総合学科

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総合学科(そうごうがっか、: integrated course)とは、日本後期中等教育を行う課程に設置される学科のうち、選択履修により普通教育専門教育の両方を総合的に施す学科のことである。

総合学科は、高等学校中等教育学校後期課程に設置される。なお、特別支援学校高等部には設置されない。総合学科の制度は、1994年度から制度化された。

制度化の背景として、第14期中央教育審議会答申で、『普通科と職業学科とを総合するような新たな学科』の設置を提言したことがある。現状の制度では学科による考え方と偏差値重視の進路指導に結び付くうえ、普通科における就職希望者への、職業学科における進学希望者への対応が不十分となっていることから、新たな発想に立つ学科を設置することが求められた[1]

法制面では、総合学科は、高等学校設置基準第5条第3号と第6条第3項で「普通教育及び専門教育を選択履修を旨として総合的に施す学科」と定義されている。また高等学校学習指導要領第1章総則第3款で、各教科科目を選択履修とし単位制とすることや、『産業社会と人間』を履修することなどの原則が定められた。高等学校は専門に関する科目を25単位以上開設しなければならない[2]

以上を受け、1994年度に初めて、岩手県立岩谷堂高等学校栃木県立さくら清修高等学校(旧:氏家高校)、筑波大学附属坂戸高等学校三重県立木本高等学校和歌山県立和歌山高等学校島根県立益田産業高等学校沖縄県立沖縄水産高等学校が取り入れた。

総合学科における教育

普通科では幅広い分野の基礎を普遍的に扱う普通教育を、専門学科ではそれに加えて特定の分野に特化した専門教育を行う。それらに対し、総合学科では2種類の教育のどちらに属する科目からも選択して履修できる。多くは2年次から系列を目安にしながら希望進路と卒業要件の両方を満たすような科目選択を行い、進路に関わる様々な能力を身につけることも出来る。多様な科目に対応しているのが特徴であり、非常勤講師の採用も多い[3]。より専門的な教育を行うため、学校外の人材の活用も行っている。それらのハードルもあり、中退率が比較的高くなっている[4]

卒業後の進路は、大学・短大36.1%、専修学校25.3%、各種学校1.9%、就職27.3%、など[5]

主な系列

名称は目的や内容で、多少異なる。一部の学校や都道府県では、この中に無い系列や設置していない系列もある。

  • 健康福祉/人間福祉/生活福祉系列 など
  • 国際文化/地域国際/社会系列 など
  • スポーツ/スポーツ文化系列 など
  • 造形表現/人文芸術系列 など
  • 自然環境/環境科学系列 など
  • 情報ビジネス系列 など

総合学科設置校

総合学科と混同されやすいもの

総合学科・総合制高等学校・総合選択制は誤って混同されることが多い[6]。正しくはそれぞれ以下のように違いがある。

総合制

普通科と専門学科の両方を備えること。戦後のGHQ統治時に、高校三原則(男女共学・小学区制・総合制)の一つとして方針化された。

総合選択制

複数の学科の枠を越えて授業を選択できるようにしたもの(専門教育を主とする学科#概要を参照)又は学科の枠内で従来の高校と比較して多様な選択科目を設置したもの(普通科 (学校)#普通科総合選択制を参照)。後者については、1984年に埼玉県立伊奈学園総合高等学校が初めて導入した。

総合科学科

専門教育を主とする学科の1つ。設置形態は学校によって異なるが、大阪府立住吉高等学校大阪府立泉北高等学校大阪府立千里高等学校和歌山県立日高高等学校などにおいては「理数に関する学科」として設置されている。理系分野に特化した履修プログラムを持ち、進学を目的とする。ただし、筑波大学附属坂戸高等学校の総合科学科は、総合学科でありながら例外的にこの名称を採用している。

総合高校

総合学科の他に総合選択制の導入校などは、総合高等学校を称している学校があるため特に混同されやすい。

総合学科の問題点

転任教員の多くは総合学科教育に関する知識やスキルを持ち合わせていないまま総合学科高校に勤務することになる[7]。結果、総合学科を自ら希望する教員は減り、異動により総合学科創設時の立ち上げに尽力した教職員が転勤してしまうと、様々な取り組みがトーンダウンし、形骸化してしまう可能性がある。

総合学科は、選択科目の募集や、複合的な教育を行う関係上、卒業後の就職や進学に対して不利となる可能性が存在する(必要な単位数が足りないこともある)。大学入学者の選抜状況をみると、総合学科卒業生を対象とした選抜制度は限られる。平成24年度国公私立大学入学者選抜実施状況によれば、「専門高校・総合学科卒業生入試」として入学者選抜を実施したのは国公立大学9大学10学部、私立大学31大学57学部となっている[8]。この数は10年前[9]とあまり変わらず、総合学科高校の設置数が約2倍に増えている[10]のとは対照的である。また総合学科単体での募集を行う高校は非常に少ない。 学校側は「生徒が目的意識や進路への自覚を持たずに入学しており、自主的な科目選択が難しい。単位取得の容易な科目を選択しがち」と感じており、生徒・卒業生の側も「進路について、じっくりと考える時間がない」ことを最大の不満として挙げている[11]。 入試選抜では、大阪府の場合、ボーダーゾーンの幅を「定員数の上下30%(定員内15%と定員外15%)」と広くもたせている(普通科は5%幅)。同様に内申書の比率を重視する神奈川県などに比べ、平均を下回る生徒が入学することも一因となっている[12]。 なお、同府の場合、総合学科を高校再編・教育困難校改革のシンボルと位置づけた。教職員数を補うため同和加配枠も活用し、スタートさせた第1陣の大阪府立柴島高等学校大阪府立松原高等学校大阪府立今宮高等学校が成功例となったが、その反動で、府の高教組が「学区ごとに総合学科を」との方針を掲げたため、結果、再編の趣旨とは異なり、総合学科に改編できなかった高校が総合選択制や単位制に流れた、という状況を生んだ[13]

脚注

  1. ^ 文部科学省 総合学科について
  2. ^ 文部科学省 総合学科について
  3. ^ mext.go.jp4-1(1)総合学科高等学校の体制 2013年3月26日閲覧。
  4. ^ 文部科学省 初等中等教育に関する主な資料 高校の中途退学率の推移
  5. ^ 文部科学省 平成21年3月の進路状況
  6. ^ 「高等学校」で終わる国語辞典一覧 - goo辞書 -- 総合選択制と総合制を混同している例。大辞林第2版。
  7. ^ mext.go.jp4-1(2)「産業社会と人間」の指導体制、4-2 教員配置・教職員研修について 2013年3月26日閲覧。
  8. ^ mext.go.jp平成24年度国公私立大学入学者選抜実施状況 2013年3月26日閲覧。
  9. ^ 平成16年度国公私立大学入学者選抜実施状況の概要−文部科学省 2013年3月26日閲覧。
  10. ^ mext.go.jp総合学科・単位制高等学校[推移] 2013年3月26日閲覧。
  11. ^ 文部科学省 総合学科の課題
  12. ^ 財団法人 神奈川県高等学校教育会館 教育研究所
  13. ^ 財団法人 神奈川県高等学校教育会館 教育研究所

関連項目

外部リンク