無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調

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無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調 BWV1013は、J.S.バッハによるフルートのための組曲である。大バッハの次男C.P.E.バッハイ短調のソナタ、テレマンの「12曲のファンタジー」と共に、18世紀の無伴奏フルート独奏曲の最高傑作と言われる[1]

概要[編集]

表題は20世紀の編集者によるものであり、バッハ自身のものではない。唯一現存する18世紀の写譜には、フランス語で Solo p[our une] flûte traversière par J. S. Bach (J.S.バッハによるフラウト・トラヴェルソのためのソロ)とのみ書かれている[2]。古典組曲はアルマンドクーラントサラバンドジーグという舞曲の組み合わせが普通で、バッハの時代にはサラバンドとジーグの間にいろいろな舞曲を加える拡大された様式が定着していた。当作品と似た構成を持つパルティータがないわけではないが(BWV1004)、最後にジーグがない以外はオーソドックスな組曲と言える。

当作品ではブレーが最後に置かれるが、バッハの組曲・パルティータではブレーが最後に置かれることまずなく、ジーグで終わるものが殆どである。したがって、バッハは本来予定していた最後のジーグを書かなかった(編曲しなかった)ものと考えられる[1]オーレル・ニコレは1970年代に、これを補うように、第5楽章として、無伴奏チェロ組曲第5番のジーグを編曲したもの(イ短調)を付け加えて演奏していたことがある。

作曲の時期・経緯については確かなことは分からない。バッハが1717年の秋に、ドレスデン宮廷のフランス人フルート奏者ビュファルダンの演奏に感銘を受け、その直後の1718年頃に彼のために作曲されたのではないか(表題がフランス語表記なのはそのためか)とする説[1]ブランデンブルク協奏曲第5番のフルート・パートよりもより複雑なテクニックを要する作品であることから、1723年以降の作であろうとする説[3]などがある。

アルマンドとクーラントにブレス(息つぎ)箇所が極端に少ないこと、弦楽器・鍵盤楽器向きの分散和音の音型が多用されていることから、元来は他の楽器のために作曲されたのではないかと考えられる[1]。演奏者は、これらの舞曲がアウフタクトであることを考慮して、ブレス箇所を考えなければならない。

構成[編集]

4つの舞曲からなる。演奏時間は9~15分ほど。

  • 第1楽章 アルマンド イ短調、4分の4拍子。
  • 第2楽章 クーラント イ短調、4分の3拍子。
  • 第3楽章 サラバンド イ短調、4分の3拍子。
  • 第4楽章 ブレー・アングレーズ (英国風ブレー) イ短調、4分の2拍子。

関連作品[編集]

以下の4曲は伴奏チェンバロフルートソナタである。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 吉澤実(編著)(2011), 『バロック ソロスタディ ~リコーダー、又はフルートのための~』, ドレミ楽譜出版社, 8頁.
  2. ^ 当該楽譜のファクシミリ
  3. ^ Christoph Wolff and Walter Emery, "Bach, §III: (7) Johann Sebastian Bach", The New Grove Dictionary of Music and Musicians, second edition, edited by Stanley Sadie and John Tyrrell (London: Macmillan Publishers, 2001).

外部リンク[編集]