皆川達夫
皆川 達夫(みながわ たつお、1927年4月25日 - )は、日本の音楽学者・合唱指揮者。学位は文学士(東京大学)。称号は立教大学名誉教授。中世・ルネサンス音楽の研究で知られる。
概歴
幼少期
東京市で水戸藩士・皆川氏の家系に生まれ、幼時から謡曲を習う。1940年、東京市立第八中学校(東京都立小山台高等学校の前身)に入学。同年、能「巴」に接して感動、しばしば能楽堂や歌舞伎座に通い、級友からは「アブちゃん」(abnormalから)という綽名で呼ばれていた。やがてグレゴリオ聖歌やパレストリーナのレコードを聴いて感動したことがきっかけで、ルネサンス音楽に熱中し、音楽学を志すに至った。このため、当時の軍国主義的風潮の中で非国民とされいじめも受けた。当時の国語教師に加藤楸邨がいた。
少年期
1944年、4年修了(飛び級)で旧制東京府立高等学校高等科(東京都立大学の前身)に入学。ここでは能楽研究会を作り、謡曲や狂言に傾倒した。学徒出陣を嫌って医学部を志望し、文科から理科乙類(ドイツ語クラス)に転じ、多湖輝や詫摩武俊や増田通二と同級になる。
学生期
1945年8月に終戦。徴兵される可能性が消えたため、大学入学を機に文転し、1948年、東京大学文学部西洋史学科入学。この年、既に最初の著書『ヘンデル』を刊行している。村川堅太郎や林健太郎、家永三郎、渡辺一夫、辻荘一などの講義を受ける傍ら、個人的に髙田三郎の門を叩き、音楽理論と作曲法を学ぶ。1951年、卒論「ネーデルランド楽派の研究」を提出して学部を卒えた後、東京大学大学院に籍を置いて美学を研究。1952年、中世音楽合唱団を結成。NHK交響楽団の機関誌『フィルハーモニー』に論文「ネーデルランド楽派の循環ミサ曲」を連載し、有馬大五郎から激賞される。
その後
東京芸術大学や慶應義塾高等学校で講師を務めていたが、1955年、フルブライト奨学金を得て渡米し、コロンビア大学とニューヨーク大学に留学。3年間の滞米生活を終えた後、1958年、ヨーロッパ諸国で中世古楽の楽譜写本を尋ねてから帰国。
1958年、辻荘一の世話で立教大学の講師となり、音楽史を講義。1962年から1964年までドイツとスイスに留学。バーゼル大学でアウグスト・ヴェンツィンガーに師事。1969年、立教大学教授。中世にスペインから伝わり、4世紀以上にわたって日本の隠れキリシタンたちに歌い継がれた宗教音楽「オラショ」の研究により、1978年、イタリア政府からイタリア共和国功労勲章の勲五等(カヴァリエーレ)を受ける。
1993年に立教大学を定年退職し、名誉教授となる。2003年、論文「洋楽渡来考」により、明治学院大学から芸術学博士号を受ける。
長年にわたってNHK-FMの「バロック音楽のたのしみ」(1965年度-1985年度)やラジオ第1放送の「音楽の泉」(1988年-、2015年現在も出演中)で解説・ディスクジョッキーを担当し、西洋古楽の普及に貢献した。2009年NHK放送文化賞受賞。ワインにも造詣が深く、『ワインのたのしみ方』を著している。
合唱界との関係は深く、先の中世音楽合唱団以外にも、立教大学グリークラブを46年(1961年〜2007年)もの長きにわたって指揮してきた他、中世・ルネサンス合唱曲の校訂・出版にあたった。ジョスカン・デ・プレの《Missa Pange Lingua》《Missa Mater Patris》やトマス・ルイス・デ・ビクトリアの《Missa O Magnum Misterium》などを男声合唱用に編曲している。また、全日本合唱連盟にも長らくたずさわり、コンクールの審査や課題曲選定を行っている。
著書
- ヘンデル ダヴイッド楽社, 1948
- 合唱音楽の歴史 全音楽譜出版社, 1965
- 楽器 保育社, 1970 (カラーブックス)
- バロック音楽 講談社現代新書, 1972 (のち講談社学術文庫)ISBN 978-4061597525
- ワインのたのしみ方 主婦と生活社, 1973 (のち光文社文庫)
- 中世・ルネサンスの音楽 講談社現代新書, 1977
- バロック名曲名盤100 音楽之友社, 1977
- オラシヨ紀行 対談と随想 日本基督教団出版局, 1981
- 西洋音楽ふるさと行脚 音楽之友社, 1982
- 楽譜の歴史 音楽之友社, 1985
- 西洋音楽史 中世・ルネサンス 音楽之友社, 1986
- ルネサンス・バロック名曲名盤100 音楽之友社, 1992
- 『洋楽渡来考―キリシタン音楽の栄光と挫折』(2004年)日本キリスト教団出版局、ISBN 978-4818405318