百科事典

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百科事典(ひゃっかじてん、encyclopedia)とは、あらゆる科目にわたる知識を集め、これを部門別やアルファベット順五十音順などに配列し、解説を記した書物のこと[1]。「百科」と略記されることもある。

ブロックハウス百科事典 1902年

概説

広辞苑第五版によれば、「学術社会家庭その他あらゆる科目にわたる知識を集め記し、これを部門別あるいは五十音順などに配列し、解説を加えた書物[1]」のことである。大辞泉によれば「人類の知識の及ぶあらゆる分野の事柄について、辞書の形式に準じて項目を立てて配列し、解説を加えた書物[2]」である。

呼称

「百科事典」の「百科」とはおおむね「さまざまな分野」といった意味である。[注 1][注 2][注 3][注 4] かつては「百科辞典」とも表記したが、1931年に平凡社が大百科事典を出版して以降は、「百科事典」の表記が定着した。

百科全書」(ひゃっかぜんしょ)とも言うが、こちらの呼称はやや古風な呼び方である。特に後述するフランスの百科全書派の手によるものを指して百科全書と呼ぶことが多い。中国語では「百科全書」が正式の表記である。

尚、百科事典を意味する英語 encyclopediaは、ギリシャ語コイネーの"ἐγκυκλοπαιδεία"から派生した言葉で、「輪になって」の意味であるἐγκύκλιος(enkyklios:en + kyklios、英語で言えば「in circle」)と、「教育」や「子供の育成」を意味するπαιδεία(paideia パイデイア)を組み合わせた言葉であり、ギリシャ人達が街で話し手の周りに集まり聴衆となって伝え聞いた教育知識などから一般的な知識の意味で使われていた[3][4][5][6]

体裁

巻数

大型百科事典では数十冊もの大部となるが、記述をコンパクトにまとめた一巻本のものもある。これら以外にも、定期的に刊行される分冊百科も存在する。分冊百科は映画医薬英語日本史世界遺産など様々なテーマで刊行され、完結時にファイルするとそのテーマの百科事典が成立する。

媒体

百科事典の媒体は、2000年頃までは書物印刷物)が主流であったが、それ以降は書籍以外にも、電子辞書携帯型の専用装置で内蔵のIC記録されたもの)、CD-ROM/DVD-ROMメモリーカード、USBメモリ、ウェブとさまざまな形態がある。『ブリタニカ百科事典』など本来は紙媒体であった伝統のある百科事典も、現在はWeb上でサービスが展開されていることが多い。最初からWeb専業で展開されたサービスとしては、一般利用者自らが執筆するオープンソースコンテンツであるウィキペディアが有名である[注 5]

分野

百科事典というのは、広辞苑・大辞泉などの説明にもあるように基本的に、さまざまな分野、あるいはあらゆる分野の知識を集めたものである。百科全書派の百科全書や『ブリタニカ百科事典』などもそのような範囲の知識を扱っている。(これが一般的であるが、次に説明するものとあえて区別する時は「総合百科」と呼ばれることがある)。ただし、あらかじめ特定の専門領域に絞ったうえで、その領域内のさまざまな知識を集めた百科事典もある。例えば『薬学百科事典』『哲学百科事典』等々で、「専門百科事典」などと呼ばれることがある。

構成・配列

百科事典の構成・配列方法としては、各項目を分野ごとに分類して編成する方法と、各項目の名称で配列する方法(西欧ではアルファベット順、日本語の百科事典の場合には五十音順など)がある。

立項

百科事典の項目の立てかたには、大雑把に分類すると大項目主義小項目主義の二方式がある。大項目主義は、例えば日本の文学でいうと、「近代文学」など大きなテーマの項目名のもとに、文芸の潮流や著名な作家・作品などについて一つの項目内で概観できるようにまとめたものである。項目は時には数ページから数十ページにもわたる長大なものになる。逆に小項目主義は、「夏目漱石」「芥川龍之介」「自然主義」「吾輩は猫である」など個々の細かいテーマや事物ごとに網羅的に項目を立て、それぞれ別個に簡潔な解説を加えたものである。『ブリタニカ百科事典』の初版は大項目主義であった。一方『ブロックハウス百科事典』は小項目主義の徹底で有名である。

