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海氷 氷は水よりも密度が低いため、内部に水を残したまま、表面から氷結する。
滝が凍結したもの(シビレ山不動滝)。

(冰、こおり)とは、固体の状態にあるのこと。

なお、天文学では宇宙空間に存在する一酸化炭素二酸化炭素メタンなど水以外の低分子物質の固体をも氷(誤解を避けるためには「○○の氷」)と呼ぶこともある。また惑星科学では、天王星海王星の内部に存在する高温高密度の水やアンモニアの液体のことを氷と呼ぶ事がある。さらに日常語でも、固体の二酸化炭素をドライアイスと呼ぶ。しかしこの記事では、水の固体を扱う。

氷の特徴

熱い氷 図は縦軸に温度(摂氏と絶対温度)、横軸に圧力 (GPa) を取った。1 GPa は大気圧の1万倍である。例えば、10 GPa では数百度という高温の氷VIIが存在することが読み取れる。
結晶
無色透明で六方晶系結晶を持つ。融点は通常の気圧摂氏0度。ただし、圧力を変えることで相変化を起こし、結晶構造や物理的性質に差がある、さまざまな高圧相氷になることが知られている。この場合、我々が普段目にする「普通の」氷は「氷I」と呼ばれる。現在のところ、圧力が高い状態において氷IIから氷XV(15) [1]まで発見されている。特に、きわめて高い圧力下では、水素結合が縮んで水分子の配列が変わる。このように様々なが存在することを多形という。
氷は特異的に凝固熱、融解熱が大きい。例えば融解するときに、潜熱として1キログラムあたり約 80 kcal (333.5 kJ) のを周囲から奪う。これは同量の水を0℃から80℃まで温めることができるほどの熱量である。雪を食べると体力を消耗するとして、寒地では(特に遭難時)禁忌とされている。また、氷は圧力により界面が融解する性質がある。これは後述する通り、氷が水に比べて密度が低い事に由来する。スケートスキーカーリングそりなどはこれらの性質を活かしている。
体積
通常気圧において凍る際は体積が約11分の1増加する。すなわち、比重が0.9168 と小さくなり、水に浮く。物質は温度が低くなるほど分子の振動が小さくなるため、通常であれば温度が低くなるほど密度は大きくなり、従って気相よりも液相、液相よりも固相のほうが密度が大きい。このように固相の方が液相よりも密度が低い物質は非常に珍しい。これは液相の水分子が水素結合で強固に結びついており、固相の場合よりも分子間の距離が小さい事が原因である。また、密閉された状態で凍ると周囲の物質を押し出し、時に破壊する。例えば岩の隙間に水が入り込んで氷になると、岩を破壊する。冬季の寒冷地では水道管の破裂を防ぐため、夜間は水抜栓を用いて水を冷気の及ばない地中に落とし、凍結を防ぐ。清涼飲料水類の缶にも「凍らせないでください」という注意書きが書かれている。
不純物
液体が固体になるとき、溶解している物質は結晶構造に加わらずに濃縮される。冷蔵庫などで氷を作ると、内部に白く気泡が残されるのはこのためで、気泡中には、溶けていた空気二酸化炭素やその他不純物)が閉じ込められている。一方、透明な部分は不純物が少ない、純度が高い水になっている。透明な氷を作るためには、なるべく純粋な水をゆっくり凍らせる必要がある。一般に、一度煮沸して気体を追い出したり、大部分が凍結した段階で不純物が集まった水の部分を捨てるなどの方法が取られる(濃縮された方に用がある場合は、凍結濃縮法と呼ばれる)。

氷の製造

1748年、手回し式の減圧装置を用いることによるジエチルエテールの気化熱を利用した製氷をスコットランドのウィリアム・カレンが行ったのが人造氷のはじまりとされる[2][3]

1834年には、エーテルを利用したコンプレッサー式製氷機の特許がアメリカのジェイコブ・パーキンスによって取られている[2][3]

日本では、明治以降に外国人居留地で小規模な製氷が行われるようになり、1883年明治16年)東京製氷株式会社が設立されている(当初の製氷能力は、一日当たり6t)。

氷の利用

近世以前、人為的に冷却効果を得る技術が登場するまでは、氷自身が唯一の冷却材であったため、冬季に、または寒冷地にて得られた氷を、なるべく融かさないように運搬し、保管する努力が様々に講じられた。

保管方法としては、地下や洞窟の奥などに空間を作り、なるべく大量の氷を置いて冷却効果を得ようとするものが多く、日本ではこれを氷室(ひむろ)などと呼んだ。断熱効果を得るため、オガクズなども用いられた。

昨今では、に降った大量の氷雪を保管しておいて夏期の冷房に利用しようとする試みや、気温が低く電力需要も少ない(そのため電力料金も安くなる)夜間に製氷しておき、昼間の冷房に役立てようとするサービスなどが普及しつつある。

