王手
王手(おうて)とは、チャトランガ系統のボードゲームでのある種の指し手である。相手の王将(キング)に、自分の(王将以外の)駒を利かせる手を指す。チェスの場合はチェック (英語: check) と呼ばれている。本稿では、将棋とチェスの「王手」について解説する。
総則
王手(チェック)は相手の王将(キング)に迫る手である。自分の駒を動かす(または将棋の場合は駒を打つ)事により、相手の王将(キング)に自分の駒の働きを利かせる手を指す。「次の手で王将(キング)を取るぞ」という脅迫の意味があり、その脅迫を受けた側は「王手(チェック)された」「王手がかかった」状態となる。
王手(チェック)をされた側は、その状態から絶対に抜け出さなければならない。王手(チェック)は強制手であり、いかなる場合でも無視や放置は許されない。
自玉(自分のキング)で敵玉(相手のキング)を王手(チェック)することはできない。つまり、敵玉(相手のキング)の隣には自玉(自分のキング)を置けないということである。
将棋の王手
王手の解消方法
図1 王手の解消方法の例
|
王手の対処(王手の解消方法)には、次の3種類がある。
- 王将を逃がす
- 相手駒の利きのないマスへ玉を移動させること。図1では、玉を7九、7八、5九、5八のいずれかに動かすことで、王手から逃れることができる。
- 合駒をする
- 走り駒(飛車、角行、香車、竜王、竜馬)によって1マス以上離れた場所から王手された場合に、その駒の利きを遮る位置に駒を配置すること。図1では▲6八歩(持ち駒による合駒)や▲6八角(移動合い)など。[1]
- 王手している駒を取る
- 図1では▲6二同角成。[2]
王手をされていて、しかも上記のいずれの対処も不可能な場合は「詰み」となる。「詰み」となれば詰まされた側が投了して対局は終了となり、詰ませた方の勝ち(詰まされた方の負け)となる。(→ 詳細は詰みを参照。)
厳密な定義
一方の側が玉以外の駒の利きを敵玉の存在するマス目に合わせるような指し手、つまり玉に取りをかけることを“王手”といい、かけた側から見れば“王手をかける”という — 日本将棋連盟『将棋ガイドブック』より引用。句読点を含め全て原文のまま。
王手の発声
指導対局や縁台将棋、初心者同士の対局などでは、王手をかけた側が慣習的に口頭でも「王手」と言う場合がある。ただしあくまで慣習であり、「王手」と発声しなければならないという規定はない[3]。
王手に関する反則
王手に直接関わる反則としては、打ち歩詰め、自玉を相手駒の利きにさらす手、連続王手の千日手がある(→ 詳細は将棋#反則または禁じ手を参照)。
王手に関する戦略
特に終盤で一手を争う展開となった場合には、攻めを継続させることが重要になる場合も多い。王手をかけ続ける限りは、(逆王手を除けば)自らが攻め続けることができる。そのため、駒損をしても王手が重視される場合もある。ただし終盤において、敵玉が即詰みではない場合、「王手は追う手」「王手するより縛りと必至」という格言があるように、縛りをかけながら必至を狙う方が勝ちにつながることが多く、安易な王手は敵玉を安全地帯に逃がすだけなので敗着となることすらある。
特殊な王手
空き王手・開き王手(あきおうて)
図2 △持ち駒 なし
|
図3 △持ち駒 なし
|
走り駒(飛車、角行、香車、龍王、龍馬)の利きにある自分の駒を動かしてかける王手である。図2から▲2四桂とした図3では、香車によって王手がかかっている。
両王手(りょうおうて)
図4 △持ち駒 なし
|
図5 △持ち駒 なし
|
空き王手の一種。2枚の駒で同時にかける王手である。上記の図4から図5では角と香車の双方が王手をかけている。両王手をかけられると合駒はできず、王将を動かすしか手はない。王手している駒を取る対処法も王将自身で取る以外にできない(図では飛車で角を取れず、後手としては王将を逃がす一手である)。したがって、両王手をかけられて王将を動かすことができなければ詰みとなる。
逆王手(ぎゃくおうて)
図6 △持ち駒 桂
|
図7 △持ち駒 なし
|
