炊き出し

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スープキッチン
コミュニティ給食施設にて、失業者に食事を提供するために炊き出しを行うチリ人(en)女性達/1932年チリにて撮影。cf. es.
アル・カポネが行った失業者向けのスープキッチンに列をなす人々
1931年アメリカ合衆国シカゴ市内。店頭の看板には「失業者のための、無料のスープコーヒー、および、ドーナツ」と書いてある。
日本の炊き出し
震災対応の炊き出し
新潟県中越地震発生後の小千谷市にて2004年10月撮影。を用いて暖かい食事が提供される。
静岡県内の地域自主防災組織にみられる簡易型の(かまど)
軽量かつ後始末も簡便な調理器具であり、炊き出しのほか地域の催し物でも利用される。

炊き出し(たきだし)とは、困窮した状況下にある多数の人を対象として、料理やその他の食料無償提供する一連の行動である。

概要

炊き出しは避難者被災者難民)・貧窮者ホームレス失業者孤児、その他を含む)等の、困窮した状況下にある多数の人を対象として、料理やその他の食料無償提供する一連の行動である。英語では "soup kitchen"(enスープキッチン)がこれに当たる。ボランティア活動の一形態。

戦争紛争、規模の大きい災害事故経済恐慌等が発生したときに行われるものが目立つが、そのような有事の際に行われるものだけを指しはしない。 なお、英語のスープキッチンは仮設と常設を問わないが、日本語における炊き出しはより狭義で用いられ、常設されたものは通常は該当しない。また、英語では、パンスープを求めて行列ができることから、その行列を指して "breadline"(ブレッドライン)、"soupline"(スープライン[1]などと呼ぶが、これらはスープキッチンそのものを指すこともある。

スープキッチン

16世紀末、イギリスでは没落した農民が都市に流入しスラム街を築くようになり、1701年にエリザベス救貧法が制定され、救貧院労役所)が設立された。救貧院の生活環境は劣悪で、食事はもっぱら何かのスープかだった。また、ブルジョアには近所の貧困者に施しをする社会的役割が求められ、ヴィクトリア朝の家政書には貧者に施すためのスープのレシピが記載されていた。

18世紀末、小麦の不作による貧困層の危機的な困窮対策として、警察裁判所判事であった社会改革者パトリック・コフーンはスープキッチン(炊き出し、あるいは無料食堂の意味)の設立を提案し、1804年の冬にはロンドン市内の各所で毎週5万人に対して施しのスープを供給した。ただし、教訓的な意味を込めて少額の料金を徴収した。以来、スープキッチンは21世紀の今日に至るまで世界中の災害や飢饉の現場、戦場などで設立されている[2]

日本の炊き出し

日本語炊き出しは、元々、火災震災水害などで住む家を失った人や、その事後処理に協力した人に対して、周囲の人が(米飯)を「炊いて出す」行為を指す語であるが、近年[いつ?]では様々な危機的状況下において飲食物を野外で提供する行為全般を指している。 ただし、防災研究の分野では、災害食の配布や個人やボランティアによる突発的な煮炊きと、組織的な給食支援(炊き出し)は別のフェイズと考えられている。例えば東日本大震災の場合、炊き出しの開始は災害発生から約1か月後に始まったとされている[3]

災害発生時においては、主に避難所に移動してきた住民に対して、また渋滞中の車両のドライバーや同乗者に、運行停止中の鉄道の乗客などに対して行われる。移動可能なコンロを用いて煮炊きした物を、その場で提供することも多い。

提供される食料品は、菓子パンおにぎりなど主食となるもの、コーヒージュースなどの飲料チョコレートなどの菓子類が無償で提供される。気温が低い状況下では温かい飲料(甘酒豚汁など)が提供される場合もある。

公職選挙法第139条では選挙期間中の飲食物の提供は禁じられているが、地方によっては選挙事務所で応援者に振る舞われる炊き出しが選挙戦の慣例となっている。

炊き出しの現場

21世紀

主に地元住民や地方自治体(食料品の提供は自治体、配布は住民という例もある)・更には被災地域の商店などにより行われるボランティア活動・陸上自衛隊野外炊具による大量炊き出しであるが、提供される側も心理的に追いつめられている場合も多いため、「当然の権利」と錯覚する場合もあり、炊き出しに協力する住民やボランティアまたは自衛隊員に冷たくあたる例もみられる。

地域コミュニティ(町内会など)への帰属意識の薄い人も増えていく中で、協力する地域・人が減少する傾向も見られる。炊き出し現場が混乱すれば、炊き出しを受けられない人が出る可能性もあり、警察官自警組織などによる治安の確保が必要になる場合もある。

また路上生活者に対しても行われ、日本では釜ヶ崎山谷等の労務者街で雑炊などがふるまわれることがある。日本国外でも失業者の多い地域では、温かいスープパン教会や宗教系ボランティア慈善団体、善意の個人などによって振舞われるケースが聞かれる。

意義

炊き出しで食物を摂取する事でストレスを和らげたりする事ができる。大規模災害では、このような活動により秩序の維持も期待される。ある程度は治安が回復していないと行われない活動であるが、特に温かい食事は精神的ダメージを軽減させる効果があり、相互扶助という形で地域コミュニティの回復も期待できる。

これらは被災地域周辺の人々や、被災地域そのものにいる人によって行われるケースも多い事から、公的な支援が行われるまでの繋ぎとして、人々の餓えや渇きに早急に対処する上で重要な活動でもある。

一般に公的支援は2~3日から一週間程度の遅れが見られる。この間は被災者自身の備蓄食糧などによって購う事が求められる。

例えば東海地震の予想される関東から南海地域でも、最低3日分の食糧備蓄する事が各家庭に求められている訳だが、住む家を焼け出されたりした場合には、折角の備蓄非常食・飲料水が失われる可能性も考えられる。これらの人を助けるためには、地域コミュニティの相互扶助が必要であろう。このため地域コミュニティへの関心の強い家庭では、3日分以上の食糧を常に用意して、この炊き出しに備える所もある。

相互扶助関係にある地域では、そうでない地域に比べ、人的被害は軽減されるとも考えられ、また実際問題として復興も早い傾向が見られる。サバイバル状況においても一般に複数の人が助け合う事で、生存確率が格段に向上、パニック暴動も抑制される事も考えれば、この炊き出し行為を含む相互扶助関係は、非常に有意義な活動といえよう。

なお、これを受ける側にも、それ相応の配慮が求められる。

脚注

  1. ^ Category:Soup line
  2. ^ ジャネット・クラークソン著 富永佐知子訳『スープの歴史』、原書房、2014年、pp63-84
  3. ^ 新潟大学 地域連携フードサイエンスセンター編『災害時における食とその備蓄』建帛社、2014年、pp.57-59

関連項目

  • 炊き出し実行者