食用

冷却用

  • 冷蔵庫 - 初期の冷蔵庫は、単に断熱性のある筐体の天井部分に巨大な氷を詰めて冷やすだけのものであった。現在のアイスボックスに近く、定期的に氷屋から氷を届けてもらう必要があった。現在においても電気冷蔵庫に保存した場合、食材によっては特有の臭いがつく場合あり、氷冷蔵庫が用いられる例もある。
  • 生鮮食品の鮮度維持 - 生鮮食品(特に魚介類)を輸送する際、梱包に砕いた氷を充填する。沿岸漁業では、漁船は船倉に砕いた氷を積んで出航するため、大きな漁港では岸壁に氷を送るコンベヤダクトが備えられている。
  • 人体の冷却 - 発熱時等に氷枕(氷嚢)として冷却を行なう。
  • アイシング

その他

自然界の氷

蔵王連峰の樹氷(山形県)
滝の水滴が凍結して様々な造形を形作ることがある。

大気中

横に伸びた氷柱(北海道)

地上

海上

地球外

氷の販売

日本において、冬を除いて冷たい飲み物が飲めるようになるのは、明治になってからになる。中川嘉兵衛という実業家が、明治四年函館で初めて天然氷の採氷事業に成功したときにはじまる。 嘉兵衛はまず、富士山の山麓に五百坪の採氷池を掘り、そこから約二千個の天然氷を得ることに成功する。しかしこの氷は、江尻港(静岡市)までの八里(約三一キロ)は馬で、その後は帆船を借りて一般貨物の二倍の運賃で横浜まで運んだものの、横浜到着時にはすべて溶けて水になってしまっていた。この後二年間休業したのち、諏訪湖、日光、釜山、青森からと、毎年場所を変えて氷を採り、横浜へと運搬したがいずれも失敗に終わった。しかし、嘉兵衛はあきらめることなく、函館に渡り、六回目の採氷に挑戦した。この年は温暖であったため、僅かな氷しか採れず、二五〇トンの氷を横浜に輸送することが出来たものの、採算は取れなかった。しかしこれに手ごたえを感じ、明治二年、函館の五稜郭の外濠を借り受け、亀田川の水を引き入れて七回目の採氷を行った。この七度目の挑戦にしてやっと事業が成功。明治5(一八七二)年の『新聞雑誌』には、「製氷界の恩人――中川嘉兵衛」の見出しで、

昨夏横浜の氷会社より氷を売り出し、其価甚だ安く衆人の賞美大方ナラズ。(中略)文政天保の際に、奢侈を極めし貴人富豪と誰も知らざる所の一味を、一貧生にして飽まで消受すること、明代の余沢ならずや。

と述べられ、その事業が称賛されているこれまで簡単に手に入れられなかった夏場の氷が、安く手に入るようになり、人々が夏場に冷たいものにふれる始まりになった。また明治七(一八七四)年の『東京日日新聞』においても、函館の天然氷採取が取り上げられ、功績が称賛されている。

氷の世に大功ある事は、第一熱病には必要の薬品にて、氷室アリシ以来、炎症を助けしこと少なからず。第二暑中人意を快くし、第三我国の一産物を開けり 製氷事業は病人の熱さましとして、また暑い夏の飲食用として、人々に歓迎された。


1980年代から1990年代にかけて飲食店で業務用の自動製氷機が普及したため食用氷純氷を扱う業者は販売不振に陥っていた[4]。しかし、2013年コンビニエンスストアのひき立てコーヒーが登場したことによって再び食用氷の需要が上昇している[4]。 近年のかき氷ブームによる需要でふわふわ感が楽しめる氷として、またウイスキーをオンザロックで飲む際に用いられる高品質でほとんど無味無臭の氷として製氷工場で作られた純氷が求められるようになってきた。

参考文献

  1. ^ Salzmann, C. G., Radaelli, P., Mayer, E. & Finney, J. (2009). “Ice XV: A New Thermodynamically Stable Phase of Ice”. Phys. Rev. Lett. 103: 105701. doi:10.1103/PhysRevLett.103.105701. 
  2. ^ a b 製氷機を発明した人を動かした、熱い意志”. WIRED Japan. 2016年2月5日閲覧。
  3. ^ a b 溶けゆく氷を使っていた大正・昭和の冷蔵庫 変わるキッチン(第15回)~冷やす(後篇)”. 2016年2月5日閲覧。
  4. ^ a b “コンビニ「氷特需」 コーヒー用カップ入り増産、札幌の工場フル稼働”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (2014年8月7日). http://www.hokkaido-np.co.jp/news/sapporo/555554.html 


関連項目

外部リンク