無罪

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無罪(むざい)とは、刑事訴訟において、被告事件が罪とならないとき、もしくは被告事件について犯罪証明がないこと、またはその時に言い渡される判決のことをいう。広義には、一般的な用語として、客観的真実の見地から罪を犯していないことを意味することがある。

日本における狭義の無罪については、刑事訴訟法336条が規定している。無罪の判決が確定すると、被告人は処罰されない(憲法39条前段参照。『責任能力が欠落していると判断された場合の「無罪」』も参照のこと)。起訴便宜主義を採用していることもあり、現在の日本の刑事訴訟における有罪率は99パーセントを越え、無罪判決が下ることは極めて異例である。

日本法に基づく概要

有罪となるのは、「構成要件に該当し」「違法で」「有責性がある」の3要件がすべて認定された場合のみである。

無罪判決が下るのは、次のような場合である。

  • 被告人が犯人であることの立証がない場合(誤認逮捕冤罪
  • 被告人の行為が、犯罪の構成要件を満たすことの立証がない場合
  • 正当防衛刑法36条1項)が成立するなど、違法性が阻却(否定)される場合
  • 心神喪失が認められるなど、有責性が阻却(否定)される場合

検察官の立証が失敗するケースとしては、検察側の証拠(被害者の証言など)を信用することができない場合や、捜査手続に重大な違法があり、違法収集証拠排除法則により検察側の証拠の証拠能力が否定される場合などがある。

無罪の判決が確定すると、被告人は裁判費用の補償(刑事訴訟法188条の2~7)、刑事補償憲法40条刑事補償法)を国に求めることができる。

日本では無罪判決に対して検察官上訴することもよく行われるが、憲法39条の「二重処罰の禁止」に当たること、長期裁判(例:甲山事件八海事件)を招いていることなどを理由に禁止するべきだとする意見が根強い。その一方で無罪判決に批判が殺到する事件の下級審判決について検察が上訴することについてはあまり問題視されないこともある(例:リクルート事件薬害エイズ事件)。最高裁判所は合憲と判断している。アメリカなどコモン・ローの国では、二重の危険の禁止により、無罪判決に対する検察側の上訴は(通常)認められない。

責任能力が欠落していると判断された場合の「無罪」

犯罪行為(構成要件に該当する行為)はあるものの、責任能力が認められない場合(心神喪失が認められた場合)には、有罪とすることはできず、無罪判決が出される。

心神喪失による無罪判決に対して、客観的真実としての「無実」と同視するならば違和感が生じうるものであるが、この場合の「無罪」は、被告人が罪とならないことを意味する。責任能力を有しないものが行った行為については、本人に帰責することができず、当人との関係では「無罪」となる(必ずしも「無実」ないしは犯罪的行為の不存在を意味しない)。言い換えれば、有罪判決は、「構成要件に該当し」「違法で」「有責性がある」の3要件が認められた場合にのみ出される。

なお、この場合の「無罪」は「無罪放免」を直接には意味しない。医療観察法が施行される前の日本国内では、精神保健福祉法に基づく措置入院等の、強制入院(非自発的入院)の対象になりえた。しかし、その処遇が不十分であるなどの批判があり、2003年7月に医療観察法が制定され、2005年7月に施行された。この医療観察法に基づく入院処遇は、刑罰ではないが、「この法律に基づく入院医療を継続する必要性がなくなる」(同法49条1項等参照)まで、同法に基づく指定入院医療機関での入院が継続されうるものである。

つまり、責任能力の欠如という理由で無罪となっても、そのまま無罪放免として単純に一般社会に戻されるわけではなく、一定の施設を有する医療機関に「入院」させられ常時監視下に置かれ、事実上は長期間に渡って社会から隔離される事となる。状況次第ではその「入院」が有罪であった場合の懲役刑の上限よりも長期間に及ぶ可能性もある。いつになれば自由の身となれるのかが定かではないという意味では、不定期禁錮刑に近いものであるという指摘もある。

「無罪」と「無実」

「無罪」と類似する概念に「無実」がある。「無罪」の本来的な用法は、犯罪証明が認められないという司法判断であるのに対し、「無実」は司法判断ないしは裁判制度などに制約されない絶対的な真実として「事実がない」ということを指す、との使い分けが一般的である。その意味では、無実と無罪は近似する概念ではあるがイコールではない。歴史的な経緯もあって一般的には「罪がないのに罪を犯したとされること(冤罪)」を、「無実の罪」と称することも少なくない[1]

参照

  1. ^ 広辞苑大辞林

関連項目