気象

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サイクロン(熱帯低気圧)
竜巻
宇宙から見た地球。大気中では様々な気象現象が発生している。

気象(きしょう)とは、気温気圧の変化などの、大気の状態のこと。また、その結果現れるなどの現象のこと。広い意味においては大気の中で生じる様々な現象全般を指し、小さな旋風から偏西風のような大気の大循環まで幅広いスケールの現象を含む。

学術的に「気象現象」は、地球を取り巻く諸現象(地球科学的現象)のうち、大気中において空気や水などの流れ(循環)によって生じる物理現象を指し、大気圏外で起こる現象は「天文現象」、地面や地中で起こる現象は「地質現象」として区別される。ただし、同じ大気中の物理現象であっても、地理的な観点から「ある土地固有の気象現象」として捉えた場合は「天候」「気候」と呼び、別の意味をもつ。

しばしば「天気(weather)」と同義に用いられるが、厳密な意味は若干異なる。「気象(meteorological phenomena)」は気象学が扱う現象全般を指すが、「天気」は晴れや雨などの大気の状態のみを形容するものである。ちなみに、日本の気象業務法では、「気象」を「大気(電離層を除く。)の諸現象」と定義している(気象業務法2条1項)。

これらの気象とその仕組みを研究する学問が気象学である。また、これから起こるであろう気象の予測を行うことを気象予報や気象予測と言うが、一般的には天気予報の語が使われる。

気象の仕組み

地球の大気は地表から高度約100km程度までで、この層内には地球の重力に捉えられた気体が存在している。最も外側の熱圏(高度80 - 800km)では大気分子が低圧・低密度の環境下で電離していて気象現象と呼べるようなものはほとんど生じていない(このような高高度の気象は高い観測技術を要するため、まだ解明されていない部分もある)。地表に近付くほど大気の分子密度(気圧)が高くなり、気象現象らしいものが現れてくる。ほとんどの気象現象は、極付近では約6km以下、赤道付近では約11km以下の対流圏内で起こる。濃い大気が覆う対流圏内では、地表や海面が太陽の光(太陽放射)を受けて熱せられたり、の運搬を伴って状態変化を起こしたりして、の移動を軸として気象現象が発生する。また気圧は低いが成層圏下層でも非常に速い西風の循環があるほか、そのほかの大気圏内でも気象現象がいくつもある。

地球上に起こるほとんど全ての気象現象は、太陽の活動により地球に供給されるエネルギーに由来している。もしも太陽の活動が無ければ供給が途絶え、逆に宇宙空間に放出され続けて次第に寒冷化していく事になる。常時太陽から受けるエネルギーとそれを適度に保持する温室効果によって、地球表面温度は全平均15℃で平衡している(詳しくは地球のエネルギー収支を参照)。太陽活動によって供給されるは、緯度地形季節時間などによって異なるため、温度差・密度差が生じて、これを解消しようとする働きによって乱れが発生する。雨や風などの気象の根本的な原因はこの乱れであり、気象学においてはこれを擾乱(じょうらん)(気象擾乱)とよび、「大気の定常状態からの乱れ」と定義している。

例えば、夏の暑い日に山の斜面が暖められたとする(山の斜面は平野よりも日射に対して直角に近いため、暖まりやすい)。するとそこの地面や地面に近い大気が暖められ、体積が増えて上昇し、暖められた大気があった場所は気圧が下がる。これが典型的な擾乱である。気圧が下がると圧力勾配が生じて周囲から大気が集まり、その空気が同様に暖められて空気をどんどん押し上げていき、上昇気流をつくる。湿度の高い空気であれば、上昇によって膨張しながら温度が下がり、やがて露点温度を超えてを生じる。水蒸気が凝結する時に潜熱が放出されるので、その空気はさらに暖まって上昇を続ける。

擾乱を引き起こす要因は無数にあるため、カオス理論で定義されるように科学的に予測できないような効果(この極端な例がバタフライ効果)をもたらし、連鎖を起こしたり周囲に影響を与えたりする。擾乱は自身の力で成長していく働きがある一方で、偏った状態から定常状態に戻ろうとする働きもあるため、最終的には乱れが元に戻ることになるが、平衡は長く続かず次の擾乱の発生へと移行していく。これら一連の過程で引き起こされる現象が気象である。

