社会的制裁
社会的制裁(しゃかいてきせいさい)とは法によらない社会構成員からの制裁(処罰)行為。村八分などは社会的制裁の一例である。
学術上、社会的制裁は刑事政策学等の分野で研究の蓄積がある。また社会学や政治学では逸脱行動と関連して概念の整理がなされている。
概要
典型的なものは共同体のルールに基づく「村八分」であるが、これは「共同絶交」に該当しそれによって特定の人物に損害を与えた場合は民事訴訟において「共同不法行為」と見なされることもある[1]。
犯罪被疑者やその家族に対しマスコミやインターネット上、地域社会等において非難が集中し、厳罰化を求める世論が高まることもある。しかし、行き過ぎた社会的制裁は却って減刑の理由になるため、一時的な世間の処罰感情を満たすだけで本質的な解決にはならないという指摘もある[2]。
マスコミによる社会的制裁
マスコミが、犯罪を犯した人間に対して、メディアで実名報道を行ったり、その情報により個人攻撃(意識的、無意識的)が行なわれたり、被疑者の名誉を傷つけることで、当該犯罪者が社会的に制裁されたとみなされる状況を作り出すことがある。メディア・リンチとも呼ばれる。
マスコミによる社会的制裁の影響は大きく、特に冤罪の場合は問題が大きい。「ペンの暴力」とも呼ばれる。そのため報道においては多大の注意・慎重さが必要になるものであり、かつそのように求められている。
しかし現実には、推定無罪の原則が無視されて逮捕された時点で「推定有罪」とも言うべき扱いを受け、マスコミの不明瞭な基準によりプライバシーや捜査上機密の暴露がなされたり、偏向報道と思われる報道がなされたりして無責任・不適切な社会的制裁が行なわれることがある。マスコミのメディア・リンチによって不適切な社会制裁がなされ、深刻な報道被害が引き落とされた代表例としては、三億円別件逮捕事件の被疑者(アリバイが証明されて釈放)、ロス疑惑の被告(無罪)や松本サリン事件の第一通報者、海外の事例でもジョンベネ殺害事件における被害者の家族などが挙げられる。特に松本サリン事件・ジョンベネ殺害事件では捜査機関に逮捕されていないにもかかわらず犯人視する報道が続き、また三億円別件逮捕事件の被疑者は自殺に追い込まれている。
マスコミの社会的制裁の手段としては他にも、卒業した中学校の卒業文集に収録された作文や、高等学校の卒業アルバム写真、さらにはSNSのプロフィール写真などを無理に拡大して載せることもあり、それらを視聴率や販売・発行部数目当て、興味本位で流すマスコミのデリカシーのなさと相まって、正当性には疑いが持たれている。
そもそも私企業に過ぎないマスコミが社会的制裁の担い手となることに対しては異論も多い。
組織による社会的制裁
犯罪を犯したとされる人間が所属している組織(企業、学校など)が有罪判決の確定以前に懲戒解雇・諭旨解雇、退学・除名などの処分を下すことがある。
行政機関による社会的制裁
行政機関による社会的制裁として、障害者の雇用の促進等に関する法律47条や新型インフルエンザ等対策特別措置法45条4項に規定されているように行政指導などの不服従の事実の公表や、小田原市市税の滞納に対する特別措置に関する条例6条2項に規定されているように法令や行政処分に違反した事実の公表がされることがある。このような公表は、情報公開を目的としているような情報提供としての公表と区別するために、制裁的公表と呼ばれることがある。
司法での扱い
裁判所が、社会的制裁を受けた(社会によって処罰された)ことを量刑の減軽事由にすることがある。一例としては、兵庫県議会議員が政務活動費についての虚偽報告書を作成し行使したことによって罪に問われた裁判で、神戸地裁は事件がマスコミに大きく取り上げられる状況が続いたことで被告人は社会的制裁を受けたと認めた。
関連文献
脚注
- ^ 【裁判・民事】自治会住民間による「共同絶交」が人格権を違法に侵害するものとして共同不法行為の成立が認められた裁判例(大阪高裁H25・8・29)千葉晃平法律事務所
- ^ 「上級国民」大批判のウラで、池袋暴走事故の「加害者家族」に起きていたこと現代ビジネス
- ^ “行政による制裁的公表の法理論|日本評論社”. www.nippyo.co.jp. 2020年4月23日閲覧。