膠原病

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膠原病
概要
診療科 リウマチ学
分類および外部参照情報
MeSH D003095

膠原病 (こうげんびょう、: connective tissue disease [disorder]) とは、全身の複数の臓器に炎症が起こり、臓器の機能障害をもたらす一連の疾患群の総称。 この名称は1942年にアメリカの病理学者ポール・クレンペラーが提唱した名称である。[1]クレンペラーは全身性エリテマトーデス全身性硬化症の研究から、病態の主座は結合組織と血管にあると考え、collagen-vascular disease と命名した。これが膠原病と翻訳された。類似疾患概念に、自己免疫疾患リウマチ性疾患、結合組織疾患があるが、膠原病はこの3つが重なった位置にあるとされる。[2]

原因としては、血液中にある抗体細胞核などと反応をして免疫複合体を形成しつつ、『(A)組織に沈着したり、(B)組織を攻撃する』ことで発病すると考えられ、死亡に至る場合もある。

典型的な症状として発熱皮疹・倦怠感・関節痛・関節炎・筋肉痛・内臓病変・レイノー現象などがあげられ、女性に多いのも特徴である。遺伝的要因と環境要因が発症に関与するとされる。慢性に経過し、寛解と再燃を繰り返しながら進行することがある。多くの場合に自己免疫疾患としての機序が関与していると考えられており、完全な病態の解明は、未だ成されていない。

現代での治療の主体は副腎皮質ステロイドを中心とする免疫抑制剤である。 近年ではTNFα阻害薬を中心とする生物学的製剤の導入によって治療概念が大きく変化し、寛解導入率が飛躍的に向上している。[3]

主な膠原病

なお、リウマチ熱 (RF) については古典的膠原病に分類されていたが、原因が判明したため、現在は膠原病から外されている。

特異的抗体

膠原病では抗核抗体 (ANA) が有名である。しかし抗核抗体が軽度陽性であったとしても臨床的意義がない(膠原病の診断基準を満たさない)ものが殆どであり、抗体陽性で、即、膠原病、甲状腺疾患、慢性肝炎である場合はごく僅かである。また膠原病の中にも抗核抗体が診断に影響しないものがある。

ANA関連膠原病

全身性エリテマトーデス (SLE)、全身性硬化症 (SSc)、シェーグレン症候群 (SjS)、皮膚筋炎 (DM)、多発性筋炎 (PMS)、混合性結合組織疾患 (MCTD) があげられる。これらの疾患はSLE以外は特異的な症状があり、抗核抗体を測る前にそれらの症状の有無を確認しなければ、検査結果の判断は難しくなる。例えば、SScならば皮膚硬化、SjSならば乾燥症状、皮膚筋炎、PMSならばゴットロン徴候ヘリオトロープ疹、筋力低下、MCTDならば、ソーセージ指やレイノー症状があげられる。抗核抗体の特異性が高いとされているのはSLE、SSc、MCTDである。特異的抗体としてはSLEにおける抗dsDNA抗体、抗Sm抗体、SScにおける抗Scl抗体、抗セントロメア抗体、MTCDにおける抗U1RNP抗体、SjSにおける抗SS-A抗体、抗SS-B抗体、DM、PMSにおける抗Jo-1抗体などがあげられる。上記特異的な症状がなく、抗核抗体を測るような場合とは、特異的な症状を示さない膠原病を疑う時であり、それは通常はSLEのことになる。SLEは発症時には特異的症状に欠けるのが特徴である。SLEの診断にはSLEの分類基準 (感度96%、特異度96%) を用いるのが一般的である。SLEの分類基準は11の項目からなり4つ以上を満たすとSLEとなる。抗体以外の項目で9つの項目があるため、そのなかで最低2つの項目に合致しなければ抗核抗体を測定しても診断的な意義はない。すなわち、関節炎、漿膜炎、痙攣、精神病、血球減少、持続性蛋白尿、円柱、皮疹 (蝶形紅斑、ディスコイド疹)、無痛性口腔内潰瘍 (口腔上部に多い) のうち2つ以上認められるとき、抗核抗体、抗dsDNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体を特定する意義が生まれる。このような使い方をしていればSLEを強く疑う時、あるいはSLEを否定したいときに抗核抗体は強い武器となる。

ANA陰性の膠原病

抗核抗体が診断に影響しない膠原病としては血管炎血清反応陰性脊椎炎関節リウマチリウマチ性多発筋痛症ベーチェット病成人スティル病などがあげられる。これらの疾患では抗核抗体が診断に影響しないだけであって、抗核抗体が陰性でなければならないわけではない。健常者でも抗核抗体が陽性となるように、これらの疾患の患者でも抗核抗体が陽性となる場合は多々ある。

ANCA関連血管炎

顕微鏡的多発血管炎 (MPA)、アレルギー性肉芽腫性血管炎 (AGA)、多発血管炎性肉芽腫症 (GPA) があげられる。抗好中球細胞質抗体 (ANCA) を測るのはMPA、WG、AGAを疑ったときであるため、急性ないし慢性の腎障害、持続性蛋白尿、原因のはっきりしない肺陰影、喀血、紫斑、多発性単神経炎、鼻中隔穿孔を認めたら測定する。血清における陽性率はAGAで50%、WGの活動期で90%、MPAで70%であるためANCA陰性であってもANCA関連血管炎の可能性を否定はできない。腎生検などによる免疫染色は若干陽性率が上がる傾向がある。

責任細胞と治療方針

2012年現在までに有効な治療法は見つかっておらず、現在の日本の最新医療技術をもってしても、完全に治すことは不可能だと言われている。ただ、ステロイドや免疫抑制剤、消炎鎮痛剤などを使用することにより炎症がある程度抑制され、日常生活に支障のない程度にコントロールすることは可能となりつつある。最近では漢方薬などを用いた治療法もあり、ステロイドだけでは制御できない症状に対する追加療法、および別の手段として取られる。 関節症状、変形などに対して整形外科的手術が行われることがある。

いくつかの膠原病はどの免疫細胞の異常が病態の本質か検討されており、特異的な治療によって大幅にマネジメントが変わりつつある。例えば、SLEやシェーグレン症候群はB細胞の異常と認識されており、B細胞を特異的に傷害するリツキシマブによって治療が可能になりつつある。また一部の疾患では免疫グロブリン静脈注射療法 (IVIg) 療法が取り入れられている。欧米ではすでに認められていた、多発血管炎性肉芽腫症やSLEに対するシクロフォスファミド投与も、公知申請により日本でも認められた。[4]

責任細胞 疾患
好酸球 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
CD8陽性T細胞 多発性筋炎
CD4陽性T細胞 皮膚筋炎
B細胞 SLE、シェーグレン症候群
マクロファージ 多発血管炎性肉芽腫症
好中球 MPA、ベーチェット病
線維芽細胞 全身性硬化症

これはステロイドへの反応性にも関係しており、マクロファージ、好中球、筋線維芽細胞を責任細胞とする疾患はステロイドへの反応性も悪い。

脚注

  1. ^ Klempere P, Pollack AD, Baehr G: Landmark article May 23, 1942 : Diffuse collagen disease. Acute disseminated lupus erythematosus and diffuse scleroderma. JAMA 1984 ; 251 : 1593-1594
  2. ^ 針谷正祥:膠原病総論.日医雑誌 2012;140:2291-2294
  3. ^ 宮坂信之:膠原病診療のパラダイムシフト.日医雑誌 2012;140:2273 
  4. ^ 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会 2010年8月26日

参考文献

関連項目

外部リンク