漂泊の楽人

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漂泊の楽人
著者 内田康夫
ジャンル 小説
日本の旗 日本
言語 日本語
ページ数 318
コード ISBN 4198905126
ISBN 978-4198905125(文庫本)
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漂泊の楽人』(ひょうはくのがくじん)は内田康夫による長編推理小説。内田康夫執筆作としては第27作目となる浅見光彦シリーズ第11弾作品。

概要

いわゆる浅見光彦シリーズ作品の1つとして数えられる作品であるが、それまでに発刊され、また本作以降に執筆された作品とはパターンとして異なる点が多く、シリーズ内でも異色の作品とされる事がある。大まかなものとしては以下の通り。

  1. 宿敵組織の登場。本シリーズにおいて登場した詐欺組織である「保全投資協会」が初登場した作品であり、本作以降に執筆された数作品では同組織の残党と浅見との対決が描かれることから「浅見光彦シリーズ・対保全投資協会編」の初作として扱われる。
  2. 浅見の知人の死。本作は浅見光彦シリーズの初作『後鳥羽伝説殺人事件』以来となる浅見光彦の直接の知人に死亡被害が出た事件である。そのため浅見は普段の好奇心とは異質となる復讐心を剥き出しにして事件を追っており、通常のシリーズ作のような第3者視点では犯人を追っていない。
  3. 犯人の処遇。上記のように復讐心ゆえの事件解決の結果として浅見は情すらもにじませない完全なる断罪をもって犯人を直接捕らえて警察に突き出している。通常、浅見光彦シリーズにおける犯人の末路は事故や自殺による被疑者死亡の場合が多く、浅見自身も犯人の事情への情からこれを黙認している。しかし本作のケースにおける浅見光彦は復讐心ゆえに犯人に対して普段、彼が犯人に求める潔いケジメとしての贖罪ではなく、犯人から命以外の全てを(人間としての尊厳や誇りを)奪い去る惨めな贖罪を求めている。

出版履歴

あらすじ

沼津市在住のサラリーマン家庭・漆原家の娘である肇子に縁談が持ち込まれる。相手は銀行支店長のご令息。よい縁談と喜ぶ母だが、肇子の兄で目下失業中の宏は浮かぬ顔で思いつめ、妹に対してひとつの頼みごとをする。

「もしも俺が死んだなら、俺のワープロをある友人に渡し、それで、まず俺のフルネームを打ってもらってくれ」

なにを馬鹿なと笑う肇子だったが、見合いの数日後に宏は本当に駿河湾で遺体となって発見され、帰らぬ人となった。肇子は兄の遺言を果たすため、兄のワープロを持って兄がワープロを貰ってほしいと名指しした友人を訪ねて東京都北区西ヶ原へと向かう。

その友人の名は浅見光彦。兄とは大学時代の同期であり、ある事件を通して親友とも言える仲であった人物。その友人の死に浅見は大きなショックを受け、肇子と共に一連の事件へと立ち向かっていく。