以上のように複雑な仕組みによって気象現象は発生するが、それぞれの現象の発生・経過・消滅はおおむね物理学における原則(例:気圧傾度力熱力学第二法則など)に従っている。この原則を基に気象現象の仕組みを解明する学問が気象学である。

気象に影響を与えるもの

地球の大気の中の様々な物理現象が相互に作用して気象現象が発生する。ここでは主要なものを挙げる。

以下は大気に対して作用する外的要因である。

天体・天文学的要因
地表の状態
  • の反射率(アルベド)や比熱(比熱容量)。地表の状態によってアルベドが異なるため、同じ量の太陽エネルギーを受けても熱に変換される割合が異なる。アルベドが低いほど温度が高くなり、その地面に接する大気の気温も高くなる。アルベドが低い順に、(海面や湖面)、森林草原サバナ、乾燥砂漠氷床)、となり、後者ほど光を多く反射する。同じ土壌であっても、湿っているものはアルベドが低い。また、物質によって比熱が異なるため、同じ熱量を受けても暖まりやすいものと暖まりにくいもの(同様に冷えやすいものと冷えにくいものも)がある。湿った地面や海洋は比熱が大きく、乾燥した地面やコンクリート金属構造物は比熱が小さい。
  • 地形。起伏のある地形は風の流れを変え、風上側の峰で雲を生じさせる一方で風下側の峰では晴れる(雨蔭フェーン現象)。また、草原砂漠などの平坦な地形と鬱蒼と木々の生い茂った森林とでも風の吹き方が異なる。都市の建物による風への作用や排熱(ヒートアイランド現象)も無視できない。

以下は大気が自身に対して作用する内的要因である。

大気の状態
  • 温室効果。大気の成分によって温室効果係数が異なるため、大気中で蓄えられる熱量が異なる。六フッ化硫黄亜酸化窒素は温室効果係数が高いほか、地球に豊富に存在し得る二酸化炭素メタンの量も温室効果を大きく左右する。温室効果が大きいほど気温は高い。
  • 日傘効果火山灰や砂ぼこりなどの大気エアロゾル粒子が多いほど日傘効果が高まるため、太陽光の反射率が大きい。地表に対しては冷却作用があるが、粉塵濃度の高い大気に対しては加熱作用がある。
  • 水循環水蒸気蒸発降水積雪等のプロセスを経ながら大量の熱の移動に関与している。蒸発が多い地域では地表から大気へと大量の熱が運搬される。雲の状態によってアルベドが変化する効果もあり、雲の厚さ密度が小さいほどアルベドが低い。
  • 大気循環。大気自体の移動によって大量の熱が運ばれている。大局的には、赤道を中心とした低緯度から極を中心とした高緯度の方向へと運搬されており、偏西風等の強い気流がそれを担っている。気流の流路が変化することで、暖かくなったり寒くなったりと天候のパターンが変化する。
  • 気団温度湿度が異なる、気団と呼ばれる空気の塊があり、どの気団に覆われているかによって地上の気象が異なる。気団の境界面には前線低気圧などが発生しやすく、気団のぶつかり合いは風雨を発生させる原動力となる。

気象と地球・人類

気象がもたらすもの

岩石浸食したり、風化を促進するなど、気象が自然の地形にもたらす効果は、地殻変動海洋による効果と並んで大きなものである。V字谷は河川の浸食、カールU字谷は氷河の浸食による典型的な谷である。河成平野は主に河川による堆積作用によってできた平野である。また大量の雨は、土砂崩れ地滑り土石流などの土砂災害洪水も引き起こす。一方で、鍾乳洞石灰岩の浸食によるカルスト地形など、美しい景観に寄与する面もある。雨は様々な経路を経て、地下水から井戸により汲みあげたり、河川から取水し水道網を経たりして、生活産業活動にも使われる重要な役割を持つ。

