湾岸戦争症候群

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湾岸戦争症候群(わんがんせんそうしょうこうぐん:Gulf War Syndrome)とは、1991年湾岸戦争に従軍したアメリカ軍イギリス軍等の多国籍軍兵士に、集団的に発生したとされる脱毛症疲労感・痛み・記憶障害倦怠感関節痛などの一連の病状を総称したものである。また、帰還兵のみならず、出産異常や子供達の先天性障害の多発が報告されているとの説もあるが、原因の特定は現在に至るも出来ておらず、この症候群の存在そのものを疑う向きもある。

概要

黒煙を上げる重油

湾岸戦争終結後、帰還した米兵約70万人のうちの5000人から8万人が、症状に差はあるものの、疲労感・痛み・記憶障害倦怠感関節痛などの症状を発症した。また白血病、子供の先天性障害が多発したとの説もあるが、根拠となる明確なデータが明らかにはなっていない。原因としてイラクの生物・化学兵器や伝染病殺虫剤油田火災の黒煙などが挙げられていたものの、国防総省はイラクによる生物・化学兵器の使用を否定していた。しかし、その後の国連による調査で、イラク南部の兵器庫にサリンが貯蔵されていたことが判明した為、1996年に米兵が被曝した可能性を認めた。

だが、神経ガスの防御用に強制投与された試薬や生物兵器用の予防接種、油田の火災や大量の石油流出による大規模環境汚染、米軍が戦車の砲弾や装甲材に大量使用した劣化ウランによる放射線被爆など、他にも様々な原因が挙げられた。

が、しかしこれらの暴露はどれも原因や病気に結び付けるには無理があり(たとえば神経ガス対策に投与された薬は臭化ピリドスチグミンという重症筋無力症の治療薬であり、この薬を投与された人で同様の症状が起こっているという報告はない。他の説も同じである)、疫学調査は暴露集団において原因となる物質への明確な暴露も、これらの人々の間における死亡率の増加も見出していない。

また症状が上記のように、注意力低下や記憶障害不眠頭痛等の客観的に判断しにくいものが大半を占め研究を難しくしている。

主な症状

  • 記憶力、論理的思考力、集中力、注意力の低下
  • 不眠
  • うつ状態
  • 疲労感
  • 頭痛など

この他にもめまいや筋肉疲労、勃起障害などが挙げられる。 ただし、こういった症状はベトナム戦争からの帰還兵にもみられた症状であり、やはり湾岸戦争のケースにのみ特質すべきことではない。

第二の湾岸戦争症候群

2003年イラク戦争終戦後も、湾岸戦争症候群と類似した症状を訴える帰還兵が現れた。アメリカ政府は2009年外傷性脳損傷の診断基準を変更。アフガニスタンでの被害も含め2001年から2009年10月まで約14万人が受傷したとの結果を出している[1]

原因の一つとされた30mm口径の劣化ウラン弾

また、現地のイラク人にも白血病、子供の先天性障害が増加し、第二の湾岸戦争症候群ではないかとされた。原因としてアメリカ軍が使用した劣化ウラン弾が挙げられたが、こちらのケースも特定は難しく、直接的な原因の解明はなされていない。

脚注

  1. ^ “米兵:外傷性脳損傷14万人 アフガン、イラク派遣の7%”. 毎日新聞. (2010年2月3日). http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20100203k0000m030130000c.html 

関連項目