまでのところ成立については詳述されていないが、「星空のフロンティア」の冒頭では、国際連合安全保障理事会航空宇宙軍小委員会のもとに、加盟各国が供出した人員機材の寄り合い所帯として設立された、とされている。 便宜上地球-月連合の指揮下に置かれているが、実質は独立した国家並の権限を持ち合わせていると思われる。

22世紀後半以降、天王星の衛星エリヌスに総司令部が置かれた。大きく分けて内宇宙艦隊、外宇宙艦隊の二系統に分かれる。

内宇宙艦隊

平時は太陽系内の治安維持を主目的とする艦隊組織。フリゲート艦と警備艦を主戦力として構成される。太陽系内での有事の際は主戦力として敵勢力と交戦。

  • ゾディアック級フリゲート艦(スコーピオン、タウルス、アクエリアス、アリエス、サジタリウス、カプリコーン)
外惑星動乱以前の建艦計画ではこの6隻で終了するはずであったが、戦後計画が拡張され、計12隻が建造された。この順序で建造されたとされる。
  • フリゲート艦 ジェミニ、オフィユキ、オリオン
以上は「オフィユキ」(「へびつかい座」)級のフリゲート艦。旧式であるが装甲が優れるとされている。
  • 1号級警備艦 「サラマンダー追撃」に登場。「砲戦距離一二〇〇〇」の溝口大尉の艦もこの級だと思われる。
  • 特設砲艦 レニー・ルークなど。
  • センシングピケット艦 無人艦。
  • オルカ・キラー

外宇宙艦隊

時期によって三段階にその主目的は変質した。

初期

太陽系外の探査活動を主要業務としていたため、観測艦とそれを支援する艦艇によって構成されていた。

超光速シャフト(超光速空間流)及びSGとの接触後

所属艦艇に超光速航法実験艦が加わる。 SG情報によって汎銀河文明の探査に乗り出したのもこの頃である。 以降組織は肥大化し、その主任務は、汎銀河文明の探索、発見後支配する為の軍政組織に変質した。 人類の急速な宇宙進出は、当初から「敵」を求めての営為であり、やがて異星の文明と戦闘に入るであろうことを航空宇宙軍が予期していたことは作中でも語られている。 宇宙開発初期の探査艦から高加速戦闘艦艇が主力となり、汎銀河連合との抗争時にはそれらの艦が航空宇宙軍内で主戦力化した。

末期

圧力的軍政に失敗し、汎銀河連合軍との交戦。 超光速航行艦による主力艦隊を構成。

  • ミンダナオ級高加速戦闘艦
  • ガンガ級主力戦闘艦

外惑星連合

本作品中における航空宇宙軍の対抗勢力の一つ。 地球-月連合、惑星開発局、さらに航空宇宙軍の間接・直接の支配に対して自然発生的に締結された衛星国家の連合政体。中核は木星系のカリストガニメデ。それにイオエウロパ土星系のタイタン及び最終的には両トロヤ群が参加した。

しかしながら、実質的な活動の主体となったのは木星系の2大国であり、他の諸国の影響力は小さかった。また、土星系とは足並みの乱れが目立ち、結束の度合いは疑わしかった。

外惑星連合軍

第1次外惑星動乱まで

外惑星連合加盟国の宇宙軍の連合体。航空宇宙軍の監視に対する配慮から、当初は武官の連絡会議の体裁を取ったが、航空宇宙軍および地球月連合に対する対抗のための軍事戦略の研究が裏面では進められていた。第1次外惑星動乱の直前までは非公然組織であったが、そのことが統制の甘さを生み、一部軍人たちの独走を許したために、航空宇宙軍に介入の口実を与えてしまい、外惑星連合全体としての自立戦略の長期的な策定と実行を妨げることになった。いずれにせよ、実体は、航空宇宙軍の脅威に怯える各衛星国家の自衛軍を糾合したものに過ぎず、実質的に戦力となるのはカリスト、ガニメデ、タイタンの3カ国軍のみ。

第一次外惑星動乱前夜には多数の共通規格商船を改装した仮装巡洋艦を保有。

動乱後期には唯一の正規巡洋艦サラマンダーが竣工している。

第1次外惑星動乱終結から壊滅まで

第1次外惑星動乱終結後、公的組織としての外惑星連合軍は消滅したが、戦犯追及を受ける恐れのある旧軍人の逃亡を幇助する地下組織にその名は引き継がれた。主に木星系の旧軍人が中心となり、旧ガニメデ軍情報部の幹部たちが指導者となった。しかし、敗戦とそこに至るまでの過程での悲惨な状況に対し責任をとるべき人々を助けるばかりの活動に対する不満から内紛が発生し、旧軍幹部からなる指導層が一掃された。以後、航空宇宙軍と地球月連合の支配に抵抗する抵抗組織に再編されるが、長期にわたる活動のうちに内部の規律と統制は弛緩し、航空宇宙軍警務隊の作戦によって壊滅させられた。

タナトス戦闘団

カリスト防衛軍警備隊の下部に設けられた陸戦部隊。山下准将隷下。指揮官はヘロム・"ダンテ"・フェルナンデス中佐、副隊長はローレンス・ブライアント少佐(ランス)、その他隊員として、ブロー、ラム、ロッド、ジョーなどがいる。戦前のアナンケ航空宇宙軍基地接収作戦、開戦劈頭の月面襲撃作戦、タイタンでのラザルス回収作戦、終戦直前のカリスト・クーデターなどで活躍したが、戦後、多くの隊員の消息は不明である。

汎銀河連合

作中には明確な形では登場していない。汎銀河世界が侵略し支配しようとする航空宇宙軍に対抗するために結成した組織。汎銀河世界とは、空間流に乗って銀河中心に向かったジョー・シマザキの心が時間と空間を超えて銀河系にばらまいた命と、それに受け継がれるジョーの心すなわち伝説とを元に、銀河系各所に成立した文明世界である。なお、作中では明言されていないが、作中の恒星の位置関係から、汎銀河世界とは地球を中心に一光世紀の世界であるらしい。