気象と人類

気象が人類の歴史に大きな影響を及ぼした例もある。1281年弘安の役において神風と呼ばれる嵐が軍の撤退に拍車をかけたことは日本では広く知られている。グリーンランドバイキングの植民地が全滅した小氷期、冷害や大雨により発生した天明の大飢饉、高潮と大雨によってニューオーリンズが水没したハリケーン・カトリーナなど、異常気象と呼ばれるような災害も歴史上で多く発生している。

気象の予測

詳細は天気予報を参照。

人間活動において、気象は生活に深く関わるため、天気予報と呼ばれる気象の予測は太古の昔から行われてきた。観天望気と呼ばれるような、自然現象などから気象を予測することは最も古くから行われている気象予測である。「朝焼けがあれば雨が降る」などの地域に根付いた伝承はその予報のために考え出された法則だといえる。長い間観天望気による予測が行われたが、物理学などの諸科学の発展により、ヨーロッパにおいては中世ごろから気象現象を科学的に解明することが始まった。19世紀電報が発明されてから遠距離間で気象情報を伝達できるようになったことをきっかけに、本格的な科学的予測が始まった。20世紀初頭に数値予報と呼ばれる気象観測結果を基にした計算法が考え出され、1970年代の高性能コンピュータの普及によって大量計算が可能になってからは大きく科学的予測が発展した。また1960年代に登場した気象衛星は気象観測の幅を広げ、精密機械や通信機器の開発に伴って気象観測の自動化・無人化も進んでいる。

気象の制御

近年、科学の力によって人工的に雨を降らせたり、台風(熱帯低気圧)を弱らせたりといった気象制御の試みがいくつか実行された。しかし、現在の技術ではいずれも明確な成功には至っておらず、技術が発展した未来でなければ制御は不可能だとされている。

サイエンス・フィクションの世界では、火星などの惑星をテラフォーミングして人間が生活できる環境を作るという話もあるが、これも遠い未来の技術でしか不可能だとされる。

気象要素

気象要素を観測する自動気象観測所(AWS)

気象を定量的に評価するものさしとして、いくつかの気象要素がある。

  • 天気 - 地上から見た大気の状態。
    • 晴れや雨などの典型的なもののほかに、降水や雷の程度、雲や砂塵の状態などの要素があり、その組み合わせにより表現される。
    • 雲量 - 全天に占める雲の割合。日本では十分率、国際的には八分率で表される。
    • 雲形 - 雲の形状。積雲層雲などの基本的な十種雲形のほか、副種や変種がある。気象通報式では上層・中層・下層それぞれ10のパターンが定義されており、それに当てはめて報告する。
  • 視程 - 大気の見通しの程度。降水や霧、砂塵嵐、吹雪などによって低下する。航空の分野では重要視される。
    • 最小視程、卓越視程などがある。
  • 日照 - 日光の照射。120W/m2以上の直達日射があるものを「日照がある」と定義している。
    • 日照時間 - 一定時間当たりに日照があった時間。
    • 日射量 - 日照によって受けた光の量。
  • 気圧 - 大気の圧力。
    • 計測地点によって、地上気圧(現地気圧)、海上気圧、上空気圧などに分類される。
    • 気圧の分布によって気圧配置が決まる。
      • 高気圧低気圧 - 気圧が周囲とは異なる、大規模な空気の塊。周囲との相対的な気圧の差(周りより気圧が高いか低いか)によって定義される。地上天気図上では等圧線、高層天気図上では等高度線によって示される。
  • 気温 - 大気の温度。
    • 一定の期間内の気温のデータから、最高気温、最低気温、平均気温などが算出される。
  • 湿度 - 大気中の水蒸気量。一般的には相対湿度露点温度を用いて表す。鉛直大気中の水の総量は可降水量によって表される。
  • - 気圧差によって起こる大気の流れ。
    • 風向風速の2つの要素がある。風速の代わりに風力を用いることもある。
    • 大気力学の計算上、風向風速は南北・東西の水平方向に加えて、鉛直方向の3方向に分解して表現される。回転性のある気流は渦度により表現される。
  • 降水 - 様々な形で降る水。
    • 降水量 - 降った水の量。雪の場合は降雪量とも言う。
    • 積雪量 - 積もった雪の量。
  • 海水温 - 海水の温度。海洋における気温と相関関係があるため気温の算出に用いられるほか、対流活動の推測にも重要な指標。