王手を解消すると同時に、相手に王手をかける手である。図6で後手の王将に王手がかかったが、図7では合駒の桂馬によって逆に先手の王将に王手がかかっている。図7の例以外にも、王手をかけている相手の駒を取ることで逆王手をかけたり、玉将を逃げる手が開き王手の逆王手になる場合もある。詳しくは双玉詰将棋#逆王手も参照のこと。
王手○取り(おうて○とり)
両取り(2つ以上の駒を同時に狙う手)の一種で、王手をかけつつ別の敵駒の位置するマスに自駒を利かせる手である。○の部分には、王将との両取りになっている駒の略称が入る。まず王手に対して応じる必要があるので、他に狙われている駒については取られることが多い。「王手飛車取り」「王手角取り」のように、価値の高い駒に関して使われることが多い。「王手飛車取り」は、特に「王手飛車」(おうてびしゃ)と略される。
チェスの王手(チェック)
チェックの基本
チェスでは将棋の王手にあたる手をチェックと呼ぶ。自分の駒の効き筋を、相手のキングに効かせる手を指す。
チェックをされた側は、キングを取られないように必ず対処しなければならない。
チェックの状態は、「check」あるいは「+」(プラス)で表現する。
チェックの解消方法
チェックの対処法(チェックの解消方法)には、次の3種類がある。
チェス図1
|
- 自分のキングを安全な場所に逃がす
- 右図で白のキングを、a1・a2・c1・c2のいずれかに避難させる。
- 防御する(味方の駒でキングを守る)
- d1のナイトをb2に移動させて防御する。将棋の合駒(移動合い)に相当する手である。
- 現在チェックしている駒を取る
- d6のビショップで、黒のルークを取る。
チェックをされていて、しかも上記1、2、3いずれの対処も不可能な場合は チェックメイト(メイト)となる。チェックメイトとなれば対局は終了となり、メイトさせた方の勝ち・メイトされた方の負けとなる。(→ 詳細は詰み・チェックメイトを参照。)
チェックのルールとマナー
- チェックをした側は、慣習的に口頭でも「チェック」と言うことになっている。ただしあくまで慣習であり、口頭での「チェック」は強制ではない。
- チェックをされているにも拘らずチェックを放置する手を指した場合、その手は無効となり指し直しとなる。(この場合、例外的にタッチアンドムーブ[4]の原則は適用されない。)たとえチェックをされた側のミスによるものであったとしても、チェックした側は相手のキングを取ることはできない。
- 自分からチェックを受けるような手を指した場合も、その手は無効となる。あらためて別の手を指し直さなければならない。
特殊なチェック
ディスカバード・チェック (discovered check)
チェス図2
|
味方の駒を動かし、その後ろの駒で相手のキングをチェックする手である。チェス図では、白が次にRe2+またはRd4+とすれば、次に黒のクイーンを取ることができる。将棋の空き王手に相当する。
ダブル・チェック (double check)
チェス図3
|
ディスカバード・チェックの一種である。背後の駒だけでなく、動かした駒自体でもチェックする手を指す。チェス図3は、白のルークとビショップによるダブル・チェックである。
ダブル・チェックの記号は「++」である。
ダブル・チェックの場合は攻撃が双方向のため、味方の駒で防御することができない。そのためチェックを受けた側は、キングが逃げる以外に対処方法はない。チェックしている駒を取る対処法もキング自身で取る以外にできない。したがって、ダブル・チェックをされていてキングを動かすことができなければチェックメイトとなる。将棋の両王手に相当する。
クロス・チェック (cross-check)
チェス図4
|
将棋の「逆王手」にあたる手である。相手のチェックを防ぐ駒で、同時に相手のキングへのチェックする手を指す。終盤戦でクイーンが使用されるケースが多い。
その他の王手があるチャトランガ系ゲーム
- 中国の将棋(象棋)「シャンチー」(王将・キングに相当する駒は「帥・将」)
- 韓国・北朝鮮の将棋「チャンギ」(王将・キングに相当する駒は「楚・漢」)
- タイ(東南アジア)の将棋「マークルック」(王将・キングに相当する駒は「クン」)
注釈
参考文献
日本将棋連盟開発課 『将棋ガイドブック』 日本将棋連盟、2003年11月 ISBN 978-4819700801
関連項目
- 詰み(チェックメイト)