どちらの方式にも一長一短がある。大項目主義では全体を体系的に捉えることができる一方で、特定の作品や作家について調べるには不向きである。逆に小項目主義では個々の項目について調べやすい一方で、全体としてのまとまりに欠ける。ただしこの両方針は必ずしも対立するものではない。折衷的な方式(中項目主義)による百科事典も珍しくない。利点や欠点は取り上げるテーマにおける向不向や編者の立場、利用者の目的等によるところが大きい。

歴史

一般に「世界最初の百科事典」と呼ばれているのは、フランスのダランベール、ディドロ、ヴォルテール、ルソーらが企画した『百科全書』 (L'Encyclopédie) である。ただし厳密に言えば、それ以前に、百科全書に類似した、様々な分野の知識を集めて項目別に整理した書物が全く無かったわけではないので、それらも含めて解説する。

起源

ヨーロッパではすでに紀元前2世紀頃から古い書物を収集し、その内容をまとめることが行われた。代表的なものにプリニウス博物誌がある。

しかし今日のような辞書形式のものは、10世紀末の東ローマ帝国中期「マケドニア朝ルネサンス」の時代に生まれた。皇帝コンスタンティノス7世“ポルフュロゲネトス”はギリシアやラテンの古典から歴史や思想についてのさまざまな話題を集め、統治の参考書として編纂した。この流れでヨハネス1世ツィミスケス(在位969年-976年)の治下にはギリシア語の辞書『スーダ辞典』(スダ)が完成している。現在の百科事典と語義辞書の両方の性格を持ち、現在に伝わるもっとも古いアルファベット順配列による事典と考えられている。『スーダ辞典』には誤伝も見られるが、現在は失われた古代の諸作家の作品の膨大な引用によって、現在でも文献学研究の上で意義を認められている。『スーダ辞典』の編集者の名はスイダス (Suidas) であると長く考えられ、そこから辞典類を指す接尾辞 -das が生じた。(例:イミダス=Imidas

一方アジアでは、歴史上、百科事典に近いものとしては中国で古くより類書が存在してはいたが、これはまだ用語集的な色合いが強く、本格的なものとしてはの時代の中国に、14部構成・全106巻に及ぶ『三才図会(さんさいずえ)』という図入りの百科事典があり、1607年に完成、二年後に刊行された。日本ではこれに倣い、江戸時代の1712年、寺島良安によって『和漢三才図会』がまとめられた。こちらも図解書で、解説は漢文で書かれた。これらも広義の百科事典と呼べる。なお、(現代の百科事典も現代の世界観の反映だが)これらも執筆された時代の世界観を反映しているので、現代人にとっては空想上のものと見なされる「不死国」「長脚国」などに関する記述も含んでいる[7]

近世の百科事典

すでに近世初期ベールによる事典の編纂が試みられた例があるものの、一般に世界最初の百科事典と呼ばれているのは、フランス革命前夜、フランス啓蒙思想運動の一環としてダランベールディドロヴォルテールルソーらが企画した分冊の『百科全書』 (L'Encyclopédie) である。彼らは予約購読者を募り、分冊販売としてそれを刊行した(販売形態は今日よく見られる「月刊○○百科」のようにあるテーマで定期刊行される分冊百科を思わせる)。この企てにより彼らは「百科全書派」と呼ばれている。ただし、それぞれの項目の執筆姿勢などで意見の食い違いが生じ、内紛から離脱者が絶えなかった。

この百科全書の特徴は、「」、「」、「音楽」といった大項目の他に、近代に登場した新しい技術を断面図などを含む絵入りの図解で分かりやすく解説、新知識を広く一般の共有財産にしようとしたことにある。良く知られる項目では、「農機具」、「石炭の露天掘り」、「洗濯船」、「回り舞台」などがある。各項目の配列を、編集者の価値観に秩序付けられる概念の関係によらず、いわば機械的で一律なアルファベット順にしたことも特筆すべき点である。これ以後、百科事典という語は知の一切を叙述する企ての異称としても用いられる。代表的な例としてヘーゲルの『エンチクロペディー』(ドイツ語で「百科事典」の意)が挙げられる。