登場人物

浅見光彦(あさみ みつひこ)
本作の主人公。本業はルポライターだが名探偵としての才覚を持っている。大学時代の友人である漆原宏から、彼の妹である肇子を通じ形見分けとして遺品のワープロを託されて事件に巻き込まれていく。大学卒業以降疎遠であった事から、当初は漆原の事を忘れていたが、肇子に応援団での事件を水向けされて即座に思い出した。と同時に、正義感の強かった漆原が踊らされて悪事に加担させられ、苦悩の挙句に殺されてしまった無念を想い、それを晴らすために今回は犯人逮捕と、その組織の壊滅に執念を燃やす。
漆原宏(うるしばら ひろし)
浅見の大学時代の同期生。半年前に勤めていた会社が倒産して無職となった。大学時代は応援団長であり、容貌魁偉・文武両道を地で行く人物だった。大学時代に学内で起きた連続窃盗事件に巻き込まれ、あわや冤罪に陥りそうになっていた所を浅見に助けられた過去を持つ。そのため浅見の探偵としての能力を知り、それに全幅の信頼を置いていた人物でもあった。実は、大学卒業後に証券業界へと就職を果たしたものの、紆余曲折を経た果てに半ば騙される形で詐欺集団である保全投資協会に入社してしまい「業務」の片棒を担ぐ羽目に陥り、その事を強く悔い苦悩していた事が明かされる。死後、自身のワープロと共に妹の今後を浅見に託す。
漆原肇子(うるしばら はつこ)
宏の妹。本作のヒロイン。兄の仕事に関しては何も知らないまま、保全投資協会を巡る謀略に知らず知らずのうちに巻き込まれる。浅見に対しては兄が全幅の信頼を置き「名探偵」として大きな評価をしていた人物でもあることから大きな信頼を置いている。
漆原睦子(うるしばら むつこ)
漆原兄妹の母。肇子の縁談に喜ぶも、息子の死に悲しみ、そして肇子が浅見の下へワープロを届けに行っている間に殺されてしまう。死の間際、肇子にダイイングメッセージとして「シシノハマダノコガ」という言葉を言い残して息絶える。
死後の遺品整理により新潟県西蒲原郡月潟村出身であることが明らかになる。旧姓は曾根。
矢野貴志(やの たかし)
肇子の見合い相手。中部銀行沼津支店長令息。東大卒を鼻にかけたマザコンエリートだが、兄と母を相次いで喪った肇子を心配して顔を出し様々な相談に乗ろうとする。
矢野隆一郎(やの りゅういちろう)
貴志の父。中部銀行沼津支店長。保全投資協会に対して莫大な融資を行っていた。
内海英光(うつみ ひでみつ)
保全投資協会の会長。融資を利用した巨額詐欺で全国指名手配されていたが、事後を自身の「5人の腹心」に託し、自身は自らの命を狙う者からその身を守るために自首する。
浜田徳光(はまだ とくみつ)
昭和21年新潟県中魚沼郡津南町外丸村にて亜炭炭坑の乗っ取りを企てた男。現地の採掘会社「外丸炭坑」にて採掘指揮監督者として勤務していたが、新規採掘された炭鉱区を会社から自身の名義に無断に書き換えて後に「浜田炭坑事件」と呼ばれる事件を引き起こした。前職は角兵衛獅子の舞手であり、その跡継ぎとなる少年を育てていたとも言われている。
豊野きせ子(とよの きせこ)
月潟村に現在も在住している睦子の小学校時代の同級生。肇子に睦子の月潟時代を教える。
曾根袈裟男(そね けさお)
物語時点では故人。睦子の父(漆原兄妹の祖父)で警察官だった人物。階級は巡査。月潟村および津南町にて、それぞれの村や町の駐在所に赴任し勤務していた。人徳ある警官とも言われているが戦時戦後の混乱の中で様々な良くない噂も流されてしまっている人物。
谷山元治(たにやま もとはる)
月潟村にやってきた肇子をつけ回す初老の男。月潟村出身。保全投資協会の幹部で内海秀光の「5人の腹心」の一人。
木村達男(きむら たつお)
宏が殺害され遺棄されていたボートの持ち主。時計店の主人。勝手にボートを使われたと憤るが、後に新たなる犠牲者となる。
松本婦人(まつもと - )
肇子の見合い話を持ってきたご近所様。
畑山警部(はたけやま - )
この事件を担当する捜査主任。静岡県警の警部
浅見陽一郎(あさみ よういちろう)
言わずと知れた光彦の兄。警察庁刑事局長。社会的被害が甚大となってしまった保全投資協会事件に対して国家の威信をかけ、その最高捜査責任者として異例の陣頭指揮を執る。その過程で光彦と一致協力して保全投資協会の完全壊滅へと動き、光彦に力を貸す。

関連作品

  • 城崎殺人事件
本作の後日談とも言える作品。浅見光彦が「保全投資協会の隠し財産」を巡る新たな謎を追うストーリー。
  • 浅見光彦殺人事件
この作品では『著者からのお願い』と題して「この本は『浅見光彦シリーズ』を3冊以上お読みになった方以外はお買いにならないでください」という注意書きが成されている。作品の結末において保全投資協会の存在がクローズアップされ浅見光彦自身を利用した大がかりなトリックが明かされる。

テレビドラマ

1989年版

浅見光彦ミステリー5・越後路殺人事件』は、日本テレビ系の2時間ドラマ火曜サスペンス劇場」(毎週火曜日21:03 - 22:52)で1989年1月10日に放送された。

キャスト

1998年版

浅見光彦シリーズ6・漂泊の楽人-越後・沼津殺人事件-』は、フジテレビ系の2時間ドラマ金曜エンタテイメント」(毎週金曜日21:00 - 22:52)で1998年7月17日に放送された。

キャスト
その他
  • 原作からの変更点として、「保全投資協会」は「総合経済研究所」という名前に変更されている。
  • 肇子の兄・宏が殺害される前、居酒屋で光彦と再会している。さらにそこで矢野貴志と偶然出会う。

2007年版

浅見光彦シリーズ24・漂泊の楽人』は、TBS系の2時間ドラマ月曜ゴールデン」(毎週月曜日21:00 - 22:54)で2007年10月15日に放送された。

キャスト
その他
  • 原作からの変更点として、「保全投資協会」は「東和ファンド」という名前に変更されている。
  • 刑事役で浅見光彦初の映像作品である『後鳥羽伝説殺人事件』の光彦役だった国広富之が出演。

関連項目