自己犠牲

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自己犠牲(じこぎせい、self-sacrifice)とは、他者のために、自己の時間や労力や生命をささげること。

概要

自己犠牲は、様々な宗教で重視されている。

般若心経では、自己犠牲とは自己を放棄することで、『自我を捨て、無我になる』すなわち自分以外のもの、普遍的世界だとしている。

法華経でも自分の利益を犠牲にして他人の利益を図る『利他心』は当然の真理とし、これほど尊いものはないと教えられる。

キリスト教では約2000年前、イエス・キリストが人類のを身代わりに受けるために十字架に架かった、とし、自己犠牲はだとされている。

ヨハネによる福音書』15章13節には「友のために自分の命を捨てること、これ以上に大きな愛はない」とある。


心理学

心理学では、自己犠牲は必ずしも他者のためにのみ行われる行為ではない、とすることがある。自己犠牲には他人のために犠牲になっている自分が愛おしいというナルシスティックな自己満足=自己陶酔という側面がある、とする。

生物学に於ける自己犠牲

生物一般に於いても、自己犠牲的な現象が見られる場合がある。親が子をかばう行動は多くの動物に見られる。これは親による子の保護の一例である。それ以外にも様々な例があり、一般的に利他的行動と呼ばれる。(行動生態学も参照。)

自然選択によって選ばれる形質が発達すると見る。その場合、より多くの子を残すような行動は自然選択に残りやすいはずであるから、結果として、親が子を守る形質が発達する、と考える。それ以外の仲間や親戚を守るような行動については上記の範囲では説明が難しいため、動物行動学行動生態学では様々な議論がある。特に、血縁選択説から発達した利己的遺伝子の概念は社会科学を含めて広い影響を与えた。


自己犠牲をテーマにした作品

小説

宮沢賢治山本周五郎は、自己犠牲をモチーフにした作品を多く残している。宮沢は法華経に帰依し、山本はクリスチャンだった。三浦綾子もクリスチャンである。

『星の王子様』

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの『星の王子さま』では、王子は小さな薔薇のために命をささげる[1]

『銀河鉄道の夜』

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』で自己犠牲は重要なテーマとなっている[2]。主人公のジョバンニは次のようにつぶやく[2]

僕はもうあのさそりのやうに ほんたうに みんなの幸のためならば 僕のからだなんか 百ぺんやいても かまはない。 — 『銀河鉄道の夜』

銀河を走る鉄道の車窓からは、赤い星「さそり」が見えた[2]。さそりが、それまで他の命をうばって食糧として生きてきた罪を、死の直前に懺悔し「まことのみんなの幸いのために私の体をお使い下さい」と祈ったことで天に召されて星になったのである[2]。このさそりの祈り、そして自らの身体を燃やすことで、闇のような世界を照らし続ける「さそり」の姿によって、自己犠牲的精神が描かれている[2]

絵本

映画


漫画

自己犠牲に関連する現実世界の出来事

脚注

  1. ^ 眞柳 麻美「愛と自己犠牲 : 星の王子さまの死の意味について 第一部」工学院大学共通課程研究論叢 43(1), 81-91, 2005-10-31[1]
  2. ^ a b c d e 和田康友「宮澤賢治と自己犠牲」日本文學誌要 54, 50-58, 1996-07-13

関連項目

関連文献

  • 宮内 寿子「ケアの倫理における自己犠牲の価値」 筑波学院大学紀要 5, 93-104, 2010 [2]
  • 二宮 克美、井上 裕光、山本 ちか「A-19 中学生の親の自己決定意識 : 自己優先対自己犠牲の葛藤場面を通して 」日本パーソナリティ心理学会大会発表論文集 (16), 54-55, 2007-08-25 [3]