近現代の百科事典

近代の日本では、明治の文明開化の時期に西周によって『百学連環』という日本初の百科事典が作られた。他に小中村清矩らの尽力で成立した『古事類苑』がある。1879年、当時の文部省により編纂が開始され、後には神宮司庁が引き継いで1914年に完成された。各時代の事物についての古文献を集成したため、資料的価値が高い。

明治末には三省堂『日本百科大辞典』(全10巻、齋藤精輔の編纂で1908年刊行開始、1919年完結)が、昭和初期からは平凡社『大百科事典』(全28巻、1931年刊行開始、1934年完結)などが発刊された。新たに「辞典」ではなく「事典」という語を作り出して書名に使用したのは、この平凡社のものが最初で、以後「百科事典」という漢字表記が一般化する。さらに昭和期の高度経済成長を経ると1960年代頃には各家庭に分冊の百科事典が置かれているのは珍しい風景ではなくなり、大衆化を果たした。この時代、百科事典はもっぱら応接間の飾りやステータスシンボルとしての役割を果たしていた。もっとも場所を取ることもあり、百科事典ブームが終息した後では大部の百科事典はあまり家庭では歓迎されなくなり、廃棄処分されることが多くなった。

百科事典と比較すれば一つの項目あたりの記述の内容も簡易で文字数も少ないが広く各分野にわたる用語辞典と呼べる出版物として、『現代用語の基礎知識』のような流行・世相をふんだんに取り入れた時代風俗を映す年刊の資料集的なものも市場に現れるようになった。のちに『イミダス』『知恵蔵』という同コンセプトの年刊資料集が現れ、この三誌が鼎立(ていりつ)している(『イミダス』『知恵蔵』は、インターネットの普及に伴う販売部数の減少により2007年版をもって紙媒体を廃止し、ウェブ版に完全移行している)。

1980年以降は、コンピュータの普及に伴い、百科事典はCD-ROMなどでコンピュータソフトウェアとしても出回るようになった。2000年ごろからは、インターネットの普及に伴い、ウェブ版も作られるようになってきた。『ブリタニカ』や『ラルース』といった伝統的な百科事典は書籍と同時にオンライン版を展開するなど、新たな対応に着手している。2005年現在、携帯電話PHSウェブブラウザでアクセスできる百科事典も存在しており、誰でも、使いたい時に、どこでも百科事典の知識にアクセスできる環境になりつつある。紙媒体の百科事典は、刊行後時間が経つと時事的な内容に関しては記述が陳腐化してしまいがちであるが、ウェブ版の百科事典では、項目内容の随時更新が可能であり、改訂が容易である。ウェブ版およびCD-ROM等の電子媒体を用いた百科事典は、検索機能などの使い勝手が紙製の書籍より一般的に優れている。

読者参加型

ウェブ版の百科事典の新しい潮流のひとつである、ウィキペディアなどの「誰でも」執筆や編集に参加できることを特徴とするプロジェクトに関しては、従来の百科事典のように専門家や研究者が編纂する体系的書物と比較して、信頼性に問題があるとする指摘がある[8][9][10][11][12][13][14]。同時に、多くのサーヴィスが無料で提供されていることから伝統的な出版業者にとって経営上の不利益をもたらすという指摘もなされている[15]。一方で、ウィキペディアの質を擁護する識者の評価もある[16][17][18][19]

読書としての百科事典

百科事典は「調べる」本であって、「読む」本ではないが、読むことを目的とすることもある。

主な百科事典

印刷物

世界各国のもの
日本語

オンライン版

イギリス

アメリカ合衆国

  • カトリック百科事典 [3] - 「カトリック百科事典」とはなっているが、実際には様々な記事があり、非常に詳細。

オーストリア

  • AEIOU - The Austrian Cultural Information System [4] (すべての記事が英訳されている)