様々な気象

気象現象

天気
降水現象
凝結凍結着氷現象
視程障害現象

雲形 : 積雲積乱雲層雲層積雲高積雲高層雲乱層雲巻雲巻層雲巻積雲

大気光学現象
季節現象
その他
  • 気団 - 寒冷、乾燥などそれぞれ異なる性質を持った空気の塊(高気圧)。
  • 前線 - 気団の境界に生じる気温差の大きい部分。温帯低気圧の発生と密接に関わっている。湿度差によって生じる乾燥線というものもある。

気象現象に密接に関連する現象

気象に関する概念

その他の気象の分類法

気温や気圧など以外の、いわゆる典型的な気象現象(大気現象)は、大まかに4つに分類することがある[1][2]

  • 大気水象(たいきすいしょう, hydrometeor) - 主にからなる水滴やの粒が、落下浮遊上昇付着相転移などをする現象。
  • 大気塵象(たいきじんしょう, lithometeor) - 主に砂塵やその他の微粒子などからなる粒子が、落下、浮遊、上昇、付着などをする現象。
  • 大気光象(たいきこうしょう, photometeor) - 大気中で観測される、光学的な現象。
  • 大気電気象(たいきでんきしょう, electrometeor) - 大気中で観測される、電気的(電磁気学的)な現象。

分類名のアルファベット表記は、ギリシャ語のmeteor(大気現象)と各現象の種類を示す語をあわせたもの。大気光象以外の分類名はあまり用いられない。

また、マイクロスケール、メソスケール、総観スケール、マクロスケール、惑星スケールといった、気象のスケール(規模)による分類もよく用いられる。気象現象のスケールを参照。

気象観測と気象統計

東京の雨温図

気温や湿度などの様々な気象要素を観測してデータ化し、統計としてまとめることは、気象予報や気象学において、さらには各地の気候を知る上でも重要なことである。

平年値とは、数十年間のデータを平均して算出される過去の気象の傾向を示す値である。極値とは、観測開始から継続して観測を行ってきた上で最も平均から外れた値である。平年値は気候を知る上で重要であり、極値はその観測地点の気象がどの程度の範囲で変動するかを知る上で重要なものである。

の開花などは、気象に関連が深いことから季節現象として観測され、統計が取られる。季節現象のうち、生物に関するものは生物季節とも呼ばれる。ここでは、主な季節現象を挙げる。

  • 春一番
  • (ソメイヨシノ)の開花、満開
  • 梅雨入り、梅雨明け
  • 霜の初日(初霜)、終日
  • 結氷の初日(初氷)、終日
  • 初冠雪
  • 流氷の初日、終日
  • 雪の初日(初雪)、終日
  • 夏日、真夏日、冬日、真冬日など

統計としてまとめられた値は、様々な表や図・グラフに表され、気象予報や気象学研究に使用されている。ここでは、その主なものを挙げる。

気候

詳細は気候を参照。

地上から見た気象やその他の自然現象の特徴や傾向のことを気候と呼ぶ。気象が主に現象や状態を視点としたものであるのに対して、気候はある地域での現象や状態の傾向である。地域により様々な気候があり、気候の区分としてはケッペンの気候区分が広く使われる。

地球以外の気象

火星の塵旋風、火星探査機スピリット撮影

地球以外の天体でも、大気がある天体には気象現象が発生する。

土星の衛星であるタイタン窒素メタンの大気からなり、メタンの雨らしきものが降っていることがカッシーニの探査から分かっている。また、金星二酸化硫黄の雲から硫酸の雨が降り、上空では秒速100mもの風が吹いていることが分かっている。火星の極地では大規模な二酸化炭素の昇華によって時速400kmもの風が吹いていることも分かっている。

木星では、大赤斑と呼ばれる高気圧の渦があり、長期的に安定して存在する大気の循環によってできたのではないかと考えられている。これに対して海王星では大暗斑と呼ばれるものがあるが、こちらは短期間で消滅するものしか観測されていない。

出版物

脚注

  1. ^ 地上気象観測 福岡管区気象台
  2. ^ 地上気象観測 金沢地方気象台

関連項目

外部リンク

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