大韓民国

ハンガリー

  • Pallas Nagy Lexikona [6] (写真・図表が欠落している) [7] (Keresesで検索、Bongeszesで閲覧)

ドイツ

  • Biographisch-Bibliographisches Kirchenlexikon (BBKL) [8] - 神学関係の事典。ユダヤ教にも詳しい。

ノルウェー

ユダヤ教ユダヤ人

年刊の用語事典

インターネット上の百科事典

脚注

  1. ^ 数や種類が多いことを象徴するのに中国語や日本語では「百」「千」「万」などの数字を用いて表す。例えば、広辞苑の「百」の項目の解説には「多くのもの、種々のもの」とある。(広辞苑 第五版 p.2270「百」)。「百」「千」「万」などの数字を用いているからといって、ちょうどその数になっているという意味ではない。
  2. ^ 「科」は「一定の基準を立てて区分した一つ一つ」(出典:広辞苑 第五版 p.423「科」、第六版「科」)
  3. ^ 一つの分野だけの場合は「単科」や「専科」などと呼ぶ。
  4. ^ 「事典」という名称は、平凡社の創業社長・下中弥三郎の造語である(出典:石山茂利夫,『裏読み深読み国語辞典』,98ページ,草思社)。もっぱら言葉とその用法を解説する辞典辞書)とは異なり、事典は写真も用いて総合的な解説を行うことを特徴とする。字典(字書)を「もじてん」、辞典(辞書)を「ことばてん」というのと区別して、事典を「ことてん」という。
  5. ^ ウィキペディアの前身は、専門家だけが執筆・編集するヌーペディアだったが、ボランティア執筆者の不足によって廃止となった。
出典
  1. ^ a b 広辞苑 第五版 p.2272 百科辞典・百科事典
  2. ^ 大辞泉
  3. ^ Encyclopaedia online etymology dictionary
  4. ^ ἐγκυκλοπαιδεία Henry George Liddell, Robert Scott, A Greek-English Lexicon, at Perseus project
  5. ^ ἐγκύκλιος Henry George Liddell, Robert Scott, A Greek-English Lexicon, at Perseus project
  6. ^ Παιδεία Henry George Liddell, Robert Scott, A Greek-English Lexicon, at Perseus project
  7. ^ 山海経』との共通が指摘される。
  8. ^ The Chronicle Online: "SEVERAL COLLEGES PUSH TO BAN WIKIPEDIA AS RESOURCE"
  9. ^ Vermont Today: "WIKIPEDIA: What do they know; when do they know it, and when can we trust it?"
  10. ^ The Register: "There's no Wikipedia entry for 'moral responsibility'"
  11. ^ Rough Type: "The Amorality of Web 2.0"
  12. ^ ピエール・アスリーヌ/〔ほか〕著 佐々木勉/訳 『ウィキペディア革命 そこで何が起きているのか?』 岩波書店(2008年)(ISBN 978-4-00-022205-1)
  13. ^ 山本まさき・古田雄介著 『ウィキペディアで何が起こっているのか 変わり始めるソーシャルメディア信仰』 オーム社(2008年)(ISBN 978-4-274-06731-0)
  14. ^ ハッカージャパン2007年7月号
  15. ^ クイッド(フランス)の売り上げが70%以上も減ったとの記述がある。出典:ピエール・アスリーヌ/〔ほか〕著 佐々木勉/訳 『ウィキペディア革命 そこで何が起きているのか?』岩波書店の第5章百科事典の興亡
  16. ^ nature: Special Report Internet encyclopaedias go head to head
  17. ^ 『ネイチャー』誌、ウィキペディアの正確さを評価 WIRED.jpVISION2005年12月19日
  18. ^ ブリタニカ、「ウィキペディア過大評価」とネイチャー誌に抗議 WIRED.jpVISION2006年3月27日
  19. ^ 「Wikipediaはブリタニカ並みに正確」記事に反論 ITmedia News

関連項目